進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

打倒王政④では、『囚われた調査兵たちの裏話(オリジナル)』~『レイス卿領地を目指すまで』の流れを描きます。
※今回話の中でエルヴィンの策略やハンジの活躍について説明があります。

↓それでは、本編へどうぞ↓




#35 打倒王政④:解放

 

 

「ウォール・ローゼが突破されました!!」

 

 

審議所の扉を大仰に開いたアンカから発せられた言葉に、王政府の官僚含めその場の全員が耳を疑う。

 

アンカはすべての者の視線・耳が自分に向いたのを確認すると、さらに報告を続けた。

 

 

「突如出現した『超大型巨人』及び『鎧の巨人』によって、カラネス区の扉は二つとも破壊されました!!現在、東区より避難する住民が押し寄せて来ています!!」

 

 

すると、それを聞いたピクシスが間髪入れずに部下へ指示を出す。

 

 

「避難経路を確保せよ!!駐屯兵団前線部隊は全兵力を東区へ集結させ、避難活動を支援する!皆それぞれの持ち場へ!住民の避難が最優先じゃ!!」

 

 

緊急事態の対応に慌てふためく兵士たち。

 

その時、官僚の一人がガタっと席を立つ。

 

 

「ダメだ!!」

 

 

審議所内にビリビリと響き渡ったその声は、どこか切羽詰まっているように聞こえた。

 

ピクシスは耳をぴくっとさせながら、声のする方へギロリと瞳を向ける。

 

そして、ただ黙ってその時を待った。

 

王政府(彼ら)が選択する事の顛末を__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

地下牢では、審議所に届いた緊急事態を知る由もない調査兵たちが牢屋の中でうなだれたままだった。

 

柵に背をもたれさせるベッツの少し先では、左頬を押さえたカイルがあぐらを掻いて俯いている。

 

ベッツはそんなカイルを横目に、()()()()振りかざした右手の甲をぼんやりと眺めた。

 

 

(心臓の辺りが痛ぇ……この“違和感”は何だ?……けどあの時、あいつは確かに…)

 

 

そんなことを考えながら、チラチラとカイルの顔を伺っていると…

 

 

キィィ…

 

 

再び地下牢の扉が開かれた。

 

その音に一早く反応したのはベッツだった。

 

 

「チッ…マチルダさんよぉ、あんたもしつこいな!これ以上俺たちを追い詰めて、何になるっ…て………んぁ!?

 

 

振り向きざまに文句を垂れたベッツは最後まで言葉を発することなく、声を裏返しながら目を見開いた。

 

何故なら、その視線の先にいたのがマチルダではなくアンカだったからだ。

 

さらに混迷を極めたのは、続々と流れ込んできた駐屯兵団の中枢部隊が()()()()()()()()()()()()()()()()__

 

 

「なっ!? あ、あんたは確かピクシス司令のっ……てか、何で見張りが!どうなってんだ!?」

 

 

戸惑うベッツの隣にもう一人、柵に飛びついた者がいた__カイルだ。

 

 

「アンカ!!()()はどうなった!?……団長は、無事か!?」

 

「カイル!無事でよかった……作戦は成功よ!安心して。かなり痛めつけられたようだけど、エルヴィン団長もご無事だわ!……さぁ、早くここから出ましょう!」

 

「よ、よかった…」

 

 

すると、2人のやりとりに置いてけぼりのベッツが喚く。

 

 

「はぁ!?……おい、『作戦』って何だ!俺たちはここから出られるのか!?」

 

 

アンカはベッツの問いにぐっと力強く頷いてみせると、牢屋の兵士たち全員に聞こえる声で説明した。

 

 

「調査兵団は中央憲兵によって“冤罪”をかけられていたのです!ですが、ご安心下さい……エルヴィン団長の作戦により、無事にその冤罪を晴らすことができました!ザックレー総統の指揮の下、これより王都や行政区の『仮押さえ』を進行します。つまり……あなた方は、()()()()です!!

 

 

その吉報を聞いた調査兵たちは、牢屋の中で飛び跳ねるように喜んだ。

 

だが、ベッツとルドルフは尚も理解に苦しむ表情で肩を落としたままでいる__その2人の視線の先にいるのは、カイルだ。

 

他の調査兵たちが互いを励まし合うように肩を組んで感極まっている中、カイルは牢屋の鍵を開けて中に入ってきたアンカと固い握手を交わしていた。

 

 

「…助かったよ、アンカ。()()()()()()()()()()()が、きっと君も一役買ったんだろ?」

 

「えぇ、まぁね。少し怖かったけど……囚われてたあなたたちに比べたらこんなのへっちゃらよ」

 

「本当にありがとう……矢継ぎ早に申し訳ないが、団長の元まで案内を頼めるか?」

 

「ええ、もちろんよ!……皆さん、私についてきて下さい!!

 

 

こうして、囚われていた調査兵たちはアンカの後ろに続いて、地下牢を脱出したのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___さらに、数分後。

 

 

地上への階段を駆け上がり、すぐの目の前の廊下をまっすぐ進むと、窓から差し込む太陽光が調査兵たちの体を照らした。

 

数日ぶりに浴びた温かい日の光が、鉛のように重たかった体をまるで綿毛のように軽くさせる。

 

ふらつきながらもアン力の背中を必死に追いかけるカイル__そして、やっとのことで審議所の前まで辿り着くと、エルヴィンの元へと真っ先に駆け出した。

 

 

「エルヴィンさん!!」

 

 

ちょうどその時、捕らえられた中央憲兵の残党が審議所の近くを通りすがった。

 

連行される中央憲兵の中には、あのマチルダもいたのだ。

 

カイルの声に気づいたマチルダは憲兵の拘束を強引に振りほどくと、鬼のような形相で突進し始めた。

 

 

「カイル!お前は私を裏切った……()()()!!お前だけは絶対許さねぇ…!」

 

 

怒号を上げながら物凄い勢いで迫るマチルダ__その影がカイルに覆いかぶさった瞬間…

 

 

バッ…

 

 

アンカがカイルの目の前に立ち塞がるように飛び込んできた。

 

 

「!?」

 

 

動揺したマチルダは少しだけ勢いを落とす__その隙をアンカは見逃さなかった。

 

瞬時にマチルダの腕を掴み、体を低くして懐に入り込むと、勢いを利用してマチルダを投げ飛ばして見せたのだ。

 

 

クルッ……ドシーーン!!

 

 

自分より大きな相手を投げるアンカの華麗な身のこなしは、まるでカイルが披露する体術そのものだった。

 

廊下の床に叩きつけられたマチルダは衝撃で脳震盪でも起こしたのか、すぐには立ち上がらない。

 

そこにアンカが畳みかける__上からのしかかるようにしてマチルダの体を押さえつけると、皮肉を投げかけたのだ。

 

 

「11位に投げ飛ばされる気分はどう? ()()()()()()()……これはカイルに教わった技よ。あんたに馬鹿にされたあの日から磨いてきたの。いつか、あんたを投げ飛ばしてやろうってね…」

 

 

だが、マチルダはそれを鼻で笑い飛ばす。

 

 

「ハッ…これで私に勝ったつもりか? アンカ、お前は()()()()()を間違えたようだな……いつか、地獄を見るぞ!!

 

 

しかし、アンカも声を強めて反論する。

 

 

「お生憎。あんたは()()()()を間違えたようね……地獄ならとっくに見てきたわよ!!

 

 

そう言ってアンカはマチルダの腕をぐいっと背中に回すと、勢いよく手錠をかけたのだった。

 

 

ガシャンッ…

 

 

 

**

 

 

 

この瞬間、審議所の前廊下に異なる様相の者が一堂に会した。

 

_ピクシスと共に審議所から出てきたエルヴィン。

 

_地下牢から解き放たれたカイルたち調査兵。

 

_捕らえた王政府の官僚たちを連行する憲兵団師団長のナイル。

 

_そして、暴走したマチルダを押さえつけるアンカ。

 

 

「カイル、ここは任せて!」

 

「すまない!ありがとう…!」

 

 

アンカの後押しを受け、カイルはさらに歩を進めた__その後ろをベッツやルドルフも追いかける。

 

そうして、やっとのことでエルヴィンの目の前に辿り着くと、カイルはスッと背筋を伸ばして口角を柔らかく上げたのだ。

 

 

トン…

 

 

まるで水が流れるように、カイルの左胸には自然と拳が当てられる。

 

それを受けたエルヴィンはもう一歩だけ前に出ると、胸元から布を取り出し、カイルの口元に滲んでいた血を拭い取ってやった。

 

 

「よく……信じてくれた」

 

「俺が貴方を信じるのは、“当然”であり“必然”です」

 

 

少し食い気味に返されたカイルの言葉に、エルヴィンは柔らかい笑みをこぼしながら続ける。

 

 

「君の働きがなければ、とっておきの『切り札』を切れなかった。やはり、この場に持ち込む“きっかけ”を君に託して正解だった…」

 

「信じて託していただけたのは、光栄なことですが……貴方を()()()()()()()()()は、もう二度と御免こうむります」

 

「ふっ、すまなかったな…」

 

 

目尻を細めながら謝るエルヴィン__この時、他にも人がいるはずの廊下はやけに静かだった。

 

まるで『それまで囚われていたこと』など忘れさてしまうような、穏やかな空気が2人を包み込んでいた。

 

だがそこへ、不信感を拭えない様子のベッツが2人の空間を切り裂くように割り込んでくる。

 

 

「待ってください、団長!………説明してもらおうか、カイル。これは一体どういうことだ!? 俺たちはまだ、お前を許しちゃいないぞ!!」

 

 

すると、カイルは徐ろにズボンのポケットから何かを取り出し、それをベッツに差し出した。

 

 

「こ、これは…?」

 

「それが、この作戦における俺の“役回り”です」

 

 

カイルに渡された小さな紙切れには、エルヴィンの筆跡で“ある指示”が書かれていた。

 

ベッツはそれを読み上げる。

 

 

『私が死刑になるよう促せ。調査兵の()()()()()()()()()……カイル、お前っ……まさか!?」

 

「トロスト区の検問所で連行される際、団長からその指示を受け取りました。中央憲兵を欺くためにも、これは俺一人で全うすべき任務だと判断したんです」

 

「はぁ!? 指示を受けてたって、いつの間に……団長がお前を()()()()()、あの一瞬でか!?」

 

「はい。あの時、団長が左手に何かを持っていることに気づいたところまではよかったのですが、不覚にも途中でマチルダに投げられてしまって……危ないところでした」

 

「ってことは……あのマチルダって憲兵に取り入ろうとしたのは、俺たちへの尋問を退け、団長が切り札を出す場を設けるための“布石”だったってわけか!?」

 

「そうです。しかし、マチルダを騙すためとは言え、皆さんには散々酷い言葉をかけてしまいました。すみません……だから俺のことは許さないでください」

 

「なっ…」

 

 

訳を聞いたベッツは、体から空気が抜けたように膝から崩れた。

 

すると今度は、ベッツの横で口をパクパクとさせていたルドルフが飛びつく勢いでカイルに問いかける。

 

 

「じ、じゃあ!カイルは()()()()()()()()()、わざと憎まれ口を…!?」

 

「……コクッ」

 

 

カイルが何も言わずに頷くと、ベッツが腑抜けた声で安堵を口にする。

 

 

「…なんだよ、全部芝居だったのか……俺はてっきり、本当にお前が裏切ったのかと…」

 

 

目頭をぎゅっと抑えるベッツの横で、ルドルフがボロボロと涙を流し始める。

 

カイルは2人の肩にそれぞれポンと手を置くと、交互に顔を見ながら優しく語りかけた。

 

 

「今回マチルダに俺が寝返ったように見せかけ、事を上手く運ぶことができたのは、最後まで俺のことを信じようとするお二人がいてくれたからこそ……だからこの功績はお二人のものです」

 

「!?……か、カイル…」

 

「それなのに、すみません……俺は団長の命令でさえ守り切れませんでした。誰も傷つけさせるなと言われていたのに、お二人を傷つけてしまったので…」

 

「馬鹿言え!傷ついたのは俺たちだけじゃねぇ!それを言うなら、()()()だろうがっ…」

 

 

涙をこぼしながら訴えるベッツの視線は、カイルの左頬に向いていた。

 

その視線に気づいたカイルは、左頬を押さえながら答える。

 

 

「ははっ…確かにこれはかなり痛かったです。ベッツさん、とてもいい拳してますよ」

 

「ったく、そんな冗談これっぽっちも笑えねぇよ!俺がどれだけ胸を痛めたと思ってんだ、お前って奴はぁぁ!!……このっ…このっ…」

 

 

ベッツは力なく笑うカイルの肩にガシッと手を回すと、泣きっ面に満面の笑みでカイルの頭に拳をぐりぐりと押し当てた。

 

すると、その様子を見ていたエルヴィンがベッツに向かってそっと手を差し出す。

 

 

「ベッツ。それから、ルドルフも……君たちが最後まで私やカイルを信じてくれたおかげで王政の悪事を暴くことができた。いつも苦労かけさせてすまない。君たちには心から感謝している」

 

「団長ぉぉ!ご無事で……ご無事で何よりですっ…!」

 

 

ベッツは顔をぐしゃぐしゃにさせながら袖で豪快に涙を拭うと、差し出されたエルヴィンの手を強く握り返したのだった。

 

 

 

そんな調査兵たちの様子を横目に眺めていたナイルは、1週間前に馬車の中でエルヴィンが発した“ある言葉”を思い出していた。

 

 

 ―“『今この小さな世界が変わろうとしている。希望か、絶望か……選ぶのは誰だ? 誰が選ぶ? お前は……誰を信じる?』”―

 

 

(総統局へ招喚された際、お前はそんなことを言っていたな。その質問の“意図”が今わかった。しかし、エルヴィン……お前は一体、()()()()()()()…)

 

 

 

**

 

 

 

___今回の革命におけるエルヴィンの“筋書き”はこうだ。

 

まず王政府打倒の終着点は、『仮初めの王から真の王へとその首をすげ替えること』にある。

 

壁内人類の命よりも自分らの権力と地位を重んずるような王政に人類の存亡を託すことはできないとし、真の王家の血筋を引くヒストリアを女王に即位させることで、偽物の王が統治する現体制から()()()()()()()()()()()()ことがこの革命の“目的”だった。

 

しかし、武力行使による弾圧では民意を率いることは愚か、貴族たちの反感を買い、血で血を洗い流すような混乱と悲劇を生みかねない。

 

そこでエルヴィンは、王政府を退けるための材料を王政府自らが差し出すような『切り札』を用意した。

 

その材料とは、王政府が本当に人類の復興を望んでいるのかという“疑念”であり、そして切り札とは『ウォール・ローゼが突破された』という“誤報”である。

 

つまりは、調査兵団の残党を炙り出すという(てい)でエルヴィン自身を処刑させるよう仕向け、王政府関係者や兵団上層部が集った場で人類の危機的状況が訪れた時、私欲に塗れた官僚たちが()()()()()()()()()()()()()のである。

 

この作戦を実行する為、カイルには中央憲兵を翻弄するよう一芝居打たせ、処刑の場を設けた。

 

さらにピクシス司令には、王政府の意向に従う振りをしつつ、揺さぶりをかけるための誤報を投げ入れるよう託していたのだ。

 

その結果…

 

 

「ウォール・シーナの扉を()()()()()()()!!避難民を何人たりとも入れてはならんぞ!!」

 

 

期待通り、王政府が下した答えは『人類の大半を切り捨てること』だった。

 

 

 

___だが、革命の“決め手”となったのは、これだけではない。

 

現在、巷ではベルク社の『号外』が世間を賑わせている。

 

その記事には、中央憲兵がリーブス商会を脅して操り、その工作の果てに民間人殺害の冤罪を調査兵団に(なす)りつけたと記されている。

 

さらには、すべての情報機関が王政府の圧力に従っている現状の告発と、本物の王家が地方貴族としてこの世を忍んでいる実情まで明かされていた。

 

そして、それらすべてにおいて、()()()()()()()()()の名前が連なっているのだ。

 

これはハンジの働きであり、ディモ・リーブスの息子フレーゲルとベルク社の記者たちが選択した決死の覚悟の賜物だ。

 

そのような危機的状況を覆すほどの証拠を掴むことを期待し、ハンジを自由に動き回らせたエルヴィンの判断が功を奏したのだ。

 

 

 

___こうして、一人一人の選択が積み重なり、王政府の悪事は暴かれた。

 

ザックレー総統率いる兵団組織は、王都や行政区を制圧したのち、現体制の崩壊を世間に公言する運びとなった。

 

しかし、それを聞いた民衆の胸中は複雑だった。

 

真の王家が台頭したからといって、前王家が果たした求心的な役割を同等に望めるといった保証はない。

 

『何を求め、何を信じるべきか』__民衆は激動する世の中の情勢に漠然とした不安を募らせていたのだ。

 

一方で、晴れて自由の身となった調査兵団だが、現段階では王政府を完全に打倒したというには時期尚早であった。

 

何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()が未だ掴めぬままだからだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

 

ハンジの副官であるモブリットが王都に到着し、エルヴィンの元まで伝令に来た。

 

モブリットの報告によると、ディモ・リーブス殺害を受けたハンジはまず、殺害現場に居合わせていたであろうリーブス氏の息子フレーゲルに接触したそうだ。

 

フレーゲルの証言からエレンとヒストリアが()()()()()()()()()ことを知り、ハンジはリヴァイ班がそれを追っているのだろうと推察していた。

 

そこで、敵の追跡はリヴァイたちに任せ、調査兵団にかけられた冤罪の裏を取るためベルク社に乗り込んだというわけだ。

 

数時間前__無事に冤罪が晴れたことを知ったハンジは、すぐさまリヴァイ班の元へ合流しに向かった。

 

エレンとヒストリアを誘拐した犯人の行き先として、エルヴィンから受け取った“手掛かり”にあったレイス卿領地の礼拝堂が怪しいと踏み、ハンジは一足先にリヴァイらとそこを目指しているとのことだった。

 

 

 

その報告を受けたエルヴィンたち調査兵は、ハンジたちの後を追うため遠征の準備に取り掛かる。

 

まずは牢屋で汚れた体を洗い流し、消耗した2日分の体力を取り戻すべく腹ごしらえをした。

 

それから心機一転また兵服に袖を通し直すと、最後の大仕事である『奪還作戦』へと赴くのであった。

 

 

 

**

 

 

 

その一方で。

 

ピクシス率いる制圧部隊は、捕らえた王政府の幹部たちから『巨人の力の謎』と『この世界の成り立ち』について知り得る情報を吐かせようと試みていた。

 

しかし、それには()()()()()()()()()()()()()そうだ。

 

エルヴィンたち調査兵が総統局の外にある納屋の傍で馬と荷馬車を用意していると、ピクシスが苦虫を噛み潰したような顔で衝撃の事実を告げにきた。

 

 

「まずいのう、エルヴィン。王政幹部は皆、同じことを吐きおったぞ……お主と父君の()()()()じゃ

 

 

ピクシスの言う“仮説”とは、数日前の密会でエルヴィンが語った『この世界の成り立ち』に関する一説である。

 

この世界に残されている歴史の文献には、人類が壁内に逃げ込むまでの経緯や壁の造設方法などの記載が一切なく、矛盾点が多く存在する。

 

そこに疑問を抱いたのが、エルヴィンの父だ。

 

そもそも文献などなくとも、壁内に逃げ込んだ人類がそれまでの歴史を語り継ぐことは出来たはず__だが、不思議なことに誰一人として空白の歴史を知る者はいない。

 

そのことに違和感を覚えたエルヴィンの父は、『当時の人類は、王によって統治しやすいように()()()()()()()()可能性がある』と仮説を立てていたのだ。

 

そして今日、それはただの“仮説”から根拠のある“真実”へと変貌を遂げることになる__王政府の幹部たちが口を揃えて次のように言い張ったのだ。

 

 

「レイス家はエレンの持つ『叫びの力』で人類の記憶を都合よく改竄できる」

 

 

さらに、王政府幹部を含む一部の血族は、その力に()()()()()()()という口振りだったそうだ。

 

悪事が露呈し民衆が多少の反乱を起こそうとも、記憶を意のままに操れる王政府にとっては痛くも痒くもないのだろう。

 

ピクシスの話を聞いたカイルは、あまりにも身勝手で傍若無人な王政府の横暴に吐き気がした。

 

 

(なんて卑劣な……反吐が出る。しかし、レイス家がエレンを手にしてしまったら、そんな重要な情報でさえ俺たちは忘れてしまうのか……恐ろしいな)

 

 

現実離れした得体の知れぬ力の存在に身が震える__カイルはそれ押し鎮めるように腕を組んで考え込んだ。

 

 

(尚更エレンたちの救出は急務となったが、一つ引っかかる。王政がこれまで『叫びの力』で不都合をねじ伏せてきたと言うのなら、その力で巨人を操る方法ぐらい知っているはず……だとすれば、王政は何故()()()()()()()()()()()()()()んだ? 自分たちだって同じ穴の(むじな)だろうに…)

 

 

おそらく自分が抱いた疑念はエルヴィンも感じていることだろう__そう思ったカイルは、ピクシスと話すエルヴィンの横顔に目をやった。

 

すると、話が終わったのか、ピクシスは肩を落としたままその場を離れて行った。

 

そして、エルヴィンが全体に指示を出す。

 

 

「総員整列!!これより、『エレン及びヒストリア奪還作戦』を開始する!目標と思われるレイス領地礼拝堂を目指す!!」

 

 

こうして、カイルたちは礼拝堂のあるウォール・ローゼ北区を目指し、出陣したのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

 

エルヴィン率いる調査兵の部隊はウォール・シーナの北に位置する城壁都市【オルブド区】を通過し、ウォール・ローゼ北区に突入していた。

 

そして、レイス卿領地の少し手前まで到達したところで、進路方向の先に煙が上がっていることに気づいたカイルが声を上げる。

 

 

「団長!煙が見えました!!礼拝堂から少し南西の位置で、()()()()()が煙を上げながら這いずるように進んでいます!目測でもその大きさは100m近く……あれが巨人だとすれば、超大型をも凌ぐ大きさです!!」

 

「間違いなく巨人だろう。やはりロッド・レイスは巨人の力を()()()()()()()……エレンやヒストリアもそこにいる可能性が高い!近隣住民への避難勧告を急げ!全速力で煙の元へ向かう!!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

 

煙の発生源に近づくと、うごめく巨大生物の正体がはっきり“巨人”だとわかった。

 

だが、理解に苦しむのは、その規格外の大きさや異形な体型だ。

 

体長は超大型巨人の2倍は下らないほど__胴に比べて手足の比率はかなり小さく、自重を支えきれない為かうつ伏せになって這いつくばりながら進んでいる。

 

また、他の巨人と異なる点は、全身から熱風のような()()()()()()()()()()こと。

 

以前、超大型巨人も似たような蒸気を放ったことがあったが、今回の巨人はそれを常に放出していて、その温度は触れた草木が発火するほどに高温だ。

 

さらに、もう一つ。これは『奇行種』と分類すべき特性なのだろうか__その巨人は周囲の調査兵たちには目もくれず、ひたすら()()()()()()()へと進み続けているのだ。

 

 

「この進路……まさか!!」

 

 

そう言ってエルヴィンが見据えた先は、ウォール・シーナの突出した壁オルブド区。

 

なんと、その巨人は…

 

 

()()()()()()()()()()()()『城壁都市』を目指していたのだ。

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】ー

 





〜後書き〜

『祝!あらすじの冒頭セリフ回収~~!!』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


本作品のあらすじにあるセリフをようやく回収できました。長かった…

そして、カイルの裏切りはエルヴィンの指示だったことが判明しました。

補足しておくと、「調査兵たちを誰一人傷つけさせるな」とエルヴィンが指示を出したのは、王政打倒後に控えるエレン救出作戦までに動ける人員を少しでも確保しておくという意図があってのことです。


◼︎次回予告:『#36 打倒王政⑤:玉座』
謎の大型巨人に出くわしたエルヴィンたち。
リヴァイたちと合流し、いざオルブド区を襲う巨人の討伐へ!

※打倒王政編の最終話では、リヴァイたちの活躍の説明があるのと、ある人物の正体が明らかになります!

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