以外のミルキーの意味を理解した。
昨夜の夢から北を目指すことを決めたジョセフはソウフラビの更に先にある場所へと向かっていた。
めちゃめちゃイイ景色!
潮の匂いが、風に乗って鼻を掠めた。そこには、海に囲まれた街があった。ソウフラビから少し北に進んだ所にあるそれは大きい城のような建物だった。
周辺を湿った砂で囲まれた築かれた石の街。時には海に浮かぶように佇み、中央には岩山、その頂に古びた城が見える。
「観光地か?」
思わずそんな感想が口に出たジョセフは街に足を踏み入れた瞬間、違和感に気づいた。
人が少ない。
港に停泊している船もまばらで、活気がない。市場らしき場所も、どこか沈んだ空気を纏っている。
「なんかあったな、これ。」
そう呟いた直後だった。
「だから言ってるだろうが」、「さっさと吐けよ!」
路地の奥から、荒い声が聞こえた。
覗き込むと、ローブ状のような服を来た男が二人組の男に詰め寄られていた。
「知りません…本当に…やめて下さい。」
「お宝の場所だよ、トボけんな」
あぁ、なるほど。イベントか、
ため息をつきながら、ジョセフは歩み寄り声を掛けると二人が振り返った。
「あ?」、「んだよ?何のようだ。」
「やめとけって。弱そうなやつから情報取ってもロクなの出てこないぞ。」
一瞬の沈黙。
「…ガキが」
次の瞬間、殴りかかってきた腕を軽くいなす。逆に腹へ一撃。もう一人の足を払い二人は転がった。
それ以上追撃はしない。すると二人は舌打ちを残して去っていった。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます……」
深く頭を下げる男。
「もしよろしければ、修道院へ。お礼をさせて下さい。」
「いや別に…
と言いかけて、少し考える。お礼にカードやら情報やらを貰えるかもしれない。ビノールトからそう言ったイベントがあると聞いていたジョセフは打算マシマシの思考で案内された場所へと着いていった。
ーーーーー
石段を登り、街の頂へと向かう途中で男からこの街について色々と聞く事が出来た。
ここの街はアクア・ノースと言い、海の満ち引きが激しく干潮の時は陸続きに、満潮時には城が海に浮かんで幻想的な光景になるらしい。
あと城に見えた大きな建物は城ではなく修道院らしく俺が助けたバッカスという男もこの修道院で修道士として奉仕しているのだと教えて貰った。
修道院に着き中に入ると中は酷く静かで閑散としていた。バッカスに案内されたのは、待機室や応接室などではない、食料庫のような場所だった。
棚は、半分以上が空。
「…これは」
その時、奥から一人の女が現れた。
「あなたが彼を助けてくださったのですね。感謝致します。」
整った所作、無駄のない動き。
「セラーのメルトと申します」
セラー?何じゃそりゃ?
俺の反応を見て察してくれたのかバッカスが話し始めた。
「セラーとは家政長、つまり修道院の食料、飲料、備品の管理責任者です。」
バッカスの説明に頷きつつメルトに自己紹介をした。
「改めてお礼を申し上げます、ジョセフ様。」
感謝をしているが、どこか表情は暗い。何かあったのか聞こうとしたところ
「お礼の品を差し上げたいのですが、差し上げられる物が殆ど残っていません……」
ジョセフもここまで露骨な状況では、まともな報酬が出るとは思っていなかった。今回のイベントは期待外れだと思っているとメルト棚の奥へと歩み寄ると、直ぐに戻ってきた。
「…僅かではありますが、どうか受け取って下さい。」
「メルト様!それは、それは駄目です!」
メルトの発言にバッカスが否定した。
「これは私達が出来る唯一の感謝、少量では有りますが旅の助けにはなります。」
「ですがそれを渡したら、市民に配る分が!…セラーのメルト様が一番把握していると思います…もう残りが少ないんです…」
気まずい状況のジョセフは何ともいたたまれない気持ちでそれを見ていた。報酬は要らないので話を割って帰ろうとしたところ
「あの…「分かっています!」「なら何故!」
言葉が詰まった。2人の目を見ると薄らと涙が浮かんでいた。メルトは手にした食料を差し出し頭を下げた。
「…それでも、助けて頂いた方に何も渡せないなど…出来ません。」
メルトの言動に見兼ねたバッカスも歯を食いしばった。そして同じように頭を下げた。
「…受け取って下さい。」
半ば泣きながらの声だった。ジョセフはそれを見ていた。数秒何も言わない。ただ差し出された食料と2人の今までの会話を思い浮かべる。そして2人の表情を見比べた。
「貰えるか!!!」
空気をぶち壊すような声が響いた。2人はびくりと顔を上げた。
「こんなの受け取ったら、俺ただのクズだろうが!何?外道、2人は俺を外道にしたいの!?」
ジョセフはため息を吐き、頭を掻いた。
「…で?ここまで空っぽになった理由は?」
2人が言い淀む中、先に口を開いたのはバッカスだった。
「海に怪物が出るようになり船が出せません。漁も出来ず物流が止まりかけています。」
なるほど。街の異変の正体は怪物による水産業の崩壊か。
「それだけではありません」
メルトに促がされ修道院の奥へと歩く。案内されたのは、小さな礼拝堂。その中央に銅像や彫刻ではなく泉があった。
静かに水が湧き続けている。
「この水は、この街の生命線です」
メルトの声が、少しだけ強くなる。
「ですが最近、満潮になると怪物が現れてこの泉を狙うのです」
ジョセフは泉を覗き込む。透明な水。底が見えない。ふと視線を横に向けると古びた石碑があった。
潮満つ夜
聖水を守りし者に
永遠の水を与える
「数多の旅人が怪物に挑みましたが誰も倒す事が出来ませんでした。」
しょうがない!2人の儚い様子に怪物を倒す事を決めたジョセフは誰も倒す事が出来なかった意味を薄らと把握した。
「理由は簡単だろ。
ジョセフは振り返り答えた。
戦う場所が最悪だ。」
ーーーーー
深夜、海が満ちた。干潟が消え、街の外周が水に沈んでいく。道が消え、橋が消え、残るのは修道院のみ。周りは小粒ではあるが雨が降っている。
敵を待ち構えていた時、海面が揺れる。次の瞬間、それは現れた。
海面から姿を現したのは、身体が珊瑚と貝に覆われた3メートル程の巨体。怪物と呼ばれるのに相応しい姿だった。
「…汝ら…穢す者」
低く、濁った声。怪物の身体が軋みだし殻の一部がジョセフ目掛けて飛んで行った。これに反応しジョセフは跳んだ。
「速ぇ!」
直ぐに着地。だが足場が悪い。 波が揺れたと同時に怪物は海中へ潜る。
「くそ、やりづら!」
戦うフィールドが海水で足に取られた不利的状況、瞬間背後から水が跳ねた。咄嗟に身を捻ったが場所は怪物が有利。間に合わない…その瞬間
怪物とジョセフの間の海面が裂けて波を蹴り上げる何かが走った。
「どけガキィ!!」
突っ込んできたのは、サーフボードに乗った男だった。水を操り、一直線に滑る。
「海で戦うなら波を読め!!」
「いや読めるか!」
急な助っ人も束の間、怪物が再び動き出したと同時に男が片手に持っていた銛を掲げた。海から空中へ水が集まると巨大な水球へと変わった。
「喰らえ!!」
水球を叩きつけ轟音が響いた。
「…効いてねぇ!?」
殻は無傷。だがジョセフは男に視線が向いた怪物に素早く近づき全力のパンチを喰らわせた。
「ッ!硬ェ!」
不意打ちのパンチに少しのよろめきは見せたが依然として傷が付かない。
「クソが!どっちもジリ貧じゃねぇか!」
男がそう言うと怪物に視線を向けながら話し始めた。
「坊主!俺ぁシーハンターのグラチャンだ!コイツと俺らは相性が悪りぃ、逃げる準備しとけよ!」
怪物は変わらずグラチャンの方に視線を向けていた。グラチャンがもう一度銛を掲げて空中に水を集め始めた。水を集めると水球から形を変わり星形になった。
「これならどうだぁ!千切れろや!」
星形の水は回転が掛かり速度を上げて怪物に当たったがいずれも無傷だった。
「ハッ…ハハ、これは無理だわ。」
(サンゴ、貝…!?)
閃く。
「おい!逃げるぞ!」
「水球、もう一回!」
「はぁ!?」
「いいから!星形のじゃなくて普通の奴!」
「どうにか出来んのか!?知らねぇぞ!」
グラチャンが再び水球を作り、ジョセフはそれに触れオーラを込めた。
ーーー
ジョセフの念能力は、厳密には「具現化」と「変化」の複合に近い。水という媒体を起点に、味覚・性質・刺激を作り出す。だが、その過程において「取り除く」という工程は存在しない。故に彼の生成物は、常に過剰へと向かう。
濃すぎる味。強すぎる刺激。
しかしそれは同時に極端な状況下での特効性を意味した。
基本的に市販の炭酸飲料は二酸化炭素の含有率が約0.4〜0.8%とされている。ジョセフが普段から作っている炭酸飲料もおおよそがその濃度である。
しかしジョセフが水球に触れ周で込めて作り始めたのは二酸化炭素濃度約10%の炭酸水。通常であればこの濃度の二酸化炭素が水に含まれる事は事実上不可能である。しかし周で無理やり水と二酸化炭素を閉じ込める事で規格外の水が完成した。この濃度は超強酸性で人体に触れたら致命的な化学火傷や二酸化炭素中毒となり、ありていに言えば毒である。
また珊瑚や貝は酸性に弱い。この水球は珊瑚や貝類にとって猛毒となりうる。
ーーー
「周」水球にオーラが流れ込みオーラが水球を包む。水が変質し泡が出始め増える。圧縮…更に圧縮…極限まで圧縮された水は物理学的にこの世に存在し得ない超強炭酸濃度の水。
「これならッ!!!」
グラチャンが相手の気を引いているうちにジョセフは水球を怪物に叩きつけた。
すると怪物に異変が起こる。
ジュウゥゥゥ……
身体全体から泡が出始め数秒後には泡まみれになり姿が隠れた。少しして怪物から呻き声が聞こえ始めたと同時に姿が見えてきたところ色鮮やかだった珊瑚や貝が白一色へと変わっていった…
珊瑚には「白化」と言われる現象がある。珊瑚は体内に藻類がおり共生しながら生きている。藻類が光合成を行い珊瑚は生命を維持している。そして鮮やかな色彩もその共生関係によって生まれている産物だ。
しかし水温の上昇や水質の変化、あるいは強いストレスを受けた時、珊瑚はその藻類を体外へと放出する。すると色を失い、白く変色する。これは色が抜けただけでなく栄養供給を失った珊瑚にとって危険な状態である。
また貝類にも別の形で現れ、海水が酸性となり殻の主成分が溶け出し構造そのものが脆くなる。そして殻の中身にも大打撃を与える。
つまり白化とは、生きる為の環境が崩壊した証明に他ならない。
殻が溶け、初めて怪物が苦悶の表情を見せた。
「……ッ!」
動きが怯んでいる隙にグラチャンは銛を怪物に打ち込むと何故か急に顔を顰めて後退した。
身体にヒビが入った。さっきより確実に身体が脆くなってる!イケる!
酸により筋肉が動かなくなった怪物はグラチャンの攻撃箇所から徐々に身体に亀裂が入った。
巨体が崩れて、海の勢いが止まった。崩れ落ちていく中で、怪物が呟く。
「…汝ら、穢す者、
目が一瞬あった気がした。
…否…それでも…滅ぼす。」
怪物が完全に崩壊し喜ぶより先にグラチャンの叫び声が響いた。
「坊主!その辺一帯から離れろ!出来なければ海の中に潜れ!」
後ろから聞こえたグラチャンの声に反応するより先に肺が苦しくなったジョセフは浮かんでいた身体が海に沈んでいった。
息が…泳げない…ヤバい…意識が遠のく、そこでグラチャンに抱えられる感覚が残り叫び声のような声が聞こえた。
「馬鹿野郎!!念ってのは敵だけ殺せば良いって訳じゃねぇんだよ!!」
少し意識が飛び目覚めるとグラチャンに背負われ修道院に向かって歩いてた。
ーーーーー
歩けるようになりグラチャンの肩を借りながら修道院に顔を出すとバッカスとメルトが出迎えてくれた。
「おぉそのような姿になってまで…ご帰還を心よりお待ちしておりました。ジョセフ様」
「これでこの街にも活気が戻ってきます。心から感謝を。」
2人から感謝をされ深々と頭を下げたメルト達は泉から一つの壺を持ってきた。
「これは?」
「これは湧き水の壺。これを待てば生涯水に困る事はないでしょう。貴方に神のご加護が有らん事を。」
「いやどうゆう意味?」
「聖水を守りし者、本当に、ありがとうございました。」
この後何度話を振っても同じ言葉しか返ってこなく改めてゲームのNPCだなと思ってしまった。
まぁいいか…それよりも問題はこれだ
湧き水の壺…常にきれいな水が沸き続ける壺。1日で1440リットルの水が湧き出る。
俺はすぐにカード化した壺を現物に戻した。
「…無限か」
壺を傾けると水が流れる。
俺は口元を緩めた。ニヤニヤが止まらなかった。壺から流れる水を手で掬い飲む。…美味い!
「ドリンク屋、開業だな!」
「お前?何言ってんだ?」
グラチャンの疑問を他所にその日から、街に少しだけ活気が戻った。そして海は静かにそれを見ていた。
「…汝ら…誰も許さぬ…」
修道院は普通男女別でしょ…黙れ小僧。お前に男女共用で禁欲に耐える男を救えるのか。
「急」が投稿されると思ったか!?まだだね❤︎