教え子だったシンはニルの眷属であり、襲いかかってくるもなんとか撃退した和徒。
しかし、ドゥーはルーミアにレミリア、幽々子、輝夜のカードを結合させ、封印された大妖怪『空亡』を復活させてしまう。
何だ? 今、俺の前にいるのは一体何者なんだ?
空亡だと? 情報の洪水を浴びせられて脳の処理が追いつかない。
ただ一つ確実なのは、この闇を具現化したような人影に俺の直感がサイレンを大音量で鳴らしている。
「このドス黒い憎悪、殺意、絶望、憤怒。素晴らしい!」
ドゥーが人影へ向けて賛美の言葉を贈る。
両手を広げて称える姿は、狂信者というべきか。
それにしても、状況は最悪の一途を辿っている。
ルーミアを助けるつもりが、その本人が一番の強敵になってしまった。
正直に白状するなら、とても戦いたく無い。勝てるビジョンが全く見えないのだ。
だが、相手様は俺たちのことをタダで逃がしてくれるつもりはないらしい。
闇の中に紅い瞳が俺のことを敵として捉えている。
「なあルーミア、俺たち本当に戦わないといけないのか」
「.........」
返答はない。代わりにあるのは強烈な敵意。
結合した直後なら、自力でカードを分離することもできる。
しかしこちらの呼びかけに答えず、むしろ戦おうとする意思すら見せている。
いい加減、俺も覚悟を決めなくてはいけない。
俺は右手に核融合エネルギーをチャージし、正確に狙いを定めた。いくら強力な妖怪といえど、先手かつ一撃で仕留めることができればそれで良い。
「『フェニックスプロミネンス』」
右手から放たれる熱線が人影を目掛けて突き進む。
その時、まるで鏡合わせのように人影も左手を上げた。
手のひらから噴き出す常闇。熱線が左手に直撃するも、闇によってかき消される。
「うがああああああああああ!!!」
漆黒の腕が奴の足元から何本も生え、こちらへ向かってくる。
闇そのものである手は距離を測るのが難しく、気づいた時にはすでに鼻先へ。
「なんだよこれ?! 『オリジンカッター』ッ」
バズンっっ
三日月形の刃が手首を切り飛ばせば、跡形もなく塵になる。
しかし、その断面からトカゲよろしく新たな手首が生えてくるのだった。
「うおおおおおおおお」
4枚のカッターが宙を舞い、数多の黒腕を輪切りに切り刻んでいく。
いくら切断しようとも無限に生えてくるが、生えた側から切っていけば自然と短くなってくる。
おかげで奴までの道が、ほんのわずかな隙間だが切り開くことができた。
逆手に持ったホロウエッジに霊夢のカードをかざして、俺は一息に駆け抜ける。
一歩、また一歩、近づくほど瘴気は濃くなり、視界は悪化していく。
文から学んだ風を読む技術がなければこの暗闇を進むことはできなかっただろう。
「喰らえっ 『ホロウ・フライエッジ』ッッ」
宙を漂う陰陽玉が刀へと溶け込み、発光と同時に霊力が跳ね上がる。
カードの力を引き出すホロウエッジの技の中、霊夢の力を使うこの技は特に妖怪に対して効力を発揮する。
博麗の力を纏った刃が闇に向けられた。
「この力...」
「なっ?!」
ただぼんやりと立っていただけの人影が、突如機敏に動いて刀を掴み上げる。
刃と接触している人影の腕からは妖気が霊力に灼かれる蒸気と音が絶え間なく発生しているが、ルーミアは意に介さず刀を凝視していた。
足先から爆炎を噴射して手のひらごと切り抜けようとするも、桁外れの膂力でガッチリと固定されてしまっている。
「博麗の力かあああ???」
突如として吹き上がった妖力と瘴気。
気づけば俺の四肢は黒い腕に囚われ、身動きが取れなくなっていた。
体を引きちぎられそうなほどの握力。全身が深い闇に覆われていき、パチパチと蒼い火花が弾ける。
「うぐっ、マズイぞ」
体を引き裂かれるたびに蒼炎が直して繋ぎ止めているものの、痛みまでは抑えられない。
ちぎれかけては治っての繰り返し。まるで拷問でもされているかのような痛みの連続。
少しずつ不死鳥の力が薄れていくのを感じる。
「氷符『アイシクルフォール』!」
氷の礫となった弾幕が闇の中に投じられる。
この氷の力、チルノのスペルカードか!
「和徒先生、助けに来ました!!」
弾幕で怯んだ黒腕の隙をつき、大妖精のか細い腕が俺の背中を引っ張り上げる。
怖かっただろうに、この深い闇の瘴気の中まで助けに来てくれるなんて、大妖精の勇気に感服だ。
しかし、黒腕は怯んでも本体であるルーミアは動じない。どれだけ弾幕に被弾しようとも刀を離さない。
「大ちゃん! 早くしてええっ」
「『フェニックスバースト』ッッ」
チルノの息切れしかけた声が闇に響く中、右手に掲げた火球を元に熱線が撃ち出される。
最初に熱線を左手で受けたように、当然かき消される。
しかし前回と違うのは、火球が着弾した瞬間に闇がぼやけたこと。
このまま撃ち続ければきっと闇を突き抜けるはずだ!
「うおおおおおおおおっ」
全身の妖力を右手に集中させて解き放つ。
最初は闇でかき消されていた熱線も、ジュッと音を立て始める。
それでもまだ決定打には程遠い。
ルーミアが掴んでいる刀に霊力を込め直す。
左手には霊力、右手には妖力とかなり難易度の高い芸当を要求されているが、気合いでなんとかしなくてはいけない。
「やはり貴様、博麗の力を使っているな!!!」
因縁深い博麗の力にだけ反応するルーミア。
だが、さすがは妖怪特攻の博麗の力。掴んでいた腕の闇が薄らぎ、ようやく熱線が肉体へ直撃する。
ジュアアっっ
文字通り焼き切られた片腕を残し、俺は大妖精に連れられるまま瘴気から離脱する。
闇の外にでて気がついたが、俺が瘴気の中に入った時より格段に大きくなっている。
まさか、このまま幻想郷を飲み込むまで膨張するのではないだろうか。
先ほどの戦いを鑑みるに、俺一人ではルーミアの勝てないことは明白だった。
まずすべきことは、誰かにルーミアの封印が解かれたと伝えることだ。
「うっ...くそ......」
飛び立とうとするも、体から蒼い粒子が霧散して不死鳥の姿が解除される。
全力を出し尽くした俺は、足の力さえ抜けてその場に倒れ込んでしまう。
「...っ 大丈夫ですか、和徒先生!」
「しっかりしろ!!」
地面へキスする直前で大妖精とチルノが担ぎ上げる。
ああ、なんて醜態を生徒に晒してんだ。俺は。
こんなところでぐずぐずしてたら、ルーミアに追いつかれちまうぞ。
最後の力を振り絞り、刀に一枚のカードをかざして振り抜く。
「『ホロウ・ボーダーエッジ』」
外の世界と幻想郷を行き来することさえできたスキマ。
その生成が上手くいったことを見届け、俺は意識を手放した。
BORDER 八雲紫
第一部のラスボス降臨です。