「あら」
シャーレオフィスビルの正門前にて、ノアとノノミの声が綺麗にハモった。
どちらもスーパーのビニール袋を手に下げた姿。透けて見える中身はあちらが野菜を中心とした食料品、こちらはインクやメモといった備品類だ。ノアの記憶ではどちらもそろそろ補充が必要だった品で、加えて言えばアビドスメンバーの来訪予定はなかったはず。つまりは私的な訪問と手伝いだが、まあ自称部員にはよくあることだ。
「こんにちは、ノノミちゃん。今日はアビドスの皆さんとは別で?」
納得の頷きを会釈として送ると、向こうも軽く頭を下げた。笑みと共に荷物を握り直すと、
「こんにちは、ノアちゃん。ホシノ先輩はミカ先輩とシャーレの仕事で、セリカちゃんとアヤネちゃんはバイト、そしてシロコちゃん達はサイクリングに。ユウカちゃんは?」
「今日はコユキちゃんに引きずられてミレニアム内を飛び回ってます。先日先生に、一日真面目に仕事が出来たら外のボードゲームの話をするって賭けを持ち掛けられまして」
「ああ、そういえば先生が焚き付けてた、ってシロコちゃんから聞きましたっけ。人を乗せるのも上手ですよね、先生」
「午後二時二十七分にモチベーションが尽きるのではないかと予想してましたけど、定時連絡を見る限り頑張っているみたいです」
これを機にもう少し真面目になってくれれば、とも思うが、先生のキチガイと同じで多分MURIだろう。常時戦力が増えるのではなく、有事において頼ることが出来ると考えた方が精神衛生上も良い。ともあれ、とノアは互いの傍らに視線を送って、
「人のことを言えた義理ではありませんが……、いつも纏まって行動している印象が強いですけど、やっぱり集まらない日もあるんですね」
「昔は常に一緒という感じでしたけど、先生が来てから色々とありましたから。余裕が出来た、ってことなんだと思います」
一切陰りのない笑みに、ノアも思わず表情を緩めた。カイザーを相手にしたホシノ奪還戦以降に先生と知り合ったノアは、それ以前の対策委員会がどうであったかを知らない。だがあの掴み所のない大人の存在が、彼女達にとってプラスに作用したであろうことは容易に想像がつく。
……ユウカちゃんも先生と知り合ってから、楽しそうにお仕事する光景が増えましたし。
コユキがセミナーに復帰し騒々しさも増しているが、溜め息を吐く回数や考え込むような間が減った。先生のオーバーワークを咎める説得力増強の為か、エナジードリンクもほとんど飲まなくなっている。リオがおらず業務量は増えているのに、何だかんだ笑っている時間の方が多くて、
「本当に、先生には頭が上がりませんね」
「そうですね。だからこそ、私達に出来ることで返して行きませんと」
Tes.、と応じ、二人並んでビルの中へ。お互い敷地内には顔パス設定だ。日が当たらなくなったことと、空調の利いた屋内に入ったことから、思った以上に涼しさを感じた。エントランスを真っ直ぐ横切り、エレベーターを使って上層へ向かう。
並んで立ち、ノアはふと横目にノノミを見た。
同学年の他校生。ユウカやシロコ経由で仲を深めた、かなりの部分で波長の合う友人。ユウカやセリカのようにからかう対象ではなく、一緒に相手をからかう側としての類友と言える。
そんな彼女を見る視線の位置は、しかし高い。
意識の問題ではない。物理の問題だ。両者の身長は大差ないのだが、ノアがヒール付きの為実際の数値以上に差を感じる。晄輪大祭ではこちらもスニーカーだった為、並ぶ視線が新鮮だった記憶がある。大企業のご令嬢である彼女からすれば、ハイヒールにも慣れはありそうなものだが、
……アビドスの地形だと動きにくそうですからね……。
襟元を引っ張り篭った熱を排気している彼女の所属はアビドス。大半が砂に埋もれた土地だ。接地圧は当然として、少人数故前衛として動くことも考えれば、普段使いなど出来たものではないだろう。
実際もう一人のシロコも当初はハイヒールだったが、今ではもっぱら制服合わせのスニーカーだ。そちらについては別の理由の方が大きい気もするが、よくよく思えば先生も常時ローファー。生徒達と戦場を駆け回っているのだから当たり前と言えばその通りだが、ハイヒールでも難なく悪路を走破しそうだと思ってしまうのは毒され過ぎだろうか。それとも正当な評価だろうか。
「もしもの話をしますけど、先生がハイヒールを履いたらどうなると思います?」
「戦闘後の瓦礫の山でもいつもの調子で歩くと思います。余裕綽々だとも、って」
無言で握手を交わした。
振り向いていた身を戻し、吐息と共にノアは零す。
「先生が何かを出来ない光景、全く想像が付かないですよね……」
そうですね……、とノノミが考えるように上を見た。やがて視線を戻した彼女は両の手を打ち合わせ、
「不規則言動が一切ない終始真面目な先生、とかどうでしょう☆」
「……十人中十人が引きずってでも病院に連れて行きそうな光景ですね」
「……正直に言ってしまうと、提案した私自身もそう思いました」
二人揃って俯いた。結構大概なことを言っている自覚はあるが、先生に対して申し訳ないという感情が一切湧いて来ないのもどうかしてる。だって先生ですし……。
そんな雑談をしている間にエレベーターが止まる。閉ざされた密室からガラス越しの陽光が降り注ぐ廊下に出て、眩しさに目を細めつつも前へ。程なく辿り着いた先が、執務室という名の実質先生の私室兼生徒達の溜まり場。礼儀としてノックは忘れず、音もなく扉を開ければ、
「……あら?」
いつもと違う先生がそこにいた。
●
ノノミは、貴重なものを見ていた。
基本、先生は止まらない。不規則言動的な意味もあるが、多忙であるが故に常時何かしらの対応で動き回っている。生徒との会話であっても、視線はこちらに向けつつ手元では書類を捌いているなど日常茶飯事だ。仮に仕事がなくても飲み物を淹れたり、お茶請けで奇怪なアートを創造し始めたり、イオリやサキ辺りには「存在がうるさい」とまで言われるくらいには。
そんな先生が今、完全に静止している。
定位置の椅子に座り、デスク上に両腕を投げ出す形だ。身は背もたれに預けたやや仰向け。視線は浅く上を見ているが、焦点は合っていない。
目を閉じていれば、眠っているように見えなくもないだろう。
……先生が寝てるところ、見たことありませんけど。
この人の場合目を開けたまま寝るくらいはフツーにやりそうだ。何なら寝たまま会話なども出来そうな気がする。さすがにそれは、と思ってしまうような突飛な想像であっても、先生なら更にその上を行くであろうという信頼なんだか呆れなんだかよく分からない確信があるのが尚更に。
ともあれノア共々ソファーの上に荷物を置き、そそくさと先生の傍へ向かう。普段なら入室した時点でこちらに気付き挨拶を送って来るはずなのに、事ここに至っても反応はない。肩や胸が上下している辺り息はあるようだが、ぱっと見ホラーなのだけはどうにかならないだろうか。
「先生? ……せんせーい」
一応、という体で、目の前で手を振ってみる。だがやはり反応はなく、
「せんせーい? つんつんしちゃいますよー?」
反対側のノアが二の腕を突いてみたり、肩に手を掛け軽く揺すってみても同様だった。
珍しい、というよりも初めて見る類の光景。何かの病気ではないかという不安がないとは言えないが、そういった類の隠し事はしない人だ。持病があれば説明してくれているだろうという信頼があるし、そもそも普段の不規則言動の方がよほど病気だ。ええ、登校したら校庭に三メートル超えのオッパイ砂像作ってた時は本当に何事かと。
ノアもまた手首から脈を計ってみたり、額に手を当て熱を確かめたりした後、首を傾げつつも指で丸を作ってみせる。だが念には念をということで、その辺り詳しそうな人に連絡を取ることにした。ホシノとミカは仕事中、シロコ二人もサイクリング中ですぐに気付くとは限らない。
……そうなると……。
考えた末、ノノミはある人物へと発信。数秒の後に回線が繋がり、
「あ、ヒナ先輩、お疲れ様です。今お時間大丈夫でしょうか?」
『直接連絡して来るなんて珍しいわね。シャーレ絡みで何かあった?』
話が早い。さすがシャーレの総長を預かるゲヘナ最強の風紀委員長。多忙な身なのは知っているので、ノノミの方も簡潔に、
「先生が椅子に座ったまま動かなくてですね。寝てるように見えなくもないんですけど目は開いてて」
ああ、と納得したようにヒナが零した。
『それなら心配要らないわ。極々稀にだけど考え事してる時になるから。しばらくしたらまた動き出すし、お茶の用意でもして待つ方が有意義よ』
「……言葉だけ聞くと壊れ掛けの機械みたいですね」
『やり過ぎなくらい多機能だけどね』
そうですね、と苦笑を交わし合い、礼と共に通話を切る。やり取りが聞こえていたのか、ノアも安心したように一息。ノノミも身に入っていた力を抜くが、やはり先生には一切の動きがなく、
「ここまで見事に反応がないと、……ちょっと悪戯してみたくなって来ちゃいますね」
「ノノミちゃん、そんなことを言ってはいけませんよ」
だって、と浅く眉を立てたノアが真剣な表情でこちらを見て、
「──私も悪戯したくなって来ちゃうじゃないですか」
無言で握手を交わした。
……こういうところの波長が合うから一緒にいて楽しいんですよね、ノアちゃんは。
どちらも先生のカウンターで沈められるのがオチだが、そこはまあ置いておく。
しかし先程までの様子を鑑みるに、大抵のことでは気付きそうにない。例えばここにシロコがいれば自宅へお持ち帰りとか、隣の仮眠室に放り込んで一緒に寝るとか、そういうアグレッシブなアプローチに及びそうではあるが、
……お邪魔になってもいけませんからね。
シロコまでは行かなくとも、ムツキやコユキレベルの悪戯でもやり過ぎだろう。先生に休んで欲しいのは本音だが、思案故にこうなっているということは何か大事な案件を抱えている可能性が高い。ならばその辺りを考慮しつつ、自分達の悪戯心を満たせるプランは、
「ノノミちゃん、ここはシンプルにマッサージというのはどうでしょう?」
「グッドアイディアですノアちゃん、先生も労れて一石二鳥ですもんね」
親指を立て合った。
そうと決まれば行動開始。お互いホシノやユウカ相手にスキルを磨いており、先生相手に発揮したこともある。ノノミは肩、ノアは右腕に手を添え、慣れた手付きで揉み解して行く。
「……でも、思っていたよりは凝ってないですね」
「仕事の合間にストレッチやヨガや不規則言動してますからね。前にもシロコちゃんと綺麗なI字バランス披露してましたし」
「途中さらっとおかしい単語が入った気もしますけど、先生のやることですからスルーでいいですよね」
本人に聞かれたら半目でツッコまれそうなやり取りだがこのくらいならセーフ。というより何か話してないと動揺しそうだ。
気温が上がって来たこともあってか、今日の先生はいつものジャケットを羽織っていない。シャツ一枚越しに触れる感触はかなりダイレクトで、何なら下着の黒が透けて見えているくらいだ。「同性なのだし気にする必要もないだろう。見られて恥ずかしいものでもない」とは本人の言だが、それで何人の生徒が沼に落とされたか自覚しているのだろうか。おかげで夏場は外回りを控えろと皆が口を揃えて言うのだが、この調子では多分ダメだろう。周りが。私もダメな一人です。
そんなことを思いながらも、手の動きに淀みはない。ノア担当の腕の方はそうでもないようだが、やはり肩はそれなりに凝っている。原因は確実に仕事ではなく胸部重量だが。
……大きいですもんねえ……。
ノノミやもう一人のシロコもかなりデカいが、それでも先生には及ばない。それを今は至近かつ俯瞰で見ているので、尚更にデカく思える。コレをぶら下げてシロコやホシノを組み手で押さえ込む辺り、耐久力以外はキヴォトス住民超えてるんじゃないだろうか。自分達に年季や経験が備わったとしても、先生に勝てる気はまるでしない。
……果たしてこれは正当な評価なんでしょうか。惚れた贔屓目なんでしょうか。それとも現実逃避でしょうか。
「ふに、ふに、と……」
内心遠い目になっていると、不意にそんな声が聞こえた。視線を向けた先、ノアのマッサージは腕から手の平に移ったらしい。あまり見掛けるものではないが、確かにペンやマウスを握ったり、キーボードを叩く動きを考えれば、疲れが溜まっている部位だろう。後で詳しく教えてもらおうと、ノノミが決意の頷きを作った瞬間、
「成程、生塩君は意外と擬音系なのだね。なかなか衝撃的な事実だ」
「きゃああああああ!?」
●
悲鳴と共に三歩程下がったノアを、楽しげに笑いながら見送る先生をノノミは見た。急に再起動したことに驚きはあったものの、周りが取り乱していると相対的に落ち着くことってありますよね。今がまさにそれ。
ともあれ胸に手を当て深く息を吸ったノアが、頬も赤く動揺から立ち直らぬまま、
「き、気付いてらっしゃったんですか!?」
「逆に聞くがあれだけ堂々と触れておいて気付かれないと思っていたのかね」
正論過ぎてノノミは顔を背けた。当の先生は気にした風もなく、肩に置いたままだったこちらの手を軽く叩きつつ、
「ともあれ心配を掛けたようですまない。デカ狼君や空崎君にも不規則言動かガチの病気か分からないからやめろと度々言われていたのだが、癖のようなものでこれがなかなか。……ああ、空崎君にも折を見て謝罪の連絡を入れておかねば」
それと、
「遅ればせながらよく来たね二人共。それから労りの気持ちについて、十分に受け取らせてもらったとも。──感謝である」
頭を下げる先生に、ノノミは半目で問うた。知らず拗ねたような口調になっている自覚と共に、
「いつから気付いてたんですか?」
「生塩君が脈を取ったり熱を計ったりしていた辺りだよ。さてどう反応したものかと考えていたら、何やら悪戯する気満々のご様子。なので美味しいタイミングでサプライズを仕掛けようと思っていたのだが──」
わざとらしく肩を竦めた先生が、笑みでこちらを振り仰いだ。
「まさか生塩君の口からきゃあ系の悲鳴が飛び出すとは。ギャップ萌えとしては非常に高得点だと思うが、その辺りどう思うかね十六夜君」
「あの、先生、どう答えてもノアちゃんへのダメージになる気がするんですが……」
「分かっていて聞いているので安心したまえ」
ノアが赤面で俯いてプルプル震えているが、立場が違えば今ああなっていたのはノノミの方だっただろう。肩担当で良かった。
……良くないですよー?
悪戯を仕掛けるという当初の目論見から考えれば完全敗北だ。毎度この調子で返り討ちに遭っているのに懲りない自分達も自分達だが、やはり先生からイニシアチブを奪うのはMURIなのだろう。ノノミがターゲットにならなかったのも、たまたまノアが隙を見せたからというだけだろうし。この辺り照れの沸点が高めのシロコが強い理由にも繋がっていると思うが、ああなるのもそれはそれでMURIがあり過ぎる。ダメですね、うん。
「ところで先生、一体何の考え事を?」
このままノアが集中砲火を浴びるのも忍びないので、助け舟がてら話題を変えてみる。気になっていたのは事実だし、そこまで大掛かりな事態であれば何かしらの声が掛かるとも思うが、
「私達に手伝えることでしょうか?」
「うむ、手伝いというよりも君達が主体になる案件ではあるね」
はい? とノア共々首を傾げると、先生が壁際を指差した。指し示すのは架けられたカレンダーであり、
「そろそろ夏が近いだろう? ここが溜まり場になる分には全く構わないのだが、率先して手伝ってくれている生徒諸君の夏休みを潰してしまうのも心苦しいのでね。慰労も兼ねて、泊まりで海に行くのはどうだろうかと各方面の予定を頭の中で捏ねくり回していたのだよ」
つまり、
「気取った言い方をするなら「シャーレ夏の臨海合宿」と言ったところか」
「えっ」
予想外過ぎて思考が飛んだ。呆けたまま振り向けば、ノアも同じような表情でこちらを見ている。
これまでも先生は引率として、生徒の課外活動には付き合って来た。だがそれはあくまで生徒が主導して動くものであり、悪い言い方をすれば先生は「付き合わされている」という面の方が大きい。仮に先生が企画する場合でもクリスマスや年越しのような時候のもので、数時間程が精々だった。
それがまさか、泊まり掛けでの合宿とは。
あまりにもこちらのリアクションが大袈裟に見えたのか、先生が苦笑混じりに肩を竦めた。窓の外、眩しく輝いている太陽を見上げ、
「心境の変化、という程大層なものでもないよ。ただ、砂狼君に引きずられアビドス総出で海に行くのは定例行事のようになってしまっているからね。ならば今度はこっちから企画してしまおうと、そういうことだよ。まだ未定なのでどうなるかは分からないが──」
ああ、と満面の笑みを浮かべ、
「──実現したらきっと楽しいだろうと、そう思ってね」
童心という例えそのものの純粋な笑みに、気付けば息が止まっていた。
視界の端に見えたノアも、多分同じ反応だろう。だが先生は気付いていないのか、デスク上のメモに何かを箇条書きにしつつ、
「周囲にはまだ口外しないでくれたまえよ? 自由参加なのでどれだけ集まるかも疑問だし、この為にわざわざ生徒諸君の予定を狂わせてしまうようでは本末転倒だからね」
先生の言い分に半目で振り向いた先、ノアもまた半目でこちらを見ていた。
全くの同時に頷き合うと、二人共スマホを手に急ぎで文字を入力。その動きに気付いたのか、先生が何事かという表情でこちらを見上げる。
とびっきりの笑顔を返してやった。
「──待ちたまえ」
「嫌です♪」
同時に断言、そして送信。間髪入れずデスク上の先生のスマホから通知音が鳴り、程なくして故障を疑う勢いで通知の音とバイブレーションが連続した。
事態を察した先生が半目で確認するスマホの画面、開かれるのはシャーレ役職者のグループチャットだ。
・NOA:『先生が現在、シャーレ夏の臨海合宿なるものを企画中だそうです』
・八八\:『詳細は未定らしいですけど、皆行きたいですよね?』
・465:『絶対行く』
・965:『這ってでも行く』
・兎 1:『行きます』
・PrM:『えっえっ楽しそう!! ナギちゃんとセイアちゃんも連れてって大丈夫かな!?』
・総 長:『日程が決まったら教えて。何があっても時間を取るから』
・ほるす:『あー、皆が行くんならおじさんも行かないとだねえ』
・QED:『気持ちはありがたいけど先生の自腹じゃないわよね? ちゃんとシャーレの予算よね?』
・悪社長:『えっ、参加費自腹で用意した方が良いのかしら!? 先生に急ぎの仕事回してもらわないと……!!』
・美 食:『合宿と言うからには食についても先生が面倒を見る、という認識でよろしくて?』
・アリス:『アリス知ってます!! 部活モノ伝統の強化合宿イベントですね!! 夏の経験値増量キャンペーンで一気にレベルアップです!!』
・普 通:『ええと、ペロロ様のイベントと被らなければ是非……!!』
・サオリ:『先生の誘いであれば付き合おう』
・みども:『あああああ百鬼夜行も夏はお祭り騒ぎでスケジュールかち合ってますのおおおお!!』
・災厄狐:『先生と一つ屋根の下……、一夏のアヴァンチュール……、うふ、うふふふふ……!!』
当然のように全員秒で食い付いていた。こういった集まりにあまり積極的ではないサオリやワカモですら反応している辺り本気度が高い。こうなっては先生が何を言っても実行派の勢いは止まらないだろうし、生徒の意思を尊重するスタンスである先生も断る理由がなくなった。
「……やってくれたね全く」
横目にこちらを見る先生の口元は、しかし楽しげな弧を描いていた。例え草案の段階であってもこれだけ乗り気の声が上がったのだ。嬉しくないはずがない。妹の件がある彼女にとって、学生時代の楽しい思い出を作るということへの情念は並々ならぬものがあるだろうから。
故にバラしたことを謝罪はしても、悪いことをしたとは思わない。
生徒が窮地にあればどんな状況であっても飛び込んで行く癖に、こういう私的な踏み込みについては意外と奥手なのだ。このお人好しの悪役は。
一声上げれば生徒達が嬉々として付き合うことくらい、考えるまでもなく分かっているだろうに。
「言質を取るのは交渉の基本、ですもんね?」
「それに、後から公表して「もう予定が埋まってる」となった方が遺恨を残しますよ?」
早速海辺のホテルやコテージの情報を調べ始めているノア共々言ってやると、降参だと言うように先生が両の手を上げた。吐息と共に天井を見上げ、やれやれと前置きの上で、
「どうやら本気で予定を組まねばならないようだね。……引っ込みを付かなくさせた分、二人の手伝いを期待してもいいのだろう?」
「Tes.、喜んで」
「セミナーで培った手腕、存分に発揮させてもらいますね」
ありがたい、と苦笑した先生がデスクに向き直る。ノノミもノアと空いている席に腰を落とし、指示された事項についての調査を始め、
「──それはそれとして、バラした件については後でキッチリ報復させてもらうので覚悟しておくように」
思わず身動きを止めるノノミとノアに、先生が笑った。
やはり一矢報いることは出来ても、勝つのは一生無理かもしれない。