~前書き~
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いよいよ、845年!
原作をよく知る方は途中で「ん?」となるかもしれませんが、後書きで説明がありますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
↓それでは、本編へどうぞ↓
___
エルヴィンの部屋には錚々たる面々が集められていた。
第1分隊からは、班長のハンジ、モサド、リヴァイ、それからカイル。
第4分隊からは、隊長のミケ、それから班長のナナバ、ゲルガー。
さらに、団長直下の隊からはディルク班長といった、幹部クラスの面々が顔を並べていた。
全員が揃ったところで、エルヴィンが呼び出した訳を話すと、いの一番に反応を示したのはハンジだった。
「それは本当なのかいっ、エルヴィン!!本当に……
「あぁ、ディルクの話によれば、明日の評議会で兵団上層部に持ちかけるおつもりだ」
「そんな……いくら全体の兵力が著しく向上したからと言って、
ハンジのごもっともな意見を聞いたディルクは、エルヴィンの話に補足するように話しを切り出した。
「キース団長は『長距離索敵陣形の
するとここで、腕を組んで壁にもたれかかっていたリヴァイが口を挟む。
「本末転倒ってやつだな。どんな馬鹿でもわかりきったドジは踏まねぇ……団長は、イカれちまったか?それとも、
「今のところ、王政府や兵団上層部でそういった動きは見られない……だが、確かにここ最近の団長の様子は変だ。何かめぼしい成果を出そうと
エルヴィンはそこまで話すと、いつになく神妙な面持ちで机に肘をついた。
「…とにかくだ。皆に心しておいてほしいことがある。明日の評議会で団長がその案を持ち掛けた際、私は断固として反意を示すつもりだ。だが、それでも尚、団長がその案を押し通した場合……それ以降、我々は抵抗をせず、団長の指示に
しかし、これにはモサドが反意を示す。
「なっ…回避できる被害を
「一度反対を押し退けてまで意見を通すのだ。人間の心理上、よほどのことでない限り折れることはない。それに加え、第2分隊のダリウス分隊長も団長の案に賛同したと耳にした。今回を凌げても次回、さらにまた次回と仕掛けてくるだろう……壁外調査を目前に控える今、兵団が分断して士気が下がってしまえば、それこそ組織が壊滅しかねない」
「しかし、被害が出てからでは遅い…」
「そうだ。だが、そうして示さなければ、彼らは気づけない。百聞は一見にしかず……選ぶのは我々ではない。
エルヴィンの正論には、誰も言葉を返せなかった。
そんな中、ハンジは唇をぎゅっと噛みしめながら肩を震わせている。
どう考えても真っ当でない団長の判断に憤りを感じていたのだろう__眼鏡を曇らせたハンジが声に力を込める。
「私は……団長の
ハンジは吐き捨てるようにそう言い残すと、首をがくんと下げながらエルヴィンの部屋を出て行ったのだった。
***
___翌日。
ハンジや他のエルヴィン派の兵士たちの願いは、
急遽陣形を変更することになった調査兵団は、キースの指示の元、何よりも優先して陣形の把握に努めた。
キース考案の陣形では、中央から少し離れた位置にそれぞれ『左翼』と『右翼』で索敵用の小隊を置き、その他の隊を中央に固め、その後方に『荷馬車班』を配置するという簡素なものだった。
兵士たちの大半が突然の陣形変更に戸惑いを隠せないまま、調査兵団は【
***
___数日後。
シガンシナ区の外門前にて。
「開門!!……これより【第34回壁外調査】を開始する!本日、我々はこれまでのどの遠征より、
調査兵団の実行部隊は、キースの雄叫びに導かれるようにして一斉にシガンシナ区の門を潜り、壁外へと飛び出して行った。
だが、運の悪いことに__出発してから一刻も経たないうちに、突然の大雨に見舞われてしまうのだった。
ザザァーーーーーーーーー…
「団長!ひどい雨です!左翼、右翼、共に目視で確認できません!!……どうしますか!?」
「進路をこのままに、速力を上げて突っ切る!!
それを聞いたモサドは、思わず小声で不満を露わにする。
「なっ…速力を上げるだと!?団長は後列の荷馬車班を引き離す気か…!?」
だが、そんな懐疑的な視線に気づきもしないキースは、“誰か”を探すように首を動かしている。
そして、エルヴィンの後ろにいたカイルで目を止めた。
「シャルマン!荷馬車班へ伝令に行け!!……進路は
「…はっ!」
キースの命令を受け、カイルが方向転換しようとした時__エルヴィンがそれを引き留めた。
「待て、カイル。君ではダメだ……他の者に頼め」
特別作戦班であるカイルに伝令を頼むとは、さすがのエルヴィンも想定外だったのか、どこか必死の様子だ。
少し様子のおかしいエルヴィンの顔つきが気になったカイルは、小声で聞き返す。
「何故ですか?『団長の命令にすべて従うこと』が今回の俺たちの“役目”だったはずですが…」
「これは
「しかし、この視界の悪さでは、伝令に適役なのは俺です。……お任せを、すぐに戻ります!!」
「待っ…」
カイルはエルヴィンの制止も待たずして、荷馬車班の伝令へと向かってしまった。
エルヴィンは仕方なく、すぐさま第3分隊を探し始める__そして、アデルを見つけると、焦りを顔に浮かべた表情で駆け寄ったのだ。
「アデル!君にしか頼めない……今すぐカイルの後を追ってくれ!彼は荷馬車班の伝令に行ってしまった。あの子を……守れるか?」
エルヴィンの頼みを受け、アデルはチラッとリヴァイの方を見る__それからまたエルヴィンに視線を戻すと、口角を上げながら答えてみせた。
「それは愚問ですよ、エルヴィン分隊長……ハァッ!」
そう言ってアデルは馬を勢いよく切り返すと、一人カイルの後を追ったのだった。
***
___その一方で。
伝令に向かったカイルは、一向に荷馬車班の姿が見えないことに違和感を覚えていた。
(おかしいな……そろそろ荷馬車班とぶつかってもいい頃だ…)
そうしてしばらく進むと、荷馬車班の通った痕跡と思われるものを発見した。
だが、思わぬことに__荷馬車の
(まさか、左翼班の影を中央と見間違えたのか!?この視界の悪さだとあり得なくない……しかし、まずいぞ。
そう、その
カイルがその跡を辿ると、森の入り口に辿り着いた。
その付近は地殻変動があったのか、地面が隆起したり陥没したりしていて、ところどころに“沼”がある。
とてもではないが、荷馬車が平気で通れる地形ではない。
そして、『嫌な予感』は見事に的中する__それを見つけた途端、カイルは叫んだ。
「イルゼ!!」
森の少し開けた場所に深い泥水の沼池があり、
腰から下が沼に埋まり、足元には荷馬車が覆いかぶさっている__どうやら手前の低い断崖から荷馬車諸共その沼に滑り落ちたようだ。
慌ててその沼池へ駆け寄ると、顔を強張らせたイルゼが大声を上げた。
「カイル、来ちゃダメ!……後ろよ!!」
「!?…」
カイルが振り返った時には、木陰に
***
___その一方で。
キース率いる中列指令班は、黒い雨雲から抜け出していた。
鋭い雨から逃れたと喜ぶのも束の間、その目の前には深い森が立ちはだかったのだ。
「なっ…何故森が目の前に!?
キースが困惑していると、ディルクが叫ぶように報告する。
「団長!ダリウスの分隊が見当たりません!……おそらく、はぐれたのかと!」
それに続くように第4分隊長のヴェルミンも息を切らしながら報告する。
「ハァ…ハァ…私の隊からも何班かはぐれてしまった……キース、陣形はめちゃくちゃだ」
「ヴェルミン、貴様は最古参でありながらなんてザマだ…」
その時、1体の巨人の接近に一早く気づいたキースが叫ぶ。
「ん!?……巨人だ!森から来るぞ!!」
巨人は森の奥からこちらに迫ってきていた。
キースは一瞬、エルヴィンの方を見るも、すぐに自分の隊へと顔を向け直す。
「モーゼス!迎え撃て!!……ちょうどいい。森の木々を使え!」
巨人は雨の影響か、少し動きが鈍いようにも見える。
モーゼス班の兵士たちは連携を取りながら巨人の気を引き、班長のモーゼスが少し離れた位置から隙を伺った。
「…ったく、こちとら雨天の行進で疲弊してるってのによぉ……だがな?
モーゼスは巨人に語りかけるようにそう話すと、うなじめがけて飛び出した。
「……人類の力を!!思い知れッッ!!」
そう叫んだモーゼスが体を回転させながらうなじを刈り取ろうとした時…
ぐるんっ!
突然、巨人が首を後方に回転させた。そして…
バクンッ………ブチィィッ!
予想外の動きに対応できなかったモーゼスは、そのまま巨人の口へと吸い込まれ、勢いよく上半身を嚙み千切られてしまったのだ。
突如として動きが俊敏になった巨人__油断していた他のモーゼス班たちはうろたえ始める。
その隙に付け込むように、巨人は容赦なく襲い掛かった。
そうして、モーゼス班は
悲惨な状況にキースは焦る。
「たった1体に何を手間取っているのだ!?……ディルク班!迎え撃て!!」
だが、そこに追い打ちをかけるかのように、さらに複数の巨人が森の奥から一斉に押し寄せてきた。
キースは仕方なく、自分の班とヴェルミンの分隊に迎撃を命じる。
「くそっ!またか!?……第1分隊は、その場に待機!第4分隊は、私の班に続け!!」
こうして他の隊の兵士たちが激戦を繰り広げている中、指示を受けることのなかった第1分隊は、少し離れた位置からその光景をただ眺めていた。
その中で一人、エルヴィンの視線だけは、戦場ではなく抜け出た
***
___その一方で。
森の沼池の前では、全身血まみれのカイルが息を切らして突っ立っていた。
その横には、蒸気を放つ巨人の死骸が転がっている。
カイルは
降りしきる雨が体に纏わりついた返り血を洗い流していく__そんなカイルの姿に禍々しさを感じたイルゼは、声を震わせながら状況を伝えた。
「か…カイル!荷馬車班は壊滅した!!……今すぐ、それを指令班へ知らせて!」
だが、カイルはイルゼの話を聞き入れることなく、辺りをきょろきょろと見渡し始める。
そして、太い木の幹を見つけると、そこに片方のアンカーを突き刺し、もう片方のアンカーを沼に沈んだ荷馬車へ向かって射出した。
「カイル? い、一体何を…?」
イルゼがまたもや声をかけるも、反応はない。
カイルは呼吸を整え、足腰に力を入れると、荷馬車につないだワイヤーを一気に巻き取り始めた。
ギ……ギギギ…ギッ…
ピンと張ったワイヤーが、荷馬車を引き寄せんと軋む__だが、太い幹に固定した体の踏ん張りの方が僅差で引き負け、荷馬車に刺していたアンカーが抜け出てしまう。
勢いよく跳ね返されたアンカーはカイルの額をかすめ、切れた左瞼から血が流れ出た。
「くっ……ダメか!」
それを見ていたイルゼは気づく。
(いつもだったらアンカーの軌道ぐらい
そんなイルゼの心配を余所に、今度は木の上に飛び上がったカイルは、太めの枝を切り落とした。
それから小枝などの突出した箇所を切除すると、それをイルゼと荷馬車の隙間へと差し込んだのだ。
「イルゼ!少しでも荷馬車が浮いたら、思いっきり足を引き抜くんだ!いいな!?」
「カイル!こんなことしている場合じゃないわ!……早く指令班に知らせなきゃ!」
「指令班には知らせに行く!だが、それは……君をここから助け出してからだ!!」
「!?……それは、できない。私の足、感覚がないの。きっと、ここから出られたとしてもすぐには走れない……わかるでしょう?」
「走れないなら俺の馬に2人で跨ればいい!」
「カイル、私はもう助からない……あなただけでも行って!!」
「ダメだ!!……君を置いて…行けない…!」
「落ち着いて聞いて、カイル……荷馬車班が来る前、私たち左翼索敵班はここで
だが、それでもカイルは聞く耳を持とうとしなかった。
「だったら尚更、君を置いて行けないじゃないか!!今はここから抜け出すことだけを考えてくれ!」
そう言ってカイルはさらに枝に体重をかける。
だが、荷馬車はぴくりとも動かない__枝を握る手に血が滲むばかりだ。
「カイル!血が!?……だ、ダメ……このままじゃ、
イルゼが絶望しかけたその時__カイルの後を追ってきたアデルが姿を現した。
「カイル!こんなところに居たのか!探し……イルゼ!?な…何だ、この状況は!?」
「アデル!ちょうどいいところに来た!!説明している暇はない……とにかく手伝ってくれ!荷馬車を浮かせる!!」
「あ、あぁ!わかった!!」
だが、アデルが手を貸そうとしたその時…
キーーーーーーン!
『
音の方を振り向くと、遠くの空で撤退の進路方向を示す信煙弾も打ち上げられているのが見えた。
アデルは悟った__今、この場を離れるべきだと。
撤退の軍に置いて行かれてしまっては、イルゼどころか自分やカイルも助からない。
しかし、カイルは音響弾に反応を示すどころか、荷馬車を浮かせるための枝から一切力を抜こうとしなかったのだ。
だが、イルゼは音響弾に反応を示す。
「今の音、撤退命令?……そうなんでしょ!?カイル!」
「あぁ、そうだ!だから君も一緒に行くんだ!……アデル、早く手伝え!何をしてるんだ、急げ!!」
「無理よ!この沼からは抜け出せない!……アデル!今すぐカイルを連れて、本部の元へ行って!!」
同時に名前を呼ばれたアデルは2人の顔を交互に見る__そして、カイルの必死の背中に、意を決した。
「見くびるなよ、イルゼ。今すぐその荷馬車どかして、
「アデル!!………お願い」
絞り出されたイルゼの声がアデルの胸を衝く__アデルは咄嗟に、もう一度信煙弾の上がった方角を確認する。
すると、煙が殆ど消えかかっていたのだ。
それを見たアデルはギリっと奥歯を食いしばると、イルゼの顔を真っ直ぐ見つめながら一言つぶやいた。
「…すまない」
その一言を聞いたイルゼは、顔の強張りを緩め、涙を流す。
「ありがとう……アデル」
アデルは何も言わずに頷くと、カイルを枝から無理やり引き離すようにして担ぎ上げ、すたすたとその場から離れて行った。
「やめろ!離せ!!何をしてるんだ、アデル!イルゼがまだっ…」
アデルの腕から逃れようと必死に暴れるカイル__そこにアデルが容赦なく叱咤する。
「お前は、
カイルはハッと我に返り、沼池を振り返る__するとそこには、笑顔で手を振るイルゼの姿があった。
その表情にイルゼの決意を感じ取ったカイルは、ようやく暴れるのをやめたのだった。
**
2人は自身の馬たちを呼びつけ、その場を後にする。
後ろを振りむくと、イルゼはまだこちらを見ていた。
次第に遠ざかって行くイルゼの姿に、溢れそうになる涙を堪えながらカイルは叫ぶ。
「
その唐突な言葉に、イルゼは困惑した__カイルは構うことなく、そのまま言葉を続ける。
「この雨量なら、いずれ沼も緩む!そしたらそこから抜け出して、北へ向かってとにかく走れ!そして……生きて、ウォール・マリアに辿り着くんだ!」
それを聞いたイルゼは目に涙を浮かべた__カイルはさらに続ける。
「いつか君は言った!俺が物語の主人公だと!……だけど、それは違う!君の物語の主人公は“君”だ!!物語は
「!?…」
「物語の結末は、
このカイルの言葉に、とうとうイルゼの目から涙が零れ落ちた。
本当は言いたかった__『行かないで』と。
だが、冷え切った体は言うことを聞かず、大声を出すことも叶わない。
(カイル……私にはもう、あなたの姿が見えない。けど、きっとあなたなら
イルゼは最後の力を振り絞って腕を高く突き上げると、拳を強く握り、そのまま左胸に当てて見せたのだった。
…トンッ。
………
…
***
___数分後。
何とか撤退の軍に追いついたカイルとアデルは、エルヴィンの元へ駆け寄った。
「ただいま戻りました!」
「カイル!無事だったか……よく戻ってきた」
そう言うとエルヴィンはアデルと目を合わせ、無言で頷き合った。
カイルは自分の班を含め、第1分隊の面々が揃っていることに安堵しつつ、苦い顔で荷馬車班のことを報告する。
「荷馬車班ですが……進路が東にズレており、森の沼地に衝突していました。俺たちが発見した時には、すでに壊滅状態……荷馬車は沼に沈み、兵士たちは奇行種に襲われた後でした」
「…そうか。こちらも見ての通り被害は甚大だ。今はとにかく、無事に帰還することに注力しろ」
「はい!…しかし、こんな序盤で撤退とは……ゲリラ豪雨と荷馬車班の信号を受けての判断でしょうか?他の班は、まだ合流できていないようですが…」
「合流の信号を受けたのは、
「「 !? 」」
カイルは改めて辺りを見渡し、人数を数える__そして、出発前と比べ半数にも満たない数に血の気が引くのを感じた。
隣にいたアデルも自分の班員たちがいないことに気づき、顔を青ざめる。
その後、シガンシナ区までの道中では、行き場のない憎悪にも似た感情をただキースの背中にぶつけることしかできなかったのだった。
***
___シガンシナ区帰還後。
街の中央にある通りでは、調査兵団一行が人だかりの中をとぼとぼと歩いている。
聞こえてくるのは、負傷兵に対する悲嘆や憐れみの声、それから悲惨な戦果を嘲笑うような陰口ばかり。
だが、兵士たちは皆、それらが聞こえないフリをして歩き続ける。
愛馬のシャルルを連れたカイルもまた、視線を落としながら歩いていると、希望に満ち溢れた子どもの声が耳に入った。
声のする方を見ると、
(子ども?こっちを見てる……失望したろうな、こんな光景。アンカも、あぁしてここで見ていたんだろうか…)
少年たちの目から光が消えていくのを見ながらカイルは考える。
(俺が子どもの頃にこれを目の当たりにしたら、どのように映っただろう?『憧憬の的』か、それとも『忌避の対象』か……今なら、
すると、人混みの中から一人の中年女性がキースの元へ駆け寄ってきた。
それは、モーゼスの母親だった。
モーゼスの母親はキースから受け取った形見を胸に抱きしめると、その場に泣き崩れながらこう言った__『自分の息子は、人類の反撃の糧となったのか』と。
その問いに対し、キースは取り繕った詭弁を垂れることなく、『何の成果も得られなかった』という“真実”を吐露した。
そして、
「エルヴィン、団長をやってくれるか?……私は、どうやらここまでのようだ」
キースは自らが犯した過ちを悔い改めるように、『団長の座』をエルヴィンに譲り渡したのだ。
「お引き受けしましょう……調査兵団は、私にお任せください」
そのやり取りを受け、カイルは天を仰いだ。
(あぁ、ようやくだ。イルゼ、君は
まるで許しを乞うように空を見上げるカイルの頭上では、美しいトンビが旋回していた。
_罪の意識を植え付けるかのように。
_地獄の門出を祝うかのように。
トンビはただ、回り続けるのだった。
***
___数時間後。
シガンシナ区を後にした調査兵団は、壁外調査の成果報告のため、王都への行路についた。
その途中、いつものようにトロスト区の支部で一泊することになったが、キースは別行動を取ると言い残してどこかへ行ってしまった。
そして、
壁内世界を震撼させる『前代未聞の大事件』__それが巻き起こったのは、支部に到着したカイルたちが荷馬車から荷物を下ろしていた時だった。
『ウォール・マリアが陥落した!!』
早馬で伝令に来た駐屯兵団の兵士がまず一言目に発したのはそれだった。
突拍子もない報告に一度は何かの間違いだと思い込もうとしたが、その兵士が発する只ならぬ“緊迫感”から、それが事実なのだと察した。
伝令兵曰く、突如として
その壁の穴からシガンシナ区内へ通常の体高の巨人が流れ込み、多くの住民が犠牲となった。
さらには、
そうして、壁内へ侵入した巨人たちは、すでにトロスト区目前にまで迫ってきている。
それに付随して、大量の避難民がここトロスト区へと押し寄せてきているのだ。
息も絶え絶えに報告を続ける伝令兵に対し、エルヴィンは冷静に問い正した。
「それで、その『超大型』と『鎧』の巨人の2体も、現在こちらに向かってきているのか?」
「い…いえ!報告によれば、その2体の巨人は忽然と
「!?…そんなことが……いや、今考えるのはよそう。ウォール・ローゼの各地区へも伝令は出しているのか?」
「はい!ここへ伝令に来た兵士たちが、そのままの足で向かっているはずです!!」
「そうか。ならばまずは、ここへ向かっている避難民の受け入れが第一優先だ。壁外の避難民の安全確保は、我々調査兵団が引き受けよう。同時並行で駐屯兵団は避難所の設置、並びに、トロスト区内の住民の誘導に専念してくれ。それから、実践経験が豊富な我々とて遠征直後で人手が不足している。駐屯兵団の精鋭部隊を応援に寄越すよう、上に掛け合ってもらいたい。……頼めるか?」
「はっ!お任せください!」
エルヴィンは伝令兵を見送ると、すぐさま調査兵団の全兵員を集め、指示を出す。
「皆、心して聞け!先程、ウォール・マリアが陥落したとの報告を受けた!巨人がここウォール・ローゼにまで迫っているということだ!詳細を説明している暇はない。我々調査兵団はこれより、トロスト区へ受け入れる避難民の安全確保に向かう!現段階では状況が掴めないが、巨人との戦闘も覚悟しておけ!キース団長は先刻、自らその座を退き、この兵団を私に託した!よってこの時より、次期団長である私が指揮を執る!まずは、ミケの隊からだが……〜〜〜〜」
エルヴィンの指示は、突くところが見つからないほどに的確だった。
ウォール・マリア陥落という受け入れ難い現実にうろたえる兵士たちを鎮め、今自分たちが取るべき最善の行動を明確にする__そして、『人類最後の砦』としての誇りを胸に、心臓を捧げるよう説き伏せたのだった。
**
それからというもの、調査兵たちは遠征で疲れ切った体に鞭を打ち、目まぐるしく動き回った。
トロスト区の外門に到着して早々に避難民を誘導し、迫り来る巨人共を掃討した。
夜が明けた頃、ようやく全ての避難民の受け入れが完了したが、報告にあった2体の
***
___その後。
避難民はウォール・ローゼの敷地内に急遽設置された避難テントでの暮らしを余儀なくされた。
壁内世界における全人口の内、ウォール・マリアの住民の割合は少数であったとはいえ、各地に避難民が押し寄せたことにより、王政府はその対応に追われた。
避難民の管理、補給物資の運搬・配膳、トロスト区の防衛対策の確立など、兵団組織からは一人足りとも余すことなくあらゆる対応に駆り出された。
そのため、公的な手続きを踏み、エルヴィンが正式に『第13代調査兵団団長』へ任命されたのは、ウォール・マリア陥落事件から約半年後のことだったという。
そして、それからさらに半年後。
今度は巨人ではなく、
―【 続く 】―
〜後書き〜
『原作第1巻にようやく追いつきました』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
……わがりますッ!皆様の言いたいことはわがりますッ!
単行本5巻でも、OVAの『イルゼの手帳』でも、第34回壁外調査は848年あたりとして描かれていますよね…
今回、845年のシガンシナ区襲撃事件と第34回壁外調査をつなげたのには理由があります。
すみませんが、説明が長くなるので、詳細は下記の記事をお読みくださいm(__)m
https://note.com/singeki_satory/n/n27440a95da78
◎記事:原作との相違①第34回壁外調査について
また、今回はこってりめに原作オマージュを盛り込みました。
シガンシナ区襲撃時、瓦礫の下敷きになったカルラをエレンが助け出そうとするも、ハンネスに無理やり引き剥がさられるあの名シーン……それをイルゼでオマージュしてみました!
イルゼの手帳はちゃんとこの先の話『#18 戦果』で拾いますのでご安心を。
◼︎次回予告:『#17 口減らし』
第1回ウォール・マリア奪還作戦(口減らし)について、少し深堀します。
また、思わぬ再会もありますので、お楽しみに…
~おまけ~
主人公カイルの幼少期スピンオフ(下記)をお読みいただいている方にはお馴染みかもしれませんが、トンビが旋回するときはいつも『嵐の前触れ』を表しています。
トンビに何か由来があるとかは関係なく、これはただの著者特有の演出です(笑)
■幼少期スピンオフ作品:進撃の巨人~Another Choice~
https://syosetu.org/novel/368820/