進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

■ネタバレ注意
今回の話は【OVA:イルゼの手帳】をベースにしております。
OVAをご覧になっていない方にとって、ネタバレとなる内容も含まれておりますので、ご了承ください。

↓それでは、本編へどうぞ↓





#18 戦果

 

___数か月後。

 

 

【第1回ウォール・マリア奪還作戦】が“失策”となった日から数か月__調査兵団本部では、()3()6()()壁外調査に向けた訓練が行われていた。

 

訓練場では、隊ごとに分かれそれぞれの()()()指示を出している。

 

 

「皆、よく聞いてくれ。次の壁外調査からは、()()()()()も援護班ではなく、実行部隊として他の隊と共に兵站拠点の確保へと向かうことになる。……とは言え、この隊は新兵が多い。しばらくは、リヴァイ()()()が俺たちの隊に助力していただけるとのことだ。そこで、今後は交代で兵長の『特設班』として動いてもらう。まず第36回では、ヘイターの班から。その次にアデル班、セト班という順だ。……ヘイター、兵長が来たらまた声をかける」

 

「あいよっ!」

 

「…前回はウォール・マリア陥落後()()()()調()()ということもあり、試験的な行軍のみだった。だが、それでも巨人との遭遇は避けられず、君たちの中でも何名かが巨人と対峙したことだろう……そこで、巨人の“強力さ”と“恐ろしさ”を知ったはずだ。この隊からは奇跡的に一人の死者も出さずに帰還できたが、次もそうとは限らない。今、隣にいる者が1か月後もそこにいると思わないでくれ。そのことを心に留め、気を引き締めて訓練に臨んでほしい。全体説明でもあったように、次回からは本格的に『拠点設営』に取り掛かる。新兵の君たちは、まずは長距離索敵陣形を徹底的に体に染み込ませるように……よし、それじゃあ班ごとで訓練に取り掛かってくれ!」

 

 

そう言って隊の兵士たちに指示を出していたのは、カイルだ。

 

カイルは一斉に動き出した兵士たちの背中を眺めながら、何やら思い(ふけ)ている。

 

 

(こうやって隊士たちに指示を出すのは、まだ慣れないな。本当にこんな()()が俺で務まるんだろうか…)

 

 

不安を募らせるのもそのはず__なんとカイルは第35回壁外調査からの【実行部隊新編成】にて、『分隊長』に任命されていたのだ。

 

 

 

== 遡ること、数か月前 ==

 

 

団長のエルヴィンの部屋にて…

 

 

い、()()()()分隊長ですか!?……もちろん、光栄なお話ではありますが、俺には少し荷が重いように感じます!班長すら経験がないのに……もっと他に適任がいるのでは?」

 

突然の任命に少し動揺しながらその是非を問うのは、カイルだ。

 

『調査兵団第5分隊長』_それがエルヴィンから授けられたカイルの新しい“肩書き”だ。

 

壁外調査の活動方針変更、ならびに、新兵の大量受け入れに伴い、新たな編成として『第5分隊』という枠組みを設けたのだ。

 

その隊長に任命されたカイルだったが、分不相応だと言わんばかりに手に汗を握りながら訴えた。

 

だが、エルヴィンは淡々とした物言いでそれに答える。

 

「君を選任したのには、相応な理由がある。先ほどの話が関連しているのだ」

 

「先ほど……とおっしゃるのは、今回から新たに導入した『兵士長』という役職に、リヴァイさんを任命されたことですか?」

 

「そうだ。……『兵士長』は隊に属さず、実行部隊全体における戦闘連携の指揮官としての役割を主とする。これには兵団一の実力を持ち、咄嗟の判断力に長けるリヴァイが適任と踏んだ。そして、そのリヴァイの()()()()で“技術”を学んでいたのが、君だ。君はリヴァイの技術を模倣し、壁外調査に出向いた際には補佐としてその“戦術眼”も磨いてきた。それに加え、リヴァイの補佐となる前は、私の班で精鋭たちと共に様々な苦難を乗り越えてきている。……そういった経験値も考慮し、君が分隊長に相応しいと判断したのだ」

 

「しかし、団長の班にいた頃は、モサドさんやベッツさんなど精鋭の方々の助力があってこそでした。俺一人の実力ではありません……それに、リヴァイさんの補佐も、実際どちらが補佐されていたのか怪しいところです。俺には、とてもそんな大役が務まるとは思えません…」

 

「…カイル。君の謙虚さは評価すべき点だが、もっと自信を持って良い。調査兵団は()()()の壁外調査でかなりの人員を削られた。だが、兵站拠点を設営するには補給物資を運搬しながらの遠征となり、どうしても人手を要する。初めから多くの新兵を引き連れての遠征となるだろう……そこで、君には主に『新兵の育成任務』を託したい。強化訓練の際に、君の“指導力”は証明されているからな」

 

エルヴィンの部屋には2人の他に、もう一人いた__カイルの隣で少し興奮気味に眼鏡を曇らせているその人物は、ハンジだ。

 

ハンジはカイルの肩に手を置くと、エルヴィンの意見に同調した。

 

「そうそう、君の的確な指導には脱帽したよ!伊達に()()()()の背中を追いかけているだけはあると思ったね……それに、君は調査兵団の中でも、リヴァイやミケに次ぐ実力者だ。高い戦闘能力を持ち、かつ、瞬発的な状況判断力を兼ね備えている兵士は数少ない。その場を切り抜けるための最善策を臨機応変に捻出するのは、簡単に思えて実に難しいことだ。しかし、君にはそれをやってのけた実績がいくつもある。だから、逆に君ほどの適任者が他にはいないと言っても過言ではないんだ!……お互い()()()()()()()()()、手を取り合って頑張ろうじゃないか!」

 

そう言ってハンジは肩の高さで拳をぐっと握って見せた。

 

エルヴィンもそれに続くように立ち上がると、カイルの目の前まで歩み寄る。

 

「君の実力を認めているのは、私やハンジだけではない。ミケやリヴァイも君を()()()()のだ。……カイル、引き受けてくれるか?

 

期待の眼差しを向けるエルヴィン__これには、カイルも引き下がる選択肢を失ってしまった。

 

「わかりました……お引き受けします。皆さんのご期待を裏切らぬよう、精進します!」

 

 

===============

 

 

 

…といった具合に、カイルは分隊長へと担ぎ上げられてしまったのだ。

 

寄せられた期待に応えたい__その一心から思い切って承諾したはいいが、いざその立場に立ってみるとのし掛かる重圧に不安を拭えない。

 

 

(本当にズルいお方だ。そもそも貴方の命であれば、俺が()()()()()()()のに…)

 

 

カイルはエルヴィンの口車にまんまと乗せられたと思いながらも、それが満更でもないと思えてしまう自分に顔を引きつらせていた。

 

気を取り直して愛馬のシャルルに手綱を掛けていると、何やらもじもじとした様子の新兵が2人、カイルの元へやってきた。

 

 

「カイル分隊長!少し、よろしいですか?」

 

「ん、どうした? 2人とも」

 

「実は、その……1つお願いがありまして!ほら…オルオ!」

 

「お、俺たち…前回の壁外調査で、その……()()()()()じゃないですか。……だから、えっと…」

 

あぁ、()()のことか……大丈夫、誰にも口外していないから安心してくれ。別部隊の兵士たちの耳には入っていないはずだ。気に病む必要はない。君たちはとても勇敢だったよ」

 

 

2人のきまりの悪い様子に“要件”を察したカイルは、優しく元気づけるように言葉を投げかけた。

 

だが、オルオと一緒にやって来たペトラはまだもじもじとしている__そこで、カイルはもう一言付け加える。

 

 

「…もちろん、()()()()内緒にしておくよ。あの人、意外とネタに引っ張るからね」

 

「あ、ありがとうございます!……しかし、お願いしたかったことはお察しの通りなのですが、私たちが少し不安なのは…」

 

 

そう言ってペトラがカイルから視線を外すと、それに合わせるようにオルオも同じ“人物”へと顔を向ける__2人の視線の先にいたのは、ヘイターだった。

 

 

「ははっ、なるほどな。……わかったよ、ヘイターには俺からキツく言っておくから」

 

「「 ありがとうございます!!(…か、神様!) 」」

 

 

2人は声を合わせてお礼を言うと、カイルに向かって深々とお辞儀をした。

 

するとそこに、リヴァイが現れた。

 

 

「様になってるじゃねぇか、()()()

 

「兵長、冷やかしはよしてください。まだ慣れないんですから……ハンジさんの件は、もういいんですか?」

 

「あぁ。『巨人の捕獲案』をご熱心に押していたが、あのクソメガネは拍車がかかると話が長くなる。作戦立案は俺の担当じゃねぇからな……あとは、エルヴィン(あいつ)が判断するだろう」

 

「そうでしたか。ハンジさんの意見には俺も賛同しますが、団長の考えも理解できます。巨人を捕獲することで得られる情報の確証は、あまりにも低い……損得勘定で見れば、今の段階で可決に動くことはなさそうですね」

 

「だが逆に言えば、一ミリでも確証が得られた瞬間にエルヴィン(あいつ)は動くだろう……まぁ、とにかく。今は泥臭く情報を集めるに限る」

 

「それもそうですね」

 

「…それで、班の編成の方はどうだ?」

 

「まずは、ヘイターの班からお願いしようかと。ちょうど今、ここにいる2人もヘイターの班員です。……2人とも、兵長に挨拶を」

 

 

カイルに促された2人は、その場でビシッと敬礼してみせる。

 

 

「オルオ・ボザド、15歳です!」

 

「ペトラ・ラル、同じく15……って、何であんた年齢まで言うのよ!わけわかんない!!」

 

「あ、あれだ……勢いってやつだよ!いちいち突っかかるってくるな!」

 

「なによ!あんたが突っかかりたくなるようなことを言うからでしょ!?」

 

「それを言ったらお前だって、いつもおせっかいが過ぎるんだよ!」

 

 

オルオとペトラの2人はリヴァイに挨拶をするはずが、あろうことか口喧嘩を始めてしまったのだ。

 

そのやり取りを目の前に、カイルは至って冷静に話を切り出す。

 

 

「…兵長、この2人は“連携技”が得意です。その『シンクロ率』と互いへの『補完能力』は、第1分隊のベッツさんとナギアさんのコンビに引けを取らないかと」

 

「ほぅ、それは期待できるな。……仲は悪いようだが」

 

「えぇ、そのようです…」

 

 

上官2名を前にして、幼稚な口喧嘩を繰り広げるオルオとペトラ__歯止めの効かない小競り合いを見かねたカイルが2人を宥める。

 

 

「2人ともその辺にしろ。兵長の前だ」

 

「「 す、すみません!! 」」

 

 

ようやく我に返った2人は、また深く頭を下げた。

 

 

「よし……じゃあ、班長のヘイターを呼んでくるから、ここで少し待っててくれ」

 

 

そう言ってその場から離れようとしたカイルだったが、自然とリヴァイもついてきてしまったため、慌ててそれを引き留める。

 

 

「あっ、兵長……貴方もここで待っていてください」

 

「?…何故だ」

 

「実は、ヘイターのやつ……さっきトイレで()()()()()()()()()()んです。なので、ついでに洗わせてこようと…」

 

 

カイルは咄嗟に口から出まかせを言ってみたが、狙い通り、リヴァイの顔つきは一気に険しくなった。

 

 

「あぁ?それは()()()()()()だ……早急に洗わせてこい!」

 

「はっ!」

 

 

お任せあれと言わんばかりに元気よく返事をしてみせたカイルは、オルオとペトラに向かってこっそり親指を立ててサインを送る。

 

それを受けたペトラは安堵を顔に浮かべていたが、オルオは何故か青ざめた顔をしていた。

 

 

(や、やべぇよ……()()()()()()()…)

 

 

カイルがその場から去ると、オルオは唐突に下手な口実を並べ、手洗い場へと猛ダッシュする。

 

そうして、リヴァイと2人きりでその場に残されたペトラは、少し恥ずかしそうにリヴァイの顔をチラチラと伺うのだった。

 

 

 

**

 

 

 

しばらくすると、ヘイターを引き連れたカイルがこちらへ向かってきているのが見えた。

 

2人は何やら小声で話をしているようだ。

 

 

「しつけぇな……別にお前に言われなくたって、俺もそれくらい()()()()()っての」

 

「本当に頼んだよ。君は特に、兵長には口が軽いじゃないか」

 

「…へいへい」

 

 

そう言ってヘイターが不貞腐れた返事をしたとき、まるで()()()()()かのような目をしたリヴァイが目の前に立ち塞がった。

 

 

「てめぇ……ちゃんと手は洗ったのか?」

 

「はい? な、何のことでしょう!?」

 

「とぼけるな、用を足した後は必ず手を洗え!汚ねぇだろうが……これは俺の班の()()()()()()()だ、わかったか?

 

 

その凄みのある声にヘイターは恐れおののきながら答える。

 

 

「わ、わかりました!(クソッ、カイルの奴め……覚えとけよ!)」

 

 

カイルはヘイターに睨まれた気がしたが、構わずに号令をかけた。

 

 

「それでは、訓練を始めましょう!」

 

 

こうして、カイルたちはまた、より一層訓練に励んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___1ヶ月後。

 

 

リヴァイの指導の元、オルオとペトラを含むヘイター班も順調に腕を上げていき、壁外へ赴く準備は整った。

 

そして、迎えた【第36回壁外調査】。

 

調査兵団の実行部隊はトロスト区から出発し、少し先の村跡で簡易的な拠点を設置した。

 

そこで兵士たちが小休憩を取っている間に、()()()()()()

 

 

「巨人だ!森にいるぞ!」

 

 

巨人の匂いを嗅ぎつけたミケが叫んだ。

 

それを受け、エルヴィンがすぐさま指示を出す。

 

 

「総員、警戒態勢!!」

 

 

号令を受け、慌てて警戒態勢へと移る兵士たち。

 

その時、ハンジが()()()行動に出る__次の指示を待たずして、1人で拠点を飛び出して行ってしまったのだ。

 

それを目にしたエルヴィンは、すぐさま後を追うようリヴァイに命じる。

 

リヴァイは班員のヘイター、オルオ、ペトラ、それから近くにいたカイルにも号令をかけた。

 

 

「チッ、まったくあいつは……ヘイター班!ついてこい!!……カイル!お前もだ!!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

そうして、リヴァイたち5人は急いで馬に跨ると、ハンジの後を追ったのだった。

 

 

 

**

 

 

 

その巨人は()()()()()()()()()__追いついたリヴァイたちが気を引こうと試みるも、信煙弾や声掛けには目もくれず、何故かハンジを追い続けている。

 

と思えば、巨人は急に立ち止まり、今度は何か思い立ったかのように森の中へと進路を切り変えた。

 

それに続くようにして、ハンジも森の中へ姿を消してしまう。

 

唐突な進路変更に裏をかかれたリヴァイたちは、一度はハンジの姿を見失ってしまったが、カイルの『眼の能力』*1で何とか居場所を特定することができた。

 

だが、やっとのことで追いついた時には、まさにハンジが()()()()()()()()()を迎えていた。

 

それを一番に見つけたオルオが、ハンジを救わんと巨人のうなじめがけて飛び出すも…

 

 

「オルオ!待て!!」

 

 

攻撃を阻止するハンジの叫び声に気を取られ、巨人に体を鷲掴みにされてしまったのだ。

 

 

『喰われる』

 

 

オルオの顔が“絶望”に満ちた瞬間…

 

 

シュンッ………ジャキン!!

 

 

疾風の如く飛んできた影が、オルオを掴んでいた巨人の腕を()()()()した。

 

そんな芸当ができるのは一人しかいない__リヴァイだ。

 

リヴァイはそのまま空中で華麗に体を回転させると、息継ぐ暇もなくアンカーを刺し直し、瞬く間に巨人のうなじを削ぎ払ってみせたのだ。

 

すると、朽ちていく巨人の傍らで、ハンジがボソッと不満を漏らした。

 

 

「この子は、貴重な()()()になったかもしれないのに…」

 

 

それを聞いたリヴァイは険しい顔でハンジに近づくと、力強く胸ぐらを掴み上げた。

 

 

「黙れ、クソメガネ!お前が巨人の()()()()()()と言うのなら、俺は止めん……だが、部下を危険に晒すな!!」

 

「……巨人は()便()()()()よ?消化器官がないからね…」

 

 

ハンジの腑抜けた屁理屈に呆れ果てたリヴァイは、舌打ちしながら掴んでいた胸ぐらを乱暴に離した。

 

それに続くようにして、カイルもハンジの元まで駆け寄ると…

 

 

ゴッ…

 

 

頭のてっぺんに思いっきりげんこつを食らわせたのだ。

 

 

い゛ッ……痛いなぁ!何するんだ、カイル!!」

 

「…オルオだけじゃない」

 

「へ…?」

 

「俺は……ハンジさんが()()()()()()()()軽んじたことに怒っています!」

 

 

怒りを露わにするカイル__だが、ハンジも負けじと反論する。

 

 

「だから!何度でも言うけど、犠牲を恐れていては“情報”は得られない!!もし、巨人の謎がいつまで経っても…」

 

「もし、貴方が死んでしまったら!!……巨人の謎は、()()解明するんですか…?」

 

「あ…」

 

 

声を荒げてハンジの話を遮ったカイルの瞳は、いつになく感傷的だった。

 

そんな視線に当てられ、我に返ったハンジはストンと肩を落とす。

 

すると、カイルはいつもの冷静な口調に戻った。

 

 

「オルオが貴方を助けるために命を落としていたら、それは兵士として『勇敢な死』であったと讃えられるでしょう……ですが、貴方の死は……ただの『()()()()』だ

 

「…すまない。焦りで視界が狭まっていたよ。まさか、君に説教される日が来るとはね…」

 

 

ハンジはゴーグルをぐいっと額の上に上げると、手首で目尻をこすりながらさらに言葉を続ける。

 

 

「時折、聞こえる気がするんだ……()()()()()()()()()無数の魂の“叫び”が……私は1日でも早く、彼らに報われて欲しい…

 

「…気持ちは、痛いほどわかります」

 

 

そう言ってカイルがハンジに手を差し出した、その時…

 

 

「あ、あの……兵長?」

 

「なんだ」

 

「あれも……()()()()()でしょうか…?

 

 

何かを見つけたペトラが声を震わせながら大樹の(うろ)を指差した。

 

なんとそこには、()()()()()()()『兵士の亡骸』が祀り上げられていたのだ。

 

それを目にした瞬間、カイルは身の毛がよだった。

 

白骨化したその遺体からは人相はおろか、性別すら判別がつかないはずだが、カイルの瞳には“ある人物”の面影しか映っていなかったのだ。

 

 

「そんな、まさか……あり得ない!なんで、こんなところに……()()()!?」

 

 

カイルの言葉にリヴァイが眉をひそめる。

 

 

「彼女?……お前、あの遺体に覚えがあるのか?」

 

 

だが、カイルは返事もできず、遺体を見つめたまま膝から崩れ落ちてしまう。

 

その只ならぬ様子に、リヴァイも状況を察し始める。

 

ハンジはカイルの様子が気になりつつも、遺体の元まで歩み寄ると、その身元を確認した。

 

 

3()4()()()の腕章……1年前に死んだ兵士だね。名前は、……イ…ルゼ……ラン…グナー…?

 

 

その名前を聞いた途端、ヘイターの顔が青ざめた。

 

 

「なっ…んだと…!?」

 

 

ハンジも遺体を凝視しながら動揺を露わにする。

 

 

「いや、待てよ……1年前だと!?それに、イルゼってまさか……カイル!ヘイター!これはあの()()()()()()なのかい!?」

 

「「 …… 」」

 

 

あまりの衝撃に2人は言葉を発することができず、カイルがただ小さく頷いただけだった。

 

 

「何かの間違いじゃ!?……だって、こんなの()()()()()だろ!!」

 

「ハンジさん、えっと……何があり得ないんですか?」

 

 

キョトンとした顔で問いかけるオルオに対し、答えたのはリヴァイだった。

 

 

「てめぇ、少しはその足りねぇ頭で考えろ……1年前と言やぁ、俺たち調査兵団の活動領域はウォール・マリアの“外”だった。だが、ここは……ウォール・マリアの“中”だ

 

「あ…」

 

 

オルオが言葉を失っていると、リヴァイの話に付け加えるようにハンジが状況を再確認した。

 

 

「さらに、遺体は首がない状態でこの(うろ)に『保管』……されている。まるで()()()()()()()綺麗に座らされてね。とても信じられないけど、これが巨人の仕業なんだとしたら……一体、彼らの目的は何だ?

 

 

その時、リヴァイが大樹の根元に引っかかっている“何か”を見つけ、拾い上げた。

 

ハンジが尋ねる。

 

 

「リヴァイ……それは?」

 

 

「これは……イルゼ・ラングナーの()()だ」

 

 

それは、イルゼが肩身離さず持ち歩いていた『手帳』なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
ここで使用したのは、眼球に力を集中させて視界をスローモーションで捉える能力






〜後書き〜

『オルオの声って意外と渋カッコよくないですか?』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


前書きでも触れましたが、今回は【OVA:イルゼの手帳】をベースにストーリー展開しております。
※本当は1話で収めるつもりでしたが、長くなってしまったため、2話に跨っています。

エルドとグンタファンの方には申し訳ございませんが、壁外調査でハンジを追いかけるシーンの2人の立ち位置を、カイルとヘイターに置き換えさせていただきましたm(_ _)m

オルオとペトラが初陣でやらかした"あれ"とは一体何のことなのか……これは説明するまでもありませんね(笑)

さて!
イルゼの手帳を拾った調査兵団ですが、その内容についてどんな議論が交わされたのでしょうか?

次の話もお楽しみください。


◼︎次回予告:『#19 疑惑』
【OVA:イルゼの手帳】の続きになります。
さらに、新しい事件の予兆が…!?

◼︎覚え書き
850年までは、あと3話を予定しています!!
→『#22 出会い④:エレン・イェーガー』となるはず…

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