悪い大人でも青春を謳歌できますか? 作:三度の飯より曇らせ
感想、批評じゃんじゃん募集してます。
なんか全然話が進まない……。
先生の轍をなぞるのは簡単ではなかった。
砂を被るアビドスの道は、成人男性の足の跡など克明に残り、それを辿ればいずれは彼の姿も目に映るだろうと、楽観視していたのが全て仇となった。
途中までは鮮明な道すがらを描いていたんだ。時偶に風に流離ったものもちらほらと散見されたが、特段以上や問題はなく後を追っていたのに。ある場所から、それがまるで鷹にでも攫われたかのように雲散霧消した。
異常だ。それこそこの蒼天を仰ぎ飛行しなければ成しえない芸当だ。追跡を恐れて自ら隠ぺいを、とも思い至ったが、あの腑抜けた顔でやってのける周到さはないだろう。客観じゃ未だ、度し難い善人と性善説の欲張りのような人間だ。人の悪意など億が一にも疑ってないだろう。
しかし、人の足だけが地に着く存在だとは限らない。道を進むのは人以外にもざらにいる。自動車、動物、それに自立型のロボだってそうだ。そして一つ、不動の証拠が明瞭となっている。
より影が濃く刻まれた跡は、タイヤ痕だ。それもかなりの体重がかかったもの。この細さからして、自転車か。模様はロードバイクのソレに近い。
そして、周辺に残された僅かな湿り気。砂が吸ったからこそ分かる触角の告げる異常は、どこからか垂れた水滴だった。そして、作用にも確認できた粘性はきっと。
「エナドリ、か……」
よっぽど思い切りよく飲み干したんだろうな。よく零している。残滓ですら見えてくる当時ののど越し。きっとありえないほどにエネルギーが不足していて、脱水者のようにのどの渇きを訴えていたんだろう。
人口が極限まで過疎なアビドスの居住区で、そんな間抜けは一人しか心当たりがない。
「誰だ、蜘蛛の糸を垂らしたのは……」
先んじて、救世主になったやつがいる。
考えられるのは、日夜、アビドス再興しか頭がないアビドス高等学校のガキどもだ。パトロールを銘打った散歩の途中。恐らく、たまたま通りかかった路地で死にかけを見かけたら誰だって興味が湧くもんだ。
あいつ等からしたら、死にかけの先生なんてカモがネギどころかすき焼きの具材と、出汁と、生卵を抱えて、既に鍋に待機しているような状態で放置されているようなものだ。後は鍋を囲むように命の恩をせがめば、もともと手に入る予定だった物資に色までつく。この一件から永遠に出汁が濾せる。
この立場も、全ては命を拾い上げたから手に入れたもの。寧ろ、この惨状を狙っていた可能性だってある。
今、アビドスに居を構える者と、キヴォトスすらまともに知らない門外漢が、土地勘で張り合えるわけがない。わざわざ地図も寄越さず、地形が変わっていることなど百も承知なアビドス側が、恩を着せるためのマッチポンプを仕組んだとも解釈できる。
もし事実なら、子どもながら中々いい悪知恵を持っている。楽しいホームアローンも期待できそうだ。
ま、会ったことのない奴らの人となりの推測ほど、不毛な思考もそうないか。答え合わせすら碌に出来ないんだから。今は暑さに負けないように、このタイヤ痕に必死にしがみ付くことに集中を費やすしかない。
「にしたって遠いな……」
無駄に広い上に、砂漠化の進行が景観を大分損なわせている。物の見事にすべてが空漠で寂寥感が感じられる情景。快も不快もないが、横目に過ぎる景色はどれも似通っていて飽きも来る。
歩かなければならないのに犇々と募る無聊。この類の暇が一番忌避できる。
脚だって完治したわけじゃないのに、昨今、バリアフリーがなってない場所は廃れやすいぞ。脚を刀で景気よく刺された観光客がいることも考慮してほしいな、全く。
「あ……銃声、か?」
撃鉄、それに似た何かの音が空気を伝播する。
よく聞き慣れた音だ。識別を誤ることはない。断言できる。
しかし、なんの音にせよ、距離が離れていても分かる衝撃音は只事ではない何かが起きていると、容易に推し量れる。
もしや、アビドスとゴロツキが交戦中か。
カイザーの昨日の言葉。残った記憶を摘まむ。
頻繁に自分語りを挟んできてウザい対談だったから、教科書にマーカーを引くように、肝要な部分だけを抜粋して記憶していた。その中に一つ、消耗を誘うために不定期にマーケットのゴロツキを買収したと言っていた筈だ。好きなタイミングで都度、嗾ける予定だとも。物資枯渇を狙った下種な作戦だが、戦争においても兵糧攻めは基本かつ王道で正道。これが決まれば必勝とも言える。
「そして、それが今日だった訳か……」
まだ分からない。が、十中八九、正鵠を射てるともいえる。もしこれが、先生へ不信感を抱いた生徒の誰かのものだとしても、今でも響く銃声は辻褄が合わない。彼の体は脆弱だ。神秘を有しない完全天然もの。この数の銃弾を浴びればたちまち血に浸かることになる。ハンバーグでも作れそうな見事なミンチとなって。
となれば、相手はそれなりの手練れか、数を集めた雑兵の群れか。神秘を身に内包するとは即ち、ヘイローを浮かばせる若人が代表だ。
兎にも角にも、大きな手掛かり、導は意図せずふっと湧いた。別段、何が無くても人がいるというしょ証明でも、今じゃ嬉しさが込み上げる。いざ、加勢すれば本当の手がかりだって恵んでくれるかもしれない。
「ああ。先生を助けたアビドスも、こんな気持ちだったんだろうな……」
銃声の当事者は目の前にいた。漫然と銃を構え、流れるように敵を退ける桃色の髪の娘。手慣れた動き以上の熟練。細かいブラフや無意識下での視線誘導が巧み。果たして、培ったのは何処か。
敏捷に弄ばれても、必死に銃口を喰らい付かせようとする様も哀れだが関心はできる。しかし矢鱈に打ちまくるもんだから、弾の消費も激しくリロードの隙が生まれるのもスパンが早い。銃乱戦に聞こえたのはこの様相も起因してたのか。実際、多対多の乱戦ではあるんだが。
助勢もいい。別に構わない。どうせ助けてやる側だ。どちらを選ぶかも選り好みができる。
けど、俎上に載せたいのはそこじゃなくて、今、戦場を設営している張本人たちが如何せん、そう軽く凭れることのできない者の集まりだということ。
片や、特別語るような拘泥もなさそうな制服を、各々着こなすアビドスの生き残り。レディガガまでとは言わないが、もう少し身なりに個性を出して欲しいな。そして他方、相対するのは、制服の平平凡凡は比類しながら、被り物にアイデンティティ見出した稀覯な感性を持つ、前時代的な不良の群れ。鈍器から銃火器まで豊富な武器と資源を用いて、数と武装で底上げしたとて差異の無い質をぶつける。
正直に言って劣等だ。勝ち目は万に一つも無いと言ってもいい。しかし、何よりも攻撃を嗾けるタイミングが俺にとって最悪だった。
ただでさえ先生とのパイプも繋ぎた損ねたっていうのに、この推し量ったようなタイミングでのアビドス闖入は余りにも露骨が匂う。恐らく、今、アビドスに阿ても怪訝な対応で一蹴されるがオチだろう。より酷薄な報復だって待っているかもしれない。
加えて、この不良共も少なからずカイザーの贈賄と息が掛かっている。裏金伝手で俺の面が割れでもしたらそれこそ、信用にひびが入る。元々、仮初とはいえ体裁は繕って置きたいってのに。迂闊な交流が現状できない。
ああくそ。何でもいい。どんなちゃちな理由だって、落書き染みた背景だって構わない。何か、アビドス側へ加担できる大義名分が、そこらに転がっていないものか。それこそ、生徒の個人的な因縁でも。それ以外だったら、先生との関りだって……。
いや、一つだけ。あと一つだけ、念のためと取っておいたカイザーからの土産があった。
その頼みの綱は、今や誰もが持っている携帯端末にこそある。
「……もしもし、そっちは連邦生徒会防衛室長さん?」
『はい。何か緊急のご連絡ですか。カイザーの傭兵さん』
「おっと、壁に耳あり障子に目ありってやつか。頭が消えてもこそこそと、ゴキブリかてめーら」
『さようなら』
「ちょ、ちょっと待て。悪かった。謝罪する。こういう煽り合い、憧れてたんだ。分かるだろ?』
どうやら、情報は漏れてるようだ。
いや、それもそうか。ヴァルキューレとの懇ろな関係を匂わせていたんだ。大元のドン。防衛室長とズブズブな関係を築いていたって何らおかしな話ではないし、その当事者のカイザーが大一番な働きに臨むとあれば、情報が行き渡って然るべきだ。
不快じゃない。寧ろ、俺の渾身の挨拶代わりが相手を不快にさせてしまったが。だが、予期せぬラインも設けられそうだし、何より話が早い。
「……まどろっこしいのは嫌いみたいだから単刀直入だ。今から俺の要望に黙って頷いてくれ。これはアンタの為にもなる旨い話だ」
『内容次第ですが……まあ、話してご覧なさい』
「今から生徒会権限で、俺に『先生の任務・就業を正式に援助する依頼』を申請し、俺がそれに正式に受理をし、捺印した事実を記した契約証書を作ってくれ。可及的速やかにだ」
『……なるほど。欺瞞で真実を虚飾しようというのですね』
「ああ、いつもやってる十八番だろ?アンタ達のさ……」
伝わったようで何よりだが、電話越しでも相手の首が重く固まっているのが分かる。それ以上の二の句を紡がないあたり、言外にメリットを語れとでも胸中で吐いてそうだ。
全く面倒だ。何でもかんでも親切に言葉にしてくれると思うなよ。これだからお高く留まってる奴はキライだ。 俺は介護士じゃないってのに。
「今回の件で簒奪した先生の総ての情報をお前に譲渡する。出血大サービスだろ。レモネードスタンドより安価だ。俺にとっては見切り品な代物なんでな」
『ふふ、どこまで見据えているのやら。まさか私が先生の情報を欲していると?』
「……その方が後々楽だろ?何なら"その時"は俺も手てを貸してやる。ほら、これで悪くない条件だ」
『なるほど……いいでしょう。確かに貴方は働き者だ。速やかに作ります』
来た。最高の隠蔽マシンが釣れやがった。
何せ、腐っても国家権力。振るえる権利は、着の身着のままな俺とは段違いに手広い。出来ないことのほうが少数なんじゃないかってくらいのオールマイティな手札だ。これは後々、絶対に役に立つ。それに、今後の労働力としての約束を取り付けることで、その場限りの即席ではない、継続的な関係も見込める。
そして、後は適当に従っておけばいい。一回、簡単なおつかいでも熟せば、それを盾に幾らでも関係が切れるから。それに何に手を貸すなんて明言してないしな。劣勢になったら尻尾を巻かせてもらうし、袂だってチョキンだ。
悪いが口三味線で大人を出し抜こうなんてコーヒーのないマサラダくらい甘いぜ。何せ口先から生まれてきたような男だからな、俺は。
『では、健闘を祈りますよ』
「ああ、そっちこそ」
よし。これで体裁的な闖入の大義名分が完成した。依頼された仕事となれば、先生は先ず首を振るだろう。たとえアビドスの奴らに猜疑されようと関係ない。俺は飽くまで被雇用者であって、指定された行動を指定されたように熟すだけの機械になりきればいい。そうすれば、疑いは自然と雇い主に集中する。雇用関係を築いて黒幕を匂わせる簡単なミスディレクション。
そして、ここからは俺の裁量がモノを言うターン。俺の役回りが試される。
如何にして信頼を勝ち取るか。如何にして懐に入り込み、絆していくか。俺という存在が彼らの輪に必要不可欠になった瞬間が収穫の時期だ。そこで劇的に袂を別れば、その刃は余りにも深く心に刺さるだろう。
善は急げ。ウォームアップがてら、手始めにヘルメット愛好家とじゃれ合うとするか。
「よっと……」
「あん?誰だてめぇ!!」
「なんだかんだと聞かれたら……って一人と一匹足りねえな」
それもそうか。使い捨ての下っ端に一から十まで事細かく話す必要もない。面倒だし、路頭に迷ったゴロツキの集まりに理解されるかも分からない。
俺の存在を仄めかしても無いとなると、本当にこいつらは雑兵なんだろうな。今この時、アビドスを襲う為だけに集められた。つまり、手加減も躊躇も要らない訳だ。いいね。簡単に区別がついて此方もやりやすい。
「んじゃ、ご臨終」
「へ?」
ボディブローを一発。かなりの膂力で打つ。それだけで苦痛に声を上げる間もなく、意識がシャットアウトした。
一撃でこの有様か。しかし脆いな。マーケット育ちともなれば、もう少し噛み応えのある輩を期待してたんだが。所詮は吹けば飛ぶような塵芥の徒党だな。何としてでも喰らい付くような反骨と胆力は見込めない。
「なんだコイツ?!」
「と、とにかく打て!!」
なんて質が低い反撃だ。杜撰も杜撰。唾したくなる雑な対応だな。
碌に標準も合わせない乱雑な弾のばら撒き。最早、歯牙にもかけない。無念に落ちる薬莢の悲鳴の方がまだ耳障りだ。 全方位的に囲むのは良い判断だが、我先にとやたらめったらに打ちまくれば、被弾者は俺に留まらない。それに、激しい弾の雨と巻き起こる硝煙は、視界不良にも繋がる。
そもそも、ヘイローを浮かせてる相手に、そんなガラクタで太刀打ちしようってのが浅はかだ。素人思考が透けて見える。
「ほい、よっと……それ」
一人、また一人。怒涛の勢いで意識が砂塵の海に奪われていく。もうここまでだと作業だな。実際、就業中ではあるんだが。やはり、もう少し頑丈さが欲しかった。出来の悪いもぐら叩きでもやっているようだ。
全く、どっかのインパラ好きの兄弟みたくしぶとくなれよ。神の姉ちゃん相手に生きてたんだぞ、あいつらは。
「くそ。コイツ全く堪えない!」
「銃で怯むのは三流までだバーカ」
ヘルメットを懸隔していても伝わる衝撃に苦悶。揺れる脳に意識を手放していく。
遠巻きに打てど止まらない相手に焦れたのか、辛抱ならず近接へ切り込み始める。
このままではジリ貧。弾と時間の浪費だと考えたのだろう。人数有利は不変なのだから、無駄に戦力を削ぐ前に、寄って集って嫐ることを選択したようだ。
銃口を刃に、構えて突撃する。砂埃が翻り周囲の状況は不明瞭。この環境の中、周囲で乱闘でもされたら厄介だな。
確かに相手は独りと断定し、統率さえ取れていればやけくそな突撃も決して下策ではないが。
「チームワークが前提の戦略だな」
理想論は嫌われるってのはいつの時代も変わらない。出来さえすれば、やりさえすればなんて何にでも言える便利な言葉だ。
多対一での乱闘は、一が圧倒的に不利に映る。実際、その通りだ。ただ仕留めることに執着し、緻密に練られた策の前に、孤軍奮闘など雀の涙ほどの抵抗になる。一人で賄える範囲には絶対的な限度がある。それを越えた戦いは命でも賭けなきゃならない。つまり、本来であれば敗北は必定だ。
しかし、それはチームワークと秀逸な脚本が備わって初めて現実的になる。
当然、路上にのさばっているだけの劣等に、そんな知性が備わっている筈もなく、乱雑な攻撃と杜撰なフォーメーションは失笑を誘う。本当に、殺す気があるのか疑わしいまでの雑然な策だ。
ただ群がるだけ群がり、各々好き勝手に攻撃するだけなら五歳でもできる。こんなの寧ろ真面な相手じゃ利敵行為だ。蜘蛛の子を散らすように広がっていくならまだしも、一か所に纏ってくれるのなら害虫駆除も効率化される。
「汚物は消毒だ……てな」
考える脳も擲って出た特攻に構えるも無く、ただ手元にあるものを握る。
破片手榴弾。アップル・グレネードとも称される小型兵器。ブラフから隙の誘い出し、はたまた目の前に蔓延る雑魚どもを蹴散らすのにも使える、便利のいいオールマイティなアイテム。致命的なまでの殺傷力は期待できないが、至近距離で喰らえば重症は免れない。況してや、襤褸切れ一枚の隔てりじゃ、一生消えない傷跡が刻まれるだろう。
今度こそ、確りとピンも抜ける本物の登場だ。突然目の当たりにすれば、あの狐だって狼狽える威力はお墨付き。
目測、俺が立つこの場所を中心とした半径五メートルの範囲に奴原が概ね収まったのを目で確認したと同時、素早くピンを抜き信管に火を点ける。そして足下にそっと置くように落とし、俺も被弾を抑えるよう垂直へ飛ぶ。
思い馳せる五秒後の惨状。この間抜けどもが次に拝むのは病院の天井だ。
「ぐおっ……!」
やはり回避しきれず、爆風と伴った破片が身体を襲う。
目だけは潰されないように、顔を腕で覆う。流石、改造威力の手榴弾。範囲も痛みも桁違いだ。
有象無象を巻き込んだ汚ねえ花火も壮観。夏には早いが季節外れというのも、概ね乙なものだろ。
「いってぇ……まあ、大体片付いたか?」
新たに上がる硝煙も確認できないため、視線をアビドスの生徒を一瞥する。
少しは連携もマシになったか。
個々の能力が無駄に高いから、各々が個性を主張しすぎて、肩を組もうなんて気が微塵もないような動きが目立っていた。五人で一緒に戦うというより、五人が一人一人、別個で戦っているようなもの。
有体に言って、品がない。おままごとを見ている気分になった。
けど今は、それぞれの特性を活かした戦術が執れている。いい采配だ。まるでプロが手繰るチェスの駒みたいに洒落てる。あまりにも劇的な変化に、後ろから他人の思考回路が明け透けだ。
この数分で優秀な指揮官を新しく雇ったとは考えにくい。そんな便利の良い人間、俺以外にはいないだろう。となれば、指揮系統は恐らく……。
「”シロコ!今だ、ドローンを!!”」
「……ん」
やっぱな。豆腐みたいな柔い体してる癖して、一丁前に堂々と戦場に立ってる胆力。そして嘘みたいな洗脳ボキャブラリー。こんな大物が戦闘指揮はできませんなんて冗句にしても不細工だ。
まるで鳥瞰してるかのように盤面を整える。お空にも目が付いてんのかと疑うほどに的確で、それこそ映画でも鑑賞しているかのような感覚を覚える。あと小一時間は我慢できる見応えだ。キャラメルのポップコーンとコークが恋しい。
にしたって聡明過ぎやしないか。こいつはきっとミステリーを見てる時も素で犯人を推理して当てる奴だ。大抵、こういう奴と見る映画やドラマは楽しめない。
「よし、これで終わりだね~」
「案外、少なかったですね。人手不足でしょうか?」
「いや、原因は別にあるみたいだよ……ね、お兄さん?」
「おいおい、そんな怖い顔するなよ。フルハウスでも見るか?もっと笑顔になれるぞ、多分」
どうやら既に面は割れてるらしい。これは登場の仕方をミスったかな。もっと格好よく、例えばインフィニティウォーのソーみたいに参戦すれば良かったか。
ただでさえ、外敵が多くて敏感になっているアビドスだ。今まさに敵を排除したばかりって時に現れる謎の青年。それも黒ずくめ。ああ、確かに怪しいな。この装いが許されるのはマトリックスかブラックパンサーくらいだ。それ以外はただの不審者。
「悪いけど、今はコメディの気分じゃないんだ」
「いや、俺なりのユーモアだよ。もっと穏やかに行こうって、さ」
「貴方さえいなければ穏やかに終われたかもね~」
「はは。いい皮肉だ。ドラマなら主役を張れる。詐欺師役でシーズン7くらいまで」
アビドスの燦然と輝く太陽のもと、陽光をその身に留めるように勇ましく光るショットガンの銃身がこちらを睨んでいるのを見て、冷や汗を流しながら答えた。
「……安心してくれ。俺は味方だよ。アンタらの。正確には先生の、か」