悪い大人でも青春を謳歌できますか? 作:三度の飯より曇らせ
先に言っておきます。黒見セリカを推している方々へ。大変申し訳ございませんでした。
黒見セリカは大変素晴らしいキャラだと心から思っています。
労働を経た体は、どうしようもなく食をせがんでくる。
腹はだらしなく泣き喚いていて、これはもう宥めて収まるようなもんじゃない。奇異の目に曝されながらも頑張ったご褒美をあげないとな。
カイザーからは前金をたっぷりと頂いたんだ。おかげで俺の財布は赤道直下の熱帯夜。ディナーの二つや三つ贅沢したって罰は当たらない。
しかし生憎、今夜の隣の席は予約済みで一杯なんだ。
皿の大きさと質だけに物を言わせた一口料理じゃない。品のある女も嫌じゃないが、どうしても居丈高なもんで。それに、質だけで満たせるのは前戯だけ。テクニックがあっても肝心なモノがお粗末じゃ女はイけない。
やっぱ男の夜は質より量。獣のように喰らっていくのが至高さ。だから今夜も、メイウェザーばりの強烈なパンチの一杯を体に注ぎ込んでやろう。
「ここが噂の、紫関ラーメン」
外観は変哲のない平凡なラーメン屋。だが、俺の空腹で磨かれた嗅覚は欺けない。
引き戸の隙間から逃げ出した香ばしさは、此処のラーメンが絶品だと宣ってくる。いやこれは挑発だ。お前にこの旨さを見抜けるかと。
上等だ。いつかは俺もラーメン珍道中を一冊著作するのが夢だった。なら、その記念すべき一ページ目に刻んでやる。
「いらっしゃいませ!一名様、で……ゲッ」
「……」
やっぱ、食べログは信用ならないな。接客、星一つと。
「醤油とんこつラーメンですっ」
「……流石、ラーメン屋。ダイナミックな提供だな」
器に並々満たされたスープは、勢い余って四方に飛び散った。それは当然、近くに座る俺にもかかる訳で。
水も滴る、とはいうが流石にこってりしすぎだな。ああ、本当にいい風味だ。こんちくしょう。
まあ、気持ちを切り替えて。この黄金に照る麺を欲望に身を任せて。
「いただきます」
啜る。
ああ、うめえ。醤油のコクと香ばしさが豚骨の濃厚エキスの旨味とくんずほぐれつに乱れ合う汁が、麺という間男と描くトライアングル。醤油と豚骨の逢瀬を横から搔っ攫う略奪愛の爆裂。
ラブロマンスなんて高尚なもんじゃない。ただ、好いものだけを絡み合わせたドロドロの愛憎劇。これぞ男の大好物だ。一生啜ってられる。ほうれん草の臭みに言及する余地もないな。
しかし、黒見セリカがここでバイトしてるとは知らなかった。
思わぬ邂逅だが丁度いい機会だろう。つくづく作戦が頓挫されて、憂さ晴らしの機会欲しかった。ストレス発散のためのサンドバックまで提供してくれるとは、接客も星五つだな。
それに、どうせ近い内に接触する予定だった。少し台本より逸るが、ここで戦力を削ぐのも悪くない。
寧ろ、下手に及び腰に徹して、先生との仲を取り持たれたらそれこそ面白くないしな。
「で、何でアンタがここに来るのよ。嫌がらせ?」
「嫌がらせされてんのこっちな……ほんと嫌な偶然だよ。食欲失せるわ」
「あら、もう一回、ラーメンの汁をご所望で?」
「おい店主ー、この店に野生の獣が入り込んでるぞー。不衛生だー」
全く、獣臭くてたまらない。香るのは豚骨だけでいいんだよ。
やっとガキから解放されて束の間の休息って時に、また子守りか。滅入るな。だからこういうのは先生の役だろって言ってるのに。
言葉を紡ぐのは苦手だ。何せ、俺の教育者は専ら体罰派だったんでな。うっかり手が出たら言い訳もできない。英才教育の賜物はしっかりと受け継がれてるらしい。重曹で洗い流せねえかなこれ。
「本当に偶然ならさっさと食べて帰ってよね!アンタがいると気が散るわ」
「そう念を押さなくても出てってやるよ……ああ、そうだ。一つ言いたいことがあったわ」
「?……何よ」
心当たりがないのか、首を傾げ怪訝そうにこちらを窺う黒見。それもそうだ。俺とコイツの間に言葉を交わす関係性なんて育まれてない。
だからこれから放つ言葉は、誰に向けてでもないただの愚痴で文句で独り言。野次馬感覚で張り付ける。
そして、お前だからこそよく刺さるナイフでもある。幼気な女子に言葉攻めをする嗜好はないが、仕事だから仕方ない。
悪いな黒見セリカ。許せとは言わないさ。
「お前、足引っ張てるから」
「……は?」
「だから、お前アビドスの足引っ張てんだよ」
「な、部外者のアンタに何が―」
「部外者だから分かんだよ、そういうの」
突然の痛罵に驚きながらも、聞き捨てならないと激高する。
ああ、一から十まで予想通りの反応だ。猫ちゃんらしく噛みついてきやがる。
確かに、部外者の俺に言われたら怒髪天を衝くのも、軽々しく納得できないのも可笑しくはない。
だが、部外者が傍から見て口を挟みたくなるほどに、コイツのやることなすことが空回りして目に余る。正直、目にゴミが入ったみたいに鬱陶しい。映画館で目の前の座席にアフロが座った時くらいに。
「思いだけは一丁前に高く先行して、周囲と足並みを揃えることも話を合わせることもなく、ちまちまはした金稼いで、時間を浪費するのが趣味か?」
「そんなことっ……」
「でも実際そうだろ。今日だって、プライドだけで救いの手を振り払って、結局、活動は停止してる。お前、何がしたいんだよ?」
「っ……」
何も言い返せない。今、連ねた言葉は全て事実だからだ。多少偏見は混じってるが、概ね的を射ているはずだ。
だから、反駁できない。ズバリ図星で本人にも心当たりがあるのだろう。でも一度認めてしまえば、自分が役立たずだと否が応でも理解させられる。つまり、自分の僅かな支えが崩れてしまうから。
哀れだな。こんな外様にいいように言われて下される。涙を誘うね。
「あの時、先生の助力を全面的に否定したのはお前だけだ。それこそ気持ちが揃ってない証左だろ」
「それは……」
「いい加減認めろよ。お前より先生の方が有用なんだよ。今のお前は無能な味方だ。だったら退学されたほうがマシだよ」
表情が翳る。昏い瞳は陰に埋もれて、映す色も窺い知れない。
言葉は消えた。一心不乱に何かに尽くすことで煙に巻いていた自分の無力が、どうしようもなく骨身に染みて己の価値が分からなくなる。そんな負の感情が漂っていた。
空漠、と表現できようか。筆舌に尽くしがたい表情で、ラジオの波長を合わせたように呟いた。
「私はただ、皆の役に立ちたくて……アビドスの助けになりたくて……」
「なら、とっととここから出―」
「おっと、これ以上うちの看板娘を虐めないでもらおうか。なあ、兄ちゃん」
暗澹の雰囲気を細切れにするような鋭い横槍が、場の空気を薙ぎ払う。
ここからが見所なんだが、ここの店主は無粋だな。もっと空気を読んで俺に花を持たせてくれよ、目立ちたがりめ。誇れるのはラーメンの腕だけか。
穏やかな口調の腹の内に確かな剣呑を孕んだ言葉は、それ以上に俺への敵愾心を隠せていない。獣らしく威嚇は得意らしい。
可愛らしい犬っころだな。あと100匹は控えてそうだ。クルエラでも呼んでやろうか。
「悪いな大将。少し指導に熱が入り過ぎたらしい。これでも先生の補佐をしているもんでな」
しかし、大人の世界じゃ欲をかいた方が負けだ。引き際は常に見極める。賭博と同じだ。
アビドスの戦力を出来るだけ削ぐ、にしても時期尚早だったか。どうにも思い通りにならないから焦っていたらしい。
落ち着け。思考に怜悧さを欠くな。焦りと油断は毒だ。無自覚に体を蝕む。まだ物語は始まったばかり。起承転結は読み間違えるな。それだけで駄作になる。
「ま、今日は退散させてもらうわ。店の空気を乱して悪かったな、大将」
「……兄ちゃん、おめえ教育者向いてねえよ」
嫌というほど自覚してるさ。身近な教育者があのザマじゃあな。反面教師にもならないクソッタレだった。その因子を継いだ俺に、誰かを教導するなんて土台無理な話さ。
「黒見セリカ。もし、お前が本当に借金返済の一助になりたいなら、割のいいバイトを紹介してやろうか?」
「いきなり……どういう風の吹き回し?」
「俺はベッドの上以外で女を虐める趣味はない。あまりに可哀そうだったんでな、俺なりのメンタルケアだ。日雇いで日当一千万、どうだ?」
「なっ……」
「兄ちゃん、おめえ一体……」
確かに俺は、誰かに講釈垂れて教えを説くことはできない。だが、誰かを導くことだったらどんな馬鹿でも阿呆でもできる。だってそこらの虫だって群れを成すんだ。人間にできない道理はない。
釣りと同じだ。餌を垂らして食いつくのを待つ。後は糸を引くのに慣れるだけ。ただそれだけで、人は釣れる。それが子どもなら猶更だ。
「……分かった。やる」
育ち盛りで食欲旺盛だもんな。易いぜ。
「大将、勘定。支払いはカードだ」
そっと食べログのレビューに五つ星を灯した。
早起きなお日様が瞼を叩いてくる。小鳥の囀りが起床のアラームだった。
こんな広い世界の中を覆い尽くす空にある、太陽や月でさえ拝めない奴らがいる。だから誰よりもありがたみが分かる。セロトニンを多量に分泌できる今の俺は、きっと恵まれてるんだろう。
しかし、昨夜は困ったもんだ。
ビジネスホテルは軒並み廃業。場末のラブホすら見当たらない始末だ。交通状況といい、とことんもてなしの精神がない。百鬼夜行の奉仕根性を見習ってほしいな。
仕事上、アビドスを離れるのも億劫だった。最悪、公園のベンチを褥にするのも覚悟していたが、畢竟、その辺の空き家にお邪魔した。ある程度、生活感が残っていたのが嫌に生々しい。
でも助かったよ。俺は枕が無いと寝られないんだ。この空き家を残してくれたおかげで俺のコンディションはばっちり。見事にアビドス崩壊へのタスキをつないだ。
しかし、随分と可愛らしい家具が残っていたな。特に、バナナの意匠が施され使い古された手帳は、いかにもファンシーで若者が好きそうだ。昨今の流行はああいうのか。
自販機で購入したワンコインの缶コーヒーを煽り、草臥れたタバコを燻らせる。この瞬間を上回る一日の至福を俺はまだ知らない。
「うわ、タバコ臭いわね……仮にも高校生に合うんだから気をつけなさい」
眉を潜めながら吐き捨てる囀りよりも高い声。今日も調子のいいツインテールを揺らしている黒見セリカだった。
ガキらしく朝から元気なもんで羨ましいね。こっちは悪態をつく元気も、ユーモアに富んだ返しを拵える余裕もない。
「これでも昨日は配慮してたんだ。この時くらい我慢してくれよ」
「まず止めるって選択肢がない時点で終わってるわね」
「大人になれば分かる。朝の一服はコーンフレークより絶品だ」
シロップのかかったベーコンもついて同等って所か。
心底理解できないと、呆れながら溜息を吐いている。安心しろ。お前の正確だったらきっと愛煙家になる。気づいたら咥えてるようになってるさ。
「望み通り送ってやったわよ……で、報酬は―」
「もう送った。口座見てみろ」
「っ……本当に、一千万円が」
驚愕で瞳孔が開く。眠気覚ましには丁度いいイベントだろ。一介の高校生じゃどう頑張ってもお目にかかれない桁だからな。驚かれなきゃ、寧ろこっちが割を食う。
「求めてた反応をありがとう。どうだ思い知ったか?これが大人の力だ」
「……はあ、流石に降参よ。ここまでされたら認めないわけにはいかないわ」
「できれば昨日の内からその返事が欲しかったな」
「悪かったわよ……あとで先生にも謝るわ」
いかな頑固者かと思えば、一度折れたら存外撓んだな。こういう素直さを最初から見せてくれれば可愛げもあったんだが。これも流行りのギャップってやつか。
もし、ここでスタンスを変えなかったら逆に見所があるといえるな。
俺がやったのは、つまり札束での往復ビンタだ。金で買えないものはない。それは人の心やプライドも例外じゃない。
そして、肝心のコイツが誰よりも金を欲していたから実現できた。簡単に言ってるが、これでも結構なギャンブルをしたんだ。全財産釣らして乗ってこないなら、これ以上ベットもコールも出来なかった。
「それじゃ。今日は私、バイトだからまた明日」
「勤勉だな。大金を前にして働くが意欲が湧くなんて。連邦の奴らに爪の垢を煎じて飲んで欲しいくらいだ」
連邦生徒会が無能だったことを昨日の一件で再確認できた。さぞかし超人様も苦労したことだろう。
駒を思い通り動かせないチェスほど退屈なボードゲームは無い。嫌気がさして夜逃げした可能性だって十二分にあるな。
「あ、そうだ。この一件は頭から爪先までくれぐれも他言無用だ。分かったな?」
「……因みに聞くけど、何で?」
「俺の名誉だ」
携帯灰皿に吸殻を押し込む。見物されてないからってポイ捨てするほど良識は捨ててない。俺は配慮ができる喫煙者なのさ。
さて、今日はアビドスの自由登校日らしく、ミーティングもない完全なオフ。やる気があるのか無いのか。
ここが百鬼やトリニティならカード片手に観光と洒落込んでいたが、残念ながらここはキヴォトスで最も観光に向かない地だ。砂漠を歩いたって財布は落ちてない。
なら大人しく玉遊びで、夢を掴んでやろうか。
「あれ?セリカと……君か。珍しい組み合わせだね」
「あ……先生」
「うーわっ」
恐らく今日の運勢は最悪だ。星座占いじゃ12位だろうな。畜生、ラッキーアイテムくらい見ておくんだった。
信じているぞ黒見セリカ。お前の口はオリハルコンより硬いってことをな。
「昨日、コイツに連邦生徒会に送る書類の郵送を頼んだんだ。今は遂行できたかの確認中さ」
「そうだったんだ。書類の中身は機密かな?」
「ご明察。頼んだコイツにも話してない俺だけの秘密だ。謎が多いキャラってのは魅力的だろ?」
「そういうことよ。だから邪推とかすんじゃないわよ」
先生もこれ以上、言及はしなかった。
はてさて、その頭の中ではどんな思考が広がってるのか。常に微笑みを湛えて、実は感情の起伏が殆どない。法則のある癖もないから、思考が読みにくい。
本当に食えない奴だ。敵に回したくない人物第一位塗り替えだ。おめでとう。
「んじゃ、俺はこれで」
「あ、ちょっと待って」
「あ?」
「今日の昼、空いているかな?」
「空いてない。それじゃ」
今日はお前らのせいで、一から作戦練り直しだよクソッタレ。
そんな朝のやり取りを反芻する今は、空に漆黒が溶ける刻。
肝心の作戦だが、少し方向性を変えてみようか。
どんなドラマもワンシーズンずっと代わり映えのない展開だったら詰まらないだろう。飽きさせない工夫が必要だ。
今までだったら、直接アビドスの連中の戦力だったり、士気を削りに行っていたが、存外、あいつらもタフだってことが分かった。これじゃ、幾ら真正面から叩いても折れそうにない。
じゃあ、無理やり折っていく必要はない。腐らせてみようか。どんなものも腐れば柔くなる。それは人の精神も同じだ。
俺のゴールはどこだ?小鳥遊ホシノの誘拐だ。だが、愚直に一対一をしたんじゃ負かされるほどあのピンクは強い。でも攫えればそれでいい。一々、アビドスの皆々を血祭りにあげる必要だってない。
今夜はそのための映える演出になるだろう。
実は、昨夜の黒見セリカとの一件も意図せず布石になっていたりする。
最初は口封じのための手切れ金だった。今後のためにもアビドスでの立ち位置では大事だ。あんな下らない愚痴一つで失いたくはなかった。
だから、名誉のために全財産をベットしたわけだが、この逆境すらも利用できる。
「今夜のパーティ、用意はいいか?理事」
「ああ、整っている。すぐにでもクラッカーを鳴らせるぞ」
「いいね。指笛も練習しておけよ?今宵はオールだ」
主役は勿論、件の黒見セリカ。お誕生日席もじっくりと温めておいた。
役立たずやらと罵倒した舌の根も乾いてないが撤回しよう。謝罪する、悪かった。お前は「俺」にとって本当に有用だよ。俺らならきっとキヴォトスのバッドボーイズなれると思う。
「しかし、君はああいう娘が好みなのか……愛に年齢は関係ないというが、ゴムはしておいた方がいい」
「よし黒見の次はお前だ。立派なルンバに改造してやるよガラクタ」
んな訳ねえだろ。歳考えろ。
あんな山も谷もない身体に欲情するほど、俺のバベルの程度は低くない。上昇も下降もないジェットコースターなんて欠伸が出る。見栄えもないし。
「じゃ、そろそろ時間だ。所定の位置で頼むぞ」
「ああ、では楽しんで来い」
「くたばれ」
クソイラつかせんなあの不細工。
まあいい。楽しみが控えてんのは本当だ。成功する確率は八割って所か。なんたって小鳥遊ホシノよりも万倍扱いやすいからな、アイツ。
さあ、予行練習と行こうか。
「!……何よ、アンタ達」
「黒見セリカ……だな?」
「カタカタヘルメット団……ちょうど虫の居所が悪かったの」
良い啖呵を切るな。生意気さならやっぱピカイチだ。一語一句、予想した通り。本当に扱いやすい。
双眼鏡越しに映る黒見の勇士。気合は十分。だが能力は不十分。やる気はあってもそいつは無謀だ。相手は明らかに徒党を組んで、標的を絞った計画を立てている。アドリブじゃ高が知れてる。
「っ背後にも……!」
ほーら。あっという間に後手に回る。場所と環境も悪い。
夜のアビドスは都市部でも暗い。行政サービスが回らないから、街頭や道路の補修が進まないんだ。この視界不良じゃ、銃弾は凌げないだろう。俺だって無理だ。
突然、肌に痺れるほどの轟音が夜の静謐を破砕する。離れた距離でも衝撃が神経を舐めずった。
「おいおい、対空砲ってマジか……」
なんて化け物を用意してやがる。あのヘルメット軍団、ゴジラまで飼いならせんのかよ。
昨日のいざこざで投入されてたら、今頃、仏様になってたな。誰かのせいで変にヘイト買ってたし、向けられてたら木っ端微塵だ。侮ってたのはこっちもか。
そろそろチェックメイトだな。さて、登場のタイミングはどうするか。
こういうのはより劇的に仕上げるのが重要だ。早すぎても不自然だし、時間を置き過ぎたら、先生一同に嗅ぎまわられて手遅れだ。いい塩梅での参入を……。
「?……なんか、煙、に」
混じってる。ああ、この意識が飛ぶ感覚は覚えがある。無力化ガス。しかもフェンタニル系の。
やばい。もう飛ぶ。
「っ」
「決して殺すなよ。給料がパーになる」
「分かってますよ……って、あれ?ここにも一人なんか倒れてるんすけど。男?」
「巻き込まれただけだろ。吸ったくらいじゃ死なないし置いておけ。時期に目が覚める」
「へいへい……取り敢えず、財布だけパクっとくか。ついてないなコイツも」