「金崎竜平と西園公隆は『
「露伴てめえッ!こんなときにつまんねー冗談なんか言ってんじゃあ
力任せに露伴の肩を引き寄せたことで空いた空間に丙暖壬のページが映り込む。
27歳──M県S市内の風俗店の売上の窃取を指示。
その後、実行役の〈金崎竜平〉と〈西園公隆〉に暴行を加えて
それまで〈暴行を加えて重症を負わせる〉と記されていた文字が、灼熱のアスファルトの上で
「『ヘブンズ・ドアー』で読むことができるのは、
嗚咽にも似た声にならない声を発する噴上を他所に言葉を言い切った露伴は丙暖壬のドレッドヘアに意識を向けていた。(今何か動いたような気がしたが……)と思ったのも束の間、丙暖壬の目が開くと同時に、ドレッドヘアから飛び出した〈何か〉が露伴を突き飛ばした。
「勝手に見てんじゃあ無えぞッ!このコソ泥があああ~~~~!!」
「な、何ィィィ────ッ!?」
丙暖壬の頭上で泳ぐ〈銀色の物体〉を見た露伴の警戒心が最大まで引き上がる。寄せ集めた肉の塊から触手を垂らした姿は、見ようによってはクラゲのようにも見えた。触手部分を含めた全長は成人男性の上半身ほどで、銀色に染まった体表が妖しく煌めいている。
「ンッン~。ずいぶんと楽しそうな話をしてますねェ。私も混ぜてくださいよォ──」
不意の出来事に精神力が途切れ、〈ヘブンズ・ドアー〉が解除されたことで意識を取り戻した丙暖壬が不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。物腰柔らかな口調や仕草とは対照的に、その瞳の奥からは抑えきれない〈悪意〉が滲み出ていた。
宇宙から飛来した隕石で作られた〈聖なる弓矢〉に射ぬかれたことでスタンド能力を得た者たちは、矢じりに宿っていた〈ウイルス〉によって生命の進化が促されてその力が発現する。それと同時に、ウイルスの〈共鳴〉とでも言うべき副次的な効果により、スタンドから放たれる特有の〈エネルギー〉を感じとる力が身に付くのはスタンド使いの間では周知の事実だった。
「まさかてめーも『スタンド使い』だったとはな……」
露伴に押される形で更に向こうへ突き飛ばされた噴上が顎を指でイジりながら呟く。そして点と点が繋がったと言わんばかりの自信に満ちた声色で付け加える。
「そーゆー事なら
「いったい何の話をしているッ!?」
『
噴上の言う通り確かに露伴もその事件のことを目にしたことがあった。一ヶ月前に杜王町から端を発した謎の怪奇事件。一貫していたのは、被害者は突如苦しみだし、時には救急車が現場に到着するよりも先に
噴上の調べでは、被害者の行動履歴を辿っていくと必ず丙暖壬の影があったという。しかし、どの事件においても決定的な証拠は何一つとして挙げられず、事件は迷宮の深みへと
世間に公表されることはなかったが、捜査本部が立ち上げられた一週間後、スピードワゴン財団から捜査の即時中止の要請があり、その二日後に捜査本部が解体され、謎に包まれた連続圧死事件は〈
クラゲ型のスタンドの肉塊が大きくうねり、大人とも幼児ともとれる薄気味悪い顔面が中から現れると、顔の側面まで開いた口が大きく開き、気の抜けた声を出しながら丙暖壬の周囲を泳ぎ始めた。
「当たってる……当たってるよォ?
八の字を描いて空を泳ぐスタンドに目をくれることもなく丙暖壬が言葉を重ねる。
「だがまだ
「『順番』を間違っちゃあイケるモンもイケねえよなああ~~~!?」
「まずいッ!!何か仕掛けて来るぞォォ──ッ!!」
「『ハイウェイ・スタ──』ッ!!」
「『ヘブンズ・ドアー』──ッ!!」
文末に向けて凄みを増すスタンドの声にただならぬ恐怖を感じた露伴の叫びに応じて噴上がスタンドを発現させ、続いて露伴も再度ヘブンズ・ドアーを発現させる。しかしそれらよりも僅かに早く、丙暖壬の声が勾当台に響いた。
「『
「なっ!!何ィ──ッ」
『か、身体が……
「『
『(ひとり歩きするスタンド……)』心の中で独りごちた露伴の脳裏に
(本体がこの男でないのなら『
疑問点は多々あったものの、ベビィ・メタルが
丙暖壬の頭上に浮かぶ
「ベビィ・メタル『第2の能力』ディバインアタック(不敬審判)」
不可視の〈重力〉が露伴を襲った。
ヘブンズ・ドアーがベビィ・メタルに近付くほどにその重さは増加していき、1メートルほど進んだところで露伴はあまりの重圧に耐えきれず、ヘブンズ・ドアーと共に両手と両膝を地面につけるはめになった。
ベビィ・メタルの〈分身〉が付与する〈重さ〉は、ヘブンズ・ドアーで対抗できる程度の謂わば
ヘブンズ・ドアーのペン先がベビィ・メタル本体に届くことはなく、結局最後は重さに耐え兼ねて、無様に地面を這いながら、ディバインアタックの
ベビィ・メタルが持つ能力の発動条件と攻略方法を露伴が思案する一方で、丙暖壬は道路脇に植えられた街路樹の側に立ち、勝者の余裕をみせていた。その傍らではベビィ・メタルが木の幹をなぞるようにクルクルと回っている。
「『リンゴの木』ってよォ~~~。一本から『何個』の実が採れるか知ってるかああ~~~?」
「…………」
唐突な問い掛けの真意が読めず沈黙を保った露伴の代わりに丙暖壬が口を開く。
「『500個』ですよ。尤も、途中で
「つまりだッ!1イコール1じゃあねえってことだ!ここまで着いてこれてるか?ああ~~?算数でも数学でもねえ。
「ろ、露伴……」
ベビィ・メタルの声に続いて背後から聞こえた今にも消え入りそうな噴上の声に振り返ったことで、露伴は漸くそこで噴上に起きていた異変に気付く。
「い……いったい
「盗人には『罰』をッ!共犯者には『
そこには露伴に絡み付いた〈二体〉を上回る〈七体〉のベビィ・メタルの
「ベビィ・メタル『第3の能力』
〈キラー・クイーン〉の系譜を感じる音の響きに、忘れかけていた〈畏れ〉が沸き上がり、無意識に二歩後ずさる。必然的に噴上との距離が詰まり、それに伴って呻き声も近付いたが、その一連の流れが「おまえに逃げ場所など無い」と告げられているようで露伴の恐怖心は増加する一方だった。