〜前書き〜
今回はカイネの活躍やオリジナル展開が少なめです。
カイネ視点で【天と地の戦い】をおさらいするような感覚でお読みいただければと思います。
また、『終尾の巨人』という表現はここではまだ使用しません。
一応作中では出てきていない表現のため、『始祖の巨人』と表記します。
(物語終盤では『終尾の巨人』と表現することもあるかもしれません)
↓それでは、本編へどうぞ↓
シュウゥゥゥゥゥゥゥ…
もぬけの殻となった獣の巨人の
露わになった白骨が、それが偽りの
飛行艇から飛び出した調査兵団の面々は、飛来する礫を宙で躱しながら始祖の巨人の骨の山へ着地した。
その際、巨人化したライナーが投擲の発射元となる獣の巨人へ飛びかかったのだが__
「やっぱり……ジークは『戦鎚の巨人』と同じやり方で
押し倒された獣の巨人は何の反応も示さぬまま、ただの屍と化したのだ。
おそらくアルミンが言うように、それ自体が“本体”ではなかったのだろう。
巨大な鉄橋のように連なる骨の山から縦1m横10cmという大きさしかない本体の位置を特定することは、砂漠で針を探すようなものだ。
もう、腹を括るしかない__そう訴えかけるジャンに、アルミンが応える。
「1分後にここを吹き飛ばす!!」
無論、超大型の爆破攻撃はエレンも想定済みだろう。
だが、これで始祖の巨人ないしエレンを倒すことはできずとも、骨をバラバラに吹き飛ばせば彼の位置を特定できるかもしれない。
そう淡い希望を抱きながらその場を離れようとした矢先、出鼻を挫くような出来事が起こる。
「もが…!」
「アルミン!?」
いつの間にか背後に迫り寄っていた巨大な影からぬるついた鞭が伸びてきて、アルミンの体に巻き付いた。
太い鞭の正体は“巨人の舌”__動物のような外見をした巨人はそのままアルミンを口に含むと、尾骨の方へと駆け出してしまった。
さらに__
「なっ!?」
後を追おうと動き出した調査兵団の前に立ちはだかったのは、無数の異形の巨人たち。
無垢の巨人とは別格の、隙の無い威圧と迫力が周囲の空気を一段と重くする。
息をつく間もなく、巨人の群れは彼らに襲い掛かる。
ザシュ!……ドドドーン!!
斬撃と雷槍で迎え撃つも、連携の取られた巨人の猛攻撃に押し負け、膠着状態が続く。
仮にリヴァイが万全の状態であったとしても、真っ向からの突撃では返り討ちに遭うと容易に想像できてしまうほどに、一個体の持つ手強さは並大抵のものではない。
眼前に広がる悪夢のような光景に、カイネは奥歯を食いしばった。
(みんなの反応を見る限り、
「敵の正体がわかった。あれは……『歴代の九つの巨人』」
カイネの思考よりも先に、巨人化したピークがしゃがれた声で見解を述べた。
巨人は個体によって言葉を話すことができるが、どうやらピークの車力の巨人はその一種らしい。
始祖ユミルは九つの巨人を産み出した原点__であれば、歴代の巨人たちを無尽蔵に造り出せるというのも頷ける。
しかし、それが判明したところで、もはや悠長なことは言ってられないという現実を突きつけらるばかりで状況は何も変わらない。
ダッ…
飛行艇に括り付けられていた爆薬を口に咥えていたピークは、四足歩行の脚力でその場から勢いよく駆け出した。
ピークもとい車力の巨人はさすがの機動力で、行く手を阻む巨人の合間を糸を縫うようにすり抜けて行く。
そうして辿り着いたのは始祖の巨人の頭部に繋がるうなじの骨__そう、ピークの狙いは『
「消え失せろ!悪夢!!」
そう叫びながら、起爆装置に手を掛けた次の瞬間__
ザクッ!!
空を切り裂くような勢いで突き上げられた戦鎚の巨人の
「ピーク!!」
名前を叫びながら飛び出す
しかし、助けに行こうにも九つの巨人たちの阻害はめまぐるしく、己の身一つを守るので手一杯な状況だ。
更には見知った巨人まで出現し始めた。
104期の中にいたユミルの巨人やファルコが取り込んだポルコの巨人、先ほどピークを襲った戦鎚の巨人はレベリオでエレンと対峙したタイバー家の継承者だった。
そして、__
ゴゴゴゴゴゴ…
「!?……
パラディ島を恐怖のどん底に貶めた悪魔__多くの民から忌み嫌われた懐かしさすら感じるその顔が、ズズズと唸りながら頭上に現れる。
かつての戦友との邂逅を果たすも、感傷に浸る暇はなかった。
呆気に取られていた鎧の巨人の身体が、いつの間にか超大型の手中に収まっていたのだ。
「ライn…」
ガブ!!
ジャンがその名を呼び切るよりも先に、鎧の頭部は超大型の口に呑み込まれてしまった。
吹き出す血飛沫の切れ間から覗かれた巨大な双眸は、長く日の光を遮られた植物のようにしおれている。
その深淵で微かにうごめく“影”を捉えたのは、カイネの眼に宿る特殊な力の所以だろうか。
不思議と、
周囲の動きが遅くなる__
_ライナーを助けようと一歩前に踏み出すジャン。
_何か危険を察知したのか、回避の初動に入るミカサとリヴァイ。
_絶望的な状況に愕然と立ち尽くすコニー。
そうやって仲間たちに意識を向けながらも、カイネは胸の奥に引っかかっていた違和感に目を伏せる。
(エレンは『ただ進み続けるだけ』と言った。だから私たちがそれを止めるのも自由だ、と……だとすれば、
『始祖ユミル』__ほんの一瞬だけ、彼女の意識が視界に飛び込んできたような、そんな感覚だった。
そして、再び瞼を上げた時には、超大型巨人の腕は天高く振り上げられていた。
我に返ったカイネは近くに突っ立っていたコニーへ飛びかかる。
「コニー!避けて!!」
ッドォォォォオオン!!
………
…
**
超大型巨人のしなった腕から放たれた投撃の威力は、周囲にいた巨人までも薙ぎ払うほど凄まじいものだった。
吹き飛ばされたことで背骨の下側に追いやられた調査兵団は、全員が無事とは言い切れないものの、あの攻撃で死人が出なかったのは幸いと言えるだろう。
そんな彼らの足元では、地鳴らし巨人が土煙を巻き上げながら大行進を続けている。
「起きてコニー!…兵長!!」
ミカサの声に状況を把握しようと顔を上げたカイネは、視界が
途端、猛烈な痛みが右目を襲う。
「うっ…!」
反射的に掌で右目を覆うと、血がべっとりとまとわりついた。
4年前にも、超大型巨人の攻撃で右側の額を負傷している__その火傷の跡をさらに広げるほどの切り傷が、カイネの顔に刻まれていた。
吹き飛ばされる直前、コニーのアンカーを射出させるために飛びかかったことで受け身を取り損ね、骨の側面で顔面を強打していたのだ。
(しくじった……早く、立て直さないとっ…!)
カイネは右の瞼を引き裂かれた激痛に耐えつつ、左目を必死に動かす。
見渡すと、状況は芳しくないがとりあえずは全員が無事であることがわかった。
ライナーがかぶりつかれる直前に鎧の巨人のうなじから離脱したのは見えていたが、彼のことはジャンが受け止めたらしい。
しかし、束が壊れて引き上げられないのか、二人は宙にぶらさがったまま身動きが取れない様子だ。
その少し先で、気を失ったコニーが腰に繋がれたワイヤーにだらしなくぶら下がっている。
さらに、コニーの元へ群がってくる巨人を牽制するミカサの奥で、骨に寄りかかったリヴァイが吐血しているのが見えた。
「兵長…!」
しかし、リヴァイを心配している場合ではなかった__ライナーたちの元へ巨人が迫っていたのだ。
それに気づいたカイネは、足首にぐっと力を入れる。
ザシュッ!
「…ミカサ!?」
カイネのブレードが巨人のうなじへ届くより先に、ハヤブサの如く現れたミカサのブレードがその周囲の空気ごと掻っ攫って行った。
いつの間にこちらへ来ていたのか__今更驚くことでもないが、こんな状況でも変わらぬミカサの身体能力の高さには、安堵を覚える。
だから気づくのが遅れてしまった。
再び無防備になったコニーの背後に、
「あっ…!」
戦場では、ほんの一瞬でも察知が遅れれば命取り。
ミカサの瞬発力でも間に合わない__血の気が引いた、次の瞬間。
ザン!
まるで閃光のように瞬く斬撃が、巨人の目を豪快に切り裂いた。
姿を見るまでもなくわかる力強さと美しさを兼ね備えた剣技、これまで何度も目にしてきたリヴァイのそれだ。
彼の無事を知ると同時にカイネは悟った。
あの勢いでは回避の体勢に移れない、と__
ガキ!!
案の定、助けに入ったリヴァイの左足が巨人の口元に吸い込まれていく。
『助けに行かなければ』
振り回されるリヴァイの姿に狼狽しながらも、カイネはミカサに助けを乞う。
「ミカサ、お願い…!」
ヒュン!
ミカサの踏み込みは迅雷の軌跡を描き、返事の代わりにガスの噴出音だけが残った。
巨人をも圧倒する身の捌きと威力が織りなすその妙技。
眼で追えたとしても決して模倣は叶わないと思い知らされる流麗な剣劇は芸術そのものだ。
そうして、ミカサの助けによって巨人の口から解放されたリヴァイは、意識を取り戻したコニーが受け止めた。
カイネはジャンとライナーの周囲を警戒しつつ、この状況を打破するための糸口を探ろうとするも、次から次に湧いて出る巨人の数の猛威と右目を襲う痛みに耐えるのに必死で思考が散乱する。
もはや、これまでか__諦めかけたその時、カイネの脆弱な心に鞭を打つように、ミカサが全身全霊で威勢を張る。
「来い!私は強い!!」
その言葉が、気迫が、空想上の
一瞬、翼の生えた幻獣種とも見紛うほどに__
「捕まって!!」
バサッ…!
しかし、それは
***
ヒョオオオオオオオ…
窮地を脱した調査兵団は、文字通り空を飛んでいた。
「アニ!!」
彼らを率いてきたのは、戦線を離脱したはずのアニ。
『空を飛べる気がする』と言い出したファルコが、巨人化して本当に空を飛んで見せたために来るしかなかったのだという。
しかし、アズマビトの巡洋艦はファルコの巨人化に耐えられず沈没したそうだ。
そのリスクを承知の上でキヨミは承諾した__その覚悟に、アニも感化されたのだろう。
そして、その思いに応えたいからと、ついてきたのが“もう一人”__
「ライナーが私達を置き去りにしたからでしょ!
意気揚々とライナーに歯向かったのは、対巨人ライフルを脇に抱えたガビだった。
『自分たちも力になれる』と、そこにいるどの大人たちよりも頭の一つや二つ背丈の低い子どもがそう言い切ったのだ。
その健気な姿にカイネは心を打たれる。
(まさか、“往生際の悪さ”をこの子たちから教わるとは…)
『
カイネはその言葉を何度も反芻した。
どう足掻いたってその現状を今すぐ変えることはできない。
ならば諦めるのか?__その問いに、「YES」と答える者はここにはいないだろう。
内臓をズタズタにされようと、右目を失おうと、
その往生際の悪い精神こそが、調査兵団という泥臭い集団を支える背骨であり、矜持だ。
思惟に耽る中でそう結論付けたカイネは、きゅっと下唇を引き結ぶ。
その間、リヴァイたちは次の作戦を練っていた。
「二班に分かれて同時にやるぞ……もう、
一方でアルミンを救出し、そのもう一方でうなじを狙って攻撃する。
もはやエレンを倒す以外に選択肢はない__その二つの目的を同時に果たすというのが、満場一致の作戦だった。
ただ一人、ミカサを除いては__
『エレンを……殺そう』
ジャンに放たれたその言葉を、ミカサは何度反芻しても飲み込めないでいた。
「アルミンを救うことだけを考えな」と言ってアニに胸ぐらを掴まれるも、ミカサの瞳は漆黒の底に沈んだままだ。
先程までの逞しい威厳は損なわれ、情けなく丸まった背中は翼を捥がれ地に堕とされた鳥のようだ。
大切な人を失う辛さは痛いほどわかる__その痛みを少しでも緩和できたらと、カイネはミカサの肩に手を伸ばす。
しかし、リヴァイに肩を掴まれたことで、それは叶わなかった。
「カイネ、お前は俺とここに残れ」
「な、何故ですか!私はまだっ…」
「その眼じゃ足手纏いだ。
「!?」
カイネが返す言葉を見つけられずにいると、リヴァイは詳細に触れぬまま説明を続けた。
「俺たちは援護に回る。みっともねぇが……できることはある」
「…ガビの、ライフルですね」
「あぁ。俺たちはこのままファルコの背に残り、少し離れた位置からアルミンを捕らえている巨人を狙う。……足手纏いと言ったが、ここでは
そう悔しそうに話すリヴァイの左目に、カイネの揺れる瞳が映し出される。
―“『待て、カイル。君は戦闘には加わるな』”―
脳裏に浮かんだのは、兄エルヴィンと最後に交わした会話だった。*1
4年前、ウォール・マリア奪還作戦で展開された2つの戦局、その境界線である壁上に二人はいた。
そして、それが__“最後の命令”となった。
(いつだってそうだった。大事な時に限って、自分はそこにいない……どれほど情けないことかと、恨みさえした)
命に代えてでも、守りたいと思える存在がいる。
だが、その人物はいつも、自分より先に遠くへ行ってしまうのだ。
―“『だが、それでもだ……私が行く』”―
(違った。そうじゃない。私はずっと……
そう、これは単なる偶然ではない。
守るべき存在に守られていた__そのことにようやく気が付いたカイネは、スッと背筋を伸ばす。
それから救急用に忍ばせていた包帯を取り出すと、自身の顔にきゅっと巻き付けながら答えたのだった。
「アルミンは必ず救い出します。そして……今度こそ、終わりにしましょう…!」
………
…
**
それからすぐに。
新たにアニが加わった調査兵団一行は、再び始祖の巨人の背中へと戻って行った。
ジャンとライナーの二人が始祖の巨人の首に巻き付けられた爆薬の起爆に向かい、アニとミカサそれからコニーの三人がアルミンを捕らえた“オカピの巨人”を追う。
その巨人を
「しかし、ちょこまかとよく動くな。あの動物は、一体…」
「あれはオカピだよ!知らないの?」
身体を固定するためファルコの背に伏せた状態でライフルを構えていたガビが、カイネの独り言に水を差した。
初めて聞く名前に、カイネは再びポツリと小さく零す。
「オカピ……
「まぁね。私も図鑑でしか見たことないけど、あんなに機敏に動くなんて…」
「!…」
今のも聞こえていたのかと少し驚きつつも、オカピの巨人を注視し続けるカイネ__すると今度は、リヴァイが口を挟んだ。
「何にせよ、このままじゃ埒が明かん。アイツ、俺たちに気づいていやがるな……少し距離を取る!カイネ!!」
「はい!」
カイネは手綱を思い切り引き、進路を外向きに膨らませる。
対巨人ライフルの射程距離を保ちつつ気配を消す位置まで距離を取ると、オカピの巨人の動きに少しだけ変化が見られた。
あとはミカサたちが間合いを詰めるその時まで、身構えておくだけだ。
標的を逃さぬようこめかみにより一層力を入れたカイネは、今一度、ガビが持ち寄った情報について確認する。
「さっきガビが皆に話してた『光るムカデ』のことだけど、どれくらいの大きさだったか覚えてる?」
「えっと、エレンの首の太さと変わらなかったと思う。長さは……ごめんなさい、あまりよく覚えていないの」
「そっか、ありがとう。……となると、兵長。この骨のサイズから推察するに、そのムカデは…」
「クソほどデカいだろうな。だからこそ、アルミンの超大型の力がいる」
「そうですね」
「それから、問題はもう一つ…」
そう切り出したリヴァイだったが、その先の言葉を紡ぐことはなかった。
この時、彼が何を考えていたのか__表情を見ずとも、声色から想像がつく。
『ジークの居場所』
リヴァイの頭には常にそれがあった。
そして、カイネと同様に彼もまた、“最後の命令”に心を引きずられていたのだ。
無事だった5本の指で握り直された束から伝わる些細な空気の揺れを、カイネは肌で感じ取った。
(兵長……わかっています。ジークは貴方の手で…)
因縁の宿敵__かつて、カイネにもそんな相手はいた。
「必ず自分が手を下す」と誓ったあの日の炎*2は、今でも鮮明に覚えている。
だからこそ、痛いほど気持ちが理解できるからこそ、カイネは前を見続けた。
しかし、状況は悪化する一方だ。
オカピを追っていたミカサたちは様々な巨人に行く手を阻まれ、巨人化したアニと連携を取るも苦戦を強いられている。
ジャンはいつの間にか車力の巨人から脱出していたピークと合流し、始祖の巨人のうなじへ向かうも、巨人の数が先ほどよりも増えているために足止めを喰らっていた。
一方で、巨人化したライナーは戦鎚の巨人の群を一手に行き受け、その攻撃が仲間に向けられないよう守備に身を投じている。
そして、苛烈を極めた交戦が続き、ついには__
「アニ!!」
「ピーク!!」
「ライナー!!」
両局面でほぼ同時に、巨人の力を有する戦士たちが深手を負ってしまったのだ。
「あ…!」
助けに向かおうにも、この距離では
“選べ”__得体の知れない何かにそう
(あぁ……また、仲間を失う…)
絶望的な状況から目を逸らしたくなったのか、左目が自ずと閉じる。
だが、その時…
ドオオォオォン!!
弾かれたような爆音に閉じかけていた目を見開くと、つい先ほどまで
何mもある巨体を羽虫でも払うようにいとも簡単に弾き飛ばしたのは、それらを包み込めるほど長く細くしなる腕。
もう一方では肉体の断裂音が数カ所で響き、他の巨人よりも小柄で顎の発達した巨人が3体、ジャンやライナーの周囲を食い荒らしていた。
何故かはわからないが、突如として
その正体はおそらく、“元同朋”たち__
「ガビ!構えて!!」
カイネのピリついた声音に、ガビも息を殺す。
照準を合わせ、引き金にかけた指に全神経を集中させる__そんなガビの体を衝撃から守るため、リヴァイが上から覆い被さった。
『この機を逃すわけにはいかない』
そんな決死の覚悟が、カイネの声に宿る。
「…
ドン!!
見事に命中。
右目を撃たれたオカピの巨人は足を踏み外し、その場から落下し始める。
そこへすかさずミカサの刃が振りかざされ、オカピの巨人の頬を断ち切ると、中から全身ヨダレ塗れのアルミンが飛び出してきた。
さらに、飛び出してきたのは
「オーイ!ここだー!!」
聞き馴染みのある声に、カイネは体を強張らせる。
何度憎悪を向けたかわからない“兄の仇”が、骨の先端から身を乗り出して此方へ手を振っているのだ。
どういう風の吹き回しかと考えかけるも、そんなことはどうだってよかった。
特に、
「カイネ!!」
「はい!」
カイネは返事と同時に手綱を引き、進行方向を切り替える。
目標はジーク・イェーガーただ一人__彼に向かって一直線に突き進んだ。
そこへ到達するには数秒の時間を要したが、ほんの一瞬のようにも、長い夢を見ているようにも思えた。
これまで抱いてきた様々な感情が頭を駆け巡り、全身を流れる血液が熱を帯びる。
次第に肩の力が抜け、がんじがらめだった憎しみの枷が解けていくような感覚を覚えた。
今こそ“雪辱”を果たす時__一人飛び出したリヴァイの背に、カイネはその無念を託す。
ザン!!
………
…
ファルコを先回りさせ、ジークを討ったリヴァイを受け止めたカイネは、再び進路を変え仲間の元へと飛んで行く。
その頬にはやはり、涙の跡は見られなかった。
代わりにぎゅっと固く握りしめられた手綱から漏れ出る軋音が、空虚に風を切る。
その微かな音でさえ拾えてしまうほどに、辺りは
空気が澄み、心が上を向く。
こうして、地鳴らしは止まった。
***
___その後。
「さよなら。エレン」
ピカッ……ドゴォオオォォオォオォン!!
閃光のすぐ後に、雷鳴のような爆発音が轟いた。
その光景をファルコの巨人の上で眺めていた調査兵団一同は、
そこにライナーの姿はない__ガビの予想通り、ジャンが爆薬を起爆させたことでへし折られたうなじから飛び出て来た『光るムカデ』を食い止めるべく、盾となりその場に残ったのだ。
あわよくばその光るムカデもアルミンが放つ超大型の爆発で消し飛んでくれたらと願いながら、皆を乗せたファルコは爆風を掻い潜り、スラトア要塞の崖上に降り立った。
「エレンは……死んだのか…?」
大きく陥没した地面の周辺に散らばっている砕けた骨の残骸に一つ一つ目を向けながら、その生死を確認する面々。
そんな彼らの背後に、
気配に気づいて振り返ったガビは、目に涙を浮かべ、がむしゃらに走り出した。
影の正体はレベリオ収容区のエルディア人__マーレの戦士たちの“故郷”の人々だった。
地鳴らしの進路を考えると、レベリオ収容区はとっく踏み潰されているだろう。
もう二度と会う筈のなかった家族との再会に、ガビに続き、ファルコやピーク、アニまでもが浮足立つ。
しかし、彼らの戦いはまだ、終わってはいなかった。
アニが父の元へ駆け出す頃、陥没した地面からアルミンの超大型巨人が顔を出し、砂に埋もれていた鎧の巨人が体を起こした。
二人の生存に安堵するのも束の間、風に流された土埃が隠していたのはそれだけではなかった。
「オイ…見ろ!あそこだ!!」
コニーの緊迫した声に一同は目線を下げる。
彼らのいる崖の根元でうねうねと
先程より動きが鈍く見えるものの、傷一つついていないその奇妙な身体は言うに及ばず薄気味悪い。
襲い掛かるのが目的ではないのか、崖を登ってくることはないものの、生かしておけないことは確かだ。
そして、さらに
カッ…
落雷と共に姿を現したのは、異様なほどに髪の長いエレンの巨人だった。
その体高はこれまでの『進撃の巨人』を遥かに超え、アルミンの超大型巨人にも及ぶ。
ゆっくりと此方へ歩を進めるその出で立ちは、“悪魔”そのものだ。
その威迫にきゅっと喉を鳴らすカイネの隣で、固く結ばれていたミカサの口角が緩む。
そこから漏れ出た切なる吐息に、少しばかり情が移らずにはいられなかった。
だから、すぐに気づくことができなかったのだろう。
シュウゥゥゥゥゥゥゥ…
悪夢のような“災厄”が、
―【 続く 】―
〜後書き〜
『オカピを知らないなんて、ミカサあんたオカピい(おかしい)んじゃない?__byアニ』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
アニちゃんが寒い親父ギャグを連発するifとかないですかね……ないか。
冗談はさておき。
今回はここ最近の中でも特に四苦八苦しながら執筆しました。
【天と地の戦い】を文字で表現するのがこんなにも難しいとは…
それにしても、こんな絶望的な戦いを創造した諌山先生の発想力には頭が上がりませんね。
◼︎次回予告:『#53 もう一人の選択』 (完結まで、残り3話!)
※次回は本作のタイトルを回収しますが、最終回ではありません。残り3話よろしくお願いいたします!
■おまけ
◎ガビは耳が良い…?
カイネのか細い声をガビを拾うという、耳の良さに触れるシーンがありますが、これはオリジナル設定です。
原作では特に耳が良いなんて描写はありませんが、ガビはよくサシャと影を重ねられていました。
その二人の共通点として鋭い聴覚を設けてみるという、ほんの遊び心です。