進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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~前書き~

■注釈について

今回の注釈は、幼少期スピンオフ【進撃の巨人~Another Choice~】(https://syosetu.org/novel/368820/)からの補足が大半となります。

↓それでは、本編へどうぞ↓




#02 心中

 

 

___838年。

 

 

雨上がりの空に、太陽が高く昇る。

 

カイルの通うモンテガルド校は()()()()()を受け、臨時休校となった。

 

憲兵の現場調査によると、牧場の出火原因は事故によるものではなく、『第三者の犯行』の可能性が高いことが判明したとのこと。

 

そのため、学校側も事情聴取などの協力を義務付けられたのだ。

 

 

 

そんな中、街の中心にあるモルーロ広場では、暇を持て余すようにブランチを嗜む少女の姿があった。

 

カイルのクラスメイトの一人、“ブランカ・メシュレヒト”だ。

 

その目の前には強制的に付き合わされたブランカの側近、リッツとオリンダ*1が肩をすぼめながら座っている。

 

二人が気まずそうにチラチラと目を合わせていると…

 

 

…〜~!……っ!?……〜〜〜!!

 

 

市場の奥からざわついた声が聞こえてきた。

 

それでもブランカは気に留める様子もなかった。

 

淹れたての紅茶を啜り、焼きたてのシュネッケ*2をかぷりと頬張る。

 

すると、その時…

 

 

「あっ…」

 

 

リッツとオリンダの表情が急に強張った__二人の目線はブランカの後ろに向いている。

 

流石のブランカも場の空気が変わったことに気づき、食べ途中のシュネッケを皿に置いた。

 

それから口元を丁寧に拭ったのち、視線を前に向けたまま静かに喋り出したのだ。

 

 

()()()()……あんたなら来ると思っていたわ」

 

 

振り返ると、そこには全身泥まみれのカイルが突っ立っていた。

 

 

「って、何よその格好!?……臭っ……まさかそれ、“馬糞”なの!? あっははは!醜いあんたにはお似合いの格好じゃない!」

 

 

早速、華麗な挑発をかますブランカ__だが、カイルは表情一つ変えることなく、落ち着いた声色で話を切り出した。

 

 

「…君なんだろ? 火事を起こしたのは」

 

「そうよ!だったら何? 私を憲兵にでも突き出すのかしら?」

 

 

あっさりと犯行を認めるブランカに、リッツとオリンダのみならず、周りにいた住民たちも食べる手を止めて聞き入った。

 

カイルは周囲の反応を見渡したのち、再びブランカに向き直る。

 

 

「ずいぶんと大人しく認めるんだね」

 

「ハッ…だって、あんたが告発したとしても、“証拠”がないもの」

 

 

それを聞いたカイルは、ブランカの右腕を指差した。

 

 

「腕のそれ、火傷だろ? 放火した時に負ったんだ……違うかい?」

 

「あら、見当違いね。これは昨日、家でお茶を淹れるときにティーポッドに触れて火傷したのよ……こんなの、証拠にならないわ」

 

「…ついさっき、大きな声で犯行を認めたじゃないか。この広場の人が君の自白を聞いた」

 

「フンッ!こんな庶民共、金と権力でいくらでも口封じできるわ!()()()()()*3の権威を甘く見ないことね……さぁ、他に切り札はあるかしら!?」

 

「いや、ない。そもそも俺は、君を()()()()()()()()()()()()んだ…」

 

 

カイルはそこまで話すと、深く息を吸い込んだ。

 

そして、鋭く研磨された刃のような眼光でブランカを見下した。

 

 

「俺は君を殺す。そのためにここに来た」

 

 

突如として放たれた物騒な言葉に、リッツとオリンダはガタガタと肩を震わせる。

 

だが、ブランカだけは違った。

 

 

「ぷっ…あっはははは!ずいぶんと自信満々じゃない。あんたこそ、こんな人目のつくところでそんなことしでかしたら、一貫の終わりだわ!やれるもんならやってみなさいよ!!」

 

 

威勢よく凄んでみせるブランカ__しかし、その後ろでは、リッツとオリンダが怯えた表情で後退っている。

 

 

「ぶ、ブランカ……これ以上はまずいんじゃ…」

 

「リッツの言う通りだよ!い、今ならまだ罪が軽くなるかも!!」

 

 

それでもブランカは、二人の意見に耳を貸そうとしない。

 

 

「罪を認めろと? 冗談じゃない!私は()()()()()()()()()()。むしろ称えられるべきだわ!……さぁ、やられる前にこっちから仕掛けなさい!!」

 

「で、でも…」

 

「私たちでは、とても…」

 

 

顔を俯かせるリッツと、声を震わせるオリンダ__情けなく戦意喪失する二人に腹を立てたブランカは、柳眉を逆立てた。

 

 

「口答えするな!あんたたちの親の地位や権力が健在なのは、誰のおかげだと思ってるの!? ラング商会の手にかかれば、あんたたちを家族諸共、路頭に迷わせることなんて容易いことよ!そうなりたくなければ、さっさとあいつに襲い掛かりなさい!!」

 

「うっ……くっ……うわぁぁぁぁ!!

 

ダッ…

 

 

ブランカが脅すと、リッツとオリンダはようやく腹を括ったのか、奇声を上げながらカイルに突進し始めた。

 

しかし、カイルの()()()()()()、情けなく走り出した二人の動きを読むことは赤子の手を捻るように簡単だった。

 

 

ズン!……ドコォ!

 

 

二人のみぞおちに一発ずつ、鋭い打撃が入る__リッツとオリンダは瞬く間に、ダウンさせられてしまったのだ。

 

カイルはうずくまる二人の傍でパンパンと手を払いながら、何事もなかったかのように話を続ける。

 

 

「ブランカ、君には友達を思いやる気持ちがないのか? 可哀そうに…」

 

「何よ、偉そうに……自分にはそういう友達がいるという口振りね!? その()()()()()()をあんたに贈った相手がそうなのかしら?」

 

「少なくとも、君が思うような友達ではないけれど……うん、いるよ」

 

「ハッ…笑わせないで!()()を見てもまだそんなことが言えるかしら!?」

 

 

そう言ってブランカは首元に隠していたネックレスを外すと、見せつけるようにぐっと前に差し出した。

 

その装飾に見覚えのあったカイルは、自身の左腕に括ってあるブレスレット*4と見比べる。

 

 

「…似てる」

 

「これは、私が10歳の誕生日にアデルから贈られたものよ。あんたがそれを貰ったときよりも、もっとずっと前にね!」*5

 

「そうか……やっぱり君の“許嫁”は、アデルだったんだね」

 

「そうよ!これでわかったかしら? あんたが今そんな格好をする羽目になったのは、()()()()()()()だってね!恨むなら、彼をたぶらかした自分自身を恨みなさいよ!……前にも言ったでしょ? あんたは『悪魔の子』。蔑まれて当然よ!!……そして、これから成敗されることにも文句は言えないわ!!」

 

 

そう啖呵を切ったブランカは、隠し持っていたナイフでカイルに切りかかった。

 

 

スパッ…

 

 

寸でのところでかわすカイル__しかし、振り下ろされたナイフの切っ先が腕をかすめ、ブレスレットが地面に切れ落ちてしまう。

 

 

「あ~ら、ごめんなさいねぇ? 唯一の友達からもらった大切なものを無下にしちゃったわ。でも、()()()()わよねぇ? だって、あんたがそうさせるんだもの…」

 

 

それを聞いたカイルはくわっと顔を強張らせた。

 

平静を保ち続けていた堪忍袋も、とうとう緒が切れたのだ。

 

 

「悪魔はどっちだ!君のこれまでの所業は、悪魔そのものじゃないか!そして、踏み入れてはいけない領域に足を突っ込んだ……何の罪もない人間と動物を殺したんだぞ!!それが、『仕方なかった』の一言で済まされると思っているのか!? ()()()()()()()。この世に存在してはいけなかった……だから君を消して、俺も消える!!

 

 

物凄い剣幕で異を唱えるカイル__しかし、ブランカも負けじと反論する。

 

 

「ふざけるな!お前なんかと一緒にされてたまるか!この薄汚い“悪魔”がっ……存在してはいけなかったのは、お前の方だ!お前だけが、この世から消え失せろ!!

 

 

ブランカはそう叫びながら、再びカイルに襲い掛かる。

 

だが、カイルが同じ轍を踏むことはなかった。

 

 

ガンッ!

 

 

鈍い音と共に、ブランカがよろける。

 

突き出されたナイフをひらりと軽くかわしたカイルが、そのままブランカの懐に入り込み、顔面に拳をお見舞いしたのだ。

 

カイルの反撃はこれだけでは終わらない。

 

今度は瞬時に体をかがめると、回し蹴りでブランカの手からナイフをはじき飛ばした。

 

さらに体をもう一回転させ、ブランカの腹を思い切り蹴飛ばす__

 

 

ボゴッ!

 

 

………

 

 

 

それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

しかし、カイルの視界には()()()()()()()()()()()()()()()映っていた。

 

地面に倒れ込んだブランカは反吐を撒き散らし、脳震盪でも起こったのか意識が朦朧としている。

 

そこへ、奪い取ったナイフの切っ先を向け、カイルが王手をかけた。

 

その尋常ならざる状況に、初めは子どもの喧嘩だと気に留めなかった周りの大人たちも、徐々に立ち上がり始める。

 

だが、止めに入ろうにも、馬糞まみれで悪臭を放つカイルに近づけないでいたのだ。

 

 

「ははっ、滑稽だね……君は、()()()()()姿()の俺に殺されるんだ。せいぜい地獄で、その屈辱を噛みしめてくれよ? そして……ネフェルや動物たちの“苦しみ”を思い知れ!!

 

 

そう叫びながら、ナイフを天高く振り上げた。

 

その時…

 

 

パシッ!

 

 

誰かがカイルの腕を掴んだ。

 

予想外の事態に驚きながら振り返ると、そこには長身の見知らぬ男性兵士が立っていた。

 

ピシっと着こなされた兵服に、綺麗に()()()()()()()__さらに、胸元には『自由の翼』のシンボルが刺繍されている。

 

 

(この刺繍……調()()()()の兵士!? なぜ、こんな街に…)

 

 

そして、兵士と目が合った瞬間__カイルの脳裏に、ジェイク*6の言葉が浮かんだ。

 

 

 ―“『いつか君の才に気づき、目指すべき進路を示してくれる者が現れるじゃろう』”―

 

 

「見つけ…た…」

 

 

すると突然、雷に打たれたような痛みがカイルの後頭部に走った。

 

 

「うぁっ!!」

 

 

あまりの激痛に、カイルはその場で気絶してしまう。

 

兵士は倒れ込むカイルを抱きかかえると、すぐさま付き添いの兵士を呼びつけた。

 

 

「クライス、来てくれ!」

 

「お呼びですか、分隊長!えっと、その子は一体…」

 

「急いで憲兵に連絡を。この近くに駐屯地があるはずだ」

 

「は…はっ!」

 

 

付き添いの兵士がその場から立ち去って行くと、今度は周囲の住民にも協力を求める。

 

 

「どなたか3名ほど、手伝っていただけませんか!この子たちを病院へ連れていきます!」

 

 

兵士の毅然とした態度に感化され、それまで唖然と立ち尽くしていた住民たちの足が動いた。

 

数名が近くに駆け寄ると、兵士は落ち着いた声色でそれぞれに指示を出し始める。

 

 

「まずあなたは、この子たちを運ぶための荷馬車を手配してください。それからあなたは、そこの飲み水で赤毛の子の口を反吐が詰まらないようゆすいであげてください。その間にあなたは、なるべく多くのバケツに水を汲んできてください。この子の体の汚れを流します。それから……~~~~」

 

 

その兵士の指示は、“迅速”で“的確”だった。

 

その兵士の風格は、それまで我関せずだった住民たちが手を取り合うほどに、貫禄のあるものだった。

 

 

………

 

 

 

その後、カイルを含む()()()()数名は、無事に病院へと運ばれた。

 

そして、その先で見る“夢”によって__

 

 

カイルの運命は、大きく揺れ動かされるのだった。

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
幼少期スピンオフ『#11 いじめ』にて登場しています。

*2
ドイツの伝統的なスイーツパンのこと。後書きにシュネッケ題材の記事を載せています。

*3
ブランカの叔父グリッツ・ラング氏が会長を務めるガルド街を代表とする商会

*4
ブレスレットの詳細は、幼少期スピンオフ『#12 森閑』以降で確認できます。

*5
この時点でカイルたちの年齢は13歳。

*6
ジェイク・アッカーマン:幼少期スピンオフ『#05 理解者』で登場した本屋の主人のこと。





〜後書き〜

『ドイツのスイーツパン、“シュネッケ”は【カタツムリ】って意味らしいですよ』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今後この『後書き』には、物語の裏話や解説、おまけ話などを記載します。

※読み飛ばしていただいても物語に支障はありませんので、ご安心を。


さて!

馬糞まみれのカイルの腕を掴んだ兵士は一体誰でしょね!?(ほぼバレてる)

次回の話もお楽しみ下さい。


■おまけ
◎ちょっとしたこだわりポイント
https://note.com/singeki_satory/n/nb1eb23d00769
・記事:ブランカが”シュネッケ”を頬張った理由
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