私達が王都を去ってから、早い事にもう一週間が経過しました。
私達は今、ニリナさんが新しく継いだ宿に泊まっています。
……まさか、こんなに早く帰って来る事になるとは思いもよりませんでした。
色々とありましたが、ようやく一息付けるって感じです。
ゲパルト王国とディバーグ帝国との関係について。
皇帝陛下と王国の王様が話し合った結果、多額の慰謝料を払う形になったらしいです。
これは帝国ではなくシェール公国に向けて支払われるそうです。
表向きには公表せず、ひっそりと決めたんだとか。
これで三国間の国交も少しずつ良くなるだろうとスマイリーさんが感慨深そうに言っていました。
因みに、国庫から直接お金を支払うと記録に残ってしまうらしく……
ちょっと遠回りな方法でお金を準備する事になったのです。
どんな方法かと言うと……
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「イカサマだっ……無効だっ……!」
……お姉ちゃんがギャンブルで毟り取って来ました。
カジノに一旦お金を流して、その後お姉ちゃんが回収した訳です。
完全に扱いが銀行と同じなのはどうかと思いました。
良いのかなぁ、あれは……?
あ、サギーさんやカルタさんは元気そうでした。
トイチさんはちょっと疲れてた様子だったけど。
次に、皇帝陛下。
何だかんだ思うところは残っていそうですが、それなりに晴れやかな表情になりました。
普段は営業スマイル感がありましたが、それもなくなって心から笑っていると感じます。
皇帝陛下の息子、リーベバンデさんが亡くなったのはとても残念ですが……
それでも国民の為に虚勢でも前向きでいるのが仕事なんだと言っていました。
うん、ちょっとだけ頼り甲斐のある人に成長したのかな?
……少し私への距離が近くなったような気がしますけど。
それと、お姉ちゃんの計画を聞いた時は……
「あいつが蘇るなら……だからって、あいつの仕えた主人の大切な人を見捨てたくはないぞ!」
お姉ちゃんとついでに知っていて口止めされていたスマイリーさんにぷんぷん怒っていましたね。
でも、二人とも全然悪びれてないように見えたのは……私の気の所為かな?
あ、デシンクちゃんは見逃したみたい。
スマイリーさんに脅されてた分を考慮したとか。
その分、スマイリーさんに矛先が向かったんだと思います。
……きっと、今の皇帝陛下なら何があっても大丈夫だと思います。
スマイリーさんはあんまり変わっていません。
でも、皇帝陛下が元気になって少し嬉しそうにしていたと思います。
あんまり自分の話をしない人なので、あくまで私の所感ですけど。
しかし、それにしても最近は割と楽しげにしているので気になって聞いてみると……
「国に帰ったら、始めたい趣味が出来たからな」
だ、そうです。
もしかして、車?
あの三半規管を揺らすのが目的なんじゃないかってドライブをまたするつもりなの……?
……私が乗る事はもうないだろうし、気にしないようにしようっと。
デシンクちゃんもあんまり変わってないかな?
相変わらずお姉ちゃんの事を慕っているみたい。
お姉ちゃんは割と邪険に扱ってるのに、なんでそんなに慕うんだか……
アリアス様の事もあり、デシンクちゃんは帝国に引っ越す事になりました。
帰り際にアガーテに寄って自分の従者を回収すると言っていました。
家族はついて来るのかと聞いたところ、父親以外は既に縁が切られているらしく……
それでも元気そうに振る舞ってるのがデシンクちゃんらしいと思います。
そうそう、父親と言ったらお姉ちゃんってば!
アリアス様について、お姉ちゃんはとんでもない事を隠していました。
何でそれを言わなかったのかってくらい重要な事をです。
「え……?」
「必要性を感じなかったから言わなかったが」
何と、アリアス様は生きていると。
いや、何故それを言わなかったの!?
どう考えても必要な事でしょ!?
「アリアスには影武者が居たから。確かめてはないけど、今回もきっと生き延びてるだろう」
「今すぐデシンクちゃんに伝えないと……!」
「それはアリアス本人に止められている」
何でも、今までたっぷり甘えて育てたから教育によろしくないとかどうとか。
……うーん、他人の教育に口を挟むのは無粋だってのは分かるんだけど。
「甘える対象がお姉ちゃんに変わっただけなんじゃ?」
「だから冷たく突き放してるでしょ」
「え、それが理由!?」
妙に冷たいなぁって思ってはいたけど……
「いや、単になんか気に入らないのもある」
「……デシンクちゃんが可哀想になってきた」
「なんか妙に行動がズレるし、再現性が低くなるし」
お姉ちゃんの言っている意味はイマイチ理解できませんが……
何となく、お姉ちゃんの天敵はデシンクちゃんなんじゃないかって思いました。
あの子に助けられた事は多いし……私だけでも沢山可愛がってあげたいな。
変な所も多いけど、概ね良い子だし。
ムヴィエ王女についても少しだけ説明が必要かな?
あの子は国王に代わって色々と動いているようです。
皇帝陛下は事情を知る人間は少なく済ませたいと決めたそうで。
それで、他の王族の中でも皇帝が来たのを知っているのはムヴィエちゃんだけになりました。
その影響で働かされる事になったのは不憫ですね……
お姉ちゃん曰く、話が長くて嫌いな奴とも言われていました。
デシンクちゃんと同じくお姉ちゃんから嫌われてるみたいで。
ううん、だったらお姉ちゃんが好きなタイプってどんな人なんだろう?
……あ、恋人は許さないよ。
しばらくはお姉ちゃんと一緒に楽しく過ごしたいもん。
その間はずっとお姉ちゃんを独占しちゃうもんね、ふふん。
あの日から少し心が離れちゃったから……また昔のように仲良しに戻るんだ。
それと、教会について。
あの後、教会は解散が決定したようです。
ザミエルさんが直接そう決められたんだとか。
教会は王国でかなり普及していて、急激に解散しても困る人が多いと思うんだけど……
王家にも強い関わりのある、かなり根強い組織だったみたいだし。
混乱する人々を積極的に鎮めているのはあの国王。
ムヴィエちゃんも国民に積極的に呼びかけを行っていると聞きました。
実際に聞いた訳じゃないですか、その成果はあったようです。
混乱による影響はそこまで出ていないみたい。
……やり方を変えると言ってたけど。
まあ、きっと今度こそより良くなるよね。
具体的に何がって聞かれても分からないけど。
機会があったらお姉ちゃんに聞いてみたいですね。
まだまだ知らない事が沢山だから、ね。
最後に、お姉ちゃん。
しばらくは休日を過ごしたい……そう言っていたんですが。
どうも、動かないでいると落ち着かない身体になってしまったらしく。
……私からしたら、落ち着かないで済ませられるレベルじゃないと思うけど。
とにかく、最近は色々と遊んで過ごしています。
ギャンブルで稼いだり、ギャンブルしたり、ギャンブルで勝ちまくったり……
あれ、もしかしてギャンブルしかしてないんじゃ……!?
と、私がお姉ちゃんの不適切な過ごし方について考えていると。
後ろから誰かが私の髪を触りました。
お姉ちゃんです。
「どうかしたの?」
「……改めて考えると、まだまだ一昨日のギャンブルで更新箇所があった気がして落ち着かない」
他のお客さんとお店の財布をすっからかんにしておいて出る言葉がそれ?
「もう、あの後決めたでしょ。無闇に巻き戻したりはしないって」
「……」
お姉ちゃんはちょっと不服そうに私の髪を弄っています。
そんなに気になる……?
時間短縮とか、細部に拘りがあり過ぎます。
……お姉ちゃんと私は、一つ約束をしました。
もう無闇に時間を巻き戻したりはしない。
お姉ちゃんが【異能】を得た日に戻らずとも、幸せを目指すと。
もし約束しなかったら、絶対巻き戻して居た気がするよ。
今まで私が出会って築いた人との繋がりが全部無かった事になるのは……辛いから。
お姉ちゃんはあまり納得の行かないような顔をしていましたが、約束してくれました。
「ところで、お姉ちゃんはいつまで私の髪を弄ってるの?」
「三つ編みにしてる。最近、アルタも髪が伸びたから」
「あんまり意識出来てなかったけど、そう言えばそうだね」
以前から髪を伸ばしてみたいとは思っていたけど……忘れかけてたね。
最近はそんな事考える余裕がなかったからかな。
よし、私も色々な髪型にしてみよう。
「あ、お姉様! ずるいですわ、私にもしてくださいな!」
いつの間にかデシンクちゃんがこっちにやって来ていました。
疲れて寝てたと思うんだけど、回復するのが早いなぁ。
色々あって疲れてるのはこの子も同じなのに。
「私の方が髪が長いので、私の方が弄りがいがありましてよ!」
「たしかに、デシンクちゃんの方が弄りがいがありそうだけど」
「……明らかに別の意味に聞こえたのは気の所為ですの?」
うーん、それにしても温泉って凄いなぁ……
疲れがさーっと抜けて行くみたいで心地良くて堪らない。
これなら毎日でも入っていられるよ。
「温泉、帝国に帰っても入りたいなぁ……」
「あら、元は貴女も王国民ではなくて?」
「……そうだね。確かにアガーテの街にも帰りたいと思う時もあるよ」
私が一番長い時を過ごしたのは、あそこだし。
でも、それは私だけでお姉ちゃんにとっては違うだろうから。
それに、私にとってはお姉ちゃんの隣が最も安心できる居場所なんだ。
「デシンクちゃんは気にしなくてもいいよ。そっちこそ寂しくないの?」
「寂しくない……と言うのは、嘘になりますわね。でも、悲しんだままその場で止まってしまっては家族の名折れでしてよ!」
ふんっ!
と、デシンクちゃんは小さい胸を張りながらそう語りました。
……元気そうで何より。
「ねぇお姉ちゃん、帝国にも温泉ってある?」
「ある。そんなに巡りたいなら……少し帰るのが遅れるけど寄って行く?」
私は少し考えます。
帝国に早く帰りたい理由があったから。
皇帝陛下とお姉ちゃんの計らいで、学園に通う事が決定したんです!
勿論、お姉ちゃんと一緒に。
学年とか気になったけど……特に問題は無いみたいで良かったよ。
ずっと、夢でしたけど……今はそれよりも。
お姉ちゃんと一緒に居たいな。
学園でも一緒に居る事はできるけど……うん、決めた。
「うん、お願い!」
「分かった……お姉ちゃんに任せなさい」
私のそんな思い付きの我儘にも、お姉ちゃんは笑顔で応えてくれました。
……ああ、安心した。
今のお姉ちゃんなら、どんな困難すらも乗り越えて行ける。
私にそう思わせてくれる力がありました。
多分、思い切り走って……だろうけどね。
お姉ちゃんが歩いている姿は少し違和感を覚えてしまったもんね。
再び二人で一緒に走るのなんて、いつ振りだろう?
今から楽しみで仕方ない。
ずっとずっと、一緒だよ。
お姉ちゃん。
第一部完。
姉妹はずっと共に在るでしょう。
ここまで読んでくださった方に、誠に大きな感謝を。
それと誤字報告をしてくれた方にも感謝を申し上げます。
誤字が多過ぎて自らの未熟さを痛感しました……精進します。
第二部がいつになるかは未定です。
学園モノっぽくなるのは決めておりますが、まだ話を練っている最中です。
なるべく早めに投稿出来るよう努力しますので、どうかお楽しみに。