グラスアーカイブ   作:外神恭介

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初めて会った時も、味見手伝ってってカップ押し付けられたなあ、って

「現在外出中」

 眼前のプラカードに書かれた五文字を読み上げ、シロコはゆっくりと天を仰いだ。

 ここはシャーレオフィスビル、先生の居城である執務室前の廊下だ。常日頃から入り浸っているシロコにとっては見慣れた風景で、故に今日もまたお邪魔しに来たのだが、

 ……入れ違いになっちゃった。

 こういうことはたまにある。実質連邦生徒会の別動隊レベルでオーバーワークの先生は、日中ここにいること自体が珍しい部類に入る。概ね日が沈む頃には戻って来るが、これでは手伝おうにも手伝えない。いくら入り浸っていてどこに何があるか大体分かっているとはいえ、指針を決める先生がいなければどう動くべきか判断出来ないからだ。迂闊に進めようものなら複数の学園を巻き込んだ事件になりかねないので尚更に。以前ミカが書類を取り違えてトリニティ用の補充物資が全部アビドス行きになりかけて、たまたま別件でシャーレに来ていたナギサが口にロールケーキをブチ込んでいたが、多分ホシノ先輩に便宜を図りたかったんだろうな、とは思う。その辺りを汲んだ先生が上手く仲裁して丸く収まりはしたが、似たようなことになった場合自分で対処出来る自信はない。適材適所は大事。

 ……とはいえ、どうしようかな。

 出直すか、探しに行くか。シャーレの敷地内は顔パス設定で出入りは自由なので、掃除などして好感度アップを狙うのも良いだろう。はたまたもう一人の自分にちょっかいを掛けに行くのもアリかもしれない。

 腕を組み考え込む。しかし程なくシロコの耳は、異質な音を捉えていた。

 足音。

 来客だろうか。もしそうであれば自称シャーレの部員としては丁重に持て成さねばなるまい。急ぎの案件だった場合、先生に連絡する必要もある。ならば人足として手伝いに入り、バイト代をアビドスの予算に回すのも悪くない。そう思い視線を向けると、

「あ」

「あら」

 見知った、というかそれなりに親しい相手だった。書類を収めたクリアケースを束で抱え、こちらの目の前に歩み寄って来るのは、

「ユウカ、久しぶり。元気?」

「セミナーの仕事で忙しないのを除けば健康そのものよ。そっちは?」

「ん、至って健康優良児。今度ノアも先生とのジョギングに連れて行く」

「……頼んだ手前任せるけど程々でお願いね?」

 ん、と親指を立てておく。苦笑で応じるユウカの表情も、友人に対する砕けたそれだ。

 ユウカもノアも、生徒達の溜まり場となっているシャーレで親しくなった面々だった。とある事情でシャーレに居を移しているミカを除けば、日中に最も顔を出しているのがこの三人と言えるだろう。夜は夜でホシノやヒナ、もう一人の自分が度々訪れているようだが、顔を合わせる頻度が高く、先生によって中立が宣言されていれば、自然と親交が深まるもので。今では互いの学園に顔を出したり、手が足りない時に助け合うのもザラだ。ゲヘナとトリニティのような例外もあるが、生徒個人の関係としては現状上手く回っている。

 特にアビドスはシャーレとの付き合いも長く、先生の依頼で駆り出されることも多い。故に基本どの学園とも友好的で、先生が対応した大きな案件のメンバーとは大体顔見知りだ。その分日々の騒がしさも倍増しだが、おかげで毎日楽しんでいる。

「で、どうしたのこんなところで。入らないの?」

 問いにシロコは無言でプラカードを指差した。角度の問題で見えていなかったのか、首を傾げつつ一歩進んだユウカが身を折ってプラカードを覗き込み、

「…………」

 音として聞こえる程大きく息を吸った。額に青筋は浮いていないが、その三歩手前くらいなのは見て取れたので、

「……約束でもあった?」

「……ええ、うちのエンジニア部の作ったメカが暴走して実験施設一つダメにした件の事後報告と、そもそもの発端が先生の漏らしたロボット話だったって証言が出たから、詳しく問い詰めようと思ってアポを取ってみたら……」

 ユウカが半目でスマホを操作するが、どうやら連絡は来ていないようで溜め息を一つ。一応確認の意味も込めて、シロコは有り得ない可能性を口にする。

「逃げた?」

「フリくらいならするかもしれないけど、そういう人じゃないでしょ。緊急の案件で外出して、まだこっちに連絡出来る程落ち着いてないとか、そんなところじゃない?」

 苦笑で応じる表情は、先生への全幅の信頼に満ちていて。故に満足したシロコは、腕を組んで大きく頷いた。

「……何よ?」

「ん、先生のことをよく分かってる。さすがは「始まりの四人」の一人」

「……何、その聞きたいような聞きたくないような二つ名は」

「先生愛好家の間では有名。連邦生徒会を除いて、キヴォトスで初めて先生と関わった生徒だから」

 でも、と親指を立てつつシロコは言う。

「私だって負けてない。シャーレに受理された最初の依頼はうちの学園。つまり先生が自ら会いに来た初めての生徒は私達。その中で一番に会ったのは私。一等賞」

「張り合われても困るんだけど……」

「でもユウカからは私と同じ匂いがする。先生のことが好きで好きでしょうがな──」

「ぅわあ──!?」

 慌てて口を塞がれた。そのままユウカが右を見て、左を見て、他に誰もいないことを確認してから安堵の吐息と共に手を離す。だからシロコは再度頷き、

「隠さなくていい。誰かを愛おしく想うことに恥じる必要なんてない」

「……立派な御高説どうも。でも先生は同性なのよ? あまり大っぴらに言うのは……」

「問題ない。人間として魅力的であれば性別を問わないと先生は公言済み。ライバルが多い以外の支障はない」

「ここに先生とデカシロコを加えた暴走超特急をフォローしなきゃいけないセリカちゃんやアヤネちゃんに心底同情するわ……」

 ユウカが頭を抱えながら深々と息を吐いたが、何かおかしなことを言っただろうか。このくらいアビドスやシャーレではよくあることなのだが。

 ともあれ彼女がいるなら話は早い。この後の予定を決定し、身を回しながらシロコは問う。

「急いでないなら、上がって待つ?」

 え、とユウカが口にするより早く、シロコはプラカードに手を掛ける。そのままフックから外すと顔だけで振り向き、

「シャーレの中は顔パス設定。ユウカもそうだって聞いてるけど」

「だ、だからって家主不在で勝手に入るのは……。せめてミカさんに同伴してもらうとか」

「ミカならティーパーティーの会合で帰りは遅いって」

「じゃ、じゃあ近場の喫茶店で時間潰すとか……」

「ん、なら私だけで入る。お邪魔します」

「ちょ、ちょっと、変なことしたりしないでしょうね……!?」

 慌てて後を追って来たユウカと共に、シロコは執務室へと入った。

 

     ●

 

「何が良い? コーヒー? 紅茶? 緑茶? 幸福回転って書かれたよく分からない粉末もあるけど」

「ツッコミ放棄して答えるけどコーヒーでお願い……。あ、ブラックで大丈夫よ」

 ん、と応じて準備に取り掛かる背中を見送り、ユウカはソファーに腰を降ろした。横目に見たデスクには相変わらず書類が山積みで、その天辺には紙飛行機が載せられている。思わず半目になり部屋の反対端を見遣れば、壁際に紙飛行機が幾つか。どれも折り方が違うという気合いの入りように、おおよその経緯が想像出来てユウカは溜め息。物は違えど来る度に似たような光景を見ている気がするのだが、一体どれだけのレパートリーがあるのかあの人は。

 ……これだから手放しに褒めづらいのよね……。

 能はあるのに、と頬杖ついていると、給湯室の方から声が飛んで来た。

「ユウカ、お茶請けを出しておいて。先生のデスクの一番下の引き出しにウエハースチョコの箱があったはず」

「またあの人は箱買いなんてして……」

「ランSSRとサユミSSRが出ないって言ってた」

「……どっちも昨日コユキが当ててたわね」

「……近々土下座でセミナーに乗り込むと思う」

「この手の収集物に関しては運もプライドもないわよね、先生……」

 どう話題を広げても溜め息しか出なさそうなので立ち上がる。言われた通りに引き出しを開ければ、開封済みの箱がそこにあった。付属のシール入りの包みは全て剥がされており、ただの茶菓子として以外の価値はない状態だ。なので躊躇いなく手前から二つ手に取り、ソファーまで戻るとテーブルに広げた。ほぼ同時にシロコがマグカップを載せた盆を手にやって来て、

「はい、熱いから気を付けて」

「ありがと」

 受け取るカップは白と菫色をベースにしたユウカの私物だ。シロコが使う青いカップも彼女の物。シャーレに入り浸りとなっている面々は日用品に着替えの類も持ち込んであり、第二の家のようになっていることが少なくない。シャーレの業務として出場待機、場合によっては夜間も対応が発生する為、先生が宿泊設備の充実化と共に許可したのだ。ミカのようなシャーレ預かりの生徒や、RABBIT小隊のように行き場のない生徒達の居場所にもなっていて、ゲヘナ風紀委員会も多忙の際は学園とシャーレの往復だけで生活を済ませることなどザラだ。幸いセミナーはそこまでではないものの、ノアやコユキ共々泊まったことは一度や二度ではなく、

 ……ああ、お風呂上がりに先生がアイス差し入れてくれたこともあったっけ。

 あの時は想定以上に業務が早く片付いて、しかし翌日も朝早くから別件があったので泊まって行けという勧めに甘えたのだったか。先生の淹れてくれたココア美味しかったなあ。感心したノアが配合を聞こうとして「愛情たっぷりで出来ているとも!!」とカウンター食らって赤面でショートしてたっけ。ウケたコユキが激写しまくって後日シメられていたが、実は既に先生へ横流し済みだという事実は知らされているのだろうか。藪を突くのは怖いので黙っているが、私も迂闊に隙は見せないようにしなければ。

「ユウカ、黄昏れるならカップは置いた方が良い」

「はっ!?」

 指摘に慌てて意識を戻せばカップの縁からコーヒーが零れる寸前だった。シロコのおかげでギリギリセーフ。急ぎ口に含もうとして、しかし立ち昇る熱気に思い留まり息を吹き掛け冷ましてから。独特の苦味と酸味は、しかしどことなく覚えのあるもので、

「……味、先生のに大分近付いて来た?」

「企業秘密だって教えてくれないから、独学でここまで持って来たけど、まだまだ再現が甘い」

「ノアに手元盗み見てもらうのが一番手っ取り早そうだけど、間違いなく無理でしょうね……」

「一度もう一人の私が試したけど、頭を撫でられて和んでいる内に終わった」

「分かってはいたけど手強いわね……」

「ん、隙のない強敵」

 二人揃って肩を落とした。人格以外欠点がないと言っても過言ではない先生を相手に、一杯食わせようとして惨敗したという話は枚挙に暇がない。正直千年難題の解明よりもMURIではないかと思うのだが、

 ……過去にはいたのよね、一人だけ。

 それは、先生の原点とも言える大事な人。もはや会うことの叶わない人。

 一度話してみたかったというのは、先生に近しい誰もが思うことだろう。

 先生の隣に並び立つには、最低でもその人を超えなければならないから。

 だが対抗心を抜きにしても、どんな人だったのか純粋に知りたいと思う。

 彼女が自分達と同じような生徒で。

 校外の友人として付き合いを持って。

 先生の下で課外活動に勤しんでみたり。

 放課後や休日に集まって一緒に過ごして。

 そんなありもしないもしもの可能性を思う。

 感傷ね、とユウカは内心で苦笑した。冷酷な算術使いと恐れられるセミナー会計の自分が、無駄の極みとも言える思考遊びをしている、と。

 ……でも、それで良いのよね。

 感情なき合理主義の行き着く先はただの機械だ。元会長であるリオのように、大の為に小の犠牲を是とすることになる。ならば甘いと言われようと、これで良いのだとユウカは思う。

 少なくとも犠牲を良しとせず、自分達と共に戦った先生ならそちらを取るだろう。

 今もそうだ。

 先生を巡るライバルであるシロコや他の生徒達と、率先して仲良くする義務はない。

 いくらシャーレが争いを禁じた中立の場とはいえ、挨拶程度で済ませるという選択肢だってある。

 だが、敵対している訳でもないのだ。ならば仲良く、互いに良い空気を吸えれば良いとユウカは思う。

 そんな風に思えるようになったのは、先生の影響も多分にある。だが明確なきっかけを挙げるとするなら、

「……何?」

 こちらの視線に気付いたのか、対面に座るシロコが不思議そうに首を傾げる。そんな彼女に笑みを零しつつ、ユウカはカップを掲げて見せ、

「初めて会った時も、味見手伝ってってカップ押し付けられたなあ、って」

 告げられた台詞に、シロコが上を見た。ややあって、納得したように手を打ちながら視線を戻し、

「そういえば、そんなこともあった」

「あの時は驚いたわよ。急ぎの書類を届けに来たら先生が入れ違いでミレニアムに行ってて、連絡したらノアと対応しておくからテキトーにくつろげ、なんて言われて。どうしたものかと困惑してたら、当然のように入って来て給湯室の方に行くんだもの」

 呆気に取られ見送るも、慌てて後を追い掛けて。一体何をしているのかと問い質しても、ここにはよく来るのか、先生からコーヒーを振る舞われたことはあるかと逆に幾つかの質問をされた挙句、

「先生の味を再現したい。手伝って、って」

 あまりにもマイペースな振る舞いに毒気を抜かれ、しかしそのおかげで肩の力が抜けた。

 連邦生徒会と始まりの四人を除けば、ユウカがシャーレ絡みで初めて関わった他校の生徒がシロコだ。

 ミレニアムは新興かつ、元々命題解明の為外向的な生徒は多くない。

 自分は会計として他者とも関わりを持つが、それはあくまで学園内の話。

 シャーレと縁を持ったきっかけにしても、連邦生徒会の業務停滞について問い質しに行ったことが契機だ。

 故に目的も何もない他人との関わりはこの時が初めてで、内心身構えてすらいたというのに。

 シロコがその辺り良い意味で無頓着だったおかげで、今の友人としての関係があり、他の生徒達とも上手くやれている。

 正直なところ、シロコには感謝しているのだ。

 そんなこちらの内心を知る由もなく、シロコはカップを手にしたまま俯き、

「でも、未だに完全な再現は出来てない。自分の未熟さに恥じ入る」

「それ言ったらシロコ程再現出来てない面々が軒並み未熟判定よ?」

 励ましを送った先、恐らくシロコも言葉程落ち込んではいまい。表情の変化に乏しく言動がぶっ飛んでいて冗談と本気の境が分かりにくいのが難だが、今のは前者だろう。そのくらいの付き合いはある。その証明のようにシロコも口元を緩め、彼女の後ろに立つ先生も満足そうに頷き、

「謙遜する必要はない。これはこれで良い味だと私は思うよ」

 きっかり十秒が経過してから、デカ過ぎる違和感にようやく気付いて二人共立ち上がった。

「先生、おかえりなさい」

「というかいつの間に音もなく戻って来たんですか!!」

「つい先程だよ。陸八魔君達が契約破棄で追われているらしく、指定ポイントに補給物資をいそいそ配置して来たのだ」

 またあの連中は……、と嘆息。腕は確かだが独自の価値観で動くので、十全に運用出来るのは先生くらいと話題の便利屋68。最近はシャーレの依頼ばかり受けていたようだが、アウトローな繋がりは簡単には消えないということか。対するシロコはと言えば空になったカップを置き、

「手伝いに行く?」

「上手くやれば柴関ラーメンで奢ると焚き付けておいたので心配なかろう。連絡が来るまでテキトーにくつろぐとしようではないかね」

「ん、じゃあそうする」

「そうする、じゃなくて!!」

 すっかり雑談ムードの二人に割って入り、ユウカは本来の目的を手に取った。莫大な桁数の並ぶ請求書を眼前に突き付け、

「先生、エンジニア部の先日の騒動、聞けば先生も一枚噛んでいたそうですけど?」

「はて、確かに以前好みのメカはどんなものかと聞かれたので、幾つか作品を紹介したが」

「そんなことしたら嬉々として開発し始めるに決まってるじゃないですか!!」

「落ち着きたまえ早瀬君、作るだけなら個人の自由だ」

「自費ならまだしも部の予算使った挙句暴走して被害出してるから問題なんです!! 知ってて止めなかったなら先生にも負債帳消しの為に協力してもらいますからね!!」

 ああもう、とユウカは内心で頭を抱えた。どうしてこう、可愛くない部分ばかりを見せる羽目になっているのかと。偏に先生の奔放っぷりが原因な気がしないでもないが、ツッコミの延長でヒートアップしてしまったこちらのミス。負債も確かに事実だが、もうちょっと言い方というか上手いやり方というか、こう、あったでしょ私。膝を抱えて黄昏れたい気分になっていると、不意にシロコが先生の袖を引き、

「先生」

 ん? と視線を向けた先生に、シロコが一つ頷いた。

「約束したのに急にいなくなってて、ユウカ凄く心配してた」

「ちょっ……!?」

 頬に熱を得て面を上げれば、先生はばつが悪そうに頭を掻いていた。しかしこちらに向き直ると深々と頭を下げ、

「誠に申し訳ない。陸八魔君の件は人命に関わりかねないのでそちらを優先したが、約束を破ってしまった挙句連絡もしなかったのはこちらの不手際だ。……土下座で登場して最初に謝罪するべきだったね?」

「あ、頭を下げなくていいですから!! 無事なら別にそれで……」

 チョロいなあ私、と頭の後ろ半分くらいでユウカは思う。先程まで詰め寄っていたのに、下手に出られるとあっさり態度を翻してしまって。フォローしてくれたシロコに感謝すべきか、先生の生真面目さに呆れるべきか。どちらとも言えない感情を持て余すユウカに対し先生は首を振り、

「いや、これはどう考えても私に非がある。謝罪のみならず何かの形で誠意を見せねばなるまい。砂狼君、何か良い案はあるかね?」

「ん、一緒にホテルへ行けば一発」

 あまりにもあんまり過ぎて噴き出した。

「成程泊まり掛けで小旅行か!! 何とも心躍る響きだね!!」

「夜景の見えるレストランも忘れちゃダメ」

「ふむ、エスコートするには入念な下調べが必要そうだね……。一度下見に行くことも考えるべきか」

「なら私が付き合う。予行演習も出来て一石二鳥」

「ではそうしようか」

「ん、約束」

 トントン拍子で話が進み、当事者のはずなのに置いて行かれている気がするのは自分だけだろうか。さすがは暴走超特急。ツインエンジンだから始末が悪い。というかシロコが強か過ぎる。まさか最初からこれが目的でフォローしたのではと半目を向けると、躊躇いなく親指を立てて来たので多分そう。恐ろしい子。日に日に先生のようなムーブが身に付いて来ているが、アビドス組の情操教育は大丈夫だろうか。

「という訳で早瀬君、後で構わないので予定が空いている日を連絡してくれたまえ。それをベースに私の方で調整を掛けよう」

「……返事もしてないのに行くのは確定なんですね」

「おや、断ってみるかね?」

 悪戯げに問う先生は、明らかに分かっているだろう。故にユウカは嘆息して、仕方なさそうなポーズで答えるしかなく。

「ちゃんとしたエスコート、お願いしますね?」

「うむ、誠心誠意努力しよう」

 ただ、と先生が笑みを苦笑に変えて、

「早瀬君は表情に出やすいから気を付けたまえよ? ほぼ間違いなく生塩君には悟られるだろうが」

「余計なお世話ですっ」

 腰の入ったツッコミの手刀を額に入れると、感心したようなシロコに拍手された。

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