〜前書き〜
■ネタバレ注意
前回に引き続き【OVA:イルゼの手帳】をベースにしております。
OVAをご覧になっていない方にとって、ネタバレとなる内容も含まれておりますので、ご了承ください。
↓それでは、本編へどうぞ↓
___数日後。
【第36回壁外調査】の成果報告会や総括を終えた調査兵団は、いつものように殉職者たちの遺族の元を巡回していた。
そんなある晩のこと__エルヴィンに呼び出されたカイルは、団長室を訪れた。
「…今日君を呼んだのは他でもない、例の『手帳の件』だ。かなりショックを受けていたようだが……気持ちの整理はついたか?」
「はい。ご迷惑をおかけしました…」
「いや、友人の惨い姿を目の当たりにしたんだ。無理もない…」
そう言ってエルヴィンは机の上で手を組むと、ゆっくりとその口を開いた。
「…では、本題に入る。今回の事件で最も不可解と言える『イルゼ・ラングナーの遺体がウォール・マリアの内地で発見されたこと』について、幹部数名で意見を交わした結果、
「まず前者について……『自力で辿り着いた』というのは、可能性としてかなり低いかと。あの日、イルゼは沼の中で荷馬車の下敷きになっていました。荷馬車による圧迫と水温の低さにより、体力を著しく消耗していたのは間違いないでしょう……仮にウォール・マリアまで辿り着くことができたとしても、
「ならば、君の意見は後者ということか」
「はい。我々はこれまで、予測不能な行動を取る巨人を『奇行種』と分類してきました。今回もそう言った類なのかと……しかし、これまでとは明らかに
「…それはなんだ?」
「“目的”です。その奇行から読み取るに、
「目的、か…」
エルヴィンはカイルの意見を噛み砕くようにポツリと呟くと、目の前に置いてある本に視線を落とした。
「…ここにあるのは、君から受け取った彼女の『生前の手記』だが……今の話は、この本の内容にもつながるように思える」
「えぇ、この本を提出したのはそのためです。壁外で拾った手帳に書かれていた情報は、巨人と人間が
「そうだな。だが、そう思っているのなら、先日行われた兵法会議*1で君は何故……この本を
「…もちろん、初めは提出するつもりでした。イルゼの
カイルはそこまで話すと、身体の横で拳をぎゅっと握りしめる。
「…手帳の報告を受けた王政府の役人たちの反応は、想像とはずいぶんかけ離れたものでした。まるで、あたかも
その言葉に少しだけ耳をピクッとさせたエルヴィンは、声色を低め、慎重に問いかけた。
「…その仮説とは?」
「それは……巨人の謎の解明、あるいは、人類の復興すらも
「!?……続けてくれ」
「…はい。俺はこの世界の“真相”が、何者かによって
「なるほど、賢明な判断だ。……やはり、君は
「…え?」
「…あぁ、すまない。君の
「わかりました」
エルヴィンはカイルの返事を聞くと、固く握っていた手を解いた。
「…明日は、君も行くのか?」
「はい。ハンジさんと一緒に、ラングナー家を訪問する予定です」
「では……ハンジにも訳を説明して、この本を彼女の家族の元へ返してやってくれ」
「い、いいんですか…?」
「あぁ、構わない。これは彼女の
「感謝します。きっと、イルゼもそれを望んでいることでしょう…」
そう言ってカイルは深く、長く、頭を下げたのだった。
**
エルヴィンからイルゼの本を受け取ったカイルは、部屋を出るためドアノブに手をかける。
その時、何を思ったか、エルヴィンがそれを引き留めた。
「カイル……一つ、いいか?」
「…はい、何でしょう?」
「君は話の
「それはもちろん、俺の中で団長が……いえ、
「ならば、質問を変えよう……君は何故、それほどまでの信頼を私に置く?」
「?…それは、もちろん…」
カイルはさらりと答えるつもりが、何故かその先の理由が思いつかなかった。
それもそうだろう__エルヴィンが『信頼できる相手』であることは、“頭”ではなく“心”で理解しているからだ。
カイルがすぐに答えを出せずに困っていると、エルヴィンが冗談交じりの表情で詫びを入れる。
「…いや、すまない。君からの敬意は快く受け取っているつもりだ。意地の悪いことを聞いてしまったな……忘れてくれ」
「いえ、お気になさらず……確かに、団長にしては珍しいですね」
「あぁ、そうだな。……今晩は、ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます。団長もゆっくり休まれて下さい。……それでは、失礼します」
カイルは少しはにかみながら会釈をすると、エルヴィンの部屋を後にしたのだった。
***
___翌朝。
ハンジと共にラングナー家を訪れたカイルは、受け取った遺品にすがりつくようにして涕泣するイルゼの両親を目の前に、かける言葉が見つからないでいた。
イルゼの遺作については、その内容が王政府に対する反逆的な思想となり得る可能性を説明し、世間に公表しないよう頼み込んだ。
帰り際、玄関の前でイルゼの父親が涙ながらに語る。
「カイル分隊長殿……あの子のためにも、この本は世に出さないことをお約束します。しかし……娘の物語は、
イルゼの父親はそこまで話すと、勢いよく頭を下げ、声に力を込めた。
「どうか、お願いします!あの子の……イルゼの意思を継ぎ、この物語を紡いでいただきたい!あなたが生きている限り、イルゼの“魂”が宿ったこの物語は、
そう言って肩を振るわせながらしきりに頭を下げ続ける父親の背中を、カイルはぼんやりと眺めた。
娘の死を無駄にしたくない_父親の切望が痛いほど胸に突き刺さる。
するとその時、どこからともなく現れたフィンがイルゼの父親の肩に降り立った。
「!?……フィン…」
フィンは首を傾げながら此方をじっと見つめている__その瞳はまるで、何かを訴えているかのようだ。
そんなフィンの様子に、カイルはイルゼと初めて出会った屋上でのことを思い出す。
―“『おばあちゃんが遺した作品は、今でもたくさんの人の中で生き続けている。私もそんなおばあちゃんに憧れて作家になろうと思ったんだ!』”―
(そう話す君は、すごく良い
「…顔を上げてください、ラングナーさん」
カイルは静かにそう言うと、ぎゅっと唇を嚙み、イルゼの父親に向かって力強く敬礼をしてみせた。
「お約束しましょう、イルゼの意思を途絶えさせないと。そして、必ずや……この物語の“結末”に
「うぅっ……あ…ありがとう…ござい…ます…っ…!」
イルゼの父親は絞り出すようにお礼を言うと、再びその場に泣き崩れた。
そうして、カイルとハンジは別れの挨拶をしたのち、ラングナー家を後にしたのだった。
***
___調査兵団本部への帰路の途中。
「…ハンジさん。今日は
「いやいや、それにしてもよかったよ。君もついてくると聞いたときは安心した……きっと今頃、彼女も喜んでいるはずさ」
「…えぇ、だといいですが…」
「やけに自信無さげの様子だね……大方察しはつくけど、理由を聞いてもいいかい?」
「…どうしても引っかかるんです。『望まない者』の存在が…」
「君が行きに話していた、あの“仮説”のことだね」
「はい。イルゼのご両親の前では堂々と誓いを立ててしまいましたが、正直言って……
「恐い?」
「イルゼを悲しませることになるんじゃないかって、不安で……この物語の“結末“が必ずしも
そう言って顔を俯かせたカイルは、哀しい声色でハンジに問いかける。
「…ハンジさん。一体、誰がこの世界の真実を知るのでしょう?……俺たちの“敵”は
そう嘆くカイルの瞳に憂愁の影が差す__ハンジは締め付けられる胸に手を当てながら答える。
「…わかるよ。先日の兵法会議で抱いた疑念は、君と同じだ……私も今回の件では、考えを改めさせられたよ。これまで私は、“情報”を得ることが巨人の謎の解明につながると信じて研究を続けてきた……だが、実際はどうだ!? 情報を得たのに、
ハンジはそこまで話すと、眼鏡をくいっと押し上げ、眼光を研ぎ澄ました。
「だが……それでも、私は進むよ。知らなきゃよかったなんて“後悔”は、後でいくらでもすればいい!人間の『探究心』は、そう簡単に飼い慣らされるほど可愛げのあるものじゃないんだ!結果の善し悪しは、知ってから判断したって遅くない……だから私は、研究を続ける!例えそれが、人類にとって
「ハンジさん…」
「そこで、君に一つ頼みがある!」
「…頼み?」
「あぁ、以前から私が提唱している『巨人の捕獲案』についてだ。実は、エルヴィンに手帳を渡す際に手紙を同封したんだけど、あれから音沙汰なくて……君からもぜひ一押ししてもらいたいんだ」
「あ…すみません。伝えそびれていましたが、その件なら昨日……」
ザッ…
その時、二人の目の前に人影が立ち塞がった。
それは、溢れんばかりの掃除道具を背中に背負い込んだオルオだった。
その後ろにはリヴァイとペトラもいる。
聞くと、リヴァイは自身が管理している掃除道具の新調のため、オルオとペトラを引き連れ街を訪れていたところ、ハンジとカイルを偶然見かけたのだという。
そして、オルオが先の壁外調査での失態をハンジに謝罪したいと言い出し、2人の後を尾けていたらしい。
苦々しい顔で己の愚かさを卑下し続けるオルオ__すると突然、ハンジがオルオの話を遮る勢いで胸ぐらに掴みかかった。
「いや……謝るのは私の方だ。私は君を
そう言ってハンジは自身の身勝手な行動で危険な目に遭わせてしまったことを詫びた。
しかし、当のオルオは首元を締め上げられたことにより、舌を出しながら泡を吹いていた。
「…うっ……くる…し……ぐぇっ…」
「いや、ハンジさん……
カイルに諭され、我に返ったハンジが驚く。
「うぇえ!?本当だ!……大丈夫!?」
ドサ!……ガリッ…
急に胸ぐらを離されたことで後ろに倒れ込んだオルオは、その拍子に舌を噛んでしまうのだった。
そうして、一同はまた本部への帰路につく。
途中、エルヴィンが巨人捕獲作戦の
20日後__調査兵団の指揮の元、ウォール・ローゼの壁の窪みを利用した【巨人捕獲作戦】が決行された。
その作戦ではハンジ考案の新たな捕獲方法が採用され、
***
___それから、さらに数日後。
訓練を終えたカイルがいつも通り自分の部屋へ戻ると、窓のへりに横たわる小さな影が一つ__急いで駆け寄ると、それはフィンだった。
カイルは吐息のような短い悲鳴をあげながら、手のひらで優しく包み込むようにフィンを持ち上げた。
その体は氷のように冷たく、ひどくぐったりとしている。
そう、フィンは寿命を終えたのだ。
突然のことで悲しみに暮れたカイルは、その小さな亡骸を抱きかかえ、しばらく咽び泣いた。
それからフィンが亡くなったことをハンジに知らせ、外出の許可を取ると、カイルは
**
【トロスト区内門前:調査兵団所有墓地】
そこは、トロスト区の向かい側、ウォール・ローゼ内に佇む街の外れに位置する。
この墓地は、調査兵団が壁外調査から帰還した際、兵士たちの遺体を埋葬するためのものだ。
実は、イルゼの亡骸もこの墓地に埋められている__『娘には自身が選んだ世界で、仲間たちと共に飛び立って欲しい』__それが、イルゼの両親の意向だった。
カイルは
墓地に到着する頃には、夜も深まり、時刻は夜中の12時を回ってしまっていた。
ザリッ…ザリッ……ジャッジャッ……
静まり返った墓地に土を掘る音が響く。
カイルはイルゼの墓標の横に小さな穴を掘ると、フィンの亡骸をそっと置き、上から丁寧に土をかけてやった。
「君はイルゼと仲が良かった。ここなら安心して眠れるだろう…」
それから小さな石盤を取り出すと、平らな面にピックでガリガリと文字を掘り始める。
「……よし、こんなところかな」
盛られた土の前に差し込まれた石盤には、小さく『 f i n 』と刻まれていた。
「ハンジさんの知り合いの方が言ってた。野性の小鳥が10年近くも生きるのは非常に稀だって……君、本当は無理してたのか?いつもケロッとしているから気づかなかったよ…」
そう話しながら2人の墓の前に花*2を添えたカイルは、ゆっくりと立ち上がった。
「フィン、今まで傍にいてくれてありがとう……俺は先に進むよ。
そして、土で汚れた拳を左胸に強く押し当ててみせると、迷いのない足取りで墓地を後にしたのだった。
**
墓地は再び静まり返った__
「行ったようね…」
木陰に身を潜めながらカイルの後ろ姿を目で追いかける『怪しい人影』が2つ。
「暗くて顔がよく見えなかったけど……
「さぁな、奴の顔以外はそう興味はない」
「…ったく、取引の場に
「それは大層な誉め言葉なこって。しかし、こんな深夜に墓参りへ来る奴がいるとは、こちらも想定外だ。……だが、こういった
「フンッ…お
「まぁ、そう言ってくれるな。私は
「…それで、“条件”と“報奨金”の方は?」
「はぁ…これだから素人は……そう、焦るな。金ならいくらでもある。条件は、この誓約書を読むことだな」
そう言ってハットを被った長身の男は、髪の長い女に筒のようなものを渡した。
それから近くに停めていた馬車に乗り込むと、そそくさと墓地から去って行ったのだ。
墓地に一人残された女は、筒を握りしめながらボソボソとつぶやく。
「ようやくこの時が来た。私をこんな目に遭わせたこと、絶対に
するとその時、いつの間にか雲の隙間を抜けていた月が墓地一帯をぼんやりと照らした。
女は月明りに怪しく光る
「今に見てなさい……エルヴィン・スミス…!」
―【 続く 】―
〜後書き〜
『胸ぐら掴みながら謝るってどんな心境?(笑)』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
普段はヘラヘラとしているハンジですが、誰よりも人類復興への熱い想いを抱いているのが良いギャップですよね。
今回の話では【OVA:イルゼの手帳】の内容を踏襲しつつ、著者の見解も交え、調査兵団が王政への" 疑惑 "を抱き始めるきっかけを描いてみました。
何故、イルゼの手帳に関する話に厚みを持たせたのか…
語ると長くなりますので、気になる方は下記の記事をご覧ください。
◎関連記事:【イルゼの手帳】への脚色について
https://note.com/singeki_satory/n/nc7ff0c33ffaa
さて、イルゼとともにフィンも眠りについてしまいました。
(ありがとう、フィン…)
果たして、墓地でうごめく怪しい影の正体とは…!?
次の話もお楽しみください!
◼︎次回予告:『#20 復讐 〜エルヴィン暗殺事件〜』
原作にはないオリジナル事件です。
850年を前にカイルの身辺を整理しておきたくて…(笑)
ちなみに、生来の変人ことピクシス司令の初登場回となります!