〜前書き〜
・【打倒王政編】はここから5話続く予定です。
※基本、5話とも原作ベースとなります。
・打倒王政①では、原作の第53~56話辺りの内容をお送りします。
↓それでは、本編へどうぞ↓
#32 打倒王政①:手掛かり
___6日後。
ウォール・ローゼ北区にあるレイス卿領地内のとある農村にて。
細長く続くあぜ道の途中に、飼料を積み上げた荷車を牽きながら歩く1人の青年がいた。
すると、その青年の元へ農夫が駆け寄ってくる。
「カール君!昨日は薪割りを手伝ってくれて助かったよ!お礼と言っちゃなんだが、これ持っていってくれ」
そう言って農夫は麻袋いっぱいに入った芋を差し出す。
「こんなにたくさん……いいんですか!?」
「いいんだよ、裏の畑で山程獲れたんだ。うちじゃ持ち腐れちまう」
「そういうことでしたら、いただきます。またお手伝いに来ますね!」
「あぁ!よろしく頼むよ〜」
青年は受け取った芋を片手に笑顔で手を振ると、再び荷車を牽いた。
**
しばらく進むと、今度は畑で草むしりをしていた農婦に声をかけられる。
「あら、カール君じゃない!うちの子があなたに遊んでもらえたって喜んでたわ」
「いえ、こちらこそ!トビー君には色んな虫を教えてもらいましたよ」
「私が虫苦手なもんだから、ごめんなさいねぇ。お礼に……ほらこれ、にんじん!獲れたてよ!」
「わぁ、ありがとうございます!実は、にんじんが大好物なんです」
「それはよかったわ!うちはよく獲れるから、いつでもいらっしゃいな」
「えぇ、ぜひ!」
青年は先程と同様に満面の笑みで手を振ると、再び荷車を牽いた。
**
やっとのことで牧場に辿り着いた青年は、敷地内にある
そこには3名の作業員がいて、馬房の清掃をしている最中だった。
「ただいま戻りました!オスカーさん、遅くなってすみません。少し寄り道をしていたもので…」
「おかえり、カール君。こんな農村に寄るところなんてあるのかい?」
「えぇ、近所の方々がご親切に食材を分け与えてくださったんです。今晩は野菜たっぷりのシチューにしましょう!」
「それはいい!夕食が楽しみだ」
「買ってきた飼料は奥の倉庫に運んでおきますね!」
「あぁ、助かるよ。棚があるからそこへしまっておいてくれ」
「はーい!」
元気よく返事をする青年は、“カール”__もとい、カイルだ。
鼻歌を口ずさみながら機嫌良く倉庫へ向かうカイルの後姿を眺めていた少し小太りな男は、ため息交じりに感心の声を漏らす。
「いやぁ~…それにしても、カール君は働き者だねぇ。
「えぇ、まぁ…」
適当な相槌で顔を引きつらせるのは、“ベンツ”ことベッツ。
「きっと彼は、そこでも人気者だったのだろう?」
「…そりゃもう、笑顔の絶えない日々でした」
額に汗を浮かべ苦笑いを見せるのは、“ルド”ことルドルフ。
「ほほっ、それはいいことだ」
そして、この牧場の
***
___夕食時。
食卓にカイル特製の『ごろごろ野菜のシチュー』と『ブールパン』が並べられた。
オスカーはシチューを口に運ぶと、その味わいの深さに舌を鳴らしながら称賛する。
「美味い!カール君、このシチューは絶品だよ!」
「それはよかったです!熱いので火傷しないようゆっくりと召し上がって下さいね」
そう言ってカイルが柔らかく笑いかけると、オスカーは切ない目で見つめ返す。
「ほほっ、君はまるで……
「フリーダ様?」
「この土地には『領主様』がおってな。そこの長女にあられるお方だ」
「へぇ、それは是非ともお会いしてみたいものです」
カイルのその一言に、オスカーは顔を曇らせる。
「それが……
「え…何故ですか?」
「フリーダ様は亡くなられた。5年前の“事件”の夜に……彼女は、この領地の自慢だった…」
オスカーの話によると、レイス家は5人の子宝に恵まれていた。
その中でも長女の“フリーダ”は、よく農地まで赴いては領民の労をねぎらって回り、その飾らない性格が故に誰からも好かれる女性だったそうだ。
老若男女分け隔てなく愛想を振りまき、時には、喧嘩の仲裁に入るほどの世話焼きでもあったという。
そんな彼女の仁徳に、心突き動かされた領民は少なくない__そして、彼女の存在がもたらす恩恵は、亡くなって5年の月日が流れる今でも色褪せることはなかった。
「…不思議なオーラを纏ったお方だったよ。農地の子供たちはみな彼女に憧れたさ。私でさえ、何度彼女の笑顔に救われたことか……だからこそ、あの“事件”が痛ましくてならない。私は今でも犯人が憎らしくて仕方がないよ」
「一体、何が……その犯人というのは、捕まったんですか?」
「いいや、5年が経った今でも未解決のままだ…」
「そんな…」
カイルは手に持っていたパンを皿に戻すと、真剣な顔でオスカーに頼み込む。
「…オスカーさん。その事件について、詳しく聞かせてください。今更僕たちに何ができるってわけでもありませんが、お気持ちを汲むことはできます…!」
「おぉ…なんと情け深いことか…!ありがとう、カール君。そうだな、あれは確か……~~~~」
そうして、オスカーは事件の全貌を語り始めた。
**
【レイス一家襲撃事件】があったのは、ウォール・マリアが陥落して数日後のこと。
その日、レイス一家は陥落事件の惨事を受け、礼拝堂の中で祈りを捧げていたそうだ。
手を繋いで目を閉じ、神へ招きの言葉を唱和しているところへ、いきなり盗賊たちが忍び込んできたのだという。
結果、盗賊はレイス家の
事件の内容を聞いたカイルは、握りしめていた拳に力が入る。
「なんて、惨いことをっ……燃やされたということは、その礼拝堂は木造だったのですか?」
「いいや、石造りだったんだが……如何せん、かなり老朽化が進んでいたのでな。盗賊たちはそこを狙ったのだろう。卑怯な奴らめっ…」
「無防備な一家を襲った上に、建物まで倒壊させるとは……とても人の所業とは思えません」
「まったくだ!……これはあくまで憶測だがね? 私は
「!?…それは、つまり…」
「本妻になれなかったことを逆恨みして、盗賊を雇ったんじゃないかと…」
「…なるほど。しかし、隠し子の存在は領地の方々にとって周知の事実だったんですね」
「良くも悪くも、レイス家はこの村の注目の的だったのだ。噂はすぐに流れる……だが、慈悲深きフリーダ様は、そんな
目頭を押さえながら咽び泣くオスカーに、カイルはそっとハンカチを差し出しながら語りかける。
「この領地は本当に優しい方ばかりです。きっと、フリーダ様のご意向を皆さんが受け継がれているのでしょう……とても素敵な村だ。レイス一家や
ここ『フォーゲル牧場』は、元々オスカーの弟“グース”が所有するものだった。
グース含む牧場の従業員たちは資材の調達でストヘス区を訪れていた際、偶然にも女型の巨人との戦闘に巻き込まれてしまい、命を落としたそうだ。
そのため、兄のオスカーが牧場を引き取り、近隣農民の協力を得ながら何とか一人で切り盛りしていたのだという。
「カール君、あぁ…何とお礼を言ったらいいか!君たちがここへ来て一週間、私はまた生きがいを見つけることができた。頼りにしているよ…!」
「はい、明日からもまたしっかりと働きます!……っと、そのためには早く寝るのも大事ですね」
「ほほっ、その通りだな。ゆっくり休んでくれ」
「…では、僕たちはお先に失礼します。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。また一つ、この村のことを知れてよかったです」
「いやいや、こちらこそ。君に聞いてもらえてすっきりしたよ。おやすみ、カール君」
「おやすみなさい、オスカーさん」
カイルが席を立つと、ベッツとルドルフも後に続き、3人はそそくさと食堂を出ていったのだった。
***
___深夜。
オスカーが寝静まったのを確認したカイルは、ベッツとルドルフを自身の部屋に呼びつけた。
「…ようやく礼拝堂で起こった事件の詳細が聞けましたね。そして、衝撃的な事実が判明しました」
「あぁ。ただの『強盗殺人』じゃねぇな、ありゃ…」
「そうですね、ただの盗っ人がわざわざ建物まで破壊する必要はありませんから。
「じ…じゃあ、レイス卿一派の中でエレンみたいに巨人化の能力を有する者がいるってこと!? 外から来た敵とも何か関係があるのかな?」
「そこまでは何とも……ですが、存在を隠せているということは、可能性は“2つ”。巨人化できる人間がいるか、ラガコ村のように必要に応じて人間を巨人化させる手段を持っているか……
この時、カイルが想像していたのは、礼拝堂の残骸に立つ巨人化したエレンの姿__黙って考え込むカイルを目の前に、ベッツとルドルフの二人も腕を組む。
しばらくすると、うーんと低いうなり声を漏らしたベッツが片眉を上げながら話を切り出した。
「どっちにしろ、その事件を『強盗殺人』として片付けているのが俺は気になるな。どう考えても“強盗"ってのには、無理がある……何か皮肉な意味が込められているような…」
「え…それはつまり、ロッド・レイスはその事件で
「仮にそうだとすれば、その奪われたものとはエレンの持つ巨人の力……厳密に言えば、エレンの“叫び”の力でしょう」
驚くルドルフと冷静に分析するカイル__ベッツは怪訝そうに問う。
「…何故、そう言い切れる?」
「『エレンが巨人を操った』という現象が王政に伝わって以降、調査兵団に対する王政の干渉が過激化しているからです。“叫び”の力は元々王政の手元に存在したが奪われ、現在エレンを執拗に欲しているのは、その力の居所が判明したから取り返そうとしている……と考えれば、辻褄が合います。礼拝堂事件にエレンがどう関わったかまでは、定かではありませんが…」
「なるほどな。だが、一つ引っかかるのは……“叫び”の力を取り戻したいだけなら、ヒストリアまで狙う必要はあるか?」
「我々がヒストリアの情報を得たのは、ウォール教のニック司祭からです。敵が彼を拷問したのは、
カイルがつらつらと見解を述べると、ルドルフは頭を抱えながら大きな背中を小さく丸め出す。
「もう、何がなんだか……王政が2人を手に入れたい理由はわからないけど、どうして僕たち調査兵団に訳も話さず、水面下で奪おうとしてくるんだろう!? 人類のためを思えば、お互い協力し合った方が賢明なのに…」
「訳を話せない“理由”があるのでしょう。それはおそらく我々、ないし、人類にとって
「…わかった。それで、俺たちはどうする? 今朝のトロスト区からの伝達では、エレンとヒストリアを狙って中央憲兵が動き出したと聞いたが……団長の読み通りだとすれば、リヴァイ班はすでに敵と接触してるかもしれねぇ。俺たちも加勢に行くべきじゃねぇのか?」
「いえ、あと1日だけ様子を見ましょう。カティが団長から何か指示を受けてくるはずです」
「で、でも!いくら兵長がついてるとはいえ、新兵だけの班じゃ心許ないよっ……僕たちもすぐに向かおう!」
「ルドルフさん、俺たちの任務は『潜入捜査』です。情報を手に入れた途端に退散しては、こちらが探りを入れていたことが敵にバレてしまいます。それに、今日の昼間に礼拝堂を見に行ってみたんですが……見張りが何人も立っていて、その大半が中央第一憲兵でした。
カイルの意見に、ルドルフは素直に口をつぐむ__しかし、ベッツは少し納得のいかない様子だった。
「けどよ、カイル……先の戦いでエレンを奪還するために、俺たちは何人の兵士を犠牲にした? そこまでして取り戻した『
「ベッツさん、今回俺たちが相手取っているのは巨人ではなく、王政府……つまり、『人間』です。敵はこれまで手を出さなかった領域にまで、
カイルが次第に声を強くしていくと、ベッツもそれ以上は反論をしなかった。
代わりに、少し背中を丸めながら寂しそうな顔で訴えかける。
「わかったよ……けどお前、何でそんなに平然としていられるんだ? 先の奪還作戦では、お前も“親友”を失ったってのによ。このまま作戦が失敗して、エレンがまた敵の手にでも渡ったりしたら……ナギアたちは報われねぇっ…」
そう話すベッツの声はいつになく情けないものだった。
だが、そんなベッツを前にしても、カイルが表情一つ変えることはなかった。
「俺はナギアさんの笑顔が好きでした。普段はクールな印象なのに、笑うと少し子供っぽくなる……そんなナギアさんの“笑顔”に、いつも励まされていたんです」
「き、急にどうした!? そりゃあ、俺だって…」
「ベッツさん、ナギアさんの最期を……覚えていますか?」
「!?……あいつは、
目を見開きながら声を震わせるベッツに向かって、カイルは静かに頷く。
「俺は平然としているわけでも、ましてや、明るく前向きに未来へ向かおうとしているわけでもありません。これまで失ってきた仲間たちの“意志”が、背中を強く押してくれている……ただ、それだけのことです」
そう話すカイルの左腕では、緑の石のブレスレッドが微かに光っていた。
「…ったく、俺はいつからお前に諭されるようになっちまったんだか…」
感極まったベッツが指の背で鼻をこすった時…
コン…コンココン…
窓の外から音がした__カティが来た合図だ。
「カイル!今日も特に情報は得られなかったわ。ヒストリアが生まれ育った牧場は、怪しい動きが一つもない…」
「ありがとう。こっちは大きな成果があった……すまないが、このまま団長へ伝達をお願いしたい」
「!?…もちろんよ、任せて!」
そうして、カティはカイルから書類を受け取ると、フードを深く被り直し、再び闇の中へと姿を消して行ったのだった。
***
___翌日。
カティがトロスト区に到着したのは、ちょうど昼前辺りだった。
エルヴィンは夜通しで長距離を駆けてきたカティをねぎらうと、カイルから託された『報告書』に目を通した。
それから、潜入班への次の指示をカティに言い伝えたのち、
指示を受けたカティはすぐにまた馬に跨り、ウォール・ローゼ北区を目指して駆け出して行ったのだった。
***
___時を同じくして。
ウォール・ローゼ南区の山奥にある、廃屋となった関所では__
ゴッ!……バキッ!……
椅子に縛り付けた男に向かって、リヴァイが何発もの拳の鉄槌を喰らわせていた。
その男はニック司祭を殺害したとされる、中央第一憲兵の“ジェル・サネス”だ。
ハンジたち含むリヴァイ班は、
『リーブス商会』と手を組むことになったのは、エレンの硬質化実験を行っていた山小屋に、ディモ・リーブスの手下どもが“夜襲”に来たことがきっかけだった。
この夜襲を事前に察知していたエルヴィンは、敵の襲撃を逆手に取り、エレンとヒストリアを
無事にアジトを取り押さえたのち、リヴァイによる
そうして、ディモ・リーブスらの協力の下、サネスたちを捕らえたリヴァイとハンジは、まずニックが受けた拷問の数々を与えることから始めたというわけだ。
だが、サネスは頑なに口を割ろうとしない__そこで、同時に捕らえた仲間の“ラルフ”に裏切られるという演出を仕掛けてみた。
すると、それにまんまと引っかかったサネスは、観念したように固く閉ざしていた口を開いたのだ。
「レイス家が……
こうして、“切り札”は揃った。
***
___夜も深まった頃。
駐屯兵団トロスト区本部にて、ピクシス司令と密会をするエルヴィンの元に、ハンジ班のニファが現れた。
ニファはサネスから引き出した情報を伝令に来たのだ。
それを受け取ったエルヴィンは、ピクシスにある“提案”を持ち掛ける。
「司令、殺し合わずに王の首をすげ替えることは可能です……ヒストリア・レイスを“女王”に即位させれば…」
***
___その数時間後。
トロスト区へ伝令に行っていたカティが、カイルの元に戻った。
この時、すでに夜中の12時を回っていたが、伝言を聞いたカイルはすぐさまベッツとルドルフを起こしに向かった。
そして、出発の準備をしながら、カティにこの後の動きを指示する。
「カティ、立て続けの伝令ご苦労だった。君たちの班はそのままここに残ってくれ。積極的に調べる必要はない、監視が目的だ。だから……ロッド・レイスに何か動きがあれば、君の判断で動いてくれ」
「えぇ、わかったわ」
「それから、明朝にこの『電報』をここ
「…す、すごい。そこまで用意していたなんて……きっとハンジさんも、あなたの成長には目を見張るわ」
「いや、ハンジさんたちには到底及ばないよ……それじゃあ、ここは任せた」
「了解!」
こうして、カイルはベッツやルドルフらを連れて、エルヴィンの待つトロスト区へと向かったのだった。
***
___翌日の昼下がり。
調査兵団トロスト区支部にて。
団長室でエルヴィンが着替えをしていたところに、ハンジが騒々しく飛び込んできた。
「エルヴィンはいるか!?…いたな!!」
息を切らすハンジの表情には、焦燥感が漂っている。
「エレンが巨人についての重大な情報を思い出した!それが…大変なんだ!!この作戦を考え直した方がいい!!」
ハンジはそう喚き散らすと、エルヴィンから受け取った水をぐびぐびと喉に流しんだのち、一息ついてからまた話を続ける。
「レイスは……
―【 続く 】ー
〜後書き〜
『ハンジがいれば家にゴキブリが出ても安心ですね』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回、カイルの役目は『レイス卿領地潜入班』でした。
原作第57話にて、エルヴィンがハンジに手渡している『レイス卿領地潜入班の報告書』はカイルたちが届けたものだったというわけです。
さらに原作第62話にて、ハンジがモブリットに対してこの報告書のことを『手掛かり』と表現しているため、今回のタイトルを『手掛かり』としています。
さぁ、打倒王政に向けて次のカイルの役目は何でしょね!?
◼︎次回予告:『#33 打倒王政②:裏切り』
ディモ・リーブスが殺害され、その容疑をかけられてしまう調査兵団。
エルヴィンが連行されるところに、ちょうどカイルたちが駆けつけるも_!?
■おまけ
◎久しぶりの登場『カティ』とは?
⇒カティ・カロライン:95期訓練生でカイルの同期。現在はハンジの分隊で班長を務めている。打倒王政編では、レイス卿領地潜入班としてカイルの指示に従って動いている。