異世界転移して、彷徨ってたら見つけた村で命を救われた。
だから、受けた善意を世界滅亡という形で返してみた。

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命を救われたので、自滅して世界を滅亡させます。

◇◆◆◇

 

 

 

「善意がどうしようもなく、気持ち悪かった」

 

 

 異世界転移した先の世界。

 私の知っている物語では、大抵の場合転移者に対して優しく(・・・)出来ていた。

 

 人類と魔族がいて、国王も魔王もいて。

 強大な魔法の力を潤沢に行使し、様々な人から認められながら世界平和を目指していく。

 

 そんな物語こそが、私の知っている多くの『異世界』であり──異世界転移した、と気付いた時に無意識的に願っていたことなのだろう。

 

 この世界は、私が思い描いた予想と理想にかなり近い。

 人類と魔族が存在していて、私に強大な魔法の力があり、様々な人から認められる。

 

 そこまでは完璧、まさしく誰もが望む理想的な異世界であった。

 

 じゃあ何が不満かって? 

 

 

 人類と魔族は別に憎しみあっているわけではなく、お互い仲良く自身の長所を生かしながら交易していること? 

 

 いやいや、私は別に戦争で血を浴びたいタイプの人じゃないからね。むしろ、祀り上げられて戦争英雄扱いされるのは望むところじゃない。

 

 童話的な魔王討伐の旅なら良いけれど、血生臭いリアリティー重視タイプの種族間絶滅競争は遠慮したい。

 

 じゃあ、何が不満なのか。

 

 ──それは、この世界の人が優しすぎる(・・・・・)こと。

 

 困っている人がいたら助ける。

 例えば、馬車を使う時に小銭を出すのに苦労している人がいたら、後ろに並んでいる人が代わりに出してくれる。

 

 これは別にあり得ない事ではない。

 ただ、全人類がそれを必ず実行する──ということをふまえると、少し別の意味が出てくる気がしないでもないけれど。

 

 例えば、輸血が必要な困っている人がいて。その人の為に輸血用の血液を生成する魔法を使う人がいる、みたいな。

 これだけだと有り得ない話じゃないけれど、その人が魔力枯渇で死亡した、ということを鑑みると怪しくなる。

 

 

 例えば、不意の事故による火事が発生してある村での越冬用食糧が不足してしまった。

 隣の村は当然のように食糧を分け与え、その見返りを求めない。

『困った時はお互い様』のような理屈が暗黙の了解として共有されているが故に、特に注目されるわけでもない美談が発生する。

 

 これも、別にそんな異常なことではない。近隣村同士仲良くて結構、以上の意味を見出ださないことも出来る。

 ただ、百年に一度の不作で全域にわたって食糧不足が起きている時に、全村(・・)が虚偽申告なしに備蓄量を報告し、それが均等になるように再分配が行われる──というようなことがあったりするけれど。

 

 

 例えば、きちんと丁寧に記し続けられている歴史書曰く有史上一回も争い(・・)が起きたことがない、とか。

 

 

 ──ともかく。この世界の人類は、優しすぎる。

 

 

 そんな中、原因不明で突如として現れた私はとても丁寧にもてなされた。

 数時間の間、新雪で覆われた平原を彷徨た後の村だったので、空腹を訴えたから。

 

 当時はこの世界の異常性(優しさ)を知らなかったから、この村の人は親切だなぁと出された食事を食べて。

 

 

 

「どう、して……?」

 

 百年に一度の冷害。

 私に提供された食事は、越冬の為の貴重な備蓄(・・)であった、と。

 

 それに気付いたのは、満腹感と安堵で眠りに落ちて──それから、朝起きた後。

 

 朝食を貰い、村に出てみると工具の音が響いていた。

 何をしているのか、と尋ねると家を作っている(・・・・・・・)、と返される。

 

 誰の? と問うと、私の名前があげられ。

 

 いつから? と問うと、昨日私が寝てからと言われ。

 

 誰が? と問うと、村民全員でと解答される。

 

 

 降り積もる大雪にもしかしてと思い、泊めさせてもらっていた家の奥さんに御飯の出どころを確かめたら、越冬用備蓄だと告げられて。

 

 その瞬間、親切にされた嬉しさよりも恐怖と気持ち悪さが勝った。

 

 

 無償の善意。

 元々私がそれに当てられ慣れていない、というのも一因かもしれないけれど……怖くなった私は、集まっていた村民達に大丈夫です(不必要です)と伝え、泊めてもらった家の奥さんにお礼を伝えてから、村を飛び出した。

 

 

 旅人だと偽り、数日で大小様々な村や街を転々とする生活を初めておおよそ三ヶ月。

 最初の村が滅んだ、という情報を聞いた。

 

 どういうことかと、おおよそ一ヶ月かけて最初の村まで戻ると、家が完成していた。

 加えて、その家の中には大量の保存食が綺麗に保管されていた。

 

 村内には遺体一つなく、村外れの丘に巨大な土葬跡が残っていた。

 造られた家の自室には、村内のものは何でも使っていいという旨の置き手紙が、全員の連名で置かれていた。

 

 

 その事実に耐えられず、私は嘔吐を繰り返した。

 胃の中身が空っぽになっても嗚咽が止まらず、名状しがたき感情で頭の中が一杯だった。

 

 それから(しばら)く。

 何処にも行かない、誰にも影響を与えまい、と家に引きこもっていると行商人がやってくる。

 

 その行商人から告げられたのは、私が三ヶ月ほど転々とした村の全てが滅んだ、ということ。

 頭の中が真っ白になった。何とか行商人が帰るまでは平生を装い、それからおおよそ一週間寝込んだ。

 

 

 それから更に暫く経過して。

 もう一度、行商人がやってきた。

 

 行商人が来る。その事自体がかなりトラウマとなっていた事が表情に出ていたのか、行商人は必要なものがないか、と私に問う。

 必要だと言えるはずがなかった。

 

 それでも、恐らく憔悴していたのであろう私を見てしまったから。

 行商人は帰り際に『よく効くお薬を周りの村から貰ってきますね』と言った。

 

 不味い、と直感が働く。

 この世界に来てから施される、というのがどれほど危ないことかというのは此処まで散々思い知ってきた。

 万が一、薬を欲している(・・・・・)なんて情報が伝われば、また何か厄介事が起きることは容易に予想がつく。

 

 私以外誰もいなくなった廃村から出ていこうとする行商人の人達を引き留め、一つだけ質問する。

 

「最近、この周りの村の様子ってどんな感じですか?」

 

 潤沢であればまだ良い。生活に余裕があり、少しぐらい余所者(わたし)に差し出したところで大きくは変わらないぐらいの生活を出来ているのならばいい。

 

 返答は『どこも頑張っている』という旨だった。

 

 

 返しては駄目だ(・・・・・・・)

 この人達が生きて帰ったら、確実に更に周囲の村が滅んでしまう。

 

 

 その日の夜、私は村外れの丘まで何往復かすることになった。

 一切抵抗されなかった。刃物は何の抵抗も感じさせず、沈んでいった。

 何度も、何度もその感触がフラッシュバックする。

 生温い血液の温度、最後の瞬間まで笑顔を崩さなかった行商人達の表情。

 

 心の中はぐちゃぐちゃだった。

 どうすれば良かったのか。確実に正解じゃないことはわかる。正しい行動でも、善なる行動でもない。それでも、正解がわからなかった。

 

 こんな状況でも、食事をする自分が嫌いになってきて。

 こんな状況でも、包丁を見るのが怖くなった自分が情けなかった。

 

 毎日のルーティーンに、丘に行くことが追加された。

 それどころか、一日の多くの時間を丘で過ごすようになった。

 

 朝起きて食事を取り、昼食の用意をしてから丘へと向かう。そこで数時間を過ごして家に戻り、夜ご飯を食べてから就寝する。

 

 そんな生活をずっと続けていた。

 

 

 ある日、帰ると保存食が増えていた(・・・・・)

 正確には、玄関脇に積まれていた。くくりつけられていた手紙には『忙しそうなので、ご入用(いりよう)だと思われる食糧を置いておきます』というもの。

 

 ご入用(いりよう)

 その言葉が呪詛のように胸に染みていく。

 

 どうしようもない。既に行商人達は出発してから数時間経過しているだろう。

 今更追いかけても追い付けない。

 

 手を下さなくて良い大義名分が出来たからか、つい願ってしまう。

 雷でも落ちて、行商人達が壊滅してくれたら()なのに、と。

 

 その瞬間。

 遠く。おおよそ、徒歩で数時間程度の位置に雷が複数発落ちるのが見えた。

 

 

 ──これが、私に『魔法』の才能があると発覚した出来事だった。

 

 

 

 それから暫くは、丘で『魔法』の検証をしていた。

 それが私に残された唯一の現実逃避手段だった。

 

 

 一週間を消費して、得られた情報はほとんどなかった。

 どうやら、私から離れれば離れるほどに効果の大きな『魔法』を発動出来るということだけ。

 

 手元には茶碗一杯分の水すら出現させられないのに、自室から丘の上に墓碑を建てることは容易だった。

 

 

 その事実に困惑し、改めて落雷が自分の願い(・・)によるものだと気付き──また、体調を崩した。

 起き上がることすら辛いほどに。数分に一度嘔吐か嗚咽を繰り返す、辛い生活。

 

 それでも、当時の私は『辛い』ということが救いだった。

 願わくばこのまま死ねたら、とすら考えていた。

 

 

 そんな私が更にもう一段階絶望したのは、その症状が出てから七日経ったころ。

 飲み食いしていないのに、空腹も口渇も感じなくなっているという異常事態。

 

 まさか、と思って呼吸を止めてみるも苦しくならなかった。

 正確には、数十秒で苦しくなるものの、数分を越えると苦しみがなくなる。

 

 私は与えられた『異世界転移チート』に絶望し、天を仰ぎ、それから自宅にある大量の保存食のことを思い出す。

 当然、それに付随するのはその為(・・・)に犠牲になった村の人。その善意が無意味であり、不必要であったという事実の発覚。

 

 

 それから、しばらく(・・・・)

 

 行商人が来た。

 随分と久し振りな気がするのは、何故なのだろうか。

 

「最近、周囲の村や街はどうなってるんですか?」

 

 返答は『食糧を欲している人がいるという話が出回り、その人用の食料や住居を準備している村が沢山ある』という内容。

 

 その内容に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

 最初に転々とした時点で駄目だったのか。いいや、そもそも私が此処に現れた時点で駄目だったのか。

 

 ぐるぐると頭の中を絶望が駆け巡る中、絞り出せた行商人への質問はひとつだった。

 

「どうして、そこまで他者のことを考えられるのですか? 自分の身を犠牲にしてまで、どうしてそんなに優しくなれるんですか?」

 

 何を突然、当たり前のことを。

 行商人は驚いたような表情を見せてから、しばらく考える素振りを見せる。

 

 どうして、1+1=2なのか。

 それに類する問いを投げかけられたかのような反応。

 

 そして、行商人は答える。

 

「私が犠牲になったとしても、人類が滅びることはないからだと思います。資源も、土地も、人口も沢山いる。ほぼ無限と言っても過言じゃありません。だから、欲しい人に欲しいものを渡す。当然じゃありませんか?」

 

 

 

 

 この世界が、どうしようもなく居心地の悪い世界である理由が判明した。

 善意が、優しさが気持ち悪くておぞましかった──その理由がわかった。

 

 

 この世界で生きていけない。

 生き続けるのは不可能だ、とわかった。

 

 

 致命的に向いていない。

 全人類が自らの命すら、家族すら、見ず知らずの他者が『来るかもしれない』に捧げてしまう世界。

 そんな世界に、私は適応出来ない。

 加えて、どう足掻いても私の存在は害悪になってしまう。

 

 存在すれば周囲の村を滅ぼし、かといって何かを望まないで他者との交流は出来ない。

 

 私はこの世界での生存を諦め、同時にもう一つ考えた。

 

 

 私のような『異世界転移者』が続く可能性がある。

 私だって何の予兆もなく、神様が現れることもなく気付いたらこの世界にいた。

 

 ならば、似たような境遇の人が誕生しても何ら不思議ではない。

 そして、その人が私と同じ目にあわないように。

 

 

 行商人は教えてくれた。

 潤沢にあるから、だ。

 

 広大な土地があり、莫大な人口がいて、無尽蔵の余裕がある。それそのものが根源的な原因なのだと。

 

 ならば、世界に端を作ろう。

 そして、その端──『境』は狭まるようにしよう。

 

 そうすれば、余裕がきっと失われていく。

 無尽蔵の余裕が、有限の余裕になる。

 

 

 離れれば離れるほど強大になる私の『魔法』は、きっとそんな荒唐無稽な夢を現実に出来るほどのものだから。

 

 

 幾億人、幾兆人に恨まれるだろうことは予想出来る。

 むしろ、恨んで欲しい。罵って、悪意を見せて欲しい。

 

 過去にも未来にも例のない、世界滅亡犯になり──私は。

 世界を迅速に滅ぼす異物は、世界を遅々と滅ぼす呪詛になろう。

 

 私こそがこの世界最初の悪意であり、呪詛。

 あなた達に救われた恩を仇で返す、最悪で最低の人物だから。

 

 だから。

 

 

 この世界の人達に倣い、命を捧げて魔法(呪い)を発動させる。

 

 

 

「──“終焉の境(プライマル・カース)”」

 

 


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