悪い大人でも青春を謳歌できますか?   作:三度の飯より曇らせ

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対策委員会編二章までは完結です!ありがとうございます!!
この後は、エデン条約編ですね。パヴァーヌに関しては第二章だとエデンの後になるので、本筋が終わった後の番外編的なものとして書く予定です。最終編はどうしよ……。



悪い大人と先生と。そしてビターエンド

 

 紅い幾何学模様が不気味に発光している。

 それ以外に光源すらないものだから、やけに目に付いて網膜から離れない。空間の大部分を占有する闇は色濃く、気を抜けば飲まれてしまいそうなおどろおどろしさがある。

 

 だがその中にも一つ、点滅を繰り返すように消えては息を吹き返す、小さな光がある。

 それは何よりも微かで、何よりも真っすぐで、そこらに溢れた闇よりも昏い様相を成す。それでも潰れることなく、健気に輝いていた。

 誰がこの灯を焚いているのか。何を源にしているのか。少なからず、コイツはまだ折れていない。

 

 それとも、ただ栄えある過去に馳せているだけなのか。

 

 わざとらしく、足音を大きく立てて歩く。己の存在を主張するように。

 

「よお、小鳥遊ホシノ。調子良さそうだな……」

「……」

「さっき、お友達が頑張ってたよ。お前を救うって躍起になってた。いやあお供に恵まれてるね。鬼退治も余裕そうだ」

 

 コイツは何も語らない。物言わぬ屍みたいに、何の機微も見せない。

 砂を嚙むような思いに嘆くわけでも、やる事が全て徒労に終わった事実に涙を流すわけでも無い。

 

 虚無だ。虚しさを全身で表している。

 諦めた様子を嘯いて、内心じゃ誰よりも幸せを願っていて、これまで頑張った自分を慰めるように夢を見ている。

 

 本当に気に入らないな。

 

「なに終わった気になってんだ?お前の願いは、こんな形での終わりで満足できる程度のものだったのか?」

「……」

「肝心のお前が折れて、残された奴の……お前を助けようと身を粉にした奴の思いはどうなる?」

 

 胸倉を力任せに掴んだ。頽れて力の抜けた体は、空気の抜けた風船のように萎れていて、されるがままだった。

 

 手足を拘束していた枷が軋んで鳴いた。それは、小鳥遊ホシノの心の悲鳴にも聞こえる。

 

「俺は悪い大人なんだ。裏切られることもあれば、裏切ることもある。昨日知り合った奴を殺すことも、ポックリ死んでたことだってざらだ。でも折り合いをつけられる」

「……」

「でもな、子どもは違うんだよ。裏切られたら怒って、誰かが死んだら悲しんで、それが友人や仲間の間柄だったら絶望して。それはお前らも一緒だ」

「っ……」

「お前は仲間を悲しませるのが趣味なのか?自分を売ってまで見たい光景がそんな阿鼻叫喚か?違うだろうが」

「だったら……」

 

 ようやく発した声はか細くも、何かを必死に耐えるように震えていた。

 これは怒りだ。理不尽への、裏切りへの、現状への、そして俺への慷慨だ。必死に奥歯を噛み締めて、爆発しないように抑え込んでいる。

 

 その堰は自分への失望とさらなる激情なんだろう。

 

 アビドスが崩壊した原因を作った自分の不甲斐なさが何より嫌いなんだ。

 

「だったらどうすれば良かったんだっ!!」

「……」

「お前なんかっ、大人なんかいなければっ!!私たちは今もまだっ!!」

「そうだ。それだよ。その怒りを忘れんな。そいつがお前の原動力だ。そいつが真髄なんだよ」

 

 小鳥遊ホシノを留める手枷足枷を握り潰す。コイツにはこんなもの必要ない。

 これで手足は自由だ。まだまだ、ホルスは羽ばたける。ここで地平線に沈んで腐り落ちる奴でもない。

 

 絆された、とは違う。俺は敵に容赦する性格じゃない。信念を粘土みたいにこねくり回して、都度変えるような軟でもない。

 コイツの救出は仕事の範疇だ。黒服からの?そうじゃない。去り際に呟かれた先生の言葉だ。

 

『ホシノのことを、頼んだよ』

 

 何を思って俺に託したのか、心底分からない。

 そもそも、そこまでアビドスに肩入れする理由だって、大人だから先生だから、そんな程度の理由で命の張り合いに臨むなんて常軌を逸してる。

 善い人間を演じる自分に酔ってる質かとも思ったが、そんな酔狂って割には度胸が段違いにある。並みじゃない覚悟もあった。

 

 だってのに、最後の最後で身を引いたんだ。何をしたい。何を俺に求めている。

 もしかして、小鳥遊ホシノの境遇を通じて俺が更生することでも期待してるのか。だったら無駄だよ。ハリーポッターを途中から見るくらいには。

 

 そして、その言葉を鵜吞みに従っている俺自身も。分からないことだらけで、あんまりにもイラつく。

 

「忘れんな。お前の在り方。お前は誰よりも仲間を大事にして、誰よりも大人を信用しないワンマンタイプだ」

「何を根拠にっ……」

「お前みたいな奴は山ほど知ってる。一人で抱え込んで出来るとつけあがってく孤独な奴を。でもそれが持ち味だろ?なら活かせ。曲げんな」

「……」

「お前が負けたのはそこだよ。大人に頼るまではよかった。だが、利用じゃなく信用したのが間違いだ」

 

 なにを偉ぶって説教してんだろうな、俺は。

 俺と同じ轍を踏む人間を観たくないから、なんて、善人顔は柄でもないのに。

 

 俺は誰かを導ける人間じゃないのは解ってる。だから、この言葉もきっと堕落に繋がることも、裏目に出ることもあるかもしれない。

 

「なんで助けたの……」

「仕事、とそっちの方が利益が見込めるから。精々、復興頑張ってくれよ。その方が土地も高く売れるし、恩も売れるだけ売っておいた方が後に利用できる」

「そう……素直じゃないね」

「何を言ってるんだ?俺ほど素直な人間もそう居ない」

 

 出入り口の扉を少しの怒りも込めて蹴破る。こんな陰気臭い場所、長居したらキノコが生えてきそうだ。

 とっとと空を仰ぎたい。上を見上げるたびに一面が鈍色の景色、嫌な記憶も反芻出来て気分が悪くなる。

 

 それにしても、黒服はやっぱり俺を止めることはなかった。

 何故かは、今更考えたって分からないし、ここで頭を回しても二束三文にもならない。ここからどんな策謀を敷いていても、俺がそれを上回っていればいい。

 

 アビドスとは契約通り事を交えてやったさ。仕事については完遂してやったんだ。給料も先払いで、ウハウハだ。懐はもう熱帯。ここからバカンスに行く先も熱帯。一足先にサングラスが欲しいな。

 契約書は隅々まで目を通したが、小鳥遊ホシノの是非に関しては一切の言及がなかったんだ。なら、アビドスが白旗を振った時点で仕事は終わりだ。

 

 そして、雪崩れ込んでくるように先生からの仕事が入ってきた。それだけだ。

 

 しかし、つくづく聖人だな。先生って奴は。タイミングだって丁度いい。まるで図ったように課題が生まれていく時に赴任して手助けをする。

 先生を招聘した奴は、この先何が起こるかも分かっていたようだ。そして、そいつを解決するためだけに呼ばれたように。

 

 ああ、コイツも考えるだけ無駄だな。どうせ先生が出張るような事態だったら、なし崩し的に巻き込まれそうだ。ホント、殺伐だな。キヴォトスもホームビデオくらい和やかになってくれ。

 

「ちょっと……服は」

「あ?知るかよ。お前の体型なら……着ても着てなくてもそんな変わんないだろ。杞憂だ」

「は?……一応これでも女なんだけど」

「お前みたいな化け物が乙女ってたまか。ホルスなんて名前つけられやがって。アベンジャーズにでも入ったらどうだ?」

「私、アメコミより特撮派だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして小鳥遊ホシノは帰ってきてハッピーエンドってか。

 振り返ってみれば粗末な台本だった。三文芝居に三流の脚本。こりゃB級映画ルート間違いなしだ。金だけ無駄に動いただけの。

 

 これならインディージョーンズを一気見したほうが有意義だった。報酬はバスケットボールかってくらい弾みはいいが、俺はレブロンじゃない。生活水準もコントロールできなそうだ。

 

 だが、アビドスの土地は公的に俺の物権だ。究極的に如何様にも出来る。

 他方に売ることも、主導で開発して一大ビジネスを築くことだって夢じゃない。まあでも暫くは様子見だな。

 

 小鳥遊ホシノが帰ってきたのは確かに喜々とするべきことなんだろうが、他の連中にとっては少し苦みも残るだろう。

 畢竟、自分たちの手では救えなかったんだ。己の無力さに歯痒い幕の締め方だろう。靄やしこりが残留したフィン。

 カフェオレよりも苦くて、でもブラックよりは甘くすっきり。差し詰め微糖な終幕って所か。でも、それはアイツらの力不足が招いた。精進するんだな。

 

 パチパチ、とたばこ葉が焼べる音が耳に心地よい。今日で最後になるアビドスの空気と一緒に吸い込んだ。

 

「やあ、一本くれないかな?」

「……ほれ、今は余裕がある。一本くらいくれてやるよ」

「ありがとう」

 

 小慣れた手つきで煙を燻らせる先生。コイツも大人だ。ストレスも溜まるだろうし、職種が職種だしな。

 こういう時くらいは無礼講だ。誰かに気も遣わず、何も考えず大義も責任も煙に巻きたい時だってある。

 

 丁度いい機会かもしれない。

 こういう時でしか腹を割って話せないこともある。大の大人同士の貴重な対談だ。日頃、抱いていた疑問を一つ、投げてみようか。

 

「なあ、先生。アンタ、何で生徒を助ける」

「それは……」

「俺はアンタを同じ人間とは思えない。性格がどうこうって話じゃなく、見返りもなく命賭けるなんて根本がおかしい。黒服とまた違って、大概狂ってる」

「そうだね……」

 

 何かを考えこむように俯く。顔にたばこの煙が被って、少しそんな神妙な表情も様になっている。

 

 ここ数日、アビドスと、そして先生と行動して芽生えた疑問だ。

 コイツは人間らしくない。利益も危険も省みず、ただ生徒の味方を張り続ける。でも機構とはまた違う。そこには明確に寄り添いたいって意志を感じた。

 

 一体どんな感情で突き動かされているのか。何でそう、味方になろうって湧き上がれるのか。原動力は何だ。

 

「私は先生なんだ。先に生き、生き様を示す。それが先生の役割さ。君風に言うなら信条や信念がそれさ」

「……」

「君が自分の利益や勝利を大事にするように、私はそれを大事にしている。それだけだよ」

「そうか……」

 

 変にはぐらかされた気分だが、これ以上叩いたところで何の益もなさそうだ。文字通り煙に巻いたってことか。

 

『先生』ね。俺にとって先生なんて存在は害でしかなかった。子供から搾取し、先に生きるより上に立つような居丈高でクソッタレな性格だ。

 巷で噂の先生って奴もどんな腹黒い大人なのかって勘繰っていたが、どうやら、先の言葉に嘘はないらしい。真摯に生徒の成長と安全を願っている。

 

 まるで、神みたいな存在だって思う。基本は慈愛の精神で見守りつつ、介入すべき時にはしっかりと手を差し出す。そんなデウスエクスマキナ。

 

「ホシノのこと、助かったよ。ありがとう」

「正気か?結局、俺がしたのはアンタの好きな生徒の意志を踏み躙った。とんでもないヒールだぜ?」

「生徒の無事は第一優先だからね。それに、君なら信用できる。信頼はちょっと……だけどね」

「ハッ……請求書は送っておく。一週間以内に振り込んでくれ」

 

 吸殻を携帯灰皿に放り込む。丁度、先生も吸い終わる頃だ。

 

 何もかも最善とは程遠い、ただ生徒の命だけは保障された苦い後味を残す結果になった。

 全開で笑えて、見る者全ての涙を誘うような感動的な幕引きにはならなかった。肝心な時に躓いてもどかしく、フィナーレも敵の手を借りる始末。

 

 もし、俺が介入しなかった場合はどんな光景が広がっていたのだろうか。

 意外に変化は無いように思えるし、それでも終わり方は不評のない気持ちのいい大団円だったに違いない。

 ハッピーエンドに心から破顔するも、微妙な結末に苦笑いと溜息で締め括るも、青春の醍醐味だ。こんな一つの場末の祭りで一喜一憂できるんだ。大人じゃこうもいかない。

 

「じゃ、ここでサヨナラだな。二度目の邂逅は無いことをハワイの空に祈ってる」

「挨拶はしていかないのかな……?」

「おいおい、気まずいだろ。そういう空気は苦手なんだ。体調でも崩したらバカンスがおじゃんだ」

 

 もっとスイートライフみたいに和やかな日和が好きなんだ。

 今更、あの教室へ足を運んで肩身が狭いなんて話じゃない。空気が重くて潰れそうだ。いっそ消えたくなる。

 

 まあ、黒見セリカには一言くらい何か言ってやってもいいが。梯子を外す真似をした手前な。言うこと全てが裏目に出そうだ。

 迂闊に焚き付ける発言でもしたら、それこそ責められる。幾ら相棒とはいえ立ち入っていい領域とそうじゃない部分の組み分けはしっかり弁えてるさ。

 

「まあ、でも……紫関ラーメンは常連になるかもな」

 

 あの味を屋台でってのも、中々に乙なものだろう。外の空気を浴びながら啜るのもまた旨いんだ。

 それに、店が粉微塵となっても続ける勇気や信念てのは素直に敬服する。そいつは魂込めてないと出来る決断じゃない。

 

 だから、偶になら足を運んでもいいかもしれない。

 

「あ、そうだ。折角だから名前、聞いてもいいかな。自己紹介してなかったから……」

「ああ、そうだな……秤レン。会社の名前はAplucaem(アプルカイン)だ。是非ご贔屓に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は整いました。そろそろ”彼”を使う時ですね……」

 

「秤アツコは所詮、餌に過ぎません。彼を呼び出すための……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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