進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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#09 能ある鷹

 

___エルヴィンとの遠出から数日後。

 

 

その日は雲一つない爽やかな快晴で、少し湿ったそよ風が草木を揺らしていた。

 

そんな穏やかな空気が流れる平地を、汗だくになりながら馬で駆け抜ける者が__いつになく焦燥感を顔に浮かべたハンジだ。

 

数時間前、知らせを受け取ったハンジは、血相を変えて馬に跨った。

 

そして、迷うことなく、訓練所へ向かって走り始めたのだ。

 

 

 

**

 

 

 

訓練所に到着したハンジは、真っ先にカイルの部屋へと向かった。

 

 

「カイル!無事かい!?」

 

 

ハンジがものすごい形相で部屋に飛び込むと、そこにはベッドの上で体を起こし、窓の外を眺めるカイルの姿があった。

 

勢いよく開かれた扉の音に驚いたカイルは、まるでフクロウのように首だけをぐるんと扉の方へ向ける。

 

そして、カイルが口を開こうとしたとき、別の“何か”が声をあげたのだ。

 

 

「ピィーーーー!」

 

「ぎゃあああああ!どうしよう!? カイルが言葉も話せなくなっちゃった!!そ、そんなに悪いのかい?……ハッ!まさか、頭を打ったんじゃ……『ピィーー』って、それじゃまるで鳥みたいじゃないかぁぁ!確かにぃ? 時たま、君は翼でも生えたかのような軽やかさを披露するけども!? 本当に()()()になっちゃうとはぁぁ!……その喉、どうなってんの!? 人間の声帯から発せられる音じゃなかったよね!ねぇ!?…じ、実験していいかな……人間としてそれはダメかなぁぁ!?」

 

「落ち着いてください、ハンジさん。俺は()()()()()です」

 

「あ、あれ?……普通に喋った」

 

「当たり前です。さっき鳴いたのはその子です」

 

「…へ、どの子?」

 

 

ハンジはきょとんとしながらカイルが指差す机の上に目をやる。

 

するとそこには、布に包まれた状態の小さな雛鳥がいたのだ。

 

 

「おぉ!本当に鳥がいる!?……な、なんだ…私の思い込みか…」

 

 

そう言って胸を撫で下ろしたハンジは、机まで駆け寄ると、雛鳥をジロジロと観察し始めた。

 

そして、カイルから部屋に鳥がいる理由(わけ)を聞くと、納得したように腰掛けたのだ。

 

 

「…そうだったのか。君の怪我はこの子の巣を避けようとして負ったんだね」

 

「はい。まさか着地点の()()()鳥の巣があるとは…」

 

「それで立体機動訓練用の針葉樹林の中に放置したままでは危険だと思い、別の場所に移動させたはいいが、親鳥が姿を見せなかったと……動物の“本能”だね。一度人の手が触れたものには警戒して近づかないんだ」

 

「うかつでした……そのまま放置しておくわけにもいかず、ここに連れてきた次第です。拾った時にはまだ体に卵の殻がついていたので、孵化して間もないと思われます」

 

「生まれたてほやほやかぁ~……お~ぅ、よしよし!かわいいでちゅね~!」

 

 

ハンジはピーピーと元気よく鳴き続ける雛鳥に夢中になっている。

 

カイルはそんなハンジの姿にクスクスと笑いながら本題を話し始めた。

 

 

「今日ハンジさんをお呼び立てしたのは、他でもない……その子についてです。ここへ連れてきたのはいいですが、どうにも育て方がわからなくて……何か鳥について知見などあれば、ご教示いただければと」

 

「お任せあれっ!私自身、()()()()()なんだけど、知り合いに生き物に詳しい人がいるんだ。色々聞いておくよ」

 

「ありがとうございます!それから、もう一つ聞きたいことが……まだ、お時間はありますか?」

 

「君のことが心配だったから、今日は一日休みをもらってるよ」

 

「わざわざすみません……あ、ちょっと待ってて下さい。今お茶を…」

 

「あぁあぁ!君は動いちゃダメだよ!」

 

「大した怪我ではないので歩けますが…」

 

「いいからいいから!怪我人を動かせるわけにはいかないだろ?お茶なら私が淹れてくるよ」

 

「わかりました。では、お言葉に甘えて」

 

「おうとも!」

 

 

そう言ってハンジは得意げにポンっと胸を叩くと、鼻歌を歌いながら部屋を出て行ったのだった。

 

 

 

**

 

 

 

しばらくして、給湯室から戻ってきたハンジは、お茶の他にふやかしたパンくずのようなものを手に持っていた。

 

どうやら、ついでに食堂にも寄ったらしい。

 

ハンジがパンくずを少しずつ手に取って雛鳥の口元に運ぶと、雛鳥は嬉しそうにハンジの指をつついた。

 

すると、それを微笑ましそうに眺めていたカイルが“ある質問”を投げかける。

 

それを聞いたハンジは、顎に手を添えながら考え込んでしまったのだ。

 

 

「なるほど、エルヴィンさんの“素性”についてか……実を言うと、私もよく知らないんだ。てっきり、君たちの方が長い付き合いなのかと思っていたよ」

 

「いえ、俺がエルヴィンさんと出会ったのは、訓練兵団に入る3ヶ月ほど前です」

 

「え、そうなの!?……ってことは、ちょうど私がエルヴィンさんの分隊に配属された頃だ。君が訓練兵団に入った経緯について、ある程度は聞いてるけど……エルヴィンさんが君に入団を勧めた時、何か言っていたかい?」

 

「エルヴィンさんは『一兵士として当たり前のことをしてるだけ』だと……そうだとしても、ここまで色々と支援していただける動機が気になります。それに、エルヴィンさんとは昔どこかでお会いしたことがある気がするのですが……それを尋ねたときには、否定されてしまいました」

 

「うーーん……年齢はわかるよ?確か私の6つ上のはずだから、今年25歳だ。あとは北のオイータ地方出身ってことを又聞きしたくらいかな。町の名前までは知らないけど……ほら、あの人って自分のことはあまり話さないだろ?秘密主義なのかな…」

 

オイータ地方って、確か()()()()()()のある……『黑金竹』の自生地として知られていますよね」

 

「そうそう!工業が盛んなところだ!……って、鉱山の名前なんてよく知ってるね!?」

 

「昔読んでいた歴史書に地図も載っていたので、壁の中の地理はおおまかに把握しています」

 

「…君、本当は私に負けないくらいの知識欲の()()なんじゃないのぉ〜?」

 

「一緒にしないで下さい」

 

「うん、ゴメン。……それにしても、何故また急に気になったんだい? エルヴィンさんの君への肩入れは、今に始まったことじゃないだろ?」

 

「それが……~~~~」

 

 

カイルは少し躊躇いながらも、アデルと喧嘩したことを渋々打ち明けたのだった。

 

 

 

**

 

 

 

アデルとの喧嘩の経緯を聞いたハンジは、少し驚いた様子で眼鏡をくいっと押し上げた。

 

「はぇ〜〜!あのアデル君がそこまで感情的になるとは!だけど、彼の言わんとすることも一理あるね。人間関係の構築ってのには段階があるんだよ。しかし、君のエルヴィンさんへの羨望の眼差しは、それを何段階もすっ飛ばしている。『根拠のない自信』ほど他人を疑らせるものはない……さらには、アデル君の()()()がそれを加速させているといったところか…」

 

「アデルの……気持ち?」

 

「え、まさか君!……()()()()()()の!?」

 

「何にですか?」

 

「カーーーッ、アデル君も苦労するわけだ!」

 

「もったいぶらないで教えてくださいよ」

 

「いいや、これは()()()言うことではない。……話を元に戻すけど、君はエルヴィンさんが信用できる人だってことを“心”で感じ取ったと言ったよね?」

 

「…はい」

 

「実は、私もそうなんだ!正直なところ根拠なんてない……ただ、あの人の中に“何か”が見えた。きっと、エルヴィンさんはそういう星の元に生まれた人なんだろう……不思議と()()()()()()()。だけど、これは君にも知っておいてほしいんだが、あの人の正義は常に日の目を浴びているわけではない。時には、闇の中を先陣切って突き進むことだってある……仲間の命を切り捨ててまでね。だが!それこそ彼の持つ能力(ちから)だと言える!非情な決断を渋る者には、仲間の命さえ背負うことはできない……しかし、あの人にはそれができる。人間性を失ってでも守るべき対象を決して見失わない……あの人には、それができてしまうんだ!まったく、恐ろしいほどに“残酷”で“勇敢”なお人だよ…」

 

 

ハンジはそこまで話したところで、チラッとカイルの顔を見る__エルヴィンの実態を聞いたカイルがどんな反応をするか気になったからだ。

 

だが、カイルは失望するどころか、むしろ憧れの気持ちが増したように目を輝かせていた。

 

 

「あはは…こんな話を聞かせても君の眼差しは揺るがないね。まぁ、これに関しては言って聞かせるより実際に目で見た方が早い!『百聞は一見に如かず』ってね!……いつか、アデル君も分かってくれる時がくるさ」

 

「そうだといいですが…」

 

「あっ…そういえば聞いたよ、カイル!調()()()()()()なんだってね!?君が入ってくれたら私も嬉しいよぉぉ!」

 

「ちょ、ちょっと!声が大きいです!」

 

「あぁ、ごめんごめん!」

 

 

そう言ってハンジは顔の前で大きく手を合わせた。

 

それから少し前かがみになってカイルの目を覗き込むと、声を絞って話を続けたのだ。

 

 

「聞いたのはそれだけじゃない……君の『眼の能力』についても、だ!なんっって素晴らしい能力(ちから)なんだ!!それを聞いた途端、もう興奮が止まらなくって……ほら見て、今も鳥肌が立ってる!」

 

「ははっ、大袈裟ですね。でも、この能力(ちから)を褒めてもらえるのは純粋に嬉しいです。エルヴィンさんは以前から兵団の外にも目を向けて、『突出した才能を持つ者』を探していたそうです。俺がその一例だとおっしゃっていただけました」

 

「あぁ~~、そんなようなことも聞いたことあるな。いつからかは知らないけど、()()()()()()()()()()っていう……なるほど、そういう意図があったのか」

 

「それから、()()()()()も探していらしたそうです。何でも、調査兵団は人手不足だからと…」

 

「馬の世話役?その話は知らないな……調査兵団の本部には馬医師も在籍しているし、民間の調教師にも管理を依頼しているんだ」

 

「そう…なんですね」

 

「はぁ…結局エルヴィンさんについて、多くはわからなかったね……だけど、それもあの人の“魅力”だ!ほら……『能ある鷹は爪を隠す』と言うだろ?

 

「鷹か……勇敢で力強いエルヴィンさんのイメージに合致しますね」

 

「あぁ、言えてる!鳥と言えば…」

 

 

ハンジはそう言いながら雛鳥に目をやった__雛鳥はお腹を満たせたのか、静かにうずくまっている。

 

 

「この子、名前はあるのかい?」

 

「はい……『フィン』と名付けました」

 

「フィンか!良かったでちゅね〜フィン、()()に良い名前をつけてもらって!今の私が知り得る情報だと、鳥などの動物の大半が生まれてから一番最初に目で見た対象を自分の『母親』だと認識するらしい!ちなみに……~~~~」

 

 

それからしばらくの間、2人は雑談を楽しんだ。

 

去り際、ハンジは「また様子を見に来る」とだけ言い残し、訓練所を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数週間後。

 

 

雛鳥だったフィンは手のひらほどの大きさまで成長し、カイルの部屋の窓から空へと飛び立った。

 

一人立ちして野生に戻ったフィンだったが、時折カイルの元へ帰ってきては、腕の上で羽の手入れをしたり、肩に乗っかってカイルの頬をつついたりもした。

 

そんな微笑ましい姿を目にした一部の訓練兵たちの間では、陰でカイルのことを『鳥遣いの精霊』と呼ぶようになっていたのだ。

 

 

 

そんな呼び名などつゆ知らず、とにかく訓練に励むカイル__エルヴィンの命令通り『眼の能力』を最大限に活用し、巨人を討伐するための技術を着々と磨き上げていったのだ。

 

そうして、2年の月日が過ぎ…

 

 

いよいよ、カイルが訓練兵団を卒業する日がやってくるのであった。

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 





〜後書き〜

『年齢発表〜〜!!』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

今回の話では少し年齢に触れるシーンがありましたね。
そこで!この物語における年齢設定を発表します!

※850年時点の年齢です※

・エルヴィン 36歳
・リヴァイ  32歳
・ハンジ   30歳
・カイル   26歳


【補足説明】
・まず、カイルの26歳を基準に考えて、エルヴィンを10歳上の36歳としました。

・さらに、エルヴィンの年齢から4歳引いた32歳をリヴァイの年齢にしました。(ここは感覚ですが、4年後の天と地の戦いでリヴァイがエルヴィンと同じ歳になっていたら何となくアツいなぁ…と思っただけです)

・ハンジはなんとなく30歳です!特に意味はありません(笑)


〜おまけ〜

エルヴィンの出身地として登場した『オイータ地方』については、詳細をnoteにまとめています。
よろしければ、そちらも是非ご覧ください。
https://note.com/singeki_satory/n/n6ac115f96919
◎記事:オイータ地方ヒタッシ山脈

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