進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

◼︎ネタバレ注意
今回の話は、リヴァイのスピンオフ作品【進撃の巨人〜悔いなき選択〜】をベースにしております。
原作・OVAをご覧になっていない方にとって、ネタバレとなる内容も含まれておりますので、ご了承ください。

※この辺から原作に絡んでいくため、各話ちょい長めになります。ご容赦ください。

↓それでは、本編へどうぞ↓




#14 出会い③:リヴァイ

 

 

___調査兵団本部、執務室にて。

 

 

()()()()……ですか?」

 

「そうだ。先日、地下街の盗賊たちと接触した。どこから盗んだのか、彼らは狭い地下街を立体機動で飛び回っていたのだ。明日からは、リヴァイを筆頭にその盗賊団から引き抜いた3名が調査兵団に加わる」

 

 

それを聞いたカイルは泡を喰ったような表情でエルヴィンに問いかける。

 

 

「い、いつのまにそんな計画を……“地下街”って、あの王都ミットラスの市街地にある地下街のことですか!?」

 

「あぁ、この辺りで地下街と言えばそこだ」

 

「盗賊たちと接触したって……まさか分隊長!ご自身で出向かれたのですか!?」

 

「あぁ、ミケの班を引き連れてな。そこで彼らと取引した。地下街での罪を不問とする代わりに、調査兵団で奉仕するようにと」

 

「そんな危険を犯してまで……スカウトのためとはいえ、地下街は危険すぎます!少しはご自身の身も案じて…」

 

「今回は()()()スカウトではない。ロヴォフの件が関与しているのだ」

 

「!?……先日おっしゃっていた、議員のニコラス・ロヴォフですね。闇商売に堕ちたあの()()()()()と癒着があるという……俺が駆り出されなかった理由(わけ)はそれですか」

 

「その通りだ」

 

「では、今回の壁外調査が可決に動いたのも……これまで壁外調査の中止を強く唱えていたロヴォフが分隊長の術中にまんまと(はま)ったということですか?」

 

「そうだ。彼らを調査兵団に引き入れたのは、ロヴォフの策を()()()()()()()だ。情報源によるとロヴォフは、私を狙っている。そしておそらく、その“駒”としてリヴァイたちを遣うだろう……しかし、すでにこちらは敵の尻尾を掴んでいる。手は打ってあるが、敢えてリヴァイたちを泳がせておくことで敵の油断を誘い、作戦の成功をより強固なものにしたい。リヴァイたち新兵の管理はフラゴン分隊長に一任することになったが、いつ私や()()()()を狙ってくるかわからない……そこで、君たち3人には奴らが手を出せぬよう十分に目を光らせておいて貰いたいのだ。今日、呼び出した理由はそれだ」

 

 

エルヴィンの話を静かに聞いていた3人だったが、リスクの高い策略に不安を覚えたハンジが疑問を投げかける。

 

 

「もちろんそれが作戦であれば従うつもりですが……泳がせておくためとはいえ、それ相応の得がないと調査兵団(こちら)へ引き入れるリスクの方がはるかにデカい……その3名の実力は、それを天秤にかけてもうちに得があるとお考えで?」

 

「その通りだ。3名とも地下街の密集した建物の隙間を縦横無尽に飛び回っていた。特に、リーダーのリヴァイは調査兵団の実力者たちをも凌ぐ身のこなしだった。そして、おそらく頭も切れる。彼らを懐柔できれば、君たちと同じように、この組織における()()()()()()()()()()になると私は確信している」

 

「スン…」

 

 

エルヴィンの意見に賛同するようにミケも鼻息を立てた。

 

それを聞いたハンジもやれやれといった様子で納得する。

 

 

「あなたとミケがそこまで言うのなら、信じましょう……そうとなれば、奴らが集団の中で下手な真似ができないよう私とミケで上手く立ち回ります。それからカイル、君は特に目が良いから“監視役”だ。いいね?」

 

「……はい」

 

 

カイルは少し不服そうな顔で返事をすると、エルヴィンに目を向け直し、声色を低めて最悪の想定を確認する。

 

 

「分隊長……もし奴らが本気で貴方の命を狙ってきた場合は、こちらも()()()()()()()()。それでよろしいですか?」

 

「やむを得ない場合であれば、だ。最終的な判断は私が下そう」

 

「しかし!それではっ…」

 

「カイル、聞いてくれ。正義感の強い君たちに、こんな頼み事は酷かもしれないが……多少の“不祥事”には目を瞑ってほしい。なるべく泳がせておきたいからだ。政治的な駆け引きに巻き込んでしまってすまないが、この重要な任務は()()()()()()()()君たちにしか頼めない」

 

 

そう言ってエルヴィンは真剣な眼差しでカイルを見つめた。

 

これにはカイルも折れるしかなかった。

 

 

「…わかりました。そこまでおっしゃるのなら……貴方の判断を信じます」

 

「無理を言ってすまない……私からは以上だ。それでは、明日からよろしく頼む」

 

「はい。それでは…失礼します」

 

……バタン。

 

 

 

**

 

 

 

エルヴィンの部屋を出た3人は、幹部棟の廊下をまっすぐ進んでいた。

 

ハンジとミケが横並びで歩き、その一歩二歩先をカイルが歩いている。

 

いつにも増して歩の進みが早いカイルの様子が気になったハンジは、心配そうに声をかける。

 

 

「カイル? 君がそんなにいじけるなんて珍しいじゃないか……エルヴィンさんの無茶ぶりはいつものことだろ?」

 

「……い…です…」

 

「え、なんて?」

 

「…リヴァイって人はズルいです。エルヴィンさんに()()()()()言わせるなんて……兵団一の実力者であるミケさんならまだしも、見ず知らずの浮浪者なのに……正直、羨ましいです」

 

「羨ましいんかいっ!まったく、カイルはやきもち焼きなんだからぁ~……心配しなくても、あの人の寵愛を一番に受けているのは君だよ? 調査兵団の皆が口を揃えてそう言うさ……ねっ、ミケもなんとか言ってやって!」

 

「…気に病む必要はない。お前は、()()()()()()()一番の実力者だ」

 

「そうだよぉ? こんなムサい男たちと比べちゃダメだ。君はもっと自分に自信を……ん?……あっ、こら!ミケ!!」

 

「ん?……あ…」

 

 

ミケが口を滑らせたことに気づいたときには、既にカイルが驚いた表情で此方を振り返っていた。

 

 

「…ミケさん。俺の()()、知ってたんですか?」

 

「スン……ま、まぁな…」

 

「一体、いつから…」

 

 

すると、ハンジが誤魔化すように口を挟む。

 

 

「ま、まぁ!これも()()()()()()()()()()()さ!君の正体が兵団内にバレないよう、ミケにも協力を頼んでいたとう言うかなんというか……なぁ!ミケ!?」

 

「スンっ!」

 

「そうだったんですね。ミケさんにも知ってもらえていたとは……純粋に嬉しいです。俺にとってミケさんは、()()()()のような存在なので…」

 

 

兄のようだと言われたことが嬉しかったのか、ミケは照れ隠しするようにカイルの頭をぽんっと叩いた。

 

そんなミケの反応にカイルも少し照れていると、今度はハンジがそれを羨む。

 

 

「え。ミケずるい!……ねね、私は!?カイルのお姉さんかなぁ〜?」

 

「ハンジさんは、俺にとって…」

 

「うんうん?」

 

「俺にとって……()()()です」

 

「ひどい!!私もシャルマンファミリーに入れてくれよぉ!?」

 

「ははっ、考えときます。……あっ!そういえば、ベッツさんから馬の蹄鉄替えの準備を手伝うよう言われてたんでした。俺、先行きます!」

 

 

突然、用事を思い出したカイルは2人に手を振ると、馬小屋に向かって小走りで駆けて行ってしまった。

 

 

 

カイルの姿が見えなくなると、眼鏡を曇らせたハンジがミケに話しかける。

 

 

「はは、まったく……()()()()は言わずもがなって感じだね」

 

「スン」

 

「ね、あの子のこと……どう思う?」

 

「スン?」

 

「いやいや、君がじゃなくてだね……文脈から察してくれよ?あの子のエルヴィンさんに対する『揺るぎのない忠誠心』のことだよ。あれほどの熱情がどこから湧いてくるのか…」

 

「スン…」

 

「そりゃあ、私も思慕のような特別な感情があるとまでは思ってないけど……時折、あの2人には、他の介入を許さないほどの深い絆があるように思えるんだ」

 

「スン!」

 

「え? 考えすぎだって?……うん、確かに余計なお世話かもしれない。でも、あの子が心配なんだ。もしもこの先、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……あの子は一体どうなっちゃうんだろう……ってね」

 

ハンジはそんな不安を吐露しながら、窓の下でベッツと並んで馬を牽くカイルの背中を切ない目で追いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌日。

 

 

いつも通り訓練を終えた兵士たちが教壇前に集合すると、壇上に立つキースによって新たに調査兵団へ加わる3名の紹介がなされた。

 

 

「全員注目!!今日から我々と共に戦う3名を紹介する!お前たち、皆へ挨拶しろ」

 

 

整列した兵士たちの視線が一度に()()()()へ集まった。

 

その男はチラッとエルヴィンの方を見たのち、腕を組んだまま不機嫌そうな表情で口を開く。

 

 

「…リヴァイだ」

 

 

あまりにもぶっきらぼうな物言いに兵士たちが唖然としていると、リヴァイの横にいた2人も続けて挨拶をする。

 

 

「イザベル・マグノリア、よろしく頼むぜ!」

 

「ファーラン・チャーチ…です」

 

 

新人3名の挨拶は、兵士にしてはあまりにも浮ついたものだった。

 

一同がざわめく中、監視という役目を負ったカイルは、3人の顔をしっかりと観察していた。

 

 

(あれがリヴァイ…さん。年上だとは聞いていたけど、ずいぶんと()()だな。それから、ファーランって人はどこかで見た気が……イザベルはただの無邪気って感じだな。害はなさそうだ。やはり、注意すべきは…)

 

 

カイルが再びリヴァイに目をやると、その視線に気づいたリヴァイもまた、カイルを睨みつけてきた。

 

その目つきはまるで、地下街の劣悪な環境下で死線をくぐり抜けてきた“半生”を物語っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌日。

 

 

新兵加入に伴い、本日からしばらくは各班で基礎訓練を行うことになった。

 

馬小屋の近くでは、フラゴン班のレイラの指導の元、イザベルが馬術の練習を行っている。

 

その様子を少し離れた場所から監視していたカイルは、軽々と馬を乗りこなすイザベルの飲み込みの速さに感心した。

 

 

(へぇ……初めてにしてはなかなか筋が良い。それに、馬からも好かれているようだ。きっと純粋無垢で良い子なんだろうけど……地下街では真っ先に喰われそうだな。あの子が盗賊団にいるのはおそらく……残り2人のどっちかが()()()()ってところか)

 

 

ファサッ…

 

 

その時、カイルの肩に一羽の鳥が降り立った。

 

 

「フィン!ダメじゃないか、今は訓練中だ。ここは危なっ…」

 

「あぁーーー!その鳥!!」

 

 

突然の大声にカイルが驚きながら振り返ると、そこにはイザベルが立っていた。

 

 

「君、この子を知ってるのか?」

 

「あぁ!1年くらい前だったかな……そいつ、地下街に迷い込んできたんだ。ケガをしているようだったから、俺が手当てしてやったんだぜ!」

 

「1年前……ちょうど、フィンがしばらく姿を見せなかった時期だ。怪我をしていたとは…」

 

 

そう言いながらカイルは、自分の肩へ目を向ける。

 

カイルと目が合い首をかしげたフィンは、イザベルの頭へ飛び移ったかと思うと、くちばしで頭頂部を優しくつつき始めた。

 

 

「お前!元気だったか? ふふっ、あはは!くすぐったいよ……まさか、お前に飼い主がいたとはな!」

 

「その子は『フィン』って言うんだ。俺が名付けた」

 

「フィンか!良い名前だなぁ!」

 

「イザベル、改めてお礼を言わせてくれ。フィンは雛鳥の時から面倒を見ている、俺の大切な家族なんだ。フィンを助けてくれて、本当にありがとう」

 

 

そう言ってカイルが微笑んだ瞬間__どこからともなく吹いた風が、カイルの髪を揺らしていった。

 

 

「いいってことよ!……それよりお前、()()()()だな!」

 

 

イザベルの唐突な物言いに、カイルは少しだけ動揺を見せる。

 

 

「えっ…と、それはあまり褒められてる気がしないんだが……どうしてそう思うんだ?」

 

「だって、お前……()()()()だ!」

 

 

どこかで聞き覚えのある理由に、カイルは気が抜けたように笑った。

 

 

「…眼が? ははっ、それはまた大雑把な理由だな」

 

「ちゃんと自信持って言ってんだぜ?兄貴の言葉を借りて言うとしたら……『これは俺の勧』だ!」

 

「そうか。けど、残念……君の勘は外れてる。だって、俺なんかより君の瞳の方がずっと綺麗だ」

 

「……」

 

 

急な誉め言葉にイザベルはきょとんとしていたが、カイルはお構いなしに言葉を続ける。

 

 

「それじゃあ、訓練頑張って。……フィン、おいで!」

 

 

カイルが腕を差し出すと、フィンは利口にもイザベルの頭からカイルの腕へと飛び移った。

 

 

フィンを連れてエルヴィン班の元へ戻るカイル__イザベルはその後姿を見つめながらぽつりとつぶやく。

 

 

「変な奴……でも、良い奴だ!」

 

 

そこに、リヴァイがやってくる。

 

 

「オイ、イザベル。何してる」

 

「兄貴!聞いてくれよ、()()()が!」

 

「あの鳥?……お前がうちに飛び込んできた時に抱えてたアレか?」

 

「そう、その鳥だよ!実はっ…」

 

 

続いて、ファーランもやってきた。

 

 

「イザベル、あの()()と話してたのか?」

 

「なっ、話の腰を折るなよ!ファーラン!別に誰と話したっていいだろ? ったく……で、兄貴!その鳥がっ…」

 

「いいや、よくない。イザベル、あの栗毛には近づくな。あいつは……~~~~」

 

 

そう言ってファーランは、リヴァイとイザベルに何やら訳を話し始めた。

 

ファーランの話を聞いたイザベルは、初めは何かと反意を示していたが、次第に大人しく頷くだけになっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___1ヶ月後。

 

 

それは、兵団上層部にて行われる定期兵法会議に出向くため、幹部の一人であるエルヴィンが()()()()のことだった。

 

夕飯時、カイルが食事のお盆を持って空席を探していると、隅の方にいたファーランたちが周りを気にしながらヒソヒソ話をしているのに気づいた。

 

何となく嫌な予感がしたカイルはお盆を戻し、そのままの足でエルヴィンの部屋へと向かったのだ。

 

 

 

**

 

 

就寝時間も過ぎた頃。

 

 

キィィィィ…

 

 

エルヴィンの部屋の扉が開かれ、ファーランがこっそりと入ってきた。

 

ファーランはそーっと扉を閉めると、忍び足で書棚に近づいていき、何やら物色し始めたのだ。

 

そこに、扉の影に隠れていたカイルが声をかける。

 

 

『忍び込むなら明るい月夜に』……()()()()()ってやつですか?」

 

 

突然の声かけに肩をビクッとさせながら振り返るファーラン。

 

 

「こ、こりゃどーも。あんたも同業…って訳では無さそうだ。()()()()、俺のこと覚えてたのか?」

 

「いえ、つい先ほど思い出したばかりです。あの日もちょうど今晩のような明るい月夜でした……貴方は10年ほど前、俺の牧場へ泥棒に入った()()()()()()()()

 

「ご名答。おかげで()()()地下生活を送れたよ。月も太陽も拝むことなく、な……この屈辱は、地上で甘い汁を啜ってきたあんたらにはわからないだろ?」

 

「甘い汁か……少なくとも、そんなものに固執するような人間はこの調査兵団を選びませんよ。貴方もいずれわかるでしょう。()()()()の考え方が甘かったと」

 

「自分たち? へっ……言っとくが俺は、単独でここへ来たんだぜ?」

 

 

ファーランは鼻にかかった笑い方で否定の意を示すも、カイルは怪訝そうな物を言いでそれをあしらう。

 

 

「そうですか……この部屋は角部屋。()()()()()部屋を出てすぐの階段下と部屋の前の廊下の先、か……ちょっと見てきますね。ファーランさんはここにいてください」

 

 

そう言ってカイルがドアノブに手をかけようとすると…

 

 

バッ…

 

 

いきなり、ファーランが深々と頭を下げた。

 

 

「頼む!()()()()のことは見逃してくれ!!処罰なら、俺1人でいくらでも受ける!だから、どうかあいつらだけは…!」

 

 

「……」

 

 

 

カイルがドアノブに手をかけたまま返事をしないでいると、ファーランはそれまでの態度を改めるように、さらに膝をついて丸くなる。

 

 

「くっ……()()()()…だ…!」

 

 

額を床にこすりつけて誠意を見せつけるファーランを目の前に、カイルはエルヴィンの言葉を思い出していた。

 

 

―“『多少の“不祥事”には目を瞑ってほしい』”―

 

 

「はぁ…あの方も()()()()()()……ファーランさん、顔を上げてください。俺は今日、貴方たちを捕まえにきたんじゃない……忠告をしにきたんです」

 

 

言われた通りにファーランが顔を上げると、窓から差し込んだ月明りがカイルの顔を照らした。

 

その瞳は緑色の光を放ち、異様なまでの威圧感を放っている。

 

まるで、過去に()()()()()()()際の光景を彷彿とさせるその表情に、ファーランは委縮していた。

 

カイルはそんなファーランをまっすぐに見下ろすと、静かに、それでいて力強く言い放った。

 

 

「誰の息がかかったのか()()()()()()エルヴィンさんの“敵”は巨人だけです。そこらの人間が到底敵う相手ではありません。手を引いた方が賢明かと…」

 

「あぁ……十分わかった」

 

「それならよかったです。今回はイザベルに免じて見逃しましょう。あの子は良い子だ……ですが、次はありません。心しておいて下さい……話は以上です」

 

 

ファーランは何も言わずに頷くと、ゆっくりと立ち上がって歩き出した。

 

そして、ドアノブに手をかけたところで足を止めると、横にいたカイルをじっと見つめた。

 

 

「俺からも一つ…」

 

「…はぁ、何でしょう?」

 

「俺はガルド街の外れで育ったが、シャルマン牧場の“噂”は耳に入っていた。その牧場の後継者が()()()だってことも……それ、あんたのことだろ?」

 

 

そう言ってファーランはカイルの反応を伺うように顔をずいっと近づけた。

 

しかし、カイルは顔色一つ変えずに飄々と答える。

 

 

「それは、脅しのつもりですか? でしたら、残念ですが俺は…」

 

「いいや、脅しでも忠告でもない。これは、()()()()()()()さ。……それでは、失礼しますよ? カイル・シャルマンさん」

 

 

そうして、ファーランは少し不敵な笑みをこぼしながらエルヴィンの部屋を出て行ったのだった。

 

 

 

**

 

 

 

エルヴィンの部屋に一人残ったカイルは、応接用のソファにドサッと腰掛け、へこんだお腹をさすりながら窓の外に目をやった。

 

 

「はぁ……お腹、空いたな…」

 

 

疲れ果てたカイルの瞳には、薄暗い闇夜にぼんやりと浮かぶ満月がいつも以上に不気味に映ったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___2か月後。

 

 

新陣形のテストも兼ねた【第23回壁外調査】が実施された。

 

調査兵団は1つ目の補給地へ到着するまでに数体の巨人と出くわしたが、リヴァイたち新兵の活躍もあり、大幅に被害が出ることはなかった。

 

補給地の古城で夜を明かしたのち、いよいよ『長距離索敵陣形」を取り入れた行軍を開始する。

 

 

 

ここ数か月間は、新陣形の導入にあたり、考案者のエルヴィンによる綿密な講義指導や様々な状況を再現した模擬遠征訓練などを実施していた。

 

そのため、新陣形のノウハウは兵士たちの頭と体に直接的に叩き込まれていたのだ。

 

その甲斐あってか、調査兵団はほとんど巨人に襲われることなく快進していた。

 

この調子で行けば、次の補給地となる土地を開拓できるかもしれない__そんな淡い希望を抱いたとき、それを裏切るように淀んだ積乱雲が調査兵団の行く手に迫ってきた。

 

その雲の下に侵入した途端、ぽつりと雨が降り出し、やがて数メートル先が見えないほどの大雨になった。

 

とうとう霧まで出てきたために、索敵機能は完全に失われてしまったのだ。

 

 

 

兵士たちは雨風を凌ぐためにフードを深く被りながら行進するも、視界は極めて悪い。

 

各班への伝達・連携もままならない状況となった。

 

そんな中、陣形の中央に位置する指令班では、危機的状況を察したキースがエルヴィンに意見を求めていた。

 

 

「まずいな。このままでは各隊との連絡が取れなくなるぞ……エルヴィン!陣形はどうする!?」

 

「残念ながら索敵の機能は失われました。早いところ対処したいのは山々ですが、この雨と霧ではミケの鼻もカイルの眼も効かない……陣形を閉じようにも伝令を出せません。しかし、雲の動きから考えるに、この大雨はおそらくゲリラ……となれば、このまま突き進むのが最善策かと」

 

 

エルヴィンは一見冷静に意見を述べているように思われたが、その後ろで聞いていたカイルはそれが()()()()()()便()だと察していた。

 

(かなりまずい状況だ。どれだけの班がその()()()に辿り着けているか……確かにミケさんの鼻は効かないかもしれない。でも、俺の眼ならまだ多少は先が見える。伝令を出すなら今だろう……でも、こんな危険な状態でエルヴィンさんを置いてこの場から離れることなんてできない。だが、このままでは陣形が崩れ、壊滅の一途を辿るばかりだ。どの道、一か八かを選ぶしかない……クソッ、どうすれば…)

 

 

率直な正義感と利己的な我儘(わがまま)の狭間で葛藤するのも束の間__指令班の行く手に巨人の姿を発見したカイルは、叫ぶように報告する。

 

 

巨人発見!!すぐ目の前の木にいます!」

 

 

一同は馬を停止させ、巨人の様子を伺った。

 

その巨人は大きな木の傍で座り込むようにして、木の幹にしがみついている。よく見ると目も瞑っているようだ。

 

見慣れない巨人の姿に、キースが動揺を口にする。

 

 

「なんだこいつは……ぴくりとも動かないな。まさか、()宿()()でもしているつもりか?」

 

 

指令班の兵士たちが巨人の奇行に目を取られている中、カイルは辺りを警戒するように見渡した。

 

すると今度は、少し先の大きな岩場の下に、まるで雨風を凌ぐかのように寝そべる巨人を発見する。

 

 

奥の岩場にも巨人発見!!しかし…様子が変です。岩の下でただ寝そべっているように見えます。動く気配もありません……これは、一体…」

 

 

さらなる不可解な状況に、その場の全員が固唾を飲んだ。

 

巨人は2体とも目と鼻の先にいる。

 

だが、指令班の兵士たちには一切反応を見せないのだ。

 

 

()()()()()()()巨人の動きが鈍るとは……これは新たな発見かもしれんな」

 

 

キースが希望の声を漏らしたその時、カイルは豪雨の中を移動する巨人を横目に捉えた。

 

 

「またかっ…」

 

 

しかし、カイルがその方角に目を向けたときには、深い霧によってその姿は隠されてしまった。

 

“眼”に力を集中させ、霧の中を凝視すると、その巨人の通った跡を血相を変えて疾走するリヴァイの姿が目に入る。

 

 

三時の方向、約100m先に動く巨人を発見!!四足歩行で、()()()()をしていました!何故かはわかりませんが、その巨人をリヴァイさんが追っているようです!巨人が向かった先は……おそらく、フラゴン分隊長の班がいるかと!」

 

 

カイルは必死に報告しながらも、“あること”が引っかかってならなかった。

 

 

それは、フラゴン分隊の班員であるはずのリヴァイが何故()()()()()()()()

 

 

リヴァイの怪しい動きに不穏な想像を巡らせたカイルは、不安げな瞳をエルヴィンに向ける。

 

その意図を汲んだのか、エルヴィンは何も言わずに頷くと、キースに進言した。

 

 

「団長は先に進んでいて下さい!私は数名を引き連れてフラゴン分隊長の応援に向かいます!」

 

「承知した……頼むぞ!」

 

「はっ!……モサド!班員を連れて団長をお守りしろ!……カイル!君は私と来い!ミケ班もだ!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

そうしてカイルたちは、エルヴィンを筆頭にフラゴン分隊の元へと駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

巨人の足跡を辿りながらしばらく進むと、次第に雨足が弱くなり、霧も徐々に晴れてきた。

 

そして、次にその巨人を目にした時には、すでにリヴァイによって八つ裂きにされた後だった。

 

巨人の返り血で身体の隅々まで赤く染まったリヴァイは、悔しそうに歯を食いしばりながら立ち尽くしている。

 

なんと、その足元には無惨にも__イザベルの()()転がっていたのだ。

 

 

「イザベル!?そ、そんな……」

 

 

カイルは悲嘆の声を漏らした。辺り一面を見渡すと、巨人に食いちぎられた兵士たちの四肢や胴体がそこら中で泥塗れになって散らばっている。

 

その遺体の中には、フラゴン分隊長の姿もあった。

 

直視し難い凄惨な現場を目の前に、応援に来た兵士たちは顔をしかめることしかできなかった。

 

 

 

そうこうしている内に雨は止み、晴れ間が見えた。

 

おぞましい景色がより鮮明に映し出され、誰しもがその場から一歩も動けずにいる。

 

すると突然、エルヴィンだけが前に出た。

 

 

「生存者はお前だけか?……()()()()

 

 

それは、仲間を失ったばかりのリヴァイに贈るには、あまりに無慈悲で容赦のない言葉だった。

 

誰もが耳を疑う中、エルヴィンの横顔からすぐにその“意図”を察したカイルは、ほんの少しだけ()()()()()()

 

その時__背筋が凍る感覚を覚え、カイルは咄嗟に飛び出した。

 

物凄い殺気を放ったリヴァイがエルヴィンに向かって刃を振り下ろしたのだ。

 

しかし、その動きを読んでいたカイルがエルヴィンの前に立ち塞がる…

 

 

ガキーーーーーーン!!

 

 

スチール同士がぶつかり合う鋭い音が響き渡った。

 

「クッ…!」

 

 

思わぬ邪魔が入ったことに、僅かな動揺を見せるリヴァイ__その表情の隙を、カイルは見逃さなかった。

 

 

「剣を下ろしていただけませんか?()()()()()()俺に勝てない……剣筋に“迷い”があります

 

 

リヴァイは静かに言い放たれた言葉に驚くも、剣を握る手を緩めることはなかった。

 

それでも、カイルは自信に満ち溢れていた。力では到底敵わない相手なのは承知の上だったが、何故か負ける気がしなかったのだ。

 

この時、カイルの瞳は一回り大きく瞳孔が開いていたにも関わらず、頭の中は()()()()()()()()冷静だった。

 

そんなカイルの出で立ちに、不本意にもリヴァイは圧倒されていたのだ。

 

 

(なんだ?こいつの眼……隙がねぇ。それに、この()の受け方……あの一瞬で太刀筋を見切ったのか?単純な力比べでは俺のが上のようだが……クソッ、押し切れねぇ!)

 

 

すると、それまで黙って見ていたエルヴィンが突然リヴァイの刃を手で握りしめた。

 

 

「カイル……もう、大丈夫だ」

 

 

その手からは血が流れ出ていたが、エルヴィンの真剣な眼差しにカイルは渋々了承するしかなかった。

 

カイルが一歩引き下がると、リヴァイがエルヴィンを睨みつけながら叫んだ。

 

 

「てめぇを…殺す!そのためにここにいる!!」

 

 

それを聞いたエルヴィンは、胸元から筒状に巻かれた書類を取り出すと、無造作に地面へ放り投げた。

 

顔をしかめるリヴァイ__そこに、エルヴィンが追い打ちをかける。

 

 

「ロヴォフの『不正の証拠書類』…その()()()だ。本物は今頃、ダリス・ザックレー総統の元に届けられているだろう……ロヴォフは終わりだ」

 

「まさか…全部わかってたのか!?……()()()()()()()()()()()()()()、俺たちを!!

 

 

そう凄みを放ったリヴァイは、エルヴィンを押し負かそうとさらに刃へ力を込めた。

 

しかし、後ろから近づいてきたミケに取り押さえられ、リヴァイの野望は地に堕とされてしまう。

 

膝から地面に崩れ、自分の過ちを嘆くように俯くリヴァイの耳には、亡きイザベルとファーランの声が聞こえていた。

 

その穏やかな声に2人の姿を重ねた瞬間__リヴァイの瞳に後悔の念が渦巻いた。

 

それに気づいたエルヴィンは、声を強めて引き留める。

 

 

「よせ、後悔をするな。後悔の記憶は次の決断を鈍らせる。そして、決断を他人に委ねようとするだろう……そうなれば、()()()()()()()だ」

 

 

その言葉にリヴァイがハッと顔を上げると、エルヴィンはさらに続けた。

 

 

結果など誰にも分らないのだ。『一つの決断』は次の決断のための材料にして、初めて意味を持つ……()()調()()()()()()。リヴァイ、お前も来るんだ」

 

 

リヴァイは何も言わずに立ち上がると、エルヴィンの後姿をまっすぐ見つめた。その瞳には固い決意が表れている。

 

その様子を見守っていたカイルは刀を収め、近くに咲いていた小さな花を摘み取った。

 

そして、その花をイザベルの傍にそっと置くと、瞼を優しく撫で下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___壁外から帰還して数日後。

 

 

調査兵団の幹部たちは兵団上層部への成果報告のため、王都ミットラスへ出向いた。

 

今回の主な成果としては、2つあった。

 

 

 

一つ目は、索敵機能を最大限にまで引き上げた新陣形によって巨人の襲撃を最小限に抑えられ、未開の土地にまで足を踏み入れられたことだ。

 

その未開の地ではゲリラ豪雨と奇行種の襲撃によって新しい拠点の目途を立てるまでには至らなかったが、行路として問題がないことを確認できたのは大きな収穫であったと言える。

 

 

 

二つ目は、新たに判明した巨人の“特性”についてだ。

 

ゲリラ豪雨に見舞われた際、巨人がうずくまったり雨を凌ぐような素振りを見せ、動きが鈍くなっている様子を多くの兵士が目撃した。

 

それには個体差もあり、奇行種などはその例外に当たると推測される。

 

豪雨の中での行軍はこちらにとっても不利な面があるが、天候を利用した奇策を考案する余地もあるとの見解まで出た。

 

それは、あくまで可能性の話ではあるが、次の壁外調査の是非を問うための話題提供としての役割は発揮してくれたようだった。

 

 

 

成果報告会を終えると、調査兵団本部では新たな編成に関する会議が開かれた。

 

第1分隊長であったフラゴン・ターレットの殉職を受け、編成の大幅な修正が必要となったのだ。

 

エルヴィンや他の分隊長は一つずつ数字が繰り上がり、新たな第4分隊としてミケがその隊長に選ばれた。

 

さらに、元第1分隊で生き残った兵士たちは各分隊へ均等に割り振られ、班の編成などの詳細は分隊長の裁量に任された。

 

エルヴィンの第1分隊では…

 

 

「今回、ミケが抜けたことで班の編成も大幅に変更となる。内容は配布した資料の通りだ。また、今回から新たな取り組みとして『特別作戦班』を立ち上げることにした。特別作戦班とは、どの隊どの班にも臨機応変に加勢できるような、いわゆる“独立遊軍”のようなものだ。……その班長には、リヴァイを任命する。さらに、特別作戦班にはまた()()()()があるのだが……カイル、後で君に説明しよう」

 

「えっ、俺に…ですか?」

 

「そうだ。今回の特別作戦班において、リヴァイの“補佐”を務めるのは、君だ」

 

「……へ?

 

 

カイルは予想だにしていていなかった展開に、思わず声を裏返えしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 





~後書き~

『兵長ぉぉぉぉぉーーーー!!!』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


満を持しての登場、リヴァイ!!

この頃はまだ『兵士長』という肩書きではないので、はやくカイルに兵長って呼ばせたくてうずうずしてます(笑)

言うまでもないかもですが、今回の話はリヴァイのスピンオフ作品【進撃の巨人〜悔いなき選択〜】をベースとしています。

内容はアニメを主軸として、漫画からも展開やセリフ回しをミックスさせています。

※内容は完全に原作遵守ではないため、この物語独自の解釈としてご了承くださいm(_ _)m


そして、今回カイルをねじ込ませていただいたのが、第23回壁外調査でリヴァイがエルヴィンに襲いかかるシーンです!(あの、ほんと…贅沢ですみません)

リヴァイはエルヴィンに襲いかかりつつも、この時点ですでに殺す気は無かったんだと思います。
そのことにリヴァイ自身が内心気づいていたかはわかりませんが、人類最強の兵士と成り行くリヴァイの刃をエルヴィンが片手で受け止められるはずがありませんからね…
(だからカイルもなんとか止められたわけです)


さて!リヴァイとカイルの初コンタクトは刃を交えてのことでした。

ここから2人の関係がどうなって行くのか、今後の展開をお楽しみ下さい(´-ω-`)

◼︎次回予告:『#15 戦力特別強化訓練』
リヴァイとカイルがめちゃ絡みます。
そんでもって、アッカーマンにまつわるちょっとした伏線も!
さらに意外な"あの人物"もここで初登場!?


〜おまけ〜

◼︎ファーランとの思わぬ再会
シャルマン牧場に入った泥棒の一人がファーランだったことが判明しましたね!
実はXにて投稿しているイラストの真ん中にいる子どもがファーランなのです。
よければ、下記のnote投稿も併せてご覧ください!

https://note.com/singeki_satory/n/n1e8359438f97
◎記事:シャルマン牧場盗難事件

◼︎実はカイルの性別に気づいていたミケ
ミケがカイルの性別に気づいたのは、カイルの"匂い"を嗅いだ時です。
何故か驚いた顔をしていましたからね(´-ω-`)
カイルの"匂い"に女性特有の何かを感じたのでしょうか?

……ミケのえっち!

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