妖術使いだよ in 真・恋姫†無双   作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ

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02:The Dangling Conversation

 

 馬に乗った女性が3人、彼の方へ向けて駆けてくる。

 そのうちのひとり、彼の頭を狙い弓を射った女性は、駆けながらも未だ弓を構えている。あやしい動きをすれば直ぐに射つ、と言わんばかりだ。

 

「面倒だな……」

 

 彼は溜め息を吐き、やって来る3人の方へと身体を向ける。そのついでに、横たわっている女性に後ろ足で蹴りを入れた。女性のものであろう名前を叫ぶ声が聞こえたが、彼はまったく気にしない。

 さて、と、改めて正面に目を向ければ。

 弓の第2射が、再び彼の頭を狙い飛び掛ってくる。

 眉間に突き刺さるかという瞬間、彼はこれも手掴みで止めてみせた。

 焦った様子はない。もうひとつ、大きな溜め息を吐いただけだ。

 単に身体の向きを変えようとしただけだったが、それでも不穏だと取られたのだろう。もしくは足元の女性を蹴ったところが見えたのかもしれない。

 油断のないことだ、と、彼は感心する。

 だがそれ以上に、激しい苛立ちを覚えていた。

 自分がいったい何をしたというのか、と。

 気が付けばどことも知れない妙なところに放り出され、わずかな間に命の危険にさらされたのが2度3度。あまりの理不尽さにそりゃあキレもするってもんだ、と彼は思わずにいられない。

 青年を取り巻く状況は不穏だらけだった。

 だからといって、そう簡単に死にはしない。死んでなどやるものか。

 

「なら、殺られる前に殺るべきだよな」

 

 言うやいなや。

 彼は、手にした弓矢を力いっぱい投げつけた。

 狙いは近づいて来る女性たち。その中の弓の射手。まるで強弓を引いたかのような勢いで矢は女性へと迫る。

 彼女はそれを間一髪避ける、勢いに乗って流れた髪に矢がかすった。

 短い髪に触れたということは、それだけ近い距離を通り抜けたということ。投げ返されることが想定外なら、投げただけでそこまでのことができるという事実も彼女の想像する外のものだった。

 

 馬上の身を大きく動かすことで命を拾った彼女。咄嗟の動きではあったが、その下にいた馬は突然のことに対応できない。

 彼女の乗る馬は、前足を上げ大きくいなないた。煽られるように、連れのふたりが乗る馬も猛る。

 彼女たちにはそれが幸いした。

 腹をさらすほどに身を上げた馬が、矢に貫かれ絶命する。弓を持つ女性を狙ったその影で、2本目の矢が別の女性を狙っていたのだ。

 乗っていたのは、3人の中で最も小柄な、それでいて最も上に立っているだろう女性。制御どころか命まで失った愛馬に驚きながらも、倒れる馬身に巻き込まれないように飛び降りる。

 供の女性が慌てたように名を呼ぶ。おそらくは主君なのだろう。その主君が突然危険に見舞われたのだから無理もない。

 

 彼が3本目の矢を持っていないのは幸いだった。もし持っていたのなら、馬から飛び降りた女性が足を地に着かせる瞬間を狙われていたに違いない。

 事実、彼はその光景を見て舌打ちしていた。手の足りない状況についてか、手順をしくじったと感じたことについてかは彼のみぞ知るところではあるが。

 

 供のふたりも馬から飛び降り、主君らしき女性を背にかばう。そして青年を睨めつける。視線で射殺さんとばかりに。ひとりは実際に弓を引き、彼に狙いを定めていた。もうひとりは既に剣を抜き、今にも飛び掛らんばかりの状態だ。

 

 青年は、何度目か分からない溜め息を吐く。横たわる女性を一瞥し、服の襟首を掴んだ。そのまま引きずるようにして歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと!」

「これはどうしましょうかねー」

 

 彼女の連れと言ったふたりの女性も、さらに慌てて声を上げる。

 だが彼は聞こえた素振りを見せない。引きずられる白い服の女性はうめき声を漏らすが、それも気に止めようとさえもしない。

 ふたりはどうすることもできないまま、その後をついて行った。

 

 

 

 無防備に近付いてくる青年の姿に、3人の女性は警戒を募らせる。射った弓矢を素手で掴み取り、しかも投げ返してきたのだ。普通なら考えられない反撃の仕方だ。 何をしでかすか分からない。彼女たちは身構え、ただ歩いて近寄って来るだけの彼を、一挙手一投足注視する。

 

 そんな青年が、ある程度の距離を開けたところで立ち止まる。お互いに一足では襲い掛かれないような、それでいて会話は交わせるであろう距離だ。彼の方でも、何か起これば対応できるように備えている。

 3人組の女性の中心にいる、巻き髪にして整えられた金髪を持つ小柄な女性。彼女はそれを察して、少しばかり感心する。闇雲に襲いかかるのではなく、会話なり取引なりを交わす知恵と胆力があるということだ。

 

「弁明を聞こうか」

「……何ですって?」

「俺を狙った理由を言え、って言ってんだよ。俺の言葉って、そんなに難しい?」

 

 それでも、青年が口にした第一声に彼女は面食らった。

 本当に邪気がないように、彼は首をかしげてみせる。憎々しいながらも、素直にみえるそんな仕草に、3人は少しばかり毒気を抜かれてしまう。

 だが彼の口調は尊大極まりない。

 

「そこの青い服の姉ちゃんがよ、俺に向かって弓を射ったよな?

 どうして?

 この辺りじゃ、見知らぬ男を弓で追い立てる人間狩りでもすんのか?」

「するわけないじゃないの!」

「俺、こいつの弓で死に掛けたんだけど?」

 

 弓を持った、青髪、青を基調にした服装をした女性を指さし、彼は言う。

 

「黄色い服を着た追い剥ぎに絡まれて返り討ちにした。

 それを見たらしいどっかの姉ちゃんがまた絡んできた。槍を振り回して殺されるかと思ったから返り討ちにした。

 こちらの話を聞こうともしない見ず知らずの奴が、槍を振り回してきたんだぜ?普通の感覚なら放置なんてしねぇよ」

 

 引きずっていた女性を目の前に放り投げる。まるで荷物か何かのように。

 その姿は、まさにボロボロだ。目立った場所に出血はないものの、白を基調にした服のところどころが血で滲んでいる。だが全身を汚しているのは、血よりもむしろ土や砂埃だった。挑み掛かるも、文字通り叩きつけられ、潰され、振り回された結果だ。

 

「例えばの話。俺がこの場でお前さんたちに襲い掛かったとして、きっと何か理由があるんだろうなんて思うか?」

 

 思わないよな?

 分かりきっていることを敢えて聞く。

 そして、青年は3人の女性を胡散臭そうに見やる。

 

「んで、止めを刺そうとした時に、そいつの矢が俺を襲ってきたわけだが。

 お前らも、これとあれと同じ、人の話を聞かない追い剥ぎの類なんだな?」

 

 彼の前に横たわっている女性と、後ろに付いて来た女性ふたりを振り返ることなく親指をやり、次いで目の前の3人へと指を向ける。

 お前らもぶち殺すぞ?

 言外に、彼はそう言っていた。

 

 鬱憤を吐き出しているだけの一方的な言葉。先程までは会話のキャッチボールが云々とこぼしていた青年だったが、今はその当人がそれをできていない。

 無理もないとも言える。

 立て続けに3度、命の危機に面し、一方的に奪われそうになったのだから。話が通じたとしても平和な落としどころが見つかるとは思えない。会話など無駄だ、という考えに囚われている。

 

「弁明を、と言ったのは貴方の方じゃないの?。

 それなのに、私たちに口を挟む間を寄越さないのはどうなのかしら」

 

 投げた言葉が戻ってきた。

 ただそれだけのことで、彼は思わず目を見張らせる。同時に、苛立ちで沸々としていた感情を少しばかりクールダウンすることができた。

 

 青年の刺々しかった雰囲気がやや丸くなったことを感じ、巻き髪の女性は内心で安堵する。

 確かに、彼女たちは青年の命を奪おうとした。狙われていることさえ気付けないような遠方から弓を射つという手段で。普通の人間であれば、射たれたことに気付くこともなく絶命していたに違いない。

 だが彼はそれを防いでみせ、攻撃を受けてもそれらを意に介さない実力を垣間見せた。迂闊に手を出すのは危うい、と判断するに足るほどのものを。

 彼女は、会話をし、相手の出方を探ろうと試みる。

 

「なるほど、確かにそうだな。カッカし過ぎてたかもしれん。それについては謝ろう」

 

 そんな相手の心中を知ってか知らずか、自分が悪かったであろう部分を把握し、青年は素直に謝罪をする。済まなかったな、と。これには巻き髪の女性も少々驚いたようだった。

 だが。

 

「で、俺を殺そうとしたことについての弁明は?

 返答次第では獣から人間認定に戻してやるけど」

 

 彼の中では追い剥ぎ・人殺しとして既に確定しているようだった。

 つまり排除すべき対象としてしか見ていない。

 安堵も束の間、再び硬くなった雰囲気に、女性たちにも緊張が戻る。

 

「……黄色い服の男たちに絡まれた、と言っていたわね?

 このところ、黄巾と呼ばれる集団が各所で暴れているわ。この近辺でものさばっていると聞いて、私たちは討伐に出張っていたのよ。

 そこで、貴方たちを見た。遠目では、女性を襲う男、としか見えなかったわ」

「あー、なるほど。理解はした。腹は立つが、分からんでもない」

「そう言ってもらえるとありがたいわね。

 殺さずに済んだとはいえ、貴方を狙ったのは事実。それについては謝罪するわ」

「華琳様、それは」

「部下のしたことだから私はあずかり知らぬ、では済ませない。

 でもね秋蘭。あの時、私が貴女の立場でも弓を射った。気にするなとは言わないけれど、気に病む必要はないわ」

 

 死にかけたその当人を目の前にして、殺しかけた当人を叱咤する。小声ではあったが、言葉を挟もうとした青髪の女性にそう言ってのける。その豪胆さに、青年は怒るよりも呆れの方が大きくなってしまった。

 

 付け込むなら今だ、と察したのだろうか。巻き髪の女性は自己紹介をしよう、と、会話の主導権を手に入れようとするように話を進めていく。

 

「私は、姓が曹、名を操、字は孟徳。陳留の街の太守をしているわ」

 

 自分が何者かを明らかにして、少しでも不穏な要素をなくそうということなのだろう。彼女は自分自身の名と立場、併せて控えるふたりの女性の名、夏侯惇、夏侯淵を告げる。

 それを聞いて、青年は少し反応を見せた。

 

「……何だか聞いたことがある名前だけど、この際もう驚くのはいいや。

 自己紹介の途中ですまんが、さっきそいつらが呼んでいた名前と違うのは何で?あだ名とか役職名とか、そういうの?」

「もしかして、真名を知らないの?」

「は?」

「知ってか知らずか、それを口にしなかったのは感心するわ」

 

 彼女、曹操は真名について説明する。その人にとって大切な呼び名であり、真名を許すことは相手を受け入れること、許可なく口にすれば殺されても文句が言えないほどの無礼であることなどを伝える。

 それを聞いた青年は、理解しながらも「なら人前で口にするなよ」などとぼやいていた。"それ"が当たり前になっている彼女からしてみれば、分かっていても口にしないことが"普通"であった。

 そんなことさえ分からないと言う、目の前の青年。溢れんばかりのあやしさだったが、彼の捉え方に新鮮味も感じていた。

 

「では貴方が住むところでは真名が存在しないというのね?」

「ないな。少なくとも、俺の知ってる奴らはそんなもの持ってねぇ」

「ふん、それだけ田舎に住んでいるということなのだろう?」

 

 だが、曹操のように考えられる人間ばかりではなく。

 仕える主であろう女性とあやしい男性との会話に、従者の女性・夏侯惇が割り込んだ。

 

「姉者っ」

「秋蘭、この男は華琳様に無礼な口を利いている。しかも経緯はどうあれ、華琳様を危険にさらした輩だぞ。どのみち許せるものではない!」

 

 夏侯惇を姉と呼び、青年に弓で殺しかけた女性・夏侯淵が、たしなめるように声を掛ける。だがそれに耳を貸すでもなく、夏侯惇は憤慨の言葉を吐いた。

 

 青年の機嫌が、またも急降下する。

 落ち着こうとしていた周囲の雰囲気が、再び緊張をもたらす。

 曹操は彼のその変化を目の当たりにし。

 言いようのない寒気を覚えた。

 





何を思ったか更新した。
槇村です。御機嫌如何。



感想が書かれたので、その気になって第2話を書いてしまった。
つまりオリジナルの方で煮詰まっているということだ。
後悔はしていないが反省はしている。

こちらもあちらも関係なく、
書くなら一気に書いてしまった方がいいな。
間を開けると流れが分からなくなってしまう。

続きを書くなら、次はバトルである。
そこまではそのうち書く。
その次は未定です。

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