進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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〜前書き〜

おおまかにですが、本作は残り10話前後を予定しております。

クライマックスに向けて、今回から展開がかなりスピードアップしてまいりますので、予めご了承くださいm(__)m


↓それでは、本編へどうぞ↓



#46 報復 ~レベリオ襲撃事件~

 

 

___エレン失踪から、半年後。

___【マーレ大陸:軍港付近の港】にて。

 

 

「それじゃあ、私たちはここから別行動だ。リヴァイ、カイネ……()()()()頼んだよ」

 

「承知した」

 

「ハンジさんもお気をつけて」

 

「あぁ、必ず迎えに行くよ……“飛行船”ってやつでね

 

 

そう言ってハンジはアルミンを引き連れ、オニャンコポンと共に闇の中へと消えて行った。

 

兵士長のリヴァイを筆頭とした調査兵団は、少人数で固まり、一定の距離を保った状態で陸路を練り歩く。

 

羽織で全身を覆い隠し、フードで顔は見えない__まるで方々を旅する冒険家のような出で立ちだが、纏った羽織の裾からは時折、闇夜に紛れてしまいそうな()()()()()()が顔を覗かせていた。

 

 

「兵長、今回の作戦……上手く行くでしょうか?」

 

 

カイネは不安を吐露しつつも、周囲への警戒を怠らぬよう眼を凝らし続けている。

 

 

「さぁな……だが、今の俺たちに選択肢などない。エレンのクソ野郎が手紙で寄越してきた計画では、こっちもアルミンが考案した策をぶつける他手はねぇ」

 

「襲撃の混乱に乗じ、エレンとジークの両名を連れ去る。そして、すぐに反撃ができぬよう、マーレ軍港を超大型巨人の爆発で破壊……まさか、そんな作戦がアルミンの口から発せられるとは、驚きました」

 

「迎えの飛行船に乗り遅れれば、一貫の終わり……アルミンの野郎、エルヴィン(ヤツ)の亡霊にでも憑りつかれたか?」

 

「確かに……あの時の彼の眼は、どこか兄さんに似ていた気がします」

 

「…かもな」

 

 

そう低く呟かれたリヴァイの言葉は、夜風と共に霞んでいった。

 

今、調査兵団が向かっているのは、【レベリオ収容区】__グリシャ氏の手記でも説明があった、マーレ大陸に残されたエルディア人が押し込められている区画のことだ。

 

そのレベリオの街中で今晩、戦鎚の巨人を代々引き継いできた“タイバー家”による【宣戦布告】が開催される。

 

タイバー家の現当主ヴィリー・タイバーは、マーレ軍の中枢や各国の大使・記者を一堂に集め、パラディ島への侵攻を大体的に宣言する舞台演説を行おうというのだ。

 

エレンの手紙では、各国に大ダメージを与えることを目的とし、舞台の上演中に襲撃を実行するとされていた。

 

さらには、義勇兵たちの要求に応えるため、獣の巨人を仕留める振りをして『ジークの亡命』も手助けするよう書かれていたのだ。

 

 

「団長のハンジが腹を括った以上、俺たちは作戦を遂行するまで……だが、誤って本当に髭面野郎の息の根を止めねぇよう、気を付ける必要はあるがな」

 

「兵長…」

 

「カイネ、お前は補助だ。奴を仕留めるのは……俺がやる

 

「…わかりました」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___1時間後。

 

 

「お待ちしておりました。ようこそ、レベリオへ!」

 

 

歓迎の言葉と共に畏まって頭を下げているのは、マーレの軍服を着たイェレナ__見ると、彼女の顎にはもさっとした“髭”がつけられていた。

 

 

「オイ…まさかソレが、マーレの戦士たちを出し抜く策だとほざくんじゃねぇだろーな?」

 

「これは一つの要素に過ぎません。私は敵軍に顔が割れていますから、変装は大前提です」

 

「そうか……それは滑稽だ」

 

「マーレの戦士たちはお任せを。私が必ず、足止めしてみせます」

 

「あぁ、じゃなきゃ俺たちは()()()()()()()()()に興じることになる。言っておくが、猿芝居を所望するなら他を当たれ」

 

「…ですが、敵を欺くためにも多少の“演出”は必要です。あくまでジークはあなた方に『倒された』と見せつけることで、混乱を誘い敵の戦意を削ぐ……この計画に賛同された筈では?」

 

「髭を蓄えて気が大きくなったらしいな? 減らず口に付き合ってる暇はねぇ……さっさと敵の警備配置を教えろ」

 

 

説明を急かすリヴァイ__イェレナは小さくため息を吐くと、手に持っていた紙を机の上に広げて見せた。

 

それは、【宣戦布告】が行われる舞台周辺の見取り図だった。

 

 

「警備配置は各部隊ごとに告げられ、全体を把握しているのは中枢のみ。目視での確認では、こことここ……軍幹部が集結する観客席と、エレンに狙われるであろう演説者の舞台裏側に、手厚く配置されていました」

 

「まぁ大方想定内だ。事前に忍び込めたらとも思ったが……わざわざ罠にかかりに行く馬鹿はいねぇ」

 

「やはり、エレンが襲撃を開始するのを待つしかないかと」

 

「チッ…そうらしいな」

 

 

 

**

 

 

 

イェレナからの説明が一通り済むと、調査兵たちは準備に取り掛かった。

 

羽織を脱ぎ捨て装備を点検し、事前に用意しておいた燃料タンクを屋上へ運んだり、ライフル銃に弾を込めたり。

 

それらの兵器はどれも“対人用”__だが、今回の襲撃に向けて改良されたのは、それだけではなかった。

 

彼らは、義勇兵たちがパラディ島に持ち込んだ最新鋭の技術と王政府が隠していた対人立体機動の機能を掛け合わせた()()()()()()()()()を身に纏っていたのだ。

 

伸縮性のあるスーツ、強化されたガスタンク、雷槍の射出を安定させるワイヤーなどと、これまでの装置と比べると見違えるほどに進化を遂げていた。

 

特にグリップに備え付けられた小銃は、移動時であっても距離を確保した状態で攻撃が可能な点でかなり画期的だと言える。

 

 

 

しかし、リヴァイとカイネの2人だけは他と違っていた。

 

旧型の機構も交えた複合型の立体機動の上に、マントを羽織っていたのだ。

 

そこへ、イェレナがちょっかいを出しに近寄ってくる。

 

 

「カイネ、あなたの装備は他と違いますね」

 

「私たちの任務は『ジークの身柄拘束』です。多少身軽でないとこなせませんから」

 

「“拘束”、か……いやはや、そうでしたね。新しい立体機動はいかがですか?」

 

「…純粋に、賞賛されるべき技術革新だと思います。それと……まるで()()()()()()()()()()()()()かのような開発速度には、脱帽しました

 

「まさかそんな……こんなこともあろうかと、というヤツですよ

 

「……」

 

 

沈黙が続く。

 

しばらくの間見つめ合っていると、リヴァイから「行くぞ」と号令があった。

 

去り際、カイネは一言だけ言い残す。

 

 

「それにしても、その髭面……似合っていませんね」

 

「はは、これは手厳しい」

 

「では、私はこれで…」

 

 

そう言って部屋を出て行こうとするカイネの背中に、今度はイェレナが言葉を投げかける。

 

 

「カイネ、必ずジークを連れてきてください……信じていますよ

 

 

しかし、カイネはこれに応えることなく、静かにその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数十分後。

 

 

『今、ここに宣言します……パラディ島敵勢力へ、宣戦布告を!!』

 

 

ッドォォオオォオォォォン!!

 

 

舞台の灯りに照らされた夜空の方角から、けたたましい唸り声と建物を破壊する地響きが聞こえてきた。

 

 

「いますね、兵長。あそこに、エレンが…!」

 

「あのクソ野郎、散々迷惑かけやがって……後でケツに蹴り入れてやる」

 

 

そうして、目元の影を濃くしたリヴァイがすぅっと息を吸う。

 

 

「各自配置につけ!作戦開始だ!!」

 

 

 

**

 

 

 

今回の作戦では、エレンの救出・逃走補助の役目はミカサに任されていた。

 

エレンから送られてきた計画書にそのような指示が書いてあったからだ。

 

これといった理由は添えられていない__しかし、選択の余地もない調査兵団は、ただ従うしかなかった。

 

そのため獣の巨人が出現するまでは、リヴァイたちはミカサの援護に回ることにしたのだ。

 

 

 

調査兵たちが現場に駆けつけた頃には、巨人化したエレンはタイバー家に潜んでいた戦鎚の巨人と交戦していた。

 

暫く戦況を見守っていると、戦鎚の巨人の“本体”が地中に埋まっていることを見抜いたエレン巨人が一歩上回った。

 

水晶体に包まれた戦鎚の巨人の正体、“ラーラ・タイバー”を捕まえたのだ。

 

そして、水晶体ごと被りつこうとした、その時…

 

 

ガブリ!

 

 

イェレナが拘束していた筈のマーレの戦士の一人、『(あぎと)の巨人』に背後から襲われてしまう。

 

しかし、その動きを事前に察知していた者がいた。

 

 

ヒュンッ!

 

 

今にもエレン巨人のうなじを噛み千切ろうとする顎の巨人の頬に、どこからともなく現れたリヴァイの斬撃が浴びせられた。

 

アゴを外された顎の巨人は成す術もなく、すかさずその周囲を立体機動で飛び回る調査兵たちが取り囲うも…

 

 

ガガガガガガ!!

 

 

重機関銃から放たれた乱射攻撃によって、それは阻まれてしまう。

 

弾道を辿ると、そこには戦車のような装甲を纏った『車力の巨人』の姿が__この巨人もイェレナが拘束すると豪語していた人物の一人だ。

 

 

「あのクソ髭女!しくじりやがったな…!」

 

 

さらにそこへ、()()()()()()が近づいてきた。

 

 

ズシン……ズシン…

 

 

姿を確認せずともそれが『獣の巨人』のものだと瞬時に脳が理解するほどに、“あの日”の記憶は鮮明に刻み込まれていた。

 

虫唾が走る__カイネは逸る気持ちを抑え込むように、横へ視線を流す。

 

 

「兵長…」

 

 

見ると、すでに後方を睨みつけていたリヴァイが、こめかみに血管を浮き上がらせた。

 

そして、静かに__且つ、力強く言い放つ。

 

 

「死ぬな。生き延びろ…!」

 

 

こうして、両陣営共に全戦力が集結したことで、レベリオの街は更なる損害を被るのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

ズドドドドォン!……バァン!……ガガガガガ!!

 

 

獣の巨人による投石を避けながら、敵兵を切り捨てたり爆薬を投下する調査兵に、顎と車力の巨人による猛攻撃が降りかかる。

 

戦場は激化し、巻き込まれたレベリオの住民たちが右往左往に逃げ惑う__もはや収拾がつかない騒乱状態となった。

 

エレンは戦鎚の巨人を取り込むことに執着しており、水晶体に被りついたはいいが、逆に顎を砕かれてしまうという失態を犯していた。

 

このまま持久戦に持ち込まれれば、補給線を確保できていないパラディ島勢力に勝ち目はない。

 

しかし、マーレ側のその期待はすぐに()()()()()()()

 

 

ッドォォオオォオォオォォン!!

 

 

文字通り、アルミンが持つ超大型巨人の爆発によって、マーレ軍港を丸ごと消し飛ばしてみせたのだ。

 

さらにこれは、一種の“合図”でもあった。

 

 

「今の音……どうやらハンジさんたちは、無事に出発できたみたいですね」

 

「あぁ、そうらしい」

 

 

割れた窓から外の様子を伺うカイネと、懐中時計と睨めっこするリヴァイ__2人は広場を取り囲む建物の中に隠れ潜んでいた。

 

 

「しかし、この石礫の量……茶番にしては随分と殺意が込められていますね」

 

「同感だ。戦士たちの登場と言い、とんだ有り様じゃねぇか」

 

「…やはり、奴を生かしてはおけません」

 

 

そう言ってグリップをギュッと握り直すカイネの肩を、リヴァイが掴む。

 

 

「俺は一番食いてぇもんを最後まで取っておくタイプだ……お前はどうだ? カイネ」

 

 

唐突な質問に目を丸くするカイネ__だが、リヴァイは至って真剣な眼差しだ。

 

戦闘中にリヴァイが冗談を漏らすことは多々あったが、今回のはそこに、如何ともし難い嘆きが含まれているようにも感じた。

 

 

「私は……正直、よくわかりません。ですが…」

 

 

カイネはそこまで話すと、羽織っていたマントを腰に括り付けてみせた。

 

まるで、固めた“決意”を示すように__

 

 

「味がしなくなるまで、存分に噛みしめる覚悟はできています…!」

 

 

明らかに、劇的に、カイネの面構えが変わった。

 

そして、その覚悟に応えるように、リヴァイはブレードを差し替えたのだった。

 

 

()()()……行くぞ」

 

 

 

**

 

 

 

エレン巨人にしつこく迫る顎の巨人をミカサが阻み、車力の背中に担がれたパンツァー隊にジャンたちが総攻撃を仕掛けにかかった。

 

敵の注意が逸れ完全にノーマークとなったその隙を、リヴァイは狙っていたのだ。

 

 

ザシュッ!

 

 

皮膚が切り裂かれる音と共に、闇夜に血飛沫が舞う。

 

獣の体毛に覆われたその巨躯が地面に叩きつけられるまでの時間は、ほんの数秒にも満たなかった。

 

突如として敵の凶刃に倒れた自身の上司に、車力の巨人は思考が停止する。

 

誰もが隙をついて急襲したリヴァイに注目しただろう。

 

その足元で、()()()()が実行されているとも知らずに__

 

 

ブチブチブチィィ!

 

「確保しました!」

 

「…頼んだぞ」

 

「はい……では、また後で!」

 

ヒュン!

 

 

そう言って人の形をした肉塊に自身のマントを被せたカイネは、それを抱えたまま地面を這うようにその場を後にした。

 

遠ざかって行く華奢な背中に武運を祈りながら、リヴァイは()()()()を抜いたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

ドォォオオォオォン!!

 

 

頭部を吹き飛ばされた車力の巨人が建物の屋上から落下し、地面に勢いよく叩きつけられた。

 

その瞬間を建物の内側から眺めていた人物が、小声で嘆く。

 

 

「あぁ、すまない、ピークちゃん……悪く思わないでくれ」

 

 

その人物はもがれた四肢の切断面から蒸気を放っている__そう、彼が獣の巨人の正体である“ジーク・イェーガー”だ。

 

ジークは窓から目を離すと、隣に立っていた人物の顔を見上げる。

 

 

「君、初めまして…だよね? 名前は?」

 

「…カイネ・スミスです」

 

「そうかい、カイネ。で、君が飛行船まで俺を連れてってくれる人?」

 

「この状況で他にいると思いますか?」

 

 

嫌味たらしく答えるカイネ__だが、ジークはへらへらと笑って見せた。

 

 

「いやぁ、君でよかった。俺はてっきり、あのリヴァイに八つ裂きにされるんじゃないかって肝を冷やしてたんだよ」

 

「まぁ、貴方を八つ裂きにしたいのは私も山々ですが……本当に残念でなりません」

 

「…君、さらっと怖いこと言うね?」

 

 

流石のジークもそれが冗談には聞こえなかったのか、瞬時に顔を曇らせた。

 

カイネは尚も淡々とした表情で続ける。

 

 

「兵長は今、囮として街中を飛び回ってくださっています。獣の巨人を討伐した本人が、その本体である人間を抱えて逃げていてはこちらの思惑が敵にバレてしまいますから」

 

「なるほど。俺たちが密かに飛行船へ近づけるよう、彼が注意を引きつけてくれてるってわけか…」

 

ゴゴゴゴゴゴ…

 

 

突然、重々しく風を漕ぐ音がレベリオの街中に響き、2人の会話は遮られた。

 

窓からチラッと上空を見上げると、()()()()()()をした飛行物体が優雅にも此方へ泳ぎ来るのが見えた。

 

これこそ、ハンジが言っていた『飛行船』という空を飛ぶ乗り物なのだ。

 

 

「来た……ほら、行きますよ」

 

ガシッ

 

「イタタタタ!ちょっ…カイネさん!? もうちょっと優しく…」

 

 

容赦なく首根っこを掴まれたことにジークが突っ込むも、カイネには軽く無視されてしまう。

 

 

「あぁ、そうだ。一つ言い忘れてました」

 

「アタタ……え、何?」

 

「これだけは覚えておいてください。調査兵団第13代団長エルヴィン・スミス……4年前あなたに惨殺された、私の兄の名です

 

 

カイネはそう吐き捨てると、助走をつけて一気に窓から飛び出した。

 

そして、立体機動に移り、ジークを掴んだまま空を舞う。

 

 

パシュッ……プシュゥゥーーー…

 

「うおっ!何だよもぉ~、乱暴な子だな!!」

 

「黙ってないと舌噛みますよ」

 

「ご丁寧にどうも!……しかし、()()()…」

 

「…何か?」

 

「イヤ、何でも…」

 

 

何か言いかけたジークだったが、それからは大人しく身を任せるようになった。

 

そして、飛行船に乗り込む直前__少し先の広場で未だ戦闘中のエレン巨人を見据えながら、ぽつりとこう呟いたのだった。

 

 

「……兄、ね」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___飛行船搭乗後。

 

 

ドカッ!

 

「ジーク!!」

 

 

カイネはすでに乗り込んでいたイェレナに向かって、ジークの胴体を乱暴にも放り投げた。

 

もがくジークの体を支え壁にもたれさせたイェレナは、キッと鋭い目つきで後ろを振り返る。

 

 

「こんな状態の人間を無下に扱うとは……カイネ、あなたに人の心はありますか?」

 

「驚きました。人の心を持たぬ貴方がそれを語りますか、イェレナ」

 

 

睨み合う2人__カイネはイェレナから目を離さぬまま、横にあったベンチにどかっと腰掛けた。

 

 

「お望み通り条件は満たした。今度はそちらの番だ。どんな大義名分があって兄さんや仲間たちを惨殺し、パラディ島を蹂躙したのか……貴方の神とやらにきっちりと話してもらいますよ」

 

「こちらの条件はジークの亡命と腹違いの弟エレンとの引き合わせです。まだ、完全に条件が揃ったとは言えない…」

 

「もうすぐ来ますよ。しかし、未だ信用し難い……監視は続けさせてもらいます」

 

「…ご自由にどうぞ」

 

 

何故か髭をつけたままのイェレナは、やれやれといった呆れ顔で顎髭を撫でた。

 

そこへ、リヴァイが乗り込んでくる。

 

 

「よぉ、髭面……相変わらずてめぇは憎たらしい面してやがる」

 

「はは、4年ぶりの再会に感極まりってところ悪いんだが……できれば監視役変えてくれないか? ずっと睨まれててやりづらいんだよなぁ…」

 

 

そう言ってカイネを指差すジーク__だが、リヴァイはそれには返事をせず、カイネの元までゆっくりと歩み寄った。

 

 

「ご苦労だった、カイネ」

 

「いえ、兵長もご無事で何よりです」

 

「あぁ……代われ、こいつは俺が見る」

 

 

すると、それを聞いていたジークが再び文句を垂れる。

 

 

「え、いやいや他にいるでしょ? アンタもやだよ、俺…」

 

「チッ…よく喋る肉塊だな。()()口に刃でも突っ込まれてぇのか?」

 

「そう睨むなよ。小便ちびったらどうしてくれんだ…」

 

 

 

**

 

 

 

その後、エレンを連れたミカサも合流し、宣言通り蹴りをお見舞いしたリヴァイによってエレンは拘束された。

 

他の調査兵たちも続々と後方の貨物室に集まり、勝利を確信したのか大声で騒ぎ立てている。

 

故に、“異変”に気づけなかったのだろう__その油断が仇となる。

 

 

ドォン!……ドドォン!

 

 

計3発の銃声が飛行船の中で飛び交った。

 

その内、後の2発は誰に命中することもなく、どちらも飛行船の壁にめり込まれた。

 

しかし、最初の1発は、その者の命を奪うほど見事に命中していたのだ。

 

 

「サシャが……死んだ」

 

 

涙目でそう知らせにきたのは、コニーだった。

 

一足先に捕まえた侵入者の報告に来ていたジャンは、その訃報に顔を歪ませる。

 

捕まえたのは年端も行かない少年少女2人__彼らは子どもながらに、マーレの『戦士候補生』として鍛え抜かれた“軍人”なのだ。

 

最初に乗り込んできた少女によってサシャは至近距離から腹部を撃たれ、失血死したという。

 

まったく予測できなかった最悪の事態に誰もが嘆き悲しむ中、乾いた笑い声だけが船内に響く。

 

 

「くくっ……くっくっくっくっ…」

 

 

それはエレンの口元から発せられていた。

 

尚もジークの監視を続けていたカイネは、サシャの訃報もエレンの不気味な冷笑も背で受けた。

 

エレンが何故笑ったのか__その理由はわからない。

 

だが、すべてを諦めきったような狂気じみた声には、どこか身に覚えがあった。

 

 

(何故だろう? あの日、ブランカとの心中を決意した瞬間*1を思い出す…)

 

 

エレンは何を諦め、何を決意したのか__ついぞ、その真意はわからぬまま、調査兵団はパラディ島へと帰還したのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___翌朝。

 

 

パラディ島に帰還した調査兵団はイェーガー兄弟両名を連れ本部へと赴き、レベリオでの戦果を報告した。

 

今回の襲撃では、

 

 

1.マーレ軍を弱体化させることで、連合国によるパラディ島への総攻撃の時間を稼ぐこと

 

2.ジークの亡命に協力することで、エルディア人を救うとされる“秘策”の条件を揃えること

 

 

が大きな目的だった。

 

これらが達成されたために、パラディ島では『戦勝』という吉報がバラ撒かれた。

 

マーレ軍幹部を抹殺し軍港も破壊、獣の巨人も討ち取ったとあれば、敵はしばらく身動きが取れなくなる筈だ。

 

しかし、大いなる目的の下、何百何千の罪なき人々が命を落としたことか。

 

これは単なる襲撃ではなく、紛れもない“報復”__本意ではなくとも、被害側のマーレにとってそう捉えられずにはいられないだろう。

 

 

 

さらには、“誤算”もあった。

 

ガビとファルコと名乗る戦士候補生が2人も、飛行船に乗り込んできたことだ。

 

彼らは現在、兵団本部の地下牢に幽閉されている。

 

そして、味方であるはずのエレンでさえも__地下の独房に、その身を投じられる結末となったのだ。

 

 

 

**

 

 

 

その日の夕方。

 

本部の近くにある墓地にて、今回の作戦で殉職した8名の葬儀が行われることとなった。

 

遺族や兵団の者たちが重い足取りで墓地へ向かう中、カイネは彼らを横目に()()()()()()()

 

 

(サシャ、どうか安らかに…)

 

 

心の中でそう呟き、握っていた手綱を小さく波打たせる。

 

そんなカイネの斜め前に走る小さな馬車の中では、ジークとリヴァイが睨み合っていた。

 

 

「なぁ、どこまで行くつもりなんだ?」

 

「てめぇが知る必要はない」

 

「だから馬車での移動ってわけね……でもせめて、窓を少しくらい開けてもいいじゃないか。長旅になるんだろぉ?」

 

「俺は地下街育ちだ。ドブのような薄汚ねぇ空気には慣れてる」

 

「…誰か~!通訳呼んでくれなぁ~い?」

 

 

しかし、ジークの要望が聞き入れられる筈もなく、馬車の護衛を任されていたカイネたちはさらに気を引き締める。

 

 

「バリス、ヴォルト。周囲をしっかり警戒して」

 

「「 はっ! 」」

 

 

引き連れていた2人の部下*2にそう指示を出したカイネは、顔をキョロキョロと動かし街の様子を伺った。

 

すると、数百メートル先にある民家の裏で、何やらヒソヒソと話をする2つの人影に目が留まった。

 

一人は見慣れた兵服姿の男__くるっと円を描くような赤毛は、その者を象徴する癖毛だ。

 

 

()()()()? あんな所で何を……誰かと一緒にいるみたいだけど…)

 

 

葬儀に参列していないフロックを怪しく思ったカイネは、もう一人の人物に目を凝らす。

 

一見、女性のようにも見えたが、体つきはがっしりとしていて背も高い。

 

そして、()()()()顔__思いも寄らぬ人物に、カイネは目を見開いたのだった。

 

 

「!?……あれは、もしや…」

 

 

 

…ワンダ?*3

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
本作『#02 心中』での出来事

*2
おまけにて説明あり

*3
アデルの死を受けて退団したカイネの元同期





〜後書き〜

『レベリオの黒スーツ兵長カッコ良すぎて滅!!』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回はレベリオ襲撃事件をざっくりとお届けしました。

ジークと会話させたかったこともありますが、原作でねじ込む隙がなさすぎて、カイネの役割は運び役となりました。

また、イェレナとカイネの絡みが多いのは、それぞれジークとエルヴィンの信捧者という似通った部分があると感じているからです。


さて、次回から【パラディ島内乱編】に突入です!


◼︎次回予告:『#47 波乱』

■おまけ
◎注釈2について
・次回以降で描きますが、カイネは『ジーク拘留地』への補給・連絡班の一人です。
・ハンジの台詞で補給・連絡班は3名とあったので、一人は原作にも出てきていたバリスと、もう一人は勝手にヴォルトと名付けました。
・バリスに関しては監視役の30名の一人という可能性もありますが、原作『第112話 無知』にてリヴァイに「ザックレーが殺された」という情報を伝えに来ている描写から、本作では補給・連絡班という設定にしました。
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