「何言ってるんでしょうね?…でも、ちょっと、見てみたいかも~!」
という内容です。
漢の1話完結スタイル。
あとは誰かご勝手にどうぞ。
「“こんにちは、アリス。元気にしていたかな?”」.
「はい!アリス、スタミナはマックスまで貯まっています!冒険に行きましょう!」
「あ、先生、こんにちは!」
「ミドリ、油断しちゃだめだよー!……あっちょっと待ってユズ!邪魔しないで……うぁぁぁぁ────ー!なんでぇ──────!」
「よし」
ゲーム開発部。ミレニアムサイエンススクール*1のやらかし部活である。他に形容する言葉があるのかと言われると……ない。
1週間前に発生したアリス、もとい無名の司祭の王女の暴走は一見落着し、ケイが復活するそぶりもないので、アリスは暫定的に生徒として生活することがゆるされることになった。ミレニアムも温厚な生徒が多く、またアリス自身の顔も広いので、そのうち正式な学生証が発行されるだろう。つまるところ、一件落着ということだ。
「“冒険か。いいね、どこに行こうとしているのかな?”」
「ここ!」
モモイが勢い良く持ってきたスマホの画面には、電車ですぐにつける場所にあるブラックマーケットが示されていた。
「“ブラックマーケット、かぁ……治安大丈夫?”」
「それが、ここのブラックマーケットは、すごく治安が良いみたいで……なにかの組織がブラックマーケットをまとめてるみたいで……」
「いろいろ調べたんですけど……あんまり情報が出なくって……」
「でもここにダイゴの大冒険*2があるらしいし!*3買うしかないじゃん!」
「“そっかぁ……念のために私もついていこうかな?”」
なお、ユウカに許可はもらっていない。帰ってきたら説教まっしぐらである。
「す、すごい……」
ミドリが驚くのも無理はないだろう。
人。人。人。人。人。人。人。
本当にブラックマーケットであろうか?という疑問が生まれるぐらいには人だかりでにぎわっている。ブラックマーケット特有のネオンこそあれど、治安は0.3ゲヘナほどしか感じられない。それほどいい。まず駅に通っている路線の数がシャーレ前に負けず劣らず多いし商店街が駅にとても近い。あたりを見回すと、様々な商店があり、バリエーションも様々。食品、乗り物、重火器、時計店まで……レストランも点在している。
「“私ここに住もうかな……”」
「シャーレ良い場所じゃん!」
「“商店町の空気ってなんかよくない?”」
「わかる」
「ゲームショップは……どこでしょう?」
「とりあえずマップに入ってみましょう!クエストスタートです!」
そうして十分ほど。残念ながら、未だにゲームショップは見つからないままであった。しかしやはり治安がいい。普通のブラックマーケットならば十回は不良に絡まれていてもいいものだが。だが未だ見つからない。
さらに十分。見つからない。
さらに二十分。見つからない。
さらに三十分。見つからない。
さらに、さらに、さらに──────
「だぁぁぁぁ────ーっ!全然ないじゃん!」
「マップが広すぎます!それに空腹ゲージも空になってしまいました……」
「おなかすいた……」
「“そろそろお昼ごろだしね。レストランはそこそこたくさんあったし、少し歩いて探してみようか”」
銃声。とうとう始まってしまったようだ。そこそこ近い音である。
「おい、そこのやつ、ミレニアムの制服だ!」
「金とかけっこう持ってるんじゃないか?」
問題発生。どうやら不良のターゲットになってしまったようだ。撃退するしかないか、と銃を構えた瞬間であった。
タンタンタンと、細い裏路地の方から数発ほど銃声が聞こえ、不良のうち二人の脳天にクリーンヒット。そのまま道路に倒れ伏す。
「やべぇ、もう来やがった!」
「逃げるぞ、テメーら!」
来るのが早ければ逃げるのも早い、あっという間に不良達は逃げ去ってしまった。……倒れ伏す仲間を除いて。
「ふぅ……あ、大丈夫ですか?」
さっき銃声がなった裏路地の方から声が近づいてくる。ひょっこりと顔を出したのは、黒いYシャツにズボン、袖口に一本の金糸がまっすぐに縫われた服。目元が隠れた髪型*4。ARを肩にかけ、駆け足で近づいてくる。
「“えっと、どなたかな?”」
「あ、ここの地区担当のSRTです」
「SRT?」
「“廃校になったんじゃないの!?”」
「あ、いえ、略称が同じなだけです。連邦生徒会がかつて持っていたSRTはSpecial Responce Teamの略ですけど、こっちはSelfish Release Talentの略なんです」
「“それじゃあそっちのSRTがブラックマーケットをまとめたのかな?”」
「いえ、まとめたのは上層部の方の組織です」
「頭痛くなってきた……」
「では逃げた不良を追いかけますので!それでは!」
「“えっ?あっ、ちょっと待って!”」
先生の制止虚しく、彼女は不良を追いかけ消えてしまった。
「あーあ、場所聞きたかったのに!」
「い、行っちゃいました……」
「“ま、仕方ない。もう少しだけ歩いてみよう”」
「あー!見つけた、ゲーム店!」
「“良かった、さっきのところからあんまり遠くないところにあったね”」
無事(?)、ゲーム開発部一行は目的のゲームショップを見つけることが出来た。完全に見た目が家電量販店なのは目をつぶろう。しかし、ここはあくまでスタートライン、目的の品が売っているかどうかは、どこまでいっても噂で未だ不明なままなのである。
自動ドアが開いて店内に入店、程よい温度の店内にリラックス。ゲームの捜索に入る。
「ジャンク品も売ってるんだね……うわ、これすごい。この冷却ファン、ヴェリタスにおいてあるやつの1.3倍くらいのスペックだ」
「“CPUもすごいのが売ってるね……*5”」
「2人とも違うよ!あくまで目標はゲームでしょ!?」
ゲーム店とは。(哲学)
どうやら、ゲームショップの皮を被っただけで、電子機器を売っている場所だったようだ。まぁ噂とはそんなもんだろう。
しかし広い。PCやCPU、ジャンクスペースなど品ぞろえも良好だ。
モモイの右手の方にあるのがゲームエリアである。
……が、流石に高い。
新しいゲームもさることながら、昔のものはかなり価格が高いものになっている。中古のものなら部費でなんとかいけるだろうか、ぐらいである。
しかし、評価の高いゲームは高く、ボロクソに言われているゲームは安く売られているなど、価格設定はかなり良心的である。
何が問題かというと、目的の品、つまりダイゴの大冒険は評価が非常に高く、またほぼ新品のような中古品なので価格が大変なことになっている。
「ま、まぁこれぐらいなら仕方ないよね!」
「“ゆ、ユウカに怒られる……”」
「あ、そういえば、ユウカ先輩にまだ外出届出してなかった気が……」
「あ」
「“……やっちゃったね”」
「ば、ばれてなかったり、しない……よね」
「ユズ今すっごく怒られてるんじゃ……*6」
そんなことを言いながらもレジに近づいていく。常識的なところばかり見ているので勘違いしがちだが、彼女たちも立派にキヴォトス人なのである。そうしてレジのに商品を置き、会計を行う。
「カードはお持ちですか?」
「えーと、何のこと?」
「ブロンズカードのことです。5%割引されますが、お作りいたしますか?」
「作る、作る、作ります!」
生年月日、名前、所属する学園。欄に無所属があったのが少し気になったのだが、ミレニアムの欄にチェックを入れる。
「はい、確認しました。こちらがブロンズカードになります」
「おぉ……これが」
モモイが手に入れたのは、ごくごくありふれたカードだった。先生のカードと比較しても大きさに変化はなく、名前の通り赤褐色の銅色である。材質は手触り的に金属ではなくプラスチックだろう。とりあえず使用、5%の割引をする。それでようやく予算のうちにいれることが出来た。
「やっと買えたー!」
「長かった……」
「“けど、予算に収まったんだし悪くなかったね”」
「パンパカパーン、ゲームソフトゲットです!クエストを達成しました!」
「“復活した”」
さっきまでぐったりとして一言も話さなかったアリスがここにきて復活、突然元気になった。しかし、先生たちは気付いてないようだが、今はお昼時である。つまり何が起こるかというと……
「……おなかへった」
なんというデジャヴだろうか。
そういえばそうである。レストランを探す予定がいつのまにかゲームショップを探していたわけであるから、昼時どころか二時過ぎである。仕方なく探しに歩き始めるが、様々に発見があった。
「カード使ってる人多いね」
「“確かに、言われてみれば……”」
「アリスもレアアイテムを入手するべきでした……」
出店での買い食いを確認してみれば、ほとんどの人がカードを出して買い物をしている。色もまちまちで、銅色の他にも銀や金などが見受けられる。
「何で色が違うんだろう」
「使った量とかじゃない?」
「じゃあ私も使い続ければピカピカになるのかな?」
「使うお金ないじゃん」
そんなこんなで適当な話をしつつ探すが、全く見当たらない。さっきまで死ぬ気でゲームショップを探していたわけだし、そりゃあそうである。仕方なく、またとぼとぼと歩き出す。
「あ、カードの色がすごい人なら知ってるんじゃない!?」
「“探してみる?”」
「クエスト開始です!」
探してみるが、銅色がやはり最も多い。金や銀はあまり見ないのもあって、今はもう見当たらなくなってしまった。人のテイクアウトのレジをじろじろ見るのもなかなかどうかと言ったところなので、先生は見つけることが出来なかった。
そうして10分後、ついにモモイが発見をした。
「あっ、あれ!見たことない色だよ!?」
モモイが指さす先には、二人の生徒の姿が。背の高い方は黒いパーカー、青いジーンズ。そのうえにロングコートを羽織っている。逆に低い方は、制服の上に白いセーターを着ている。頭の上にあるのは、犬耳だろうか。
使っていたのは、白っぽい色のカードだった。ここにきてレアカードである。
「“ごめん。少し道案内をしてもらってもいいかな?”」
「構わないけど、どこまで?」
「“この辺になにかいいレストランとかは?”」
「イタリアンなら。美食研も来たことあるし、おすすめ。それに私も丁度用事があったから大丈夫。いいよね?」
「……せっかく二人の時間だったんだけど……ご主人様が言うなら仕方ない」
「“ありがとう”」
良かった、どうやら現地民を捕まえることが出来たようだ。これでようやくお昼にありつけるわけである。ゲーム開発部の足取りはかなり軽い。
しかし並んでみるとわかるが、やはり背が低い。モモイやミドリと同じくらい、もしくはそれよりさらに1,2センチは低い。反対にもう片方の生徒は165センチはあるだろうかといった具合なので、後ろを見ると、もはや親子なのではないかと疑ってしまうが、ヘイローがあるので辛うじて未だ未成年の生徒であるとわかった。ヘイローや身体の特徴からどこの生徒なのか見分けようとしたが、身体的特徴も小さい生徒の犬耳以外は見当たらず、服も私服かつ紋章もないのでわからなかった。それぞれの持つマシンガンとショットガンにも校章のデザインは見当たらず、個性こそあれど学校までも見分けることはできなかった。
「ついたよ、ここだ」
と探りを入れている間に、いつの間にか着いていたようだ。先ほど聞いたように、イタリアンであるとは外観からすぐに分かった。
「“ありがとう。そういえば、ここに用事があるって聞いたけれど、それって何?”」
「会議。小規模だけど」
「“そうなんだ。名前を聞かせてもらっても?”」
「加賀美ユイ。そんでこっちが……」
「チハル。よろしく、先生」
「“あれ?知られてたんだ”」
「先生ほどの人ですとこっちにも噂は流れてきますから。ここのおすすめはマルゲリータですよ」
「“ありがとう、二人とも”」
ブラックマーケット内部、イタリアン店。
普段から込みがちなレストランは、あともう二グループ入ると満員なぐらいの盛況であった。そしてその奥、出入り口から一番離れた場所で六人掛けのテーブルに四人で座り、駄弁っている連中がいた。
「ちゃ、着地できない……」
「残念、着地狩り練習したから。当然!」
モラルに気を付けながら小声で、しかし対戦ゲームで温まっている生徒が二人。片方は薄い紫色の髪から二本の欠けた角をのぞかせ、全体的に白い服を着ており、もう片方は黒い服から飛び出た黒い羽をバタバタさせている。少し白髪の混じったロングの黒髪である。熱くはないのだろうか。
ゲームは全体的に角の方が優勢。羽のほうはずっと着地狩りの展開を強いられており、じり貧である。
「それにしてもユイさん遅いねー」
「チハルちゃんと一緒に行くって言ってたしそれじゃない?」
「……十五分前の時刻を伝えとくべきだったかな?」
雑談で駄弁りながらピッツァを食べているのが二人。深緑とブロンド髪が良く映える組み合わせだった。二人ともかなりスレンダーな体系であるのだが、マルゲリータと4種のチーズをとんでもない速度でほおばっている。それとして行儀良く話をしているわけであるから、画は完全にカオスである。
時刻は二時半ごろ、ようやく目当ての人物二人が入ってきた。
「ごめん、遅れた」
「ユイ、遅い。今までどこで何をしてたの」
「観光客に道案内をしてた。あとゲーセン」
「絶対それじゃないですか……?」
「まーまー!その辺にして、始めちゃおう?」
「ん、そうね」
「ほら、サヤカ、スズネ!ゲームやめる!」
「んー」
「あと一回だけ……」
「だーめだこりゃ」
「いいや、もう始めちゃおう」
ピッツァを注文たのち、ようやく会議が始まることとなった。
「それじゃ、ファミリー会議を始めよう。じゃあまずスズネから」
さっきからずっとゲームをやめていなかったが、やっとポーズ状態にした羽根つきの生徒が話し始める。
「こっちの地区は異常なしです。スカウトは0回で、ケーキ屋さんが潰れてパン屋さんができるみたいです」
「あそこ好きだったんだけどなー。まあいいや、それじゃあサヤカの方は?」
「ゲームやってるから最後で良い?」
「取り上げるよ?」
「異常なし、スカウト0回、ゲーセンが出来ました!」
「その癖止めること、傷が悪化するよ」
サヤカはかけた角をいじりながらゲームをしまい、急いで報告を行う。無駄に器用だ、とユイは思いながら報告会を続ける。
「じゃあ次、ユタカ」
そう言って次を促せば、今度は緑色の髪の生徒がマルゲリータをほおばって会話をする。
「最近カイザーの出店が多い、スカウトは2回。はむ……あ、防衛ドローンが壊れたから新しいの頂戴」
「一応聞くけどスカウトは大丈夫?」
「姉妹。腕っぷしも悪いわけじゃないし、大丈夫かな」
「オッケー。じゃあドローンはミサト、いける?」
ブロンド髪の生徒、ミサトに確認を行うと、あちらは問題ない、というかのように首を縦に振る。
「大丈夫。最近は財政状況も良くなってきたから」
「ならよかった。そっちの地区は?」
「全くもって問題はないかな。でもやっぱりカイザーは気になるかも」
「そっか。チハルは?」
「問題ないです」
「オーケー。じゃあ定例報告も終わったところで、議題に入ろうか。カイザーとゲマトリア、そしてシャーレ。たった三つだけど、これからを決めるといっても過言じゃない」
話を始めるユイの目は、いつにも増して真剣だった。
姉が死んだ。自殺だった。
明るい人だった。社交的で、誰とでも分け隔てなく接する人だった。だからだろう、ゲヘナの生徒とも仲良くして、それが原因でいじめが起こって、そのまま私を残していってしまった。
トリニティが分からなくなった。今まで輝いて見えた校舎も、優しかったクラスメイトや友人も、頼れる先輩だったティーパーティーも。今は長期の休暇をとっている。もうトリニティに行くことはないだろうが。
落ちた気分で今日の夕飯の材料を買いに行く。曇っていて雨が降りそうだったので、傘を持ち歩いてコンビニまで。半額シールが貼られた弁当を明日の分含めて買った後、ドラッグストアで栄養サプリを購入。姉を悲しませるわけにもいかないので健康には気を使っている。最近は安くなっていて悪くない。
そうしてドラッグストアから出ると、ざあざあと強く雨が降っていた。傘をさして歩いていると、路地裏から何かが倒れたような音が聞こえた。普段の私だったら何も気にせず浮かれて家に向かったのだろうが、生憎と今私は最悪な気分だったので路地裏で何が倒れたのかに気が向き、薄暗い路地裏に足を踏み入れることにした。
辺りを見ると生ごみが散乱し、使用済みのAR弾が床に積みあがっていた。それらを踏むちゃりちゃりという音を立てながら、路地裏を進むと、主の姿が見えてきた。
ボロボロだった。服はところどころに穴が開き、髪は色あせていてどうにもならない。何よりも、姉と同じ目をしていた。見てしまったものを無視するわけにもいかなかったから、家に運ぶことにする。持ち上げると、紙のような軽さで驚いてしまう。
家に帰り、一つ空いたベッドに寝かせておく。服を捲ると、今までに見たことのないような火傷後や青あざを発見した。込みあがってくるものを抑えながら、いろいろと探らせてもらう。
「ポケットの中には……何もない。この分だと家出とかの生易しいものじゃないだろうし、私がかくまうのが最良かな」
キッチンの戸棚から医療セットを取り出し机の上に置き、水や軽食などの用意をしておく。
医療セットの準備をしていると、布団からガサゴソという音が聞こえた。振り返ると、ヘイローが映っている。それには大きく罅が入っていた。
「ご主人様、起きてください」
「もう19時です、寝すぎです起きてください」
「……」
「起きてください!!!」
「うわぁぁぁぁっ!?」
「ってなんだよチハルか」
「はい、おはようございます。どうかされましたか?」
「いや、成長したなぁと思って……」
「頭を撫でないでください」
「その割には尻尾がブンブン振られているけれど?」
「……!?」
「ほーれほれほれ」
「~~~~~~~~~~~!!!」
良かった。
姉さんと、チハルのおかげで私は気付くことが出来た。
ありがとう。
「他になにかやるべきこととかは?」
「いえ、特には……ん、いや、待ってください」
「どうかしたの?」
「サヤカがまだ書類を出してません」
「……」
「わかりましたか?」
「“はい、ごめんなさい……”」
「全く、何があるのか全く分かっていないんですから危険なんですからね?わかってます?先生!?」
「“わかったから離してユウカぁ……”」
もちろん、帰ってきた先生はこっぴどくユウカに叱られることになった。隣は死屍累々で、かなりの状況であったが気にはしない。
「で、モモイ、質問によるとカード、作ってきたらしいけど?あるわよね?」
「はい、こちらになります」
「聞き分けが良いじゃない。どれどれ……?」
モモイが取り出し、ユウカに渡したのはブロンズカード。赤銅色に輝くそれを、ユウカがなめるように見渡す。
その後も質問は続き、個人情報はどのくらい書いたのか、とか規約は確認したのか、とか自分のお小遣いから出したんだろうな、とかもはや尋問の類かと錯覚するほどこっぴどく叱られていた。
さて、質問(尋問とも言う)が終わったのち、ブロンズカードは没収されることになってしまった。ユウカ曰く、あの地区の仕組みを知る目的のサンプルと、プライバシー保護の観点から見て没収は妥当ではないかという結論に出たらしい。サンプルはともかく、プライバシーはやはり先生も気になっていたのか同意し、セミナー監修でヴェリタスが分解、ハッキングを行うらしい。ちなみにモモイはあまり落ち込んでいなかった。ゲームを安く買うためのものだしそれぐらいの反応が妥当だろうが。
「これからは外出をするときは話をすること、分かった?」
「「「はい」」」
なお話をすれば外出を許してくれる辺り、優しい。
そうやってシャーレの帰った後、書類を片付けていたのだが、問題は山積みだった。
「“あの子たち……ゲマトリアやシャーレのことを話していたな……”」
そう、同じ場所にいたから、話がまるっきり聞こえていたのだ。しかも先生にとっては不俱戴天の仇であるカイザー、そしてゲマトリアの名前が挙がっていた。普段放任主義をとる先生だが、こればっかりは見逃せない。そうして先生がとった結論は、
「“よし、今から会いに行こう”」
脳筋戦法、夜更けに、それも終電を使って会いに行く、という先生ガチ勢がキレそうな内容だった。
一方そのころ。
「助けて―ユイちゃーん!」
「……ゲームばっかやって書類仕事怠ったのが悪いんでしょ」
「同感です」
「チハルたんまで……」
「やめてください」
ブラックマーケット内のビル一室。書類に埋もれたサヤカを、ゴミを見るような目で見る二人がいた。
「だから言ったじゃん、ゲームもいいけど書類もやってね、って」
「しょうがないじゃん、番台ナムロが新しいゲームだしたんだからさ、やりたくなるじゃん?」
「スズネはちゃーんとできてるけど?ミスなしで」
「それはスズネが書類捌くのが早いだけじゃん!」
駄弁っているが、しっかりユイとチハルも手伝ってくれている。それでもなかなか終わらない。
「はぁ……疲れたし時間もあれだ、チハル、行こう」
「はい」
「ちょっと待って、どこに行くの!?」
「夜警。今週は私が当番」
「そんな……チハルたんは残してよくない?」
「念のため。後サヤカ懲りないでしょ」
「うわ──────ーん!」
ビルの簡易オフィスの机で頭を抱えるサヤカをよそに、ユイはガンラックに近づいて自身のマシンガンを持ち出す。同様にチハルもショットガンにアタッチメントを取り付けて夜の街に駆り出した。
「“ま、まずいかも……”」
先生は後悔していた。
いくら治安がいいとは言っても、やはりブラックマーケットはブラックマーケットだったようで、夜にもなると話は別なようだった。終電なくなっちゃったね状態であることに気付いていない先生は、そのままブラックマーケットに足を踏み入れ、そのまま不良の群れに遭遇。話せばわかる……はずもなく、身代金目当てに彼女らに追いかけまわされていた。
「おい、あいつどこ行った!」
「そんなに遠くには行ってないだろ、探せ!」
このままだと見つかるのも時間の問題だ。もしユウカがこの場に居れば、ゴミ箱の中に潜伏してガタガタ言っている大人に大きな、大きなため息をこぼすことだろう。そんなことより、もうすでに不良達の魔の手はゴミ箱のすぐ近くにある。
「んん?いねーなー」
「“(まずい……すごく……)”」
丁度となりのゴミ箱の蓋が開けられてしまった。もう残すところ数秒しかない。
先生にスマホのライトが当たってしまった。ついに、とうとう見つかってしまったのである。
「やーっと見つけたぜ、探したんだぞ?」
「“や、やぁ……”」
「見つけたぞ、はこっちのセリフだ」
不意に、先生が逃げてきた方から銃声が鳴り響き、不良の頭に弾幕が的中。マスクをズタズタにして不良は昏倒することになった。
「チハル、そっちは?」
「問題ないです、グレネード一発でくたばりました」
「ならよし」
ユイが不良の方、つまり先生の入っているゴミ箱に近づきながら独り言を口に出す。
「全く、最近誘拐事件が続いてヴァルキューレからも手配書が出てたんだ、おとなしく捕まって」
「“ユイ!ありがとうね!”」
先生は姿を現す行間を間違えたようだった。
それもそのはず、ユイからすれば先生は「ごみ箱に入っていた、終電のなくなった深夜にシャーレを抜け出してわざわざブラックマーケットに来ているわけのわからない人」である。おまけに走ってところどころ服がはだけて汗が出ているわけであるから、はっきり言って最悪だった。
10秒近くたっぷりと時間を使って状況を飲み込んだユイの一言は……
「先生、おとなしく捕まって」
無情な一言だった。
「“待って!これには深い事情が”」
「犯罪者は皆そう言う」
「どうしたんで……す……か?」
「“チハル!誤解を解いてくれない!?”」
「先生……まさかこのような人だったなんて……」
チハルももちろん無理である。李下に冠を正さずというように、こればっかりは先生が疑われるようなことをしたのが悪いのだ。
大人としてのプライドを完全に捨てて生徒に土下座までして許しを請う先生を見てしまうと、罰しづらくなるのも事実である。ユイとチハルで1,2分話をした後、非常に、とても不服だが、仕方なーく先生を本拠地に連れていくことになった。
「“ありがとう、助かるよ”」
「変なとこで誠実だね」
「“ひどい!?”」
「もう少し自身の噂を調べたほうがいいと思います」
「“チハルも!?”」
「生徒の足を舐めた、混浴した、頭のにおいをかいだ、踏んでもらった、エトセトラエトセトラ……」
「“……”」
「まぁ流石にただの噂だよね……先生?」
今までのことをかなり後悔しながら足を進める先生であった。
「“助かったよ”」
「仕事だから、気にしないで」
ユイに連れられて入ったビルの一室は、入る前の見た目とは裏腹にブラックマーケットとは思えないほど整頓されていた。しかし華美という訳ではなく、不思議と落ち着きを与える印象の部屋だった。デスクには書類や弾薬が積もっている。
「一応聞くけど、何で来たの?」
「“ユイたちのことが心配になってね”」
「本当に何で?」
「“今日のお店での話が聞こえちゃって”」
「そう……」
ユイは半ば全て諦めた様子で話しはじめた。
「まず、私達について何か知っていることはある?」
「“いや、あんまり知らないかも”」
「じゃそこから話をしようか」
そう言ってユイは一拍置くと、『組織』について話をはじめた。
組織の名前は『モルヒネ』。
目的は、苦境に陥った生徒たちの支援、社会復帰の手助けである。
例えば、いじめであったり家が焼けたであったりそういった学校生活に著しく支障をきたすことが起こった生徒に対し、精神的、金銭的なケアを行う。
これだけ聞けば聞こえはいいが、学園が支援や問題の解決に対し誠実な姿勢を見せなかった場合武力行使もいとわない、ドンパチやりあう覚悟のある頭キヴォトスな集団である。
また、ユイをトップに置き、トップ1~6をまとめてハウスと呼ぶ。その下に一般の構成員などがいる、という訳だ。形としては帝政に近い。
「“そういうことだったんだね……”」
気の遠くなるような話である。そもそも学園や連邦生徒会がまともにやっていればこのような組織はできないはずなのだ。つまりは自分自身が不甲斐ない故。
「“資金はどこから?”」
「ちゃんとクリーンだよ。バイトとか傭兵とか」
ユイの頭は至極まともである。ただブレーキ役がいない場合突っ走ってしまうのがよろしくないところであるが。それも含めてハウスが存在するのだから、キヴォトスでもかなりまともよりの統治方式なのだろう。
「“組織のことはわかった。じゃあ聞きたいことなんだけど……”」
「カイザーは入らせないことにしたよ。利益にがめつすぎて住んでる人にも危害を及ぼしかねない」
「“ゲマトリアは?ていうかどこで知ったの?”」
「あっちから接触してきて知った。利用はすれど干渉はしない」
「“シャーレはどうしたの?”」
「相互不干渉。そもそも連邦生徒会との接点がないし私達裏社会扱いでしょう?そっちの評判にも影響しそうだし」
まともだ。キヴォトスでもかなりまともよりの政治だ。
「“ゲマトリアには気を付けてね”」
「わかってるよ」
連絡先を交換して始発でシャーレに帰った。