グラスアーカイブ   作:外神恭介

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お酒入ってる訳でもないのにそんなこと言える先生におじさんビックリだよ

 ホシノはシャーレの執務室に、ほとんど毎日顔を出している。

 日課のアビドス自治区パトロール、その休憩ついでだ。少なくとも建前としてはそうなっているが、結局のところ人恋しいのだろうと、そう分析する程度の冷静さはある。

 日が沈み、人通りの減った街。同年代の姿はほとんどなく、街灯のない区画は月明かりだけが頼りなどザラだ。そういった場所を一人、誰に気にされることもなく歩いていると、ふと世界から取り残されたような気分になる。

 それが正しいと、少し前までは思っていた。でも最近はそうでもないんじゃないかと、そんな風に思い始めている。見えないだけで、傍にいるのだと、そう信じられている。

 だから己をそうしてくれた人の元へ、ホシノは暇を見付けて訪れる。ある時は一人で、ある時はアビドスの皆で、あの人はどうせまた妙なことをやっているのだろうと苦笑混じりに。

 シャーレの敷地内は顔パス設定だ。手土産のコンビニ袋を揺らし、窓ガラス越しの夜景を眺めながら歩いていると、すっかり馴染んでしまった声が聞こえて来る。

「せーんせー!! 構って構って構ってー!!」

「はははガタの来ているジェットコースターに乗っているようなスリリングさだよ聖園君」

 深夜二時過ぎとは思えないテンション。思った通り奇行に勤しんでいるようだと、呆れと共に喜びを滲ませつつ。ノックは忘れず、執務室の扉を開け、

「まーたやってるの先生、ミカちゃん」

 声を掛けた先、二人の女が絡み合っていた。

 深い意味はない。文字通りのよく見る光景だ。デスクに張り付き書類仕事をしている女性の背中に、半ば負ぶさるような形でしがみついた少女が駄々を捏ねている。

 前者、葵・硝子。連邦捜査部シャーレ顧問、キヴォトスのあらゆる学園に無制限で介入する権限を持つ通称先生。両の手にペンを握り同時に別々の記入をしている姿から分かる通り、有能だが頭のおかしい大人だ。

 後者、聖園ミカ。先生が裏で手を回したとある案件によって、シャーレに居を移しているトリニティのトップの一人。見るからに先生ガチ勢。最後については人のことを言えた義理ではないが、そんな彼女は先生の身体を揺さぶる動きを止め、

「あ、ホシノちゃんやほー」

「やほーミカちゃん。で、先生はまた狂人タイム?」

 花が咲くような満面の笑みを向けられ、手を上げて返事としつつホシノは二人に近付く。こちらに気付いた先生も面を上げ、ペンを置くと軽く手を振り、

「おや、こんばんは小鳥遊君。いや何、理論上振動に襲われても正逆の振動をぶつければプラマイゼロだろう? ならば普通に過ごせるのではと思い至り聖園君の構ってムーブに甘んじて実証をだね」

「お酒入ってる訳でもないのにそんなこと言える先生におじさんビックリだよ」

 まあお酒もタバコもやらない人だけど。逆にシラフであのキチガイムーブの数々を繰り出している方が恐ろしい気もするが、まあよくある。手元の書類を覗き込んでみれば、乱れない達筆で記入されていたのでツッコむだけ無駄。すると待ってましたと言わんばかりにミカが身を乗り出して、

「聞いてよホシノちゃん!! 先生ってば夕飯の後からずーっとお仕事してるんだよ!? 席すら立たずに!!」

「えーまたー? 先生ー、座りっぱなしは良くないよー? ほらほら、こっち来ておじさんと休憩しようよー」

 応接用のソファーセットまで下がり、おいでおいでと手招きする。ミカのワガママも半分くらい本音だろうが、先生を休ませようとする気遣いだ。少なくとも自分達は、彼女が休んでいるところも眠っているところも見た記憶がない。シャーレの業務量が莫大なことは知っており、生徒優先なことも承知の上だが、根を詰め過ぎても良いことはないだろう。苦労を苦労とも思わない女傑であっても、どこにでもいる普通の人間なのだ。ぶっちゃけ妖怪か何かと言われた方が納得出来るが。奇行はノーカン。

 だがそんな自分達の気遣いも、先生にはお見通しだろう。その上で仕事をしているのだから、そうそう簡単に頷くとは思えない。現に先生は肩を竦め、組んだ手の上に顔を乗せると、

「フフフ私を懐柔しようとは大きく出たものだね? そう簡単には陥落しないよ?」

「この前先生がレアシール出ないって言ってたウエハースチョコの新弾買って来たけど」

「何をグズグズしているのかね二人共、早くお茶会の準備を始めたまえ!! 私はこれから紅茶を淹れて来るが付属のシールは開けてはいけないよ!? 絶対だ!!」

 マッハで給湯室の方へ向かって行った。分かりやす過ぎる。この手の収集アイテムに対して絶望的に運がなく、ダブり当たり前レア皆無が日常茶飯事な先生は、箱買いという大人気ない方法で対応していた。決して安い買い物ではないはずなので、お土産の単発買いでレアが引ければ御の字だろう。後でしっかり支払いはされるだろうが、先生の中で仕事より優先度が高いのは確かだ。そんな背中を見送っていると、こちらを見たミカが半ば呆然と、

「先生が口で負けるの初めて見た……」

「物欲で釣るとあっさり乗ること多いけどねー。それもおじさん達に気を遣わせ過ぎないようわざとっぽい感するけど」

 苦笑で言うとミカが脱力してソファーに倒れ込んだ。敵わないなあ、というぼやきには心底同意。普段の奇行に馴染み過ぎて今の流れに全く疑問を抱かなくなったら、それこそ先生の術中だろう。底が知れないという感想は、もう幾度抱いたか分からない。

 ともあれホシノもソファーに座る。テーブル上に広げるのは件のウエハースチョコが三つと、マトモな差し入れとしておにぎりを七つとペットボトルが三本。ミカが寝ていれば先生のストック分として置いて行くつもりだったが、多めに買って来て正解。どれを選ぼうか思案していると、身を起こしたミカがこちらの髪に触れ、

「何か砂付いてない?」

「あー、今日は外縁の方回ってたからねー。風強かったしそれでかな」

「ちゃんとケアしないとダメだよ? 折角綺麗な髪してるのに」

「うーん、その辺いつもノノミちゃんにお任せだからなー」

「じゃあ私がやったげるね」

 返事より早くミカがポーチを漁り、新品のブラシを開封すると砂を払いつつこちらの髪を梳いて行く。慣れた手付きは己の身で培ったものだろう。その辺りが疎いホシノでも、彼女が髪も服もかなり気を遣っているのは分かる。アクセサリー等を収めた小物入れを大事にしているし、ノノミと流行の話をしているのを見たのも一度や二度ではない。別々の学園でほとんど関わりもないとはいえ、やはり共通項があると打ち解けるのも早いようだ。

 ……あ。

「そういえば来る途中に新しいアクセサリー屋出来てたよ」

「えっホント!? じゃあ今度一緒に行こうよ!! 他の皆も誘ってさ!!」

「えー、おじさんそういうの分かんないし、ノノミちゃんやヒフミちゃんと行って来たらー?」

「私がホシノちゃんと行きたいのっ。色々飾るの楽しそうだし!!」

 力説したかと思えば、急に視線を外し明後日の方へ。給湯室だ、と気付くのと同時に、

「先生ー!! ホシノちゃんの髪弄ってるけど髪型のリクエストあるー!?」

「三つ編みなど意外性があって良いのではないかねー!?」

「それ採用ー!!」

 自分を彩る訳でもないのに、そんなに楽しいのかミカが笑った。表情がコロコロと変わる辺り自分とは対照的で、見ていて退屈しないなあとホシノは思う。こちらの意見を聞くこともなく髪を編み始めているが、そういう性格だ。害はないし、好意でやっているのは分かるので好きにさせていると、先生が戻って来るタイミングで完成。素か束ねるかくらいしかしない自分としては若干の落ち着かなさもあるが、先生はこちらを見て目を細め、

「図書館辺りが似合いそうな雰囲気になったね。伊達眼鏡の用意がないのが私の不徳だが、可憐だと思うよ」

「読書じゃなくてお昼寝目的だろうけどねー、ってあいたー!」

 茶化すミカには手刀を入れておいた。先生が褒めてくれてるんだから水を差さない。自分が手掛けたとはいえ目の前で褒められて嫉妬したんだろうけど。私も逆の立場だったら茶々入れるし。気持ちは分かる。でも許さない。絶対だ。あと帰りに眼鏡は買う。

 そんな馬鹿二人の様子に、先生は笑みでカップをサーブ。そして真剣な目付きになると、テーブル上のウエハースチョコを見た。

 そのまま三分。

「……先生まだー?」

「待ちたまえ聖園君、急いては事を仕損じる。この場でどれを選ぶかで私の未来、主に懐具合が左右されるのだよ……!!」

「いや先生滅茶苦茶稼ぎ良いじゃん。というかどれ選んでも一緒だよ絶対」

 先生がこの手の食玩で当たりを引いたところは見たことがない。というか引いたら明日世界が滅びると言われても信じる。そのくらいにない。そのことを知っているホシノとミカが半目で見守る中、先生は戦闘指揮中以上に頭を悩ませながら、

「これか……、否、やはりこっち……、ええい女は度胸だこれに決めたぞ!!」

「じゃあおじさんこっちでいいや、ミカちゃんそっちね」

「はいはーい」

 雑に選ぶこちらに先生が半目を向けて来たが、三分の一選ぶのに五分掛けた人がしていい目じゃないと思う。ともあれ各々が付属の袋を開け、テーブル上に戦果を置いた。

 ミカ、ナオSSR。

 ホシノ、ユミーリSSR。

 先生、ユイN。

「何故だ……!?」

「あはははは! 先生ホント運悪過ぎだよ!」

「いやー、ここまでレア物引けないの逆に強運じゃない?」

 七割近い当たりを外すなど最早ギャグ。地に突っ伏し床を殴り付けている先生と指差して笑ってるミカを見ていると、哀れみを覚えて来るのは判官贔屓だろうか。

「で、どうするの? おじさん集めてる訳でもないから先生にあげるよー?」

「どちらも三枚以上持っているので気遣いは無用だとも……」

 つまり当たりでもハズレだった訳だ。恐らくコユキ辺りが未所持のレアを引いて土下座で交換交渉を持ち掛けるのだろうが、さすがにそれは管轄外。ユウカとノアに任せよう。シールはありがたく貰っておくことにして、大事に財布へと仕舞っておく。ポケットの一画には先生から貰ったシールを入れる為のスペースが設けてあり、ちょっとしたお守り状態だ。似たようなことをしている生徒は多いはず。少なくともアビドスの面々はそう。ふとミカはどうするのだろうかと横を見てみれば、

「…………」

 宝石か何かでも見るような目でシールを掲げていた。ややあって緩み切った笑みと共に小物入れへと仕舞い、財布に収納したこちらと視線がかち合う。

 無言で握手を交わした。

「ほらほら先生、元気出してー。紅茶冷める前に食べようよ」

「そーそー。おにぎり食べるならレンジで温めて来るよー?」

「……いやすまない、取り乱すあまり見苦しいところをお見せした」

 奇行なら見慣れてるから平気、と言い掛けてさすがにやめた。ミカも慌てて口を押さえている辺り多分考えたことは一緒。そんなこちらの内心を知る由もなく、身を起こした先生が座り直す。

「ああ、ちゃっかり解散されては堪らないので一応釘を刺しておくが、小鳥遊君は後で領収書を渡すように」

「……真面目だねえ先生は」

「生徒に払いを持たせる先生がどこにいるのかね? 私にはその心遣いだけで十分だ。──感謝である」

 苦笑で肩を竦め、領収書と釣り銭を渡す。前に一度捨てたと答えたら、ゴミ箱を漁りに行こうとしたので慌てて止めて以来、抵抗は諦めている。受け取った手が返す動きでお札を差し出すので会釈。こちらが仕舞うのを見届け、先生が両の手を打ち、

「さて、それではいただくとしよう。私は余ったもので構わんよ? 残り物には福があるというやつだ」

「先生前にそう言って中途半端な箱買いして盛大に爆死してなかったかな?」

「過去の傷に塩を塗るのはやめたまえ聖園君……!!」

 何やってんだか。ともあれホシノは昆布と梅、ミカは鮭といくら、先生は宣言通り残りのツナマヨと明太子とおかかをチョイス。包装を破り、紅茶と共にいただいていると、ふと先生がこちらを見た。

 隙間なく、とまでは言わないが、それなりに近い距離で座っている己とミカを。

「? どしたの先生。ご飯粒でも付いてる?」

「いや、今更ながらずいぶん打ち解けたものだと思ってね。顔を合わせる機会が多いからさほど違和感もないが」

 言われ、ミカと顔を見合わせた。至近ではあるが、その距離感に嫌気も辟易もないことを再確認し、視線を戻すと同時にミカが苦笑。

「まあ出会いが最悪だった分あとは上がるしかないし? 一緒にあんなドンパチ切り抜けたらそりゃ仲良くなるしかないじゃんね」

「一緒に切り抜けたというか、終盤ミカちゃんが一方的にタコ殴りにしてただけのような気がするなーおじさん」

「ゼロ距離でショットガンの連射ブチ込んでた人に言われたくないよそれ!」

「蹴りで十メートル超のマシンぶっ飛ばした人が何か言ってるー」

「はははアビドスとトリニティの最大級戦力が謙遜し合ってどうするのかね」

 お互いシロコちゃんとか正実のトップとかいるけどねー、と内心で思いつつ、良い機会なのでホシノは問うた。それはもうシンプルに、自分達が「こう」なる前から思っていたことで、

「どうして私達を引き合わせたの?」

 ホシノが夜のシャーレに立ち寄るのは、ミカが移り住む以前からのことだ。数少ない先生と二人きりの時間、意気揚々と立ち寄ってみればベタベタ引っ付いている光景が広がっていて、第一印象は最悪だったと言って良い。

 エデン条約の際ヒフミの助太刀として対策委員会も参戦したが、元はと言えば騒動の発端はミカだ。更にその裏で暗躍していた者もいたようだが、詳細を知らない者からすれば「先生が傷を負う羽目になった騒動の主犯」でしかない。先生がその程度でどうにかなるようなら苦労しないが、ヒナに手間を掛けさせたこともあり、良い感情を抱けという方が難しいだろう。

 元々ホシノはあまり外向的ではなく、アビドスの面々くらいしか交友関係はない。最近例外としてヒナが増えたが、それにしたって対策委員会の案件に先生の依頼で介入して来たことが契機だ。故にミカに対しても最低限の当たり障りのなさを保ち、深入りしようとは思っていなかった。

 それは、ミカも多分同じだろう。

 彼女もまたティーパーティーの一員であったが、色々と面倒事に巻き込まれている身だ。その渦中から幾度も己を救ってくれた先生と、一応は同じ屋根の下。時折自罰的な面こそ見せるが、ここでの生活にもすっかり慣れて、ワーカーホリックな先生のお目付け役がてらスキンシップが増えるのにそう時間は掛からず。そんな中ふらっと訪れるホシノを、疎ましく思うことだってあっただろう。

 実力に圧倒的な開きがあるならともかく、お互いそれぞれの学園での実力者。それ故に己のプライドがあり、建前上中立ではあっても水と油というか、どう考えても噛み合わないとしか思えなかった。先生に特別な想いを向けているなら尚更。

 それが今やこうなっているのだから人生分からないものだが、先生ならばその辺り色々と考えていただろう。顔を合わせないように予定を調整することも出来たはずだ。まさか何も考えず面白そうだから引き合わせたということはないだろうが、理由があるなら聞いてみたかった。

 隣のミカも包装を剥く手を止め、珍しく真剣な表情で先生を見る。当の彼女は己が当てたシールを透かし見るように翳していたが、どう足掻いてもレアにはならないからいい加減諦めようね。そんな心の声が届いた訳ではなかろうが、先生は吐息と共にこちらを見て、

「一言で言うなら、似た者同士というやつだよ」

「どこが?」

 シンクロした声に先生が噴き出したが、これは私達悪くない。揃って半目を向けていると、笑いを噛み殺した先生が背もたれに身を預け、

「いやすまない、息ぴったりだったものでね。……さて、手堅いところから挙げるとまずは髪だろう。どちらも綺麗で似合っている」

「……ぉう?」

 思わぬ褒め言葉にシンクロで動揺した。が、構わぬとばかりに先生は悪戯げな笑みを浮かべ、

「二人共メンタルが戦闘力に直結するし、故にスイッチが入ると一騎当千の強さを発揮する。そしてあまり友人が多い方ではなく、だからこそ身内を大事にし無茶を躊躇わない。それに連動して思い詰めると一人突っ走りがちで、偽った振る舞いで本心を隠し、その裏には繊細な面を抱えていて──」

「ごめんなさいもう言わなくていいです」

 色々な意味で大ダメージな指摘の連続に二人揃って両の手を前に出した。ほら見たことかと笑みを隠さぬ先生が、しかし不意に表情を真剣なものにして、

「同族嫌悪なんて言葉もあるがね、一歩を踏み出せない者の僻みに過ぎんよそれは。互いに似た面を持つからこそ、信頼を結び築き上げた関係は、如何なる窮地にも砕け得ぬ程強固になる。……二人とはそれなりに濃い付き合いだ、波長が合うかどうかくらいは分かるとも」

 どうだろうか。

「初見や表面上こそ印象最悪だろうが、芯に抱えたものが通じ合えば得難い友人になれると、そう思っていたよ」

 告げられた言葉に、ホシノとミカは顔を見合わせた。

 五秒。十秒。三十秒。そして一分が経過するに至り、互いに口元が緩む自覚を得て、

「あはは……!!」

 なるほど、言われてみれば確かにそうだった。

 自分達は大事なものをなくしたり、またなくしかけた人間だ。

 過ちを犯し、自分を追い詰め、何もかもを諦めかけた者達だ。

 それを先生が止めてくれた。

 周りの人達が救ってくれた。

 壊れた筋書きに囚われた身に、新しい道をつけてくれた。

 故にまた前を向いて、生きに行こうと思うことが出来た。

 そうだ。

 性格も背丈も趣味も好物も戦い方も何もかも違う自分達が、確実に同じだと言える唯一無二の共通項。

 それをあの戦いの中で確かに触れ、理解し、だからこそ肩を並べることが出来た。

 互いが互いを知らないまま、しかし共通の目的の為に同じ方を向ける者同士だと確信出来た。

 先生の助けになる。

 大事な人達を守る。

 己の手が届く限り、あらゆる喪失に抗い、失わせない。

 その根っこが同じだと分かれば、普段がどうであれ上手くやって行けると、そう信じることが出来た。

 結果は今の光景を見れば語るまでもない。

 故にホシノは両手を上げた。そのまま背もたれに脱力し、

「やっぱ先生には敵わないや」

「降ー参ー。私達の負ーけー」

「勝敗を競うものではなかろうに」

 同じように横倒しになったミカとこちらに、先生が苦笑を向ける。だが自分達は目配せし、気の抜けた笑みを交わすだけだ。

 全く。

 普段はキチガイムーブで周囲を振り回し、茶化したりからかったりと騒動に事欠かないというのに。

 生徒達を見る目を過つことだけは、どんな状況にあっても一度もない。

 とんでもない相手を好きになってしまったものだと、自身と相棒の多難を思いまた苦笑。言うまでもなく競争率激高だし、いずれ隣の少女と本気でぶつかることもあるかもしれない。

 だけど、今はまだ。

「ところで先生、さり気なくデスクに移動しようとしてない?」

「ははは言い掛かりだよ小鳥遊君、まさか可愛い生徒達を放ってそんな」

「じゃあ下の談話室とかに移動してもいいよね?」

「……それは暗に夜通しダベるという宣言かね聖園君」

 半目で言われたがホシノもミカも無視した。立ち上がり、それぞれが先生の手を取って引き、

「はいはい本日のシャーレは営業終了ー」

「解散ー。お風呂入ってベッド行くよー」

「……やれやれ、これは大人しく従うが吉か」

 観念し肩を竦めた先生と共に、三人で執務室を出る。生徒のダベり場となりつつあるシャーレにはそれぞれの荷物置き場があり、その中には着替えや風呂の用意もあるのだ。有事に置いては待機所ともなる為、宿泊設備も充実している。先生の背中を流して、親孝行ならぬ先生孝行をするのもアリだろう。

「小鳥遊君、聖園君」

 呼ぶ声に顔を上げると、苦笑した先生がこちらを見ていて。

「愚問だろうが、──楽しいかね?」

 二人揃って笑みを浮かべ、親指を立ててみせた。

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