車が動かなくなったと同時に、ゲパルト王国へ到着しました。
なんて都合の良い……と思ったけれど、これもお姉ちゃんの計算通りって事なのかな。
ここまでの旅路は驚く程に何事もなかったです。
お姉ちゃんの運転に物凄く不安感を抱いていましたが、存外平気でした。
たまにアクロバティックな動きもしましたが、想像よりも安全運転で何よりです。
……お姉ちゃんはつまらなさそうだったけど。
「もう少し良い車なら、もっと遊べたのに」
運転で遊ばないでください……
お姉ちゃんなら教習所で車の運転を習いに行っても遊びだしそうです。
止まれって言われたのに思いっきりアクセル踏んだりしそう。
「無事に街の中に入れたけど、車は置いてくの?」
「目立つからね」
街の外……それも目立たない林の中に車は放置しています。
勿体ないけど、これでいいのかなぁ。
そうそう、この街はガスパールと言う名前だそうです。
前に一度、何処かで聞いたような気がするような。
たしか……そうだ、トイチさんが向かった街だ。
まだそこまで日が立ってる訳ではないけど、少しだけ懐かしい気分になりますね。
「……」
こっそりとお姉ちゃんの横顔を伺います。
結局、言いたい事や聞きたい事がたくさんあったのにあまり話せていません。
全く聞けなかった訳ではないんですけどね。
……お姉ちゃんが車を崖のすぐ側で走らせたりしてたのです。
めっちゃ怖くて話せませんでした。
なんであんなギリギリを行くの……
もう、思えば洗礼を受けた日からお姉ちゃんは隠し事をたくさんしていますよ!
ふーんだ。
これから絶対聞いてやるもん。
聞きたい事全部、ちゃんと説明してくれるまで諦めないよ!
差し当たって、まずは……!
「お姉ちゃん!」
「トイレならそこを曲がってすぐだ」
「……はい」
素っ気無いよ、お姉ちゃん……
◆ ◆ ◆
トイレから出ると、スマイリーさんが見当たりません。
何かあったのかな。
そう思ってお姉ちゃんに聞こうとしたら、スマイリーさんは戻って来ました。
やっぱり、ここは本人に聞いてみましょう。
……お姉ちゃんと気不味いからそうする訳じゃないですよ?
「何してたんですか、スマイリーさん?」
「ああ……少し買い出しに、な」
そう言うスマイリーさんの手には袋が握られています。
その中から漂う匂いから察するに中身は……
「キノコですか?」
「そうだ。よく分かったな」
「嗅覚には多少自信があるので!」
あと、味覚にも自信があります。
「そうか……たしか、次は蚤市に向かうんだったか?」
「ああ。そこで銃を買ってアガーテに向かう」
銃、かぁ。
当たったら凄く痛そう……いや、下手したら簡単に死んでしまいそうな武器だったよね。
お姉ちゃんの事だ、きっと余所見してようが百発百中だろう。
「一つ気になるんだが、何故シェール公国で購入しなかったんだ? あっちのヤツのが本場だから品質も良いだろうし、そもそも他国じゃあ入手すら困難じゃないか?」
「問題ない。買う対象は決まっているから」
それだけ言うと、お姉ちゃんは歩き出しました。
……やっぱり、何だか妙に素っ気無い気がします。
【異能】を手に入れたあの日から、お姉ちゃんの表情は殆ど無表情です。
以前までなら、普通に笑ったり怒ったりしていた筈です。
もしかしたら無理してるんじゃ、とも思いますが……
よく考えたら、最後にお姉ちゃんの顔をまともに見つめたのは結構前な気がします。
【異能】で性格が変わったのか。
それについては前も考えましたが、私はそこまで変わっている訳じゃないと結論付けました。
細かい部分では変化はあります。
妙にせっかちと言うか、じっとしていられなくなった事とか。
また、手癖とかが全く見られなくもなりました。
寝る時や何もしていない時はまるで石像のように止まっている事もあります。
まあ、大半は意味もなさそうな動きもよくありますけど……
とにかく、お姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんです。
何事にも動じなくなって、冷たい視線を常に放っていても。
……私は、そう信じたいです。
少なくとも、私にはそう見えたから。
「此処を右だ」
「ふむ……蚤市の中でも闇の深そうな場所だな」
私達は日の当たらない裏道へと足を踏み入れました。
正直、また犯罪でもやりそうで不安になって来ました。
時折すれ違う人も、暗い目をしていて陰鬱な雰囲気を漂わせた人ばかりです。
こんな所で買う必要が本当にあるの……?
「……そこだ」
お姉ちゃんが視線を向けたのは、暗い細道に唯一あった露天です。
店番をしているのは長い黒髪の女性で、結構な美人さんです。
物静かなそうな人で、何処か神秘的な雰囲気を醸し出しています。
こんな場所には似つかない人のような……
「さてと」
お姉ちゃんはスタスタと店番の女性に近付きます。
そして、そのまま流れるような動きでその女性の頭を鷲掴みにしました。
「ちょ、お姉ちゃん!?」
「えい」
お姉ちゃんはそのまま振り抜いて、女性の顔を思い切りテーブルに叩き付けました。
す、凄い失礼な事してるぅ!!?
またお姉ちゃんがやらかしちゃったよ!
「へぶ!?」
店番の女性は突然の攻撃に反応出来ずに叩き付けられました。
お姉ちゃんが手を離すと、女性はゆっくりと顔を上げました。
……うん、怪我は無いみたいでよかった。
鼻とか強く打ってそうだけど鼻血も出てない。
「……いてて。もしかして、私寝ちゃってたのかな?」
……もしかして寝てたの、この人?
「ええ。いきなり顔をテーブルに打ち付けたから驚いたわ」
「そう。それにしては妙に痛い気がするけど」
堂々と嘘を吐いたお姉ちゃんでしたが、女性はそれに全く気付いてない様子。
さも当然のように他人の頭を叩き付けるお姉ちゃんにドン引きです……
寝てる人を起こすだけなら、絶対もっといいやり方があるでしょ!
「お客さんですか? わぁ、嬉しいです! ショバ代出すのが面倒で目立たない場所でこうやってひっそりとお店を出してるんですが……何故か全然お客さんが全然来なかったので悲しかったんですよ!」
わわ、急に捲し立てるように話し出しました!?
物静かそうな見た目とは全然違ってグイグイくる人でした。
あと、さり気無くこの人も犯罪に片足突っ込んでますね……
もう気にしたら負けなのでしょうか。
「さぁさぁ、気になる物がきっと見つかる! メフィーのショップにようこそ!」
やたらハイテンションで騒ぐメフィーさんは、お店の棚から商品を見せびらかします。
私には何の用途で使うのか全く分からない、ゴム質の物でした。
穴が空いていますね。
「これなんてお勧めですよ! これを夜のお仕事で使うとですね、何と……!」
「……お前は子供に何を勧めているのだ」
こめかみを抑えたスマイリーさんがそれを見てそう呟きました。
珍しい表情ですが、一体どう言う事なのでしょうか。
うう、また置いてけぼり……
「しまえしまえ。私達が欲しているのはだな……」
「呪われた魔銃」
「ほほう、アレですか。少々お待ちください」
メフィーさんはすぐに棚へと手を伸ばします。
が、あれこれ触ってはあれでもないこれでもないと独り言を呟いています。
「あれれ、何処にしまったっけ〜?」
……最初の印象とはまるで違う人でしたね、
しかし、もう少し整理整頓とかした方がいいんじゃないでしょうか?
いちいち商品を取り出すのに時間がかかるのも不便でしょうに。
「……」
お姉ちゃんはそんなメフィーさんの姿を無言で見つめています。
出すのが遅過ぎてイライラしているんでしょうか。
いえ、そもそも静かに待っている事に違和感があるような……
無理矢理叩き起こしたお姉ちゃんが何もせずにいるんです。
もしかしたら、何か理由が……?
「……お、あったあった! いやぁ、結構奥にあったから取り出すのに時間かかったわねぇ」
そう言いながらメフィーさんが取り出したのは、無骨なデザインの銃でした。
私でも両手なら何とか握れそうなくらいの大きさですが……
「あの、これって……」
「俗に言う、呪われた魔法道具……呪具ってヤツですね!」
そう、その銃は控え目に言っても呪われているように見えました。
黒いモヤモヤが出てるし、変な魔法陣みたいなのが彫られているし……
正直、持つだけでも勇気が必要だと思う。
少なくとも、私は進んで持ちたいとは全く思えませんね。
それにしても、魔法道具?
銃は魔法で動いている物じゃない筈だけど……
「こちら、私の知り合いが製作した一品となっております!」
「買う」
「毎度あり!」
「いやいやいや!?」
こんな怪しいお店で怪しい物を買って大丈夫なの!?
買った後に怪しい人達に怪しい身に覚えのない請求書とか突き付けられない?
「しかし、これを買うだなんて変わり者だね君達。にししっ」
お金を受け取りながら、店員の女性はそんな事を言いました。
んもう、失礼な人ですね。
「私は別に変じゃありませんよ!」
「あはは、それじゃ他の二人は変なの?」
「うう、否定できません……」
「おいおい」
スマイリーさんは微妙そうな表情で見て来ます。
しかし、あの夜にお姉ちゃんの次に印象的だったスマイリーさんを思い出したら……
「あはは、面白い人達だね。ところで、それ何に使う気なの? ぶっちゃけ、何の役に立つのか私にも分からない代物なんだけど」
「え、何でそんな物売ってるんですか?」
「趣味だね」
変な趣味だね。
そして、そんな物を買うお姉ちゃんは……
「これを作った友人を、この銃で殺す」
……へ?
お姉ちゃんの衝撃的な発言に、私は思わず固まってしまいました。