グラスアーカイブ   作:外神恭介

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なんで私の時に限ってそんな罰ゲームみたいな指示になるのよ!!

「うーん……、今月はかなり厳しいね……」

 テーブル上に広げられた領収書の群れ。それらを前に零されたアヤネの言葉に、セリカは溜め息と共に肩を落とした。

「やっぱそうよね……」

 アビドス廃校対策委員会において、会計という役に就いているのが自分だ。とはいえ実務に関しては不安がある為、書記兼オペレーターにして中等部時代からの友人でもあるアヤネにサポートしてもらっている。既に負担の大きい彼女の手を借りるのは躊躇われたが、他のメンバーに難があり過ぎる故の消去法だ。ノノミはしっかりしている方だが時たまスッ飛んだことを言い出すし、ホシノも鉄火場以外では基本緩い。シロコは言うに及ばずだし、もう一人のシロコも同様というかもっと酷い。先生はまあ……、うん……、何か負けた気がするのでナシ。

 ともあれ自分が頭を悩ませながら長時間掛けて纏めた資料と、その証跡である領収書を見比べたアヤネが数分で出した結論が合っていたのにはホッとした。しかしそれはセリカの懸念が事実であるという証明に他ならず、アヤネも苦笑混じりに資料を纏めながら、

「必要経費ではあるけど、どうしても一度の額が大きいから」

「校舎設備の補修や交換、ホント高くつくわよね……」

 資金難であるアビドスにおいては、本来業者が行うであろう作業も全て自分達で対応しなければならない。素人知識故万全とは言い難いものの、経費を抑える努力はしている。とはいえ曲がりなりにも校舎一つ分となると、予算は必然的に膨れ上がり出費も馬鹿にならない。それは皆も承知の上で、それ故にこちらを宥めようと口々に、

「仕方ない。今月こうなるのは元々想定してた」

「そーそー。だからおじさん達も前々からコツコツ節約してたんだし」

「お金は大事ですが、私達の居場所を守ることも大事ですからね」

 慰めは本心からの言葉だと分かる。だが常に火の車であるアビドスでは、借金返済どころか現状維持でも手一杯だ。その為には何を置いても稼ぐしかないのだが、学生の身で出来ることなどたかが知れていて、

「やっぱりバイト増やした方が良いかなあ……」

「ダメだよーセリカちゃん。こうなってるのはアビドス全体の責任で、セリカちゃんが一人でどうにかしようとする必要はないんだよー」

 実際に一人でどうにかしようとしていた人が言うと説得力が違う。過去に色々とあって背負い込みがちであった彼女も、このところ随分と変わった。その変化は素直に嬉しいし、切っ掛けを作ってくれた先生にも感謝している。奇行で差し引きゼロになる勢いなのがたまにキズだけど。生徒の窮地を前に服を脱ぐとか、当事者の私ですら意味が分からなくなるし。

「フフフそこに颯爽と救いの手を差し伸べるのがこの私という訳だこんにちは諸君!! 涙を流して褒め讃えてくれても一向に構わんよ!?」

 とか思ってたら当の本人がやって来た。

 全員の視線が集中した先、扉を勢い良く開け回転付きでこちらを指差す姿がある。長身に白の長髪。黒のパンツスーツに身を包んだ二十代後半の女性。小脇にタブレットを抱え、珍しく背中に大型のザックを装備していた。

 葵・硝子。シャーレの先生。自称二十七歳児。そんな彼女のことがセリカはちょっとだけ、ほんの少しだけ苦手だった。

 信頼しているし、頼りにもなるが、性格が噛み合わなさ過ぎる。決して嫌ってはいないし、むしろアビドスの面々も交えて過ごす時間はとても大事なものだと思ってさえいるが、もう少し真人間になってくれないだろうかと思ってしまうのは贅沢だろうか。クールに見えてその実言動がぶっ飛んでるシロコと波長が合うだけあり、輪を掛けた変人というのが正直な感想。全員で集まると大体自分がその矛先になるのだが、

「いやすまないね。黒見君が今時珍しいくらいに素直過ぎて、ついついからかいたくなってしまうのだよ」

 とのことで、事実雑談時以外のやり取りは至極真っ当なので何も言えないから困り物だ。逆に言うと雑談時は手加減なしだが、それなりに付き合いが出来た今では多少慣れた。

「おやどうしたのかね黒見君、マタタビでもご所望かね? ところがどっこい今日の差し入れは醤油煎餅なのだよこれが! 次回に期待しておいてくれたまえ!」

「一人で変な納得するなああああ!!」

 訂正、慣れるにはまだまだ時間が掛かりそう。こっちがツッコんでる間に他の面々とも「あれー、今日はオマケなしなんだー?」「うむ、黒崎君とトレードしてコンプリートしたので次の弾が発売されるまでは普通の茶菓子だ」「じゃあ紅茶やコーヒーじゃなくてお茶にしますね」などと交わしている辺り、今のがセリカへの挨拶ということか。普通にしてくれればこちらもそれなりに応じるというのに。言っても聞かないだろうが。

 ともあれ荷物を下ろし煎餅を広げ始める先生に、シロコが小首を傾げる。それは先程、先生が来る直前の話題に流れを戻すもので、

「それで、どうするの先生。やっぱり銀行を襲う?」

「近場では足がつくので遠出しなければならないが、そうなると移動時間に比例してリスクも跳ね上がると思わんかね? 現状では厳しいと思うよ砂狼君」

 それはリターンがリスクを上回れば実行して良いということではないだろうか。

 ……まあ、本気でやろうとしたら止めるんだろうけど。

 そのくらいの信頼はある。時たま冗談と本気の境目が分からなくなりはするが、生徒に悪事を働かせることはない。それはシロコも承知の上で、挨拶のようなものでしかなかったのか、あっさりと頷きを返し、

「ん、残念」

「だがまあ安心したまえ。今回はあくまで私的で、かつクリーンな依頼を持って来た」

 怪訝や期待、大枠として興味の眼差しを向けられる中、先生が頷いた。テーブルに肘を着き、顔の前で手を組んで、

「単刀直入に言おう。──撃ってくれたまえ」

 告げられた言葉に、全員の動きが止まった。

 ……は?

 撃ってくれ。何を? テーブル上には煎餅と湯呑み代わりのカップしかなく、手配書も標的になりそうなものもない。そうなると自然連想されるのは、目の前の女性に己が引き金を引く光景で、

 ……ちょっと。

 想像でしかないのに、寒気が来た。何を馬鹿なと切り捨てればいいはずなのに、口元が引き攣っている自覚がある。じゃれ合いやツッコミとして叩くことはあっても、本気で力を向けたことはない。ついつい忘れがちなことだが、外の存在である彼女は自分達と違い、呆気なく死んでしまうのだ。それをこんな雑談染みた、緩い空気の中で思い出させられるとは想像もしておらず、

「先生!!」

 真っ先に立ち上がったのはノノミだった。温厚で柔らかい表情が主な彼女が、真剣な顔を先生に向け、

「何か嫌なことでもあったんですか!? 力になることは出来ないかもしれませんが、膝くらいなら喜んで貸しますよ!?」

「そうです!! 話を聞いたり、相談に乗るくらいなら私達にも出来ます!!」

 アヤネの言葉に続くように、席を立ったシロコが先生の横へ。そのまま掴み掛からんばかりの至近距離で、

「どういうこと」

「事と次第によっては私も怒るよ、先生」

 ゆっくりと立ち上がり鋭い視線を向けるホシノも、本気で先生を案じている。出遅れてしまった感はあるが、それはセリカとて同じことだ。なまじもう一人の先生が辿った道を知るが故に、その身が害されるとなれば冷静ではいられない。この場にはいないもう一人のシロコも、きっと同じ想いだろう。

 そんな眼差しの向けられる先。緊迫した雰囲気に気付いていないのか、先生は不思議そうに首を傾げている。が、やがて納得したように手を打つと、

「すまないね、さすがに端折り過ぎた。ひとまず順を追って説明するので、まずは話を聞いてもらいたいのだが──」

 皆の顔を順に見て、笑みを満面とした先生が腕を組みながら幾度も頷き、

「──私を撃てなどとは一言も言っていないよ? いやはや、意外と早とちりだね皆」

 全員で額に手刀を叩き込んだが、これは間違いなく先生が悪い。

 

     ●

 

「……資料として私達の射撃を見ておきたい?」

 疑問の色が多いセリカのオウム返しに、擦過の煙を上げる額を擦りながら先生が頷いた。

「うむ、私がここに来る前にいたところでは、そもそも銃火器などお目に掛かることはなくてね。遠い世界の出来事と、そのような存在だったのだよ。無論実在はしていたので、文献や動画などで目にする機会はあったがね」

 キヴォトスと環境が違い過ぎる為ある程度はボカされていたが、先生の経歴や過去は聞かされている。幼い頃から知識欲旺盛で、教員を目指す前は作家の真似事をしていたと。であれば実際の銃器を目にして好奇心を刺激されるのは頷けるが、

「私達に同行して、銃撃戦を見る機会はこれまでもありましたよね? どうしてこのタイミングになって?」

「君達が戦っている横で「ほうほうこれはこういうものなのだね」などと眺め回す訳にも行くまいよ。私も君達の指揮に集中しているし、何より懸命に頑張っている君達に失礼だ」

 なので、

「キヴォトスに来て以降、改めてその辺りの知識を仕入れる機会が欲しかったのだよ。これまでも生徒達の足を引っ張らぬよう仕事の合間に調べてはいたが、やはり実物で学ぶ方が効率的だ。先の一件のように生死に関わる戦闘も頻発する以上、万全を期すなら早い方が良い。今後の作戦立案や指示にも生かせるし、そうなれば生徒達の安全にも繋がるからね」

 成程、と納得するアヤネ。安心したのかノノミも肩を下ろし、ホシノもすっかりいつもの雰囲気で煎餅を齧っている。シロコは半目で先生の頬をつつき続けているが、止めない辺り先生も反省しているのかもしれない。しかし、

「保険金詐欺でもやるつもりなのかと思って焦ったじゃない……」

「ははは、いくら可愛い生徒の為でも痛いのは御免被るよ黒見君」

 その生徒が窮地にいれば全てを投げ打ってでも助けに行く癖によく言う。抗議の半目を向けてはみるが、笑っている辺り通じていまい。と、咳払いしたアヤネが眼鏡を上げ直し、

「経緯は分かりました。が、その程度であれば依頼として持ち込む程ではないと思うのですが……。いくら先生の裁量に任されているとはいえ、この内容ではシャーレの予算も下りないでしょう?」

「だからと言って君達にタダ働きをさせるつもりはないよ。それに言っただろう? 私的でクリーンな依頼だと」

 と、先生がタブレットを取り出した。電卓のアプリを立ち上げ、こちらに見えるよう数字を打ち込みながら、

「払いは連邦生徒会から私宛に振り込まれている給料が元だ。別段金に糸目を付ける気はないが、あまりに高額では君達も辞退するだろう。そこで黒見君のバイト先の時給平均から計算して、あくまで常識的な範疇としてそこに三割増しで五時間を五人分。一度で全てを把握出来るとは思っていないので、以後も不定期になるが同じ内容で数回は頼むことになるだろう。撃ってもらう弾薬は私が都合するので、余った分は支給品扱いで持ち帰ってくれたまえ。デカ狼君は独自に動くことが多いのでいたとしても払いは別になるだろうが、急な依頼なので今回は手数料を上乗せするとして、諸々合わせてこんなところで如何かね?」

 提示された金額に、全員が思わず喉を鳴らした。

 算出方法は先生が述べた通り常識の範囲内だ。三割増しの時点で大分美味しいが、それが五人分の総額となるとやはり桁が違って来る。学生の、しかも半日未満の稼ぎとしては破格だろう。故にノノミやアヤネと顔を見合わせ、やがて挙手したアヤネが恐る恐る、

「い、いいんですか? こんなに沢山」

「労働には正当な対価を支払うべきだろう? ましてや対策委員会として多忙な君達の時間をいただくのだ、私としては五割増しでもいいくらいなのだがね。とはいえ大金を与え金銭感覚を破壊するのはよろしくないし、十六夜君絡みで決めた君達のポリシーにも反する。故にこの辺りが妥当だろうと、私はそう判断しているよ」

 ああ、と思い出したように先生が付け加える。

「仮に君達がこの依頼を辞退しても、私は便利屋辺りに同じ条件で話を持って行くだろう。先にも告げたが急ぎで対応が必要だと判断している案件なのだ。さて、どうするかね?」

 足を組み、膝に手を置いた先生は笑っている。これは本気だ。ここで断れば間違いなく、ではそういうことでとその場で電話を掛ける。そういう人だ。

 さてどうしたものかと、セリカは周囲を見回す。正直答えは決まっているようなものだが、素直に応じるのも甘えるようで複雑だ。が、当然と言うべきか、苦笑や嘆息はあっても嫌そうな顔は一つもなく、

「ん、私はやる」

 さすがに飽きたのか、先生の頬から手を引いたシロコがそう言った。席を立ち、ストッカーに立て掛けた己の得物を手に取り、

「先生の依頼なら断る理由がない」

「そだねー。皆で楽しく稼げるなら、おじさんも賛成かなー」

「何だか実技の授業みたいでワクワクしますね☆」

「あ、怪我だけはしないように気を付けてくださいね? 備えはしておきますけど」

 伸びをしながら立ち上がる者、両手を握り気合いを入れる者、救急箱を用意する者。反応は様々だが、一貫して好意的だ。やがて何も口にしていない自分に視線が集まり、

 ……全くもう。

 苦笑は心中で留めておく。精一杯仕方なさそうにして見せながら、

「まあ、先生には色々手伝ってもらってるし、お礼代わりに受けてもいいんじゃない?」

 腕組み付きで視線を向けた先、先生が手を打った。

「では決まりだ。よろしく頼むよ諸君」

 

     ●

 

 正式な依頼ということで書面で契約を締結した後、一同は校庭に出た。

 ヘルメット団対策としてバリケードの類はあれど、射撃訓練用の的などここにはない。てっきりその辺りも先生が都合しているのかと思えば、

「そこまで厳密なものは求めないよ。あくまで私が欲しているのは実銃の射撃による空気感だからね。適当に空き缶でも並べておけばいい」

 とのことで、空のペットボトルをバリケード上に並べた。最初は水か砂でも詰めようかと思ったが、前者は勿体ないし後者は弾けた砂礫が先生に当たったら危険なので却下された。ホシノの盾で守ることも考えたが、肝心の射撃が見えないし覗き穴から被弾しないとも限らない為結局断念。やがて準備も整い、各自己の武器を手に昇降口前に集まったところで、

「あ、言い忘れていたが一番手は奥空君で頼む」

 不意のリクエストに、全員が首を傾げた。特にやる気満々だったシロコが不満そうに眉を寄せたが、

「ええと、何故私が?」

「人間、慣れる生き物だからね。初手で十六夜君辺りが派手にブチかました後では、他の面々で刺激が足りず無茶振りをする可能性が多分にある」

 先生の即答に全員が視線を背けた。あとノノミ先輩はハッとした顔をこっちに向けないでください、不吉なので。ともあれ説得力のあり過ぎる回答に気勢を削がれたのか、肩の力を抜いたシロコが皆の武器を見回し、

「つまりアヤネ、私とセリカとホシノ先輩、ノノミの順でやればいい?」

「そうなるね。無論何かしらの都合で順番を変えたいのであればそちらを優先するが」

 特に希望も出なかったのでその通りになった。

「では最初に私ですけど……、ええと、触ってみます?」

 一歩前に出たアヤネが、愛用のハンドガンを手に先生へと振り向いた。後方支援がメインの彼女は、護身用レベルの銃しか持っていない。ドローンやヘリさえ持ち出さなければ、外出身の先生に対する刺激は最も少ないだろう。それ故に危険性も低く、実物を手に取ってみるかという問いを向けた訳だが、当の先生はと言うと顔を手で覆い俯いて、

「奥空君……、白昼堂々熱烈なアプローチはありがたいが、そういうことは人目を忍んでやるべきではないかね?」

「銃!! 銃の話です!! 確かに言い方悪かったですけど!!」

「わあ、アヤネちゃんったら大胆ですね☆」

「ん、私も負けない」

「ちーがーいーまーすー!!」

 顔を真っ赤にして反論するアヤネという光景も、いつの間にか見慣れたものだ。外野から野次が飛ぶのも平常運行。でもコレ私の時も似たような感じかあ……、などとビミョーな納得を得て思わず遠い目になる一幕も挟みつつ、両の手で銃を握ったアヤネが真剣な表情で、

「安全装置はロックしてありますけど、変に弄って外れたりしたら危険なので見るだけですよ? 絶対ですからね?」

「それは暗にブッ放せと言っているのかね」

「慣れてない先生じゃ反動でひっくり返りそうだけどね」

 一同の間に笑いが生まれた。違いない、と先生も苦笑を零し、アヤネから銃を受け取る。引き金には手を触れずグリップだけを握り、銃口は地面に向けたまましばらく眺めると、

「意外と軽い、と思ったが、これ一つで人を傷付けることが出来てしまうと考えるとなかなか重く感じられるね」

「……外では銃弾一発で死んでしまうのが普通なんでしたっけ」

「ここにいると私もつい忘れそうになってしまうがね。屈託なくぶつかり合い互いを理解し合えると考えれば、殴り合いに勝る対話もあるまい。キヴォトスではこれで良いのだと、私はそう判断しているよ」

「ロマンチストだねー」

 笑って言うホシノの言葉を、しかし誰も否定しない。相手が生徒であれば例え敵対していても、その善性を信じ味方するような人だ。そういうスタンスだからこそ、学園の垣根を超えて膨大な人脈を築けているのだろう。やがて先生が一礼と共に銃を返し、受け取ったアヤネが事前に決めた位置へと移動。標的のペットボトルを撃ち抜いて行く。アサルトライフルがメインのセリカとしては若干の物足りなさを感じるが、先生的には十分なのかタブレットでメモを取りつつ、

「奥空君は撃つ際の姿勢も整っているね」

「私は基本サポートなので、撃つ機会自体がそうそうありませんから。どうしても教科書的な姿勢になります」

「基本に忠実、結構ではないかね。基礎を疎かにしては伸びるものも伸びまい」

 はにかんだアヤネが、用意されていたペットボトルを全て撃ち抜いたところで一時中断。新しい的を並べる準備時間の中、さて次は誰が出るかと相談が始まり、最終的に決まったのは、

「それじゃあ、二番手はおじさんが行っちゃおうかなー。手早く済ませて後は見てるだけがいいしねー」

「さすがに昼寝はしないでくれたまえよ? 生徒会長君」

 はーい、と気楽に答えるホシノは、いつもの盾抜きでショットガンのみを携えたスタイルだ。他のメンバーの盾役を任じている彼女ではあるが、今回はその必要がないからだろう。

 ……ベスト着込んでハンドガンまで持ち出して来たらシャレにならないけどねー……。

 過去と呼ぶにはまだ直近である一連の出来事を思い出し遠い目をしていると、不意に先生が手を上げた。集まる視線の中、口元に手を当てた先生は、

「もし良ければ小鳥遊君、いつぞやの二挺持ちスタイルでやってはくれないだろうか」

「は!?」

 自分が考えていた内容と被っただけに、思わず大声で反応してしまった。ノノミやアヤネが驚いてこちらを見たが、先生は気にした風もなく、

「反動や精度などを考慮すれば当然なのだが、外において二挺持ちなど創作の中でくらいしかお目に掛かれないものでね。貴重な実例として資料的価値はかなり高い。純粋に見栄えも良いし、差し支えがないのであれば是非頼みたい。それに──」

 ああ、と思い出したように先生が決定的な一言を告げた。

「──状況が状況なので当時は伝えられなかったが、ああやって髪を纏めた小鳥遊君は凛々しくて格好良かったとも」

 参ったなー、と言いたげに頭を掻いていたホシノだったが、その台詞で完全に動きが止まった。

 顔は俯き、力なく手は下ろされて、何かを言おうとしては言えず、しかし頬が紅潮しているのは丸分かりで、

「着替えて来る」

 とだけ言い残し、ダッシュで校舎内へと戻って行った。

「……先生は口が上手い」

「はて、私は常に本心で話しているのだが」

 半目のシロコが先生の背中をポカポカと叩いていたが、誰も止めようとしなかったのは当然の帰結だろう。

 

     ●

 

「ど、どうかなあ先生?」

「うむ、やはり素晴らしいね。こうしてまた見ることが出来て感謝するとも。あの時のように張り詰めていないのもまた喜ばしい。私に絵心があれば絵画として後世に残しているところだが……、いや、むしろここは拙くとも残すべきか!? ──奥空君!! アビドスに画材はあるかね!?」

「先生!! 先生!! 本来の目的そっちのけになってます!!」

 何だろうかコレ、と半目で眺めている自分がおかしいのかと、セリカは微妙な疎外感を覚えた。

 ホシノと先生は言うに及ばず、対抗心を燃やしたシロコはヘアゴムを取りに教室へダッシュして行ったし、ノノミは照れるホシノの撮影で忙しい。ストッパーのアヤネも機能しているとは言い難く、結果が目の前のコレだ。先生周りでは脱線など日常茶飯事だが、果たしてコレを五分前の己は想像出来ていただろうか。いやMURI。即答でMURI。そんなゲヘナとトリニティの完全和解より難しい所業が出来て堪るか。

「先生」

 一度引っぱたいて正気に戻すべきだろうかと真剣に考えていると、背後からシロコの声が来た。戻ったのか、と振り向こうとして、

 ……あれ?

 後ろは校庭や正門のある方なのに、何故校舎に戻ったはずのシロコの声がそちらから来るのか。しかし回答に至るよりも早く、視界に入ったのは確かにシロコの姿で、

「ん」

 デカい方のシロコがその長髪をポニーテールに纏め、アサルトライフル二挺持ちで立っていた。

 清々しい程のドヤ顔だった。

「ほう、これまた意外な新鮮さだね。デカ狼君の動きに合わせて靡く髪は印象的だが、一本に纏められるとそれが際立つ。似合っているよ」

「ん、期待に応えられて嬉しい」

 微かに笑みを浮かべたシロコが、そのまま昇降口の方を見た。視線を辿った先、髪を束ねて戻って来たこちらの世界のシロコがいる。虚を突かれたように固まっている彼女を見て、デカい方のシロコはただ頷き、

「ふっ」

 鼻で笑われたシロコが、一瞬で距離をゼロに詰めた。

「泣かす。超泣かす。いつか絶対完膚なきまでに打ち負かす」

「いつかなんて言っている間は一生無理。さすがバカシロコ」

 ポカポカと殴り合う二人。この程度のじゃれ合いならよくあることで、銃を持ち出さない内はセーフだろう。今のところこちらのシロコが全敗しているが、経歴というか経験値的にどうしようもあるまい。ただ今回の被害者が誰かと言えば、流れに置いて行かれ所在なさげにしているホシノ先輩だと思う。というか先生は笑ってないで止めなさいよ。

 

     ●

 

 そんな一悶着がありつつももう一人のシロコが合流し、これでアビドスメンバーは勢揃い。美味しいところを掻っ攫われたホシノのメンタルが懸念ではあったが、

「じゃ、ちょっと良いとこ見せないとね」

 とマジ顔で呟いてスタートしてからが酷かった。

 教科書的な射撃に徹したアヤネに対し、バリバリの実戦モード。元より小柄で軽いホシノはその身体能力もあって、素早さを生かした強襲制圧こそが本領と言って良い。撹乱目的の左右へのショートジャンプを巧みに織り交ぜ、大量に並べたペットボトルをショットガンで纏めて粉砕し、個々の的は逆腕のハンドガンで正確に狙撃。ものの数秒で的を殲滅し、

「と、まあこんなとこかなー。どうだった先生?」

 汗一つ掻かずそれらをこなしたホシノが、いつもの雰囲気に戻り振り向いた。甘引きしているアビドスメンバーをよそに、先生は拍手喝采でホシノを讃え、

「いやはや、映画か何かを見ているような鮮やかさだった。さすがだよ小鳥遊君。とはいえ素人目には速過ぎて追いきれない部分もあったので、後にでも改めて色々と聞かせてもらいたい」

 ホシノが腰の後ろで右の拳を力強く握ったのを先生以外の全員が見た。そこに触れる勇気がある者は一人もいなかったが。

「ふへへー、じゃあ後はおじさんテキトーに応援してるねー」

「ああ、でも派手にやった分の後始末は自分でやりたまえよ? 生徒の模範であるべき生徒会長が、まさか下級生に押し付けたりはしないだろうね?」

 体良く逃れようとして失敗したホシノが、がっくりと肩を落としながら片付けに向かった。苦笑しながらノノミが手伝いに入り、アヤネも心配そうにこちらを一瞥してから後に続く。三人でもしばらく時間が掛かりそうだが、もっと大きな問題が他にあって、

 ……あれだけブチかました後とかやりづら過ぎる……。

 元々想定されていた順番で言えば、次に出るのは自分かシロコ。自分達と同じアサルトライフル使いであるもう一人のシロコもいるが、彼女はこっちのシロコ以上に何をしでかすか分からない。おまけに二挺持ちなので多分酷いことになる。なので一旦除外して考えると、確率は二分の一。出来ればこちらのシロコでワンクッション置いてもらい、無難にやり過ごした上でもう一人のシロコかノノミにパスしたいが、

「セリカ」

「はいいっ!?」

 急に声を掛けられて、飛び跳ねそうになりながら振り向く。見れば髪を束ねたままのシロコが、肩越しに先生の様子を窺いつつ、

「このままじゃ勝てない。準備して来る。セリカ、先にお願い」

「え? ……ええ!? ちょっとシロコ先輩!?」

 聞き返す時間すら与えず、シロコは走り去って行った。健脚だもんね……、と半ば現実逃避気味に思いつつ、恐る恐る先生へと視線を向けた。

「えーと……、ホシノ先輩レベルの人外魔境ムーブじゃなくていいのよね?」

「ははは、空崎君でも呼んでみるかね?」

 本気でやりかねないので全力で止めた。

「さすがにそこまで酷なことは頼まんよ。ただ一つやってもらいたいことがあるのだが……」

「既にその前振りだけでものすっごい不安なんだけど……」

「いや何、君達を見ていて思ったのだが、……撃つ際の掛け声などは一般的ではないのかね?」

 は? と予想外の問いに首を前に倒した。こちらの会話が聞こえていたのか、ペットボトルを突っ込んだクーラーボックスを抱えていたノノミがこちらに振り向き、

「どういうことですか?」

「うむ、ここぞという時には「許せないっ!」とか「全弾発射〜!」とか、印象に残っているところだと「悲しみも怒りも全て因数分解してやるわ!」とか、そういう掛け声を聞くことはあるが、常時ではないだろう?」

 声はそのままなのに音程や拍子がトレース完璧過ぎて物凄く反応に困る。ノノミは照れたように笑っているだけだが、最後の例に出された生徒とか、後で知ったら相当悶えそうよね……。というか、

「確かにテンションというかその場のノリでそういうことを口にする場面もあるけど……、それが何?」

「外にはこんな逸話があってね。曰く、裂帛の掛け声と共に攻撃を放つ死をも恐れぬ集団の突撃で、気圧された相手が大軍だというのに瞬く間に瓦解し敗北したと」

 意図が分からず首を傾げていると、先生が指を銃の形に立てた。

「そもそも戦闘が生じないに越したことはないが、どうしても回避出来ない場合もあるだろう。その際実力以外の部分で相手を上回ることが出来れば、被害を抑えたり経費の削減にも繋がる。ただでさえアビドスは人員不足、子供騙しと思うかもしれないが、一度試してみてからでも判断は遅くあるまい」

 つまり、

「そんな訳で黒見君、アチョーと叫びながら撃ってみてくれたまえ」

「はああああああ!?」

 途中からは感心しつつ聞いていたが、結論があまりにもあんまり過ぎて思わず大声が出た。

「な、なんで私の時に限ってそんな罰ゲームみたいな指示になるのよ!!」

「いや、たまたま黒見君の出番と重なっただけで、砂狼君が出て来ても同じ内容で頼むつもりだったよ? 結果的に美味しい思いをしたとは思っているが」

 シロコ先輩は後で叱る。超叱る。まだ戻って来てないので押し付けることも出来ない。加えて先生の横でタブレットを覗き込んでいたもう一人のシロコが、こちらを見詰めるともっともらしそうに頷き、

「クライアントのオーダーは絶対。それが悪意や害意によるものではなく、被害を被るものでもないのなら受け入れるべき」

「絶対楽しんでますよねシロコ先輩!?」

「ん」

 親指を立てて返されセリカはその場に崩れ落ちた。助けを求めて視線を飛ばしてみても、先程まで近くにいたノノミは作業に戻っており、ホシノとアヤネも巻き込まれたくないのか気付かないフリをしている。やがて笑いを噛み殺しきれていない先生が、目の端に涙さえ浮かべながら、

「なんなら普通に撃ってもらっても構わないが、どうするかね? ああ、どちらであっても支払いは変わらないので安心してくれて構わないよ?」

 挑発だ、と頭で理解出来てはいるが、ここで下がったら間違いなくネタにされる。それも先生だけでなくホシノやノノミにも。後に戦闘が発生した時、こちらを一瞥してからアチョーと叫ぶムーブが定着するくらいにはやる。確実にやる。その頃には別のネタが投下され、すぐに忘れられて行くだろうが、

「──やってやろうじゃない!! 先生へのお礼として受けた依頼だもの、仕事はキッチリ果たすわ!!」

「おお、さすがは義理人情に厚い黒見君だ。では一丁よろしく頼む」

 乗せられたという自覚はある。だが冷静に考えれば、たかだか声を上げるだけのこと。そう、何も恥ずかしがる必要はなく、値段の割に美味しい仕事であるという事実に変わりはない。だからそう、いつも通り狙いを定めて、引き金を引いて、さん、はい。

「あ、あちょー……」

 口にした声は、射撃音に掻き消されそうな程に小さかった。

 先生が顔を覆って天を仰ぎ、横にいるシロコは落胆したように深く吐息。残るアビドス組も額を寄せ合って、

「日和ったね」

「日和りましたねー」

「日和っちゃいましたね」

「そこまで言うなら自分でやってみたらいいじゃない!!」

 頬が熱を持っている自覚を得つつヤケクソになって叫んだ先、三人が顔を見合わせた。やがて一人が手を振り、一人が頭の後ろで手を組み、一人は満面の笑みを浮かべ、

「私の出番はもう終わってるから」

「おじさんもあとは観戦モードだねー」

「私は全然構いませんよ? 面白そうですし」

 無慈悲な三連撃によって、セリカはその場に突っ伏した。

 

     ●

 

 膝を抱えて丸まっていたセリカだったが、ノノミとアヤネに回収された後、昇降口横に広げられたレジャーシートの上に移っていた。休憩ということか飲み物が配られ、セリカには追加で先生謹製の燻製肉を与えられ、ひとまずテンションはフラットに戻っている。桜の香りが染み付いた肉を齧っていると、餌付けという単語が脳裏を過ぎってしまうが、

 ……これ、人間がダメになるやつよね……。

 何しろ美味い食が提供された上で、それを堪能している間や先程の馬鹿騒ぎの時間さえも契約内の時間としてカウントされるのだ。これまでも時たま「砂に埋もれたゲーセン巡りをしたいのだが護衛兼人足として雇われてくれないかね!?」などと駆り出されることはあったが、今回は好条件にも程がある。無論ゲヘナの治安維持や救護騎士団の手伝いなど公的な依頼も手配してくれるが、労力としては明らかにこっちの方が楽だろう。甘えている自覚はあるが、それを気にする暇も与えない変人ムーブで誤魔化されている感もあり、

 ……人格さえマトモならどこに出しても恥ずかしくない立派な先生なのになあ……。

 天は二物を与えず、という言葉を思ってみるものの、よくよく考えたらこの人二物どころでは済まない多才だった。世の中って理不尽。微妙な敗北感を覚えつつも燻製肉を完食し、さて礼を言うべきか恨み言を述べるべきかと悩みつつ視線を向ける。

 同時にスマホの着信音が響いた。

 デフォルトのベル音は先生のもの。会釈と共に取り出した先生は、しかし画面を見ると眉を寄せ、膝に乗せていたホシノの頭をノノミにパス。

「すまない、少々席を外す。そこの保冷バッグにスポーツドリンクを用意してあるので、今飲んでいる分が足りなくなったら好きに持って行きたまえ」

 と、足早に校舎の陰へと向かって行った。ただならぬ雰囲気を察してか、ノノミとアヤネが顔を見合わせホシノも身を起こす。とはいえ遠目に窺う限りでは、先生が誰かと通話していることしか分からず、

「……先生は?」

 不意の声に振り向けば、シロコが戻って来たところだった。が、その姿は先程までの制服ではなく、

「……何で水着なんですか」

「ん、先生へのサービス」

「そんな貧相な身体でサービスとはちゃんちゃらおかしい。さすがバカシロコ」

 ポカポカと殴り合う二人。この程度のじゃれ合いならよくあることだが、今はちょっとそれどころではない。目配せした先、先生がこちらを放置してまで誰かと連絡を取っているという事実に、事態を察したのかシロコが目を細め愛銃に手を掛けた。やがて三分程で先生が戻って来て、

「おや、おかえり砂狼君。装いを変えて来てくれたところ心苦しいのだが、私の依頼については一時中断とさせてもらいたい」

 何事か、という視線の集まる先。先生がこちらに向けたタブレットには、如何なる手腕かアビドス自治区内の監視カメラからぶっこ抜いて来たとしか思えない映像がリアルタイムで映っている。肝心の内容は、武装した女学生の集団で、

「シェマタの件で揉めたカイザーの残党が、雇ったヘルメット団をこちらにけしかけたらしいという連絡を空崎君から受けた。数も質も大したことはないそうだが、少しばかり面倒だねこれは」

 肩を竦める先生に対し、皆の動きは速かった。一斉に立ち上がり、己の武器を構え、薬室内や残弾を確認し、準備を終えると笑みで視線を送ったのだ。

 いつでも動ける。そういう意思の表示だった。

「……やる気満々だね皆」

「そう言う先生だって笑ってる癖に」

 指摘してやると、自らの口元に手を当てた先生が動きを止めた。が、程なく肩を震わせ、もはや笑みを隠そうともせず、

「いや、私も君達との公私混同緩やかハッピータイムを邪魔されて少々機嫌を損ねていたところだ。当分似たようなことが起きないよう、派手にやるという意味も含めて、──ちょっと一計を案じようか」

 一計? と首を傾げる一同に、俯瞰図付きの作戦概要をタブレットに表示した先生が笑う。内容に目を通した面々の表情が、苦笑や呆れの色を帯びて行くことに構わず、

「何、簡単な話だよ。古来よりSTGの窮地においては、アチョー撃ちと相場が決まっている」

 では諸君。

「古き良きゲームの再現と行こう」

 

     ●

 

「……あの、委員長、この報告書なんですが」

 ゲヘナ風紀委員会居室。そんな声に面を上げたヒナは、対面に立つ声の主に視線を向けた。

 天雨アコ。特定のトリガーさえ引かなければ基本優秀な行政官で、そんな彼女がこちらに書類仕事で確認というのは珍しい。何事かと視線を向けて来る委員会メンバーの視線に構わず、ヒナは一枚の紙面を受け取った。

 ……ああ、そういうこと。

 内容は数時間前、先生にも連絡したアビドス狙いの襲撃に関する一件だ。本来であればヒナ自身が出張りたいところではあったが、常に多忙な風紀委員会としてはそうも行かず、せめてもの助けになればと何人か手勢を向かわせていた。その面々が纏めたアビドスとヘルメット団の戦闘詳報なのだが、確かにこれはちょっと彼女の手には余るかもしれない。

 結論から言えばアビドスの面々は、被害なくヘルメット団の迎撃に成功した。

 風紀委員会のメンバーが到着した時にはもう決着していて、礼と共に土産まで渡されたのだという。件の燻製はちゃんとヒナの分も確保されていて、それを摘みながら内容を読み進めて行く。あ、桜の風味。結構好きかもしれない。

 こちらが伝えた情報では、元々ヘルメット団にそこまでやる気はなかったらしい。カイザー残党の依頼というだけあり金額も少なく、軽い嫌がらせをしたら撤収と、そのくらいにはモチベーションが低かったとか。そんな面々にアビドスが後れを取るとは思えないが、先生の身の安全を考えれば手は打てるだけ打つべきだと、そういう腹積もりもあっての派遣だったのだが、

 ……何ともまあ、奇抜な策を用いたものね。

 風紀委員会で捕えたヘルメット団曰く、今日のアビドスはおかしかった。

 全員が謎の叫びと共に射撃していたのだという。

 叫び自体は気合いを入れるような一般的なものだったが、その頻度はほぼ常時。ドローンによる砂詰めペットボトルの爆撃という奇襲で先手を取られたヘルメット団は、その異様な雰囲気に圧倒されるしかなかった。

 歌うように叫ぶ女がガトリングガンで左翼を、無表情な黒いドレスの女が二挺のアサルトライフルで右翼を抑え、ホシノを主軸とする二名が中央を攻略。バリケードが林立するアビドスの校庭という彼女達のホームであることもプラスに働き、蹂躙と言う他ない光景が繰り広げられた。

 やはり大きいのは、ホシノだろう。

 盾抜きの二挺構えで突撃したかと思えば、空中のドローンから投下される盾を用い攻撃をガード、隙を見出したら盾をドローンに回収させまた突撃、味方が狙われれば飛ぶように跳躍しインターセプト。ならばドローンさえ止めればと狙いを変えれば、屋上に位置した黒髪の少女が的確に狙撃し妨害。別のドローンからの爆撃も不定期に続き、左右から追い込まれながら中央を食い荒らされ、ヘルメット団は瞬く間に瓦解した。

 だが彼女を差し置いて最も酷かったのが、一人だけ水着を纏っていた少女だ。

 格好だけでも異常な相手が、無表情に叫びを上げながらアサルトライフルを抱えて突撃。現実感のなさ過ぎる光景にヘルメット団は次々と戦意を喪失、這々の体で逃げ出したという。

 結果、動員されたヘルメット団四十八名中、十名がノックアウト。七名が恐怖により気絶。残り三十一名が戦意喪失し逃亡。先生はこの戦果に満足し、いずれミレニアムやゲヘナ、トリニティにおいてもアチョー撃ちを布教して行きたいと語り、アビドスの面々に無言で押さえ込まれていたそうで。

 ……やっぱり行けば良かった……。

 一通り目を通し終え、ヒナは面を上げる。何故か引き攣った表情のアコに対し、承認の判を押した報告書を返すと、

「まあ、先生の周りではよくあることだから」

「それ何でも解決する魔法の言葉になってますよね!? そうですよね委員長!?」

 

     ●

 

 その後、目論見通り襲撃はぱったりと途絶え、弾薬費が浮いてアヤネが涙を流して喜ぶ一幕があったそうな。




おだてると続きが増えるそうです
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