〜前書き〜
【女型の巨人編】その②です。
今回も原作沿いで、第29~30話にあたります。
女型との闘いは、『押しては押され』といったように戦況が目まぐるしく変化するのが非常に面白いです。
ハラハラドキドキさせられる展開という点から、タイトルを考えました。
■お詫び
関連するアニメの回で追加されたオリジナルシーン(カラネス区への帰還途中の話)は、この物語に組み込んでおりません。
※詳細は、後書きに記載。
↓それでは、本編へどうぞ↓
___『女型の巨人』の2度目の出現からまもなくして。
指令班の元へ向かっていたカイルは、巨大樹の足元で並走するエルヴィンとハンジの班を発見した。
「団長!女型の巨人が再び姿を現しました!リヴァイ班が襲われています!!」
カイルの報告を受けたエルヴィンは、目を見開く。
「!? ここまで早いとは……状況は?」
「それが……
「…まずいな。場所は?」
「ここから10時の方角、500メートル先です!兵長は一人で先に向かわれました。至急、応援を!!」
「わかった。君は後ろの荷馬車班から何班か連れて、先に向かってくれ!我々もすぐに兵を集め、後を追う!!」
「了解!!……それから、もう一つ…」
「…なんだ?」
「女型が出現した方角の上空には……リヴァイ班のものと思われる信煙弾が
「!?……なるほど、やはり
そう言ってエルヴィンはハンジと目を合わせ、小さく頷き合う。
2人の様子から意図が伝わったことを確認したカイルは、元来た方角へと体を向け直した。
「では、お先に………アデル班!ワンダ班!ついてこい!!」
「「 了解! 」」
***
___数分後。
アデル班とワンダ班を連れたカイルは、女型の巨人が出現した場所に到着した。
だが、そこにリヴァイたちの姿はなく、あるのは蒸気を上げているエレン巨人の死骸のみだった。
その死骸は頭部が大きく破壊され、うなじが肉ごとかじり取られている。
「これは……まさか、エレンはすでに敵の手に!?……兵長やリヴァイ班はどこだ!?」
「カイル、ここを見ろ!足跡だ!!」
アデルに促され、地面を確認するカイル__そこには、女型のものと思しき足跡が。
「まだ、新しい…」
すぐさま足跡の続く方角へと目を凝らすと、数百メートル先で、物凄い血しぶきと蒸気が上がっているのが見えた。
(なんだ!? あの
カイルはすぐさま号令をかけ、その戦場へと向かう。
だが、カイルたちが駆けつけた時には、とうに“決着”がついていたのだ。
全速力で向かうカイルたちの目の前に、突然、ドロドロの塊を抱えたリヴァイが現れた。
その後ろには何故かミカサもいる。
「兵長!ご無事で!?」
「…あぁ、なんとかな」
「抱えているそれは、まさか…」
「エレンだ。汚ねぇが、たぶん生きてる………ワンダ、こいつを持て」
そう言ってリヴァイはワンダに向かってエレンを放り投げた。
「イヤだ、汚い!!」
ワンダは拒絶しながらも、しっかりとエレンをキャッチする。
それを見ていたカイルは、エレンの状態を気にかけるよりも先に、リヴァイの
「兵長?……
「!?」
カイルの言葉に真っ先に反応したのは、ミカサだった__リヴァイの後ろで口元を震わせるミカサの顔は、やけに青ざめている。
その様子に気づいたリヴァイは、カイルの気遣いに難癖をつける。
「チッ……お前はいつも、
「やはり怪我を……とにかく、これ以上は無理をなさらないでください。………ところで、女型は?」
「奴ならあっちでくたばってる。全身の肉を削いでおいた……死んじゃいねぇが、しばらくは動けんはずだ。おそらく、体力もかなり消耗してる。今のところ人間の姿に戻って追ってくる様子もないからな……撤退するなら今しかねぇ」
それを聞いたカイルは顔を曇らせる。
「では、女型を
「あぁ、そうだ」
「……」
この時、カイルの胸中は穏やかではなかった。
『女型の巨人は数え切れないほど多くの仲間を惨殺した。然るべき報いを与えねば気が済まない』
そんな私欲的な思考が脳裏に浮かんだ時、カイルはそれを押さえ込むように
瞳に映るのは、ヘイターやセト、それからオルオやペトラたちの“面影”__朗らかな光に包まれた彼らの体は、まるで手の届かない場所にいるかのように、遠い。
耳を澄ませば、まだ彼らの声が聞こえる気がする。
そんな声々に導かれるように
一呼吸置き、体に力を入れ直したカイルは、その小さな口を大きく開く__
「ワンダ班はエレンと兵長を連れて、このまま西の本部へ向かえ!!……アデル班は俺と来い!指令班への報告後、可能な限り
「「 了解! 」」
「ミカサ、君もワンダ班と共に行くんだ。兵長は足を負傷している……サポートを頼めるか?」
「了解…しました」
「ありがとう。それから、兵長…」
再びリヴァイに目を向け直したカイルは、何かを察したかのように眉をひそめると、声を和らげて一言添える。
「リヴァイ班のこと・・・・・・
「…あぁ」
そうして、リヴァイたちと別れたカイルは、再び指令班の元へと飛び立って行ったのだった。
***
___数分後。
指令班へエレンの無事を報告し終えたカイルたちは、荷馬車班を引き連れ、立体機動で移動しながら遺体の回収へと向かった。
カイルがまず目指したのは、エレン巨人の死骸を発見した場所だ。
その付近にリヴァイ班の遺体があるはず__そう語るカイルにアデルが問いかける。
「お前、いつの間に……遺体を見たのか!?」
「…いや、見てない。あの場には兵長とミカサしかいなかった。何故ミカサがいたのかは知らないが……でも、それが答えだ。それに、兵長は部下を失った時、いつも同じ顔をする。
「それじゃあ、本当にリヴァイ班は……エルドとグンタも…!?」
カイルは静かに頷いた。
「っ…!」
込み上げる悔しさからグリップを握る手に力が入ったのか、アデルは情けなくもガスを吹かしてしまう。
カイルはアデルの様子に同調しながらも、先を急ぐよう促した。
「君も辛いだろう*1……だが、今は仲間の死を嘆いている暇はない。巨人がまた森の中に散らばり始めている……とにかく急ごう!!」
「…あぁ!」
**
そして、カイルたちはエレン巨人の死骸発見箇所から少し手前のところでリヴァイ班の遺体と対面する。
_首の皮一枚で頭が繋がっているグンタ。
_頭から左半身を大きくかじり取られたエルド。
_全身の骨が粉砕され体がひしゃげているオルオ。
_木の幹に押し潰されたペトラ。
変わり果てた部下たちの無惨な姿に息が詰まりながらも、カイルたちは急いで遺体を布で包む。
「オルオ、ペトラ……君たちは本当に勇敢だった。誇らしく思うよ」
そう言いながらカイルが荷馬車に積んだ遺体にそっと手を伸ばし、ペトラの
ドッドッドッドッドッドッ…
「分隊長!巨人がこちらへ向かってきています!!」
「すぐに出発だ!巨人の目を掻い潜りながら遺体を回収する!!」
だが、事はそう
***
___しばらく森を進み、何名かの遺体を回収した頃。
…プスッ…ッススーーー…
「クソッ…ガスが切れた!荷馬車の誰かと取り替えてくる!!」
憎たらしそうにガスボンベをコツンと叩くアデル__それを聞いたカイルは瞬時に周りを見渡し、荷馬車の元へ降下しようとするアデルを引き留める。
「アデル、待て!!……俺たちも騎馬に移る。もう、
「まだ限界まで進んでいないだろ!? そこら中で仲間たちが待ってる!すぐにガスを補充すればっ…」
「いや、かなり囲まれた。これ以上遺体を積めば、巨人を振り切れない……ここらが潮時だ」
あまりにもあっさりと引き上げようとするカイルに、アデルはわなわなと声を震わせる。
「だがっ……ヘイターとセトが
その名前に耳を少しだけピクリとさせたカイルは、前髪で目元を隠すように俯く。
「…これまでに回収できなかった兵士たちはごまんといる。
「お前、いつからそんなっ…」
「アデル!!………頼む」
力なく懇願するカイルの声がアデルの胸を衝く__見ると、カイルの瞳は酷く潤んでいた。
その瞳から思い出されるは、5年前のこと__アデルはハッと我に返る。
「…すまない。今度は俺が、お前の“覚悟”を踏みにじるところだった…」
「いいんだ………行こう」
そう言ってカイルはブレードを腰に収め、身体を森の中央へ向け直すと、突き上げた拳を強く胸に押し当ててみせたのだった。
***
___その後。
森を抜け、カイルたちが本部へ合流する頃には、すでに陣形が再構築されていた。
調査兵団の生存者たちは、
途中、何度か巨人の襲撃を受けながらも無事にウォール・ローゼの壁をくぐり、カラネス区へ帰還することに成功した。
調査兵団はそのままの足で、ウォール・ローゼの内地へと向かう。
エレンには再び見張りの兵士をつけ、『旧調査兵団本部』で過ごしてもらうことに__残りの兵士たちはトロスト区の支部で一時待機とした。
そして、付き添いでエレンやリヴァイたちを旧調査兵団本部へ送り届けたカイルは、そこからさらに“ある場所”へと向かったのだった。
***
___【トロスト区内門前:調査兵団所有墓地】
イルゼとフィンが眠る墓石の前に、カイルはいた。
カイルは何をするわけでもなく、ただ膝を抱えて丸まっている。
すると、その背中を包み込むような影が一つ。
「やっぱりここにいたか…」
「…アデル」
「隣、いいか?」
カイルが声もなく頷くと、アデルは地面に腰を下ろした。
2人は黙ったまま墓石を眺める__しばらくすると、カイルの方が先に口を開いた。
「覚えてるか? アデル……俺が調査兵団に入った“目的”を…」
「団長……いや、エルヴィンさんに仕えるため……だろ?」
「そうだ。……いや、
「…今回のことで、団長への信頼を失ったか?」
「そうじゃない。むしろ、エルヴィンさんを信じているからこそだ……この“怒り”の矛先はどこへ向けたらいい? 死んでいった仲間たちは、どうすれば報われる?……俺には、わからない」
いつにも増して弱々しい声でそう語るカイルは、膝に顔を埋めたまま少し声を強める。
「どうしても『あの時、違う選択をしていれば』と、つい考えてしまうんだ………まるで、あの
その言葉に、アデルは顔を歪めながらカイルを見つめる__すると、カイルはいつの間にか顔を上げていた。
膝の上で交差させた腕をギュッと掴み、遠い目で墓石を眺めるカイルの瞳には、
カイルは瞳の中の炎を揺らがせながら、さらに言葉を続ける。
「けど、俺は……それでもエルヴィンさんを信じてる。多くの仲間を失った今でも『あの人の選択は、
覆い被さる“罪悪感”に身を震わせたカイルは、助けを乞うような顔でアデルに問う。
「教えてくれ、アデル……俺は一体、どんな顔で彼らを見送ればいい?」
空虚な風がカイルの前髪を揺らす__その隙間から覗かせる瞳は、淡く澄んだ色をしていた。
切ない眼差しを向けられ、奥底にしまい込んでいた感情がまたうずき出す。
秘めた想いを悟られまいと顔を逸らしたアデルは、しばらく考え込んだのち、口元を引き締めながら言葉を紡いだ。
「何が正しいかなんて、誰にもわからない。そもそも、正解なんてものがないのかもな……だが、俺はここ数年で一つわかったことがある」
「…わかったこと?」
「
「!?」
視界の淵で目を見開いたカイルが此方を見つめているのがわかった__だが、アデルは構わず続ける。
「あの人の中に“何か”を感じた。だから、お前はエルヴィンさんについて行こうと思ったんだろ?……なら、俺たちにできることは、あの人の切り開く道をただひたすらに
「…君は本当に、アデル…なのか? 一体、いつからエルヴィンさんにそれほどの信頼を…」
「さぁな。はっきりとした根拠は、その…上手く
「アデル…」
カイルの顔の強張りはいつの間にかほぐれていた。
その様子に安堵したアデルは勢いよく立ち上がる。
「そろそろ行こう。俺たちにはまだ解決しなければならない問題がある……彼らをゆっくり弔うためにも、まずそれと向き合うことだ」
「問題って、まさか…」
「さっき憲兵団からの遣いが来て、王政府の命で
「…団長はなんと?」
「何か目星でもあるのか、女型の巨人と接触した兵士たちを集めてる……これから事情聴取を始めるそうだ。カイル、お前も付き添うようにと」
「わかった。すぐに向かおう」
凛々しい表情で立ち上がったカイルは、近くに繋いでいたシャルルに跨ると、気持ちを新たに手綱を握る。
墓地を去る直前、アデルはもう一度だけ後ろを振り返った。
「なぁ、一つだけ聞かせてくれ。あいつらの“最期”を…」
カイルは前を見つめたまま答える。
「2人は最期まで……凄く、
***
___月が高く昇る頃。
調査兵団トロスト区支部では、壁外調査時における『事情聴取』が執り行われていた。
「つまり、女型は君たち104期訓練兵である可能性があり、生け捕りした2体の巨人を殺した犯人とも思われる……そう言いたいのか?」
「…はい」
エルヴィンの問いに恐る恐る答えるのは、調査兵団の新兵であるアルミン・アルレルトだ。
証拠がないため推察ではあるが、信憑性の高い情報だと踏んだエルヴィンは眼光を研ぎ澄ます。
「それで、彼女の名は…?」
上官たちが見守る中、アルミンは目を泳がせながらも、力強く答えたのだった。
「名は……アニ・レオンハートです」
―【 続く 】ー
〜後書き〜
『兵長が亡きリヴァイ班の顔を一人ずつ見て回るシーンは、涙なしには見られません』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回はイルゼの時と逆で、アデルがごねてカイルが諭すという構図にしてみました。
さて!前書きで述べたアニオリシーンを組み込まなかった件ですが…
その理由を簡単に説明すると、著者の想像力不足によって不都合が生じてしまうからです。
詳細は下記の関連記事をご覧ください。
◎記事:【進撃の巨人】アニメ22話『敗者達~第57回壁外調査6~』のアニオリシーンを描かなかった理由
https://note.com/singeki_satory/n/n3101ac644ee5
◼︎次回予告:『#26 女型の巨人③:奈落』
後がない調査兵団。今度は壁内にて、女型を追い詰める!
さらに、幼少期からの“ある人物”が再登場するも__!?
■余談
ヘイターは著者的お気に入りキャラだったので、その死を嘆く話に厚みを持たせてしまいました。
また、これまでの話で説明しておりませんでしたが、エルドとグンタはリヴァイ班になる前はアデル班に所属していたという設定です。