#短編小説どんと来い 応募作品。
2025/01/29誤字修正
2025/02/01表紙追加



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※登場する人物、また機関の名前は架空のものです。


表題

エターナル・エモーショナル・ラブ(SF)

 

 

人類が、月に住むようになって4年が経った。

 

ここでの暮らしも随分豊かになったものだ。

 

屋内であれば宇宙服は要らないし、お腹が空けば、物資が不足すれば、ロボットがデリバリーしてくれる。

欲が溜まればヒト型ロボットが相手になってくれる。

欲求不満になった現代人にはとっておきの墓場だ。

 

月は、古来より地球の恋人で、友人で、兄弟であった。青い澄んだ星に飽きた人々は、水の枯れた、小さな星を目指した。

初めこそ不便そのものだったが、移り住もうと企てた入植者の手によって地球とあまり変わらない環境で過ごせるようになった。

月の魔力には少し怖いものがある。何がここまで人類を情熱的に惹きつけるのだろう。

 

☆  ☆  ☆

 

ところで私は天文学の研究員で、USED(Univers- Science&Electric Doctor)の職員で、皮肉屋の津晴という。地球で目一杯勉強し、血を吐く思いで宇宙機構USED幹部に登り詰めた。そして月へ派遣された。

やっとここまで来たんだ。

私の構想である地球と月の間の瞬間ワープ・システムが国際的に賞賛、採用され、あれよあれよという間に実用化となった。総工費はアメリカの1年の国家予算を遥かに超える。

 

一般人が月に立ち入れるようになった、本当に奇跡のような歴史が変わるきっかけを私が作ってしまったのだ。流石に手が震えた。テレビカメラを向けられて言葉が出なくなった。

反響は凄まじかった。バッシングも酷かった。

 

 

何も、人類片っ端から月に移り住めというわけで考案したわけではないのだが、毎日のように、狂った金持ち連中が札束で職員をぶっては、USED施設内のワープカプセルに飛び込んでいく。

酷いことを言うが、ワープカプセルを使いすぎた場合の身体の保障はしてない。

細胞を一度全てバラして月で再構築してるわけだから身体に何の異常も無いはずがない。

家族の元に行くためと毎週使ってる人もいる。高齢者の使用の際はヒヤヒヤする。

 

(仕事の関係上、私も月に一度は地球へ帰っているが、職員は専用の、安全性の高いカプセルで移動している。内緒だ。)

 

一応、生態系破壊の恐れがある、もしくは生命維持の安全確保が難しいためペットの持ち込みは禁止となっている。

ニワトリ農家が月にニワトリを連れて行こうとキャリーに隠していたときは流石に没収にした。農家は泣いていたが仕方がない。私にだって鬼ではない。

ニワトリはその日のうちに農場へ送ったので、かえって後で感謝された。まったく感情の上下が激しい人である。

 

☆ ☆ ☆

 

前述したとおりだが、一般人が月へ移り住むことを私はあまり、歓迎していない。

飽く迄、天体、地学、物理等研究員のための移動装置として考案していたからだ。

ご存知かと思うが我々研究者というものは狂った人が多いので、人体が細胞単位で分裂して違う星に行けちゃうかもなんて戯言に乗ってくれる、ノリのいい仲間たちが大勢いた。

 

始まりは、雑に描かれたスケッチ数枚だった。

乗る側の安全なんて考えてなかった。

行って帰ってくれさえすれば、面白い論文ができる。 

 

月が近く感じた。

期待に胸が膨らんだ。

国際社会への理解、広大な土地、莫大な予算、仲間たちがいればできるかも、なんて……。

 

☆  ☆  ☆

 

この頃、ぽつり、ぽつり、噂を耳にする。

 

「〇〇国の〇〇さん、顔が半分に割れた状態で帰ってきたらしいわよ。」

 

「それまで元気だったのに突然敗血症になった。月の空気は俺の爺さんには合わねぇのかな。」

 

システムは未だ正常で、一度もエラーを吐いていないが。

どこか調子が悪いのだろうか。

仲間たちと担当エンジニアを呼んで、原因を探す。

探す。

探した。

 

日毎に細胞の変異報告が増えていく。

原因は特定され、すぐさまパッチが充てられた。

いまのままではシステムは不安定だ。

どうにかしないと……。

 

☆  ☆  ☆

 

2xxx年、USEDからの臨時の宣告。

 

 

全ての研究員、入植者に対する緊急の退去命令。

 

 

甚大なシステムエラーにより、あと10日でワープカプセルは壊れてしまうと予想が出た。

すなわち地球へ帰る手段が絶たれるということ。

 

職員用を使っても、全ての入植者を退去させるには最低でも9日はかかる。

我々研究員は最後尾だ。書類、設備の回収作業がある。なにより月世界の主電源を落とさなければならない。

主電源を落とせば、装置は二度と使えなくなる。再起動には日本が吹き飛ぶほどのエネルギーを必要とするためだ。

主電源を落とさなければ、一応装置は使えはする。その場合、「人間の形をして帰ってこれるか」の保障はされない。

 

甚大なシステムエラー、それは死を意味する。

細胞がありえない合体や分裂、消失を引き起こすということ。

すぐさま臨時体制が敷かれた。

 

 

大急ぎで出ていく入植者たち。

少しづつ、光が消えて寂しくなっていく町。

残されたガレキの山……。

 

 

10日目にして、ギリギリで、とうとう研究員の搭乗が始まった。所帯を持つ後輩たちを優先で帰らせた。

仲の良かった仲間たちも帰らせた。

重役も無理やり割り込んで帰った。

 

 

そして私はとうとう、

 

日付を超える前に

 

ワープカプセルに乗れなかった。

 

………

主電源を落とせば、装置は二度と使えなくなる。

主電源を落とさなければ、一応装置は使えはする。

気付けるだろうか。

この装置の重大な欠点が。

初めから、安全なんて考えてなかった。

エラーが出たらそれまで。

犠牲者の存在は必然だった。

 

 

 

私の名前である津晴(ツバル)は、私が生まれる前に沈んだ国の名前だと母が言った。ふざけた名前だと思った。

滅びた国の名前を息子につける奴がいてたまるか。

反抗期の頃、母に理由を尋ねたことがある。

 

「あの国はね、お母さんとお父さんが新婚旅行で行った思い出の場所なの。行ってすぐ沈んでしまったけど……。お母さんがもし、いつか認知症になったときに、いつでも思い出せるように……どんなに素敵な出来事だって、形に残さなければ、いつかは忘れてしまうでしょう?」

 

思い出。

ワープカプセルの計画に難儀したこと。

仲間たちに出会えて嬉しかったこと。

ずっと行きたかったこの星へ着陸した瞬間。

激務で半年近く倒れたこと。

テレビで毎日特集を組まれたこと。

そして、初めて土から芽が出て感動した日。

 

青い地球が遠い。

 

私は月にmoonではなく「アクア・アルタ」という名前を提案する。

海に沈んだ国とお揃いになりそうな良い名前だ。早速仲間にメールしておこう。

そんな状況でふざけるなと、笑われるだろうか。

仲間たちよ、共に歩んだ日々を、思い出を忘れないで。どうか。

アクア・アルタ、記憶とともに、永久に。

 

 

「私はどうやら君と、残りの生涯を過ごすことになったらしい。」

カラカラに乾いた地面を撫でる。

いつかシステムが修復されるか、ロケットで迎えに来るかで帰れる日が訪れるのだろうか。

否、来なくてもいい。私は今はまだ、この主電源を落とす気はない。

暫くここで暮らし続ける。

 

恋人と、やっとふたりきりになれたのだから。

 

私は、銀色に光る、小さなこの星を、愛している。


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