〜前書き〜
打倒王政③では、前回に引き続き『囚われた調査兵たちの裏話(オリジナル)』をお届けします。
※話の中でリヴァイやハンジの動きも多少触れますが、基本的に⑤以降で原作の流れを説明する形になります。
↓それでは、本編へどうぞ↓
「調査兵団団長エルヴィン・スミスを“死刑”に処せ……それも『公開処刑』だ」
カイルの口から発せられたその言葉は、地下牢の空気を一瞬にして凍り付かせた。
「カイル!!お前、何てことをっ…」
「エルヴィン・スミスを大々的に公開処刑にすれば、必ず
ベッツの制止も聞かず、淡々と話を続けるカイル__思わぬ“提案”に、マチルダが腹を抱えて笑い出す。
「はははは!こりゃいい、名案だ!!確かにその方が手っ取り早いかもな……だが、いいのか? 仮にも今まで忠誠を誓ってきた相手をいとも簡単に殺しちまって…」
「構わないさ。どうせ捨てられた身だ、知ったこっちゃない……それに死刑にされたって当の本人も不思議ではないだろう。それほどまでに奴は仲間を殺しすぎた、
カイルはそこまで話すと、肩をすくませ身体の横で上に向けた両掌を少し浮かす仕草を見せる。
「…奴の“死に目”を拝めないのは、少し残念だ」
「おい、カイル。お前……それ、本気で言ってんのか?」
そう言ってカイルを睨みつけるのは、肩をわなわなと震わせたベッツだ。
眉間にシワを寄せ目尻を尖らせたベッツとは裏腹に、カイルはけろりとした表情で答える。
「えぇ、まぁ……自分は
「そうかよ。お前の気持ちはよくわかった…」
ベッツは静かにそう答える__と同時に、カイルの胸ぐらを勢いよく掴み上げた。
ガッ…
「うっ…!」
一瞬、カイルは苦しそうな表情を見せる__が、すぐにまた澄まし顔に戻ると、冷めきった眼でベッツを睨み返した。
そんな2人のやりとりを他人事のように眺めていたマチルダは、頬杖をつきながら気だるい声でベッツに絡む。
「あーあー、やめといた方がいいぜぇ? ベッツさんよぉ」
「うるさい!あんたは黙ってろ!!俺はこいつに話がある…」
「…へいへーい」
ベッツはマチルダの冷やかしを一蹴すると、再びカイルを睨みつけた。
「カイル、もう一度だけ聞く……さっきの“提案”ってやつは、本気なのか?」
「何度も同じことを言わせないでくださいよ。貴方も見たでしょう? トロスト区の検問所で、奴は俺たちのことをまるでゴミでも見るような目で見下した。きっとこれまでも、そうやって『使えない部下』を平気で切り捨ててきたんでしょう……俺たちも
「確かに団長にとって俺たちは、
「…もう遅いですよ。それはとっくに失われた」
「団長を殺させてみろ……俺が、全力で阻止してやる!!」
「へぇ、面白い……
「このっ……大馬野郎!!」
ベッツはそう叫びながら、カイルに向かって拳を振りかざした。
しかし、その拳はカイルの体にぶつかる直前で軽く受け流されてしまい、代わりに溝落ちへ一発、
ドゴッ!
「ガハッ…!」
腹を殴られた衝撃で、ベッツは唾を吐き出した。
そこに、カイルは容赦なく畳みかける__ベッツの首元に手を回して顎を押さえると同時に、反対側の手でベッツの腕をぐっと掴むと、さらに足を蹴り払ってみせたのだ。
クルンッ……ドサッ!
ベッツの体は宙で半回転したのち、そのまま背中から地面に落ちていった。
すると今度は、それを見ていたルドルフがカイルに向かって突進し始める。
「よくも……よくもベッツさんを!!」
ルドルフの影がカイルに覆い被さった瞬間__ベッツの時と同様に、ルドルフの体がふわっと宙に浮かんだ。
カイルは向かい来る勢いを利用して、ルドルフを
ルドルフの腕を掴み、瞬時に体を回転させ、低い体勢からルドルフの腰元へ背中を押し当てる。
そうしてカイルはいとも簡単に、自分の倍はあろうルドルフの巨躯を牢屋の淵に置いてあった机に向かって投げ飛ばしてみせたのだ。
…ッドーーン!!ミシミシミシィィッ…!
それは、木造の机が軋むほどの衝撃だった。
一気に2人ものされてしまった状況に他の調査兵たちが目をひん剥いていると、それまで傍観を決め込んでいたマチルダが首を突っ込む。
「あちゃー、言わんこっちゃない!こいつの対人格闘成績は、私ら同期の中でトップだったんだぜ!? それに加え、女にすら容赦ないんだ。私も何度投げられたことか…」
それを聞いた調査兵たちは、唾を飲み込みながら後退る。
カイルは手を払いながら振り返ると、涼しい顔で一言__
「…他に逆らう者は?」
その冷淡な声に、調査兵たちは首を横に振ることしかできなかった。
そんな中、震える腕で何とか上体を起こしたベッツは、殴られた腹部を押さえながら訴えかける。
「…いいか、カイル。団長を裏切るということはな……お前が好きだと言った『ナギアの笑顔』を裏切ることと同意だ!……ハァ…ハァ……あいつは、
「なぁ、あんた見苦しいぞ。もはや目も当てられん…」
ため息交じりに話を遮るマチルダ__それでも、ベッツは諦めない。
「あんたには関係ない!これは俺たちの問題だ!!………聞いてくれ、カイル。ナギアはっ…」
だが、再びマチルダに遮られてしまう。
「もうこいつには何を言ったって無駄だぜ? 昔からそういう奴なんだよ。それに……我々も既に、こいつの提案を受け入れる気でいる」
「なっ!?……ちょっと待っ…」
ガタッ…
引き留めるベッツを無視するかの如く、勢いよく立ち上がったマチルダは地下牢全体へ届かせるよう声を張り上げた。
「よく聞け!貴様らへの尋問はなしだ!!……ベッツさんよぉ、有難く思うんだな。カイルのおかげで
そう一言だけ言い残すと、マチルダは部下を引き連れそそくさと地下牢を出て行った。
再び静寂に包まれた牢屋の中では、悔しさのあまり顔をぐしゃぐしゃにさせながら啜り泣くベッツの声だけが響いていたのだった。
「…クソッ……クソがぁぁっ…!」
***
___2日後。
兵団総統局の門前にある広場へ、大層立派な『処刑台』が設置された。
王都の住民たちはそれを取り囲むようにして、これから実施される裁判に対する意見を交わしている。
まもなくして、調査兵団団長エルヴィン・スミスの【処刑裁判】が執り行われるのだ。
この2日間__中央憲兵はカイルの提案通り、団長のエルヴィンにだけ尋問を行い、残りの調査兵をおびき寄せるため壁内全域に処刑裁判のビラを配り歩いた。
尋問を受けたエルヴィンの体は
そして、いよいよ王への謁見の時。
ボロぞうきんのように
***
___同時刻。
地下牢では、幽閉された調査兵たちが漂わす悲壮感で、空気がドブ川のようにぬかるんでいた。
ベッツは檻に手をかけて膝を揺すりながら外の様子を伺い、ルドルフは机に突っ伏すように背中を丸めている。
牢屋の端で膝を抱えて座るカイルは、相変わらずけろりとした表情をしていたが、その顔は少し
これは、マチルダの“策略”である。
万が一にも調査兵たちが暴動を起こさぬよう、事前に牙を削いでおこうという魂胆だ。
カイルたちは水を飲むことは許されても、まともな食事を与えてもらえないでいた。
最後に固形物を口にしたのは、1日前に配られた人数分にも満たない量の『野戦糧食』だけだった。
そのため、ほとんどの兵士が力無くぐったりとうなだれていたのだ。
そんな中、ベッツは牢屋の前に立つ見張りの憲兵に対し、何やらしつこく状況を尋ねていた。
「おい、裁判はどうなった!もう始まったのか!?」
「しつこいぞ、何度同じことを聞くんだ!俺たちはずっとここでお前らを見張ってるんだから状況を知るわけないだろ!? 少しは大人しくしてろ…」
そう言って、見張りが苛立ちを見せた時…
ガチャ…
地下牢の出入り口の扉が開かれ、マチルダが入ってきた。
それに気づいたカイルも立ち上がり、檻に手をかける__隣に立つベッツに睨まれたが、カイルは気にせずマチルダに尋ねた。
「裁判は順調かい?」
「ついさっき始まったよ。すごいぜ? 王政府と兵団上層部のお
「…残念な知らせ?」
「このまま行けば、お前ら調査兵団は解体だ。昨日の昼頃、兵士長のリヴァイとその部下数名がストヘス区で発見されたんだが、奴らは『出頭命令』を拒否した。それだけじゃない……奴らは連行しようとした憲兵たちに反抗した挙句、その憲兵たちを手にかけ
「!?」
リヴァイたちによる『憲兵殺し』__この衝撃的な事実に、牢屋の調査兵たちは一斉にざわついた。
さすがのカイルも言葉を失っているようだ。
しかし、ベッツだけはマチルダの話を認めようとしない。
「でたらめだ!!兵長たちがそんなことするはずねぇ!……みんな、騙されるな!こいつらは俺たちの弱みを握って良いように操るつもりだ!絶対に耳を貸すな!!」
「いやいや、住民たちの目撃情報が何件もあんだぜ? こればかりは覆らん…」
「う、嘘だ!そんなことっ……嘘に決まってる!!」
ベッツはそう吐き散らすと、両手で耳を押さえながらその場にしゃがみ込んでしまった__そこに、マチルダが追い打ちをかける。
「耳を塞ぎたくなるのはわかるが、これは“事実”だ。さすがの私も驚いたぜ……まさか、カイルの言う通り、
そう言いながらマチルダが視線を左へ移すと、眉毛をハの字にしたカイルと目が合った。
「だから言ったじゃないか、マチルダ。すべては奴らが仕組んだことで、俺たちは
「あぁ、そのようだ。……だが、上の連中はそうは思ってくれねぇ。エルヴィン・スミスの処刑が済んだら、次はお前らの番だとよ」
「それは困ったな……なぁ、マチルダ。俺は初めから君らに協力的だった。せめて俺だけでも見逃してくれないか?」
「そうだな、事が収まったら上に掛け合ってやろう。しかし、な……リヴァイたちは憲兵を殺しておいて尚、逃走中だ。お前の助言通り、【処刑裁判】の御触れを大々的に公表してから周辺をくまなく警備しているが、未だにネズミっ子一人姿を現さねぇ……カイル、奴らは本当に来るのか?」
「来る。だが、あのチビは用心深い。姿を現すとすれば、それは……こちらが油断した時だ。だから警戒を怠るな」
「簡単に言ってくれるな………ったく、こんな肝心な時に、
独り言のようにつぶやかれたマチルダの言葉の中に、馴染みのある姓を聴き取ったカイルは耳をぴくりと動かした。
「えっ…アッカーマン…?」
「…イヤ、こっちの話だ。お前らには関係ねぇ」
「そう……それより、マチルダ。奴の処刑が終わったら俺を独房に移してくれないか? こうも睨まれ続けちゃ、体に穴が開きそうだ…」
そう言って後ろの調査兵たちを顎で指すカイル__すると、マチルダは腕を組み、片側の口角を吊り上げながら威張り散らすように告げる。
「フンッ…お前が私の部下としてその身を捧げると言うのであれば、独房どころか、ふかふかなベッド付きの個室を与えてやるよ。対人格闘が得意なお前に
「おぉ…なんと慈悲深い!人一倍、役に立つと保証するよ」
「ははは!そうか、なら吉報を待て」
「はっ!」
歯切れ良く返事をしたカイルが背筋を伸ばして敬礼をして見せると、マチルダはまた一笑いしてから、ご満悦の様子で部下と共に地下牢を出て行った。
カイルはその背中を見送るように敬礼を続けている。
**
地下牢の扉が閉まると、そこかしこで絶望の声が漏れ始めた。
_もう調査兵団は終わりだ。
_いずれみんな処刑される。
理不尽な仕打ちに肩をすくめ、それまでの人生に意味があったかと自問自答する者もいた。
だが、カイルだけは違った__一人だけ希望に満ちた表情で、出入り口の扉に向かって敬礼を続けていたのだ。
そんなカイルに、横でしゃがみ込んでいたベッツが苛立ちをぶつける。
「おい、なんだその敬礼は…」
「何って……
「…そうかよ」
ベッツは相槌もそこそこに、いきなりカイルへ殴りかかった。
ボコォッ!
不意打ちだったからか、はたまた、飢餓で反射神経が衰えていたのか__ベッツの拳は
殴られた衝撃で頬の内側が切れ、カイルの口元から血が流れ出る。
それでも、ベッツの怒りは収まらない__倒れ込むカイルの胸ぐらを掴んでその場に立ち上がらせると、再び拳を構えてみせた。
「俺はお前を許さない……絶対に!!」
瞳を潤ませながら怒鳴るベッツ__だが、カイルは抵抗するどころか、胸ぐらを掴むベッツの左手にそっと手を添えたのだ。
「いい…ですよ、ベッツさん。気が済むまで、俺を殴ってください……お願い…します」
「!?」
掠れた声で懇願するカイルの表情は、いつもの柔らかい笑顔に戻っていた。
「…お前にそんな顔されたら、俺は……俺はっ…!」
ぎゅっと
悔し涙が零れ落ちると同時に握り直された拳は、“怒り”と“迷い”で震えていたのだった。
***
___その頃、審議所では。
被告人、調査兵団第13代団長エルヴィン・スミスに対する【最終尋問】が行われていた。
エルヴィンは鎖で体の自由を奪われながらも、『調査兵団の解体は不当、かつ、人類の損害である』と訴え、王政への“敵対意思”を否定し続けた。
しかし、懸命な弁論も虚しく、王政側の処罰の意向が揺らぐことはなかったのだ。
「…話は済んだな。処刑台へ連れて行け」
官僚の一人が憲兵に指示を出すと、エルヴィンは左腕を強引に引っ張られ、立ち上がるよう促された。
もはや打つ手なしと思われた、その時…
バーーン!!
突然、審議所の扉が勢いよく開かれた。
何事かと振り向くと、扉の先ではピクシス司令の付き人アンカが切迫した表情で立ち尽くしていた。
そして、力強い敬礼と共に発せられた報告は、その場に居合わせた全員の背筋を凍り付かせるものだった。
「ウォール・ローゼが突破されました!!」
―【 続く 】ー
〜後書き〜
『カブト虫の味がする野戦糧食。想像しただけでちょっと…』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
著者は大の虫嫌いです。
ですが、現代社会では『食糧問題』が切っても切り離せない課題となっています。
無印良品でもコオロギせんべいが発売されてるくらいですもんね、、昆虫食が主流になる時代が来るのやもしれません、あぁ怖い。。。
そして、アニファンの皆様申し訳ございません。
アニ様の華麗な体技をカイルの格闘技スキルとして使わせていただきました。(箇所:殴り掛かってきたベッツをひっくり返らせた技)
◼︎次回予告:『#35 打倒王政④:解放』
囚われたままのカイルたち。処刑寸前のエルヴィン。
そして、ウォール・ローゼ陥落の報告を受けた王政府。
今、壁の中の世界が変わろうとしている__選ぶのは誰か?誰を信じるのか…?
■おまけ
◎ナギアとエルヴィンについて
ナギアの片思いです。同期のベッツはナギアに想いを寄せつつも、エルヴィンへの尊敬心から、ナギアの恋路を密かに応援していました。