ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「ふぅ……どうにかなって良かったよ」
「何故、常に身に付けている道具の仕様を把握していないのか疑問なのですが」
──いやぁ、普段使わない仕様までは覚えてられんよ流石に。
海中に入ってから私を悩ませてきた『セーブどうするか』問題だが、ミシロからの助言により格納鍵インベントリアの内部にセーブポイントを設置することで無事解決した。
インベントリアの中は、通常ディメンションとは隔絶された異空間。それ故に、海水の影響を受けることなくセーブポイントを置けるのだ。出入りにいちいちMPを使うのと、出る時に対策を忘れてると圧死するのが玉に瑕。
「ま、私には関係無いけどね」
「誰に向けた発言なので?」
「気にすんな。それよりも例の新たな『主』とやらに会いに行くから道案内頼むよ」
「それは構いませんが……その前に、一つ当機の要望を聞いていただきたく」
──お、何だ何だぁ?
ミシロからの要望、それは失った手足の代わりとして私の戦術機を貸してほしいというもの。
別に、貸すこと自体には何の文句も無いが。水圧耐性なんてまるで考慮してない奴らだから、出した瞬間潰れないかが心配だ。ミシロ曰く自分が装備するなら大丈夫とのことだが……
「ちなみにどういう理屈?」
「当機と連結することで、戦術機は深海での活動を前提に設計された当機と存在が同期し、戦術機も当機と同等の存在となるのです」
「えーと……つまり、装備した戦術機にミシロと同等の耐性を与えられるってこと?」
「その通りでございます」
成る程ね、そういうことなら確かに失った四肢を取り戻した上で戦力にもなれる。何で私が戦術機を持ってるの知ってんだとか、他にも聞きたいことはあるのだけれども……
でも、それよりももっと良い方法がある。ミシロは私のインベントリアの中身を覗くなら、それがどんな用途の物なのかまで調べておくべきだったな。回復手段はいっぱいあるのだよ。
「『
「ッ……!?欠損が治っている……?」
──ふふ、驚いてら驚いてら。
アステヴァルの効果の一つ、自分と仲間にオートリジェネを付与する『
この効果の強い点は、回復だけでなく状態異常やデバフの解除にバフの強化といった副次効果も盛られているところ。身体の欠損は状態異常の範疇に含まれるので治してやれるのだ……一応、HPがMAXの状態限定という制約はあるけどね。
「戦術機は預けておくよ。背中は任せたぜ」
「……はい。お任せください」
「あと、コレも渡しとくよ。きっと役に立つさ」
「コレは……指輪?」
戦術機だけでなく、もう一つ『お守り』をミシロに預けておく。フルスペックを発揮できる使い所は限られるけど、本当の意味で一つの命しか持たないNPCには特別効果があるはずだ。
さて、準備はこの辺で良いかな?そろそろ件の主とやらに会いに行くとしよう。ミシロの案内があるとは言え、深海でも更に深い所なんて移動だけでもどんだけかかるか分からんからねぇ……
「さ、行こうか」
「はい」
──さーて、どんな奴に逢えるのかな?
……
…………
………………
「ここが最深部です、『主』は非活性状態時はこのエリアの何処かに息を潜め隠れています」
「やーっと着いたか、長かったなぁ」
という訳で、リアル時間で二日程深海を進み続けて漸く目的のエリアに辿り着いた。
道中、残りの深海三強からの襲撃を受けたりなどのアクシデントはあったが。問題無く切り抜けられたので詳細は割愛させて貰う。
「『主』ってのは、どんな姿してんの?」
「『主』は真なる竜種に属するモンスターであり、非活性状態時は巻貝のような姿で海底の砂中に潜んでおります。しかし一度活性化すれば……その脅威は計り知れないものとなるでしょう」
「巻貝、ねぇ……」
取り敢えず、それらしいものを探しながら辺りを泳ぎ回ってみる。視界に入りさえすれば魔眼の力でどんなに精巧に擬態していようと見破れるが、逆に向こうの方に先に見つけられる場合もある。下手に周りを刺激しないよう、慎重に移動していく。
──お……アレかな?
「ミシロ、もしかしてアレがそうなのかな?」
「……申し訳ありません、マスター。当機の視界は未だに『主』を捕捉しておりません」
私の眼には、ハッキリと馬鹿デカい巻貝が砂中に埋もれているのが見えているが……ミシロの視覚は流石に魔眼程ではないらしい。いやまぁ、光の届かない深海でも普通にものが見えているだけ上等な部類ではあると思うけどね。
それはさておき、どうしようか。せっかく奴が惰眠を貪っている状態を捕捉できたのだ、下手に近付いてこちらの存在を気取られては、先に見つけたというアドバンテージが無駄になってしまう。いきなり切札を切ることになるが……やるとするか。
「アステヴァル、戦いの火蓋を切って落とせ……」
目視で砂中に潜む『主』にマーキングを施し、気付かれ本格的に動き出すその前に「
マーキングに命中し、50倍に威力の引き上げられた一撃。それがヒット数6倍に加え、爆裂や超速度によって巻き起こるソニックブーム、雷属性による電気分解によって引き起こされた大爆発を伴い辺り一帯を白煙で埋め尽くす。
手応えアリ。これでかなりの大ダメージが入ったはずだし、倒れてくれたら助かるが……まぁそんなに都合良くはいかないだろうと、白煙の中に動く姿を見て私は既に察していた。深海三強すら一発で斃せる攻撃なのにタフなことだ。
「警告:強大な魔力の活性化を確認。真なる竜種が覚醒します……!」
「大丈夫。後方支援は任せたよ」
「……はい!」
竜が吼え、竜狩りの始まりを告げるアナウンスが表示される。昏き淵の底に座す新たなる支配者……渦巻の竜がその真の姿を曝け出した。
【
【
【参加人数:2人】
【竜狩りが開始されました】
名前の明かされた竜・バミューダの巻貝のように折り畳まれていた身体が開かれ、金属質な東洋竜といった見た目になる。
バミューダの咆哮と同時に、深海の水が渦を巻き辺り一帯を巨大なミキサーに変える。環境の変化は私には問題無いが……ミシロは下手すれば一瞬でスクラップになりかねない。
「ミシロ、退がって……」
「既に範囲外まで後退しております。前回の接敵で渦の半径は計測済みです、当機が渦に捕まることはありません。ご安心を、
私はミシロを安全な場所まで退げようとしたが、彼女は既に退がっていた。前に殺されかけながらもデータはしっかり取っていたと……何ともまぁ、頼もしいことである。
ミシロにはこのまま、渦の範囲外から『
──同じ
戦闘になった以上、敵はバミューダだけではなく渦巻から逃れようとする一般深海生物も警戒しなければならない。プレイヤーとの一対一若しくは多対一を望み、部下に手出しをさせなかった
逃げ惑うモンスターの中には、その道中でミシロを襲おうとする不届き者も居る。刻傷の影響で私の方には襲って来ない分、彼女の方にはより多くのモンスターが押し寄せてくるだろう。戦術機は全部預けてあるけど大丈夫かなぁ……
「………………!!」
「………………!!」
「……大丈夫そうだね」
ミシロは戦術機をしっかりと使いこなし、モンスターの大群を跳ね除けていた。バミューダや深海三強クラスには劣るとは言えど、その実力はちゃんと高いということか。
ミシロの様子をチラチラ観察していると、彼女の方から『前に集中しろ』とジェスチャーで咎められる。確かにと思い前に向き直ると、バミューダが己に突き刺さったアステヴァルを極小の渦で捻り壊そうとしているところであった……危なっ!
「『共なる槍』……危ない危ない、コイツを壊されちゃあたまらんなぁ」
「…………!!」
離れたアステヴァルを手元に戻す『共なる槍』で左手に呼び戻し、放たれた渦巻くドリルの如き海水ブレスを「
何処に消えた……と、でも言わんばかりにキョロキョロと辺りを見回すバミューダだが。その調子で360度見回したところで、私を見つけるのは一生懸けても不可能だ。何故なら私が居るのはこの海底よりも更に深い場所、即ち──
「オラ食らえ、「
「………………!!?」
──地中なのだから。
私の装備【
海を泳ぐように陸を潜り。
空を飛ぶように海を駆け。
陸を踏み締めるように空を闊歩する。
いつ如何なる状況にあっても、同じように動くことができるという
灼熱も、極寒も、息のできない海中も、何もかもを気にせず自由に動けるというのは、ただ速く動いたり鋭く動いたりするということとは違う。それらとは一線を画す真の機動力、【
「………………!!」
「おっと、それは無意味だぜ」
滅魔の六槍の直撃を受け、激昂したバミューダが渦の勢いを大きく強める。しかし……環境をいくら変化させようと私には通じない、激流の中でも問題無く動き回り、奴の死角に入り込み更なる追撃を撃ち込んでいく。
何度か攻撃を繰り返していって、分かったことがいくつかあるが……結論から言うと、バミューダはパーフェクトやエレクトロンとは比べるべくも無いくらい弱い。これまで戦ってきたボスクラスのモンスターと比べてもかなり下の方だ。
まず、攻撃方法だが。
広域の海水を渦巻き状にして、ダメージと同じ場所に留まり難くするギミックを発生させる。更に小規模な渦巻を自身の周囲や体表に発生させ、攻撃してきた相手を捩じ切る置きカウンターや、体躯を活かした突進に鋭利な爪による引っ掻き攻撃。そして体内に溜め込んだ水に螺旋の回転を与え、ドリルの如き貫通力を得る水ブレス。
色々あるけど、警戒する必要があるのは実質的に小型の渦巻だけである。
大型の渦は『環境』扱いになるため、環境の影響を受けない私には効果が無い。爪での引っ掻きは大振り過ぎて見てから余裕で回避可能だし、突進と水ブレスは──
「………………!!」
「
「流石、良い仕事してくれるね」
──この通り、ミシロがレールガンをぶつけて軌道を逸らし妨害してくれるので、私の方から対処する必要が無いのだ。
なので私が気にするべきは、直接攻撃の障害となる小型渦のみということになる。
この小型渦だけは、バミューダの攻撃の中ではかなり厄介な方の技だ。小さ過ぎて環境扱いにならず普通にダメージを受けるため、捕まれば抜け出すにはバフによる補正を必要とする。私のステータスでも抗い切れない、中々の拘束力だ。
更に、この渦は防御にも活用してくる。
アステヴァルの威力を弱めて本体が受けるダメージを減らした上、乱回転に晒されることによる武器耐久値の大幅な消耗。月光の届かない深海では耐久値の回復にも限りがあるし、できる限りアステヴァルを渦と衝突させるのは避けたいところ。
「隙アリだぜ、「
「………………!!」
──ヨシ、手応えアリ!
一応、この通りスキル込みでなら渦の防御も貫通できる……しかし、アステヴァルに適用できる攻撃スキルは撃滅の貫旋と滅魔の六槍の二つのみ。どちらも強力なスキルとは言え、二つだけでやり繰りするのは大変だ。
他の武器を使えば良い、と言われるとまぁ反論はできないが……私の手持ちの中だとアステヴァルが一番対バミューダには合っている。同じ対竜特効持ちの画竜点睛は効果が刺さってないし、特効を持ってない武器は渦に触れさせたくないからね。消去法でアステヴァルしかないとも言う。
渦による防御はかなり的確だ。手数重視で攻めれば複数を展開して全てを防ぎ、単発威力を重視すれば大型の渦で防いでくる。使い分けの上手さは大したものだけど……それ、いくつまで同時に出せるんだい?
「『
その言葉を唱えると共に、私の周囲に煌々と輝く光輪が生成される。『
コイツは単発じゃない、私のレベルと同じ数まで同時生成が可能な手数武器。出せば出すだけ耐久値を消耗するので慎重に出す必要はあるけど、私のレベルは現在145……最大145個同時生成される光輪、いったい何個まで渦で防げるのかな?
「まずは、3つから……」
高速回転する3つの光輪が、三方向から同時にバミューダを襲う。しかし、これらは同時生成された3つの渦によって防がれてしまう。アステヴァルと同等の性能なので、スキルの補正が乗らない光輪は渦で防がれてしまうのだ。そして残念ながら私は光輪に乗せられるスキルは持っていない。
でも、問題無い。数はまだまだ増やせるし、弾かれた光輪もすぐに攻撃に復帰する……飽和攻撃で防御できないタイミングを作ってやれ。
「3つでダメなら、7つはどうだ!?」
「………………!!」
光輪の数を増やす……が、まだバミューダには防ぎ切られる。だが出してくる渦が小さくなったのは見逃してないぞ、このまま更に光輪を増やして渦の追加を間に合わなくさせてやる!
「次……15個!」
「………………!!」
足りない。まだ防ぎ切られる。
「30!」
「………………!!」
まだ足りない。もっと、もっとだ。
「50!」
「………………!!」
──少しずつ、防ぎ切れなくなってきてるなぁ!?
光輪の手数が勝り、バミューダの渦の展開が少しずつ手遅れになっていく。メタリックな甲殻を削り取るように光輪の攻撃がヒットし、ワンテンポ遅れて渦がそれを弾き出す。
少しずつ、しかし確実に、バミューダの防御は間に合わなくなってきている。奴自身そのことを自覚しているのか、防御にリソースを費やすのを止めて反撃に行動パターンを切り替えてきた。
「………………!!」
できる限りは渦で光輪を防ぎ、間に合わない分は自らの爪を振るって薙ぎ払う。
そうして少しずつ私に接近していき、光輪の操作に集中してその場に留まらざるを得なくなっている私を引き裂かんと爪を振るう……しかし、その攻撃はミシロによって阻止される。
「
横っ面にレールガンの直撃を食らい、バミューダは大きく体勢を崩す。怯んで間抜けな声を上げたことで大きく開いたその口内に、私はすかさず滅魔の六槍を撃ち放った。
海水の電気分解により、
──最初の不意打ちと合わせて、だいぶダメージは稼げてると思うけど……
大人数で挑むことが前提のボスモンスター、そんなに低いHPという訳でもないだろうが。私の高いステータスに強力な武器とスキルで何度も直撃を食らわせてやってるのだし、そろそろ良いところまで削れていても良いんじゃないかと思うが……
何かしら、そういう瀕死の兆候みたいなものが見つかれば嬉しいと思っていると、バミューダが一層低く吠え渦の威力を更に強めた。本体には大した変化は無いが……第二形態に変化したのかな?
「………………!!」
──これは……モンスターが集まってる?
いや、違う。
集めているのだ、バミューダが渦にモンスターを絡め取り内部に集約させている。渦の外に居たモンスターも、逃げ遅れて渦の中に留まっていたモンスターも、全てを集めて何をするつもりか……その理由はすぐに理解させられることとなる。
「………………!!」
「…………!!」
「…………!!」
「…………!!」
完璧に制御された渦の流れに乗って、モンスター達が砲弾の如く私へ襲い来る。
スレーギヴン・キャリアングラーを彷彿とさせるような、他者の命を使い捨てる無慈悲な立ち回りは手数を質・量共に増やすという点に於いては参考にされるべきなのだろうけど……他人の真似事してるだけじゃあ、私の命には届かんぞ。
「ミシロ!君に渡した指輪、今こそ使い時だよ!」
「了解:アイテム名『隣り合う想い』……使わせていただきます」
事前に渡して付けさせておいた、手に入れたばかりの『隣り合う想い』をミシロが起動する。
左手薬指に嵌った指輪に触れ模様をなぞると、指輪から溢れ出したエネルギーが彼女に纏わり付き、夜空を思わせるような黒色のドレスを生成する。そして手には片刃の大剣……【
「それじゃあミシロ、露払いはよろしくね」
「お任せください」
勿論、似合うからという理由だけで渡したのでは当然だけどない。リスポーンができないNPCのための保険であり、こういう大量のモブを相手する必要がある時のために渡した装備だ。使い時が来たのだからしっかりと活用してもらおう……私もまだ実戦では使ってないんだけどね。
そして私も、バミューダもミシロも新たな形態になったのだからそうなるべきだろう。発動条件は既に満たしている……いくぜ
「王威解放──『
眩い月の光と黒い雷を纏い、光の届かぬ海の底で私だけが燦然とした輝きを放つ。
ここから第二ラウンド……だけど、ハナから第三ラウンドまでやるつもりはない。こちらを睨みつけるバミューダに視線を返し、私はアステヴァルを握り締め奴の喉元へ飛び込んでいった。
「さぁ……決着、着けようぜ!」
「………………!!」
バミューダは発生したばかりでまだレベルが低く、これまでにロンミンが倒した二体の竜と比べるとステータスが明確に劣る。もう少し出逢うの遅ければ遜色無いくらいにはなれていたが……