進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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~前書き~


今回はかなり多くのキャラクターが、同時に登場します。

一場面で複数人の台詞が入るため、なるべく誰が喋っているかわかるような文章構成を心がけていますが…

多少は文脈から読み取っていただく部分もあるかもしれません。

読み取りづらい箇所などあれば、遠慮なくコメント下さりますと幸いです(´-ω-`)


↓それでは、本編へどうぞ↓




#07 中間発表

 

 

___訓練成績中間発表日の夜。

 

 

晩飯時、食堂では昼間に発表された中間成績の話題で持ち切りだった。

 

首席はアデル、5位にカイル、と好調な滑り出しだ。

 

アデルはこの1年でさらに身長が伸び、体格や顔つきなどの風貌も勇ましく成長していた。

 

その一方で、カイルは身長が少しだけ伸びるも、相変わらず華奢な体つきをしている。

 

しかしこの頃には、体格差が著しいアデルを軽く宙に投げ飛ばしてしまうほどの“体術”を身につけていた。

 

そのため、『対人格闘』の成績だけで見ると、首席のアデルを差し置いてカイルがトップなのだ。

 

 

 

そんなカイルは現在、食堂の中央で一人黙々と食事を摂っている。

 

まるで中間発表の成績など、()()()()()様子で__

 

 

「なぁー、カイル。あいつは昔からあんなにデキる奴だったのか? 確か、お前ら同郷だったろ?」

 

 

そう言ってずけずけと私的領域に足を踏み入れてきたのは、少し不機嫌そうなマチルダだ。

 

ガサツにお盆を置く彼女の横で、相方のリリーは静かにお盆を置いた。

 

カイルはスープ皿に視線を落としたまま、落ち着いた声色で答える。

 

 

「アデルのこと? さぁ…よく知らないけど、学校の成績はいつも一番だったみたいだよ」

 

「おいおい、マジな優等生かよ!?」

 

 

マチルダは事前に口裏を合わせたかのようにわざとらしく体を仰け反らすと、勢いよく引きちぎったパンをスープにどっぷりと浸し、豪快に口の中へと放り込んだ。

 

 

「座学はともかく、立体機動の成績でもあいつに引けを取るとはな……私も落ちぶれたもんだ」

 

「…聞こえてるぞ、マチルダ」

 

 

そこへ、お盆を持ったアデルが少し遅れてやってくる。

 

 

「おっと、いたのか!こりゃ失敬…」

 

 

目の前で掌を合わせ、平謝りするマチルダ__だが、アデルはこの程度の挑発に乗る男ではない。

 

 

「食事中はもう少し静かにしたらどうだ」

 

「それで、()()()()()!一体、どんな英才教育を受けてこられたんで!?」

 

 

アデルの注意に貸す耳を持たないマチルダは、さらにおどけてみせた。

 

しかし、それでもアデルは至って冷静だった。

 

 

「別に俺は坊っちゃんでも何でもない。ただ普通に努力してるだけだ」

 

「“努力”、ねぇ〜…」

 

 

マチルダがいけ好かない反応を見せていると、横に座っていたリリーが掌を返す。

 

 

「私もアデルは努力家だと思うよ。マチルダが()()()()()なだけで」

 

「なっ!? そういうお前はもっとがっついていかねぇと!本当は私より実力がある癖に、控えめすぎんだよ!ったく…」

 

 

すると今度は、隣の席に座っていた別の者が異議を唱える。

 

 

「リリーは冷静なだけよ、よく状況を見てるわ。それに比べてマチルダはとにかく勢い任せって感じね。いっつもカイルに投げられてるじゃない」

 

「何だと? もういっぺん…」

 

「ねぇ、カイル!あれってどうやるの?」

 

 

マチルダをそっちのけでカイルへ関心の目を向けたのは、顔立ちがスッと整ったアンカだ。

 

話を遮られた上に無視されたことで、マチルダの煽りに火が付いた。

 

 

「教えてやれー、カイル。『9()()()()にはできねぇよ』ってな…」

 

 

しかし、アンカも負けじと反論する。

 

 

「あら、私は順位なんかにこだわってないわ。それに、憲兵団に入って華やかな栄光を得るには、私やカイルのように外見も身のこなしも知的(スマート)でないと」

 

「ハッ…お前こそ、見た目なんかにこだわってんのか? めでたい奴だ。みんな優しいから言わねぇだけで、ほんとは気づいてんだよ……お前から()()()()がすることに

 

「へぇ~、そう? でも……()()()()よりはマシだと思うけど? メスゴリラさん

 

「なんだとぉ!!」

 

「なによっ!!」

 

ガタッガタガタンッ…

 

 

勢いよく立ち上がるマチルダとアンカ__白熱した議論を体現するように、二人が座っていた椅子が大袈裟に転がった。

 

その音を聞きつけてか、偶然食堂の側を通りかかっていたサトリッジが扉からひょっこりと顔を出す。

 

 

「今しがた、大きな音が聞こえたが……説明できる者はいるか?」

 

 

ゆっくり発せられたその言葉には、随所に怒りの感情が見え隠れしていた。

 

逃げ道を塞ぐような冷徹な声に、訓練兵たちの背筋が凍る。

 

立ち上がっていた二人が、弁解の余地を探っていると__

 

 

「……ヴィドが()()()した音です」

 

 

アデルが静かに手を挙げた。

 

それを受け、サトリッジがヴィドをジロりと睨みつける。

 

 

「フンッ…貴様の食い意地は底なしか? 少しは慎め」

 

バタンッ!

 

 

こうして、平穏な食事のひと時を脅かした災いは、嵐のように過ぎ去っていくのだった。

 

 

 

**

 

 

 

しばらくして、また楽しく食事を再開する訓練兵たち。

 

そんな中、謂れのない罪を被せられたヴィドは、アンカの隣で口をあんぐりと開けて放心していた。

 

 

「ちょっと、アデル!ヴィドが可哀想じゃないの……でも、そんな意地悪なところもまた素敵」

 

 

そう首を突っ込んできたのは、いつの間にかアデルの隣に座っていたワンダだ。

 

しかし、アデルは擦り寄ってくるワンダを物ともせず、()()の顔を手で押し退けながらマチルダとアンカをなだめた。

 

 

「二人とも落ち着け、成績に響くぞ。憲兵団への切符を白紙にするつもりか?」

 

「チッ…わーったよ。……おい、リリー。痛ぇからそろそろ手ぇ離せ」

 

「あ、ごめん」

 

 

リリーが謝りながらマチルダの腕を離すと、それを見ていたアンカもヴィドに裾から手を離すよう促した。

 

 

「ヴィドったらどこを引っ張ってるのよ。ごめんけど、もう大丈夫だから…」

 

「あぁ、すみません!()()()()()()()()()()()()と思ったら、()()()()()()()!!…と掴んでました」

 

「…あなた、たまに標準語じゃなくなるのは何なの?」

 

「!…す、すみません。その……動揺して…」

 

 

そう言って手をもじもじと揉み合わせるヴィドの姿に、アンカもふぅと緊張を解く。

 

 

「でも、すごいわよね。ヴィドは7位だもの!まさか、入団式で()()()()()()()()()あなたが10位以内だなんて……また恨みを買いそうね」

 

「え!僕、恨まれてます!?」

 

「…冗談よ。やっぱり、ヴィドも憲兵団に入るの?」

 

「そうですねぇ、憲兵になれば美味しいものたくさん食べられると聞いたので……はい、そうします!」

 

「あはは、ヴィドらしいわね…」

 

 

的外れな答えに苦笑いするアンカ__すると、隣にいたニコがパンを咥えたまま野次を飛ばす。

 

 

「馬っ鹿だなぁ~、ヴィドは!あんたがここに来た理由を忘れたの?」

 

「いや、覚えてますけど……って、え!? 今、()()()言ったんですか? 僕に、『馬鹿』って…」

 

「言ったよ? だって、ヴィドは馬鹿じゃん。馬鹿に『馬鹿』って言ったらおかしい?」

 

「いや、だって……馬鹿が馬鹿に『馬鹿』って言ったら、それはあの、あれです……馬鹿ですよ!?」

 

「え? いやいやいや……え?

 

「いやぁ~あっはっは……え?

 

 

二人は顔を引きつらせながら、互いの顔を凝視していた。

 

気まずい空気が流れ始め、一つ後ろのテーブルに座っていたガールが放った静かな怒りがそれをさらに助長させた。

 

 

「おい、()鹿()()()。どっちだっていいから少し静かにしてくれないか? お前らの声は癇に障る……それから聞かれる前に言っておくが、俺はもちろん憲兵だ。権力にしか興味ねぇ。以上だ」

 

「ご、ごめんね!ガール!」

 

 

ガールに注意を受け反射的に謝ったニコは、ヴィドに向き直って口をすぼめる。

 

 

「…ちょっと!ヴィドのせいでガールに怒られちゃったじゃんか!」

 

 

すると、ヴィドも小声で反論した。

 

 

「で、でも!僕も一緒に怒られたんだからいいじゃないですか!」

 

「あ、そっか。ならいっか」

 

 

納得し、ケロッと表情を戻すニコ__そして、この二人の会話を聞いていた食堂の訓練兵たちは皆、同じことを思ったのだった。

 

 

((馬鹿だ……()()()()))

 

 

 

**

 

 

 

気を取り直し、アンカは希望兵団の聞き取りを続ける。

 

 

「…ちなみにさ。そういうニコは憲兵志望なの?」

 

「もちろん!立派な憲兵になって、私のことを馬鹿にした村の愚民どもを見返してやるんだ!」

 

「ふふ、それはいいわね!」

 

 

ニコの回答に満足したのか、自然な笑顔を見せたアンカは突然ターゲットを切り替えた。

 

 

「ねぇ、カイルは? あなたも憲兵?」

 

ピタ…

 

 

ほんの数秒だけ食事の手を止めるカイル__しかし、すぐにまたスープを飲み始めると、よそよそしい表情で質問に答えた。

 

 

「うん、そのつもりだ」

 

「そっか、あなたも一緒なのは嬉しいわ!何か目的が?」

 

「あぁ、それは…」

 

 

今度こそ食事の手を完全に止めたカイルは、物々しい表情で視線を上げる。

 

 

「復讐したい相手がいる。俺はそいつに()()()()()()()に、憲兵を目指してるんだ」

 

「……」

 

 

淡々と発せられた物騒な言葉に、食堂の空気が一瞬にして凍りついた。

 

しかし、それはすぐに打ち破られる__マチルダが大きく手を叩きながらカイルを賞賛したのだ。

 

 

「そりゃいいな!大した野望だ!!お前はいつも澄ました顔してやがるから、何考えてんのかわかんねぇ気味の悪い奴だと思っていたが、見直した!応援するぜぇ~カイル。残すは……首席の坊ちゃんだな。アデルも憲兵なんだろ?」

 

「ちょっと!聞いたのは私よ? 人の話を取るなんて無礼じゃない、マチルダ」

 

「別に誰が聞いたって同じだろ? そうカッカすんな。また()()()()()()が来ちまうだろーが……んで、どうなんだ~? アデル坊っちゃん」

 

 

マチルダに急かされたアデルは、カイルの顔をチラッと伺いながら答える。

 

 

「俺はこいつの保護者みたいなもんだ……カイルが憲兵を選ぶなら、俺もそうしよう」

 

「ハッ…お前の理由はくだらねぇな」

 

「でも、上位は()()()()()()憲兵ってことね!10位のドーラもずっと憲兵一択だって言ってるもの」

 

 

そう言って嬉しそうに顔の前で手を合わせるアンカを、珍しく真剣な顔をしたマチルダが(たしな)めた。

 

 

「なに呑気なこと言ってやがる……『みんな仲良く』なんてバカバカしい!2年後の最終成績で、また同じ面子(メンツ)が選ばれるとは限らねぇだろ? 特に10位圏内ギリギリの奴らは頑張らねぇとな。下位の奴らがお前らを引きずり下ろそうと狙ってやがる……いいか? ここにいるのは全員、“ライバル”だ

 

「そう…よね…」

 

 

正論を突きつけられ一度は言葉を詰まらせるも、アンカは再び主張する。

 

まるで、自分自身に言い聞かせるように__

 

 

「確かにライバルという表現は正しい。悔しいけど、浮かれてはいられないわ。気を引き締めて行かないと……私は()()()憲兵団に入る。そのためにここに来たんだから!」

 

 

力強く言い放ち、手に持っていたパンを勢いよくほおばる。

 

そんなアンカの姿に幼少期の自分を重ねたカイルは、その動機を尋ねた。

 

 

「アンカはどうしてそこまで憲兵になりたいんだ?」

 

「わ、私!?……ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

不意打ちだったのか、アンカはパンを喉に詰まらせてしまう。

 

そして、カイルから受け取った水を喉に流し込んだのち、顔を俯かせながら憲兵を目指す理由をゆっくりと語り始めたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

アンカの家はシガンシナ区の中でも、最南端に位置した。

 

つまるところ、彼女の生家はこの壁の世界で()()()()()()()()()()に存在するのだ。

 

何mも厚みがあるはずの壁から時折聞こえてくる物音は、その向こう側でうごめく得体の知れない“何か”を想像させた。

 

その存在を常に感じ取りながら過ごす日々は、生きた心地がしなかったという。

 

また、幼少期のアンカにとっては、家の前に聳え立つ巨大な壁も、雄叫びを上げながら壁を潜っていく兵士たちを見送るのもウンザリだった。

 

そして、しまいには__息の詰まるような環境に長年あてられたせいか、母親が精神を患ってしまったのだという。

 

 

「だから、いつか家族を連れて中央に行く。巨人の存在を感じることのない安全な土地で、家族と共に静かに暮らしたい……これが、私が憲兵を目指す理由よ」

 

「なるほど、至極真っ当な理由だ。アンカはすごく優しいんだね。ご家族もきっと君を誇りに思っているよ。()()()…」

 

 

カイルはアンカの考えを立派だと称賛するも、少し腑に落ちない顔をしていた。

 

 

「兵士という手段は少し“賭け”じゃないか?」

 

「…わかってる。けど、他に思いつかなかったの。昔から体を動かすことだけは得意で、それ以外は特に取り柄もなければ見た目もパッとしないというか……わ、私ってやっぱり芋っぽいのかな?」

 

「芋とかはよくわからないけど……アンカは綺麗だ」

 

「!?……え…」

 

 

真っ直ぐな誉め言葉に動揺を隠せないアンカ__だが、カイルは構わず淡々と続ける。

 

 

「それに頭も良く回る。聡明で果敢な君なら、兵士じゃなくても他に上を目指せる道はあると思う。諦めずに探せば、きっと見つかるから気負う必要はないよ」

 

「…あ、ありがとう。そう…するわ」

 

 

ふいっと目を逸らしながらお礼を言ったアンカは、赤く火照った頬を隠すように勢いよくパンをほおばり始めた。

 

そんな二人のやりとりに聞き耳を立てていたマチルダは、周りに話し声が聞こえないよう口元を手で覆いながらリリーに耳打ちする。

 

 

「おいっ、リリー!……今ので『アンカが()()()()()()()』ってのに賭けるぞ!晩飯一週間分賭けたっていい!」

 

「そんなの誰が見たってわかるよ。ほら、アンカったら耳まで真っ赤だ……私は『鈍感なカイルが()()()()()()()()()()』ってところまで賭ける!」

 

「なっ…無自覚であんなキザなセリフが言えるかよ!? 罪な奴め…」

 

 

そう言いながらまたチラッと視線を向けると、カイルと目が合ってしまう。

 

二人は少し身構えるも、カイルの視線はそのままアデルへと向いて行った。

 

 

「アデル、話があるんだ。後で部屋に来てくれないか?」

 

「えっ……あ、あぁ。わかった」

 

 

カイルはアデルの返事を聞くと、食べ終わったお盆を片付けてそそくさと食堂を後にした。

 

その場に残ったアデルは何故か少し頬を赤らめている。

 

それに気づいたマチルダとリリーは、二人して再び顔を見合わせた。

 

 

「え、もしかして……()()()()

 

「こりゃ面白くなってきたぞ!」

 

 

………

 

 

 

そんな成績上位者たちのやりとりは、食堂の真ん中辺りで繰り広げられた。

 

しかし、成績上位者の中でただ一人__その輪の中に入らず、食堂の隅から眺める者がいた。

 

 

「私だけ兵団の希望聞かれてない…」

 

 

ぼそっと呟かれたその言葉は誰に反応されるでもなく、ただ食堂の中を浮遊する。

 

 

「…ま、いっか。お手洗い行こ」

 

 

こうして、その訓練兵もまた静かに立ち上がると、食堂を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

残りのおかずを早々に平らげたアデルは、小走りでカイルの部屋へと向かった。

 

扉の前で一呼吸置いたのち、そっと拳を当てる__

 

 

コンコンコン

 

「…入って」

 

 

中に入ると、椅子に座って窓の外を眺めていたカイルが振り返った。

 

さらりと揺れる前髪に気を取られていたアデルは、理性を取り戻すように首を振る。

 

 

「お前の部屋は、その……やけに狭いな」

 

「うん。でも、この方が落ち着く」

 

「そうか。なら…いい」

 

 

何となく目のやり場に困ったアデルが少し顔を反らすと、カイルは間髪入れずに質問を投げた。

 

 

「それで、君はいつから俺の『保護者』なんだ?」

 

「あ、あれは、出まかせというか……お前だって復讐がどうのって、全員引いてたぞ」

 

「あれは、その場の流れ(ノリ)に合わせただけだ。ハンジさんが同期とは仲良くしといた方が得だって言うから…」

 

「それで『復讐』ってどんなノリだよ。しかし、あの人の言うことは素直に聞くんだな」

 

「うん。ハンジさんは()()()()良い人だ」

 

「まぁ、そうかもな……って、そんな話をするために呼んだのか?」

 

「いや、本題は…」

 

 

そこで言葉を区切ったカイルは、徐に机の引き出しから何かを取り出した。

 

 

「君に“これ”を預かってもらおうと思って」

 

 

そう言って広げられた手には、昔アデルがカイルへ贈ったブレスレット*1が乗せられていた。

 

 

「!?……それ、まだ持っていてくれたんだな」

 

「うん……でも、ごめん。()()()()の時に切れてしまって…」

 

「そうだったのか。そんなもの、捨てたってよかったのに…」

 

 

悪しき思い出に眉を顰めるアデル__カイルもまた、悲哀を瞳に浮かべる。

 

 

「確かにこれはあの事件の“元凶”とも言える。目に入る度、身が引き裂かれるような怒りが湧いてくるんだ……なのに、今の今まで捨てられずにいる。捨ててしまったら何だか負ける気がして……でも、自分で持ち続けるのが辛い。だから君に預かっていて欲しいんだ」

 

「わかった、お前がそう言うなら預かろう。それのせいでお前を苦しめてしまって、すまなかった…」

 

「いや、このブレスレットが悪いわけではないんだ。ただ、俺の心が弱いだけ……ふとした拍子にあの時の光景が脳裏によぎる。()()()()()()…」

 

「さっき? 食堂でのことか?」

 

「あぁ。あまり意識はしたくなかったんだけど、アンカって“あいつ”に少し似ているんだ。顔立ちや気の強いところ。それから、名前まで…」

 

「確かに、そう…かもな」

 

「アンカの気の強さは正義感からだ。あいつとは全く違う……それはわかってる。心の優しいアンカをあいつなんかと比べることさえ失礼だ……それもわかってる。だけど、どうしても姿が重なってしまうんだ。目の前が暗くなって、心の奥でふつふつと音がする……訓練所(ここ)に来た人は皆それぞれ目標があって、一年間必死に成長してきた。それなのに、俺はっ…」

 

 

ブレスレットを握る手に力を入れ感情を抑え込むカイル__そして、力の抜けた声で次のように告げる。

 

 

「まだ()()()()()()だ……弱い、ままなんだ」

 

 

それを聞いたアデルは、黙って手を差し出した。

 

カイルが抱えてきた悲しみごと、受け止めるように__

 

ブレスレットを手放したカイルは、吹っ切れたように顔の強張りを解く。

 

 

「受け取ってくれてありがとう。君には本当に助けられてるよ……人間とは不思議な生き物だ。自分を理解してくれている人が傍にいるだけで気が楽になる。だから、これからも……俺の『保護者』でいてくれないか?」

 

「もちろんだ。俺はお前の()()()()()なってやる!……だから、いつでも頼ってくれ」

 

「ははっ、何にでもなるって……君はすごいや。うん、頼りにしてる」

 

「あぁ」

 

 

そうして、アデルは心の重石(ブレスレット)を手に、カイルの部屋を後にしたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

再び部屋に一人きりになったカイルは、窓のへりに頬杖をついた。

 

星空をぼんやりと眺めるその表情は、さっきまでとはまるで別人のように穏やかだ。

 

 

()()()()()()、か…」

 

 

ため息交じりにつぶやかれたその言葉は、冷たい夜風に連れ去られていった。

 

この時、カイルはエルヴィンの顔を思い浮かべた。

 

入団して間もない頃にハンジを紹介されてからというもの、エルヴィンがぱたりと顔を出さなくなったことに寂しさを感じていたのだ。

 

 

(エルヴィンさん、また会えないかな…?)

 

 

そんなことを考えた瞬間、遠くの空に浮かぶ小さな星が大きく弧を描きながら流れ落ちた。

 

 

 

それから数日後。

 

カイルの切実な願いが空に届いたのか、

 

()()()()()()()が成就することとなる__

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
カイルの瞳の色(深緑)の“石”が埋め込まれたブレスレット。




〜後書き〜

『ヴィドの訛りやりすぎ問題』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


カイルを取り囲む95期生は、原作の104期生を性別転換してリンクさせてあります。

95期生の『誰』が104期生の『誰』なのか、予想しながら読んでみてください!

さて、次の話では、エルヴィンとカイルの関係性がまた一歩近づきます。

エルヴィンの顔つきの変化(リアクション)に注目!(´-ω-`)


■おまけ
◎95期生と104期生とのリンクについて
一つ答えを言うと、【マチルダ】=【ライナー】です。
…ゴリラなんで(笑)

ただ、マチルダの性格としては「ライナー×ジャン」といった感じですかね。
ちなみに、マチルダとアンカの二人は、訓練兵団卒業後の物語でも深く絡んできます。
マチルダはオリジナルキャラですが、アンカはお察しの通り、あのピクシス司令のお付きの兵士さんです。(独自設定でカイルの同期としています)

その他の同期たちも今後チラホラ顔を出したり、名前だけ出てきたりするかも…?

◎お手洗いに立った女性訓練兵について
このシーンは何かの伏線などではなく、あくまでそのキャラがどの104期とリンクさせているかのヒントとなります。
かなりマイナーなネタな上わかりにくいので、ヒントになっていないかも…(;'∀')
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