悪い大人でも青春を謳歌できますか?   作:三度の飯より曇らせ

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今回、カイザーコーポレーションについて大きな独自設定が含まれます。ご注意ください。

先生の方々は、周年ガチャの調子はよろしいでしょうか。私はまだリオさんからメッセージが来ません。おかしいですね……。



悪い大人と闇

 

 俺は、もう誰かをゴキブリと揶揄えないかもしれないな。

 

 身体の悉くを焼き尽くした浅黄のとっておきを喰らっておいて、俺の肺は呼吸を喜んでいる。

 全身火傷も斯くやという傷だが、地獄の炎にまでは焼かれずに済んだ。煉獄には片足突っ込んでいたかと思うが。

 

 次、目が覚めたら棺桶の蓋ってオチも最悪覚悟していたんだが、何とか命は繋ぎとめていた。全く、俺は自分が恐ろしいよ。いつの間にかTウイルスでも仕込まれたのか。

 

 至近距離でも花火を浴びたら、案外コンクリートでも寝れるもんだな。

 しかし、やけどの痛みはアラームにしてはキツ過ぎる。二度寝したらもう目覚める気もなくなる。

 

 それとも、命拾いしたのは目の前で俺の顔を覗き込んでいる奴の賜物かも知れない。

 

「俺は、夢枕を所望した覚えはないんだが……」

 

 俺の存命よりも摩訶不思議な光景が視界に広がっている。最早、体の痛みも忘れた。

 別に、パラノーマルアクティビティが繰り広げられてる訳じゃない。ただ、朝日が西から出てくるくらいにはあり得ない。

 

 止めでも刺しに来たって話なら納得できるんだが、相手の表情はそんな警戒も抜けてしまうほどに憂いを帯びていた。

 化け物を見る目をされたかと思えば、今度は聖母みたいな優しい目を。心変わりのカードは失くしたんだがな。

 

 一体、何のつもりだコイツは。

 

「体は大丈夫かしら?」

「これを大丈夫に見えるのか?もしかしてエンデヴァーのお子さん?」

「あんなギスギスした家庭は御免よ……」

 

 ああクッソ。会話する度に毒気が抜かれるな。一方的に構えてた俺が道化みたいだろうが。ガキを襲ってるの点は同じだが。

 

 力も碌に入らないのにナイフへと伸ばしていた手を、寸でのところで止める。まあ、先に心臓を打ち抜かれるのが透けて見える結末だがな。

 横目に映るデモンズロアの引き金にかかった指の方が、多分早く俺を屠っていた。

 

「私たちの仕事は性質上、命のやり取りが多い。だから、一つ一つの何でもない出会いも大事にすることが大切なのよ」

「そりゃ……」

「だから、私と貴方との出会いも大切にしたのよ。まあ、ウチの課長の受け売りなのだけど」

 

 だろうな。こんな信条持ってる奴は俺らの界隈じゃ珍しい。

 確かに、鬼方カヨコにも似たようなことを、ふと零したことがある。しっかりと先輩の背中見えてるらしい。感心したよ。

 

 なんだよ。ちゃんとアウトローやれてんじゃんか。

 

「……はは、最高だ。やっぱ俺たちは気が合いそうだ、っと」

「ちょ、ちょっとまだ動かない方が……」

「はっ、社会人は全身火傷くらいじゃ休暇は貰えないんだ。覚えとけティーンエイジャー」

 

 ナイフは刃も欠けてないな。血管までしっかりと切り裂ける。

 服はもうコラテラルダメージだろ。そもそも銃を携帯してない時点で、裸のほうがマシな俗世だ。今更、パンイチだって気にならない。

 寧ろ、下着やスラックスが無事なだけ奇跡だ。スパイダーマンの柄も伊達じゃないな。どうやら今朝の占いは質が良かったらしい。これから常用しよう。

 

 こっからアビドスまではざっと10㎞。走れば間に合うか。

 意識を手放してから、一時間も経ってない。全速力を出す体力はないが、寝起きのランニングには丁度いい距離感だ。そろそろ健康にも意識を向けなきゃいけない歳だ。いい機会。

 

「あはは!やっぱお兄さんってばオモシロいね!アルちゃんが気に入るだけあるな~」

「悪いがファンサはしてやれないな。事務所を通してくれよ……で、止めないのか?便利屋」

「私たちはもう貴方に負けているわ。潔さもアウトローよ」

「アウトローねえ……ま、なら都合がいいな。じゃあ」

 

 便利屋は「アウトロー」って単語に、並々ならぬ情念を抱いているらしい。

 介抱してもらった身で悪いが、好きってのは見方を変えれば弱点だ。アンタらは今、それを敵に曝け出してどうぞお好きにと言ってるようなものだ。

 俺にとってそれは据え膳。全裸で夜のクラブを練り歩く美人な姉ちゃんを放っておくほど、俺のお子様は捻くれてないんだ。おててを合わせて食わせてもらう。

 

 同業者って言っても所詮は、右も左も知らない若輩者だ。ウノよりもシンプルで扱いやすいな。

 そんな心構えじゃ俺のような人間に食い物にされる。今度、身をもって思い知ることだ。なんて言ったって俺はピエロだからな。玉の扱いならお手の物だ。

 

「……もし社長に害をなすなら、今度こそ再起不能にするから」

「やれるもんなら、な……そういえばどうだった?俺のお土産は中々食い応えあっただろ」

「……っ」

 

 悪いとは思ってない。俺のやり方を事前に知ってた上で出し抜かれたんだ。いい薬になっただろ。

 

 さ、アビドスまでウォームアップといこうか。神のアクアでも欲しいところだが、ここには鉄骨落としが得意な人はいない。

 自力でのアビドス観光ツアーだ。砂漠と見ればまあ、面白いかもな。

 

 それに、ここで草臥れていたら有用性を示すにはまだ足りない。連戦に次ぐ連戦で体を張ってアビドスへの献身。これなら信頼を買うにしてもお釣りがくる。

 

 よし。気張ってこう。

 

 

 

 走り出してから体感三十分かそこら経っただろうか。

 アビドス高校の校舎が見える。そして、学生の学び舎には分不相応な銃声も生徒の代わりに談笑に華を咲かせる。きっと咲くなら真っ赤な花だろう。

 

 ラッキーアイテムは存外に働きもので、時の運まで俺に運んできた。

 丁度、両者の戦況が拮抗するベストタイミング。ここで華麗に参入してやれば、カップラーメンよりも容易に英雄の完成だ。

 

 だが、体の調子は心に追いつかない。

 息は切れかけ、酷使しすぎた体は悲鳴を上げる。痛みが警告って話なら、無人島に遭難したのかってくらいにSOSの信号を放っている。

 継続的な戦闘は無理だな。一回で決め切らなきゃならない。こんなことなら、浅黄にとっておきを借りておくんだった。あれなら百鬼夜行よりどデカい花火が打ち上がる。汚い花火だがな。

 

「セリカは左に回って牽制!ノノミのサポートをっ」

「了解!」

「ホシノもノノミの前でデコイを!シロコはセリカのカバーと、ドローンで後援の妨害だ!」

「ん、分かった」

「よいしょっと……はいよー」

 

 火力担当のノノミを中心に、周りが支援しながら戦場を動かしている。

 相も変わらず連携の質が良い。強ち、アイドルやっても成功するんじゃないか。しっかり夜勤まで営業ができるならな。

 

 だが、戦況は傾かない。先生の指揮がどうにか鍔迫り合いの体を保てているだけだ。

 量が量なだけに、どうにも取りこぼしが頻発している。まあ、ホルスが吠えたなら切り抜ける程度の浅い逆境だが。

 ここまで見逃した俺の節穴もある。ああ儘ならない。あんな爆弾さえ喰らわなきゃ上手く回る歯車だった。

 

「皆、あと残り30人です!」

「これは不味いね……弾薬が尽きるかも」

「はっ!所詮、てめえらなんてあの男がいなきゃ何にも出来ねえんだよ!くたば―」

「だーれだ」

「っ!もが……」

 

 前線に立つ敵の背後に降り立ち、最後の手榴弾を口へ突っ込み後方へ蹴り飛ばす。

 インスタントで人間爆弾。こうしてやると、確実に一人は斃れ周囲の敵も吹き飛ばせる。カヨコにやった薬のジェネリックだ。

 

 さて、もう手札は無い。ナイフ一本でやれるか怪しいところ。予想よりも参加者が多くてな。バーベキューなら歓迎なんだが。

 

「な……無事だったのね!」

「あれが遺言に聞こえるかよ。まだやりたいことがあるんだ。死んでも死にきれない」

「酷いやけどですね。今、応急処置を……」

「してこれだ。あと、怯んでる間にとっとと片付けろ。パーティはお開きだ」

 

 後はとんとん拍子だった。一度崩れた体制を整える余裕はなく、許すほどアビドスは温情じゃない。

 適当に退かせて、いつもの日和を取り戻した。閑散とした校庭に硝煙が曇る。打ち捨てられた空のマガジンの数が、激戦の跡を物語っていた。

 

 ったく、やっと終わったか。燥ぎすぎも体に毒だな。

 特大の番狂わせに見舞われたものの、今日も仕事はコンプリート。帰ったらいい気分のままミッションインポッシブルを観たいな。シリーズは何が良いだろうか。

 

 ああ、でも今は黒見の家に―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?……」

 

 こういう時は「知らない天井だ」と心の中でぼやくのが新世紀でのお約束だったか。

 

 本当に知らない天井だが、鼻腔を突く薬品の臭いと寝具周りのカーテンは、普遍的な保健室の様相と差異はない。

 へえ、保健室は初心なアベックが乳繰り合う場じゃないんだな。初耳だよ。寧ろ、こういった用途で使うのは初めてなくらいだ。

 

「いてて……」

 

 丁寧に巻かれた包帯。宛がわれたガーゼ。赤みが滲んだタオル。腕のいい保健委員もいるもんだ。治療は実践的だ。

 

 しかし、神秘ってのは本当に便利なもんだ。人の頭上を現代アートの美術館にすること以外は完璧だ。

 ウェルダンに焼かれた肉体も徐々に健常なものに戻りつつある。痕くらいはくっきり残るもんだと思っていたが。これも神秘を孕む人間ゆえの特権だ。

 

 最早意味のなさない包帯を取り払って、体躯を隈なく確認する。肌理細やかな肌も数日前と大差ない。ちょっとばかし傷が増えてる気もするが、これは狐に咬まれた痕か。

 どこからこんな再生能力が湧き出しているんだ。眉唾でもなく、マジでデッドプールになれる日も近いな。二刀流も練習しておくか。

 

 動作確認も及第点。骨に異常はない。若干、筋肉が痛むが動きのディレイも誤差の範囲内。万全から遅れは取らない。

 

「あ、目が覚めたんだ。約二日間も寝込んでたからセリカちゃんも心配してたよー」

「は……」

 

 気怠そうに入室してきたピンクは何気なく呟いたが、そこから井戸端会議に洒落込む余裕は今無くなった。

 

 二日なんて冗談。質の悪い嘘だと言ってくれ。

 これじゃ計画も頓挫した可能性だって十分にある。この二日はデカい。アビドスの動向を確認できないから、迂闊に次の作戦が練りにくい。

 

 ここまで積み上げてきた成果が全て洗い流されたら堪らない。状況まで数日前に逆戻りしなくていいんだよ。融通が利かないな。

 

 ……ああ、虚しいな。

 

 本当に二日が立ってやがる。実質、一日把握が遅れてるってことか。

 カイザーからの熱いコールも来てるな。重めなガールフレンドってくらいに。もう履歴が悍ましいものになってる。

 

 だが、若干の安堵もある。たった一日ならそこまで状況にどんでん返しが起きることもない。まあ多分な。

 実際、小鳥遊はこうやって様子を見に来たって所を見ると、大きな動きはないのも予測できる。

 

「一応聞いておくけど……借金問題に動きがあったりしたか?」

「うん。一つ大きな一歩があったよ」

「ほう、どんないい知らせだ?モーニングコールがてら聞かせてくれ」

 

 問えば、快く明かしてくれた。大分、態度も柔和になったな。一日床に伏せた甲斐もある。

 

 なんでも、アビドスの毎月の返済金のルートを洗ったらしい。それも銀行強盗とかいう凶行の末に。

 なんてワイルドだ。本当にアクション映画さながらのシナリオを実行するなんてな。心底、寝ていて良かったと思う。

 

 マーケットですら金回りはそこそこ厳格だ。

 ドラッグもソープも違法兵器も法外の地下格闘も、扱いには寛容だが金銭だけはかなりシビア。

 何せ、それらの娯楽の総ての源が「金」だ。先ず元手が無きゃ何も流通しない。だからこそ金は丁重に扱い、略奪や強盗を行えば今後の生活は保障されない。

 

 だが、マーケットの自警団やカンパニーの兵力相手に逃げ切れたのは感心した。そう出来るものじゃない。

 これも先生の采配だっていうなら忽ち大スクープだな。明日の朝刊は「犯罪に加担した生徒会構成員」で決まりだ。また、生徒会の株が落ちていく。

 

「その結果、自分たちの返済金がヘルメット団に回ってたと……」

「そう……悪い大人から見て、どう思う?」

 

 取り敢えず、あのガラクタはスクラップに決定だ。砂鉄にしてやる。

 金銭の流通ルートぐらい隠しとけよあの鉄くず。常套だろう。隠さなくたってダミーの一つや二つは拵えてくれ。これならまだルンバの方が役に立つ。

 

 高を括ってセキュリティを杜撰にしやがって。グランドイリュージョン染みた真似をされてるわけでも無いってのに。振り回される俺の身にもなってみろ。殺意が湧いてくるはずだ。

 

「ま、大方カイザーPMCがヘルメット団を雇ってんだろ。出来るだけ返済が厳しくなるように、な」

「でも、何のため……?」

「さあな。でも、注意しておけ。これから利率がうなぎ上りになる」

「……どうして?」

「それがカイザーコーポレーションの常勝のタネだよ」

 

 カイザーコーポレーションは所謂、成金の企業だ。

 スタートは掃いて捨てるほどあるような闇金の一つ。岩を退かせば地に張ってるようなダンゴムシの一匹に過ぎなかった。

 

 そして、法人向けの金融だった。

 

 恐らく、取締役は先見の明が備わってたんだろう。

 今後、市場を独占するほどの潜在的な革新性を持つ、しかし、利潤が振るわないような輝かしい未来が待ってる中小企業にばかりを標的にした。

 それも年利は他社金融と比較して破格の設定。寧ろ、赤字ってくらいにはそんな利率での貸借を一年限定で行った。

 

 それだけなら馬鹿が経営してるってだけの話だが、そんな都合のいい事は長く続かない。これでも闇金の一角って事実を忘れちゃいけなかった。

 

 一年を過ぎた頃合いになると、段々と業績は伸び始め上場を見据える顧客も増えてくる。

 そこがターニングポイント。今までの利率は撤回され、当時の相手企業の業績と照合し、ギリギリ瀬戸際で払いきれる程度の利率に再設定し始める。

 

 確かに暴利だが、まだ分からない。払い切れる分にはまだ優しさを感じる。そうやって知らずの内に毒に侵されてることも知らずに、呑気に継続的な利用を始めていった。

 

 それが運の尽き。

 

 業績は伸びても一年ごとに上がる利率に、資産は増えるどころか減っていく。今後の素晴らしい展望やプロジェクトは構想段階で頓挫。だって予算がないんだから。

 そして上り坂を描いていた業績も下っていき、とうとう返済に耳を揃えることが出来なくなる。そんな三寸先は闇の経営状態に、カイザーは甘く囁く。

 

「ウチを親会社に吸収合併すれば、大丈夫だ」ってな。

 

 そんな代表の性格が前面に出た方針で、多種多様な企業を取り込んでいき、結果が今だ。

 そう、カイザーコーポレーションは企業の坩堝だった。元来、みみっちい闇金だったのが、幅広い分野に手を伸ばす大企業に至ったクソ塗れの覇道がこれだ。

 

「そんな……」

「阿漕なやり口は成長しないな。今やってることも本質は全く一緒だ。だからここから利率を上げてくる」

 

 表情に陰を落とす。安心しろ。そんな不安は、近い内に取っ払ってやる。大好きな昼寝でもしてりゃ、直ぐだ。何もかもが元通りになってる。

 

「どうしたら……」

「簡単な話だ。全部暴露しに行きゃ間違いない。とりあえずカイザーPMCは叩くべきだ」

「また、何で?」

「あいつ等はまあトカゲのしっぽだが、倒産したってなったら先ず調査が入る。そこでほこりが出るだろ」

 

 無理だな。PMCの理事みたいな低能ならいざ知らず、大本の代表取締役社長には隙が無い。

 本当に尻尾切られるだけで、言ったような成果は全くもって期待できない。伊達に企業を成長させてないんだ。空ぶって嗤われて終わりだ。

 

「とりあえず、今の話はみんなに伝えとくよ」

「ま、先生が出れば解決する問題だ。リラックスして行こう。じゃ、そろそろ戻るか」

 

 何かを決意したような、瞳の奥に蠢きが見える。

 昏い目だ。暗澹としている。表情には表れない燻ぶった闇だ。俺はこれと似たような眼を知っている。

 

 これ以上は言葉を紡ぐこともなく、保健室を後にした。

 

 その双眸を拵えたのは、一体、どんな感情だろうか。

 プロフェッサーXじゃないんだ。心が読める訳でも無いが。何故だか少し、通じ合えるものがある気がしている。

 

 まあ、上手く小鳥遊の情緒に罅が入った。不安を募らせてここからは余裕も無くなってくるだろう。

 

 不適切な焦燥は心をよく乱すぞ。小鳥遊ホシノ。

 

「ホシノ先輩!……て、目覚めたんですか!?」

「ああ、もし葬式のセッティングをしていたら悪いな。キャンセルしといてくれ」

「いやしてないですよ!ってそんなことより大変です!」

「ああ、ホント大変だ。なんてったって―」

「紫関ラーメンの店舗が跡形もなく破壊されました!!」

 

 

 

「は……?」

 

 

 

 

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