〜前書き〜
今回は戦況が目まぐるしく変化します。
原作第12巻と読み比べていただくと分かりやすいかと思われます!
また、久々にエルヴィン班が登場しますので、ここで名前をおさらい。
◎エルヴィン班:モサド・ヘル、ベッツ・フリーデン、ナギア・ロンダイン、ルドルフ・ホフマン
↓それでは、本編へどうぞ↓
―“ 喰われる ”―
脳裏に浮かんだのはその一言だけだった。
振り返る間もない__巨人の口はもうすぐそこだ。
パシュッ………ップシューーーー!!
死を間近に感じたからか、周囲の音が聞こえない。
いくつもの命を飲み込んできた『地獄の入り口』がカイルの体を硬直させる。
(あぁ……これが“死”か…)
…ドンッ!
「!?」
気が付くと、カイルの身体は巨人の口から引き離されていた。
背中に走った衝撃と共に、己の身に起きた事態を察したカイルは瞬時に体を切り替えす。
そして、振り向きざまに手を伸ばした。
「掴まれ!…
そう、カイルの背中を押したのはアデルだ。
隊を任せたはずのアデルが何故そこにいるのか__そんなこと、考えるまでもなく理解した。
だが、差し伸べられた手をアデルが掴もうとした、その瞬間…
ガンッ!!
無慈悲にも、巨人の口はカイルの目の前で勢いよく閉じられてしまったのだ。
大きな歯がぶつかり合う鈍い音と共に、アデルの姿が見えなくなった。
ヒュンッ…
切断されたアデルの左腕が、絶句するカイルの耳横をかすめていく__
―“『ねぇ、君!ちょっと待って!俺…君と話がしたいんだ!』”―
瞬きをして見えた景色は、あの日の
―“ 『君は天使でも悪魔でもない……俺と同じ人間だろ?』”―
「…っ…!」
―“ 『俺はこの先、自分の命に変えてでもお前を守る』”―
「…あぁっ…」
―“ 『絶対、お前を裏切らない!』”―
「…っ……うあぁぁああぁぁあ!!!」
これまでに発したことのない咆哮が、魂の叫びが、喉の奥から這い出てきた。
それと同時に、アデルを飲み込んだ巨人の背後へと回り込んだカイルは、血走った
そして…
ザクッ!!
巨人のうなじを勢いよく削ぎ払った__その切り口は、束が巨人の皮膚にめり込むほど深い。
それからカイルはすぐにまた方向転換すると、隣の巨人へ飛びかかる。
その巨人は地面に落ちていたアデルの左腕を拾い、口に入れようとしていたのだ。
「返せ…!」
低い声で静かに放たれた言葉は、一瞬巨人が動きを止めるほどに重みがかかっていた。
そうして、光のような速さで巨人の指を切り落としたカイルは、アデルの“形見”を抱えながら辺りを見渡す。
鎧の周囲にはさらに巨人が群がり、先ほどまで見えていた背中も隠されてしまっていた。
とてもじゃないが、カイル一人では近づけない状況だ。
(…仕方ない。ここは一旦引いて、立て直す!)
冷静に先の動きを見据えたのか、どうしようもない現状を目の当たりにして我に返ったのか__鬼のような形相で咆哮を上げていたカイルは、もうそこにはいない。
ピィィーーーーーッ!
高らかに鳴り響いた口笛は、すぐにシャルルの耳まで届いた。
音を頼りに駆け寄ってくるシャルルの姿を捉えたカイルは、巨人の猛攻を何とかかわしながら身振りで居場所を伝える。
「こっちだ、シャルル!」
その合図に気づいたのか、シャルルは利口にもまっすぐ此方へ向かってくる。
巨人の群れに突入しても上手いことすり抜けるシャルルの足運びは、流石に訓練されただけはあるようだ。
あと少しでカイルの元まで辿り着く__そう思われた瞬間…
ドッ…ドッ…ドッ…ドッ……グシャアッ!!
後方から猛スピードで走ってきた巨人によって、シャルルは踏み潰されてしまったのだ。
「シャルル!? そんなっ…!!」
もがき苦しむ間もなく、ぐったりと横たわるシャルルの姿が目に焼き付く。
シャルルは入団当初からの相棒だ__だが、巨人は悲しむ暇さえ与えてくれない。
「くっ…」
カイルは歯を食いしばりながら、しつこく迫ってくる巨人の手から逃れんと必死にあがく。
しかし、立て続けの立体機動が体に堪えたのか、動きにキレがなくなり始めた。
(…ここまで……か…)
諦めかけた、その時…
ヒヒーーーーイィン!
遠くから鋭い馬の
その方角に目を向けると、一頭の馬が此方へ向かって来ているのが見える。
「あれは……ハイランド!?」
それは、アデルの馬だった。
何故、アデルの馬がそこにいるのか__すぐには理解できなかった。
カイルは疲れ切った体に鞭を打ち、縦横無尽に飛び回る。
そして、タイミングを見計うと、地面を擦るようにして巨人の群れから飛び出したのだった。
**
戦場から一時退避したカイルは、ハイランドにしがみつくようにして平地を駆けている。
「すまない……お前の主人は、これだけしか取り返せなかった…」
ハイランドの背中に手を添え、自分の無力さを嘆くようにアデルの腕に目をやると…
キラッ…
何かが緑色に光った。
見ると、アデルの左腕には
「!?……君ってやつは…」
込み上げる感情がカイルの視界を歪ませる。
―“『この戦いの前に伝えておきたいことがあるんだ』”―
「…俺もだ、アデル……君に伝えたかったことがある」
そう言ってカイルが思い浮かべたのは、夕日に焼かれた
「俺と一緒にいてくれて……ありがとう…」
_二人の少年が、山の麓を駆ける。
「俺に“自由”を教えてくれて……ありがとう…」
_二人の少年が、広場のベンチに座る。
「…俺にっ…」
カイルはそれ以上、言葉を紡ぐことができなかった。
代わりに、アデルのブレスレッドを
形見である左腕は布で包み、ハイランドの鞍に備え付けられていた袋へしまった。
そして、手綱を強く握り直したカイルは、再び戦場へと向かって行ったのだ。
***
___その頃。
「総員、突撃!!エレンを奪い返し、即帰還する!……心臓を捧げよ!!」
「「 うおおぉぉぉぉぉ!! 」」
エルヴィンの号令を受け、調査兵たちがけたたましい雄叫びを上げながら突進を始めた。
その声に気づいたカイルは、仲間たちの元へ合流するために進路を切り替える。
そして、この時__さらに
バクッ!!
なんと、先頭を突き進むエルヴィンが木陰に隠れていた巨人の急襲に遭ってしまったのだ。
右腕に噛みついた巨人は、そのままエルヴィンの体を馬から引き剥がしていく。
その光景を目の当たりにした途端、脳天を突き抜けるような“怒り”がカイルの意識を蝕んだ。
これ以上、大切な人を失うわけにはいかない__カイルの足は自然とエルヴィンの元へ向かっていたのだ。
鎧の元へ突き進む兵士たちとすれ違うようにしてカイルが駆けつけた時には、すでにエルヴィンは救出されていた。
だが、噛みつかれていた右腕は、無惨にも食い千切られてしまっていたのだ。
それに気づいたカイルは血相を変え、応急処置を施しているナギアに声を裏返しながら駆け寄る。
「ナギアさん!!…団長の腕の状態は!?」
「鎮痛剤を打って止血処置をしたけど、血が止まらないわ!私はこのまま団長をお連れして、一旦ここを離れる!カイルは先に攻め込んで行ったベッツたちの応援をお願い!!」
「…待て、ナギア…」
そう言ってナギアの腕に縋りつくようにして上体を起こしたエルヴィンは、息を切らしながらカイルを見つめる。
「…ハァ、ハァ……カイル、私を馬に乗せろ……鎧の元へ行き、エレンを奪還する!!君は、その援助を…!」
「!?…し、しかし!その腕ではっ…」
「腕がなくとも身体は動く……この機を逃せば、エレンの奪還は不可能だ。兵士たちの士気を保つためにも、私が今ここから離れるわけにはいかない」
「ですがっ…」
「カイル……頼む…」
必至に訴えるエルヴィンの瞳に、カイルはアデルの言葉を思い出す。
―“『俺たちはその役目を決して放棄してはならない。例え、
不思議と左手首がじんわりと熱を帯びたような気がした。
「…わかりました」
「ダメよ、カイル!…本気なの!?」
愕然とした表情で引き留めるナギア__だが、カイルはそれに構うことなく、エルヴィンの馬を自分の元へ呼びつけた。
それからエルヴィンに背を向けたまま、乱れた頭絡*1を直しながら静かに尋ねる。
「団長……1つだけ、確認させてください」
「…なんだ?」
「…あの日、病室で交わした“約束”……覚えていらっしゃいますか?」
エルヴィンは少しだけ間を置いてから答えた。
「あぁ、覚えてる」
それを聞いたカイルは笑顔で振り返る。
「では、行きましょうか……エレンを取り戻しに!」
***
___その後。
体の大きなルドルフを呼びつけ、エルヴィンを馬に乗せたカイルたちは、少人数で陣形を組んだ。
エルヴィンを取り囲むようにして突き進む小軍隊は、次々と巨人の合間を縫って行く。
しかし、目標に近づくにつれて、魔の手は濃くなる一方__だが、一発勝負の特攻を成功させるには一体毎に構っている余裕はない。
迫り来る巨人たちをその場凌ぎの攻撃でやり過ごし、カイルたちはやっとのことで鎧の足元に辿り着いた。
見上げると、剥き出しになったベルトルトと先に攻め入っていたアルミンが何やら話をしているようだ。
この“好機”をエルヴィンが逃すはずはない。
「気を取られている今がチャンスだ……カイル!補佐を頼む!!」
「了解!!」
2人は一斉に馬から飛び上がると、鎧に向かってアンカーを射出した。
エルヴィンはひたすら駆け上がり、その行く手を阻む障害物をカイルが払い退けるようにして進む。
そして、ついに__2人はベルトルトの真下に躍り出た。
「
ベルトルトが何か叫んでいたが、エルヴィンは構わず刃を振り上げる。
ジャキンッ!
縛り付けていた紐が切断され、ベルトルトから切り離されたように落下するエレン__それを受け止めたのは、下の方で待ち構えていたミカサだった。
こうして、粘り強い執念の末、調査兵団はエレンを取り返すことに成功したのだ。
カイルの補助の元、馬に戻ったエルヴィンが叫ぶ。
「総員、撤退!!」
鎧の胸元で宙吊りになったベルトルトは、遠ざかって行く調査兵団の後ろ姿をただ眺めている。
そんな風に放心状態でいると、巨人たちはさらにそこへ群がった。
エレンを奪われ、行く手は巨人に阻まれている__この時、鎧の中でライナーは何を考えたのだろうか。
ドッ!………ズシャァァア!!
突然、頭上から降ってきた巨人によって、合併団の陣形は崩された。
何事かと振り向くと、鎧が此方へ向かって巨人を放り投げていたのだ。
次から次に投げて寄越される巨人たち__対象物が巨大なだけに、避けるのも一苦労だ。
死に物狂いで逃げ惑う兵士たちだったが、ついには奪い返したばかりのエレンを乗せていたミカサの馬も投撃の餌食となってしまう。
地面に弾き飛ばされた2人は、すぐには立ち上がれない様子だ。
そんな2人の元へ、
(今助けに行かなければ、エレンが食われる…!)
_目の前にいる『恩師』エルヴィンを守るか。
_『人類の希望』であるエレンを救うか。
選択に迫られたカイルは、エルヴィンの背中とエレンの顔を順に見た。
そして、もう一度エルヴィンへ顔を向けた時、巨人の接近に気づく。
「団長!!巨人が横にっ……!?」
一早く知らせようと声を上げるも、さらに反対側からはユミルの巨人が四足歩行で突進してきていた。
「クソッ!こっちもか!?」
逃げ場がない__と、思われたが、次の一瞬でまた戦況が変わる。
ゴォォォ……ドカッ!!
なんと、ユミル巨人はエルヴィンではなく、エルヴィンに襲い掛かろうとしていた巨人の方を薙ぎ払ったのだ。
この時、ユミルが取った行動の真意はわからなかったが、今は此方に味方してくれていることがわかっただけでも十分だった。
そう捉えたエルヴィンは、すかさず指示を出す。
「カイル!ここはいい!エレンの元へ向かえ!!……ベッツとルドルフは、カイルの援護を!!」
「し、しかし…」
すると、決断を渋るカイルの背中を押すように、ナギアとモサドが口を挟む。
「あら、カイル……私たちを信用できないの?」
「団長は俺達が必ずお守りする!急げ、カイル!」
「ナギアさん……モサドさん…」
カイルはもう一度だけエルヴィンの背中を見つめると、手綱を強く引いて進路を変える。
「…ご武運を!!」
そうして、カイルたちはエルヴィンの元を離れ、エレンたちのいる現場へと駆け出したのだった。
***
___戦場はいよいよ乱戦を極めた。
少しでも多くの巨人を引き付け、エレンに近づく巨人を減らそうと画策するエルヴィンたち。
そこかしこで投げ込まれた巨人に応戦する憲兵や駐屯兵たち。
そして、エレンとミカサの元へ迫り来る巨人には、駐屯兵団の隊長であるハンネスが立ち向かっているのが見えた。
(まだ間に合う!!…だけど、何故エレンは巨人化しない!?…まさか、
そんな胸騒ぎを覚えた時、鎧がまた大きく振りかぶる。
その軌道を横目に捉えたカイルは、
**
ズシャァァア!!
投げ込まれた巨人は、エルヴィンたちのいる場所に落下した。
直撃は何とか避けたものの、落下時の衝撃によってエルヴィンは落馬してしまったのだ。
右肩を押さえて痛みに悶え苦しむエルヴィンの元へ、馬から降りたモサドが駆け寄る。
「団長!!」
「私の代わりはいる!それより……エレンを連れて離脱しろ!一刻も早く!!」
チュッ…
異様な音にエルヴィンが顔を上げると、モサドの頭部を
「!?」
巨人の口の中からモサドの絶叫が響く。
「んんんんんん!!」
「モサドさん!?……うぁっ!!」
すると今度は、それに気を取られていたナギアが別の巨人に捕まってしまう。
ググッ………ボキッ!
凄まじい握力で腰から折られたナギアの上半身が、巨人の手の中でダランと垂れ下がった。
ナギアは血を吐き散らしながらも、持てる最後の力を振り絞りってエルヴィンに別れの言葉を贈る。
「団…長……お先…に…」
その時、巨人の背後に鬼のような形相のベッツが顔を覗かせた。
「その汚ねぇ手を離せ!!このウスノロがぁぁあぁぁ!!」
悲痛な叫びを上げながら怒りを込めた斬撃で巨人を討ち取ったベッツは、巨人の手からずり落ちるナギアの体を受け止めた。
ぴくりとも動かなくなったナギアを抱えたまま地面に着地したベッツに、エルヴィンが尋ねる。
「ベッツ!!…何故、ここに!?」
すると、ベッツは目を見開きながらエルヴィンの背後を指差したのだ。
「団長!後ろ!!」
振り返ると、先ほどモサドを咥えていた巨人が此方へ迫ってきていた。
そして、大きく口を開けながらエルヴィンへ飛びかかろうとした瞬間…
ヒュンッ………キラッ…!
エルヴィンのすぐ目の前を、
―【 続く 】ー
〜後書き〜
『俺にブレスレッドをつけてくれて……ありがとう…』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
幼少期からの親友アデルがとうとう巨人の手に堕ちてしまいました。
カイルがアデルへ最後に伝えようとしていた言葉__このシーンはまさしく、ミカサがエレンに「マフラーを巻いてくれてありがとう」と伝える名場面のオマージュとなります。
ただ、「ブレスレットをつけてくれて」というのがあまり語感がよろしくないと思ったので、感極まってその先の言葉が出せずに行動で示すという感じで、敢えてごまかしてあります(笑)
そして、右腕を失ったエルヴィンの懇願に応えるカイル。
病室で交わした約束のことを尋ねるシーンでカイルがエルヴィンに背を向けているのは、嘘をついているエルヴィンの顔を見たくなかったのでしょうね…
◼︎次回予告:『#30 エレン奪還作戦③:13年』
エルヴィンの危機に駆けつけた光の正体は、“カイル”なのか_!?
次回はエルヴィンとカイルの関係に少し動きがあります。
お楽しみに!(´-ω-`)
〜おまけ〜
今回、幼少期からセリフや各場面をかなり持ってきたので、念の為載せておきます。
↓幼少期スピンオフ↓
■進撃の巨人~Another Choice~
https://syosetu.org/novel/368820/