夜空を燃えながら堕ちる星   作:XA-26483

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チェキ会です。

実際にチェキ会に行ったことがないので、資料として漫画、小説、映画、ドラマ、動画等を参考にして書きました。
地下アイドルのチェキ会に行ったことがある人は、ツッコミどころがあったらバシバシ指摘してくれてOKです。

チェキ会の話は今回だけだと思うけど。



第15話:信仰

 

 

 スタッフさんが言う。

「特典会開始でーす」と。

 

 その言葉こそが、特典会(戦い)の始まりを告げる鐘の音だった。期待に胸を膨らませたファンの群れが、怒涛の勢いで押し寄せる。そして、私達はそれを迎え撃つ。

 

 

 私は繰り返す。

 

 

 ファンと握手して、ちょっと触れ合ったりなんかしちゃって、お喋りして、そして写真を撮って、「またね」と手を振る。

 

 

 それを繰り返す。

 

 何回も何回も。

 

 

 何回も何回も何回も何回も。

 

 

 何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も。

 

 

 列が無くなるまで、この行為は繰り返される。

 

 泣こうが叫ぼうが止まらない。終わるまでは終わらない。有限なのに気分はエンドレス。

 

 

 チェキ会───それすなわち、ライブに並ぶ重要で大切な、地下アイドルの実力が試される戦場なのである。

 

 

 

 

 

 ★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

 地下アイドルにとって、チェキ会は稼ぎの場である。

 

 ファンがチェキ券を購入するために支払った金額の内、何割かが私達アイドルの懐に入ることになる……所謂、『チェキバック』と呼ばれるシステムがあるからだ。

 

 うちの場合、チェキ券1枚1500円の内、50%がチェキバックとして私達に還元される。月の基本給がそもそも安いので、こういう所で頑張って稼がないと、後々困ることになる。交通費は事務所が出してくれるけど、メイク代とか、衣装を自分達でアレンジする分は自腹だし。

 

 まぁ、酷い所では10%しかバックがない事務所もあるので、そういう意味ではうちはかなり良心的だ。

 

 そんなわけで、チェキ会は大切な稼ぎの場なんだけど、稼ぐのは何もお金だけじゃない。私達地下アイドルにとって重要で、しかし目には見えない大事なもの……すなわち、人気と好感度を稼ぐ場でもあるのだ。

 

 グループ全体としてのアピールの場がライブであるのに対し、チェキ会はグループメンバー個人個人がファンに対してアピールする場と言っても過言ではない。

 

 平日でも、特典会で握手券付きCDを購入すれば多少のお喋りが出来るとはいえ、チェキ会は土日のライブ後限定かつ、1分間は自由にお喋り出来る。となると、ファンとの触れ合いは平日の比ではない。チェキ会でのサービスの内容如何によって、人気は激しく変動することになる。

 

 神対応をすればファンからの印象は良くなり、さらなる人気を得る事が出来る。反対に、塩対応をすれば印象は悪くなり、他のメンバーに推し変されたりすることもある。最悪の場合、B小町というグループそのものから距離を置かれることだってある。もっと酷いとアンチになる人もいるから、本当に慎重な対応が求められる。

 

 塩対応も、上手く使えば有用だけどね。わざと塩対応をすることでファンの心に揺さぶりをかけ、最終的にはガチ恋釣りで熱狂的な信者を作り出す……なんてテクニックもあるけど、これは諸刃の剣だ。

 熱狂的な信者は良い意味でも悪い意味でも扱いが難しく、一歩間違えれば犯罪に手を染めかねない、恐るべきアンチに変貌することもある。原作のリョースケみたいに、ね。

 

 じゃあ、安定して神対応を続ければ問題ないんじゃね?と思う人もいるだろう。

 

 それはその通りだけど、そう簡単にはいかないのが世の常。アイドルだって人間なので好き嫌いはあるし、どうしても受け付けられない人間がいるのである。ファンが大切な存在であるとわかっていても、それでもなお冷たい対応をしてしまうのだ。

 

 オールウェイズ神対応をして、毎回必ずファンに満足して帰ってもらうっていうのは、打率10割で必ず毎回ヒットかホームランを打つ野球選手みたいなもの。そんな化物がいてたまるかって話だ。

 

 彼女達はまだまだ年頃の女の子。人生経験の浅い彼女達に、徹底して神対応を続けろ、というのは本当に厳しいことなのだ。

 

 ゆえに、チェキ会は戦場。

 

 ルックスが良かろうと、高い歌唱力を持とうと、ダンスが上手かろうと、ここでの対応一つで今まで築き上げてきた人気が水泡と帰す……かもしれない。

 

 アイドル各々の精神力と対応力が試される試練の場。

 

 それがチェキ会である。

 

 

 ……なーんて色々語ったけど、私にとってはそんなこと知ったこっちゃない。

 

 

 チェキ会楽しい!最高!

 もっと私とエンジョイしようぜファンの皆!

 盛り上がっていこうぜ!いぇーい!やっふー!

 

 ……え?なんでそんなにテンション高いのか、って?

 

 そんなの決まってるじゃん。チェキ会は、ライブよりもファンとの距離が近いんだよ?距離が近いと言う事は、ファン個人個人の熱を、想いを、より近くで、より深く感じることが出来るってことなんだよ。

 

 ライブとは違った良さがあって、私としてはやる気満々、テンションマックスになるわけよ。塩対応なんてものは存在しないのだ。

 

 当方に迎撃の用意あり!

 来いドルオタ共!私の笑顔は108まであるぞ!

 

 

 あ、ちなみにうちは握手以外の接触NGだよ。

 新曲が出た時のみ、CD5枚購入で接触OK。

 だから、ファンの皆は頑張って買ってね☆

 

 

「や、やあ、アイちゃん」

「クマちゃんだ!久しぶりー!最近見なかったけど、何してたの?」

 

 

 私は目の前に現れた太っちょに挨拶した。

 

 彼は古参ファンの一人だ。物販ではあまりお金を落とさないが、ライブには高頻度で来てくれていた人。今月に入ってからはライブに全然来ていなかったから、本当に久しぶりだ。

 

 

「ご、ごめんね。じ、実は、今月からコンビニでアルバイトを始めて……」

「えー!凄いじゃん!」

「す、凄くなんかないよ。店長には、いっつも怒られてばっかだし。物販で使うお金を貯めるための、ちょっとした小遣い稼ぎみたいなものだし……僕なんて、全然……」

「そんなことないよ」

「あっ、アイちゃん……?」

 

 

 私は太っちょの手を両手で握って少しだけ引っ張る。

 

 汗の匂いがする。大抵の人はただ単に汗臭いと思うだろうけど、私は違う。汗の匂いには感情が詰まっている。

 

 その人が私をどれだけ好きなのか、匂いでわかる。

 この人は……私への好意で一杯の汗臭さだよ。嬉しいね!

 

 

「クマちゃんは、私が好き?」

「そ、それはもちろん!僕、アイちゃんのファンだから!デビューライブの時からずっと!」

「じゃあ、一生懸命働くのも、お金貯めるのも、私のグッズを買ってくれるのも、私が好きだから。そうだよね?」

「う、うん」

「だったら、それは凄い事なんだよ。好きなもののために一生懸命になれるのは……一生懸命っていうのはね、それだけで価値があるの。だからクマちゃんは凄いよ」

「あ、アイちゃん……」

 

 

 1分経過したので、なんか感激して震えてる太っちょの手を引き、一緒にチェキを撮る。

 

 二人で一緒に手でハートマークを作る定番ポーズだ。いちいちリクエストを聞くのも面倒くさいので、基本的に私が勝手に決めている。あんまりよくないと思うけど、なんかこういう強引さとか身勝手さも好きって人が多いので、私はこういう対応をしているよ。

 

 撮影を終え、太っちょに「またね」と言って手を振る。

 頑張って稼いで、その分を私に貢いでくれたまえ。期待しておるよ。

 

 

 それが終わったら素早く所定の位置に戻る。

 次のファンは、黒いパーカーに、フードを目深に被った少年だ。

 

 

 ……ところで、ドルオタには色々な人がいる。

 

 見た目、職業、年齢、経歴。

 人によって様々だけど、そんな彼等には共通しているものがある。

 

 そう、それは、推しへの情熱である。

 

 特に、私のファンはそういう人が多い傾向にある。ファンの割合的に一番多いからか、私の列は人がたくさん並ぶ。待ち時間も長いし、苦労して並んでも、私とお喋りする時間はほんのちょっと。こんなの割に合わないだろう。やりがい搾取みたいなものだ。

 

 それでも彼等が並ぶのは、私と会える時間に価値を感じているからだ。私との短い会話のために、稼いだお金や貴重な時間を費やしてもいいと、そう思ってくれているから。

 

 だからこそ、私もファン一人一人に全力で対応する。私が今こうして楽しい、嬉しいと思うことが出来ているのは、彼等がそういった感情を与えてくれるから。

 

 ならば私も応えよう。

 それをファン(君達)が望むのなら。

 

 

「こ、こんにちは」

 

 

 たとえ、相手が───

 

 

「リョースケ君こんにちは!今日もライブ見に来てくれてありがとう」

 

 

 ───いつか、私を殺すかもしれない人であろうとも。

 

 

 

 

 

 リョースケ。

 原作において、彼は非常に重要な役目を果たす。

 

 雨宮吾郎と、アイの殺害。その直接的な実行犯が彼なのである。

 

 彼がいなければ、『推しの子』という物語は始まらなかったと言えるし、始まってしまったとも言える。それぐらい、重要な役目を果たしたのがリョースケという人物なのである。

 

 ……とはいえ、だ。

 

 今ここにいるリョースケ君が、原作のリョースケと同一人物とは限らない。それに、彼は最初から私推し。だから、ニノちゃんから推し変していないし、そもそもニノちゃんと交際していない。

 

 最初の握手会で彼が自分をリョースケと名乗った時は驚いた。世界の修正力こえー!と心底震えあがったものである。いやぁ、まさかデビューライブの時のビラ配りで出会った、真夏に長袖パーカーの陰キャが彼だったとはね。びっくりびっくり。

 

 しかし今の所、彼は他のファンと何ら変わりない。普通の少年だ。よくよく考えて見れば、原作で殺人を犯したのだって神木輝にそそのかされたから。それがない今は、過剰に警戒する必要はないのだろう。

 

 妊娠する予定もないから、彼から逆恨みされることもないしね。

 

 私はリョースケ君の手を握り、フードに半分隠された顔を覗き込むようにして言う。

 

 

「今日は塾だから行けないかもって、先週言ってなかったっけ?」

「あ、うん。その……どうしても今日のチェキ会に行きたくて。親に嘘吐いて、サボっちゃったんだ」

「あーあ、悪いんだー」

「う……アイは、こういう男って、嫌い、かな?」

「ううん、そんなことないよ?」

 

 

 私は左手で彼の手を握ったまま、右手の人差し指を顔の横で立てた。

 

 

「私もよく学校サボってるからね!」

「そうなの?」

 

 

 嘘である。

 

 仕事関係の理由で欠席することはあるけど、それ以外の理由で学校をサボったことはほとんどない。何なら、この前の社長へ相談しに行った時が初めてだ。

 でも、こう言った方が彼は喜びそうだから。推しが自分に共感してくれる、という事実でドルオタが喜ぶことを私は知っているのだ。

 

 

「うん!雨だから。気分じゃないから。特に理由はないけど行きたくないから……そんな感じでポンポンサボってるよ。どこに出しても恥ずかしくないサボり魔だね☆」

 

 

 私はドルオタ向けの笑顔で横ピースを決めた。

 

 

「そんな笑顔で言うことじゃないと思うけど……」

「いいのいいの。世間とか常識とかに遠慮してたら、人生楽しめないじゃん。楽しいことの為なら、塾の一つや二つ、サボったって平気平気!」

「そうかな……そうかも……?」

「サボって偉い!」

「偉くはないと思うよ」

 

 

 その後、リョースケ君ともチェキを撮ってお別れする。

 

 彼の後姿は、ここに来た時より心なしか元気そうだ。塾をサボったという罪悪感が、私との会話で多少なりとも薄れたのかもしれない。

 

 そういえば、彼はライブに来るときは必ずパーカーを着てフードを被っている。これはドルオタをしていることが親にバレないための苦肉の策らしい。彼の母親は厳しい教育ママらしく、バレたら一発アウトだそうだ。大変だね。

 

 

 

 

 

 ★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

 長ーいチェキ会もようやく終わり、特典会の撤収作業が終わるまで、私は皆と控室で駄弁っていた。

 

 

「皆は全国ツアーで行きたい場所ってある?」

「急にどしたの」

「全国ツアーって、前に社長が言ってたやつ?もしかしたら今年中に行けるかもしれないぞー、って言ってた」

「そうそう、それ。今の内にさ、行きたい場所決めとかない?」

「行きたい場所かぁ」

 

 

 私の何気ない問いかけに、三者三葉の反応を見せた。

 

 

「私達はまだ学生だからねぇ。全国ツアーって言っても、行ける場所はそう多くないんじゃないかなぁ」

「東京、名古屋、大阪あたりは鉄板よね。あとは……札幌と福岡に行ければとは思うけど、まだ早いんじゃない?少なくとも、アイが中学に上がってからが無難だと思うけど」

「アイちゃんは行きたい場所あるの?」

「はい!あります!」

 

 

 私は勢いよく手を挙げて答えた。

 

 

「宮崎県高千穂町に行きたいです!宮崎県高千穂町に行きたいです!!」

「なんで二回言ったの……?」

「ピンポイント過ぎるでしょ。なんで宮崎県の、それも高千穂町なのよ。あと、福岡が無理なんだから宮崎も無理だって」

「高千穂かぁ……何か行きたい理由でもあるの?」

 

 

 はい!さりなちゃんがいるからです!

 ……とは、さすがに言えない。会ったこともないファン一人のために、宮崎まで行ってライブやろうぜ!とか、控え目に言って意味不明だし。

 

 

「高千穂には、芸能の神様を祀った神社があるんだよ」

「芸能の神様……そういえば聞いたことがあるような。確か、アメ、アメノ……」

「───アメノウズラ?」

「そう、アメノウズラ!」

 

 

新種のウズラかな?

 

 

「アメノウズラかぁ」

「ニノ詳しいじゃない。やるわね」

「えへへ」

「……」

「アイちゃん?どうしたの?」

「あ、ううん。何でもない……」

 

 

 ……得意気になってるニノちゃんが可愛いので、ツッコミは入れないでおこう。しかし、みんな日本神話なんて興味なかったかー。いまどきの小中学生の女子だもんね、仕方ないね。

 

 かく言う私も、日本神話なんて全然知らないし。

 

 太陽の神様であるアマテラスがなんか隠れちゃって、それを解決するためにアメノウズメが他の神々の前でストリップダンス踊ったんでしょ?

 

 日本神話えちえちじゃん。やば。

 

 

「東京から参拝しに行く芸能人もいるんだって!行きたいよね?行きたくない?行こうよ!」

「なんか圧が強いわね」

「う~ん……興味はあるけど、全国ツアーで行く必要はなくないかな?」

「そうね。行きたいなら休みの日に行けばいいじゃない。アイなら一人でも行けるでしょ、新幹線とかで」

「それじゃ駄目なの!私は高千穂でライブがやりたいの!」

「どうしてもライブしたいの?参拝するだけじゃ駄目?」

「参拝は別に興味ないから」

「えぇ……」

「神社の話題を出す意味……」

 

 

 うぅむ、何とかして宮崎でライブ出来ないだろうか……。

 私はさりなちゃんをルビーとして産んであげることが出来ないから、せめて彼女にライブを見せてあげたいのに。

 

 

 そう、この世界にはさりなちゃんがいる。

 原作と同じく私のファンになってくれて、しかも私にファンレターまで送ってくれたのだ。

 

 どうやら、宣伝目的で社長がうちのCDやらグッズを配った相手の中に、さりなちゃんのお父さんがいたらしい。都内のとある出版社に勤めているんだって。天童寺って苗字は珍しいから、社長が覚えていたのだ。

 

 原作でも、メディアにほとんど露出していなかった当時のB小町を、宮崎で入院中のさりなちゃんがどうやって知ったのか不思議だったけど、その謎が解けたかもしれない。きっと、入院中の暇つぶしにでもなると思って送ったか、持って行ったのではないだろうか。

 

 ファンレターに書かれた住所も、調べたら病院のものだとわかったし。たぶん、病院の先生や看護師さんに協力して貰いながら送って来たのだろう。

 

 雨宮吾郎とはもう出会っているのかな?

 

 

「そ、そんなに宮崎でライブしたいの?」

「や゛り゛だい゛っ!!」

「必死過ぎる」

「何がアイちゃんを駆り立てるんだろう……」

 

 

 必死になるに決まってるよ。

 だって、さりなちゃんは12歳で死んじゃうんだよ?

 

 私は今11歳。原作通りなら、さりなちゃんは私と同い年……タイムリミットはいつ?今年中?それとも来年中?誕生日がわからないし、原作で具体的にいつ頃亡くなったのかもわからないから、予測出来ないんだよ。

 

 確か、1話で雨宮吾郎と話していた時に雪が降っていたのは覚えているんだけど、だからって冬に亡くなったとは断定出来ないし。

 

 世界の修正力さんが頑張ってくれるなら、とりあえず原作よりも早く亡くなることはないと思うけど、それも確実とは言えない……ど、どうすればいいんだー!

 

 

「ぬわああああああああ!!」

「ちょ、床で転がるのやめなって!汚いから!」

「あはは。アイちゃん転がるの好きだよねぇ」

「め、芽衣ちゃん!笑ってないで止めるの手伝ってよー!」

 

 

 

 

 

★・ー・★・ー・★・ー・★

 

 

 

 

 

「アイちゃんは、学校嫌いなの?」

「んぇ?」

 

 

 ライブハウスで解散した後、ニノちゃんと途中まで一緒に帰る道中のことだった。

 

 突然の問いに間抜けな声で返事をしてしまった私は、歩きながら食べていたどら焼き(事務所の差し入れ)をもぐもぐと咀嚼し、ごっくんと飲み込んでから改めて答えた。

 

 

「なんでそんなこと聞くの?」

「だって、学校よくサボってるってチェキ会で言ってたから……ごめんね、聞いちゃって」

「あー、あれかぁ」

 

 

 ニノちゃんは私の隣の列だってたから、聞こえちゃったんだろう。あれ適当に言っただけなんだけどなぁ……よし、誤魔化すか。

 

 

「私は学校が嫌いなんじゃなくて、退屈が嫌いなだけ」

「じゃあ、やっぱり学校は嫌いなんだ?」

「ううん。学校は嫌いじゃないよ」

「えっと……?嫌いだから、サボってるんじゃないの?」

「退屈だからサボってるんだよ」

「え、いや……う~ん?退屈が嫌いで、だから退屈な学校をサボって、でも学校は嫌いじゃない……?あれ?」

 

 

 ニノちゃんは こんらんしている!

 

 真面目な子を揶揄うのは楽しいなぁ。ニノちゃんは、私が思い付きで言ったてきとうな言葉をまともに解釈しようとするから、よくフリーズするんだよね。可愛い。

 

 私は混乱しているニノちゃんに追撃をする。

 

 

「それよりさぁ、ニノちゃん知ってる?どら焼きって、ドラえ〇んの漫画オリジナルのお菓子だったんだよ。だからどら焼きって名前なんだって」

「え、えぇー!?それは嘘だよ!絶対嘘!」

「ホントホント。『三笠焼き』って言う、どら焼きと偶々そっくりな見た目のお菓子があってね。それがドラえ〇んのせいで、どら焼きって呼ばれるようになったんだよ」

「そんな……じゃ、じゃあ、私達が今日食べたどら焼きは……!」

「そう!どら焼きはどら焼きじゃなかったんだよ!」

「!?」

 

 

 私のカスみたいな嘘に『な、なんだってー!?』と驚愕しているニノちゃんを見て和みながら、私は残ったどら焼きをもぐもぐと食べた。その後も、特に中身のない会話を適当に続けながら、私は途中でニノちゃんと別れて家へ帰ったのであった。

 

 よし、今日も楽しく話せたな!

 

 

 

 

 

 ……なんてのは嘘。

 だって私達、仲良くないし。

 

 表向きは最初の頃と変わらず仲良くしてるけど、これがただの友達ごっこに過ぎないということを、私達は全員知っている。

 

 やっぱりデビューライブで全力出しちゃったのが悪かったみたいで、三人共プライドが傷ついたみたいなんだよね。スランプを脱出したおかげなんだよ!という表向きの理由は話したけど、納得はしてもらえなかった。

 

 コミュ力と信頼が不足していたんだ。

 悲しいけど、仕方のないことなんだ。

 

 今年に入ってからはともかく、去年はグループ内では四面楚歌って感じで、毎日のように攻撃されてね。さすがに物理的に手を出されることはなかったけど、運営とファンの目のない所ではすっげー冷たい態度で、完全にハブられてた。

 

 グループメンバーでアイドル活動に関する会議なんかもするんだけど、私の意見はもう全然聞いてくれないし、何言っても多数決で却下されるし。だから隠れてこっそり動く羽目になった。色々大変だったよ。

 

 別に、彼女達を悪いとは思わなかった。感情をコントロール出来ずに暴走してしまった私に原因があるし、罰として甘んじて受け入れようと思ったよ。さすがに手を出されたら対処するつもりだったけどね。

 

 それが変わったのは去年の年末頃。三人共謝って来て、前みたいに仲良くしたいって言うから私はそれを受け入れたわけ。

 

 どうして彼女達が手のひらを返したのか、その理由に見当はついている。

 

 理由を簡単に言うのなら……そうだなぁ、プライドよりも利益を取った、って感じかな。子供にしては合理的で、妥当な判断だと思う。ちょっと悲しいけど、そういう判断をしてしまう程に追い詰めてしまったのは、私だ。私に責任がある。彼女達は悪くない。

 

 だからこのビジネスライクな関係を受け入れたし、彼女達がこの選択を後悔しないよう、不動のセンター『アイ』として頑張ろうかな、とも思ったりして。

 

 うん。女子相手のコミュ力が低い私にしては、まぁまぁ頑張った方じゃないだろうか。原作のアイに比べれば、まだマシな方だ。たぶん。

 

 

 ……ただ、ニノちゃんはなぁ。

 他二人と違って、私のことそんなに嫌ってないっぽいんだよね。

 

 ニノちゃんはファンの子達と同じ……いや、それ以上に強い感情を私に向けて来るんだよ。憧れとか、信頼とか、そういうプラスの感情ではあるんだけど。それがちょっと強すぎるというか……もはや信仰レベルで怖いんだよね。

 

 今日も、別れたふりして私の跡をつけて来てるし。

 尾行の腕も日に日に上達して来て……私の索敵能力が高いから気づけるけどさぁ。

 

 ニノちゃん。これは駄目だよ。これはやっていい事じゃない……可愛いからってストーカー行為は許されることじゃないんだよ!

 

 普通に声かけてよ!

 なに、なんなの?怖いよぉ!

 

 

 

 

 





………おや!?ニノのようすが………!

というわけで、ニノちゃんは普通の女の子からスト……信者に進化しました。

このニノちゃんは、進化するたびに闇属性が増す。
その進化を、ニノちゃんはあと二回も残している。その意味がわかるか……?


作者にもわからん。
本当に、申し訳ない。
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