進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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#08 遠出

 

 

___ある日の昼下がり。

 

その日は調整日で訓練が休みだったため、各々自由に過ごしていた。

 

カイルがいつものように休息室の隅で本を読んでいると、そこへ来訪者が現れる。

 

 

コンコンコン

 

「…失礼する。カイル・シャルマンはいるか?」

 

「エルヴィンさん!? こっ……ここです!!」

 

 

突然名前を呼ばれ、声を裏返しながら勢いよく立ち上がるカイル__するとその拍子に、座っていた椅子が後ろへ吹っ飛び、椅子の角がカティのすねを直撃してしまう。

 

しかし、カイルは膝を抱えて悶絶するカティなどお構いなしに、エルヴィンに向かって敬礼し続けていた。

 

 

「君に用がある。来てくれ」

 

「は…はっ!」

 

 

そうして、カイルは戸惑いながらも駆け足でエルヴィンの元まで飛んで行くと、そのまま休憩室を後にしたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

その場に残された訓練兵たちは、普段は物静かなカイルが見違えるほど生き生きしていたことに動揺を隠せない様子でいる。

 

 

「お、おい。見たか? リリー……さっきの、本当に()()カイルかよ!? いつもあんなに静かで大人しいってのに……ガキみてぇに声張ってたぞ」

 

「うん。別人みたいだった……さっきの調査兵は、カイルの知り合いなのかな?」

 

「もしかして“兄弟”とか? なんか雰囲気似てたし!」

 

「いやいや、ニコ。それを言うなら“親子”って可能性もありますよ!」

 

「ヴィドの意見はいつもトンチンカンね。年齢的にそれはないわよ……それより、カティ大丈夫?」

 

 

そう言ってアンカが手を差し伸べると、カティは痛そうに脛を撫でながらその手を掴んだ。

 

 

「あ、ありがとう。アンカ……まるで、()()()()()()()()()()()かと思ったよ

 

「フフッ、カティの例えはいつも飛躍してるわね。……ところで、アデルは何か知ってるの? あの2人について」

 

「いや、何も……あの兵士には昔、少し世話になったくらいだ。だけど、あいつはかなり懐いてるらしい」

 

「へぇ、カイルも人に懐いたりするのね」

 

「カイルは僕たちの“女神”*1にも懐いてますが、それとはまたちょっと違う感じでしたね!」

 

「まぁ、なんにせよだ。あいつにも()()()()()らしい一面があるってことはわかったな」

 

 

そして、このマチルダの意見に全員が満場一致で頷いたところで、会話は別の話題に切り替わっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___一方で。

 

 

カイルはエルヴィンと共に男子寮へ向かっていた。

 

久しぶりの再会が相当嬉しいのか、カイルの頬はいつになく緩んでいる。

 

見上げる後頭部に浮足立っていると、そこへエルヴィンの柔らかい声が降り注ぐ。

 

 

「久しぶりだな、カイル」

 

「本当にお久しぶりですね!またお会いできて嬉しいです!」

 

「ふっ…元気そうで何よりだ」

 

「今日はどうしてこちらまで? 何か『用がある』とおっしゃっていましたね」

 

「あぁ、私が今日ここへ来たのは、君を“遠出”に誘うためだ。ずっと訓練所に引きこもっていては疲れも取れないだろう。気分転換に少し出かけるのはどうだ?」

 

 

カイルは思いもよらぬ誘いに声が出せなかった__代わりに、首を上下に振って答えて見せる。

 

そして、胸の高鳴りを落ち着かせようと唾を飲み込んだのち、期待の眼差しと共に目的地を尋ねた。

 

 

「と、遠出とは……どちらまで?」

 

「ウォール・マリアの壁までだ」

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

 

2人を乗せた馬車は、ウォール・マリアの城壁都市の1つである『シガンシナ区』へと向かっている。

 

その道中では、カイルがハンジの長話に参っていることやサトリッジが妙に機嫌を伺ってくることなど、訓練生活における出来事をエルヴィンに聞いてもらっていた。

 

しかし、ウォール・マリアの壁に近づいたろことで突然、エルヴィンが調査兵団の内情を語り出した。

 

その内容は、まだ訓練兵のカイルでさえ感じ取れるほどに()()()()()だった。

 

 

「…以上が調査兵団の現状だ。あれだけ人類の勝利のためにと多額の資金と人材を注ぎ込んでおいて、遠征で得た情報は人類の勝利への一歩にも満たない……悲惨なものだろ?」

 

「それは、そう…なのかもしれません」

 

 

少し反応に困り言葉を詰まらせたカイルは、さらにエルヴィンの思惑を察して顔を曇らせた。

 

 

(まるで()()()()調査兵団の株を下げているかのよう……エルヴィンさんがそんな話を俺にするのは、おそらく…)

 

 

困惑するカイル__その様子に、エルヴィンが申し訳なさそうな表情で詫びを入れる。

 

 

「…少し喋りすぎたようだ。すまない」

 

「い、いえ!そのっ……今の話を聞いて、兵団の“仕組み”について考えていたんです」

 

「仕組み?」

 

「はい。本来であれば、俺たち訓練兵は人類の繁栄を心から願い、巨人を倒す力を培うべく訓練に臨むはずです。それなのに、成績上位者の大半が内地へ引きこもる。巨人に打ち勝つための兵力が()()()()()()()()()安全な土地に集結するとは皮肉なものだと……『巨人討伐の訓練』とは、名ばかりのものです。本当は皆、ただ巨人から逃げたいだけ…

 

「そうだな。だが、その“皮肉”こそが兵団という組織を支えているのも事実……この壁の世界における兵団の実情とは、()()()()()()()人間の心理を利用してこそ成り立つ仕組みなのだ

 

「確かに……憲兵を目指している同期たちの中にも、権力に固執している者が多いようです」

 

「しかし、それは決して悪いことではない。むしろこの狭い壁の中で生き抜く術として、賢明とも言える。……ハンジから聞いたが、君も憲兵を志願していると同期に公言したそうだな」

 

「あっ……(は、ハンジさんめっ)……えぇ、確かに。()()()()()()そう答えました。貴方に兵団(ここ)へ導かれたときは憲兵を目指すつもりでいましたが……正直なところ、所属はまだ…」

 

「…そうか。時間はまだある。じっくり考えるといい」

 

「…はい」

 

 

沈黙が続く__そして、日がかなり落ちた頃、シガンシナ区へと到着したのだった。

 

 

 

**

 

 

 

馬車を降りると、辺りが暗くなり始めているのがわかった。

 

カイルは初めて目にするウォール・マリアの壁をまじまじと見上げる。

 

 

「これが、ウォール・マリア…」

 

「あぁ、ここが……巨人の巣窟との“境界線”だ

 

 

エルヴィンがカイルを引き連れて向かったのは、シガンシナ区へ抜ける通行門付近にある駐屯兵団の停留所だった。

 

そこには、1人の男が2人を待ち構えていた。

 

 

「お待ちしておりました。エルヴィンさん」

 

「いつもすまないな、サンハン」

 

「いえ、滅相もありません。エルヴィンさんの頼みならいつでも力を貸しますよ」

 

「あぁ、助かる。……カイル、挨拶を」

 

「は、はい!第95期訓練兵、カイル・シャルマンと申します!」

 

「シャルマン訓練兵。私はサンハン・グロスと申します。通行門(ここ)の管理をしている者です。エルヴィンさんには昔、お世話になりまして……っと、余談は置いておきましょう。では、お二人ともこちらへ」

 

 

2人が案内されたのは、荷物を吊り上げるための昇降機だった。

 

サンハンと呼ばれていた男がレバーを引くと、2人を乗せた昇降機がゆっくりと壁伝いに引き上げられていく。

 

その間に、エルヴィンはカイルへ注意を促す。

 

 

「今回の立ち入りは上に正式な申請を通しているわけではない。すまないが、これは内密に…」

 

「承知しました」

 

「それから辺りが少し暗くなってきているが、先ほどの理由で明かりがつけられない。そのため、足元には十分気を付けるように」

 

「はい、気を付けます!」

 

そうしていよいよ、2人は壁上に躍り出た。

 

 

 

**

 

 

 

そこは地上よりも風が強く吹いていて、見上げると空がいつもより近づいて見えた。

 

エルヴィンの後ろにぴたりとついて歩き、シガンシナ区の街を見下ろすカイル__その街並みは、トロスト区と大差はない。

 

しばらく進み突出した外壁の近くに差し掛かると、()()()()()()()()()()に広がる平地が目に入ってきた。

 

 

「これが、外の世界…」

 

「そうだ」

 

「すごく綺麗です……が、それと同時に悲しくもあります。壁のすぐ向こうには美しい景色が広がっているというのに、人類の大半がそれを目にすることなく生涯を終えるのですね」

 

カイルはそう言いながら、街中を歩く住民に目を向けた。

 

エルヴィンもその視線を追いながら答える。

 

 

「こうして俯瞰してみると、人類が()()()()()()()わかる。……カイル、こっちだ」

 

 

カイルは促されるがままに、シガンシナ区を囲う“外壁”へと足を踏み出した。

 

そして、またしばらく進んだところで、エルヴィンが立ち止まる。

 

 

「カイル、()()が見えるか?」

 

 

そう言って壁の下に目を向けていたエルヴィンにならって、カイルも顔を覗かせる。

 

するとそこには、一体の“巨人”がいたのだ。

 

巨人は両手を壁に当て、何やら弄っている。

 

 

「!?……あれが、巨人。想像よりも()()()()…」

 

 

カイルはその先の言葉を飲み込んだ。

 

『想像よりもよっぽど、()()()()()()()』__この時抱いた第一印象が、何故か口にしてはいけない発想である気がしたのだ。

 

エルヴィンは予想外にも冷静な反応を見せたカイルに感心しつつ、自分が初めて巨人を目にした瞬間を語る。

 

 

「私は初めて巨人を目にしたとき、この醜悪な姿に嫌悪感を抱いた。……それから“恐怖”も」

 

「確かに、あの巨人からは異様なまでの威圧を感じます。これが我々人類を捕食し、存続を脅かす“敵”……なんですね」

 

「そうだ。君たちが訓練で身に付けているのは、()()()()()()だ」

 

「……ゴクッ」

 

 

指先が震え、喉が締まる__カイルは緊張を抑え込むようにしゃがみ込むと、巨人をじっくりと観察し始めた。

 

 

「…あの巨人は、7m級ってところですかね」

 

「ほぅ、見る目があるな」

 

「いえ、()()()()ですが……あっ、壁を蹴る!

 

「何っ…」

 

 

次の瞬間。

 

巨人は右足を素早く後ろに引いたかと思うと…

 

 

ドンッ

 

 

カイルの言う通り、本当に壁を蹴ったのだ。

 

壁上にいた2人にもその音が小さく届くと、エルヴィンは目を見開いて驚愕した。

 

巨人が壁を叩いたり蹴ったりすることはよくある__壁の向こうにいる人間の存在を感じ取っているからだ。

 

しかし驚くべきは、カイルが巨人の行動に気づいたその“速さ”。

 

まるで、巨人の動きを()()()したかのような__

 

 

「カイル……君は今、まさか…」

 

 

名前を呼ばれ、顔を上げようとした時…

 

 

「あ!」

 

 

カイルは再び、遠くの方で動く“何か”に気を取られてしまう。

 

 

「エルヴィンさん!奥の森から新たに巨人が2体、こちらへ向かってきています!」

 

「!?」

 

 

エルヴィンはすぐさまカイルが指差す方角に目を凝らしてみたが、何も見えない。

 

カイルはさらに実況を続ける。

 

 

「あ、走り出しました!……(小声で)うわ、変な走り方…」

 

「君が言っているのは、あそこにある岩の奥の森か?」

 

「いえ、それより一つ先の針葉樹の森です。巨人たちは()()()()()()()()俺たちの気配を感じ取っているのでしょうか?」

 

 

何気なくカイルが問いかけるも、エルヴィンはそれに答えることなく必死に目を凝らし続けている。

 

そして、ようやく2体の巨人を目で捉えた途端__何故か顔を()()()()()()のだ。

 

その表情の変化に気づいたカイルが様子を伺う。

 

 

「エルヴィン…さん?」

 

「あぁ、何でもないさ……それより、カイル。私はあの巨人たちよりも、君が()()()()()()()()見通せたことに驚いている……君は視力が人並み外れているようだ。それは生まれつきか?

 

「はい。物心ついた頃にはこんな感じでした。この能力(ちから)のせいで、周りからは気味悪がられましたが…」

 

「…君に向けられていた“敵意”や“憎悪”は、特異的な能力を持つ者への『劣等感』によるものだったのか」

 

「そんなところです。あれ以来、この眼のことは人に話さないようにしていました。『秩序を乱す者は容赦なく排除される』……俺みたいな存在は、生まれてくることさえ許されないのでしょう」

 

 

そう言って苦笑いをして見せるカイルの表情には、哀愁が漂っていた。

 

エルヴィンはカイルの心情を察したのか、声色を低める。

 

 

「君はその者たちに許しを乞いたいか?」

 

「いえ。俺はただ……放っておいてほしいだけです」

 

「本来の自分を押し殺してまで、その者たちの都合の良いように生きるのか?」

 

「はい。そう教えられて育ったので……ですが……確かに、少し癪です」

 

「ならば、証明してみせろ」

 

「え…?」

 

 

突然の提案に、目を丸くするカイル__見ると、エルヴィンはいつになく真剣な眼差しを向けていた。

 

 

「自分が害を与える者ではないと、証明すれば良い」

 

「証明……ですか」

 

「あぁ。君の言う通り、人は安寧を求めるが故に変革を嫌う。理解できないものに直面した時、考えることを放棄するのだ。想像の範疇を超える代物には、人々が思う“普通”の物差しは通用しない。だから君のような存在を恐れる。自分たちにとって“脅威”と“平穏”、どちらをもたらす存在かわからないからだ。()()()()()()()()()()()……人間とはそういう生き物だ」

 

「…つまり、わからせるために存在意義を自ら示せと?」

 

「そうだ。これから君がすべきことはただ一つ……()()()姿()を包み隠さず、すべて解放することだ。そして、示せ。君が人類にもたらす付加価値を…

 

「俺の、付加価値……しかし、この世界はそれを受け入れるでしょうか?」

 

「いつか君は、『自分は存在してはいけなかった』と言っていたな……だが、それは違う。逆だ」

 

「…逆?」

 

「君という人間こそ存在すべきなのだ。普通の人間しか存在しない世界では、人類はこれほどまでに進化を体得しなかっただろう……世界が受け入れるかどうかは関係ない。()()()()()()()()()()のだ。君がこの世界に生まれたことを後悔しないために…」

 

 

確信の込められた物言いに、カイルは思わず息を呑む。

 

 

「…もし、わかってもらえなかった場合は?」

 

「わかってもらえるまで何度でも示せ。君にはそれほどの“価値”がある」

 

「し、しかし…」

 

「これは“命令”だと思ってもらっていい。だが、私は()()君の上官ではない。従うかどうかは君の判断に委ねる」

 

「……」

 

 

この時、カイルの頭の中には、()()()のトンビが旋回していた。

 

自分の能力を初めて人に打ち明けた時のことを思い出していたのだ。

 

 

(前にも一度、こうやって自分の能力(ちから)を証明してみせたことがある。そのせいで俺は蔑まれてきた。そのせいで()()()()()()()…)

 

 

ぐっと拳に力が入る__だが、カイルの心は澄み切っていた。

 

 

(だけど、きっとエルヴィンさんなら……あの時とは違う“結末”に導いてくれる。何故か、そんな気がするんだ…)

 

 

そんな根拠のない自信が全身を駆け巡った時…

 

 

ビシッ…

 

 

気が付くと、カイルは敬礼をしていた__その瞳には、固い決意が揺れ動いている。

 

 

「従います。悪魔と蔑まれたこの能力(ちから)を……人類を勝利へと導く“一矢”に、変えて見せます!

 

「…良い表情だ。敬礼とは相手に敬意を示すだけのものではない。相手に対して『危害を加える意思がない』ことも示している……これが()()()敬礼だ。覚えておくといい

 

「はい…!」

 

「少し冷えてきたな。そろそろ降りるとしよう」

 

 

……

 

 

 

 

そうして壁を降りた2人は、再び馬車に乗り込み、シガンシナ区を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___訓練所へと向かう道中。

 

 

「ところで。君の眼の能力について、具体的にどんなことができるのか詳しく聞かせてほしい」

 

 

眼の能力について問われたカイルは、一つ一つ丁寧に説明していった。

 

 

 

まず、眼の能力は大きく分けて“3つ”ある。

 

一つ目は、『見通す力』__距離にしておよそ2km弱という、脅威の視力を誇る。

 

二つ目は、『動きを読む力』__対象の筋肉の微細な弛緩を察知し、動きを予測することが可能だ。

 

これは至近距離であるほど精度が上がり、さらに極限の集中状態であれば、対象の動きが遅く感じることもあるという。

 

三つ目は、『一度眼で見た光景を脳内で再生する力』__眼を閉じ思い出したい光景を頭に浮かべると、それを視覚的に見返すことができるという奇妙な能力だ。

 

 

そして、カイルはそれを、“眼の記憶”と呼んでいるのだ。

 

 

カイルが一通り説明を終えると、エルヴィンは顎に手を添えた。

 

 

「…感心した。そこまで自己分析できていることも含めてだ」

 

「ありがとうございます」

 

「君の能力は特異体質といった類のものか、あるいは神秘的(スピリチュアル)な何かか……何にしろ、貴重だ。君は頭の回転が速く、飲み込みも早い。その才能は、君が兵士としての功績を積むための“武器”になるだろう……調()()()()()()()()、君のような兵士の入団は願ってもない話だ」

 

「!?……やはり気づいていましたか。俺が調査兵団を志していると」

 

「あぁ、律儀な君のことだ。おそらく私やハンジの後を追うだろう、と……しかし、私は君を危険な目に遭わせたくなかった。だからこうして君を連れ出し、調査兵団への興味を削ごうと策略したのだが……君の能力に魅せられ、考えが180度変わってしまった」

 

「ご、ご迷惑だったでしょうか…」

 

「いや、むしろ君を誇らしく思っている。実は、以前から君のように突出した才能を持つ者を探していたのだ」

 

「え…?」

 

「兵団内に限らず、才ある者は調査兵団へ勧誘する……そのことはずっと頭にあった。もっと視野を広げるべきだ。調査兵団は常に人手不足……今の我々に必要なのは“変革”だ。君の入団は、きっとその第一歩となるだろう

 

「…俺にそんな大役が務まるでしょうか?」

 

「もちろん、君にすべてを押し付けるつもりはない。変革とは組織が一団となって成せる業だ。だが、君の選択がもたらす影響は計り知れない……カイル、私たちと共に歩んでくれるか?」

 

「もちろんです。俺はこの先もずっと、エルヴィンさんについて行きます!」

 

「ふっ…頼もしいな。期待しているぞ、カイル」

 

「はい!」

 

 

その後、エルヴィンは調査兵団の存在意義や真髄、目指すべき未来の姿について力説した。

 

そして、カイルはただひたすらに、瞳を輝かせながら耳を傾けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数時間後。

 

 

訓練所に送り届けられたカイルは、エルヴィンとの別れを惜しみつつ、男子寮へと向かった。

 

消灯時間はとっくに過ぎている__忍び足でこっそりと移動するも、カイルの部屋の手前には人が待ち伏せていた。

 

よく見ると、それはアデルだった。

 

 

「どこに行ってたんだ? 昼に来てたの、エルヴィンさんだろ?」

 

「あぁ、ちょっと街まで……お茶を飲みながら話をしてたんだ」

 

()()()()()こんな時間まで…か?」

 

「…積もる話もある。それに、君には関係ない」

 

「いいや、関係ある。俺はお前の“保護者”だからな」

 

「確かにそうは言ったけど……こんな()()()()まで頼んだつもりはないよ」

 

 

少し冷たく突き放すカイル__だが、アデルも引き下がらない。

 

 

「これは俺の意志でやらせてもらってる。あの人は一体何者だ? 何故、そこまでお前を構う?」

 

「別に何者だっていいだろ?……エルヴィンさんは信頼できる。それは心で感じてるんだ

 

 

強く言い張るカイル__その瞳には、曇りが一つもない。

 

しかし、それでもアデルはしつこく食いついてくる。

 

 

「何の根拠もなく信頼できるだと?……あの人が一言でも、自分の素性について話してくれたか?」

 

「君だって、最初は素性を隠して俺と接していたじゃないか」

 

「俺たちの時とは状況が違う。あの人が素性を隠す理由はないはずだ」

 

「…そうかもしれないけど」

 

 

自信のない声を漏らすカイル__その隙につけ込み、アデルがさらに畳みかける。

 

 

「お前はあの人の何を知ってる? どこの生まれで、何が好きで、どんな理由で調査兵団を選んだか……その感じだと、何も知らないんだろ!?」

 

「それは…」

 

「今のお前は、ただ何かにすがりつきたい亡者にしか見えない!それともっ……何か()()()()()があるんじゃないか?

 

「そんなんじゃない。俺はただっ…」

 

「じゃあ、何なんだ!もう裏切られるのは懲り懲りだって言ってたじゃないか!だったら、相手の素性くらいちゃんと知っておくべきだ!エルヴィンさんが本当に信用できる人なのか、今一度確認してっ…」

 

「君こそ!俺のことを何も知らなかったくせに!!君が最初から俺のことを信用していたのも、ただの“まやかし”だったっていうのか!?……それこそ立派な()()()じゃないか!!

 

 

喉の奥がヒリっと痛む__カイルは息をゆっくり吸い込み呼吸を整えると、今度は静かに喋り出した。

 

 

「ごめん、急に怒鳴って……だけど、どうしたっていうんだ? 君らしくない。今の君はまるで……()()()()あいつみたいだ」

 

「!?……あ…ち、違うんだ……俺はただっ…」

 

「とにかく、今日はもう遅いから寝るよ。心配かけたのは悪かったと思ってる。次は一声かけるよう……それじゃあ、おやすみ」

 

 

そう言ってカイルはアデルと目を合わさぬまま、黙って自分の部屋へと入って行った。

 

それからベッドに寝転がると、塞ぎ込むように布団を頭まで覆う。

 

 

 

この日、初めてアデルと喧嘩をしたカイルは、なかなか眠りにつくことができなかったという__

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 

*1
ハンジのこと。





〜後書き〜

『“普通”を“普通”たらしめる根拠とは何か』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


この物語では『普通』という言葉がよく出てきます。

「普通はこうだろう」「普通の人なら〜しない」

日常生活で何気なく使う言葉ですが、その概念を考え出すとなかなか答えに辿り着けないものです。

原作【進撃の巨人】から学んだのは、『先入観による決めつけ』が人の精神を支配するということです。

パラディ島の人間たちは外の人間たちによる『先入観による決めつけ』=『普通』という概念によって迫害されていたのだと著者は感じました。

皆さんも今一度、考えてみてください。

__『普通』って何ですか?



さて!今回は『エルヴィンが“初めて"カイルに命令を下す』という、重要度の高いと話でした。

かなり先になりますが、この下りはいつか必ず拾います(´-ω-`)


次回!またまたハンジ登場(笑)

お楽しみに〜!
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