TS転生ぐうたら聖女は、昼行灯になりたい!   作:暁刀魚

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3 ”安寧”の聖女様

 さて、昼は東区の皆さんにパンを振る舞うことに決定したので、その予定を子どもたちに伝える。

 子どもたちの何人かは教会に残ってもらって、私の手伝いをして貰う必要があるからだ。

 東区全体にパンを配って回るのだから、私一人じゃとてもじゃないけど手が足りない。

 という理由で子どもたちを動員できるのも、私がパンを東区に振る舞っている理由。

 

「シウ、悪いけど工房の人に、今日は”振る舞い”をするから行けないって伝えておいてください」

「わかり、ました」

 

 さて、子どもたちは普段街のあちこちで働きに出ている。

 いわゆる見習いというやつで、お給料は出ないけど昼と夜の賄いをもらえるのだ。

 朝ご飯以外はこちらで用意する必要がないので、私としても大変助かる。

 だけど今日は、手伝いで何人か働きに出ることはできない。

 でもこの振る舞いは教会としての大事なイベントなので、大手を振って休みをもぎ取れるのだ。

 前回はラマウ達男の子組に手伝って貰ったので、今回はシウ達女の子組に手伝ってもらおう。

 

「じゃあ、みんなで、がんばろう、ね」

「おー!」

 

 シウの呼びかけに、女の子たちは元気に応じている。

 仲がいいのはいいことだ。

 さて、今日も余ったパンを東区で配るだけの簡単なお仕事だ。

 楽していきたいぜ。

 

 

 +

 

 

 安寧の聖女、と呼ばれる聖女がいる。

 名前はリア、孤児の出身で聖女としての評価は端的に言えばこうだ。

 

 

 誰よりも敬虔で、誰よりも求道的な、真の聖女――である。

 

 

 少なくとも、本人の望む昼行灯な方向にはまっっっっっっっったく進めていなかった。

 まず第一に、礼拝に対して熱心すぎる。

 誰よりも早く神に祈りを捧げ始め、誰よりも長く神に祈り続けている。

 実際にはただ寝ているだけなのだが、神はそのことを誰にも教えていないのでバレていない。

 結果誕生するのはただの信仰心の篤い聖女だ。

 

 次に危うさを感じるほどに彼女は修行に対して熱心である。

 礼拝が終われば、彼女はすぐさま聖女としての修行に移る。

 時にはその後に行われる行事を忘れてしまうくらい。

 実際には行事が退屈で、修行している方が楽しいからそうしているだけなのだが。

 周りが「もう彼女を止めるべきではない」となってしまったため、止めれるものはいなかった。

 

 そんな彼女が東区――王都のごみ溜めとも呼ばれる場所への派遣を申し出た時、誰もが思った。

 ついにその時がきたか、と。

 彼女の出身は孤児だ。

 東区の出身ではないが、貧しい幼少期を送ったと聞いている。

 そんな彼女が、これほどまでに聖女としての力を求めたのは全てこのときのためだったのだ。

 かつての自分を救うため、東区の教会に派遣されるためだ、と。

 教会の人間は、そんな彼女の悲壮な決意を汲んで、彼女を東区へと送り出した。

 

 

 結果は、あれほど無法地帯だった東区を、貧乏な人たちが暮らす場所程度まで改善して見せた。

 

 

 実際には、リアの美しい容姿に目がくらんだ悪党達を片っ端から撃退して、町の人達にパン(余り物)の差し入れをしていただけなのだが。

 リアとしては、適当に暴れて施しをしているだけで聖女としての活動が認められるのだからウハウハである。

 最終的にリアは、東区だけでなく街中の孤児を集めて養い、見習いとして街の工房や王城に送り出した。

 元はスリなどをするような悪ガキも、リアが送り出したとなれば街の人間は認めざるを得ない。

 子どもたちも、リアに送り出されたとなれば恥ずかしい行動はできない。

 それもこれも、リアが強くて美しくて美味しいものをくれる聖女だから。

 それだけで周囲の信頼を得られるのだから、リアとしてはウハウハである(二回目)。

 更にこの孤児院、リアにはもう一つ別の狙いがあったりするのだが、それは一旦置いておいて。

 

 こうして、王都東区のスラムという「デイブレ王国」の抱える問題を、彼女は一人解決してみせた。

 そんなリアは、以前この国の王女様がお忍びで東区を訪れた際に、面倒事に巻き込まれた王女様を助けたことがある。

 助けられた王女様はリアに礼を述べ、そして問いかけた。

 このような素晴らしい場所を作り上げた貴方が、望む褒美はなんですか? と。

 帰ってきた答えは、端的だった。

 

 

「安寧」

 

 

 その瞬間、王女様は察した。

 きっとリアは自分の正体を察して、そう答えたのだと。

 無論そんなことはないのだが。

 

 とはいえ、リアの意図は多少歪みながらも伝わった。

 リアは怠惰に暮らしたいのだ、毎日を適当に過ごしたいのだ。

 当然、政治とかめんどくさいことには関わりたくないし、関わりそうになったら適当に逃げるだろう。

 それを一言で表したのが「安寧」。

 まぁ、周囲はその真意を「世界が安寧であることを望む」と解釈したのだが。

 幸いにも、東区の悪党を追い出すのに結構な暴力を使っていたことで、安寧のためなら暴力も辞さないと判断され。

 賢い人間からは、距離を置かれるようになったが。

 

 そうしてついた称号が、”安寧”だ。

 

 称号、もしくは二つ名。

 聖女を表す言葉として使われるそれは、与えられることそのものが栄誉なことだ。

 現在王都に、二つ名を有する聖女は三人しかいない。

 そのうちの一人が自分であるという自覚は、残念ながらリアにはないのだが。

 

 ――称号、といえば。

 

 ある時から、町中で”救済の聖女”という存在が噂されるようになった。

 街にはびこる、王国が手出ししにくい悪や、未だ見つかっていない悪を葬る正義の味方。

 先日は、街に蔓延しつつあった”狂いマギ”と呼ばれる薬物の売人を発見、捕縛。

 そして拠点を壊滅させてみせた。

 

 そんな聖女を、人々は救済の称号で呼んだ。

 何故か? なんとなく、皆察していたからだ。

 

 

 あ、多分これリア様だなぁ、と。

 

 

 なにせ聖女である、王都で聖女の力を振るえる人間は少ない。

 なかでも、これほどの大立ち回りができる戦闘タイプの聖女はごくわずか。

 顔こそ隠しているものの、その美しい銀髪は隠せていない。

 リア自身、正直バレてるんじゃないかなーと思いつつ、指摘されていないのでバレていないということにしているくらいにはバレバレだ。

 

 しかし、誰も指摘しない。

 理由は単純、どれだけバレバレでも証拠がないのである。

 なにせ救世の聖女が大暴れしているタイミングで、教会で寝ているリアが目撃されているからだ。

 少なくとも、二人の聖女が同時に存在している以上、誰もリアを救世の聖女だと指摘することはできないのだ。

 その絡繰を理解できない限り。

 

 そう、世間はリアが神託を悪用していると知らない。

 どこからともなく大量のパンを取り出しては配るのも、作り溜めたものを振る舞っているだけだと思っている。

 保存魔術の弊害だ。

 

 真実を知るのは、親友のヒルネと孤児院の子どもたちのまとめ役であるシウとラマウだけ。

 そしてその三人はリアと深いつながりがあり、リアのやってることがバレたら大変なことになることも理解している。

 故に、バレていない。

 今のところ、リアはちょっと信仰心と強さがヤバイけど、安寧を求めている聖女――で済まされているのだ。

 

 今の、ところは。




というわけでこんな導入の短編になります。
評価、感想、お気に入り等いただけると大変嬉しいです。
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