悪い大人でも青春を謳歌できますか?   作:三度の飯より曇らせ

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 主人公の名前は後ほど登場します。多分、アビドス編終わったあたりとか(予定)
 主人公の容姿も決めていません。物語の中でそれっぽい描写は出るかもしれませんが、基本的に読者の想像に委ねます。

 あ、あとセイア当たりました(50連2人抜き)



第一章 アビドス対策委員会編
悪い大人のプロローグ


 

 ぐちゃり、ぐちゃり。

 

 歩く度にぬかるんだ泥のような感覚を覚える。

 踏みしめている足の裏は、確かにアスファルトの硬い感触を物語っているというのに。舞い散った五臓六腑のかたまりを、無造作に踏み躙る。

 

 還るべき場所へ還れずに、行き場を失い外界へ彷徨う血潮。葛の様に脚に絡みつき、恨めしく俺の轍を象った。

 

 落花狼藉の臓腑達と手を取り合って、俺の罪科をまざまざと示すようだ。

 

 横目に過ぎる、雲の群れをもう穿つ塔。似たような色合いが、視界を飽きさせる。

 しかし、それを優に超える死屍累々が延々と背後に付きまとい、俺の顔に翳りを落とす。空漠に彩った瞳が、命の対価を責付いているように思える。

 

 振り返るのがおどろおどろしくて、いつも足元に視線を落とした。

 

 だが、意味はない。主を失った血も臓物も、慷慨と怨嗟に塗れた眦を贈る。冥府から後ろ髪を引く手が、秒針を刻むごとに強まって、日々に苛む。

 

 厭世ではない。只管に後悔している。

 

 地獄から、俺に後ろ指を指す手には、名前の知らない少女の華奢なものもあれば、見覚えのある嫋やかなものある。

 そして、かつて愛した者の決して忘れない指先もまた、俺を責めていた。まだ、彼女の好きだった花の香りが仄かに薫って痛ましい。

 

 日和が鬱屈となる。吹き抜ける蒼天も、鬱蒼と影を帯びる。呼吸は生の特権。息を吸い、吐き出す行為に億劫を感じる。

 

 きっと今、この無防備な首を括れば、何の弊害も無く地獄へ臨める。

 

 空気が喉を通れない苦しみも、首の肉に異物が抉り込まれる辛さも、俺の裡にある飼い慣らせない精神は、悦楽に富んだ表情で咀嚼してしまうだろう。現実に叫ぶ痛覚の声も、きっと無視をして。

 

 だから、その選択はありえない。それは救済だから。楽に幸福を呼び寄せる、巨大な業を抱えた俺には分不相応な結末だ。

 

 己が罪を放棄するのかって、脊椎を絞める糾弾が酷い。誰よりもネガティブエンドを希う。

 

 ああ、歩く度に、ぬかるんだ泥のような感覚を覚える。ここ最近、雨も降ってないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 掌で弄ぶワンコイン。黄金色に照るその矮小な背中も、今は数倍、頼りある大きなものに見える。

 別段、手持無沙汰だからと、手ごろなコインで無聊を消化していた訳ではない。どうせ弄ぶのなら札束で風でも煽いでみたかった。

 

 生憎だが、そよ風を起こせる金すら、手持ちには無い。

 俺の財布まで手持無沙汰に嘆く始末だ。チャックのうねりも心なしか、素寒貧な現状への悲哀に塗れている。

 

「……世知辛え。札束でも落ちてねぇかなぁ」

 

 金運が貧しい。

 自営業をやっている身としては、仕方ないのだろう。専門にしている業務上、出費も嵩張る。

 従業員の一人も雇う余裕がないものだから、身を粉にして社長手ずから身を粉にして働く日々。加えて、利益は客足に左右される。

 

 わらしべ長者とはよく言うが、藁一本柄でアメリカンドリームが掴めるなら、コイン一枚じゃ世界が救えても有り余るほどの宝だと思うんだがな。

 

「耐えろ俺。今夜が山場だ……」

 

 ひもじい思いも今日まで。インディージョーンズ一本見終わる頃には、カジノでも胸を張れる。

 

 超人と謳われる生徒会長が政に手を伸ばし始め、ここキヴォトスの治安は天地が返った。

 

 飢えた物にはパンを。貧しいものには金を。蒙昧には教育を。その手腕は破天荒且つ空前絶後。途端に神の様に崇め始めた者だって居た。その崇拝にも納得がいく。

 

 確かに執政は見事と言わざるを得ない。はっぱの匂いは薄まった。路地裏の閨狂いの香りもパッタリと消えた。秩序は強固になっただろう。

 

 だが、その摘出された悪性腫瘍で食い扶持を繋ぐ愚か者だって居たことは、果たしてあの会長様は存じ上げていただろうか。

 

 彼女のお陰か、競合他社は泣き寝入りに看板を下げた。今やマーケットやオークションの規模も全盛期の四分一程度、だろうか。

 

 安易に闇に首を突っ込むより、真っ当に性を謳歌した方が幸福を得られる。より美味いエサを公的に垂らす事で、半グレを表層に釣り上げる社会は、犯罪率を見る見るうちに減らしていった。

 

 その最中、意地汚く汚泥を啜り宝探しを続けているの一人が、俺だ。

 今更、手を伸ばされたところで「学園都市」に居場所はない。日の目を浴びるには、闇に浴する時間が長すぎた。

 

 まあ、学生を兼ねながらグレーな取引を行う珍妙な業者も中にはいるが。

 

「今夜の仕事は羽振りがいい。コーヒーにマサラダまでオマケしてくれるんだ。有難く啜らせてもらうか」

 

 その潤滑に駆動していた歯車も、管理者の失踪により、メンテナンスが行き届いていない現状。一度は統括していたこの地も、何処かに歪さを孕み始めている。

 

 この降って湧いた本日の仕事は、その最たる証左。

 

「カイザーコーポレーション。元はヤクザの金貸しが、今度は地上げ屋の真似事かよ」

 

 コンビニで買った容量多めのカップ焼きそばを啜りながら、クライアントの身辺調査を進める。やっぱりジャンクが一番骨身に染みる。奴隷から資本家まで等しく満たしてくれる。

 

 舌で簡素なソース味を転がしながら、依頼内容の真意を測る。

 

「アビドス自治区ねえ。名は知れてるが吉な情報は聞かねえな」

 

 かつては栄えていたと、風が囁いていたのを小耳に挟んだ記憶はある。

 特に映えもない様相が反って温かく、広大な砂丘と星空のコントラストが壮観で、祭事なんかも頻りに催していたと。

 

 しかし、勢いを増す自然災害にその人気は敵わず、住民は移動し、今ではゴーストタウンさながら。

 

 何より冒涜的なのは、人が居ないことに目を付けて、犯罪の温床と化していること。甘い蕩けそうなチョコレートの取引。姦淫。嬲り遊び。可笑しくも祭りは継がれていた。

 

 度々、物好きな学生共が取り締まっているらしいが、一度染み込んだ臭いは消えない。第二のマーケットになるのも時間の問題だ。

 

「全くきな臭いな……」

 

 あんな毀ちかけ、どうするつもりか。再開発なんてベターは土地柄通用しない筈だが。

 

 下手の考え休むに似たり。どうせ今回も使われる下っ端だ。

 金さえ貰えるのなら如何な汚れだって被って見せよう。はじめてのおつかいから昼ドラまで演じる。傭兵とは斯くあるべし。

 

 

 空になった容器を捨て、街道を歩く。

 

 天は欠伸が出そうなほどの青空。けったいな円環も変わらずに鎮座している。

 

 至る所に、意匠様々な装い。そのどれもが学生を示す被服とは恐れ入る。流石、学生の都市とはよく言ったものだが、この大都市運営、詰まるところ司法、立法、行政の主要三権すら、学生の柔い手に掌握されているとは、如何なものか。

 

 モラトリアムの不安定な精神。それが執政の要になるのは、これは手に余るのでは、と常々猜疑している。

 

 だからこそ連邦制を採用し、それぞれ学園にある一定の自治権を持たせ、行政管轄の縮小、並びに簡略化を、自由という言葉では箔付けして逃げているのだろう。

 

 それでも、連邦生徒会の職務が健全に執り行われているという話は聞かない。

 

 それらをある程度、一人でやってのけた今代の生徒会長はやはり化け物だが、余りに孤高過ぎた。

 

 その化け物が失踪した現今の社会は、有り体に混沌だ。

 

 湯水のように湧き出る問題は坩堝になり、飽和状態が続く。失踪以前、ある程度、コツを共有してこなかった生徒会長のコミュニケーションエラーとも言える。

 

「今、D.U近辺でテロが起こってるらしいよ……」

「あ、それ今日のクロノスの記事で見た!なんでも七囚人?が脱走したとかで……」

「うわそれめっちゃ近所じゃんっ!やば!」

 

 ほら、こんな清々しく穏やかな旭日の下でも戦火は上がる。

 

 昨今はヴァルキューレの働きも悪く、遂には囚人まで脱走を図り、仮初の平和に一石を投じに動いた。偏に、ポリ公と生徒会防衛室の管理不足だ。

 

 もどかしいのだろう。

 超人が消えた今、ひよっている社会が。情けなくも頽れていくキヴォトスの惨状が。まあ、そのどれもがひた隠しにして既に腐り落ちた置き土産だが……ってD.Uで起きたって。

 

「あれ、超近所じゃん……」

 

 くっそ。また七面倒そうな。もう俺もテロに参加しようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相も変わらず天に唾するような摩天楼。無駄に高く絢爛に見せようとする様は、権力の象徴をひけらかす意図があるという。それも今や、泥を被せられたらしい。

 

 怒号を響かせる、地に這いつくばっている有象無象に。

 

「もっと戦車を出しな!何でもいいから!」

「すいません!もう歩兵戦車がないですっ。全部破壊されました!」

「なんだと!?一体誰に……」

 

 これはただの啀み合いだと高を括って、野次馬根性を出したのがいけなかった。

 

 予想以上に大規模なテロだ。

 サンクトュムからシラトリ郊外の、約30㎞まで続く大きな火の粉は、近年まれに見る本気度を窺える。それも七囚人が煽って燃え上がらせたのならば腑に落ちるが。

 

 アイツらは端的に言ってイカレだ。

 

 言葉を交す能はあるのに、思想が飛び過ぎて会話にもならない。関わったとて箸にも棒にも掛からぬ障礙予備軍こそ、七囚人の表し。皆どこかしら狂っている。

 

 きっかけがあればルシフェルにもなれるし、サタンにも化ける。笛は口元から外さない。

 

 にしたって戦車まで導入か。一端のゴロツキ程度の何処にそんな資源がある。それも今回の下手人の斡旋か。

 しかし、基本イカレは徒党を組まず、ロンリーウルフを楽しむ。そんな伝手があるのかどうか。

 

 加えて、歩兵から重戦車まで勢ぞろい。陣形もある程度の意味を持たせている。計画した奴は、頭一つ抜けて知に富んでいるらしい。

 

「弾を確認したところ、正実の武装だと……」

「はぁ?!なんでこんなところに。エデン条約関係で出張っているんじゃ……」

 

 正実か。どうやらトリニティの忠犬が出張しているようだ。

 

 偶然、と片付けるには意地悪な運命様だ。確かに、アイツらはエデン条約で忙しない、という分析には共感だ。

 わざわざ管轄外で行動を起こすとは思えない。とすれば、生徒会の招聘が現実的な線か。

 

 しかしなぜ、トリニティに擦り寄ったのか。生徒会はただ権威を振りまく機関ではなく、それなりの武力も備わっている。

 

 特段、防衛室長の懐刀は良く研がれている。余程のお気に入りとみた。ならばこういう時分こそ、その切れ味をひけらかすべきだと思うが。

 

 何か、決定的なイレギュラーでも観測したのか。生徒会が直接、対処を図るには憚られる要素が介在していると、か。

 

「ま、まあいい!取り敢えず、引き続き目標は生徒会だっ。邪魔をするならトリニティだろうと何処だろうと潰しな!!」

「は、はい!」

 

 正実の名は存外に大きい。死角からの闖入者について脳が理解した刹那、誰かを想像したのか、慄いた様子だった。

 しかし、これでもならず者。矜持と面子はしっかりと保って見せた。一丁前に威勢だけは及第点だ。

 

「くっそ。正実って言ったらあの化け物が……いや、でもあの人なら……ん?無線」

『東部戦線各小隊に告ぐ!支給応援を!!今、郊外付近で「先生」を名乗る男の人間と、それを守るように立つ各学園の敵性生徒と交戦中っ。何とか持ちこたえているが、長くはない……』

「なんだそれっ、先生?それに男って……各学園の戦力も手を組んでいるとか、どうなって」

「……へえ」

 

 概ね状況は把握した。零れ落ちた情報の欠片を継ぎ接ぎに、仮定の質を上げる。

 

 連邦生徒会もしくは、生徒会長の招聘で雇われた「先生」という男。

 それは、キヴォトスでも稀覯な人間的造形と機能を兼ねた、男性という性別の人間なのだろう。

 

 そして「先生」という代名詞は恐らく、辞書定義以上の何か大きな意味を孕んでいる。

 就任してまだ間もないであろう人間を、問題解決のキーとして設定したのだから。それが必要な選択であった。「先生」という資格を持つ者でなければ。

 

 ディスク教育が主流となった最新の教育形態に、人の手による指導の余地は凡そ残っていない。

 挙げられるとすれば、臨場感のある情操教育だろうか。一定のノウハウと法則性がある全ての知識教養は、手乗りの円盤一つで完結する。

 

 故に、今日日「先生」という呼称は聞き慣れなかった。

 

 そういうのは、往々にして親父の背中を見て育むもんだろうが。

 

 だが、俺は知っている。勝手に自己流の教育を押し付けて、親父なんて大層な背中じゃない。嫋やかの裏に悍ましさを隠した、また一人「先生」と仰がれる存在を。

 

 外界から来訪してきた不可思議な存在であり、その絶対的な力を用いて、生徒の総てを教育して見せた異常を。

 決して人の身では至る道理の無い強大な影を、俺は、嫌というほど知り過ぎている。

 

 名の知れた指名手配でも、囁かれる都市伝説でもなく、先生と呼ばれるでもなく、ぱっと現れては自ずと名乗り上げる男。

 

 豪胆でありながら、生徒を盾にする様相からは、その人物がキヴォトス外界から人間であるのは自明の理。

 天輪の無い外界の人間は、神秘超常の籠愛を受けない。故に、銃弾一発が致命的という脆弱さがある。

 

 しかし、間近な死を歯牙にもかけない攻勢。一度受け手に回った筈の状況を、即席で覆した指揮参謀の才覚と、実現に尽力した生徒との速やかな関係構築。

 

 やっぱ、「先生」なんて人物はどこの誰であれ怪物か。人心掌握なんてお手の物って感じだ。ジョンウィックに復讐って感じ。

 ここで少し出歯亀に徹しても事態は愉快に転がりそうだが、迂闊に行動して生徒会との関係に軋轢を生じさせるのは好ましくない。

 

 長い物には巻かれろ。

 必死にゴマを擦って得た好意を無碍にしたくはない。依然と、懇意にさせていただいて、眼を濁らせてもらわないと。

 

 それに「先生」という未知数に関わるのも良い気がしない。

 

 これは所謂、勘。ここで親身に接すると、コネクションさえ上手く構築できそうだが、途方もない争いに巻き込まれそうだ。

 

 だかと言って、敵対行動も芳しくはない。既に正実をはじめとした多数の生徒との交流があるようで、それらを敵に回すのもどうか。

 

 ここはスルーが得策だ。変にかき回して銃口を向けられでもしたら損だ。今夜、延いては今後の仕事に尾を引くかもしれない。

 

 しかし、指定された会合場所はここD.U.シラトリ区。そう、このテロ最中の現場だ。 最早、火の粉を被るのも運命か。だとすれば俺はまた、自身の運命を呪う事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突如現れた救世主「先生」の活躍によりテロは終息、ねえ」

 

 あれからサンクトゥムタワー近郊から少し離れ、携帯端末のニュース速報に目を光らせていた。

 

 生徒会に反旗を翻すテロという一大事を、耳の敏いクロノスが逃すはずもなく、その経過はリアルタイムで飾りなく綴られていた。

 

 案の定「先生」主導により、無事、破壊活動は沈静し、後処理と大団円の塗り絵がけは迅速なヴァルキューレのお陰か、この快晴も狼煙で曇ることは無かった。

 だが、情報統制は甘かったのか、現場写真はクロノスを始め、多々のニュースサイトに激写されていた。

 

 いやあマスコミは本当に優秀だ。少なくても生徒会よりかは本来の職務を全うしているよ。

 

「正実はこのグラマラスで、もう何人かは心当たりはないが……ゲヘナにミレニアムの制服か」

 

 手が広いな。先生はプレイボーイだな。

 特に権威あるマンモス校の生徒ばかり。それもゲヘナは腕章から風紀委員だと推察できる。この調子で行けば、残り二人もそこそこのビッグネームだろうか。

 にしたってこの正実の子、いい体型してんじゃんか。

 上物で恐らく初物。新鮮な本マグロって所か。いや、マグロだったら鳴かねえな。ま、どちらにしたって解体ショーでも開けば、チケットは飛ぶように売れるだろう。あの歌姫も裸足で逃げだすこと間違いなし。

 

 そして、先生と周辺の様相は予想通りだった。しかし、耳寄りなのはここからの情報。チャンネルはそのまま。

 

「下手人が狐坂ワカモって……マジかよ」

 

 百鬼夜行の災厄の狐。ハーレイクイン顔負け、七囚人の中でも特段のイカレ女郎が、端を発した工作だとは予想外だった。

 あの化け物こそ群れを嫌う習性のある獣だと思っていたが、獄中で徒に思想を弄くられ可笑しな転向でもしたか。

 

 畢竟、何もせず撤退したのも不可思議だ。いざ、舞台に乱入したかと思えば、いそいそと逃げ帰るのは指名手配クラスの罪人にしては及び腰な立ち回り。

 

「更生でもしたか……なんちゃってな」

 

 もし七囚人が真に更生し、それすらも「先生」の手腕だとすれば、それは巧みなコミュニケーションでは誤魔化せない異様。

 一種の洗脳操作に他ならない。まあ、あの破壊マニアに相手は洗脳程度で服従するほど柔でも無いだろう。

 

「やっぱ、指導者なんてのは何処の畑でも碌でもないな……」

 

 やり口は、記憶の既知と相当似通っている。

 思春期の隙ある精神を掌握して、従順に塗り替える。精度こそ新入りに早速先を越されてはいるが、本質は同じだ。

 

 冷たい恐怖政治よりも、温かな寄り添いの方が効果は絶大だった。

 

 これに頼るようになった生徒会もいよいよってところ。末も見えてきた。カーネーションと棺桶も発注したほうがよさそうだ。

 

「……あ?」

 

 携帯にメッセージウィンドウ。それは今夜、話を弾ませる筈のクライアントからの伝書だった。

 

「”少々、予想外の事態に陥った。より根を詰める必要があるため、直ぐにカイザーコーポレーション本社へと赴いて欲しい“とな。益々、きな臭くなってきたな」

 

 調子のいいタイミングで闖入した「先生」という超常存在に、カイザーの指す異常事態。

 

 どれをとっても120点の臭さ。因果関係、効果こそまだ見えてこないが、何か決定的な繋がりがあることは察せる。

 大方、先生のお披露目はつい先ほど。テロの様子の生中継だった。そこがターニングだったか。

 

「なるほど……これで俺もハリウッドスター、だな」

 

 無駄な諍いは遠慮したい。

 

 その一心で「先生」との関りを抹消しようと息巻いていたが、またも運命とやらに手を引かれ、舞台裏に引きずり込まれた。つくづく運命とは度し難い。これで何度目かの恨みが発露する。

 

 しかし、舞台から衣装、台本だって誂えられている。であれば、最期まで華麗に踊り切って見せるのもいい。

 主演を張れる機会だってそうない。だったらキアヌばりの演技をお披露目してやろう。

 

 生憎、このキヴォトス「先生」なる者は一人でも、大人はわんさかと居る。

 

 俺だってもう、大人の脛をしゃぶりつくすだけの童ではない。子どもに好きなだけしゃぶらせては、肥えたところを上品にディナーへ変える。そんな大人。

 

 どんな下手な誘いにも乗るのが紳士さ。

 

 

 

 

 

 

 

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