「まずは自己紹介……は、必要かな? 君は僕らの事指名してたし、名前くらい知ってそうだけど」
ごめんなさい、私は知らないので自己紹介して欲しいです。
私の意を汲んで、お姉ちゃんはこう返してくれました。
「いや、頼む。私は知ってるけど、妹が知らないから」
「そうかい。まず、僕の名前はピジョン。このパーティのリーダーをしている」
ピジョンさんは優しそうな雰囲気で、親しみやすそうな人です。
「良い人」って言葉がとてもしっくり来ます。
「次は俺かな。ライノだ、よろしく」
そう言いつつも、ライノさんはお酒をぐびぐびと飲み干しています。
そんなに飲んだら、酔っちゃうんじゃないでしょうか?
「こらライノ、クライアントの前で酒飲む馬鹿がいるか!」
「だってよぉ……昨日、賭博でスッたんだよ」
「私もぉ……」
「あのなぁ……!?」
案の定、ライノさんはピジョンさんに怒られました。
机に突っ伏していた女の人も反応しましたが、フードを被った女の人は無反応です。
ど、動じない人ですね……
「はぁ……あ、私はガーベラ。よろしくね、お嬢さん?」
男性二人が口争いをしている中、ガーベラさんは机から顔を起こしながら自己紹介をしてくれました。
綺麗な顔付きの美人さんなのに、顔についたテーブルの木目の跡で台無しです。
何と言うか……残念な人?
ある意味お姉ちゃんにちょっと似ているかもしれません。
「……アザミと呼んで」
フードを被った女の人……アザミさんは簡潔に自己紹介を終えました。
口数の少ない人ですが、私はこの人が妙に気に掛かります。
何故かって言うと……
お姉ちゃんがずっとこの人を見つめているんですよ。
「おほん! さて、我々の自己紹介は何事も無く無事に終わったな!」
「何事も無く……?」
「無事に……?」
「はいはい、そこ二人は口閉じててね!」
ピジョンさんは大袈裟な手振りを付けた上で、大きな声でそう話します。
うーん、悪い人じゃ無いと思うんだけど……
失礼かもしれませんが、一抹の不安が残ります。
だけど、お姉ちゃんは特に今の自己紹介を見ても眉一つ動かしていません。
「……私の事はそうだな、TASさんとでも呼んでくれ」
「たすさん? 変わった名前ね……発音もなんか耳馴染みが無いし」
「私は、アルタと言います……えっと、よろしくお願いします」
お姉ちゃんが変わった名前だと言われて気を悪くしないか不安でした。
だけど、お姉ちゃんは特に気にしていないようです。
……以前なら噛み付いてたよ、絶対。
「それで、詳しい話を聞こうじゃないか。まずは、報酬金に関してお聞かせ願おうか」
「これだ」
お姉ちゃんは袋を取り出して机の上に置きました。
結構重そうな見た目です。
護衛依頼の相場なんて分からないけど、ちょっと多いんじゃない?
「おお、大変結構だね」
それを見た四人は嬉しそうに口元を緩ませます。
……アザミさんは、殆ど反応していないけど。
「まず、注意事項が幾つかある。まず、経路は最短で行く」
「それはそれは……急いでいるようで」
それを聞いたピジョンさんは、若干嫌そうな顔をします。
もしかして、危険な道だったりするのかな?
ほら、私達が帝国に行くのに使った……流石にあれよりは安全だよね。
「風の噂だけど、あそこには危険な盗賊団が出没するって噂があるのですが」
「ああ、確実にその盗賊団と遭遇するけど」
「「え?」」
思わずピジョンさんと声が揃ってしまいました。
いやいやいや、盗賊に遭遇する前提で進むつもりなの?
普通はどう考えても避けるべきだと思うけど……
「まあそこは大した事ではないから気にせずに」
「いや、気にしてよ!?」
「そうだそうだ!」
口を揃えて抗議の声を出してみますが、お姉ちゃんは面倒臭そうな顔になりました。
お願いだから説明を面倒臭がらないで欲しい。
と言うか、私には先に説明していて欲しい!
「……アルタ。私の叔父に会いに行くと言う話をしたね?」
「うん、したね」
「その盗賊団のリーダーが叔父だ」
「「え?」」
わ、私の身内に犯罪者がいるの!?
お姉ちゃんが【異能】を賭博に利用したりとか、ちょっと悪どいとは思ったけど……
まさか、叔父さんの影響だったの?
私とピジョンさんがあたふたしている中、ガーベラさんとライノさんも驚いた顔をしていました。
しかし、アザミさんはそんな事もなく静かにコップのお水をちびちびと飲んでいます。
ちょっと冷静過ぎませんか?
「……叔父に会いに行く理由とか、色々聞きたい事がてんこ盛りなんだけどさぁ」
「その理由は長くなるから馬車の中で話そう。それに、来たから」
お姉ちゃんはそう言うと、唐突に背後を振り返ります。
すぐ近くに、いつの間にかスマイリーさんが音も無く佇んでいました。
「わっ、びっくりした!!」
「驚かせてしまったようだな。姉の方は……分かっていたか?」
「勿論」
「ふっ……なるほどな」
え、なんでこの人がここにいるの!?
「おいおい、嬢さん達よ……その人は確か」
「マジかよ……」
「スマイリー・ジル・バトラー様……帝国の重鎮じゃない」
この人達も驚いているようです。
アザミさんは、興味無さ気にまだお水をちびちび飲んでいます。
少しは動じましょうよ……お姉ちゃんみたいじゃないですか。
「紹介が遅れたな。この人も同行するから、そのつもりで」
「うん、それって僕達は必要なのかい? その人だけでも充分だと思うけど……」
「必要だな。正確には、貴女が」
「……?」
呼ばれたアザミさんは不思議そうに首を傾げています。
ところで、スマイリーさん一人で充分とは、どう言う事なのかな。
もしかして、実は滅茶苦茶強かったりするの……?
うぅ、お姉ちゃん説明が少ないから全然分からない!
「お姉ちゃんったら、もっと詳しく説明を……」
「アルタ、串焼き頼もうか?」
「え、いいの?」
「勿論よ」
わぁ……お姉ちゃん大好き!
「すいません、串焼きを二本」
「はーい」
給仕の人がすぐに注文を承ってくれました。
わーい、串焼き串焼き!
「アルタちゃんって、食いしん坊……」
「可愛いだろう?」
「そ、そうね」
「……だな」
何やら話しているみたいですが、今の私は機嫌が良いので許しちゃいます。
「それで、話の続きだが……盗賊団のリーダーである叔父に会いに行く、だったか。それって、襲われるって事かい?」
「襲われてもスマイリーが居れば返り討ちにできるが、面倒だからな」
「面倒って……ええと、結局戦うつもりは無いのか?」
「そうだな。向こうはかなり好戦的だが、交渉のカードはある」
そう言いつつ、お姉ちゃんは無言でアザミさんを見つめます。
やっぱり、何かあるんだろうね。
本人は不思議そうにしているけど。
「お待たせしました、串焼きです」
「わーい!」
「それでは、アルタが食べ終えたら向かおうか」
「……仲が良いのね」
ガーベラさんから微笑ましそうな視線を向けられましたが、私は串焼きを味わうのに忙しいです。
あ、前この街で食べたのと似てる。
あっちのが甘辛だったのに対して、こっちのは酸味があるけど。
まあ、美味しいからいいや!
◆ ◆ ◆
春の柔風を感じながら、馬車に揺られて流れて行く景色を意味も無く眺める。
それだけでも私にとっては新鮮で楽しい事です。
見た事のない植物や動物、小鳥の鳴き声や風の音を聞くと心が和やかになれますよね。
お姉ちゃんは、そんな事ないって言ってたけど……人それぞれって事なのかな。
私達七人を乗せた馬車は森の側を通り、順調に進んでいます。
と言っても、二台の馬車を使っているんですけどね。
それぞれ男女で分かれて乗っています。
因みにこの組分けは、スマイリーさんの提案です。
「け、結構揺れるね」
「……」
お姉ちゃんは横で何やら手作業をしていました。
覗いてみると、紙束と羽ペンを持っています。
手の動きが早過ぎてよく見えませんが、絵を描いているように見えますね。
「何を描いているの?」
「ん」
お姉ちゃんが紙を私の目の前に差し出してくれました。
紙には、恐ろしくリアルな私の絵が描かれていました。
串焼きを美味しそうに食べる構図ですね。
シェール公国で最近流行っているらしい「写真」みたいです。
はぇぇ、【異能】を手に入れたお姉ちゃんって何でもできるなぁ。
昔から絵を描くのは好きだったけど、本人がヘタの横好きだって言い切るくらいだったのに。
「それにしても、何で私の絵を描いてたの?」
「暇だったから」
「暇だからって、そこまで綺麗な絵を書けるのね……描き損じを訂正できないインクで、しかも馬車の揺れの中で」
御者席に座っているガーベラさんが、微妙に引き気味な笑顔でそんな事を言いました。
うん、私にはぜっっったいに真似できないって断言できる。
アザミさんは馬車に乗ってからずっと本を読んでいます。
酔ったりしそうだけど、平気そうなご様子。
フードも被りっぱなしで蒸れてそうだけど、特に気にしてないのかな?
「……アザミさぁ、暑くない?」
「平気」
「そう? ならいいけど」
ガーベラさんも私と同じ事を思っていたようです。
アザミさんは素っ気無く返しましたが、ガーベラさんは気にしていないみたい。
やっぱり、仲良しなんだなって感じますね。
でも……ずっとフードを被ってるのは、何だか距離を取られているみたいで悲しいかな。
「あの、アザミさん」
「何?」
「フードを取って貰」
「やだ」
「えませんかって、即答!?」
そ、そんなに嫌なの?
うーん、無理に見たいって訳じゃないし……
本人が駄目だって言うなら、これ以上追及するのは辞めておこうかな。
と、私は思っていたのですが。
「アザミ、隠す必要はないよ」
「?」
唐突に、お姉ちゃんはアザミさんに話しかけました。
「それって、どう言う意味?」
「アザミがエルフだって事は、知っているから」