街は混乱中で、道いっぱいに人々が広がっていました。
衛兵が駐屯している建物に押しかけているのを見かけましたし、本当に滅茶苦茶な事になっています。
衛兵達が縛られた人を連行したりもしていましたね。
そんな最中……私はと言うと。
「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
アザミさんと一緒に悲鳴をあげながら、街を車で駆け回っていました。
それはもう、とんでもない速度で!
何ですかこの車は!
馬車よりも速くてヤバいじゃないですか!?
道が少し凹凸があったのか、車が浮かび上がりました。
それも、丁度坂道を走っていた時に。
地面を離れた時の、浮遊感の恐怖が私達を襲います!
「ちょ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
「ふっ!」
スマイリーさんは上手く車を着地させましたが、こんなのが続くの……?
車に乗りながら説明をしてくれるんじゃなかったんですか!?
それと、車の耐久度も持たないだろうから、この狂った運転を何とか辞めさせないとっ!
「あの、スマイリーさん!」
「何だね? これから更に楽しくなる所なのに」
「お姉ちゃんがどうしてるのか、詳しく説明を……あと、もう少しゆっくり動かしてください!」
「………そうだな。つい、忘れていた」
忘れてたって……そんなに車の運転が楽しかったんですか?
「は、吐きそうだ……うぇっぷ」
ああ、アザミさんの顔色がー!?
「仕方ない。少しだけ安全運転をしながら話そう」
バックミラーちょっと残念そうな顔をしたスマイリーさん。
や、やっぱり運転に集中して貰った方がいいかも。
お話しと運転を並行できるのかな……?
「まず、この街は王権制が失われた頃から腐敗が始まっていた。麻薬の密売が主だが、その他の犯罪の温床にもなってるな」
あ、平気っぽい。
犯罪の温床……そう言えば悪そうな人が縛られて連行されるのを先程見ましたね。
「あいつは陛下が軍を率いてくるまで暇だからと、国でちょっと暴れて行くと宣言していた」
「暇だからで!?」
「人間の皇帝が直々に軍を率いるのも驚きなんだが……暇だからこんな事をするのか?」
動いてないと死ぬ、なんて言ってたけど……
だからと言ってここまで大騒ぎを起こす事ないでしょうに!
トラブルメーカーにも程がありますよ!
「一応、全く意味が無い訳でもないと言っていたな。それに、なるべく怪我人は出さないとも」
「いや、だからと言ってこんな大騒動になったなら、誰も彼もが迷惑なんじゃ……」
「……まあ、民草の感情は後で取り戻せるらしい。それに、犯罪者の確保もやっているそうだ」
犯罪者の確保……あまり想像出来ないけど、危険な事には違いない筈。
お姉ちゃんはどうして急にこんな事を……
「それと……む、来たな」
「えっ?」
「……後ろに車がついて来ているな。まるで、私達を追跡するように」
アザミさんの言葉に後ろを振り返ると、たしかに車が三台も見えました。
今まですれ違う車は見なかったので、これが初めての他車との遭遇です。
私達が乗っている車と良く似た車ですね。
と言うか全く同じなような……
「あれは走り屋と呼ばれるゴロツキ共だな。治安が悪くなったから、ああ言う輩がよく出現するのだ」
「……何だか向こうの人達、目が血走ってませんか?」
「全く、ちょっと車を借りただけだと言うのに」
……それは怒って当然です。
この人、感性が意外とズレてます。
「おい、向こうの奴等が銃を持ってないか?」
「二人共伏せておけ。いつ撃たれてもおかしくない」
「……ついてこなければ良かった」
アザミさんが暗い表情になりながらも俊敏に伏せました。
私もそれに倣います。
それにしても、銃ってそんなに恐ろしいんでしょうか?
「あの、銃ってどれくらいの威力があるんですか?」
「人間の骨を貫通するかしないかくらいだろうか? 心臓や頭を撃ち抜かれたらまず死ぬだろうな」
「……どうしてそんなに冷静なんですか?」
この人、怖い。
お姉ちゃんと同じくらい怖い。
「最悪、切り落とせば何とか……おっと」
バンッ!
と、音がしました。
恐る恐る視線を上に向けると、座席の頭の部分に穴が空いていました。
……これが銃かぁ。
「念を押すが、頭を上げるなよ?」
「上げろと言っても上げません!!」
簡単に人の命を奪えそうな兵器……
なるほど、たしかにヤバい武器です。
「それから、しっかり掴まっておけ!」
「え、何処を……きゃー!?」
「のわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
急激に身体が左側に傾きました。
アザミさんと抱き合う距離になりながら車の左側の壁に叩きつけられました。
頭を打ちそうになりましたが、アザミさんをクッションにして事なきを得ます。
「ちょっと、今のは……きゃー!?」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
今度は右側の壁に向かって私達は叩き付けられます。
「この後急に止まるから、頭をぶつけないように気を付けろ!」
スマイリーさんがそう言うと、キィィィと耳障りな音が鳴り響き続けます。
み、耳がおかしくなりそう……!
「……飛んで行け!」
ドン! ドン! ドン!
三度、車に大きな衝撃がありました。
視線に影が入り、気になってふと上を見上げました。
そこには、宙を舞う車が三台……
「ええぇぇぇぇぇぇ!!?」
思わず私は身体を起こして車が飛んで行った方向を見ます。
車は三台ともドボンと音を立てて川に落ちていました。
……相手がゴロツキとは言っても、流石に可哀想なんですけど。
「よし、後は……」
周囲を探すように辺りを見渡すスマイリーさん。
何が「よし」なのか分からないんですけど。
「うぅ……アルタ、お前さっき私をクッションにしなかったか?」
「気の所為ですよ」
「気の所為だな」
「そ、そうか……んんん!?」
「わぁ!?」
いつの間にか、私の横にひょっこりと顔を出すお姉ちゃんがいました。
……所々に返り血らしき赤い染みが付着してるのには触れないでおこう。
「全く……今まで何処に行ってたのっ!」
「散歩」
「私の知ってる散歩と全然違う!」
これの何処が散歩なのか説明してみてよ!!
「ここに居たのか。やる事は終わったのか?」
「大体は。後は、アレだけ」
「アレか……」
アレって何ですか……
……あれ、そう言えばクロバさんは?
「スマイリーさん、クロバさんはどうしたんですか?」
「別行動中だな。合流するのは戦争に勝った後になるだろう」
「そう、なんですか」
私と直接の血の繋がりは無いとは言え……ちょっと残念。
お姉ちゃんは寂しく……なさそう。
身体的特徴は受け継がれなかったみたいだけど、それでも血縁なのに。
何だか、血も涙もないように見えるよ……
「それでは、この街から撤収しよう。そして、このまま王国に向かう」
「では、すぐに出発しよう。運転するか?」
「勿論」
お姉ちゃんは運転席に座り、スマイリーさんは横にズレました。
……お姉ちゃんの運転が、どうかスマイリーさんよりも安全でありますように。
「それからアザミ。これ以上アルタを守る必要はないから、ついて来ないように」
「……ああ。やっと降りられるんだな」
ゲッソリとした顔のアザミさんがフラフラとした足取りで車から降りました。
「報酬はこれだ。ついでに、集合場所の宿屋はこの近くにある」
「おおう……ところで、私がついてきた意味ってあったか?」
「あるな」
えっ、あったの?
「ではな」
「ああ……う、安心したら吐き気が……」
車が発進しました。
後ろから聞こえてくる液体が地面に落ちる音は聞こえないように耳を塞ぎました。
さて。
ようやくお姉ちゃんとまた話ができるようになりました。
まずは何から聞こうかな。
……いきなりあの夜の事を聞くのはちょっと怖いな。
「お姉ちゃん、さっき話してたアレって何?」
「もうすぐ分かる」
「……いや、ちゃんと説明しようよ」
「面倒臭い」
んもう、お姉ちゃんったら!
私がお姉ちゃんを叱り付けようした、その時。
また、私の身体を浮遊感が襲いました。
「……へ?」
周りを見れば辺りは宙で。
当然、車は下へと落ちて行きます。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
だから、なんでスマイリーさんと言いお姉ちゃんと言い安全運転しないんですか!
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
「え、なんだって?」
棒読みのお姉ちゃん、無性に腹が立ちます……!
「だから、安全に運転を……いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
今度は宙に投げ出されただけでなくて、宙で回転して地面に着地しました。
大道芸ですか!?
屋根が無いから危うく落ちかけましたよ!?
「え、なんだって?」
また棒読みで同じ言葉を繰り返すお姉ちゃん。
まさか、質問する度にこれを繰り返すつもり……?
「……」
私が無言でいると、車の動きが安定しました。
やっぱりそうだ……
くっ、こんな形で質問を封じてくるだなんて……!
しばらく私が何も言えないでいると、私がこの街に入って来た門まで戻りました。
……しかし、車の速度が全く落ちません。
止まらないつもりと言う事は、まさか……
「遮られると面倒だから、強行突破するぞ」
「入った時と同じだな」
だからそう言う行為は辞めようよ!
いつか絶対悪人として捕まっちゃうってば!
「ちょっと、お姉ちゃん」
「アルタ、耳を閉じておいて」
「えっ?」
どう言う意味なのか全く分かりません。
けど、ここは言う事を聞いておいた方がいい気がします。
勘だけど……
「あ、あいつは!」
「今朝もここを無理矢理通った奴等じゃねぇか!」
そんな怒声が聞こえて来ます。
うう、お姉ちゃんの前科が増えていく……
「おい、今度こそ止まれ……ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわー! あいつ止まる気がないのか!?」
そんな人達の声も無視して、お姉ちゃんはノンストップで門を通って街の外へと抜けます。
……ごめんなさい! 私のお姉ちゃんがごめんなさい!
ってそうだ、耳を閉じないと。
ところで街の外に出ちゃったけど、結局アレの事は分からなかったなぁ。
ドガーン!!!
耳を両手で抑えていても痛くなってしまう程の轟音が背後から響きました。
「……今の、は」
おそるおそる振り返ると、そこには見るも無惨な姿になった門がありました。
殆ど破壊された門には、未だに煙が上がっています。
ああ、爆発したんだ……誰かの手によって。
「……さて、これで準備は整ったな」
「色々と突っ込みたい事があり過ぎるんだけど!?」