〜前書き〜
原作・アニメを参考に位置関係を大まかに設定しました。
間違っている可能性は大いにありますので、あくまで本作における独自設定とします。
[位置関係]
・ジーク拘留地:ウォール・マリアより南の巨大樹の森
・調査兵団本部:ストヘス区 ⇒ フロックたちの懲罰房がある
・兵政権の本部:ストヘス区 ⇒ エレン・水晶体アニの幽閉先
※ニコロのレストランもストヘス区内にあると見ています。
※原作でも移動時間がかなり短縮されているため、おそらくですが鉄道は兵政権の本部があるストヘス区にまで敷かれていたのではないかと…
↓それでは、本編へどうぞ↓
#47 波乱
___葬儀があった日の晩。
___【パラディ島:どこかの森】にて。
「
焚火の揺らめきを眺めながらそう語るのは、潮らしく背中を丸めたジークだ。
木箱の上に腰を下ろした彼の周囲を武装した兵士たちが取り囲み、目の前にはリヴァイが座り、その斜め後ろにカイネが立っている。
ジークの“拘留地”として選ばれたのは、樹高80mの群生林からなる巨大樹の森。
彼らはてっぺんの見えない木々が生い茂る深い森の中で、枝葉を四方八方に伸ばした樹木の如く、気を張り巡らせながら言葉を交わしていた。
今話しているのは『ラガコ村』のこと__4年前、ウォール・ローゼ内に巨人を発生させた方法について、リヴァイがジークに問い正していたのだ。
「…その巨人は『獣の巨人』を介した道で繋がっている。だから俺の意志が介入し、俺の命令通りに動く巨人となる」
曰く、ジークの脊髄液には、ユミルの民を
詳細は不明だが、ジークの脊髄液が体内に侵入したユミルの民には “座標”が刻み込まれ、ジークが命令を下すと“道”を通じて巨人の力が送り込まれるのだとか。
その仕組みを利用し、ラガコ村にジークの脊髄液を含んだガスを充満させ、それを吸い込んだ住民たちを巨人化させたというのだ。
ジークは一通り説明を終えると、少し不満げにリヴァイへ聞き返す。
「…って、わざわざ4年前の遺恨を蒸し返す必要ある?」
「相手の手の内を把握しておかねぇと分が悪い。てめぇらがいつ裏切っても対処できるようにな……それに、お前が耳カスほどの罪悪感も覚えちゃいねぇことがよくわかった」
「俺だってできれば避けたかったさ。でも軍の命令に従わなければ……わかるだろ?」
「エルディアを救うため避けられない犠牲だったと? お前が掲げる正義ってのはえらく傲慢らしい」
「はぁ……お前とはこの先も分かり合える気がしないね、リヴァイ。先が思いやられるよ」
「安心しろ。お前と分かり合うつもりは毛頭ねぇ」
「あぁそうかい…」
抑揚のない声で相槌を打つジーク__すると、今度はカイネが質問を投げる。
「貴方は先ほど、例のガスを吸うと『直後に体が硬直する』と言いましたね?」
「…あぁ言ったよ」
「その症状について詳しく聞かせてください」
カイネが少し口調を強めると、ジークはゆっくりと視線を上げ、遠い空へ記憶を辿るように口を開いた。
「ガスを吸引した者は、
「それは吸引したガスが僅かな量でも同じですか?」
「ほんの少しでも体内に入り込みさえすれば、まぁ……今のところ、例外はないよ」
「なるほど。では、元から巨人の力を有している者が吸うとどうなりますか?」
「おいおい質問攻めだな」
「いいから答えて下さい」
「…九つの巨人を有する者は、俺の脊髄液が体に入っても影響は受けない」
「そうですか。ありがとうございます」
「カイネ、俺からも一ついいかい?」
用件が済んだので下がろうと足を動かしたカイネを、ジークが引き留める。
カイネが「何ですか」と不機嫌そうに視線を向けると、ジークはコロッと声色を和らげてみせた。
「君も俺の見張りなの?」
「いえ、
「…そうか。うん、それは
「えぇ、本当に」
静かに睨み合う二人__どんよりと淀んだ空気が立ち込める。
それ以来、カイネとジークが言葉を交わすことは一度もなかった。
**
数分後。
夕食の支度に取り掛かるため、カイネは数名の兵士を連れて荷馬車の積み荷を降ろしていた。
その最中、同じ補給・連絡班の一人である部下のバリスが不安を吐露し始める。
「分隊長。出発前にチラッと耳にした『義勇兵の軟禁』……あれは本当なのでしょうか? 俺たちに何の相談もなく…」
「…確かに、正直驚いた。でも、義勇兵と距離が近かった調査兵団には話せなかったというのも頷ける」
「まさかピクシス司令がそんな強行策に及ぶとは…」
「…とは言え、野放しにしておけないのも事実。彼らの要望であるジークとエレンの引き合わせを早々に済ませてしまえば、
「慎重を期してというのは分かりますが、シガンシナ区の住民を強制退去させるなんて……これでは、国民の反感を買いますよ」
「それだけならまだ兵政権の思惑まで世に広まることはないだろう。それより、気になるのは……ヒストリア女王の“懐妊”の時期だ」
そう、実は女王であるヒストリアは現在、第一子を身籠っている。
そのことが判明したのは数か月前__そして、出産の時期はこの先1か月前後の見込みなのだ。
婚礼など何の前触れもない突然の懐妊には、兵政権含め、国民全員が驚かされた。
大っぴらに口にすることはなくとも、国を挙げての大掛かりな計画の最中に判明した君主の身勝手な行為について、皆が懐疑的に受け取っていることは言うまでもないだろう。
そんな切り込んだ話題へ先に反応したのは、補給・連絡班のもう一人の部下であるヴォルトだった。
「…それはつまり、ジークの身を案じた義勇兵が女王をそそのかしたと?」
「真相が定かでなくとも、可能性として真っ先に浮かぶだろう。だから兵政権は義勇兵を信用していない」
「しかし、義勇兵から巨人化の薬を押収し、ジークとエレンの引き合わせを先延ばしにしているこの状況……兵政権はヒストリア女王の出産を待って、義勇兵との取り決めを果たす前にジークを食わせる気としか…」
「そうだろうね。あるいは……
ゴクッ…
縁起でもないと思いつつもあり得なくもない話に、バリスとヴォルトは二人して息を呑んだ。
すると、その様子を察してか、カイネは気を紛らわすように明るく振る舞い出す。
「さてと…この話はここまでだ。今あれこれ思案しても、兵政権に問い正したところですんなり答えてくれるわけないからね」
「わ、わかりました…」
「ハンジさんのところへ戻ってジークから聞き出した話も伝えなきゃいけないし、早い所腹ごしらえを済ましてしまおう」
「「 はい! 」」
カイネは二人に優しく頷き返すと、荷台に乗っていた木箱に手を掛けた。
しかし、その中身に気を取られ、思わず手を止めてしまう。
「ん? これは……バリス、ヴォルト。この“ワイン”、どこから仕入れたの?」
「あ!そ、それはっ…」
「ワインだと…?」
聞き捨てならんと言わんばかりに姿を現したのは、リヴァイだった。
リヴァイは木箱から一本のワインを取り出すと、ボトルをくるりと回し見る。
「どうして任務中に酒がいる?」
「兵長!これは
バリスたち曰く、そのワインは調査兵の若い連中が色々と手を回し、やっとのことで手に入れたものらしい。
初めは「紅茶があるだろ」と切り捨てようとしていたリヴァイだったが、少しでも“楽しみ”があった方が任務に集中できるというバリスたちの懇願に、渋々折れてしまう。
「めんどくせぇな……いいだろう。持っていけ」
「「 あ、ありがとうございます! 」」
口を揃えてお礼の言葉を並べたのち、嬉しそうに木箱を担ぎ上げて運んでいくバリスたち。
そんな彼らをカイネがぽかんと眺めていると、隣にいたリヴァイが静かに声をかけてきた。
「カイネ、お前も飲むのか?」
「へ…?」
不意な質問に一瞬戸惑いつつも、移民キャンプでの出来事*1を思い出したカイネは、絵に描いたように頬を染める。
「兵長、それは意地悪な質問ですよ。
「ふっ…そうか」
リヴァイはそう言って軽く鼻で笑うと、バリスたちの後を追うようにスタスタと歩いて行ってしまった。
カイネは帯びた熱を冷ますようにふぅと息をつきながら、その場でゆっくり顔を上げる。
所狭しと生い茂る木々の隙間からは、煌々と輝く星空が見えた。
まるで望遠鏡を覗くと見える小さな世界のように、それは紛れもなく、鮮明に、確かにそこにあった。
(『綺麗だ』……この星空を見れば、きっと誰もがそう思うだろう。
カイネはふと、そう思った。
美しい景色に心打たれる瞬間のように、誰もが同じ気持ちを抱くことができたのなら__
…と。ただそれを、願うばかりだった。
***
___翌日。
___【ストヘス区:調査兵団本部の門前】にて。
明け方前に拘留所を出発していたカイネたち補給・連絡班は、昼過ぎには本部へ到着していた。
門の前には人だかりができていて、何やら騒々しい。
「義勇兵が一斉に拘束されたとの噂がありますが、その真相は!?」
「エルディア国に勝利をもたらしたエレン・イェーガー氏が幽閉されているとの情報もありますが…!?」
代わる代わる声を挙げていたのは、ベルク新聞社をはじめとする各社報道陣の面々。
そんな彼らが取り囲んで訴えている相手は、調査兵団第14代団長のハンジ・ゾエだった。
「…すべてはエルディア国民みんなのためだ」
そう一言捨て置いて、門の中に入って行くハンジ__その後を追いかけるように、カイネたちも門を潜る。
「ハンジさん!この騒動は一体…」
「やぁカイネ、戻ったんだね。まったく朝から参るよ……実は、機密事項が外部に漏れたんだ」
「え、漏れたって何故…」
「それを今から
「!?……誰かが漏らしたんですね」
カイネの察しの良さに慣れ切ったハンジは、前を向いたまま頷いた。
「あぁ、もう目星はついてる」
「…すると、アズマビトの出迎えは?」
「私たちは手が離せない。さっきザックレー総統に任せて来たよ」
「そうでしたか…」
その日はアズマビトがパラディ島へ来訪する予定の日だった。
アズマビトたちはマーレ遠征作戦成功の報を聞き及び、地鳴らしの威力偵察を目的に『飛行艇』という観測機を持ち込みに来るらしい。
ハンジとしては是非ともその飛行艇とやらを拝みたいところではあったが、生憎
「さらに昨晩、捕らえていたマーレの戦士候補生の二人、ガビとファルコが脱獄したらしい」
「なっ…!?」
踏んだり蹴ったりな状況にカイネは言葉を失う。
「どうやったのかわからないけど、見張りの兵士は鈍器で殴られていた。今捜索隊を出しているけど……正直、そっちに構っている暇はない」
「彼ら二人にはパラディ島へ大打撃を与えるような危険性はないと思いますが……とは言え、無視もできませんね」
「あぁ。だからせめて、彼らがジークと接触しないようにだけ気を張っていてもらいたい。リヴァイにそう伝えてくれる?」
「わかりました」
ずんずんと建物内を闊歩するハンジの後ろを、カイネたち三人は黙ってついていく。
その足取りからも苛立ちや焦燥感は容易に感じ取れた。
(ハンジさんがここまで感情を表に出すなんて…)
カイネはハンジの様子に不安を覚えながらも、手短にジークの脊髄液に関する情報を伝え、目的の部屋へと向かったのだった。
**
「君たちはエレンの情報を外に漏らした罪で裁かれる……この4人を懲罰房へ」
そう言ってハンジが睨みつけた先にいたのは、フロック、ホルガー、ヴィム、ルイーゼの4名。
フロック以外は全員、最近入団したばかりの新兵だ。
何故フロックは兵団の意向に背いてまでエレンの情報を外に漏らし、国民の不安を煽ったのか__その理由は、「エレンを解放すべきだから」の一点張り。
結局、互いの意見は拮抗し、妥協点を見出せぬまま話し合いは終了したのだ。
その場にはミカサたちも居合わせており、懲罰房行きが決まった4名を地下牢へ連行する役目を請け負ってくれた。
部屋にはだらんと椅子に腰かけたままのハンジと、居たたまれない表情で立ち尽くすカイネの二人だけが残った。
…バタン。
ずっしりと重い扉が閉まる音が聞こえると、ハンジが突然、両手をわなわなと振るわせながら万歳をするように上に挙げ始めた。
それから一気に下ろして脱力すると、ため息とともに一言…
「…疲れた」
この時、ハンジが何を考えていたのか__カイネには知る由もない。
だが、精神的な負荷がハンジの体を蝕んでいる状態であることは、心情など読み取らずとも察することができた。
がくっと俯かせた顔にそっと視線を向けるも、左目を覆う眼帯でハンジの表情は見えない。
しかし、そこから漂う哀愁が、4年前の戦いで負った傷の“痛み”を思い出させる。
ズキン…
それを痛いほど理解しているからこそ、カイネにはかける言葉が見つからなかった。
「ハンジさん、少し休まれた方が…」
そう言いながらゆっくりと手を伸ばすも…
「いや、…まだ調べることがある」
気を引き締め直したかのようにスッと立ち上がったハンジの肩に、カイネの手は届かなかった。
ハンジはそのままカイネと目を合わせることもなく、スタスタと立ち去って行く。
部屋に一人残されたカイネは、行く当てもなく宙に浮いた右手を、ただ握りしめることしかできなかったのだった。
………
…
その後も、ハンジは忙しく動き回った。
調査兵一人一人との面談を設け危険分子が潜んでいないか確認したり、各方面で軟禁中の義勇兵の元を訪れては聞き取り調査をしたり、とにかくできることは何でもやった。
その間、ピクシス司令はイェレナだけに的を絞り、これまで目に留まった点を例に挙げ、真の目論見を暴こうと執拗に問い詰めていた。
特に気掛かりだったのは、10か月前に催された【鉄道開通祝賀会】でのこと__この日を境にエレンが単独行動を取り始めたことや、当時のイェレナの監視役が現在服役中のフロックであった点を怪しく思い、その日エレンと内密に接触していたのではないかという疑惑を持っているのだ。
しかし、イェレナはこうなることさえ予測してたのか全く動じることもなく、ピクシスの鋭い指摘や考察はするりとかわされてしまい、口を割る気配は一向に見受けられなかった。
だが、その一か月後__事態は大きく進展する。
***
___1か月後。
「え……イェレナがエレンとの密会を認めた!?」
「あぁ。今朝、何の前置きもなく突然自白したって……まったく、今までの苦労は何だったんだ!」
そう文句を垂れながらせかせかと支度をするハンジの傍で、カイネはあんぐりと口を開けている。
思考が追いつかない__だが、足踏みする間もなく、ハンジはコートの袖に腕を通しながらどこかへ向かい出した。
「とにかく、急いで行かないと!」
「えっ…どちらへ!?」
「オニャンコポンのところだ。今回の件が義勇兵全体での企てなのか、はたまたイェレナの単独行動なのか……それを確認したい!カイネ、君はリヴァイにこのことを伝えてくれ!!」
「わかりました。……その前に、懲罰房へ寄ってもいいですか?」
「!?……フロックと話すの?」
「はい、彼の真意も気になります。引き出せるかはわかりませんが、やるだけやってみようかと…」
「……」
一瞬、ハンジの足取りが緩んだ__今このタイミングでフロックと話すことが効果的かどうか、判断に迷ったのだろう。
少し考えたのち、ハンジは何かを念じるような瞳でカイネの肩に手を置いた。
「…わかった。頼んだよ」
「はい…!」
**
地下の懲罰房に一人降りたカイネは、フロックの牢の前でピタリと足を止める。
すると、牢の中にいたフロックの方が先に口を開いた。
「これはこれは……あなたが俺に話とは珍しい」
「…フロック。どうして私がここへ来たか、わかってるんでしょ?」
「さぁ? 見当もつきませんねぇ」
嘘をついている目だ__カイネは感覚的にそう思った。
「…今日、イェレナがエレンと密会していたことを認めた。これなら心当たりある?」
声色を低めるカイネ__すると、フロックはにやりと薄気味悪く口角を上げた。
「あぁ、なるほど。つまり、あなたはこう言いたい……『その時の見張りが俺だった』ってね」
「正解。自覚があるなら率直に聞くけど、密会の話を先に持ち掛けたのはイェレナ? それとも…」
「カイネさん、この期に及んで俺が素直に答えるとでもお思いですか?」
「…まさか。ただ、君には選択肢がある。今この場で白状するか、
カイネが平然と物騒な言葉を並べたためか、フロックは思わず吹き出してしまう。
「ぷっ…あっはは!」
「笑い事じゃないと思うけど?」
「いえ…今の団長なんかより、あなたの方がよっぽど素質がありますよ」
「フロック、君はハンジさんを侮り過ぎだ。確かに、何かを変えるにあたって正しくあり続けるというのは非常に困難だ。だけど、そうやって解決の道を探さなければ、いつまで経っても地獄から抜け出すことはできない」
「そもそも抜け出す必要なんてないんですよ。その先に楽園がある保証なんてないんですから……毒を以って毒を制す。ただ、それだけのことです」
「…君は4年前、『悪魔を再び蘇らせることが使命だ』と言っていた。これもそのため?」
「……」
フロックは答えなかった。
カイネから視線を外し、どこを見るわけでもなく目を瞑る。
そして、次に口を開いたときに最初に出てきたのは、大きな溜め息だった。
「はぁぁ…残念ですよ、カイネさん。あなたなら理解していただけると思っていたのですが……だってあなたは、
そう言い放ったフロックの瞳は、酷く冷めきっている。
だが、その程度の煽りに反応を示すほど、カイネは平常心を失ってはいなかった。
「本当に残念だよ、フロック。君を救うことができなくて…」
そう一言捨て置き、立ち去ろうとするカイネ__その背中に、フロックが問いかける。
「どこへ行かれるのですか? 俺はまだ話していてもいいんですよ?」
「これ以上は必要ない。十分わかった」
「…そうですかぁ~」
フロックはわざとらしく口調を崩すも、カイネは無視して歩き続けた。
しかし、目の前から歩いてきた二人の兵士たちにどこか懐かしさを覚え、立ち止まってしまう。
「あれ?……貴方たちは、もしかして…」
カイネが声をかけると、二人の兵士はビシッと敬礼をして見せた。
「憲兵団の遣いで参りました!フロック・フォルスターの見張りを強化しろとの命令です!」
「そうでしたか。無礼は承知の上ですが、どこかでお会いしたことは…」
「いえ!人違いかと…」
食い気味に否定する兵士たち__それでも何か引っかかるのか、カイネはずいっと歩み寄った。
すると、兵士たちは少し驚きながら顔を背ける。
「す、すみませんが……我々はあなたを存じ上げません」
その言葉を受け、カイネも流石に食い下がった。
「…失礼しました。それでは、厳重に警戒いただくようお願いします」
「「 はっ! 」」
再びビシッと姿勢を正した兵士たちは、その場からカイネが立ち去るまで敬礼で見送った。
(気のせい? 確かに
地上へ出たカイネは先程の兵士たちのことが気になりつつも、バリスらと共に馬に跨った。
しかし、この時カイネが抱いた“違和感”こそ、壁内世界を狂わす大事件の始まりだったのだ。
***
___数分後。
フロックとの対話の結果をハンジへ報告すべく、ストヘス区内を馬で駆けている頃。
とうとう“事件”は起こる。
『ザックレー総統が暗殺された!!』
カイネたちの元へ飛び込んできたのは、耳を疑う報せだった。
急いで進路を変え兵政権の本部まで駆けつけると、門の手前の地面には原型を失ったザックレーの上半身が転がっているのが見えた。
建物を見上げると、総統の執務室に風穴が__ザックレーはどうやら、至近距離で爆発を食らったらしい。
しかし、事件は“これだけ”では終わらなかった。
………
…
その晩。
兵政権の中枢が一堂に集い、今回の暗殺事件に対する捜査議案を練っている最中に、さらなる事件が起こる。
『エレン・イェーガーが地下牢から脱走しました!!』
1か月前のレベリオ襲撃の際、戦鎚の巨人を取り込んでいたエレンは、その能力を使って牢屋を器用に破壊して出て行ったらしい。
すぐさま捜索隊を編成するも、フロックを始めとする100名余りもの投獄中の兵士たちが一斉に脱獄したという報せも立て続けに舞い込んできたために、兵団は打つ手を失ってしまう。
結局、エレンたちを見つけることは叶わぬまま、一夜を明かす羽目になるのだった。
***
___翌朝。
___【ストヘス区:兵政権本部】にて。
再び全兵団関係者が集い、今後の方針を取り決める会議を行った。
まず、昨晩の脱獄で離反を示した兵士たちは、反兵団破壊工作組織『イェーガー派』と呼称する。
彼らの目的は察するに、エレンとジークを引き合わせること__ひいては、エレンを中心とした兵団組織への変革だろう。
それらを踏まえた上でピクシスに展望を尋ねたところ、意外な答えが返ってきた。
「エレンに降参しよう……これはもう、わしらの負けじゃ」
その真意は、これ以上無用な血を流させないための、最大限の“譲歩”だった。
とは言っても、完全に服従するわけではない__ジークの居場所を教えることを条件に、交渉を図るのだ。
イェーガー派とて先々世界とやり合うことを踏まえれば、仲間同士で醜く争っている場合ではないだろう。
そこに訴えかけ、従来通り『地鳴らし』の実験にエルディア国の存続を委ねる代わりに、今回の暗殺事件の罪を不問とする。
それが、ピクシスの出した“答え”だった。
**
会議が終わると、各自ピクシスの指示通りに慌ただしく動き始めた。
バタバタと人影が交差する中、ハンジはカイネに指示を出していた。
「カイネ、君たちはこのことをリヴァイへ伝えに行ってくれ。少し遠回りになってもいいから、いつもとは違うルートで頼むよ」
「はい。お任せを」
「待たぬか、ハンジ」
「司令…!」
そこへ、ぬっと割り込んできたのはピクシスだった。
「わしは先程大きな声で連絡班を3名と言った。もしあの場に敵が潜んでおったら、これから3名で動く者たちを怪しむじゃろうて」
「あ…確かに」
「一人、こちらへもらえるかの? キヨミ殿を港まで護衛してもらいたいのじゃ」
「えっと、じゃあ……カイネ、頼めるかい?」
「わかりました」
「それから主らにはもう一つ、話がある」
「…何でしょう?」
ピクシスが顔を険しくさせたために、ハンジは恐る恐る聞き返した。
この時、すでに他の兵士たちは部屋を出ており、アズマビト家の数名だけが壁際でその様子を見守っていた。
シンと鎮まり返った部屋の中で、見つめ合う同志たち__何を躊躇っているのか、ピクシスは黙ったままだ。
そして、部屋の外で忙しく動く足音が遠ざかった頃、ピクシスはようやく重い腰を上げるように口を開いたのだ。
「…アンカ、“例のもの”をここへ」
名前を呼ばれたアンカが皆の前へゆっくりと歩を進める。
その手に持っていたのは、小さな
………
…
***
___夕方。
キヨミの護衛を任されたカイネは、数名の兵士を連れ、シガンシナ区から港までの機関車に乗っていた。
リヴァイへの連絡はバリスとヴォルトの二人に託し、ハンジたちは義勇兵が経営している兵団御用達のレストランを調査するらしい。
ガタガタと揺れる車窓から遠くを見つめるカイネ__機関車のスピードは馬の脚の何倍も速いが、遠くを眺めていれば時がゆっくり流れているようにも感じられた。
(エレンは本当にあちら側へ加担するのだろうか……だとすれば、ジークにも何かしら動きがあるかもしれない)
カイネの視力を持ってしても、今の位置から拘留所がある森を捉えることはできない。
それでも不安を拭いきれなかったカイネは、その方角へ念を送り続けた。
(兵長。どうか、ご無事で…!)
そう、心の中で唱えた時…
ピクッ…
「な…何だ!」
「お前も感じたか?」
同じ車両に乗っていた兵士たちが一斉にざわめき出した。
異変を感じ取ったカイネは、近くの兵士に問う。
「何? みんな、どうしたの?」
「いや、それが……ほんの一瞬だけ、
「痺れ…!?」
―“『ガスを吸引した者は、すぐさま体の自由が奪われる。それから意識を失うんだ』”―
ガタッ…
ジークの言葉を思い出したカイネは、慌てて席を立ち上がる。
しかし、すぐさま周囲を見渡すも、体が硬直し意識を失う者は見当たらなかった。
「一体、何が…」
この時、カイネはまだ、気づいていなかった。
…と言うより、知る術がなかったのだ。
エルディア国がすでに、崩壊の一途を辿り始めていたことを__
**
1時間後。
港に到着したカイネたちはキヨミらアズマビト家を連れ、海岸沿いに立ち並ぶ兵団所有の建物を目指した。
そこで、思わぬ人物と再会することになる。
ジャキジャキジャキ!
「あら、随分と小綺麗になったじゃない?
「き、君はっ……
銃を構える兵士たちの中心にいた人物は、ワンダ・テイラー__4年前に退団した、元調査兵だ。
カイネは向けられた銃口からキヨミを庇うように自身の背後に隠しながら、ワンダを睨みつける。
「話を聞こう、ワンダ……これは一体何のマネ?」
「…確か、今はカイネっていうらしいわね? あなたが女だって聞いた時は、そりゃ驚いたわ…」
「今は世間話をする状況じゃない!質問に答えて…」
「それならじっくり聞かせてあげるわよ……
「!?」
こうして、カイネたちは武装した元調査兵らによって、捕らえられてしまったのだ。
その頃、
リヴァイやハンジらが悲惨な目に遭っているとも知らずに__
―【 続く 】―
〜後書き〜
『ここでのハンジの役回りを思うと…辛すぎて鬱!』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回はif設定が強めな上、一気に話が進みました。
原作で言うと27巻~28巻の2巻分に相当する話をさくっとお届けした感じですね。
最後にある通り、カイネは囚われてしまうため、翌日に発生するシガンシナ区での戦争には居合わすことができません。(つまり、29巻~30巻は描けない)
かなりサイドな話になので申し訳ありませんが、こんな裏話もあったかもしれないねと温かい目でお読みいだたければと思います。
◼︎次回予告:『#48 Grollen ~地鳴らし発動~』
■おまけ
◎再登場、ワンダ・テイラーについて
お忘れかもしれないため説明しておきます。
・ワンダは男だけど恋愛対象は男性、つまりオカマです。
・カイネと訓練兵時代からの同期(95期生)
・調査兵団の同期の中で唯一、途中退団している
◎関連記事:【考察】リヴァイは脊髄液入りワインを飲んでいたのか?【進撃の巨人】
https://note.com/singeki_satory/n/n43eb14f098d3