悪い大人でも青春を謳歌できますか?   作:三度の飯より曇らせ

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独自設定もりもりです。ご注意ください。
独自設定については、全て日本の現行法、制度を踏襲しています。とはいえキヴォトスは連邦制なので矛盾が生じるかもしれません。どうかご考慮ください。



悪い大人と借金問題

 

 誰かと肩を並べて戦うってのは、存外にも難しい。

 チームを意識するだけで、戦闘時のノルマが格段に増える。ただ目につく敵を端から処理していくってだけじゃ上手いこと戦況は纏まらない。

 どこに誰がいて、そいつの役割は何で、今、何をしようとしているのか。見るべきは敵の急所だけじゃない。味方にまで逐一目を向けなければいけない。だから何かと融通が利かなくてやりきれないんだ。

 加えて、自分の役割もまた意識しないとチームワークていうのは瓦解していく。この集団の中で、自分だからこそできる役割ってのを模索しながら戦わなきゃいけない。

 

 心から尊敬だよ。チームを主軸にして勝てる奴は、多分そう居ない。

 俺にはやっぱ無理な話だ。あれこれ考えるのは昔から苦手だったから、孤高気取って、いつもライブ感で腕を振るのが癖になってきてる。

 バッドマンだってチームとは上手くやれてるってのになんてこった。きっと俺はアメコミヒーローに成れないだろうな。だって今も、俺がこのチームの一員としてできる最適解が分からない。ただ適当におこぼれを掬ってるだけ。

 

 言ったってこれは仕方がない。何せ、アビドスの面々は既に連携が完成してるんだ。

 小鳥遊がタンクで前線を上げながら、気丈な黒髪ツインテと銀髪マグロ風の獣コンビが牽制や妨害を熟し、敵を誘導しながら筋肉牛女がミニガンを軽々とぶっ放す。そして、戦場を俯瞰してるメガネがまたサポートして。瑕疵がなく、それぞれの役割に均衡が取れている。

 そんなバランスの取れた陣形の中、俺みたいなのが入ってみろ。すでに展示されている絵画を見て、より美しくしてやろうって素人のくせに筆を握りだす馬鹿はいない。

 つまり蛇足ってやつだ。自分で言うのもアレだが、余計な要素になってる。

 または空気が読めないやつとも言える。どれくらい読めないかっていうと、女子高の中に何故か一人冴えない男子が入学して素知らぬ顔でハーレム作ってくるぐらい読めてない。多分、合コンとか行かない方がいいかも。

 

「ちょっと!アンタも真面目に戦いなさいよ!!」

「だったらしっかりとエスコートしてくれ。一人で踊るオクラホマミキサーほど虚しいものはないんだ」

「でも武器がナイフだけって、相当ピーキーだからねえ。おじさん達も困っちゃうよ~」

「生憎、飛び道具の類が苦手でな。三メートル先の的も、気になるあの娘のハートも射止めたことがないんだ」

 

 きっと皆が最後まで手を付けないだろう余り物だけをつまみ食い。そんな惨めな姿に唾を掛けた黒髪ツインテ。どうやら黒見セリカって言うらしい。

 コイツは、今は昔のツンデレってタイプだ。今日日見かけない性格だが、固定の人気も獲得しているらしい。

 しかし、酷い物言いだ。俺じゃなかったらとっくに戦意喪失してるぞ。気が強いとは言っても、このタイプは苦手だ。同じ髪型でも、ハーレイクインの方がイイ女だと思う。

 

「うーん、それじゃお兄さんには、戦場の真ん中で相手のヘイトを買ってほしいかな~」

「あ?それってどういう……」

 

 何の脈絡もなく、俺の手を力強く鷲掴みしてくる。握手にしては力が入り過ぎじゃないか。幾ら俺がハンサムだからってそこまで緊張しなくてもいいだろう。

 とはいえ、ナイフを握る手とは逆の左の手だ。友好の証はそちらにせよ期待できなそうだ。

 

 けど、何でいきなりこんな行動、と疑問に取り組む暇もなく、気が付けば視界は天地を返し、吹き抜けるような蒼穹を仰いでいた。そして浮遊感。地を踏む感覚が消えていて、まるであの天空と混ざったかのような自分が解ける感覚。

 こんな雄大な空を前にしたら、如何なる疑問も吹き飛んじまったよ。俺の悩みなんてちっぽけで、この広い空からしたら些末なんだろうなって。

 

 だから、きっと、俺がこの後着地するだろう場所が、敵がわらわらと蠢いている中心だとしても。四面楚歌の激戦地だとしても。こんな麗らかな蒼天じゃあきっと気にならないんだろうな。

 

「……ってんな訳あるか!!」

 

 あのクソピンキー、俺を敵陣営のど真ん中にハンマー投げよろしく気前よくスローイングしやがって。

 人を勝手に投げちゃいけませんって1+1より先に習うもんだろうが。俺を手榴弾か何かと勘違いしていないか。そんなことしたって爆発するのはお前への怒りだけだ。

 

 てかマジでどうすんだ、これ。このまま突っ込んだら俺の身体はハチの巣よりも穴が増える。悪いが俺の体からハチミツは出ないぞ。トマトジュースなら絞り放題だが。

 俺が小粋なジョークを挟むのは、片手間で笑えるくらいに余裕があるときか、若しくは現実から目を背けたくなってる時だけだ。さて、今の俺はどっちだろうな。答え合わせはあの世でやろうか。

 

 現実は非常に世知辛く、宙を舞う体を止めてくれやしない。人は本来、空を飛べないはずなんだが。ついにスーパーマンになれる夢でも叶ったか。

 だが、そんなこともなく、盛大に頭から敵陣へと着弾してしまった。飛び込み競技じゃ最下位が確定しただろう無様な着地だが、こんな痛々しい様でも血の一滴すら流れないのは神秘様万歳だな。

 

 まあ、この後は文字通り出血大サービスをしてやる訳だが。

 

「……はは、イカしたヘルメットだ。俺も被ってみたいなーって」

『……殺せー!!!』

「だろうな!!恨むぞクソピンク!!!」

 

 流石アビドス。砂漠の国。こんな苛烈な砂嵐、中々お目にかかれない。本当に体が吹き飛んでしまいそうだ。そりゃ過疎になるわけだ畜生。

 

 こんな弾幕敷かれて避けられる可能性なんて万に一つもない。楽園の素敵な巫女ですら三分で残機が吹き飛ぶ鬼畜な密度だから。元から回避なんて思考は外に追いやっていた。

 被弾はもういい。背に腹は代えられない。だが、致命傷だけは死んでも避けろ。目、関節、脳、脊椎、首回り、動脈はデッドポイントだ。それ以外ならビュッフェでも開いてやる、好きな所を撃ちやがれ。

 

 だが、俺のランチは安くない。タダで食わせる飯はねえよ。

 

「バイザー越しの曇った視界で捉えられるかァ!!」

 

 朝のとは比にもならない高密度の銃弾の僅かな間を縫って、のらりくらりと身体を滑り込ませる。

 アサルトライフルや短機関銃、ショットガンに対し、此方はナイフ一本という愚行。一々被弾を考えちゃいられない。肉を切らせてなんとやら。死に物狂いで命を握りしめる。

 

 近場の手ごろな敵に接近し、構えたアサルトライフルの銃身を横に蹴り薙ぐ。銃を手放されたゴロツキはヘルメット越しでも分かりやすく狼狽する。その隙が命取りだ。

 空いた腕を掴み此方へと強引に引き寄せる。腐ってもキヴォトス産の不良。場数はそれなりに踏んでいるし、肉体は幾許か頑丈だ。上質だ、キャプテンアメリカごっこでもしようか。

 

「ちょいとデートでもしようぜ!」

「は?……て、うおっ!」

 

 丁度よく拵えた盾を銃弾に晒す。俺をめがけて放たれた弾は全てこの盾に吸い込まれていく。所々にこぼれる呻き声は気のせいだろ。だって盾は喋らない。

 

「これも邪魔だな……そいっ!!」

 

 何故だか盾についていたヘルメットをはぎ取って、他の敵の銃に当てるように投げる。

 そして、盾を自分の身体を隠すように前に突き出し、前方へ突貫。ナイフが届くレンジに入ればこの肉壁も用済み。視線はブラさず、背後に屯する敵へもういっちょスローイング。

 

「コイツ人を盾に……!」

「使えるのは何でも使う。エコだろ?」

 

 こっちは元より頼りないナイフ一本だ。文句は聞き入れないぜ。

 

 逆手に構えたナイフを眼前の敵の鳩尾へ刺し込む。乗せられた力は切っ先へ収束し、痛みも倍だ。

 痛みに意識が途切れ、頽れた敵の身体を掴み振り回す。周囲の敵も巻き込みながら蹴散らしていく。盾のほかにバッドまであるとは用意がイイな。華麗な逆転ホームランを見せてやろう。

 

「そーれッ!!」

 

 これでかなりの数が減ったはずだが、依然、数的不利は変わらない。目視じゃ殆ど変わったようにも見えない。こんだけ群れられると青天井だ。

 この状況じゃ鋼線もガラクタだ。そこで華麗に敵を切り裂けるほど俺の技術はコミック染みてない。だからって一人一人相手してやったら次拝むのは明日の日の出だろう。

 

 くそっ、しゃーないか。

 

「それ、借りるぜ!」

「え……」

 

 近くの敵の脊椎を叩いて意識を断絶させる。マガジンを雑に確認し、握っていたアサルトライフルを簒奪して乱射しようと、トリガーに指に掛けて思考が止まる。

 

「……っ」

 

 駄目だ。指が動かない。あと少しでも、ほんの少しでも奥に引けば、この銃は嘶き戦況は好転する。

 グリップを握る手が、引き金に込めた意志が、銃を構えた己の心理が、銃声を鳴らすことを許さない。俺の総てがコレを捨てろと拒絶している。

 

 あと少しでいい。少し指を傾ければそれでいい。たったそれだけの小さな望みも、叶わない。

 この柔い引き金を指で引く。放たれた弾丸は何を意味するのか。俺は知ってしまったから。その一発一発に込める思いが、まるで神経を通わせているかのように、肉を断つ感触が組織を抉り穿つ感覚が、この手を直接這わせているかのように鮮烈に感じさせる。

 

 耳鳴りが酷い。神経が震える。脳が軋む。精神が歪んでいる。筋肉は働き方も忘却していた。久しく味わっていなかった恐懼が魂を蝕んでいた。

 

 まだか。まだなのかよ。

 

 声も上手く出ない。喉がどうしようもなく渇いていて、紡ぐべき音が痛みに代わる。

 

「……クソッタレが」

 

 もういい。撃鉄を起こすのは諦めよう。いつまでも膠着状態じゃ、何も進まない。後ろも閊えてる。

 俺の役目は何だ。課せられた使命は。敵の鏖か。違うだろう。ここに紅い褥を敷くことが目的じゃない。ただこの戦場を荒らし、戦況を乱し、混乱を巻き起こす。それだけの筈だ。

 そうだ。だから標準を眉間に合わせる必要はない。銃口に殺意を乗せることに大した意味は生まれない。

 

 ……少し一息。嫌な汗も引いてきた。しかし、滲み出たものを拭う余裕はない。

 バレルを下げ、グリップから手を放し、銃口を下にハンドガードを新たに握りしめる。銃はそれなりに強固な構造で完成されている。数多の撃鉄でも形状を歪めないように。

 だから目一杯に振り下ろせば、その硬さは純粋な脅威になる。

 

「ガッ……撃たねえのかよ」

「悪いな……中る自信がないんだ」

 

 ストックには、さっきまでの儘ならない感情まで運ばせて蟀谷をぶち抜く。面倒だがこれでいい。俺には銃本来の使い方を手放すことしか出来ない。

 頑なに被り続けているビビットカラーのヘルメットも気休めにならない程の、何一つ質の劣化しない衝撃が、敵の意識を刈り取っていく。

 

 やっぱり俺には、こんな原始的な暴力が性に合ってる。変に文明匂う武器は不得手にしかならない。銃がお洒落の時代のココじゃあなんとも不便な性根だが、最後に信頼に足るは己の肉体ってのもロマンにあふれてるだろ。

 

「コイツ、急に止まったと思ったら……!」

「一度きりのボーナスタイムだ。逃したお前らが悪いっ」

 

 被り物なんて関係なく、ただ衝動に任せて金属バットが如くライフルを振る。構造が軋み始めた。パーツが歪み叫び声が聞こえる。このやけに耐久性のあるライフルも、あと数分の寿命だろうか。

 どうせ俺が備えたって半ば宝の持ち腐れだ。凶弾は放てず面目躍如の機会にも恵まれない憐れな武具だが、それでも凶器だっていうなら俺が草臥れる最期まで命に牙を剝かせてやる。

 

 都度、その辺に横たわる肉を蹴り上げては盾に用いて銃撃を往なし、またその肉壁は視界を遮る陰にもなって、個々にインファイトを嗾けやすい。それを最上のハイペースで。

 

「たった一人なのに止まんねえっ!!」

 

 銃身が折れる。その度に調達。銃が半壊し形も保ってない。また鹵獲する。

 三か、四か、それ以上か。同じようなことの繰り返し。展開に刺激もなく面白みが無いな。八月の夏休みにはまだ早いんだが。

 

「避けたほうがいいですよ~」

 

 この声は、アビドスの脳筋牛女。名前は忘れもしない十六夜ノノミ。あのネフティスのご令嬢さん。

 漸く戦況に動きが見えたか。戦場のど真ん中とはいっても、相手がこれなら手持無沙汰の無聊とも見分けがつかない。いいタイミングだ。こんな退屈も飽き飽きしてたんだ。

 

 やっとこさ追いついたアビドスの面々。色合いや形が無骨なシールドが頭頂を覗かせ、また剛毅なミニガンの威圧感が直ぐ後方から犇々と伝ってくる。そして上空にはドローンの駆動音。準備は万端って感じだな。

 

「……ちょっとハプニングもあったが暇つぶしにはなった。んじゃ」

 

 ストックが罅割れたライフルを無造作に投げ捨て、両手には欧米産のリンゴが二つ。最高に熟れていてジューシーなとっておきだ。

 

 ピンを抜いてお裾分け。是非、ご賞味あれ。

 

 刹那、空間を歪曲させる轟音が鳴る。大地のアスファルトを巻き込んだ大爆発。大気から地面まで手加減も躊躇もない無機質な超火力に腰抜けて震えてる。

 巻き込まれる前にさりげなく戦線離脱。ミニガンの弾道から大きく逸れる。ただでさえパンクでロックな豪雨に撃たれてきて全身に痣が走っているんだ。この状態で自爆特攻なんて割と高確率で逝ける。想像しただけでより体が青くなりそうだ。

 

「は~い、ドーン!」

 

 瞬く間に戦場を支配したのは、何よりも重く、剛く、速い7,62㎜口径の裂帛だった。耳を劈く爆砕の足音。コイツが通った轍は悉く荒野だった。

 一発一発が死神の鎌。それが激流のように怒涛に雪崩れ込むなんて、これ以上の悪夢はない。一人、また一人と、魂まで路傍に踏み潰された襤褸のように頽れて倒れる。その暴虐はまるで破壊神。シャークネードの方がまだ親切だった。

 

「じゃ、これで最後だな」

「ゲッ……な、んで……」

 

 忍び足で逃げおおせようなんてスニッカーズよりも甘々な打算だ。弾丸の雑踏で足跡こそ聞こえないが、生憎と目が良いんでね。欺きたいんならグランドアサシン並みの気配遮断でもしてくるんだな。

 

 アビドスの街道に死屍累々。もう此方に向けられる銃口はない。敵は皆、夢の中。温い陽気に当てられてお昼寝の時間だった。

 戦場に繁殖した殺意はきれいさっぱり駆除されて、面々は脱力して得物を下ろす。大規模な諍いだったからか、五体満足な結果に緊張の糸も緩んでいく。

 

「周囲の敵反応なし。皆さんやりました!」

「なんとか全員無事みたいだね。良かったよ~」

「……そりゃめでたいな。これを見ても無事って言えるお前のアタマが」

「それだけ軽口言えるなら平気だよ、きっと」

 

 俺の仕打ちを鑑みてそんな言葉が吐けんならお前は悪魔だ。ヴィランよりも悪役してる。いや、二つ名的にはどっちかって言うと神様の方が近いか。なら、もう邪神だな。

 

 それはさておき、今回も先生の辣腕は輝いていた。空に昇る太陽よりも主役を張れてた。

 概ね、俺には関係のない指令だったから聞き流し半分だが、アビドスの息が合い過ぎていたコンビネーションは目を見張る。校庭の一件よりも磨きがかかってるのはどういう手品なのか。

 

 誰かの決定的な指示のもと動くという作戦に対する慣れもあるかもしれない。だが、それよりも彼の采配がマトモじゃなかった。

 鷹よりも早く鷹と同じ視点で、戦場を細やかに解剖したかのように、一人一つの動きを緻密に組み立てていた。それこそ物語を読み聞かせているかのように。勝つことが順当と言わんばかりの指揮は、どこか気持ち悪い。

 

 そういえば、時折タブレットに張り付いていたっけか。何か操作染みた動きもあったが、その異常もタブレットによる賜物か。どちらにせよタダの暇つぶしって訳じゃなさそうだ。

 

「でも、君がいてくれたお陰で凄く楽に勝てたよ。ありがとう」

「……俺もアンタらのおかげで楽に金が入りそうだよ。治療費はたんまり請求しとく」

「ははは……ま、とにかく武器庫や資材の保管場所を破壊しよう!」

 

 主な保管場所は計四つと、細かなものが幾らか。待機していた少数の残党も片手間で蹴散らしながら、ディナーの献立でも考える。

 

 そういえば、アビドスにはラーメン屋が居を構えてたな。あの評論家気取りのサークル、所謂、食べログですら前向きな意見が多い、まさに隠れ家的名店。

 やっぱり男には、フレンチやコース料理なんて洒落込んだものは似合わない。お子様ランチばりに好きなものを盛り込んだ、欲張りな一杯で十分ってものだ。

 

 さて、楽しみも設けたことだし多少気張っていこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に帰るまでが遠足って常套句。それを順守するように、武装も警戒も解くことなくアビドスへ戻る一同。

 こういうのは「前に倣え」と、お隣のペアとの談笑が醍醐味なんだが、何故だか俺の隣には誰もいないまま岐路を歩いた。こういうところから虐めって生まれるんだな。

 

 こうして体を痛めながら貢献したってのに、この仕打ち。いや、最近の若者は冷たいね。

 

 この空気は、教室に戻ったって変わらない。寧ろ、狭い空間で繰り広げられるもんだから、より疎外感が高まる。心が痛いな。銃弾よりも痛い。

 

「火急の事案だった、ヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」

「そうだね。これで重要な問題に集中できる」

「うん!先生と、一応アンタのおかげだね。これで心置きなく借金返済に取り掛かれるわ」

「一応って、これで金が入るなら安いもんだ……あ?借金って」

「あ……」

 

 ついに来たか、本題。プレリュードはもうお終い。つまり、ここからメイン。一番盛り上がるサビの部分の始まりだ。

 ずっと待ってたこの話題。気分は修学旅行前の学生さ。これ以上、前置きが長くなるならテルテル坊主でも作ろうかと思ってたよ。

 

 さーて、この局面で先生はどう動く。

 

「借金って……?」

「そ、それは……」

「待ってアヤネちゃん!それ以上は……」

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

 

 どうやら、抱えてる債務については話したくないらしい。各々が目を泳がせては口を噤んでいる。昼行燈なピンク以外は。

 

 特に、顔を歪めてるのは黒髪ツインテ猫娘。お手本みたいな嫌って感情だ。

 何がそう抵抗を生んでいるのか。現状、まさに猫の手も借りたいだろうに。いざ頼るとなると、信用がどうたらと変な矜持が邪魔してる質か。

 ならそれこそ今更な話だ。カイザーなんて悪徳業者から金を借り入れた学校の生徒とは思えない。まあ地域再興が目先の課題となった代の遺産だと思うが。

 

 逆境でのプライドなんて箸にも棒にも掛からない。そんなんで飯も食えないし、自尊心で金は稼げない。伊達にサイヤ人の王子はニート呼ばわりされてないんだ。高校生からM字禿げになっても知らないぞ。

 

「かといってわざわざ話すことないでしょ!大人って言っても部外者だしっ!」

「でも、私たちを助けてくれたでしょ?現状、耳を傾けてくれる大人なんて先生達くらいだし」

「うん。セリカ、先生たちは信頼できる」

「でもさっき来たばかりの大人だよ!?今まで、学校の問題は私たちだけで取り組んできたじゃん!!」

 

 狭い部屋の中で、声の爆発。痛ましい悲鳴のようにも聞こえて、弾け散った感情が鼓膜にじんわりと染み渡る。

 

 ちょっとした予測も大当たり。案の定か。

 この手合いは説得一つも厳しいぞ、先生。こういった矜持が思考の先頭に立つ奴は須らく頑固だ。合理性より感情論を優先にする。大人の御託より、ジャンプからの引用の方が訴えるのに効果的だからな。

 

「なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて、私は認めないから!!」

「セリカちゃん!?」

「私、様子を見てきます」

 

 ああ、一気にお通夜の雰囲気だ。さっきまでガムボールみたいな陽気さだったのに、一気にクワイエットプレイスみたいな緊張感。こういう気まずさは苦手なんだ。落差で風邪ひきそう。

 

「……おいピンク。上司の腕の見せ所だぞ。部下のケツをキレイに吹いてやれ」

「……まあ、取り敢えず説明するとね。この学校、借金があってさ」

「借金……」

「まあ、珍しい話じゃないだろ。仮にも自治区の行政も担う役所、公共法人だ。自治区はこの有様だし、地方債くらいあってもおかしくない」

「だけどさ、その金額がざっと9億円あるんだよね……」

「……いや、そんなもんかよ」

 

 理事が莫大なんて大げさに修飾したほどの債務だからどれくらいかと思えば、たった9億。一つの法人が抱える債務にしては大した額でもない。他の自治区だって地方債だけでそれ以上あるだろう。

 

 しかし、それは条件の違いだ。

 他の学園は、それぞれの特色を生かし着実に利潤を集めている。田舎は田舎で大規模開発でもしない限り支出も少なく、ある程度、健全な運営ができている。どれもこれも総て、一定の基準で整っている土地がある故の賜物。

 寧ろ、アビドスみたく荒廃したゴーストタウンが稀覯の類だ。いつ来るかも分からない通り魔に嫌気がさし住民は離れ、残った学生もお先真っ暗な学校の状態に空前の転校ブーム。残ったド素人とだだっ広い砂場で、どう金を稼げというのか。

 

 それでもまだ、やりようは幾らでもあるが。

 

「そんなもんって……」

「悪い。一応、会社を立ち上げてるもんで。経営者からするとそう珍しい額でもなくてな」

「でも、実質、学生数人が負う額にしては大きすぎる」

「はい。行政としての活動資金も月々の返済で溜まりませんし。全額返済なんて夢のまた夢で……」

「でも返せなくなると、この学校が廃校せざるをえなくなって、銀行の手に渡っちゃうんだよね」

「だったら廃校させればいい」

「「「え……?」」」

「どういうことかな……?」

 

 とても一端のティーンエイジャーがしていい目つきじゃない。先生も、眉間にしわが寄ってるぞ。その目つきで睨まれて喜ぶのはあの狐くらいだ。思い出したら左脚が痛くなってきたな。

 顰蹙を買う発言をした自覚はあるが、それでも大人だってならしっかりと話を聞いてから噛みついてほしいな。そこの高校生らも、これは大人の予習だ。下世話じゃないぞ。

 

「まず認識が間違いだ。廃校しても銀行に所有権が渡ることはない。当たり前だ。コイツは地方公共団体だぞ?」

「でも実際そういう契約で……」

「んなもん根っから破綻だ。公有財産をどうこうは出来ない。そもそも公共団体は廃校しないし、赤字でも財政再建団体が動くはずだろ?連邦が直接管理することになる筈だ」

「でも連邦生徒会に請願しても聞き入れてもらえなかった」

「だったら落ち度は連邦生徒会にある。返済よりもまず先にデモを起こすべきだ。クロノスに情報を売ったらそれこそ稼げるぞ」

 

 認識の齟齬ってのはこのこと。学校と銘打っても、それは私立じゃなく公立だ。更には地方公共団体とも言えるのだから、私人に所有権が渡る筈がない。

 会社の倒産とは訳が違う。大赤字で火の車でも、連邦が消火活動に勤しみ金を放水してくれる。それがなきゃ今や廃校祭りだ。一自治区、それもそこそこの広さを私人や一般法人がやり取りできたら、もう治安がどうの次元でもなくなる。

 

 コイツ等は何度か連邦生徒会に願を出したという。それが無碍にされてるんなら、それは財政を管轄する部署の大規模なサボタージュ。即解体案件だ。無能だからファイアした方がいい。

 

「でも借金があるのは事実です」

「その主体がアビドス高等学校っていう法人なら幾らでも逃げれる」

「でも実際逃げれてないから、こうなってるんだよ」

「それに、私たちはこの学校から離れるつもりはない」

 

 逃げ道なんてそこかしこに用意されて、八方塞がりとは程遠い状況だ。ていうのに、コイツ等なんでこうも正攻法で立ち向かっていく。クレバーじゃない。

 

 いや、それこそ論理的に偏り過ぎてる。もっと簡単に考えよう。損得がとか合理性が云々の話をしていない。だったらそもそもこの学校はとっくに無人だろう。

 逃げてしまえばそれでいい。程よく円満に解決ができる。生徒会へ投げれば、ちょっとした理不尽にも気が晴れるだろう。それを知っても、動かない理由。決定的なそれが、在校生に共通してある。

 

「……ああ、なるほど合点。さてはお前ら、この学校にこだわりがあるんだな?」

「そうだよ。私たちはこの学校から離れたくないし、連保生徒会の管轄にもしたくないの」

「だからホシノたちは、そういった救済を使わないんだね」

「はい。何とか今のまま借金問題を解決させたいんです」

「まあ、その金銭貸借が根こそぎ無効になるのは置いておいて……もし真っ当に向き合うなら茨の道なんてもんじゃない」

 

 本当に馬鹿を見ている。合理も効率も欠いた、ただ感情に任せて悪戦苦闘を選ぶ。それこそ幼稚な我儘を絵にかいたような。

 

 でも、どうしてか唾を吐けない。心底、阿呆と見下せるのに、その生き方が輝かしく見える。その信念にないものねだりの感情が湧き上がる。

 手を取り合って、心が通じ合って、シェアしていく青春の陸離。漫画でも一冊描けそうだ。そういう青臭さに、どうしても俺は弱い。

 

「ああ、ホントに儘ならねえ……じゃ、その手筈で協力してやるよ。大人の悪知恵ってのも味方になりゃ心強いだろ?」

「……いいね。助かるよお兄さん」

「うん。私も全面的に協力するよ」

「あ、ありがとうございます!」

「これで百人力」

 

 取り敢えず、話は纏まった。どこからか、大変恨みのこもった舌打ちが聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 方向性の違いなんて水掛け論で揉めるなんてインディーズバンドじゃないんだ。時間の無駄。だって曲者揃いのアベンジャーズだって統率できたなら簡単だろう。ここは無茶でも足並みを揃えたほうがいい。そっちの方が俺も状況把握が楽で動けるんでな。

 でも、これで連邦生徒会に頼るっていうキラーカードはもう潰えた。コイツ等は矮小な個人の力でどうにかしようと動くはずだ。流石に国家権力相手じゃ分が悪いからな。これで、後の抗争は全て私闘だ。なんてやり易い。

 

 少し、念を押しておいても損はないだろう。

 

「ああ、もしこの方針で行くなら生徒会にはもうアプローチしない方がいい」

「するつもりもないけど、どうして?」

「変な所で介入されたらそれこそ状況が錯綜する。それに、黙っていた方が後から連保生徒会への弱みになる。『基本的な職務すら全うできなかった無能生徒会』ってな」

「早速、大人の悪知恵が出たね」

「ん。それは名案」

「あはは……」

「一応、私も連邦生徒会の所属だから、否定したいけどね……」

 

 ほう、この銀髪狼は話が分かる。やると決めたら食わず嫌いはない質か。邪道も勇ましく歩き、毒を食らわば皿まで。そこはかとなく気が合いそうだ。

 

「あとは、セリカちゃんの方も説得しないと」

「ああ、なら先生は止めとけ。大人じゃどう頑張っても寄り添えない。あの機微は子どもの特権だ」

「……だとしても見過ごす理由にはならないよ。たとえ力になれなくても、寄り添う姿勢は崩したくないんだ」

「なら一緒にどうするか考えよう」

「はい。そうですね!」

「……これぞ青春、だな」

 

 ああ、多分俺には、一生かけても届かない。いや、もう遅いんだ。青春で美化できる適齢期は過ぎてしまった。

 

 俺が見上げて見れたのはいつだって、雲の一つも見えない鈍色の空だってのに。

 

 

 

 

 

 

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