第7章後、サ終&サーバー閉鎖後の主人公たちの話。
主人公は女性S体型ボイス4を想定して書いています。


(初出:2025/01/11)(他サイトと同時投稿です)
(Pixiv小説では名前変換に対応しています)



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 石造りの長い階段を登る。

 幅広のこの階段は、アステルリーズ開拓時に丘上の広場から浜辺へ降りるために造成されたものらしい。

 町の住人が増えるにつれ、造成に次ぐ造成で不揃いに連なっている家屋の屋根と違って、この階段は幾年も整然とした姿のままだという。

 神殿からエーリンゼの姿が見えなくなり、ニコが探しに行くとエーリンゼは浜辺に一人でいた。考え事をしていたという。

 ――理想を持つことは悪くない。それこそみんなそれぞれ、理想を抱いている。

 ――わたくしも、理想を抱いたままでもいいのでしょうか?

 ――うん。

 ――ならば、わたくしも自分にできることをしますわ。

 開拓から百数年、数多の冒険者や住人がそれぞれの理想を抱いて登った階段を、ニコもまた登っている。神殿へ戻るエーリンゼを送りながら、同じくエーリンゼを探していたフェステとも合流し、三人で。

 

「ティリスは取り戻せたが……アバリティアシェルをあのままにしておくわけにはいかんじゃろうな」

 

 フェステの言葉にニコも首肯する。エーリンゼを喰い、アバリティアシェルを取り込んで自らの力にしようと企んでいた竜王ヴォルディゲンは退けたものの、新たな問題が浮上し、片付いていない問題は依然と横たわっていた。

 

「そういえばバシュラールとまだ連絡を取っていませんでしたわ」

「あちらからも連絡がないのじゃな? 何か臭うな……」

 

 階段を登りながらフェステは腕組みをし、顎に手を当てうーむと唸ったあと、エーリンゼの顔を見上げる。

 

「こちらからの連絡は一旦待て。向こうの出方を伺おう」

 

 真ん中のエーリンゼ越しにフェステがニコに視線を投げる。

 

「バファリア教団は神託が絶対じゃ。その神託はバシュラールが下しておる。となればエーリンゼとティリス、アバリティアシェルから目を離せぬな」

 

 神殿へ戻ったら今後についての話し合いだろう。いつもながらフェステの先を見据えた行動指針を立てる能力は頼もしい。

 その前に病床のティリスをお見舞いして――そうこう話しているうちに、開拓局前の広場にたどり着いた。

 今日も町の住人たちが行き交い、立ち話をし、その横を開拓局へ向かう冒険者たちが通りすがる。

 すべて世は事もなし。星の獣が眠りに就いている今のところは。

 

「開拓局で依頼を受けていた頃が遠い昔のようじゃわい。ノーお宝ノーライフじゃが、それもこの世界あってのこと。お宝の匂いがする依頼探しはまた今度じゃ」

 

 うんうん、と歩きながらニコが頷いたその直後、フェステの顔がにやりとする。

 

「しかし? 人が滅多に立ち入らない極北くんだりまで行くことになったし? このまま行けば今後、未踏の地で未発見のお宝と出会える可能性も……ぐふふ……!」

「はあ……」

 

 口元に手を当てて含み笑いするフェステに、肩を竦める。頼もしいと思った矢先にこれ。エーリンゼも困り笑いをしている。

 

「でも――」

 

 フェステに拾われ、コイン亭に住まい、冒険者登録をして駆け出しの冒険者となったのは一年足らず前だ。

 

「そんなに時間が経ってないのに、遠い昔な気がするのは本当。開拓局と、この広場は何も変わってない……の、に……」

 

 神殿に続く階段へ向かっていたニコの足が、止まる。

 辺りを見回す。広場。ベンチ。街灯。開拓局。イマジン研究所。天球へと続く道。マーケットへと続く道。

 空を見上げる。浜辺で見上げたときと変わらず、雲一つ無い抜けるような青い空のままで――何かが消えた。何かが、途切れた。

 

「なんじゃ、何をぽかんと……どうした下僕?!」

 

 足を止めたニコに首を傾げ、そばまで戻ってきたフェステが驚く。

 頭一つぶん低い位置のフェステの顔を見返すけれど、その姿は歪んで見えた。

 

「あれ? なんだろ……」

 

 目頭が熱くて、まばたきをすると目からこぼれる落ちる何かがある。

 

「っ、……」

 

 胸の奥の、絞られるかのような痛み。

 まるで胸の真ん中にぽっかりと大きな穴が空いたかのようで、その痛みが源泉かのように目からあふれるそれが、視界を歪ませていた。

 

「どこか痛いのか? なにか変なものでも食ったか?」

 

 心配そうに見上げるフェステに、ふるふると顔を左右に振る。

 大丈夫と笑おうとして失敗したことは、フェステに肩を抱かれて分かった。

 

「おい、下僕……」

「なんだか、すごく……悲しくて……」

「悲しいって、どうしてじゃ?」

 

 後から後から溢れて止まらないそれを手の甲で拭いながら、胸の奥の絞るような痛みの正体を手探って、言葉にしようと努める。

 

「何かと……ううん、誰かと、切り離された気がする。いつもずっと一緒にいた誰かと。……ずっと私を見ていて、ずっと一心同体だった誰かが、もう居なくなってしまった気がする」

 

 フェステに促されて、広場に面したベンチに座る。

 俯いてぽろぽろと泣くニコにフェステは困り果てて、エーリンゼを仰ぎ見る。

 

「エーリンゼ、お主、何かわかるか?」

 

 困惑しながらも心配そうにニコを見つめていたエーリンゼは、ニコの言葉を二三言、反芻して思案すると、やがて顔を上げた。

 

「そうですわね……思い当たるとしたら、見えざる観測者、かもしれませんわ」

「見えざる観測者?」

 

 聞き慣れない言葉に首をかしげるフェステに、エーリンゼは答える。

 

「観測者とは、言葉の意味では事象を詳しく観察して分析しようとする者のことです。……太古の昔、ある学者が提唱した仮説がありました。わたくしたちの知覚では認知できない何かが我々に影響を与えているのではないか、と。時代がずっと進んだ後、肉眼では見えない微小な、あらゆる物質を構成する最小体の物理現象は、観測することによって状態が変化することが分かりました」

「……観察、つまり見るだけで影響が出るということか?」

 

 頷くエーリンゼ。

 

「ええ。わたくしたちの感覚や普段目にする物理現象とは違うことが、最小の世界では起きているようです」

「あらゆる物質を構成する最小体……? それでできているこのベンチも、ワシも、お主も、観測者とやらに見られているだけで、何かの影響を受けているということか?」

「理論上は否定はできませんわ」

「どういうことなんじゃ……??」

 

 なんとか話についていけていたフェステは、ここに至ってついにパンクしたようで、頭を抱えて蹲ってしまった。

 そんなフェステにエーリンゼはあらあらと困ったように微笑んだ後、ニコに向き直る。

 

「見られていた、とおっしゃっていましたが……わたくしたちの世界も、わたくしたちも。意思や行動に影響を与える観測者たる存在がいたとしても、わたくしは少しも驚きませんわ」

 

 そもそもの問題を思い出したのだろう、フェステは我に返ってニコのそばに戻り、気遣わしげにニコの顔を覗き込む。

 

「そやつに、操られていたのか?」

 

 ニコは未だ収まらない涙を指の背で拭いながら、ふるふると顔を左右にする。

 

「ううん……あの感覚は、言葉にすると”見守られていた”……私の一挙手一投足が、私の意思が、その人と一致していた。私はその人で、その人は私だった」

「ふーむ……ワシにはそんな感覚、無かったがのう」

「わたくしにもありませんわ」

「それだけじゃない……」

 

 濡れそぼった目がフェステを、エーリンゼを見やる。

 

「その人だけじゃなくて、周りに私と同じ……同質だと思う人が、知ってる人も知らない人もいっぱいいた気がしたのに、今はもう誰もいない気がする……」

 

 例えばこのベンチ。いつも誰かしらが座ってくつろいでいたり、談笑していた。

 広場では仲間同士で集まったり、輪になって踊っている人もいた。

 コイン亭や廻る舵輪亭のお客さんの中にもいたし、防波堤で釣りをしている人の中にもいた――

 

「なんじゃそれは? お主の同族がいたのか?」

「ううん、なんとなく同じだと感じるだけ。見た目はどこにでもいる冒険者だった。フェステやエーリンゼにはそういうの、ない?」

「そんなのがいたら、ワシは何者なのか故郷はどこかとっくに質問攻めにしておる!」

 

 当然だ、とばかりにフェステは腕組みする。自分の出自という、手がかりのない最大の悩みがそれで解決できるかもしれないのだから。

 

「わたくしもありませんわ。……別人だけど自分と同質だと感じる……まるで別の自分のような存在が複数いた、ということですか?」

 

 頷くニコ。感覚をあまりに的確に言い当てられて、言葉の続きを求めて前に立つエーリンゼを見上げる。

 

「別の可能性の自分……かもしれないですわね。先ほど話した最小体ですが、その動き方の可能性の数ぶん、この宇宙は複数存在しているのです」

「は? 宇宙が複数?」

 

 早くも難解そうに眉間にシワを寄せるフェステと、小首を傾げるニコとを見やりながら、エーリンゼは続ける。

 

「可能性の宇宙――最小体の動き方の可能性は無限にあり、観測することで初めてどれか一つに確定されます。逆を言えば、観測するまでは全ての動き方が重なり合って同時に存在していると言えます。ニコさんがおっしゃるように別の可能性の自分が複数いた、ということは、観測者が複数いることの示唆ではないでしょうか?」

 

 何かが符合するような気がして、ニコはエーリンゼを見つめる。

 

「観測者は他の観測者の観測を観測できないので、宇宙は一つに確定できません。観測者効果の働く宇宙が重なり合って存在しているため、あなたには別の可能性の自分が見えていたのでは?」

「観測の観測? 宇宙が重なり合う……??」

 

 わからん! とフェステは再び頭を抱えてしまう。

 観測対象と観測者、つまり自分と自分を見守る者の対が、自分以外にも複数いた――ニコは目を瞠って、エーリンゼを見つめ続けた。

 

「アバリティアシェルからティリスを切り離すとき、シェルから現れたユーゴを倒したのは、カーヴェインのお母様の意思――アデルイードその人になったあなたでした。誰かの意思を身に宿して具現化する……おそらくあなたには誰かの意思を感じ取り、同調する能力があるのでしょう。それと同じように、先の見守る人の存在についても、あなたには感じ取れるのかもしれませんわ」

 

 ニコは涙の乾いた手を顔から下ろして、ベンチに座る自分の体と、広げた手の平とに目を落とす。

 一年足らずの少ない見聞の中でも、イマジンを自身に宿してそのものになるなんて、たしかに聞いたことがない。……フェステ同様、自分の出自も正体も未だ分からないままだ。

 

「……エーリンゼよ、お主のそういった知識は一体どこで憶えてきたのじゃ?」

「皇女たるものこの程度の学識は嗜んでおいでなさい、がバシュラールの口癖でしたわ」

「この程度、なのか……神族の学問にはついていけんのう……」

「バシュラールはお飾りの皇女であるわたくしにも分け隔てなく学識を授けてくれました。ですが講義や書物だけでは知り得ないことが、この世にはたくさんあるのだと学びましたわ」

 

 エーリンゼはニコに語りかける。

 

「……これまでの旅で、わたくしは竜族にも生活があることを知りました。誰にでもその世界での生活があります。ということはあなたを見守っていた方にも、別の可能性の方々にも、生活があるのでは?」

「……つながりが途切れてしまっただけで、それぞれの世界でそれぞれの生活は続いていく……?」

「ええ」

 

 エーリンゼは上品に、けれど深く、ニコに頷く。

 

「あちらからこちらはもう見られなくとも、それぞれの世界でそれぞれが自分らしく生きていくことが、お互いにとって何よりの励みになるのではないでしょうか」

「あ……」

 

 胸の痛みが、和らいでいく。

 消滅したわけじゃない。みんな、それぞれの世界できっと生活を送っている。今の自分のように。

 

「たしかに、便りがないのは良い便りと、昔から言われておるしのう」

「うん……」

 

 それでも、寂しいことには変わりなくて。

 重ねてやんわり握った両の手を、胸に当てる。

 そんなニコを前に、フェステが口を開く。いつにない神妙な顔つきで。

 

「同質の仲間たちと、見守り人と……何やら難しい話で頭が爆発しそうになったが、これだけは分かるぞ。お主は、寂しいのじゃな」

 

 素直にこくりと頷く間、ごく小さく、フェステの口から漏れていた声が聞こえた気がする。

 ――目に見える繋がりがないと、不安じゃから。

 フェステは急に居住まいを正かのように身じろいで、妙に胸を張ってニコの前に立った。

 

「あー。心して聞け下僕よ。一度しか言わぬぞ。……“例え離れても、ワシはお主のところに戻って来る。約束する”」

 

 微妙に棒読みがかって言うフェステに、エーリンゼは不思議そうに小首を傾げたが、ニコにはすぐ分かった。それがついこの間、自分がフェステに向けた言葉であることを。

 つい顔が緩んで、涙の止んだ顔は泣き笑いみたいな顔になる。

 

「そうだね。フェステは私がいないと駄目だもんね」

「なっ?! それはワシのセリフじゃ!」

 

 セリフを真似されたお返しにこっちも真似してみると、フェステは憤慨したかのようにぷいと背を向けてしまった。

 やがて、肩越しに顔だけでこちらを睨むように見やる。

 横顔の髪の間に見える耳の先が赤いのは、図星だったせい?

 

「おほん。……これからもよろしく頼むぞ。下僕よ」

 

 そう言い置いてさっさと一人で歩き出すフェステに、ニコはベンチから立ち上がって。

 

「うん!」

 

 フェステに追い付きすがら、事情が飲み込めずともニコの足取りが元気なのを見、微笑みを浮かべるエーリンゼにもう大丈夫と目配せして。

 見上げた青い空は、どこまでも続いている。

 

 

 

 






> RPGでエンディングを迎えるとプレイヤーは操作不可になってキャラは自分で自律して動いたりするじゃん?
> 操作不可になった瞬間、自分とキャラはこれまで一心同体だったけどこれからはそれぞれの世界で生きいくんだなっていつも思う
> ブルプロのサ終も同じ、プレイヤーはもうその様子を覗き見できないけど自キャラちゃんは今後もレグナスで生きていくんだ
> だから消えたりはしないんよ

という某板スレへのレスのような、以前より想像していたRPGのエンディング後の主人公たち視点に、理屈をつけてお話にしてみました。科学・物理はロマン解釈でお願いします。
この理屈でいくとプレイヤーキャラの数だけ世界はあるので、タイトルをBlue skiesとしました。

ネトゲのサ終に立ち会うのはブルプロが初めてでした。やむを得ない事情があるのは分かっているものの、二度とこの世界とプレイヤーキャラたちとブルプロのキャラクターたちと関われなくなるのかと思うととても寂しいです。

お読みいただきありがとうございました。


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