岸辺露伴は揺るがない『特定危険用語保険』   作:甘草粥

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STAND NAME】────ベビィ・メタル
STAND MASTAR】──  不 明

破壊力  :C
スピード :D
射程距離 :∞
持続力  :∞
精密動作性:E
成長性  :E

【第一の能力】──カゲロウ
指定された単語と宿主を結びつけた相手に向かって、ベビィ・メタルの形を模したカゲロウと呼ばれる〈重り〉が自動的に射出される。結びつけた単語の数に比例して射出されるカゲロウの数も増加する。
ベビィ・メタル本体の動きに合わせて動く特性を利用し、高速回転させて相手を弾き飛ばすことも可能。(連動性はベビィ・メタルの視界内にカゲロウがいる場合のみ発現するが、意識することで視界の外にいる任意のカゲロウにも連動性を与えることも可能)

【第二の能力】──ディバインアタック
宿主に近づくほどその者にかかる重力を増加させる。精神面に重圧(プレッシャー)を与えて重さと錯覚させる〈カゲロウ〉とは異なり、実際に重力値を変化させ、物理法則を以て肉体そのものに作用する能力。

【第三の能力】──メタルキングダム
指定された単語が宿主に関連するものであることを第三者に伝えた場合に双方を対象にして自動的に発動し、伝え聞いた第三者には口外した者の数倍の重りが課せられる。
精神力によっても異なるが、数十分から数時間で死に至る。



ベビィ・メタル その④

 丙暖壬が去ってから十分が過ぎようとしていたが、露伴と噴上はまだ屋外にいた。露伴の家は目と鼻の前だったが、再び丙暖壬が攻撃を仕掛けてくる可能性も大いにあったため、死角の多い室内よりも外にいた方が逆に安全だろうという判断からの行動だった。

 露伴は始め、噴上を自宅前の庭で休ませようと思ったが、芝の張り替えのために土が剥き出しとなっていることを失念しており、身体への負担を少しでも減らすため、隣家の庭まで噴上を引き摺って移動させてから横にして休ませることにした。自身はというと、時折歩道まで出て、通りの様子を伺う役に徹した。

 道路の中央では三羽のカラスが何処からか拾ってきたゴミ袋に群がり、見事なまでに食い散らかしている。

 

 そこから更に数分後、消え入りそうな噴上の声に引かれて、歩道の上で辺りを伺っていた露伴が振り向く。

「フフ……やっぱり来やがったな……」

「噴上……裕也か……?」

「ああ、露伴センセ。言った通り(・・・・・)だろ?」

 ハイウェイ・スター探偵事務所の〈名刺〉を手にしながら自信無さげに呟く露伴の声に噴上はウインクで答える。芝生に仰向けになったままの噴上が見上げた先には、外壁工事用の足場の最上段で、足場全体にかけられた濃い灰色のメッシュシートに隠れて二人の様子を伺う丙暖壬とベビィ・メタルの姿があった。

「死ぬときに二人きりじゃ寂しいと思ってわざわざ来てやったぜええ~~~~」

 「一度狙いをつけた相手が死ぬ瞬間を見るために、やつは必ず現れるはずだ」という噴上の予想は的中していた。丙暖壬の〈ルーティーン〉ともいえるその行動に心配や後悔、懺悔などの感情は一切なく、ただひたすらに純粋でドス黒い〈愉悦〉からのものであった。

 露伴は噴上との距離を詰めつつ、自身の肩から下がる鞄に視線を落とした。ランニングウェアのポケットに入れた名刺同様に〈ハイウェイ・スター探偵事務所〉と〈H☆S〉のロゴマークが薄紫の糸で刺繍されており、「時に尾行なども行う探偵業ならば無い方が目立たなくていいのでは?」と露伴は思ったが敢えて口にはしなかった。ランニングウェアには不釣り合いな、異様なまでに中身の詰まった〈鞄〉に疑問を抱きつつも中身を確かめることはせず、噴上の隣までくると丙暖壬へと意識を移した。

 丙暖壬は自室に朝日を取り入れるためにカーテン開くかのような動作で足場ネットを横に薙いで二人を見下ろしていた。丙暖壬が立っている場所はヘブンズ・ドアーの基本性能だけで見れば能力の射程圏内ではあったが、自身に取り憑いたベビィ・メタルの分身の重さや、丙暖壬に近付くにつれて重力を増すディバインアタックの効果も相まって、実際の射程範囲からは外れていた。

「女みてーにいつまでも死んだヤツのことをネチネチネチネチ引き摺りやがってよォ~~~~。ちゃんとタマ付いてんのかああ?マジでつまらねェー男だぜ。てめえが楽しけりゃ他人のなことなんざどーでもいーだろーがッ。他人の顔色を気にするなんて『バカ』のすることだぜええ~~~~??」

バカ(・・)……か。確かにそれは一理ある(・・・・)ぜ。チヤホヤされたいがためにバカな女どもを引き連れてニヤケ面晒してるおれみてーな男は確かに『バカ』かもな。だが……どうもてめーのは女心のひとつも読めねえダサい男のカッコ悪い『言い訳』にしか聞こえねえな」

「それこそ私たち(・・・)勝てない(・・・・)ことへの『言い訳』に聞こえますがね」

「フフ……言ってくれんじゃねーか丙暖壬シスイ。だがなッ!てめーは人生の楽しみ方ってのをまるで分かっちゃいねえ。『イイ男』ってのは『余裕』があるモンだ。自分の保身(世話)で手一杯なオメーなんかと違ってな」

 嘲笑う丙暖壬に噴上は皮肉を返し、震える両脚を支えにして、何度か膝を地面に付きつつもなんとか立ち上がった。立つ(・・)というよりも中腰(・・)と呼んだ方が適切なその姿は、見る者の不安を煽るほどに危うげで弱々しく、いつ崩れ落ちてもおかしくない砂の城のようだった。

 肩で息をするほどの状態にも関わらず「ここはおれに任せて露伴センセーは少し下がっててくださいよ」と言い放った噴上の言葉に露伴は小さく頷き、丙暖壬と噴上を視界に収めたまま一歩、また一歩と後退しはじめた。

 摺り足に近い足の運びで後退していく露伴のことを僅かに顔を右に向けて見やる噴上の眼差しは複雑な色をしていた。その色に露伴は〈感情〉を見た。音や文字などに色を感じる共感覚(・・・)を持っているわけではなかったが、本能的に、直感的に何かを感じ取った。怒り。悲しみ。後悔。復讐。あまりにも複雑で全てを正確に読み取ることはできなかったが、その中のひとつが〈不安〉であることは断言できた。今自分たちが立っているこの青々とした緑の絨毯が、薄氷が張った湖面に見えているかのように噴上の瞳は不安に満ちていた。足の踏み場を一歩間違えれば忽ち足場がひび割れ、即座に湖の底へと沈むことを示唆しているかのような仄暗い面持ちに影響されて露伴の心にも微かに影が降りかけたが、瞬きを数回した頃には噴上の瞳からその〈感情()〉が綺麗に消え失せていた。

「岸辺露伴先生。正直なところ私は貴方がどうなろうと(・・・・・・)とどうでもいいんですよ」

 どこか妙なその行動の一切を観察していた丙暖壬が僅かな間をおいて語りだす。

「貴方が勝手に首を(・・)突っ(・・)込ん(・・)だから少々話がややこしく(・・・・・)なっているだけで、私が前々から目障りだと思っていて、これを機に始末したいと思っているのは『彼』の方なんですから」

 その言葉に偽りはなかった。丙暖壬に目をつけられたのは他の誰でもなく〈噴上裕也〉その人である。

「クケケケケッ!てめえはそこの『バカ』と違って賢い(・・)みたいだなあ~~~~!そいつを見捨てればよォ!そうやって俺らから逃げればよォ──!てめえだけ『助かる』ことは可能だからなああ~~!!ケケッ!クケケ──ッ!!」

 侮蔑を込めた嘲笑が露伴を更に後ろへと追いやる。何か言い返したかったが、露伴自身もなぜ噴上の言うことを素直に聞き入れて、敵を前にしておめおめと逃げ帰るようなこうした愚かな行動をとっているのか解っていなかった。

 ハイウェイ・スターの隠された能力なのか、はたまたベビィ・メタルの第④(・・)の能力なのか。いくら考えても〈答え〉は出てこなかったが、そこには確かに抗えない(・・・・)引力〉があった。〈正体不明の能力〉にヘブンズ・ドアーを以て対抗しようと思った露伴だったが、そこで初めて身体の自由だけでなくスタンドを出すことさえも封じられていることに気が付いた。

「おい!噴上!噴上裕也ッ!!ヤツは君一人でどうこうできる『相手』じゃあないッ!」

 虚しい叫びが住宅街に響く。水平方向(・・・・)に働く〈重力〉を前に露伴は成す術なく後退していく。

「あの男に近付くのは危険だ!これ以上詳しくは言えないがとにかくヤツに関わるのだけは絶対によせッ!!おい!聞いてるのかッ!?」

「ああ……全部分かってるさ。だからこそだぜ……」

 『だからこそッ!このおれがやる『必要』があるッ!!』噴上は振り返ることもなく強く、言いきった。

(この男……いったい何を考えている……)

 脳内で渦巻く疑問に乗じて言葉が巡る。スタンドさえ使えない身体で噴上はいったい何をするつもりなのだろう。探偵らしくスタンガンや催涙スプレーなどの防犯グッズで丙暖壬とベビィ・メタルという巨悪に立ち向かうつもりならば、それは〈愚策〉以外の何物でもない。

 疑問は晴れることなく脳内で渦を巻き続ける。抗えない〈引力〉の正体は、自身の脳内から抜け出した思考の渦が重力を帯びて変化したブラックホール(ぜん)とした何かなのではないかとさえ思い始めていた。

 背中方向に向かって働く横向き(・・・)の〈重力〉とは対照的に、露伴の感情は〈噴上裕也を救いたい〉という一心で前へ向いていた。それは双方の能力の優劣を(かんが)みての判断ではなく、生物に刻まれた純粋な庇護欲によるものだった。

 

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