進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

【女型の巨人編】その③です。

今回はアニメベースで、第23~25話あたりの話です。
※原作の内容とミックスしている部分も有り。

父との約束を守るため、必死にもがき足掻くアニの姿は、まるで奈落の底へと蹴落とされた哀れな少女のように映りました。

女型の巨人編、ラスト1話!

↓それでは、本編へどうぞ↓




#26 女型の巨人③:奈落

 

___3日後。

 

 

ストヘス区の外門付近には、ウォール・ローゼ側の土地へ抜け出ることのできる『地下道』が存在する。

 

その地下道の入り口付近には、何かを待ち構えるように身を潜める者達が__彼らは()()()()()()()()()()()()調査兵であり、手には“人”を拘束するための縄や布などを持っている。

 

さらに彼らの頭上では、ハンジを筆頭に立体機動装置を身に纏った兵士たちが屋根の上から様子を伺っている。

 

しばらくすると、遠くの方から一人の兵士が屋根伝いで此方へ向かって来るのが見えた。

 

それは、立体機動装置を身に付けていないカイルだった。

 

 

「目標確認!!アルミンたちが()()に成功した模様!」

 

「よし!……捕獲班、いつでも飛び出せるように構えろ!アルミンの合図を待て!!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

ハンジへの一報を終えたカイルは、用意しておいた立体機動装置を装着しながら南西の空を眺める。

 

 

(ミケさん、大丈夫かな……()()()()何も起こってなければいいけど…)

 

 

 

== 遡ること、2日前 ==

 

 

___旧調査兵団本部のとある小部屋にて。

 

 

「皆も重々承知だと思うが、我々にはもう後がない……そこで、作戦を立てた。決行は王都への召喚日。我々が憲兵団に護送される際、ストヘス区内でエレンが抜け出し、目標を()()()()おびき寄せる。そして、可能なら巨人化させることなく目標を確保する……それが本作戦の“筋書き”だ。この作戦はアルミンが発案したものだが、そこに上乗せする形でさらに2手……いや()()()()手を打っておこう」

 

 

淡々と話すエルヴィンにハンジが食いつく。

 

 

「今度はこっちから忍び寄る、か……壁内での作戦実行は敵が油断しているところを突こうって狙いだろうけど、一体どうやって…」

 

「詳しくは後ほど、リヴァイたちも交えて話す。昨日アルミンが割り出した通り、女型の巨人の正体は元104期訓練兵で現ストヘス区憲兵の『アニ・レオンハート』で間違いないだろう。本作戦において重要なのは、敵が()()()()()()()だ。そこで、女型の仲間として容疑の高い104期の新兵たちは、離れた場所でミケの班に監視してもらう………ミケ、ウォール・ローゼの南西に現在は使われていない古い訓練所の兵舎がある。第一分隊はそこで104期を見張れ」

 

「スン……了解」

 

「王都への招集は、団長の私と兵士長のリヴァイが指名されている。そのため、ストヘス区での捕獲作戦はハンジとカイル、君たちに託すことになる。囮になるのはエレンを連れたミカサとアルミンだ。我々はこの作戦にすべてを賭ける。失敗は許されない……何としてでも女型の巨人を捕らえ、敵の黒幕を暴き、奴らに反撃するのだ

 

 

そう言い放つエルヴィンの声色からは、固い決意がひしひしと伝わってくる。

 

皆が志を一つに沈黙する中、顎に手を添えていたカイルが静かに口を開いた。

 

 

「一つ、気がかりなことが…」

 

「なんだ?」

 

「…女型の巨人の正体は、本当にアニ・レオンハートなのでしょうか?」

 

 

このカイルの問いに、ハンジが横やりを入れる。

 

 

「君にしては珍しく疑い深いね? 確かに証拠はないかもしれないが、アルミンの推論には明確な“根拠”がある。訓練兵の同期たちの間でしか使われていない()()()が、偶然敵の耳に入っていたとは考えにくい。それに、被験体抹殺事件の検査でも、()()()()()()()()()()のは犯人以外にメリットがないからね……彼女は犯人像に当てはまる要素を多分に含んでいる。山を張るだけの価値はあると思うけど?」

 

「確かに状況証拠だけを見れば、彼女が犯人であることは明白でしょう。しかし、腑に落ちないのは……敵の“年齢”です

 

「あ…そう言われてみると、確かに…」

 

「訓練所の資料によれば、現在の彼女の年齢は16歳。壁内に侵入したのが5年前だとすれば、当時の年齢は11歳……つまり、敵は年端もいかない少年少女を『人間兵器』として壁内へ送り込んだことになります。()()()()敵地に送るなんて、とても正気とは思えません」

 

 

すると今度は、エルヴィンが口を挟む。

 

 

「だが、それこそ我々の意表を突くための“策略”という可能性もある。今の我々に必要なのは発想をさらに飛躍させる心持ちだ。常識の範疇に留まっていては、敵を凌駕することは一向に叶わないだろう……敵が正気かどうかはこの際関係ない。我々はただ、平穏を脅かす脅威に立ち向かうまでだ。でなければ…」

 

 

エルヴィンはそこまで話すろと、鋭い視線をカイルへ向けた。

 

そして、静かに言い放つ。

 

 

「…でなければ、死んでいった仲間たちが浮かばれない。それは()()()()、感じていることだろう」

 

「…はい」

 

「それから、カイル……本作戦は敵の『拘束』が最終目標だ。()()()()()()()?」

 

「……」

 

 

==============

 

 

 

 ――“『わかっています』”――

 

カイルは作戦会議でのやり取りを思い返すと、ストヘス区の街並みを見渡した。

 

少し離れた家屋の窓越しに、食卓を囲って家族団欒を楽しむ住民たちが見える__これから何が起こるとも知らずに。

 

その様子をぼんやりと眺めるカイルの肩に、アデルが手を置いた

 

 

「カイル、もうじきだ。……大丈夫か?」

 

「あぁ、覚悟はできてる……()()()()、な」

 

 

そう言ってカイルはまた家屋の窓に目を向ける。

 

 

「今日、ここの住民たちの多くが理由(わけ)もわからず死んでいくことだろう」

 

「…そうかもな」

 

「何も思わないわけじゃない。それでも、俺たちは戦う……()()()()()()()()()()“理由”が多すぎるんだ

 

「あぁ、きっと()()()()が見てる…」

 

 

静かに頷き合い、地下道の入口へ目を向ける2人__だが、カイルだけは一抹の不安が胸の奥でうずいていた。

 

(…だけど、そうして築き上げた屍の道の先で……果たして彼らは、笑いかけてくれるだろうか…?)

 

 

そんなことを考えていると、建物の角から目標であるアニを連れたアルミンたちが現れた。

 

カイルは気を取り直し、エレンの様子を確認する。

 

 

(今は落ち着いていそうだな……この作戦において懸念点があるとすれば、君だ。巨大樹の森で、()()()()……女型の巨人に跨った君が、狂気じみた顔で喚き散らしているのを……そして、敵の正体が身近な人物だと知った今、君の胸中は穏やかではないだろう。そんな精神状態で巨人化すれば、またあの時みたいに暴走するかもしれない……でも、今は君の力を盲信するしかない。だから、()()()()……エレン…!)

 

 

そんなカイルの横では、ハンジが懇願するような表情でボソボソとつぶやいている。

 

 

「いよいよだ……頼む!大人しく地下へ入ってくれよ…!?」

 

 

だが、ハンジの切な願いは届かなかった。

 

 

ッパーーーーン!

 

 

合図の銃声が鳴り響き、潜んでいた捕獲班たちが一斉にアニへ飛び掛かる。

 

巨人化の引き金となる“自傷行為”を防ぐため、四肢を掴み、口元には布を噛ませた。

 

何とか動きを封じたかと思われた、次の瞬間…

 

 

キラッ・・・

 

 

アニの指先で何かが光ったことに気づいたカイルが叫ぶ。

 

 

「まずい!!今すぐ目標から離れっ…」

 

 

カッ!!……ドゴォォオオォォオォオォン!!!

 

 

凄まじい光と共に、雷鳴が轟いたような音が響く。

 

そう、女型の巨人が再びその巨躯を露わにしたのだ。

 

アニを取り押さえていた兵士たちは巨人化の衝撃で吹き飛ばされ、瓦礫の中で見るも無惨にひしゃげている__それを目にしたハンジは、顔を歪めながら指示を出す。

 

 

「ダメか……『二次作戦』に移行する!総員、女型の注意を引け!エレンたちが奥の出口から出てくるまで、奴をここに留めるんだ!!」

 

 

しかし、ここで女型が予想外の行動を取る。

 

 

ズゴォン!……ズゴォン!!

 

 

なんと、エレンたちのいる地下道を上から踏み抜き始めたのだ。

 

 

「なっ!?……ハンジさん!!」

 

「クソッ、()()に出たか!?……カイル班はそのまま女型の注意を引き続けろ!私の班は『三次作戦』の準備に取り掛かる!!」

 

「「 了解! 」」

 

 

カイルたちはハンジの指示通りに女型の周囲を飛び交い、地下道から意識を逸らそうと試みる。

 

だが、女型もそう易々とは気を散らしてくれない__カイルたちの猛攻を物ともせず、さらに地下道を踏み抜いていったのだ。

 

 

「カイル、埒が明かない!このままじゃ、本当に踏み潰されるぞ!!」

 

 

アデルがそう叫んだとき、ミカサとアルミンの2人が地下道の両脇から飛び出してきた。

 

それによって女型の注意は逸らされたが、そこでカイルは思わぬ光景を目にする。

 

 

(あれは……エレン!? 瓦礫の下敷きになったまま動かない……まさか、()()巨人化が出来なかったのか!?)

 

 

エレン曰く、巨人化には引き金となる“きっかけ”が必要だという。

 

それが、『自傷行為』なのである。

 

ただし、それには明確な“目的意識”が伴わなければならない。

 

これに関しては、壁外調査前に行われた巨人化実験でのこと__ハンジたちに言われるがまま巨人化を試みたエレンだったが、何故かそれが叶わず、休憩中にスプーンを拾おうとした瞬間に意図せず巨人化してしまったことから判明した事実だ。

 

 

(まずいな……エレンの巨人で対抗できないとなると、次の手しか…)

 

 

もう一度女型の方に視線を向けると、そこではミカサがたった一人で女型を翻弄していた。

 

 

(!?……噂に聞く通りの実力者だ。心なしか、身体の使い方が兵長に似ているような…)

 

 

カイルがミカサの実力に感心していると、息を切らしたベッツが報告にやってきた。

 

 

「ダメだ、俺たちでは歯が立たない!……だが、あの新兵はかなりのやり手だ。今すぐお前も加われば、ここで奴を仕留められるんじゃないか!?」

 

「いえ、ベッツさん……今回も女型を()()()()ことが目的です」

 

「けどよ!これ以上、あいつに暴れられたら……本当にここの住民を守りきれねぇ!!」

 

「それでもやるしかありません。どの道、硬質化の能力がある以上、エレン巨人の力なしではここで仕留めることはできないでしょう。今、俺たちにやれることは一つ……ハンジ分隊長へ伝達を!『二次作戦』は不発!これより『三次作戦』に移行します!!

 

「…あぁ、クソ!……やるしかねぇな!!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___その頃。

 

 

ストヘス区の中心街では、エレン・イェーガー護送の任務のため、武装した憲兵団が馬車の周りを取り囲むように隊列を組んで進んでいた。

 

エルヴィンとリヴァイは()()()とは別の馬車に乗せられ、その付き添いには憲兵師団長のナイルが同席している。

 

すると突然、街の奥から凄まじい騒音が鳴り響いてきた。

 

何事かと慌てふためく憲兵たち__ナイルは屋根の上にいた援護班へ様子を見てくるよう命じるも、エルヴィンに口を挟まれてしまう。

 

 

「ナイル、すぐに全兵を派兵しろ。()()()()()()()と考えるべきだ」

 

「!?」

 

 

エルヴィンの不可解な言動に動揺を隠せないナイルをさらに困惑させたのは、エレンを護送しているはずの馬車から降りてきた人物だった。

 

 

「団長!俺も行きます!」

 

 

そう言いながらエルヴィンの目の前まで駆けてきたのは、()()()()()()()()()新兵のジャン・キルシュタインだ。

 

そのまま駆け足で現場へと向かって行くジャンの後姿にうろたえるナイルとは裏腹に、エルヴィンは冷静沈着に立体機動装置を装着し始める。

 

 

「エルヴィン!待て!!」

 

ジャキッ……ジャキジャキジャキッ!

 

 

壁内で巨人が出現したかもしれないという非常事態への焦燥感、そして、やけに用意周到な調査兵たちへの疑念は、ナイルたち憲兵に銃を構えさせたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

ドッ…ズドドドドドドドッ!!!

 

 

駆けつけたジャンとアルミンの陽動作戦によって、女型を捕獲地点まで誘導することに成功した捕獲班たちは、先の遠征でも使用した『対特定目標拘束兵器』や『捕獲網』の罠にかけていた。

 

そう、これが『三次作戦』なのである。

 

だが、安心するのも束の間__さすがに罠の数が足りなかったのか、地面に倒れ込んでいた女型は拘束具を軽々と足で振りほどき、その場から逃走してしまったのだ。

 

 

「逃がすな!追え!!」

 

 

ハンジの指示によってカイルたち捕獲班が再び白刃攻撃をしかけるも、狭い街中で容赦なく暴れまくる女型には防戦一方。

 

このままではまた取り逃がしてしまう__そんな不安が兵士たちの足に重石をかけた時だった。

 

 

ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…!!

 

 

巨大な影が大地を震動させながら兵士たちの間を通り過ぎる。

 

そして…

 

 

ウォオオォォオオォオォオォ!!…バゴォオオォン!

 

 

力強い咆哮と共に女型を殴り飛ばしたのは、巨人化したエレンだった。

 

女型が吹っ飛んだ先では、壁を信仰し崇める『ウォール教』の礼拝堂が信者諸共ぺしゃんこに潰れてしまっている。

 

エレン巨人と女型の格闘戦が続く__巨大な()()()の激しい打ち合いに、街は次々と崩壊していくばかり。

 

捕獲班の調査兵たちは、その様子をただ茫然と見守ることしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___一方、街の中央では。

 

 

エルヴィンに銃口を向けていたナイルの元へ、騒動の様子を確認してきた部下が報告にやってきた。

 

その内容からエルヴィンの術中にまんまと嵌められていたことに気づいたナイルは、声を裏返しながら問う。

 

 

「本当にこれが人類のためだと思っているのか!?」

 

 

だが、この問いにエルヴィンは顔色一つ変えることはなかった。

 

ナイルは己の愚かさを噛みしめるように、かつての同僚へと手錠をかけさせる。

 

こうして、『反逆者』のレッテルを貼られたエルヴィンたちは、憲兵団支部にある拘留所へ連行されることとなった。

 

憲兵に率いられるエルヴィンの後ろでは、苦々しい顔つきのリヴァイが女型の巨人が出現したと思われる方角へ、()()()()を送っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___一方、リヴァイが睨みつけていた空の下では。

 

 

尚も、エレンと女型による凄まじい攻防戦が繰り広げられ、ストヘス区の建物や住民たちは更なる被害を受けていた。

 

巨人化した状態での戦闘には練度があるせいか、女型の方が一枚上手(うわて)のようだ。

 

エレンが負けじと喰らいつくも、女型はどんどん壁に近づいていく__それに伴い、エレンの眼も奇妙な緑色に光り始める。

 

 

(!?…エレンのあの表情……ダメだ、また暴走する!!)

 

 

そして、カイルの嫌な予感は的中する。

 

エレンの戦い方が変わった__奇声を上げながら女型に襲いかかる姿はまるで“魔物”のよう。

 

その激しい猛攻撃は周りの兵士たちを一切寄せ付けないほどだ。

 

カイルもその場で地団駄を踏んでいると、壁の近くに架かる歩道橋の上で憲兵団に連れられるエルヴィンの姿が目に入った。

 

カイルは慌ててそこへ向かう。

 

 

「団長!ここは危険です!!すぐに退避…を…」

 

 

そう言いながらエルヴィンの手元を見たカイルは一瞬、背筋が凍り付くのを感じた。

 

 

「!?……その手錠は、一体…」

 

「気にするな……それで、状況は?」

 

 

食い気味に状況を確認するエルヴィンの言葉で我に返ったカイルは、手短にこれまでの経緯を話す。

 

 

「それが…『三次作戦』まで実行しましたが、どれも突破されました。街への被害は甚大です。現在はご覧の通り、巨人化したエレンが女型と交戦中……兵士たちが近づけないほどに白熱しています。正気を保てているかは定かではありませんが、どうやら今はエレンの方が押しているようです。このまま行けば…」

 

 

しかし、ここで状況が一変する。

 

女型が何とかエレンを払い退け、硬質化した指を突き刺すようにして壁を登り始めたのだ。

 

 

「まさか…壁を乗り越える気か!?」

 

 

屋根の上で動揺するハンジたち__すると、エレンが女型の足元にしがみつき、引きずり下ろそうとあがき始めた。

 

それでも女型は諦めることなく、自らの右足を引きちぎってまでエレンを蹴落とすと、死に物狂いで壁を登って行く。

 

だが、その先に待ち受けていたのは、鬼の形相をしたミカサだった。

 

ミカサは目にも止まらぬ速さで壁に突き刺さっている女型の指を切り落とすと、額を蹴り押し、壁から女型を引き剥がしたのだ。

 

 

ー そうして女型は、“奈落”へと堕ちてゆく ー

 

 

その様子を目で追っていた時、歩道橋のすぐ下で古びた屋台を牽いて歩く老人の姿が目に入った。

 

昔ほどの覇気は失われていたが、それでもカイルはそれが()()()()瞬時に理解した。

 

 

「貴方は、まさか……ジェイクさん!?

 

「誰じゃ? 何故、わしの名を…」

 

 

そう言って白髭を震わせながら辺りを見渡すジェイク__カイルは自分の存在を知らせるように声を張り上げた。

 

 

「俺です!…『カイル』です!昔、貴方から本を買った…!」

 

 

その声を辿るように顔を上げたジェイクは、ようやくカイルの姿を捉える。

 

 

「おぉ…!あの時の少年か!?……大きくなったのぉ」

 

「ジェイクさん、ここは危険です!今すぐ逃げてください!!」

 

 

カイルは必死に叫ぶも、ジェイクはその場から動こうとしない__それどころか、カイルの周りにいる人間を順番に眺め始めたかと思うと、エルヴィンで目を止めたのだ。

 

 

「そうか、()()()()んじゃな………おや…?」

 

「話は後で!!本を置いて、今すぐそこから離れるんだ!……さぁ、早く!!」

 

 

ジェイクはカイルの声が聞こえていないのか、一点を見つめたまま立ち尽くしている。

 

カイルは仕方なくジェイクの元へ駆けつけようと橋のへりに手をかけた。

 

その時…

 

 

()()()()……か?」

 

「え、誰…?」

 

 

ジェイクが見つめる先を振り向くと、そこには目を見開いたリヴァイがいた。

 

 

「兵…長…?」

 

 

そして、カイルがジェイクから目を離した瞬間…

 

 

…ッドゴォオオォォオォン!!

 

 

歩道橋のへりまで、女型の腕が吹っ飛んできたのだ。

 

壁の手前では、エレンが女型の上に跨り、物凄い勢いで殴りつけている。

 

顔を青ざめながら橋の下を覗くと、瓦礫の下敷きとなったジェイクが血まみれで倒れているのが見えた。

 

それを目にした途端、体中の血が熱くなるのを感じたカイルは、剣を抜きながら声を震わせる。

 

 

「俺……エレンを止めてきます…!」

 

ガシッ…

 

「待て……俺が行く。お前はここいにろ」

 

 

そう言ってカイルの肩を掴んだのはリヴァイだった。

 

 

「な!?…ダメです、兵長!そのケガじゃっ…」

 

「今のお前じゃ、あのバカを殺しかねん」

 

「!?……で、ですが…」

 

「瞳孔……開いてんぞ」

 

 

リヴァイはそう一言だけ捨て吐くと、カイルの制止も聞かず、颯爽と飛び出して行ってしまう。

 

ちょうどその時、エレンが女型のうなじにかぶりついたことで中身のアニが剥き出しになった。

 

すると突然…

 

 

シュゥゥゥゥ…パキパキパキパキッ!

 

 

アニの体が()()()()()()物質に包まれ始めたのだ。

 

それに巻き込まれるような形で、エレンも巨人の体ごと融合されそうにってしまう。

 

一体何が起こっているのか__一同が唖然としている中、どこからともなく飛んできたリヴァイがエレンのうなじを一撃で掻っ捌いた。

 

そして、うなじから飛び出てきたエレンを叱責する。

 

 

「大事な証人を喰うんじゃねぇよ、馬鹿野郎…!」

 

 

 

**

 

 

 

こうして、エレンは無事に救出されたものの、肝心な女型の正体であるアニはというと__全身を強固な水晶体に覆われ、まるで眠りについたように動かない。

 

その水晶体は何度刃を振り下ろしても傷一つ付かないほどの強度を誇り、その場でアニを引きずり出すことは叶わなかった。

 

ハンジは急いでワイヤーでネットを作り、水晶体ごとアニを縛り上げるよう指示を出す。

 

いつ起きるとも知れないアニを地下深くに幽閉しようと言うのだ。

 

 

 

兵士たちは皆、消沈した。

 

今回の捕獲作戦では、アルミンの“閃き”とエルヴィンの“策略”を掛け合わせ、エレンの“執念”によって敵を追い詰めたと思われた。

 

多くの犠牲者を出し、街は酷く破壊され、それでも必死に食らいついてきた。

 

その結果__アニは水晶体となり、口を固く閉ざしてしまったのだ。

 

彼女は()()()()()()()、一体何を思うのだろうか。

 

敵を取り逃がすことは防げたにしろ、ようやく掴み取ったのは更なる“謎”ばかり。

 

 

(このままアニから何の情報も引き出せなかったら……一体、何が残る?

 

 

そう嘆くハンジの近くに、パラパラと壁の破片が落ちてきた。

 

 

「さっきから破片が危ないな……ん?ミカサ?……なんでまだ、()()()()()…」

 

 

壁の上層部に未だぶら下がっているミカサを見上げた時、ハンジは目を疑った。

 

 

「!?」

 

 

ミカサの近くの壁は、女型の巨人が立てた爪痕によって部分的に剥がれ落ちている。

 

その()()()の光景は、誰も想像し得ないものだった。

 

ハンジが言葉を失っていると、その肩を掴んだ者がいた。

 

 

「あの巨人に……日光を…当てるな…!」

 

 

その人物はウォール教の指導者、ニック司祭__そして、壁の中から()()()()()のは、超大型級ほどの大きさのある『巨人の顔』なのであった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数十分後。

 

 

ニック司祭と共に壁上へ向かったハンジは、憲兵たちと協力し、壁の中の巨人に日光を当てぬよう繋ぎ合わせた布で穴を覆い隠していた。

 

一先(ひとま)ずあり合わせの応急措置が済んだところで、ハンジはニック司祭に掴みかかる。

 

人類の生存権に関わるほど重大な壁の秘密を知り得ていながら、それを開示しなかったことへの『隠匿罪』について糾弾したのだ。

 

ニックの首元を掴み上げ、壁上から身を乗り出させるように尋問するハンジ__だが、生殺与奪の権を握られても尚、ニックが壁の巨人について口を割ることはなかった。

 

 

 

**

 

 

 

今回の捕獲作戦では、女型の巨人から情報を引き出すことは叶わずとも、壁内人類の存続を脅かす“敵”の存在が()()()()、王政や民たちの『危機意識』を壁の外へ向けることには成功したと言える。

 

さらに、調査兵団幹部の召還は保留となり、調査兵団の首はその皮一枚を残して繋ぎ止められたのだ。

 

こうして、事態は収束に向かうと思われたが、人類はまたすぐに気付かされることになる。

 

敵は()()()さえ、与えてくれないことを__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___その晩。

 

 

憲兵団ストヘス区支部にて、今回の【捕獲作戦】に対する総括が開かれた。

 

内容としては、壁内での捕獲作戦が調査兵団の独断で実行されたことに対し、その是非が問われたのだ。

 

ストヘス区の区長は壁内に潜伏する女型の巨人の正体を突き止めたことについて評価した上で、区が受けた被害への所感をエルヴィンに問う。

 

エルヴィンは住民たちの財産と尊い命が失われたことについて、調査兵団の実力が至らなかったことを深く陳謝しつつも、敵を逃がすことで招かれる『最悪の事態』を未然に防ぐため、それらを天秤にかけて実行に移したことを主張した。

 

この主張にはストヘス区長も難色を示す。

 

 

「それで……『人類の終焉を阻止できた』と言う確証はあるのか?」

 

 

これに対しエルヴィンは、獲物を睨みつけるかのような目つきで答える。

 

 

()()()()()を拘束しただけでも価値があると思います。そう、“奴ら”は必ずいるのです。一人残らず追い詰めましょう。()()()()()()()を、すべて…

 

 

この言葉に、同席していたニック司祭が額の汗を光らせていると…

 

 

バーーーン!

 

 

突然、会議室の扉が開かれた。

 

扉の前に立っていたのは、ミケと共にウォール・ローゼの南西で104期の監視をしていたはずのトーマだ。

 

トーマは荒れた息を落ち着かせるように一度だけ唾を飲み込むと、口を大きく開けながら緊急事態を告げたのだ。

 

 

「エルヴィン団長!大変です!!……ウォール・ローゼがっ…!」

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】ー

 

 

 






〜後書き〜

『エレンに「何か特別な感情でもあるのか?」と尋ねているときのミカサの真っ黒な瞳がトラウマ』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


あのミカサの顔を初めて見た時、何もやましいことはしていないのに、背筋が凍り付いたのを覚えています(笑)

さて!今回は、幼少期スピンオフ【#05 理解者】にて初登場し、本作品では名前だけちょこちょこ出てきていた『ジェイク・アッカーマン 』が再登場しました。

残念ながら返り咲いた途端に儚く散ってゆくことになりましたが、ジェイクの正体はこの先の本編で説明がありますのでご安心ください。

ストヘス区での捕獲作戦はアニメでかなり加筆・脚色されていて、激しい戦闘描写には目を奪われました。

そのため、女型との最終決戦はアニメの方をベースにしたかったのです。

※物語の都合上、壁の中に潜む巨人の存在に気づくタイミングだけは原作の方を参考にしております。

◼︎次回予告:『#27 南へ』
巨人発生の知らせを受けたカイルは、エルヴィンやリヴァイらと共に、エルミハ区から“南”のトロスト区へと向かう。
その道中で再会するは、懐かしき訓練兵時代の同期たち_!?

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