いけいけ! ぼくらの殿下!   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第10話『騒がしき日々よ、永遠に』

 いつもと変わらない日常がそこにあった。

 

「殿下。こちら学園の書類。そしてこちらが王宮から来た書類です」

「……多いな」

「まぁ、俺たちも居ますからね! 割り振ってください!」

「そうか。では、セドリック。半分やってくれ」

「いやいや! 殿下! おかしいでしょう! 配分が!」

「しかしな。デックにこういう書類仕事は出来んだろう」

「いえ! デックにも出来るかもしれません! やらせてみましょう!」

「……お前がそう言うのなら、構わないがな」

 

 私はデックに書類を渡し、反応を見た。

 

「ふむふむ」

「どうだ? 分かるだろう? デック」

「あぁ! 完璧だ!」

「おぉ! そうか!」

「ところでセドリック。この最初の数字は何の数字なのだ? って、セドリック! セドリックぅぅぅうう!!」

 

 机の上に倒れたセドリックをそのままに、私はデック以外の役員に書類を適度に分け、セドリックにはデックの分まで含めた量を置いた。

 騎士に出来ることは戦う事だ。書類を見る事ではない。

 

「残念だったな。セドリック」

「……いつか、この男に書類の見方を教えてみせます」

「そうか。まぁ、頑張れ」

 

 そして、私は会長席に置かれた三つのカップから一つを選び紅茶を飲んだ。

 んー。これはエリーの物だな。私の好みを完全に把握している。

 

「ところで殿下。また例の箱に要望書が入ってましたよ」

「ほぅ、またか。役に立っているようだな。目安箱は」

「えぇ。匿名というのが良いようで、なかなか注目されているようですよ」

「うむ。レスティナのいう前世の知識とやらも中々素晴らしい物のようだ」

 

 私は湯飲みというカップに入った甘さのをほぼ感じない東国の茶を飲みながら、レスティナの仕事ぶりに感心する。

 最近はエリーと競う様に、様々なアイディアを出してくれて助かっている。

 

「それで? 今回はどんな内容だった?」

「はい。では読みますね」

 

 デックは手紙の封を切り、広げると読み始めた。

 私は、マリアベルのとても甘いミルクティーを飲みながら、聞く。

 

「『殿下! 私とも結婚してください! 第四夫人で構いません!』」

「……またか」

「ちなみに手紙は匿名ですが、封蝋印はメリゼント伯爵家のモノですね」

「……メリゼントか。確かに年頃の娘が一人居たな」

「えぇ。とても可愛らしい女性らしいですよ。良かったですね。殿下」

「何が良い物か。その様な話。受ける筈が無いだろう」

 

 私はやはりエリーの紅茶が一番だと、再び口を付けた。

 荒れた心が落ち着いてゆくのを感じる。

 

「しかし、殿下。既に三人の女性と婚約されてますよね?」

「……」

「しかもサンドレイ侯爵令嬢はエリザベス嬢とは敵対関係にある家ですし、殿下はご自分の代で貴族同士の争いも止めるつもりなのだと噂されていますね」

「……」

「あぁ、でも、フロマージュ男爵令嬢とも婚約したとの事で、単純に殿下は女性好きなのでは無いかという噂が」

「どこのどいつだ! そんな噂を流したのは! 不敬罪で捕まえてやろうか!」

 

 私は怒りのままに叫ぶが、特に噂の根本は見つけていないらしく顔をそらされてしまった。

 まったく、忌々しい!

 

「しかし、殿下が三人の女性を迎え入れたという話は事実ですので」

「別に私がそれを願ったわけではない。エリーが二人を見捨てるような真似はしてくれるなと言ったのだ」

「……エリザベス嬢が?」

「そうだ。きっとあの二人はどうあっても私以外の男は選べないだろうから、とな。エリーの優しさだよ」

「しかし、その割にはサンドレイ侯爵令嬢はエリザベス嬢と争っているんですね」

「あぁ、まぁ……何というか。正妻争いという奴らしい。結婚という事実は変わらないが、どちらが上かというのは重要なのだそうだ。エリーが敗北したとしても、追い出さないから安心して欲しいなんてレスティナは言っていてな。それが余計にエリーの心に火をつけた様だ」

「……なるほど。しかし、既に殿下はエリザベス嬢を愛しているのですから、この勝負は無意味なのでは?」

「それでも、自分に振り向かせて見せると、レスティナは張り切っていたよ」

 

 私はつい先日、まるで闇から解き放たれた様な満面の笑みでそう語ったレスティナを思い出し、口元を緩める。

 おそらく、これは儀式なのだ。

 私の気持ちが変わらないのだとしても、正面から戦い、勝ち負けを決めた。という事が大事なのだ。

 

 だから、どれだけこの行為が茶番なのだとしても、二人の為には重要なのだろう。

 

「しかし」

「うん?」

「そうなると、フロマージュ男爵令嬢は何故……? 男爵令嬢では正妻にはなれませんよね?」

「マリアベルは……何というか。気持ちだけ奪えれば良いと言っていたな。王妃に興味はないけど、子供はいっぱい欲しいと言っていてな」

「……次の世代は大変そうですね」

「言うな」

「止めて下さいよ? 次期国王の座を奪い合って殺し合いとか」

「分かっている」

 

 私は茶を飲みながら、デックに言われた問題についても考える。

 実際笑いごとではない問題だ。

 エリー達が憎しみ合う事は無いだろうが、子供たちは分からない。

 

 生まれてきた子の周りには気を付けなくてはな、と私は改めて心に誓うのだった。

 

 そして、雑談も終わり、なんとなく仕事の空気になっていた時、ノックの音が響いて、私はその客を招き入れた。

 一瞬エリー達かとも思ったが、三人は最近王妃教育で忙しくしているし、お茶を用意した後はさっさと行ってしまうのだ。

 ならば……と考えた所で、その音の主が分かった。

 メリゼント伯爵令嬢である。

 

「お久しぶりです。殿下」

「あぁ。して、今日は何用かな?」

「お手紙を読んでいただけたかな! と」

「あー、その件だが、私には既に婚約者が居てね。君との婚約は……「殿下! この国に危機が迫っています!」は?」

 

 断りの言葉を遮って、メリゼント伯爵令嬢が叫んだ。

 そして、私が反応するよりも早く言葉を並べてゆく。

 

「まもなく大いなる闇が復活し! 世界が闇に覆われてしまうんです!」

「……いったい何の話だ」

 

 何となく、前にこんな話を聞いたなと思いながら、私はメリゼント伯爵令嬢を落ち着けようとした。

 しかし、私の言葉など一切聞かず、メリゼント伯爵令嬢は言葉を並べる。

 

「私、殿下と同じ転生者なんです!」

「転生者?」

 

 何故だろう。酷く最近似たような単語を聞いた。

 流行っているのだろうか。

 サンドレイ侯爵家も、メリゼント伯爵家も同じ、王国の東に領地があるしな。

 そちらの方では、そういう書籍が人気なのかもしれないな。

 

「あー。すまないが、私は小説などは読まなくてな。転生者という物は知らないんだ」

「え? あれ? 殿下が転生者じゃない? でも、殿下はハーレム作ってるじゃないですか。三人も女の子囲んで! ヒロインに悪役令嬢に、侯爵家の令嬢!」

「いや、それは……まぁ、色々と事情があってだな」

「……?」

「あー、まぁ、理解してもらえたら、これからは同じ小説友達とそういう話をすると良い。さ、メリゼント伯爵令嬢のお帰りだ」

「はい」

「っ! ちょ、ちょっと待ってください! 殿下! 私! ほら、ヒロインの友人で! やたら可愛いと噂の!? ねぇ! 知ってるんでしょ!?」

「こら暴れるな」

「いやいやいや! え!? でも、ゲームでこんなルート無かったですよ! 絶対に何か絡んでるはずです! 転生者! 殿下は転生者なんでしょう!? 正直に言ってください! ほら! トゥルーエンドに行く為には、私の協力も必要な筈ですよ! ねぇ! 大丈夫! 私、殿下が推しだったので! 中身が違っても愛せますから! ねぇ! ねぇってばぁー!」

 

 結局部屋から追い出されるまでメリゼント伯爵令嬢は叫び続け、私は大きなため息を吐いて、頭を抱える。

 こういう輩を後何回相手にすれば良いのか。

 恨むぞ、エリー。

 

「しかし、妙な事を言っていましたね。世界が滅ぶとかなんとか」

「あぁ、流行っているんだろう。前にレスティナも同じ事をマリアベルに言っていたよ」

「それで、その件は?」

「既に解決しているらしい。ゲームと現実は違いましたわ。なんて笑っていてな。何のことか分からないが、この先百年は平和が続くそうだ」

「なるほど……しかし、平和かどうかは殿下次第ですね。いや、殿下の子供次第、ですか」

「言うな」

 

 私はセドリックの言葉に嫌な事を思い出したと再び頭を抱えるのだった。

 

 そして、ようやく静かになった部屋で、再びノックの音が響く。

 まさか戻ってきたのかと一瞬警戒したが、聞こえてきたのはデックの声だった。

 

「殿下。至急お会いしたいというお客様が」

「何用だ」

「それが、世界が滅ぶかもしれないと……」

「メリゼント伯爵令嬢には頭を冷やせと言っておけ」

「いえ。それが別のご令嬢でして……って、おい!」

 

「殿下! 実は急ぎお伝えしたいことが!」

「何用だ」

「それが、これは私の前世に関わる事なのですが!」

「……一応、聞いておこうか」

 

 私は部屋に入ってきた令嬢に視線を向けながら話を聞く。

 例え、どの様な人間でも我が国の国民であり、私やエリーが守るべき者たちだからだ。

 

 しかし……。

 あれからずっと騒がしい日々ばかりが続いている気がする。

 早くエリーと静かな生活を送りたいものだ。

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