TASさんが異世界で無双するようです   作:紙吹雪

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TASさんが賭博をするようです

 

 

「いらっしゃいませ〜♡……って、何だ子供か」

「わぁ〜……」

 

 カジノに入ると、窓がない割にはかなり明るい空間が広がっていました。

 いえ、明るいと言うよりは、私の見た事がない物が発する光が一部強いと言う方が正しいかも。

 人も街中と比べても遜色ない程たくさんいます。

 勝者の怒号や敗者の悲鳴が合わさり、とても騒々しい場所ですね。

 

 私達を迎えたのは、何故かうさぎさんの耳を付けた綺麗な女の人。

 ちょっぴりお肌の面積が多い服を着ています。

 しかし、私達の姿を見ると態度が変わってしまいました。

 

 やっぱり大人の人しかカジノは来ちゃいけないんじゃ、と。

 私はそんな感想が頭をよぎりました。

 何だかソワソワしちゃいます。

 

「チップと交換してくれ」

「は〜い……分かりましたぁ」

 

 お姉ちゃんはカジノの風景に全く動じていないようです。

 うさぎの付け耳をしたお姉さんは、嫌々ながらも私達の手持ちを受け取ります。

 って、全部!?

 なけなしの銅貨10枚が……

 

「だ、大丈夫かな?」

「心配しないで。お姉ちゃんに任せなさい」

 

 お姉ちゃんは笑顔でそう言うけれど……

 流石に持ち金0は不安にもなるよ。

 

「はぁ、なんで貴方らみたいなガキがこんな場所来るのかしら……親は何してんだっての」

 

 お姉さんは心底面倒臭そうに受付の台からチップを取り出し、お姉ちゃんに手渡します。

 

「えっと……」

「はいはい、チップ持ったらとっとと行きな。どうせカモにされるのがオチだってのに、馬鹿なガキだよ。はぁ……もう少しで休憩時間だし、それまで頑張るか……」

 

 お姉さんは嫌そうな顔でそう言い放ち、またカジノの入り口に向き直ります。

 向き直った時には、既に笑顔に戻っていました。

 

 ……口調は悪いけど、一応私達を心配してくれているのかな。

 うーん、もしかしたらいい人なのかもしれないや。

 

 貰ったチップはたった一枚です。

 しかも、看板の説明を見るに一番安い物みたい。

 本当にこれっぽっちで大金が稼げるのでしょうか?

 

「行こう。やるのはルーレットよ」

 

 こんな時でも、お姉ちゃんは平常運転です。

 以前だったらあんな事言われたら噛み付いていたお姉ちゃんでしたが……

 【異能】の影響で性格が少し変わった様です。

 でも、根本的な所は変わっていないです。

 どんな性格になっても、お姉ちゃんはお姉ちゃんです。

 

「うん! ところで、ルーレットってどこ?」

「あれだ」

 

 お姉ちゃんが指差した方を見ます。

 そこには、回転する円盤がありました。

 赤色と黒色の数字がたくさん書かれていて、その下には穴があります。

 数字は〜……36まであるみたい。

 0があるから、穴の数は37個になるね。

 あ、ちなみに0は文字の色が緑色です。

 

 これは、どうやって遊ぶものなのかな?

 円盤の上をボールが転がってるけど……

 

「おやおや……このような場所に似つかわしくないお嬢さんが二人」

 

 私が考え込んでいると、話しかけてくる人がいました。

 白黒の服を着た、男の人です。

 片手に赤っぽい液体の入ったグラスを手にしています。

 多分ワインですね。

 このカジノの店員さんかな?

 

「はふふ……ひょっとするとルーレットで遊びたいのかな?」

 

 変な笑い方の人でした。

 

「はい、そうです。貴方は誰ですか?」

「僕はこのカジノのディーラーだよ。今は休憩時間だからそこのバーで飲んでたのさ」

 

 おお、これが噂に聞いたワインですか……

 ちょっと飲んでみたいけど、お姉ちゃんが成人になるまでは飲んじゃいけないってうるさいです。

 なので、あとちょっとの間だけ我慢します。

 

「君達いくつ? どっちも子供だよね。こんな所に来るなんて最近の子はマセてるねぇ」

「一応お姉ちゃんは成人してますけど……」

「あ、そうなの?」

 

 お姉ちゃんは、同年代と比べても身長が低いです。

 私よりもちょっと高いくらいだね。

 昔から背が伸びないのをずっと気にしてました。

 

 今でも気にしてるのかまで分かりませんが、お姉ちゃんの表情を見るに……

 うん、多分怒ってます。

 少なくともこの人をあまり良く思ってないような気がします。

 お姉ちゃんはうるさい人が苦手だと自分で言ってたし。

 

「んー……今俺暇だし、君達みたいな幼そうな子がカモにされるのは見てて気持ちが良くないなぁ。よし、お兄さんがルーレットのコツを教えてあげよう!」

「必要ない」

「へ?」

 

 お姉ちゃんはディーラーのお兄さんを無視してルーレットに向かって歩きます。

 そして、側にあるテーブルについさっき貰ったチップを全て置きました。

 

「20に全額」

「ちょ〜っと待った! いやいやいやいや、君さぁ!?」

 

 すると、ディーラーのお兄さんが大慌てで止めに入ります。

 その表情は必死そのものです。

 

「君、ルーレットのルールは理解してるのかい?」

「ある程度は」

「一点賭けは確かに当たれば一気に稼げる。だけど、そう簡単に上手く行く訳がないんだからまずは赤黒賭けあたりからゆっくり始めようぜ!?」

「必要無い」

「うおぉぉい!?」

 

 ディーラーのお兄さんの慌てっぷりに比べて、お姉ちゃんは極めて平静です。

 寧ろちょっと鬱陶しそうにしている様に見えます。

 

「君、この子の妹かい? 一緒に早く止めようよ!」

「ええと……お姉ちゃんは、こうと決めたら絶対に曲げないので……」

「そんなー!? おい、カルタ! この子の賭け金戻してあげてよ」

「やだ」

 

 ディーラーのお兄さんは、カルタと呼ばれたルーレットを仕切っているディーラーにも頼みます。

 が、あっさり断られました。

 

「ほらトイチ、お前そろそろ休憩やめて戻らないとだろ?」

「いや、でも……」

「俺だってまあ気持ちは分からんでもない。でも、誰かの幸せは他の誰かの不幸で成り立ってる。それがこの場所だろ?」

「うぐぐ……」

 

 ディーラーのお兄さん……トイチさんは悔しそうにしています。

 この人も、悪い人じゃないみたいです。

 

「ほら、投げるぞ。それ」

 

 カルタさんは、玉を投げ込みました。

 ボールが落ちる穴の番号を予想して、当たったらチップが貰えるのだろうか。

 だとしたら、20番に落ちたら良いって事?

 

「くそっ。おい嬢ちゃん! 一緒に20番にボールが落っこちるのを祈るぞ!」

「え、あ、はい」

「いや、早く仕事行けよ」

 

 カルタさんは面倒臭そうにトイチさんにそう言います。

 

 カラカラとボールが転がる音が喧騒の中に混ざります。

 落ちる、と思ったら意外と落ちなくて面白いです。

 しかし、それでもボールはいつかは落ちるもの。

 

 

 ボールは、20番の穴に落ちました。

 

 

 わぁ……!

 これでたくさんお金が手に入るんだよね?

 

「お……お? ま、マジか!?」

「……凄いな」

「よっしゃー! 嬢ちゃんやったな!」

「は、はい……」

 

 トイチさん……悪い人じゃないんだろうけど、絡み方がちょっと暑苦しいです。

 ワイングラスを傾けて飲む仕草すら何故か暑苦しく感じられます。

 カルタさんがチップをお姉ちゃんに配ります。

 銀色のが六つ、金色のが三つです。

 

「やるな、あんた。ビギナーズラックってヤツか?」

「チップはそのままでいい」

「……は?」

「次は24に一点賭けする」

 

「ぶふぉっ!?」

 

 トイチさんが飲んでたワインを吹き出しました。

 ばっちいです……幸いにも誰かにかかりませんでしたけど。

 

「けぼっけぼ! いやいやいやいや!? 君何考えてんの!?」

「お、落ち着けトイチ。気持ちは分かるが、お前は早く仕事に戻れ」

「早く玉を入れてくれ」

 

 慌てている男の人二人の前でも、お姉ちゃんはマイペースです。

 お姉ちゃん、【異能】を手に入れてから度胸が付いたような気がします。

 

 ふと、周囲がザワついているのに気が付きました。

 耳を澄ませば、微かにその内容が聞き取れます。

 

「おい、あの子……折角一点賭けで勝ったのにまた賭けてるぞ」

「マジかよ、勿体無い」

「つーか子供がギャンブルするなよ……親御さんが悲しむだろうが」

「一回目はまあ、百歩譲って偶然当たったんだろ。二回目があると信じてるのは、ちょっと哀れだな……」

 

 内容を聞いてみるに、「今のはただのまぐれだろう」って意見が多い。

 うん、誰だってまあそう思うよね……

 ふと思うけど、お姉ちゃんじゃなくても未来予知みたいな【異能】持ちっているんじゃないかな?

 そう言った人がカジノに来たら駄目なんじゃと、この光景を見たら考えてしまいます。

 

 

 二回目のボールもお姉ちゃんの賭けた番号……24番に入りました。

 

 

「うそーん!?」

「お前、イカサマしてるんじゃないだろうな?」

「ウンガイイナー」

 

 トイチさんやカルタさんとお姉ちゃんの態度が先程から対照的です。

 話し方が完全に棒読みなのです。

 お姉ちゃんは大金が手に入ってるのに落ち着き過ぎじゃないでしょうか。

 もう少し喜んだりとかした方が……

 

「まさか、【異能】か……?」

 

 ぎくっ。

 

「……いや、そんな訳……でも……万が一……可能性が低い……」

 

 トイチさんは小声でぶつぶつと呟いています。

 が、周囲の喧騒もあって上手く聞き取れません。

 

「ルーレットでイカサマはできない、よな。はぁ……ほらよ」

 

 今度は意匠の異なるチップもお姉ちゃんに渡されました。

 その数は……白いのが十二枚、金のが九枚、銀のが六枚ですね。

 チップの色の意味が分からないので、今どれくらい手持ちがあるのかさっぱり。

 でも、周囲の反応を見るに凄いたくさんって事は分かります。

 

「また一点賭けする」

「お前本当にイカサマしてないよな?」

 

 カルタさんの表情が懐疑的になりました。

 二回も当てられる具体的な確率は分かりませんが、かなり低い事だけは理解できます。

 ズルをしてるのを疑われるのは当然かもしれません。

 

 周囲の人達は、お姉ちゃんがルーレットを始める前よりもかなり増えています。

 話し声が多過ぎてもはや上手く聞き取れません。

 ですが、疑ってる人が多めなのは何となく分かります。

 「イカサマ」と言う単語が頻繁に耳に入ります。

 

「次で最後。0番に上限まで賭ける」

 

 そう言いつつ、お姉ちゃんは白いチップを五枚置きます。

 

「……はぁ、分かったよ。それとトイチ。お前はいい加減仕事戻れ」

「い、いやだ! 次のゲームだけ見届けてから帰る!」

 

 トイチさん、仕事はやらなきゃ駄目でしょうに……

 気になるのは分かりますけども。

 

「……おい、ディーラー! お前イカサマしてるんじゃないだろうな!?」

 

 一際大きな声が聞こえました。

 誰が発した声なのかは分かりません。

 しかし、その内容にルーレットの周りの人達は内心同意しているようでした。

 カルタさんはため息を一つ吐いて、トイチさんに話しかけます。

 

「トイチ、お前玉投げろ」

「えっ、あ、ああ……分かった!」

 

 戸惑っていたようですけど、トイチさんはすぐに了承しました。

 カルタさんから玉を受け取り、立ち位置を交換します。

 

「さあ、皆さん! ディーラーを交換したのでイカサマの可能性は皆無ですよ〜!」

 

 トイチさんは周囲の人達に声を張り上げます。

 しかし……

 

「うるせー! こんなヘラヘラしたディーラーは信用できねー!」

 

 再び、一際大きな声が張り上がります。

 トイチさんは唖然とした顔をしています。

 そして、がっくりと肩を落として何処かへ去って行きます。

 哀愁を感じる後ろ姿です。

 

「ふい〜やっと休憩だわ……って、何よこの集まりは」

 

 そんな所に、先程のうさぎ耳のお姉さんがやってきました。

 ちょっと疲れた様子ですが、接客はやっぱり何処でも大変なお仕事なんですね。

 

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