進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

前話の後書きでも記載しましたが、今回から主人公の名前が変わります。

■旧:カイル ⇒ 新:カイネ

また、この先も原作沿いで話は進みますが、大幅に省略する部分も出てきます。
物語のクライマックスへ向かうにあたって、主人公のいない場面は説明を省いたり、1話でかなり時が進んだりします。
予め、ご了承下さりますと幸いですm(__)m


↓それでは、本編へどうぞ↓



ヒィズル介入編
#43 一年後


 

 

___1年後。

___【調査兵団()()()()()()支部:一画の部屋】にて。

 

 

目の前には、()()()()をした少年が__

 

 

 ―“『オレは……望んでたんだ…』”―

 

 

少年は見慣れないハットを被り、不思議そうに此方を見つめている。

 

 

 ―“『すべて、消し去ってしまいたかった…』”―

 

 

その瞳には、ボロボロと大粒の涙を流すエレンの姿が__

 

 

 ―“『ごめん……ごめん…』”―

 

 

エレンは少年の両肩を掴む手に力を入れながら、何度も謝る。

 

そんな彼もまた、()()()()()()()をしていたのだ。

 

 

 ―“『ごめんなさい』”―

 

 

………

 

 

 

ガバッ!

 

「ハァ……ハァ…」

 

 

勢いよく掛布団を剥がしながら、ベッドの上で上半身を起こす。

 

荒れた息を整えるように額へ手を当てる人物は、カイル__改め__カイネだ。

 

 

「あぁ……()()、この夢か…」

 

 

そう言って俯くと、肩まで伸びた栗色の髪がふぁさっと頬を撫でた。

 

窓から差し込む朝日の線を、顔に被さった髪の隙間から目でなぞる。

 

窓の格子で枝分かれした光は、まるで悪夢という地獄から抜け出すための“糸”が何本にも垂らされているようにも見えた。

 

ぼうっと外を眺めていると、夢の記憶が薄れていく。

 

いつもそうだ__すぐに忘れてしまうのに、同じ悪夢を見たということだけは何故かはっきりと分かる。

 

そんなことを考えていると、外からチュンチュンと鳥のさえずりが聞こえてきた。

 

その音色に()()()()を覚えながら、視線を窓から時計へ移す。

 

 

「もうこんな時間……行かなきゃ」

 

 

カイネは慌ててベッドから降りると、少し小走りで支度にかかる。

 

そして、姿見の鏡の前でピシッと姿勢を正したのち、タンスの上に置かれた肖像画へ目を向けたのだった。

 

 

「…行ってきます。()()()

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

 

ドドドドドッ…

 

 

立体機動装置を身に纏った兵士たちが、馬に乗って広野を駆けている。

 

そこは、ウォール・マリアの外__調査兵団は約6年ぶりに、()()()()()()()“壁外調査”に踏み切ったのだ。

 

一時は10名にまで減少した調査兵団も、度重なる人員補充を経て、今では“組織”として機能するほど人手に溢れていた。

 

奪還したウォール・マリアの土地を復興すべく、ウォール・ローゼの東西南北に位置する城壁都市に設置した巨大な槌*1を休むことなく稼働させ続けてきたが、巨人の掃討には半年もかからなかった。

 

シガンシナ区を拠点とした住民の入植が許可されたのは、約1か月前__そして、トロスト区襲撃事件から1年が経過した今現在、調査兵団は“ある場所”を目指していた。

 

 

ザザァーーッ………ザザァーーッ…

 

 

色白い砂が敷き詰められた地面に、青い水が泡を立てながら何度も押し寄せる。

 

その水溜まりは太陽の光を遥か先まで反射させ、果てには地平線のように一本の線で空との空間を隔てていた。

 

 

「これが、海…」

 

 

目の前に広がる美しい光景に、カイネを含めそこに辿り着いた誰もが息を呑む。

 

調査兵団が目指していたのは、グリシャの手記にあったエルディア人反逆者の流刑地__そして、その先に存在するとされる“海”だった。

 

ハンジの読み通り、ウォール・マリアの中に入っていた巨人がほとんどだったのか、ここまでの道中で遭遇した巨人は手足の発達していない奇行種1体のみ。

 

そのため、調査兵たちは何の心置きもなく、感動的な絶景に浸ることができたのだ。

 

初めて見る海にはしゃぐ104期たちと一緒になって、調査兵団の第14代団長となったハンジもブーツを脱ぎ捨て海の中へ足をつける。

 

 

ジャポッ…

 

「うへえぇ!これ本当に全部、塩水なの!?」

 

 

そう言って海面を覗き込むハンジ__何か見つけたのか、それを拾おうとするハンジをリヴァイが注意する。

 

 

「オイ、ハンジ。毒があるかもしれねぇから触んじゃねぇ」

 

「触ってみないとわからないだろぉ?……ほら、カイネも入ってごらん!すっごく気持ちいいよ!」

 

「え……そ、そうですね…」

 

 

ハンジに促され、ブーツを脱ごうとするカイネ__しかし、そこにリヴァイが釘を刺す。

 

 

「入るのは構わねぇが……油断するな」

 

「…はい」

 

 

そう静かに諭すリヴァイの真剣な瞳に、カイネは最近あった“出来事”を思い出した。

 

 

 

== 遡ること、数週間前 ==

 

 

ウォール・マリア奪還作戦における殉職者たちの遺骨は、シガンシナ区への入植が始まる前に付近の墓地へと埋葬された。

 

そして住民たちの入植が落ち着いた頃、遺族たちを集め、改めて【供養式】を行ったのだ。

 

式が終わると、カイネは一緒に参列していたロナウを兵団施設の一室に案内し、お茶を振る舞った。

 

 

「…しかし、君が本来の性別で生きることを決意したと聞いた時は、本当に嬉しかったよ」

 

「はは、今更お恥ずかしいことですが…」

 

「そんなことはないさ!すごく立派だよ。きっと、エルヴィンも喜んでる」

 

「そうだといいですね……とりあえずは形だけでもと、髪を伸ばしてみました」

 

「うん、とても綺麗だよ」

 

「!……あ、ありがとうございます」

 

 

真正面から放たれたロナウの誉め言葉に、カイネは照れ臭そうに頬をポリっと掻く。

 

それからしばらくの間、2人は思い出話に花を咲かせたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

辺りもすっかり暗くなった頃、ロナウを見送ったカイネは再び墓地へ向かうことにした。

 

 

「この1年で何があったのか、兄さんにもちゃんと報告しなきゃ…」

 

 

独り言をつぶやきながらエルヴィンの墓標を目指し歩いていると、先客がいるのが見えた。

 

見知った人影が2つ__しかし、何故かカイネは近くの木の影に隠れて様子を伺ってしまう。

 

 

「すまねぇ、エルヴィン……花の品定めに、ハンジが手間取りやがったんでな」

 

「ひどいなぁ~リヴァイ。君がごちゃごちゃ口出しするから迷ったんだろぉ?」

 

 

人影の正体は、リヴァイとハンジだった。

 

 

(何、隠れてるんだろう……でも、兄さんへの報告は一人でしたい。だって…)

 

 

もう、2人の前では()()()()()()__本来の姿で生きると決めたあの日から、カイネは密かにそう誓っていた。

 

次期団長という計り知れない重責を背負うハンジと、エルヴィンを選ばなかった判断を陰で咎められているリヴァイ。

 

『そんな2人の前で、自分だけがメソメソするわけにはいかない』

 

カイネは自身に課せられた役割や立場を、誰に教えられるわけでもなく、その賢い脳で理解していたのだ。

 

 

「今日は埋め合わせに来た。あの日、()()()()()()()()()()失態の…」

 

 

墓に向かって話しかけるリヴァイの横顔を、カイネは息を殺しながら眺める。

 

 

「俺はこの場で、新たな“誓い”を立てる」

 

 

そう言ってリヴァイは、墓の前に跪いた。

 

そして…

 

 

「カイネのことは俺たちに任せておけ……お前が遺した“家族(タカラ)”は、俺とハンジが必ず守る」

 

「!?」

 

 

思わず声が出そうになったカイネは、口元をバッと手で覆う。

 

そこから先は、何も聞き取れなかった。

 

リヴァイとハンジは何やら話しながら墓地を去って行ったようだが、2人の会話はカイネの耳には一切入ってこなかった。

 

それほどまでに、()()()()()五月蝿すぎたのだ。

 

 

(動悸? 体力が落ちたのかな。変な汗もかく……さっきロナウさんと話してる時は、こんなことなかったのに…)

 

 

2人の姿が見えなくなったのを確認したカイネは、木陰からスタスタと歩み出る。

 

そして、墓の前まで行くと__そこには、カイネが手向けた白い花の傍に、紫色の細長い花*2が添えられていたのだった。

 

 

===============

 

 

 

「……イネ」

 

………

 

 

 

「カイネ!!」

 

「は、はい…!」

 

 

ハンジの呼び声にハッと我に返ったカイネは、足元を押し撫でる波に逆らいながら海へ入る。

 

 

「大丈夫かい? ぼうっとしていたようだけど…」

 

「いえ、何ともありません……ハンジさん、それは?」

 

「すごいだろぉ? とにかくブヨブヨしてるんだ!よくわからないけど、一種の生物みたいだよ……君も触ってごらん!?」

 

「私は…」

 

 

言いかけて、チラッと後ろを振り返るカイネ__そこには、海に入らずとも近くでじっと見守るリヴァイがいた。

 

 

「…ちょっと、遠慮しときます」

 

「えぇ~~そんな、もったいぶらずにぃ~…」

 

 

その時、隣からエレンたちの話し声が聞こえてきた。

 

見ると、エレンは水平線の彼方先を指差している。

 

 

「なぁ…向こうにいる敵、()()()()()()……オレ達、自由になれるのか?」

 

 

波の音が五月蝿かったからだろうか__カイネには、エレンの言葉が()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数週間後。

 

 

来るマーレ軍の侵攻開始に向け、調査兵団は海岸沿いに拠点を設けることにした。

 

先日訪れた海岸付近に、簡易的なキャンプを設営したのだ。

 

この1年間、敵は一切の音沙汰も無かったが、この迅速な対応は功を奏すことになる。

 

 

「船が見えた!敵襲だ!!」

 

 

見張り台からの報告を聞いたハンジは、少し興奮気味に席を立つ。

 

 

「本当に!?……攻めてくるとしたら、巨人たちが寝静まる夜中だろうと踏んではいたけど…」

 

「オイ、ハンジ。お前が団長だ。指揮を執れ」

 

「あ、あぁ。そうだね……オッホン……総員、キャンプから離れて周囲の崖に身を潜めろ!敵の上陸を待ち、ここへ誘い込む!!殺しはするな、捕虜をとれ!!

 

「「 はっ! 」」

 

「それから、エレンとアルミンはこっちへ!」

 

 

他の兵士たちがゾロゾロとキャンプ地を後にする中、エレンとアルミンの2人はハンジの元に残った。

 

 

「エレン。君は密かに巨人化して、敵が上陸したのちに気づかれないよう回り込み、彼らの船を担ぎ上げて座礁させるんだ。トロスト区での大岩の時みたいにね……できそう?」

 

「…父の記憶の中でも、クルーガー氏がそうやって敵船を破壊していました。やってみます」

 

「頼んだよ。……それから、アルミン。君の出番は一旦なしだ。超大型は目立つからね……ミカサたちと行動を共にしてくれ。いいかい?」

 

「わかりました」

 

 

 

**

 

 

 

そうして、それぞれ位置に着いた調査兵団は、敵の侵入を待ち構える。

 

しばらくすると、銃を構えた敵国の兵士たちが、ゾロゾロとキャンプ地の窪みに入り込んできた。

 

すると、先頭の一人がバッとテントの幕を開き、中を確認する。

 

 

「誰もいません!もぬけの殻です!!」

 

「…何? まさか、敵は我々の接近に気づいて…」

 

ジャキジャキジャキ!

 

 

その時、崖の上に潜んでいた調査兵が、一斉に銃口を向ける。

 

袋のネズミとなったマーレ兵は、予想だにしなかった展開にただただうろたえていた。

 

そこへ、ハンジが歓迎の言葉を贈る。

 

 

「やぁやぁ、マーレの皆さん!遠路遥々、よくぞおいで下さいました!さぁ銃を下ろしてください……長旅でお疲れでしょう!?」

 

「このっ…穢れた血の悪魔共め!よくも抜け抜けとっ…」

 

「あ、そんなこと言っちゃうんだぁ~? 可哀そうに。もうあなたたちに国へ帰る手段はない……訂正するなら今の内だよぉ~!?」

 

 

その言葉に、義勇兵たちが揃いも揃って頭に疑問符を浮かべていると…

 

 

ズズズズズ…

 

 

海岸側から鈍い音が聞こえてきた。

 

振り返るとそこには、座礁させた船を崖の隅に押し込むエレン巨人の姿が__その目元は、不気味な緑色の光を放っている。

 

その威圧感にマーレ兵が気を取られていると…

 

 

バッ!

 

 

テントの隅に隠れていたリヴァイが、マーレ兵の一人を人質に取った。

 

 

「銃を捨てて、指示に従え。安心しろ、取って食おうってんじゃねぇ……これは取引だ。大人しく言うことを聞いてくれりゃ、命くらいは保証してやる」

 

「に、ニコロ…!」

 

「俺のことはいい!構わず、こいつを撃ってくれ!」

 

「おっと、その弾はこいつに当たっちまうがいいか?」

 

 

そう言ってリヴァイは人質に取ったマーレ兵をグイッと自身の前に差し出し、背後から首元へブレードの刃を当てつけてみせた。

 

 

「それから、俺は立体機動でここからいつでも抜け出せる……そしたら、ここはハチの巣だ。全員、仲良くあの世行きだろうな…」

 

「くっ…」

 

「お互い賢く生きようじゃねぇか。泥水をすすろうが、死ぬよかマシな筈だ」

 

「…わ、わかった」

 

ガシャ……ガシャガシャン!

 

 

最初の一人が銃を捨てると、それに続くように他のマーレ兵も銃を捨て始める。

 

こうして、調査兵団は()()、マーレ兵の侵攻を防ぐことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___2時間後。

 

 

捕虜に取ったマーレ兵たちに口を割らせるのは少々手間取ったが、そこから得られた情報はあらかた想定内のものだった。

 

先に上陸したのはマーレの調査船団のうちの第1部隊であり、他にも第2・第3部隊と控えているらしい。

 

大人しく捕まったマーレ兵たちがしきりに海岸方面を気にしていた様子から、他にも部隊が控えていることは予想していた。

 

しかし、今度は捕虜を上手く利用して、海岸沿いで敵を待ち伏せようというのがハンジの作戦だ。

 

 

「君!ニコロ君…だっけ? 活きがよかったねぇ~……ちょっと付き合って欲しいんだ。ね、いいだろ?」

 

 

そう言ってハンジたち調査兵団は人質の兵士を引き連れ、海岸沿いの崖へと向かったのだ。

 

 

 

**

 

 

 

推察通り、海岸には新たな船が接近していた。

 

先程とは順序を前後し、エレン巨人を海へ潜らせ、先にマーレ兵を乗せたまま船を座礁させることに__

 

 

ッズゥゥゥゥンン…

 

 

案の定、歯向かってくるマーレ兵たち。

 

穏便にかつ迅速に事を進めるため、捕虜であるニコロを差し出すも、その策略は徒労に終わる。

 

 

パァン!

 

 

なんと、マーレ兵の一人が、隊長と呼ばれていた人物の頭を撃ち抜いたのだ。

 

それを皮切りに、他にも数名のマーレ兵が、仲間であるはずのマーレ兵に武器を捨てるよう促し始める。

 

そして、最初に口火を切った背の高い女性兵士は、自身らをこう呼んだ。

 

 

『我々は、反マーレ派義勇兵だ』__と。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数十分後。

___【対マーレ軍迎撃拠点の一画】にて。

 

 

海岸での対峙後、『義勇兵』と名乗るマーレ兵をキャンプ地へ迎え入れ、事情を聞くため会談を行う運びとなった。

 

テントに入るのが許されたのは、双方代表者2名ずつ。

 

調査兵団からは、団長のハンジと兵士長のリヴァイ。

 

義勇兵からは、最初に仲間を撃ち殺したイェレナと、褐色の肌をしたオニャンコポンという兵士。

 

それ以外のマーレ兵たちは両手を縛って地面に座らせ、残りの調査兵たちがその捕虜を見張っているという状況だ。

 

 

 

まず初めに、信用を得るためと言って、イェレナからマーレ軍の組織構成について説明があった。

 

彼女曰く、マーレ軍は1師団あたり2万人で構成され、総員50師団で100万人にも規模が及ぶとのこと。

 

さらに陸軍のみならず、21隻もの戦艦を保有する3つの艦隊や、空から敵地を襲撃する『航空戦力』にも注力しているらしい。

 

ハンジは初めて聞く単語や想像以上の規模に委縮しながらも、強大な力を持ったマーレ軍が直近1年間攻めてこなかった理由を尋ねた。

 

イェレナの回答は、以下の2つ。

 

 

1.パラディ島に放たれた無垢の巨人が進軍の妨げになっていること

 

2.マーレが連合国の複数の国と戦争状態に突入したため

 

 

1つ目に関しては、エルディア人を壁に閉じ込めるつもりが逆にマーレの進軍からエルディア人を守る結果を産んだことを、リヴァイが皮肉交じりに笑い飛ばした。

 

2つ目に関しては、1年前にパラディ島で起こった“決戦”によってマーレの不敗伝説にヒビが入り、その影響で戦争の火蓋が切られたそうだ。

 

そして、何より信じ難かったのは、彼らがここへやってきた“目的”だった。

 

 

「我々は()()()()、ジーク・イェーガーに遣わされました。目的は、エルディア人の解放です」

 

 

イェレナの言葉に、ハンジは思わずガタッと席を立つ。

 

 

「は……獣の巨人は、我々エルディア人に絶滅の危機をもたらした張本人だぞ!? 奴がどれほど罪深い殺戮を行ってきたか、知らないわけじゃっ…」

 

ガシッ…

 

 

息を荒げるハンジの肩をリヴァイが掴んだ。

 

視線は目の前の2人に向けられたままだったが、その手の感触と醸し出す空気からリヴァイの中でどれほどの怒りが湧き上がっているか手に取るようにわかった。

 

 

「落ち着け、ハンジ……時間はたんまりとある。どんな大義を引っ提げてあの所業に至ったか、まずは話を聞こうじゃねぇか。()()()()()な…」

 

 

そう言ってリヴァイが睨みを利かせると、イェレナは手に持っていたティーカップを静かに皿に戻しながら答える。

 

 

「あなた方の反応はごもっともでしょう……しかし、ジーク・イェーガーには“秘策”があります。その実行条件として、彼をパラディ島へ受け入れ、腹違いの弟エレン・イェーガーと引き合わせることを要求します」

 

「…やっぱり獣の巨人の正体は、エレンの父グリシャ氏の手記にあったあの“ジーク”なんだね。予測はしていたけど……で、その“秘策”って何?」

 

「残念ながらハンジさん……その内容については、条件が揃い次第のお伝えとなります」

 

「ほぅ…それはやけに都合の良い話じゃねぇか。()()()()()()()()、だが……ちゃんと見返りはあるんだろうな?」

 

「もちろんです。条件を飲んでいただく見返りとして、『パラディ島の安全保障』、『最新技術の提供』、『友好国との橋渡し』、『対マーレの情報工作支援』……といった具合に、あますことなくパラディ島の復興にお力添えさせていただく所存です」

 

 

次から次に提示される好条件に、ハンジは少し身を引いて冷静に考え込む。

 

 

(正直、パラディ島を守るには願ってもない好条件だ。とは言え、これまでの遺恨をすぐさま取り払うことはできない…)

 

 

チラッと右横に顔を向けると、リヴァイもハンジの眼を真っ直ぐ見つめていた。

 

ハンジは無言で頷き返すと、再び正面を向き直す。

 

 

「条件は把握したよ。一つ聞きたいんだけど……次にマーレが攻めてくるまでの猶予はどれくらいの見込みか、あなた方の意見を聞かせて欲しい」

 

「そうですね……この1年でかなりの国が立ち上がったので、少なくとも2、3年は固いでしょう」

 

「…そう、わかった。しかし、本件は我々調査兵団の一存だけで踏み切ることはできない。回答は、上層部へ持ち帰って意見を揉んでからとさせてもらうよ」

 

「えぇ、構いません」

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数日後。

___【王都ミットラス】にて。

 

 

 

義勇兵から預かった“要求”について議論するため、『軍法会議』が開かれることとなった。

 

ハンジの報告に対し、兵団上層部は想像するまでもなく、反感を抱く者ばかり。

 

しかし、会議の最中で何かを察したエレンの発言により、議論はある結論へと向かう。

 

エレンが反応を示したのは、ジークのいう“秘策”の実行条件について、ハンジがその詳細を述べたときのことだった。

 

内容は…

 

 

『始祖の巨人』と『王家の血を引く巨人』、その()()()()()こと。

 

 

そう、エレンはこれに“心当たり”があったのだ。

 

1年前、エレンが巨人を操ったかもしれないという『始祖の叫び』の力は、事実発揮されていた。

 

その発動時に触れた巨人が、父グリシャの記憶で見た前妻のダイナだったという。

 

つまり、地鳴らしの発動条件は…

 

 

『始祖の巨人』を持つ者が『王家の血を引く巨人』と接触すること。

 

 

ジークは解明したのだ。

 

『不戦の契り』を出し抜く“術”を__

 

 

「それが本当だとすると、これは……ジークの“秘策”にも、筋が通る…!」

 

 

そう言ってハンジは、パラディ島の守護に義勇兵の協力が必要不可欠であることを主張した。

 

こうして、パラディ島は…

 

 

義勇兵を受け入れ協力関係を結ぶ__と、決議したのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数週間後。

 

 

カン!…コン!…カン!…コン!

 

 

海岸沿いに、鉄の打たれる音が響く。

 

そこにはパラディ島のエルディア人もマーレからやってきた義勇兵も入り交じり、皆が一致団結して()()()()()に勤しんでいた。

 

兵団所属者以外にも大工や技師を集め、こぞって造っているのは、“港”だ。

 

これは義勇兵の一人、オニャンコポンの提案で、イェレナが話していた『最新技術の提供』『友好国との橋渡し』に相当する見返りの一つでもある。

 

曰く、“港”とは船を安全に停泊させておくために整備された海岸のことで、鹵獲(ろかく)した船を利用して外交を行うための準備をしようと言うのだ。

 

 

 

義勇兵はそれ以外にも、“鉄道”という燃料を原動力にした高速移動の乗り物や、新兵器・新装備などの開発を積極的に推奨した。

 

さらには、立て続けに侵入してくるマーレの調査船を迎撃するにあたって、 “無線通信”という電波信号を送る装置による情報工作の後ろ盾はかつてないほどの利便性を見せた。

 

最初は疑心暗鬼だったマーレの捕虜やパラディ島の面々も、共に何かを作り上げるという過程を経て、徐々に打ち解けていく様子も見受けられる。

 

特にハンジやアルミンに関しては、画期的な最新技術に魅せられ、瞳をキラキラと輝かせていたものだ。

 

しかし、未だ不信感を拭いきれない者も()()存在する。

 

カイネも、その一人だ。

 

 

 

**

 

 

 

「…こんな所に呼び出して、何の用ですか? ()()()()…」

 

 

ハンジたちがオニャンコポンと共に海岸でせこせこと開発を進めている中、カイネは何故かイェレナから人気のない場所へと呼び出されていた。

 

 

「そう怖い顔をなさらずに……綺麗なお顔が台無しですよ」

 

「貴方と世辞を交わすつもりは毛頭ありません。ついでに、親睦を深める気も…」

 

「それです。今日私は、あなたと()()()()()()()()にこのような場を設けたのです」

 

 

被せるように突拍子もないことを言い出すイェレナ__話の噛み合わなさに、カイネは少しの苛立ちを見せる。

 

 

「話を聞いていましたか? それに、調査兵団で1年以上前から所属する団員たちの事情は、以前説明しました」

 

「えぇ、もちろん。把握しております」

 

「では……私の兄が、貴方が信じ崇める“神”(ジーク)とやらに、残虐にも殺されたことをご存じのはず…」

 

「えぇ、もちろん。ですがそれも、エルディア人救済の大義における尊い犠牲……偉業の影にはいつも()()()()()()()です。それが、世の常というもの…」

 

 

どこかで聞き覚えのある語句に耳をピクリとさせたカイネは、さらに顔を強張らせた。

 

 

「…そうですか。加害者の貴方がおっしゃると、随分と身勝手な言い訳にしか聞こえませんね」

 

「今はそう思っていただいても構いません……いずれ、わかります」

 

ヒョォォォォ…

 

 

分かり合えない2人の間を、潮風がイタズラに通り抜けて行く。

 

靡く髪が視界をうろつくも、互いに視線を外すことはなかった。

 

しばらく沈黙が続いたのち、イェレナが先に口を開く。

 

 

 

「…とまぁ、前置きはこの辺にして。あなたからの信用を得るには、誠意を見せなければ……そこで、今日はある“情報”をお伝えしようかと」

 

「情報…?」

 

「はい。きっと、長年の疑問を解消できますよ」

 

「…聞くだけ聞いておきます」

 

「以前、あなたには『特殊な眼の能力がある』と伺いました」

 

「!?……まさか…」

 

「えぇ、そのまさかです。その“能力”について…」

 

 

 

()()()()が、あるのです。

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】ー

 

*1
エレンの硬質化によって実現した巨人の処刑台のこと

*2
後書きのおまけにて説明あり





〜後書き〜

『イェレナのパッツンって自分で散髪してるのかな?』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


いよいよ、“カイネ”としての人生がスタートしました。

今回の話で分かったと思いますが、ここからは時系列順に話が進んでいきます。
(原作の時系列をまとめるの、すんごい時間かかった…(汗))

海へ辿り着き、義勇兵と手を組んだ調査兵団。

そして、イェレナが最後に持ち掛けてきたカイネの“能力”に関する情報とは_!?


◼︎次回予告:『#44 日、出ずる』

■おまけ
◎注釈2:エルヴィンの墓へ手向けた花について
・リヴァイが手向けた花:ベロニカ
 ⇒花言葉は『忠実な』。カイネの人物像として参考にした人物の名前から由来。(←この件は、いつか詳細を語りたいと思います)
・カイネが手向けた花:テバリバナ
 ⇒花言葉は『誓い』。カイネの誕生花(5/26)。

2つ合わせて、『忠実な誓い』という意味を込めて__

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