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以前タニノギムレットに紹介されたバーに再度やってきたトレーナーとシュガーライツ。
研究を終えた博士にとっては、久しぶりに訪れた息抜きの場だった。
対面の席には、彼女を見守るような目をしたトレーナーが座っている。
「少し飲みすぎたんじゃないですか? 大丈夫ですか、博士」
彼が声をかけると、ライツはグラスを揺らしながら軽く笑った。
「これくらい平気だ。それに、久々にこうして二人で飲めたんだ。もう少し楽しみたい」
言葉とは裏腹に、彼女の頬は赤く染まり、目も少しとろんとしている。
トレーナーは苦笑しつつ、時計をちらりと見た。
アルバイトのギムレットが帰ってから、かなり時間が経過している。
「そろそろ帰りましょう。これ以上飲んだら、明日動けなくなりますよ」
「ええ? このまま夜まで明かすのは……」
「ダメです」
「むぅ」
少し拗ねたような声で応じながらも、彼女は従順にグラスを置いた。
バーを出て、帰路に着く。
博士は現在、学園の客室で生活している。
サティの研究で、調整したい部分をトレーナーに手伝ってもらっているためだ。
「少し冷えるな」
学園へ向かう道は、静寂に包まれていた。
夜の空気は少し冷たく、風が木々を揺らす音が時おり聞こえるだけ。
周囲に人はおらず、ほのかな街灯の明かりだけが道を照らしている。
シュガーライツは、車いすにゆっくりと身を預けながら、ふと口を開いた。
「……静かだな。こんな夜に出歩くのも、たまには悪くない」
「そうですね、夜の空気はなんだか気持ちが良いです」
「ああ、私もそう思う」
トレーナーが少し視線を上げると、月が雲の間から顔を出し、道を銀色に染め上げていた。
その光景を見ながら、彼はほんの少しの間、立ち止まってしまう。
「月がきれいですね」
「月、か……本当だな」
車いすを止めて短く答えると、少し考え込むように目を細めるライツ。
「もうすぐ学園に戻ると思うと、なんだか寂しい気もするよ」
「寂しい?」
「ああ、バーで君と飲んで、研究の疲れを癒す時間が、終わってしまうだろう?」
ライツが微笑みながら言うと、彼は腕を組んで神妙に頷く。
「そうですね。オレも疲れは癒されましたが、次はいつ行けるかなぁ」
「君こそ、もっと休むべきだと思うがね」
その返答に寂し気な表情をしながら、少しだけ電動車いすの速度をゆっくりにして再び動かしていく。
街灯がひとつ、またひとつと通り過ぎ、二人は無言のまま学園へと歩みを進めるのだった。
◇◇◇◇
「さ、着きましたよ博士」
学園の客室に着くと、トレーナーは車いすの前にしゃがみ込み、彼女を見上げた。
「博士、ベッドに移るの手伝いますので、少しだけ力を抜いてください」
ライツは小さくうなずいたが、座ったまま動こうとはしない。
酔いのせいで反応が鈍いのだろうとトレーナーは思い、そっと彼女の身体を抱き上げた。
その軽い身体をお姫様だっこの形で支えると、彼女が突然ぎゅっとトレーナーの首に抱きついた。
「えっ、博士?」
「離れたくない」
その声は、まるで甘えるような響きを含んでいた。
「ちょっと待ってください。ベッドに寝かせるだけですから」
「ダメだ。離れたら倒れる」
困惑しつつ、どうにか説得を試みるが、彼女はしがみついたまま離れようとしない。
「博士、手を離してください。このままじゃ危ないですよ」
倒れたら危険だと暗に伝えるが、相変わらず腕は首に絡まったまま。
離してくれそうにもない。
「トレーナーは、……私のことが嫌いか? トレーナーは私のこと、どう思っているんだ……?」
突然の問いに、トレーナーは戸惑った。
とろんと垂れた目がトレーナーを見つめ、潤んだ瞳が月の光を反射する。
「……嫌いじゃないですよ」
「じゃあ、好きか?」
「ええ、好きです」
「……。大好きか?」
深く息をつき、真剣な目で彼女を見つめる。
「……博士が大好きです。だから、ちゃんと寝かせてください」
「わかった……」
満足したように、シュガーライツはようやく腕をほどいた。
ベッドの上にそっと彼女を横たえ、毛布をかける。
「じゃあ、ゆっくり休んでください。また明日、様子を見に来ます」
そう言って、部屋を後にするのだった。
◇◇◇◇
扉が閉まる音を聞いたシュガーライツは、布団の中で静かに顔を赤らめていた。
そのあと布団を抱きしめ、シーツに顔を埋める。
「……私もだよ。トレーナー」
彼女の耳には、トレーナーが告げた【大好きです】の声が、いつまでも響いていた。
挿絵のイラストの方は【らいす。】さん
(https://www.pixiv.net/users/87183690)に描いていただきました。ありがとうございました!