〜前書き〜
【エレン奪還作戦】最終話!
今回は少し短めです。
↓それでは、本編へどうぞ↓
ザシュッ!……ッズドォーーン!!
エルヴィンの目の前を横切った
倒れ込んだ巨人の上に降り立ったのは、カイルだった。
巨人の足元には首から上がかじり取られたモサドの遺体が転がっている。
それを見つけたカイルは眉間にシワを寄せながら嘆いた。
「モサドさん……すみません…!」
エルヴィンは地面に腰をつけたまま、困惑した表情でカイルを見上げている。
その視線に気づいたカイルは、何も言わずにエルヴィンの元まで歩み寄った。
それからゆっくり
「団長。ご無事で何よりです」
「カイル、何故ここに……エレンはどうした!?」
「…お許しを。
「そういう問題ではない!!今は一刻を争う……早く、エレンの元へっ…」
「すみませんが、その命令は聞き受けられません」
「!?……カイル、君は一体…」
これまで、カイルがエルヴィンの命令を一つでも断ったことはなかった__それほど従順だったカイルが、初めて反抗的な態度を見せたのだ。
エルヴィンが戸惑いを隠せないでいると、カイルは立ち上がって辺りを警戒し始めた。
それからもう一度、エルヴィンへと体を向け直す。
「…13年です」
カイルの口からボソッとつぶやかれた言葉は、エルヴィンをさらに困惑させた。
「13…年……何の話だ?」
エルヴィンが問い正すと、カイルは表情一つ変えずに答える。
「俺が、
「!?…」
「…ははっ、驚いたでしょう? 俺はそんなことを数え覚えているような、気色の悪い奴なんです」
そう言って苦々しく笑って見せるカイル__エルヴィンは言葉を返すことができず、ただ目を見開いている。
2人の空間は他から隔たれ、まるでゆったりと時が流れているかのような穏やかな空気に包まれていた。
周囲の音は遮断され、互いの声だけが聞こえているような感覚だ。
少し先では、ベッツとルドルフが新たに迫り来る巨人と対峙している。
カイルはその様子を遠い目で眺めながら、少し脱力した声色で話を切り出した。
「エルヴィンさん……どうやら俺は、
「それは、どういう意味だ…?」
「俺は『
「……」
「しかし、俺が調査兵団に入った目的は貴方と共に戦うためです。13年間、貴方の背中だけを見て戦ってきた……もう、
そう話しながらカイルはエルヴィンに背を向けた__2人の元へ、新たに1体の巨人が迫って来ていたのだ。
「俺にとって調査兵団は“家族”も同然。そんなかけがえのない存在を与えてくださったのは、他でもない……貴方です」
剣を構え、腰を落とし、迫りくる巨人を睨みつける__この時、カイルの脳裏にはアデルの顔が浮かんでいた。
(…すまない、アデル。君に向ける顔がない……だけど、それでも俺はっ…)
「俺はここで、エレンではなく……貴方を選んだことに
込み上げる気持ちに息を吹きかけるように、自然と言葉が溢れてくる。
カイルは剣を握る手と言葉を発する喉元へ、さらに力を込めた。
「貴方のことは、俺が必ず守ってみせる!!」
そして、エルヴィンに背を向けたまま、
「だから、俺の傍から離れないで!
カイルは何故か、そこまで出かけた言葉を引っ込めた。
自分の言動に驚きながら振り返ると、エルヴィンもまた耳を疑うような表情でカイルを見上げていた。
「…カイル。今、なんと………それに、
「え…?」
カイルは言われて初めて、自分の頬が涙で濡れていることに気がついたのだ。
何故、自分は泣いているのか__その理由がわからず困惑していると、少し離れたところからベッツが叫ぶ。
「何ぼさっとしてんだ、カイル!後ろだ!!」
慌てて振り向くと、巨人はすぐ目前にまで迫っていた。
もう一度構え直そうとした、その時…
…ドッ!!
突然、視界から巨人の姿が消えた。
迫り来ていた巨人は地面を強く踏み込んで、2人の頭上を大きく飛び越えていったのだ。
それだけではない__ベッツたちが対峙していた巨人や他の戦場にいた巨人たちも同様に、ある方角へと一直線に走り始めた。
「!?……これは、一体…」
一体、何が起こったのか__巨人たちが向かった先で繰り広げられる光景を目の当たりにしたカイルたちは、言葉を失った。
なんと、エレンを襲おうとしていた金髪の巨人が、そこへ集まってきた他の巨人たちに
思いもよらぬ事態によって危機を脱したエレンは、怪我で動けないミカサを背負って走り出す。
突然のことに理解が追いつかず唖然としていると、ベルトルトを肩に乗せた鎧の巨人も走り始めた。
カイルは彼らの動きを慎重に伺う。
(まさか、奴らも!?……いや、
その読みは正しかった__鎧は捕食されている金髪の巨人ではなく、エレンを追いかけていたのだ。
それに気づいたエレンは立ち止まると、鎧に向かってまるで子どものように喚き散らした。
「来るんじゃねぇ!てめぇら!!…クソッ!ぶっ殺してやる!!」
ビリビリッ!!
「!?」
その時、まるで神経を逆立てするかのような“悪寒”がカイルの背筋をなぞった。
すると、また不思議なことが起こる。
エレンの“叫び”を皮切りに、金髪の巨人に群がっていた巨人たちが今度は鎧へ照準を定めて一斉に襲いかかったのだ。
何故、こうも巨人の“攻撃対象”が変化するのか__その原理は定かではないが、これ以上の好機はない。
そう踏んだエルヴィンは、全体に号令をかける。
「この機を逃すな!撤退せよ!!」
兵士たちは急いで馬に跨ると、無我夢中で駆け出した。
その背後では、大量の巨人に囲まれた鎧が、揉みくちゃの状態から抜け出そうと必死にもがいている。
敵の姿は小さくなりつつあるというのに、ふと、剥き出しのベルトルトが漏らす悲鳴が聞こえたような気がした。
すると、それまで味方だと思われていたユミルの巨人が途端に進路を変え、敵の元へ加勢しに行ってしまったのだ。
何故そのような行動を取ったのかと問い正す余裕も、敵の元へと向かうユミルを引き留める気力も残されてはいない__104期たちは、ユミルが
こうして、何とかエレンを取り返した合併軍は、トロスト区を目指し全速力で駆け抜ける。
その道中で巨人と遭遇することはあっても、兵士たちが被害を受けることはなかった。
何故なら、巨人は兵士たちを気に留めることもなく、ただひたすらに鎧の元へと向かい続けていたからだ。
故にそれ以降、鎧の巨人が後を追ってくることはなかったのだった。
***
___数時間後。
合併軍は無事、トロスト区への生還を果たした。
閉ざされた外門を避け、残された力を振り絞って壁を登った兵士たちは、そこでようやく体を休めることができた。
だが、出発当時は100名ほどいた合併軍が、生還時には40名まで激減するほどに被害は甚大だった。
さらに、その生き残った兵士の大半が、疲労や負傷によって一人で立って歩けないほどにボロボロの状態だったのだ。
「団長!?…聞こえますか、団長!!」
ルドルフに抱えられていたエルヴィンも、失血多量によって気を失ってしまった。
激しい頭痛に襲われていたカイルは、朦朧とする意識の中、エルヴィンの元へ駆けつけようと足を踏み出す。
「エル…ヴィ……さ…」
フラッ………ガシッ!
「カイル!大丈夫!?」
倒れかけたカイルを支えたのは、ピクシス司令の付き人アンカだった。
合併軍の帰還に備え、トロスト区で待機していた駐屯兵たちが壁上まで出迎えに来てくれていたのだ。
アンカは水の入った革袋をカイルに差し出す。
「…ほら、これ飲んで!」
「俺は…いい……それより、団長を…!」
「エルヴィン団長は今、グスタフが介抱してる!あなたの状態も危険だわ、ひどい熱じゃない!」
「…熱?……そうか……だから、
ズキズキンッ!
「うぁっ…」
先の戦いにおけるエルヴィンとのやり取りを思い返した瞬間、骨を砕くような激痛がカイルの脳内を襲った。
「カイル!しっかり!!」
「…だ……大…丈夫…」
「とにかく荷台へ運ぶわ!…歩ける!?」
「…あぁ…」
カイルはアンカに支えられながら負傷者を運ぶための荷台へと歩き出した。
荷台の近くでは、エレンを含めた104期たちが何やら会話をしている。
すると、アルミンの口から耳を疑うような話が聞こえてきた。
「…あの時、巨人の『攻撃目標』をあの巨人や鎧の巨人に
(!?……エレン…が…?)
フッ…
「カイル!?」
そうして、アルミンの言葉を最後に、カイルはアンカの腕の中で気を失ってしまったのだった。
***
___1週間後。
ウォール・ローゼ内の安全が確認され、一時的にウォール・シーナ内の旧地下都市に押し込まれていた避難民たちは、元の土地へ戻ることとなった。
この時、第二の壁が突破された際の想定として用意されていた食料の備蓄は、ちょうど底を尽きていた。
つまり、正確に言えば、ウォール・ローゼ内の安全確認は1週間で結果を出す他なかったのだ。
この1週間で、兵力を行使する事件が一度だけあった。
それは、旧地下都市から立ち退きを命ぜられた不法住民が、一部の地区で憲兵と衝突したという事件だ。
彼らは暗黙の生存競争に晒され、己の倫理観を試される選択に迫られたのだ。
死者こそ出なかったものの、その事件が壁全域に与えた影響は計り知れないだろう。
それからさらに数日後__先の暴動事件の詳細を伝えるためにエルヴィンの部屋を訪れたピクシスは、まるで『地獄の窯が一瞬蓋を開けたかのようだった』と語るのであった。
***
___ある日の夕暮れ。
トロスト区内門前にある【調査兵団所有墓地】を訪れたカイルは、いつものようにイルゼの墓の前まで足を運んだ。
そして、アデルの形見を静かに埋葬し終えると、墓石の前に腰を落とした。
「アデル、イルゼ……君たちは俺の命を救ってくれた恩人だ。それなのに、ごめん。俺は2人を……いや、自分自身を騙していた。イルゼを助けられなかった時、己の罪悪感を緩和するために無理やり君を走らせた。心の奥ではアデルの気持ちを知りながらも、表面では気付かないフリをした。……
そう言ってカイルは墓石の土を払いながら、独り言を続ける。
「だけど……いや、だからこそ俺は、この先も自分の
墓石にそっと添えられたカイルの手元では、緑の石が朗らかな光を放っている。
「…だから、俺のことは
ザッ…
その時、カイルの背後に近づく人影が一つ__
「ここにいたか、カイル…」
振り向くとそこには、
―【 続く 】ー
〜後書き〜
『エレンが巨人を操った瞬間は、進撃の中で著者的スカッとJAPAN』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ようやく、カイルがエルヴィンと“触れ合い”ました。
エレンの時のような電気は走りませんでしたが、カイルの様子には少し変化があったと思います。
次第に口調が子どもっぽくなるように演出したかったのですが、文章だけでそれを表現するのって難しいですね(汗)
ともかく、何とか【エレン奪還作戦】を書き終えられて安堵しています。
次回から王政との闘いへ向けた話に突入!
引き続き、ご愛読いただけますと幸いです(´-ω-`)
◼︎次回予告:『#31 烽火』
事件後、混乱が鎮まるまでエレンとヒストリアの2名を隠すことにした調査兵団。
今後の方針を定めようとした矢先に、ニックの訃報が__
壁の中央に潜む敵に立ち向かうため、調査兵居団の幹部はそれぞれの“持ち場”で行動を開始する!
※タイトルは「のろし」と読みまして、「狼煙」と同意の漢字です。