二人に厳しめ。後半キラフレ描写あります。
本作はpixivにも投稿しています。
「キラ! お前、どうしてあんな事をした!?」
仕事場に掠れた声が響き渡る。ルージュから降り立ったカガリの嬢ちゃんが着艦したフリーダムの下で詰め寄っていた。
対する坊主はパイロットスーツの襟首を掴まれたままだってのに、器用にため息なんか吐いている。淡々と静かな声が耳を打った。
「あんな事って、何。アスランを撃った事?」
「お前……決まっているだろう! なんでアスランにあんな事したんだよ! 何もあんなバラバラにしなくったって!」
食いちぎらんばかりの勢いで噛まれた唇から放たれた言葉に息をのむ。アークエンジェルに帰投する前にフリーダムは立ち塞がっていた赤いモビルスーツの四肢を外して解体していた。あの機体にアイツが乗っていたのか?
赤い服が見惚れちまう程よく似合っていた綺麗な坊主。機械弄りが趣味だって事で俺達整備班がよく話して面倒みてやった。その甲斐あってか、キラとは幼馴染で親友だってのも気まずそうに教えてもらった。あの坊主がザフトに戻っていた事は驚きだ。
けど、一度は分かり合えたかけ替えのない親友を撃ったのか? 信じられない思いで青い服の子供を見る。ストライクのコクピットに寝泊まりしてた頃と同じように張り詰めた顔から静かな声が響いた。
「アスランの強さはカガリも知ってるでしょ。あれぐらいしないと止まってくれない。アスランだって、本当はオーブを撃ちたくなんかないはずなのに」
「でも! いくらコクピットは傷つけていないからって、無事かどうか分からないじゃないか! アイツ、今頃ひょっとしたら……! なんでお前達、またこんな事に……!」
赤くなっていた目元からまた涙をこぼした嬢ちゃんの指摘に頷く。他の部品が一斉に斬られたんだ。コクピット内で電気系統のトラブルが起こった可能性は充分に有り得る。ただでさえあの高度からの落下だ。あの坊主がコーディネーターな上に優秀な軍人でも大怪我してるかもしれん。今頃ここ以外の船はモビルスーツの整備や修理、怪我人の手当てで火の車だろう。同じ裏方として同情してしまう。やった側に居る人間としては可笑しいかもしれない感情を持て余していると、坊主が淡々と言葉を紡いだ。
「何言ってるのさ。君が始めた事でしょう? 出撃前に僕聞いたよ。たぶん駄目だと思うけど良いの、って。それでも、って答えたのはカガリだ。オーブの人たちを守りたい君のために僕頑張ったのに。君が選んでやり通した事だ。もう忘れちゃったの?」
「お前なぁ!」
嘲るように嗤ったガキの頬が赤く染まる。もう一発食らわせようとした嬢ちゃんの震える細い手を掴んで待ったをかけた。
「カガリ嬢ちゃん、落ち着け。坊主、お前も今のは無い。流石に言い過ぎだ。ほれ、二人とも着替えて頭冷やしてきな」
こちらの存在を忘れていたようにハッとした嬢ちゃんの両手が力無く落とされる。いつもより小さく見える背中が遠ざかった後、片割れも頭を下げて去って行った。
柄にもない仲裁なんかした為どっと息を吐く。もう居ない人に頼る言葉が思わず溢れ落ちていた。
「貴方が今も居てくれたらこんな事にならなかったんですかねぇ、フラガ少佐」
「分かってるんだよ、キラ……」
着替え終わり、独りぼっちの部屋で膝を抱える。
全部、私のせいだった。 武器を失ったオーブ兵達が特攻なんて手段を取ったのも、キラとアスランが再び敵対する事になったのも、私が選んだ結果だ。アイツの言っていた通りにオーブに帰っていれば良かったんだろうか?
でも、今はユウナに実権を握られてしまっている。祖国に帰った所で私が出来る事はたかが知れている気がした。けど、だからってこんな大勢のかけ替えのない命が失われる事になってほしくなかったのに。やってきた事は逆効果だったんだろうか? 今の自分達が正しいかすら分からなくて嫌になってしまう。しばらくそのままでいると、ドアをノックする音が耳を打った。ラミアス艦長の気遣わし気なやわらかい声が優しく聞こえてくる。さっきカッとなった私を止めてくれたマードックさんから話を聞いたんだろうか。
涙を拭いて立ち上がる。とにかくもうこんな事は終わりにしようと決めながら遠く離れたアスランの無事を心の底から祈っていた。
「これで、大丈夫かな?」
他に誰も居ないロッカールームで君に話しかける。赤い髪が綺麗な君。僕が守れなかった君。バルトフェルトさんが居なくなった今、此処を使うのは僕だけ。だから、フレイの写真を飾っても誰にもバレない。歳を重ねられないままにしてしまった彼女に言葉を続けた。
「戦場に無駄な介入をした。大事で大切で換えのきかないアスランも撃った。アスランはただ産まれた場所のために何かしたいだけで悪い事してないのに傷つけた。カガリにも、血の繋がった妹にも酷い事を言った。ねぇ、フレイ。これで僕、地獄に行けるかな」
僕のしてきた悪い事を指折り数えて問いかける。フリーダムは先の大戦を終わらせた英雄なんて呼ばれてるらしい。いつだったかラクスにも言われた。キラのしてきた良い事はきっと宇宙より上に居る方にも褒めていただけますわ、なんて。
嫌なのに。褒められたくなんかないのに。あの女の子や、トールや、アスランの友達を殺してしまったのに。何より、フレイを守れなかったのに。そんな僕が良い人達の居る場所には行けない。
だから、悪い事をうんとして、良い事なんて帳消しにして、戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って死なないと。懐かしい思い出の中で彼女に言われた言葉を反芻する。彼女のお父さんは守れなかった。だから、この約束はせめて果たしたい。
ただ、アスランには悪い事をしたなと思う。僕とケンカする事を小さい頃から怖がってたから。独りぼっちになるのが、何より嫌いだったから。身体も心配だけど、心の方はうんと傷だらけにしちゃったはずだ。ごめんね、と心の中で謝る。さっき酷い事を言ったカガリにも。
目線を上げた先、僕を大嫌いな彼女が咎めてきた。それに少し安心しながら返事をする。
「大丈夫だよ、フレイ。今度こそ大丈夫だから」
そろそろ出ないと、心配して誰かが来るかもしれない。名残り惜しい気持ちで二人だけの部屋を後にした。