進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

新年、明けましておめでとうございます。


今回、原作の一部を若干改変するようなオリジナル場面を組み込んでいます。
(流れが大きく変わることはございません)
・該当場面:第31巻132話にて、移民の集落で酒を酌み交わすシーン
・注意:今回限り、ロマンス描写を明確に入れ込んでいますので、予めご了承ください。


↓それでは、本編へどうぞ↓



#45 火、燃ゆる

 

 

ボボーーーーッ……

 

 

芯に響く重低音と共に、蒸気船の煙突から黒煙が立ち昇った。

 

(すす)の匂いを纏った潮風が目に染みる。

 

 

(何だろう……()()()()()だ)

 

 

ふわっと風に攫われかけたハットを手で押さえつけたカイネは、スンスンと鼻をひくつかせた。

 

その瞳には、生き物のようにうごめく業火が映っている。

 

 

 ―“『どこなんだ!返事をしてくれ、おじさん!!』”―*1

 

 ―“『ネフェルや動物たちの“苦しみ”を思い知れ!!』“―*2

 

 

(あの日、“被害者”だった私は“加害者”になろうとした。世界は……いや、()()()()()()その繰り返しなのかもしれない)

 

 

『堂々巡り』__数年前、グリシャ氏の手記に目を通した時から、カイネの脳裏にはその言葉がチラついて離れなかった。

 

 

(君のお父さんが壁の中に持ち込んだものは、希望か、絶望か…)

 

 

そんなことを考えながらエレンへ視線を向けると、そこには数か月前とは打って変わった顔つきをした彼がいた。

 

エレンが見つめる先には、港らしき陸が__そう、調査兵団はいよいよマーレ大陸へ上陸するのだ。

 

しかし、エレンが醸し出す雰囲気からは、希望の欠片も感じ取れない。

 

それでもカイネは__調査兵団は__()()()()()()()()()()()()()

 

だが、その“信頼(キズナ)”は…

 

 

突如として、断ち切られることになる__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

船から降りた一行は、見慣れぬ煌びやかな街並みに息を呑んだ。

 

まずは、アズマビト家が交易の一貫でマーレに構えている屋敷まで、オニャンコポンに案内してもらう手筈になっている。

 

だが、その足は船着場からすぐの市場で止まってしまうのだった。

 

 

「!?……冷てえばい、これ!!」

 

「何だこれ!!」

 

 

興奮気味に声を上げたのは、サシャとコニー__その手には何やら白い塊が握られている。

 

2人の反応につられたジャンも恐る恐る白い塊に口を付けたかと思うと、アルミンやミカサへ前のめりにソレを勧め始めた。

 

どうやらソレは『アイスクリーム』という冷たくてほんのり甘い食べ物らしく、壁内では味わったことのない新鮮さに夢中になっているのだ。

 

本来の目的を忘れ舞い上がる104期たち__彼らの体たらくをリヴァイがぼやく。

 

 

「あいつら、目立つなとあれほど…」

 

 

その時、リヴァイの背後に怪しい影が__

 

 

「そこの()()……甘ぁ~いキャンディはいかがかな?」

 

「……」

 

 

聞き捨てならない単語にギロリと振り向くと、そこには顔の白い奇妙な男がいた。

 

男は赤くて丸い鼻をつけ、派手な色模様をした衣服を身に纏い、先端に赤い円盤を付けた棒を手に持っている。

 

そして、その棒をリヴァイの顔の横でチラチラと見せびらかしていたのだ。

 

リヴァイが黙ったまま睨み続けていると…

 

 

「カッコいいね!……()()()()ギャングかな?

 

 

男はさらに神経を逆撫でするような言葉を放った。

 

固まるリヴァイ__近くにいたハンジやオニャンコポンは聞こえないフリをしている。

 

だが、カイネだけは違った。

 

 

「ぷっ……はは、あはは…!」

 

 

笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまったのだ。

 

 

「カイネ……何を笑ってやがる」

 

「だって、兵長。『ギャング』ってのはよくわかりませんが、その前の言葉は……ふふ、ははっ…」

 

「てめぇ…」

 

 

眉間にシワを寄せるリヴァイ__それでもカイネの笑いは止まらない。

 

すると、只ならぬ雰囲気に耐えかねたハンジが奇妙な男を追い払った。

 

普段、そのような後始末はカイネの役目なのだが、()()()()()ハンジが気を利かせたらしい。

 

リヴァイは少し離れたところで別の子どもに『キャンディ』なる棒を渡す男の背中をもう一度だけ睨みつけたのち、再びカイネに向き直った。

 

 

「…オイ、いつまで笑ってやがる」

 

「す、すみません。不意打ちだったので、つい…」

 

「そんなにこの格好がおかしいか?」

 

「いえ!そんなっ…とてもお似合いですよ。それを言うなら、私の方が…」

 

パシッ!

 

 

その時、誰かがカイネの腕を掴んだ。

 

 

「君!ちょっといいかな?」

 

 

驚きながら振り返ると、そこには立派な口ひげを蓄えた見知らぬ男性がいた。

 

カイネは少し困惑しながらも、声を落ち着かせる。

 

 

「えっと、どちら様でしょうか?」

 

「うん、いいね……声の質も悪くない」

 

「…声?」

 

「いやはや、遠くからでも君の美貌はひと際目立っていたよ。艶やかなマロンベージュの髪に、エメラルドグリーンの瞳!」

 

「は、はぁ…」

 

「所属はしているのかい? どこかの()()に立った経験は?」

 

「(()()!? まさかこの男、何か気づいて…)い、いえ。私は決して()()()()では…」

 

 

動揺したカイネが焦って否定するも、男の顔はきょとんとしていた。

 

 

「へいだん? 劇団じゃなくて?」

 

「…げきだん?」

 

「よかった!どこの劇団にも所属してないのなら、一度私の話を聞いてもらえないか!?」

 

「えっと…」

 

「おっと、紹介が遅れたね。私はこういう者だ」

 

 

カイネが返事に困っていると、その男は胸ポケットから小さな紙を取り出した。

 

手渡された紙に目を通したカイネは、一番大きな文字を読み上げる。

 

 

「『劇団オリオン座』…?」

 

「そう!私はそこで“座長”を務めているのだよ。次の本公演に向けて配役を決めている最中なんだが……是非、君をスカウトしたい!」

 

「よくわかりませんが、お断りします。それと、急いでいますので…」

 

「もったいない!君ほどの美貌があれば、名女優も夢じゃないぞ!!」

 

 

ろくに話も聞かず自分のペースで会話を進めていくその男に、カイネは少しの苛立ちを見せる。

 

 

「あの、本当に困ります。もうよろしいですか?」

 

「ん?……ちょっと待った!!

 

 

急な大声に、カイネはビクッと体を凍りつかせた。

 

動けないでいるカイネの顔に、男の大きな手がずいっと伸びる。

 

男は指先で前髪をさらっと掻き分けると、そこにある“傷”を凝視した。

 

 

「…これは、火傷の跡かい?」

 

「えぇ、そうですが…」

 

「なるほど……ま、まぁ大したことはないさ!これくらいなら十分隠せる」

 

「だから、そういう話ではっ…」

 

パシン!!

 

 

その時、耳元で弾かれるような音が聞こえた。

 

リヴァイが男の腕を叩き払ったのだ。

 

 

()()()に何か用か?」

 

 

凄みを利かせるリヴァイ__その威圧感に、男は弱腰になる。

 

 

「へ? あっ……お、お兄様でしたか!?」

 

「そうだが」

 

「す、すみません。あまり似ていらっしゃらないので、てっきり…」

 

「あぁ、よく言われる。ところで……俺たちは急いでる。さっきこいつがそう言ったろ

 

「そそ、そうでしたね!これは失礼しました!!……レディ、連絡先はその“名刺”に。いつでもお待ちしておりますよ」

 

 

そう言って顔を引きつらせながら軽く会釈をした男は、スタスタと逃げ去るように2人の前から遠ざかって行った。

 

 

 

**

 

 

 

男の姿が人だかりに消えて行くのをため息交じりに見送ったカイネは、すぐさまリヴァイに頭を下げる。

 

 

「兵長、ありがとうございました」

 

「…あぁ、お前はどうにも目立つらしい」

 

「はは、やはりこの格好がいけませんかね? 私にはとても似合わないような…」

 

()()……まぁいい。ハンジの後ろにでも隠れてろ」

 

 

それを横で聞いていたハンジが、「え、私?」という表情で自分の顔を指差した。

 

言われた通りハンジの隣へ並ぼうとしたカイネだったが、近くにいた少年に目を奪われ、足を止めてしまう。

 

 

「あれ? あの少年、()()()()…」

 

「どうかした?」

 

 

首を傾げるハンジに、カイネは褐色の肌をした少年を指差した。

 

その少年はアイスクリームに夢中になるサシャの後ろで、何やらコソコソと怪しい動きを見せていたのだ。

 

 

「何となくですが、あの少年が気になって…」

 

「どれどれ………あっ!!

 

 

素っ頓狂な声を上げるハンジ__その瞳が捉えたのは、少年がサシャのポケットから財布を盗みだす瞬間だった。

 

横で見ていたリヴァイが、すかさず動く。

 

 

「オイ、それはお前の財布じゃねぇぞ」

 

 

しかし、その少年は言葉が通じないのか、額に汗を滲ませるだけで何も言わない。

 

そうこうしているうちに、市場を訪れていたマーレの住民たちも少年を取り囲み、騒ぎ出してしまう。

 

 

「スリだ!!」

 

()()敵国の移民か?」

 

 

野次は次第に、少年が『ユミルの民』の血を引いているかもしれないという疑惑を纏い始めた。

 

それを聞いたリヴァイは住民たちの意見をあしらい、しまいには少年を担いで走り出してしまう。

 

 

「行くぞ!!」

 

 

このリヴァイの号令により、調査兵団は()()()()市場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___その晩。

___【マーレ大陸:アズマビト家所有の屋敷】にて。

 

 

「そのようなことがありましたか…」

 

 

市場での出来事を聞いたキヨミは、嘆かわしそうに言葉を吐いた。

 

あの後は結局、リヴァイが去り際の少年に財布を奪われるという一幕がありつつも、追手は何とか振り切ることができたため事なきを得た。

 

しかし、世界におけるエルディア人の立場を目の当たりにした調査兵団は、和平の道を求める計画の困難さを突きつけられたとも言える。

 

そんなキヨミの鋭い指摘に、皆が肩を落とす中__アルミンが苦し紛れに口を開く。

 

 

「…かと言って、和平の道を諦めるのならジークの謀略に加担するしかなくなります」

 

 

そう、ここへ来た“目的”はただ一つ。

 

このままジークが提示する『地鳴らし発動によるパラディ島保守計画』に賛同すれば、ヒストリアとその子どもたちが犠牲になる。

 

そんな未来を迎えないために、最後の頼みの綱として“ある団体”に取り入ろうというのだ。

 

 

その名も、『ユミルの民保護団体』。

 

 

明日行われる国際討論会に初めて登壇するこの団体は、理念や行動指針が不明だという点では慎重さを要するが、取り合ってもらえる可能性はあるとハンジは踏んでいる。

 

そこで、調査兵団も討論会へ出席できるよう、アズマビト家のつてを頼ったというわけだ。

 

 

『ユミルの民保護団体』の意向を確認し、接触を図り、彼らを介して世界へ“平和的解決”を訴える。

 

 

それが、今回の潜入調査における最大の目的なのだ。

 

 

 

__と、改めて遠征の目的を語るハンジに、キヨミは顔を険しくさせる。

 

 

「無論、私共アズマビト家は和平への協力を惜しみません。ですが……それにどれほどの実現性があるとお見込みでしょうか?

 

 

厳しい意見に、ハンジは顔をしかめた。

 

だが、今回の計画が極めて困難であり危険も伴うことは、重々承知している。

 

それを理解した上で、()()()()()()()()()()()()()()()()__それがハンジの“答え”だった。

 

 

 

会話がほとほと煮詰まった頃、ミカサがあることに気づく。

 

 

「…エレンはどこ?」

 

 

いつの間にか、エレンが姿を消していたのだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___1時間後。

 

 

「ハンジさん!こっちにいました!!」

 

 

屋敷の近辺を捜索していたハンジたちの元へ、オニャンコポンが駆けつける。

 

どうやら104期たちが先にエレンを見つけたらしい。

 

 

「チッ…あのクソガキ、どこにいやがった」

 

「それが、()()()()()()()だそうで…」

 

「はぁ!? 何でそんなとこにっ……エレンのバカ!!」

 

 

舌打ちするリヴァイと声を荒げるハンジ__そんな2人を宥めるように、カイネは出発を促した。

 

 

「ともかく、我々も急ぎましょう!」

 

 

 

**

 

 

 

オニャンコポンの案内で到着したのは、街外れにある未開の地。

 

移民族の集落は小高い丘に囲まれているためか、街と違って静かな空気が流れている。

 

その光景に、カイネは見覚えがあった。

 

 

(あれ?……ここ、()()()()…)

 

 

集落に点々と灯るランタンが、瞳の中で左右に揺れる。

 

 

 ―“『ごめん……ごめん…』”―

 

 

目の前には、昼間の少年が__

 

 

 ―“『ごめんなさい』”―

 

 

「…エレン?」

 

 

カイネの口からポツリと零れ出た名前に、横にいたリヴァイが反応する。

 

 

「…あぁ、()()見つかったらしいな」

 

「へ…?」

 

 

上の空だったカイネはこそれを悟られぬよう、リヴァイが指差す方角に素早く顔を向けた。

 

見ると、手を振りながら此方へ駆け寄ってくるハンジの姿が__

 

 

「おーい、二人ともー!エレンと他のみんなはこっちのテントにいたよー!」

 

「…で? 奴らは今、そこで何してやがる」

 

「それが、“宴会”の最中だったんだ!」

 

「宴会……だと?」

 

「あぁ。何でも、昼間の少年が路地裏で暴行を受けているところをエレンが助けに入ったらしい。それで、お礼にもてなしてくれているみたいだ」

 

 

ハンジが呆れ顔でそう説明すると、リヴァイは眉間の皺を濃くした。

 

 

「キナ臭ぇじゃねぇか。敵の罠かもしれん……連れて帰るぞ」

 

 

すると、テントに向かって歩き出したリヴァイを、カイネが引き留める。

 

 

「待ってください、兵長。彼らは怪しい者ではありません」

 

「…何故そう言い切れる?」

 

「勘です」

 

「ほぅ…珍しいな。お前が根拠もなしに意見を述べるのは」

 

「そうですね。強いて言えば、仮にエレンが狙いなら既に実行に移している……と言ったところでしょうか」

 

「まぁ、状況判断で見ればそうだが…」

 

「それに、ここ最近のエレンは少し雰囲気が暗めでした。明日の討論会を前に、気が沈んでいるのかもしれません。たまには気分転換もよいものかと…」

 

 

主張を押し立てるカイネに、今度はハンジが食いつく。

 

 

「君にしてはやけに楽観的だね。何か思うところでも?」

 

「いえ、特に。ただ……()()謝りたかっただけなんだと、そう思います」

 

「そうかもしれないね。言葉が通じない分、()()()()態度で感謝を伝えてくれているんだろう」

 

「…そう、だといいですが…」

 

 

この時、カイネとしてはエレンのことを語ったつもりだったが、夢で見た内容を知らないハンジたちにその真意が伝わる筈もない。

 

今、話すべきだろうか__カイネが顔を曇らせていると、ハンジが勢いよく腕を引っ張ってきた。

 

 

「よぉし!そうなったら、我々も混ざるぞぉ~!!」

 

「あっ…ちょっと!」

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

テントの中に入ると、エレンや他の104期たちはすでに頬を赤らめていた。

 

どうやら振る舞われた料理の中には、酒も用意されていたようだ。

 

言葉も通じない初対面の人間たちと肩を組み合い、世の喧騒も忘れありのままの姿を晒す。

 

そんな彼らの愉し気な姿を前に、先程までの憂いが吹き飛ぶカイネ__するとそこへ、風変りな頭巾で髪を隠した老婆が近寄ってきた。

 

 

…トク、サレ…?

 

 

何を言っているかはわからなかったが、老婆が持つお盆の上にはエレンたちが手にしているものと同じグラスがあった。

 

きゅっと喉が締まる香りから、グラスの中身は察しがつく。

 

 

「あ……私、()()()()()()()んです。代わりにお水、もらえますか?」

 

…アイ、ワサ…!

 

 

何とか意図が伝わったのか、老婆はグラスを取り換えに戻っていく。

 

そうして、全員に飲み物が行き渡ると、宴会場はさらに盛り上がりを増した。

 

__昼間の少年に飛びかかられるエレン。

 

__酒が足りないと言って他所のテントから拝借するジャンとコニー。

 

__移民族の女性たちと淑やかに酒を酌み交わすミカサとアルミン。

 

__子どもたちと料理を取り合うサシャ。

 

__酒の瓶をラッパ呑みするハンジとそれを止めようとするオニャンコポン。

 

__ハンジの酒癖の悪さにため息をつくリヴァイと微笑ましく見守るカイネ。

 

 

「…ったく、あいつは酒が入るといつもこうだ」

 

「でも、たまにはいいと思います」

 

「だが、毎回あいつの介抱に付き合わされるのは俺たちだぞ」

 

「それはまぁ、大変ですけど……だって、ほら……ハンジさん、すごく楽しそう

 

 

そう話すカイネの表情は、いつになく穏やかだった。

 

ゆらゆらと揺れるランタンの灯がテントに模様を描き、打ち解けた人々の影が一つの絵として浮かび上がる。

 

 

(きっとこれが、私たちが求める()()()()()……あぁ、兄さんにも見せたかったな…)

 

 

今、この瞬間に、立場__人種__年齢__言葉の壁さえも超え、“心”が通じ合った。

 

カイネがそう確信した時…

 

 

♬ ~~ ♪ ~~ ♬ ~~ ♪ ~~ ♬…

 

 

どこからともなく笛の音が聞こえてきた。

 

その音を聞いた移民族たちは次々と立ち上がり、音色に合わせて体を動かし始める。

 

最初こそたじろいでいたパラディ島の面々も、徐々に輪の中へ混ざっていった。

 

エレンはミカサを誘い、アルミンは移民族の年配女性に誘われ、サシャは子どもたちと手を繋いで回っている。

 

 

「わっ…」

 

「カイネ!私たちも踊るぞぉ~!!」

 

 

酔っぱらいのハンジに無理やり腕を引っ張られたカイネは、仕方なく付き合うことにした。

 

 

♬ ~~ ♪ ~~ ♬ ~~ ♪ ~~ ♬…

 

 

和気あいあいと、踊りを楽しむ“同志”たち。

 

しかし、それを()()()()()()()もいた__

 

 

「…なぁ、コニーよ。俺たちってもしかして……ハブられてないか?」

 

「奇遇だな、ジャン……俺も同じことを思ってた」

 

 

そうボヤくのは、酒の入ったグラスを片手に不服そうに座り込むジャンとコニー。

 

2人は羨ましそうな目で愉快に踊る面々を眺めては、劣等感を押し流すようにグラスを口に当てる。

 

 

「…ん? おい、ジャン。あそこ見てみろよ」

 

 

そう言ってコニーが指差した先には、テントの隅に座り込んだリヴァイの姿があった。

 

リヴァイも2人と同様に、グラスを片手にテントの中央へ視線を向けている。

 

その視線を辿った先には、見慣れた“人物”が__

 

 

「なぁ、おい。ここで徳を積んでおくってのも悪かねぇよな?」

 

「あぁ。同感だぜ、ジャン!」

 

 

互いに意思を確認し合った2人は顔をニヤつかせながら立ち上がると、リヴァイの元へ駆け寄った。

 

 

「へ~いちょ~ぉ!ささ、どぉーぞこちらへ!!」

 

「何しやがる」

 

 

ジャンに強引に立ち上がらされたリヴァイは、不機嫌な反応を見せる。

 

鋭い目つきに気圧されそうになるも、2人はめげることなく、今度はコニーがリヴァイの腕を引っぱった。

 

 

「踊りってのはみんなでやってこそだって、昔母ちゃんが言ってました!」

 

「俺はいい。てめぇらで勝手にやってろ」

 

「隅っこで座ってるだけじゃ味気ないッスよ!? 遠慮せず!ささ、行った行ったぁ~!」

 

 

そう言ってリヴァイの背中を押し出すジャン__コニーもそれに合わせ、掴んでいた腕をぐいっと前に引いた。

 

するとここで、リヴァイのイラつきが最高潮に達してしまう。

 

 

「オイ、馬面とクソ坊主」

 

「「 はっ…はひぃ! 」」

 

「ベタベタ触るな。気持ち悪ぃ…」

 

「「 す、すみませんでした… 」」

 

 

凄まじいリヴァイの威圧に、後退るジャンとコニー__怒って元の場所に戻るかと思われたが、そのまま歩を進めるリヴァイの背中に、2人は密かにガッツポーズを決めた。

 

 

「チッ…やりゃいいんだろ」

 

 

リヴァイは文句を垂れながらも、ハンジとペアで踊っていたカイネの腕を掴んだ。

 

 

パシッ…

 

「へ、兵長!?」

 

「オイ、ハンジ。こいつを借りるぞ」

 

「うぇえ!ちょっ、今いいところなのに!!……ん?

 

 

いきなり相手を取られ困惑するハンジだったが、リヴァイの背後でニヤつくジャンとコニーの姿が目に入り、何かを察したようにどこかへ行ってしまった。

 

カイネは突然の状況に戸惑いを隠せない。

 

 

「えっと……兵長、ダンスのご経験は?」

 

「…踊ったことくらい……ある…」

 

「はは、まぁ私も幼少期にワルツの男性パートしか経験がありませんが……こういった民族舞踊は初めてです」

 

「そんなもん、適当に回りゃいいだろ」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

 

 

**

 

 

 

カイネの承諾を受けたリヴァイは、見よう見まねで腰に手を回す。

 

2人の距離が一気に縮まった。

 

 

(ち、近い。目のやり場に困るな…)

 

 

無論、これまでもリヴァイがカイネの体に触れることはあった。

 

だが、今回のソレとは訳が違う__互いに正面を向き、手を取り合っているのだから、自然と意識してしまうのも無理はない。

 

リヴァイは勝手がわからないためか、周囲の人間の動きを模倣しようと顔をキョロキョロ動かしている。

 

 

(白い……よく見ると、兵長の肌ってすごく綺麗…)

 

 

揺れる黒髪から覗く絹のような肌に、ついつい見惚れていると__

 

 

「…俺の顔に何かついてるか?」

 

「へ? あ、いえ!そ、そのっ…」

 

 

不意に、リヴァイと目が合った。

 

動揺したカイネは声を裏返しながらも、当たり障りのない言い訳を探す。

 

 

「…は、肌がすごく()()()って」

 

「まぁ、地下育ちだからな……そういうお前は、少し()()()()()?」

 

「えっ…」

 

 

指摘されて初めて、カイネは自身の頬が熱を帯びていることに気づいた。

 

 

「まさか、お前……酒は飲んでねぇだろうな?」

 

「もちろんです!それより、す…少し暑くないですか? ほら、テントの中は人がいっぱいだし…」

 

「…そうか?」

 

 

(いぶか)し気に眉尻を上げるリヴァイ__その表情に、カイネの頬がさらに赤くなる。

 

 

「ち…ちょっと、水飲んできます…!」

 

バッ…

 

 

リヴァイから小走りで離れていくカイネ__向かった先は、ハンジだった。

 

カイネはハンジが手に持っていたグラスを半ば強引に奪い取る。

 

 

「これ、ください…!」

 

「急になんだ!? あっ…ダメだ、カイネ!!()()()っ…」

 

 

しかし、ハンジの制止も聞かず、カイネは豪快にグラスを傾けてしまう。

 

 

ゴクゴクゴク…

 

「よせ!カイネ!!」

 

 

駆けつけたリヴァイがカイネの肩をぐいっと引き寄せるも、すでに遅かった__

 

 

「う゛っ…!」

 

 

オエェェェェェェ…

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌朝。

 

 

目を覚ますと、アズマビト家の屋敷の天井が見えた。

 

 

ズキン…

 

 

瞼を開くと同時に襲って来た頭痛が、昨晩の“失態”を思い出させる。

 

 

「はぁ……やらかした」

 

 

窓から差し込む朝日が、眼の奥を刺激する__カイネは右腕を額に押し当て、光を遮った。

 

 

「まさか、兵長に()()()()()()()なんて…」

 

 

そう、“失態”とはこのことである。

 

誤って酒のグラスを手にしたカイネは、あろうことかリヴァイのズボンに嘔吐してしまったのだ。

 

 

「兵長、怒ってるかな…」

 

「あれくらい、別に怒ることじゃねぇ」

 

「そうですよね。兵長は優しいから……って、えぇ!?

 

ガバッ!

 

 

幻聴かと思い、飛び起きるカイネ__しかし、何度瞬きをしても、ベッドの横にはリヴァイが平然と腰掛けていた。

 

その人影が幻覚ではないと理解したカイネは、掛布団を胸のあたりまで引き上げる。

 

 

「兵長!? どうして、ここにっ…」

 

「水を持ってきてやった。落ち着いたら飲め」

 

「あ、ありがとう…ございます」

 

「お前が酒に弱いことは全員知ってる。次は気を付けろ」*3

 

「はい、本当にご迷惑おかけしました。……あの、一つだけいいですか?」

 

「なんだ」

 

「えっと、私……今、()()()でして…」

 

 

掛布団を掴む指先に、きゅっと力が入る。

 

恥ずかしそうに俯くカイネの横顔に状況を理解したリヴァイは、いつもの顰め面でガタッと席を立つと、扉の元までスタスタと歩き出した。

 

 

「…すまん。もう出て行く」

 

「あ……す、すみません」

 

「それと、昨日は無理に誘って悪かった」

 

「!……待ってください、兵長!」

 

 

呼び止めると、リヴァイは取っ手に手を掛けたままピタッと立ち止まった。

 

その小さな背中に、カイネは必死に言葉を投げかける。

 

 

「兵長は何も悪くありません!途中で水を飲みに行ったのは、嫌だったとかそういうのではなく……私、昨晩は本当に楽しくて、それでっ…」

 

「あぁ、わかってる」

 

…バタン。

 

 

何を思ったか、リヴァイは話を最後まで聞くことなく、部屋を出て行ってしまった。

 

扉の閉まる音で緊張の糸がほぐれたカイネは、再びベッドに体を倒す。

 

 

「はぁ……言い訳なんて、見苦しい」

 

 

そう呟きながら窓の外に目をやると、街は清々しいほど爽やかな太陽光に包まれていた。

 

だから、予想だにもしなかった。

 

この日を境に、パラディ島に暗雲が立ち込めることを__

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

 

「依然、憎むべきは……島の悪魔共に他なりません!!」 

 

 

これが、『ユミルの民保護団体』の“答え”だった。

 

彼らが保護対象と見ているのは、()()()()()()()()ユミルの民のみ__そして、パラディ島に逃げ込んだエルディア人は危険思想を持つとさえ主張したのだ。

 

密かに参列していた調査兵たちは言葉を失い、キヨミは予想通りの結果に目を伏せる。

 

そして、気づいた時には…

 

 

エレンが再び、忽然と姿を消してしまったのだ。

 

………

 

 

 

その後。

 

調査兵団は失踪したエレンの捜索のため、数日間はマーレに滞在し続けるも、消息は一向に掴めないでいた。

 

さらに、アズマビト家の後ろ盾はいつまでもあるわけではなかった。

 

 

「心苦しいですが、客人としてあなた方を匿えるのは本日で最後となります」

 

 

結局、エレンを見つけることができないまま、調査兵団はパラディ島へと帰還したのだ。

 

 

 

それからしばらくして、ハンジたちの元へ一通の“手紙”が届く。

 

差出人はなんと、失踪中のエレン__

 

 

『オレは、ジークに……()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】ー

 

*1
オリ主幼少期スピンオフ作品【進撃の巨人~Another Choice~】の1シーンより

*2
本作『#02 心中』での1シーンより

*3
これまで描けていませんでしたが、カイネはお酒ガチ弱設定です





〜後書き〜

『兵長ファンの皆様、ごめんなさい(↓弁明させてください)』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回でお分かりいただけましたね・・・

リヴァイとカイネの2人が互いに好意を抱き始めました。

ただ、何度もしつこいかもしれませんが、本作品はあくまでサイドストーリーであり“フィクション”です。

そのことを明確に示す話は、物語の終盤で描く予定です。

また【進撃の巨人】の世界観は守りたいので、これ以降はロマンス描写を差し込むことはほとんどありません。(多少はありますので、お許しを)


◼︎次回予告:『#46 報復 ~レベリオ襲撃事件~』

■おまけ
◎【祝】劇場版 進撃の巨人The LAST ATTACK、復活上映!
本日からラスアタの復活上映が始まりますね。
私はもちろん初日に鑑賞して参りました!Blu-rayも購入済み(^^)b
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